世にリリウムのあらん事を   作:木曾のポン酢

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4編最終話までこれ含めてあと3話(予定)ですが、なんかどんどんと物語が変異起こしてます。なんだこれ、とりあえず私は凄い楽しいぞ。どうなるんだこれ。

✳︎防衛設備の数を修正


同時侵攻

布団に倒れかかるように寝ていたせいで腰が痛い。

どうも、今日も今日とてジャンヌ・オルレアンです。転生しない限りはジャンヌ・オルレアンでしょう。来世?貝になりたい。食用にならないタイプの。毒持ってたりもしたい。

 

と、ふとそんなまとまりも無い感じで脳の覚醒をおこなっていると。自分の上に毛布があり、自分の前にリリウムがいない事に気付く。

 

あれ?と思うと、後ろからトントンと包丁がまな板を叩く音が聞こえた。

 

ん?

 

「あ、おはようござますジャンヌ様。キッチン、お借りしております」

 

声をした方向へと振り向くと、リリウムが台所でお料理をしていた。

 

ほわい?

 

「お、おはよう」

 

とりあえず、挨拶をする。えっと、何をなさってるんでごぜぇますか?

 

「り、リリウム?何をしているの?」

 

「ジャンヌ様がお休みになられているこで、その間に朝食を作ろうと思いまして。あ、心配なさらないで下さい。趣味程度ですが、料理はキチンと姉様たちに仕込まれていますので」

 

そう言いながら、リリウムはテキパキと動いていた。姉様、という単語に吐き気が戻る。しかし、伝える勇気は出てこない。

 

そうこうしているうちに、私の前に朝食が運ばれてきた。

プレートの上にベーコンやら目玉焼きやらトマトのソテーやら様々な食材と、トーストが乗っている。あ、これ昔Twitterで見たやつだ。なんちゃらかんちゃらって奴。美味そう。

 

「ジャンヌ様は何を使って召し上がりに?」

 

「え、あ、私は箸で……」

 

「では、置いておきます」

 

「はぁ……」

 

「あ、待っててくださいね。リリウムの分も取ってきますので」

 

リリウムは再び台所に戻ると、もう1皿、こちらよりも少量のプレートを持ってきて、テーブルの上に置く。

 

「では、いただきましょう。」

 

にっこりと笑った、と思うと。リリウムはナイフとフォークを使い、食事を始める。

 

…………とりあえず、4皿無くて良かった。もし、そうだったら。耐えきれずにストレスで死んでいた。

 

リリウムの様子を伺いながら、とりあえずソーセージをつまみ、口に放り込む。

 

……どうしよう、不安で味が一切わからない。なんかゴムかんでるようにすら感じる。辛い。針の筵。助けて。

 

「ジャンヌ様?どうなさったのですか?」

 

いや、一身上の都合により精神が大変不健康なだけだから大丈夫。うん、大丈夫。ぜんぜんだいじょばない。キルミーベイベー。

 

「いや、なんでもない、うん、おいしいよリリウム」

 

うん、たぶん、うまい。うまいよりりうむ。というかかわいいこがつくったんだからおいしいにきまってるじゃないか。

 

……あれ?なぜか、リリウムがこちらを向いて儚げな笑顔を浮かべている。どうしたんだろう?

 

「……大丈夫です。ジャンヌ様。お姉様たちのことは、聞きました。」

 

気管に咀嚼物が詰まった。

ゴホゴホと咳が出る。は?え?聞いた?誰に?どうやって?なんちゅうふうに?

 

「夢の中で、お姉様たちがお別れを言いに来てくれたんです。それで、わかってしまって」

 

突然の奇襲に、頭はオーバーヒート直前である。何を言うべきかわからない。ただ、体は勝手に箸を置き。床に手を置いていた。

 

「り、リリウム……ごめん、私が間に合っていたら……」

 

「……大丈夫です。ジャンヌ様が全力で助けようとしてくれた事は。わかりますから」

 

「え……?」

 

「ジャンヌ様も、夢におられましたよ。何度も何度も、泣きながら謝っていました」

 

マジかよ。昔、古典の授業で、夢に出てくる人間は、身体から抜け出して何か伝えたいことがあるからとは聞いたが。私はまんまそれをやったのか。

 

「ジャンヌ様は、お姉様たちを助けようとしてくれました。……それだけで、リリウムにとっては充分です。」

 

リリウムが、私の頭を撫でてくれた。そして、顔をあげてくださいと言う。

 

「ジャンヌ様、ありがとうこざいます。姉様たちを救おうとしてくれて、そして、私を助けて下さって。本当に、ありがとうこざいます」

 

…………天使かな?

 

 

「へぇー。リリウムは料理上手だなぁ」

 

吐き出すもん吐き出したら飯がバカみたいに美味い。材料は買いだめているが、そもそも私の身体のつくりの所為で凝った料理が出来ないので、こんなにちゃんとした料理は久しぶりだ。

 

「ありがとうこざいます。姉様たち以外に食べてもらったのは初めてなので……気に入っていただけたのなら良かったです」

 

さくさくむしゃむしゃぱりぱりごくん。

…………

 

「?どうかされました?私の顔に何か?」

 

「いや、なんでもない」

 

可愛い娘を見ながらご飯食べたら美味しいなってだけよ。

 

あっという間に、プレートの上に乗った料理は消えた。私はご馳走様と手をあわせる、椅子にもたれかかる。

 

「そういえば……」

 

「どしたの?リリウム」

 

「ジャンヌ様……、リリウムの家に来ていた時と……なんというか……雰囲気が違うように感じるのですが」

 

あーまぁ、作ってたからね。キャラ。今はすっぽんぽんのジャンヌだから。

 

「あまり気にしなくても大丈夫よ。あれはよそ行きの話し方みたいなものだから」

 

そう坂本真綾ボイスで答える。ふふん、ふはふん。

 

「そうなのですか……」

 

「そうよん。さて……」

 

リリウムの食器も回収しつつ、台所に持ってく

 

「あ、私のは……」

 

「いいのいいの、料理を作ってもらったんだから、片付けくらいは私がするよ」

 

そういって食器を食洗機に入れる。美味しい朝食のお陰で、気分はうきうきだ。この切り替えの早さは、間違いなく私の長所であろう。

 

洗剤等をいれてスイッチをポンと押す。

 

「あの、ジャンヌ様。」

 

「ん?どしたのリリウム」

 

「この本に書かれた言語は何なのですか?全く読めなくて……」

 

ん?本?

 

私は基本的にズボラなので、ベッド周りには常に本が置かれている。動かなくても読書を出来るようにというのがその理由だ。

最近読んでたのは生前やってたゲームの攻略本なので、その辺りだろ。どれどれ……

 

「あぁ、そこらへんのは殆ど日本語で…………」

 

 

 

リリウムがアーマードコアVの攻略本を読んでいる。

 

 

 

セーフか?脳Aが脳Bに語りかける。セウト、脳Bはジャッジした。4系じゃないのでかすり傷である。

 

「アーマードコア。と書かれていたので読んでみたのですが、言葉がわからなくて……。なるほど、日本語なのですか。これはノーマルACなどのカタログなのですか?」

 

「ま、まぁ、そんなもんだね」

 

「ジャンヌ様は、日本語を読むことが出来るのですか?」

 

「まぁ、うん、読めるよ」

 

というかもともとそれが母語だ。ちなみにリリウムと英語で流暢に喋ることができているのは言語チートのお陰である。世界を駆け巡るリンクスには必須だろう。

 

「……よろしければ、私にも教えてもらってもよろしいですか?」

 

魔剤?

 

「え、いいけど……。」

 

「はい、これから、ジャンヌ様と暮らして行く事になるでしょうし。それなら、ここにある本が読めるようになっていても損はないかなと思いまして」

 

うわぁ。なんちゅう可愛い笑顔やぁ。どうしよう。とりあえずACfAとかのパッケージは隠さないといけないな。

 

「あぁ、勿論。」

 

まぁ、勉学を志すならそれを止める理由はない。極東の一言語だが、学んで損する事はないだろう。ほら、どこぞの有澤隆文さんもジャパニーズピーポーだし。

 

 

片付けも終わり、自分は横になってリリウムを眺める。彼女は、私がこっちに来てから買ったACの写真集や、コミックなどを読んでいた。

 

これから、どうしようか。

最初の予定では、一人できままに暴れまわるつもりだった。fAが始まっても、カラードだとかオルカだとか、そんなものたちの外縁で、好き勝手にちょっかい出しつつ楽しむつもりだった。

 

しかし、今は私には保護すべき少女がいる。彼女を一人置いて、暴れまわるというのは、少しばかり無責任かもしれない。

 

首輪を、つける必要があるかもしれない。うん、私は兎も角、リリウムにとっては大きなものの保護の下でこそ、育つ余地があるだろう。

 

だが、少しばかり好きにやりすぎた。幾つかの企業からは、確実に恨みを買っている自信がある。

さてさて、どう売り込むべきか…………

 

なんとなく、リモコンを手に取り。テレビをつける。

 

『今日未明から開始されたGA・オーメル・イクバールの連合部隊によるレイレナード・アクアビット本社への侵攻作戦は、GA側有利に進んでおり……』

 

あ?

 

テレビに注目する。そこには、GA関連のテレビ局のアナウンサーが、淡々と現在の戦況を読み上げていた。

 

『GAは残存する全てのネクスト戦力、及びアメリカ大陸総軍でもってレイレナード本社への侵攻を行っています。関係者によりますと、「全戦線に置いてGA側が圧倒しており、終戦は時間の問題である」との事です。また、アクアビット社方面へと侵攻しているオーメル社、及びイクバール社のネクスト部隊及び特殊ノーマル部隊も、優勢に戦闘を進めているとの事です。この作戦が成功すれば、この長きに渡る企業同士の初めての戦争に終結の目処がつく事に……』

 

…………全戦力による、本社への侵攻作戦?

 

頭の中で、新聞に掲載されていたアナトリアの傭兵の戦果を思い浮かべる。

 

成る程、ベルリオーズやザンニなどのレイレナードのトップ戦力が生きている。撃墜はされたが、アンジェや真改も健在。本社の守りは万全と考えて良いだろう。それに、GA側も唯一のオリジナルであるメノ・ルーは私のお陰で生きている。

 

……両勢力共生存しているリンクスが多いから、傭兵による単騎での襲撃では無く。持てる戦力でもって戦争を終わらせにかかった……?そういう事なのか?

 

…………待てよ?

 

そうか、単騎での奇襲なら間に合わないが……。これなら……成る程。

 

私は、テレビへと目を移したリリウムへと声をかけた。

 

「リリウム、これから出かけるよ」

 

「あ、はい。どこに行くのですか?」

 

「北欧」

 

「…………え?」

 

そこそこの賭けであるが、買い叩かれる事はないだろう。まぁ、もしもの時は、皆殺しにすりゃいいだけだ。

 

 

 

「すいません!弾薬の補充をお願いします!!」

 

ガトリング砲の最後の1発まで撃ち切ったメノ・ルーは、後方の補給基地へと戻った。

 

プリミティブ・ライトが到着した途端、対コジマ防護服を着た整備兵たちが群がり、装備の換装や弾薬の補充。そして被弾箇所などがあった場合は応急処置を行う。

 

「メノか、状況は?」

 

先に補給を行っていたローディーが尋ねる。高い瞬間火力の代わりに、継戦能力が無いフィードバックは、他のGAネクストよりも補給の間隔が短い。

 

「ザンニさんと、例のアルドラのネクストが再び出てきました。いまはエルカーノさん達の部隊が抑えていますが、あのままではすぐに削られてします」

 

「アルドラの……確か、PQとか言ったな。だいぶしぶといと聞く。わかった、私の方はそちらの救援へ向かおう。メノは?」

 

「北部の大型兵器群を相手にします。ノーマルACの大型ミサイルでも、相当数をぶつけ無いと撃破出来ないようで……。近接格闘戦用の兵器とはいえ、被害は甚大です」

 

「ふむ、あの虫か。……そんな構造なら、どこかに無理があっていても良いと思うが」

 

「確かに……。なんとか、それを探ってみます」

 

話している内に弾薬の補充が終わった。ローディーも、完了したのだろう、整備士たちが離れて行く。

 

「では行きましょう。」

 

「あぁ、そっちこそ。こんな戦いで死ぬなよ」

 

「はい、それでは……え?」

 

空中管制機にいるオペレーターから入電が入る。

領域外よりネクストが一気接近中。

 

「まさか……あのイレギュラー?」

 

メノの身体に戦慄が走る。だが、オペレーターはかぶりを降り、それを否定した。

 

「いえ、敵ネクストは二脚機です。いま照合が……完了しました。データ送信します」

 

「これは……」

 

「なるほど。フィードバックよりスカイボーイへ、私が迎撃を行う」

 

「スカイボーイ了解。」

 

「メノ、すまんが。エルカーノの援護を頼めるか?」

 

「……お気をつけて」

 

「何、この装備だ、すぐに勝負は決まるだろう。フィードバック、出るぞ!」

 

そう言って、ローディーは補給基地を後にする。

 

メノは管制機から常時送られてくる戦況を確認しつつ、目的地への最短ルートを探す。

 

「プリミティブ・ライト、戦線へ復帰します。」

 

そう宣言し、彼女はOBを起動する。実弾防御を重視した重量級ACが、その重さからは考えられ無いスピードで飛翔し始めた。

 

 

「……一機か、侮られたものだな、私とアステリズムも」

 

アスピナに所属する二人目の天才は、接近してくるネクストの機数を見てそう呟く。

 

純白に塗装された軽量二脚機は、同じアスピナのホワイトグリントと同じアセンブルであるが、その装備は強力なエネルギー兵器で固められている。

肩には青いスターサファイアのエンブレム。

 

ジョシュア・オブライエンの再来とまで言われた女は、だが表情は変えることなく、自機へ向かうネクストに襲撃をかけた。

 

 

 

旧ピースシティ

傭兵は、そこに一機で佇んでいた。

 

「来ました、高エネルギー反応の接近を確認。数は1です。」

 

フィオナは、落ち着いた声でレーダーから読み取れる情報を男に説明した。

 

数十秒後、黒いアーリヤが現れる。レイレナード製のアサルトライフルに、BFF製のライフル。肩には有澤のグレネード。初めて会った時と同じ装備だな、頭の片隅で男はそう考えた。

 

「やはり、お前か」

 

No.1のオリジナルネクスト、ベルリオーズは目の前の男を確認すると、言った。

 

「よう、精鋭部隊。すまんが、此処は行き止まりだ」

 

「たった一人で部隊は無いだろう。…………さて、いくらだった?」

 

「180万」

 

「こちらの三倍か、なるほど」

 

「すまんな、戦後に金が必要になったんだ。それに……」

 

背中に装備した追加ブースターは煌々と光を溜め、ワルキューレの瞳が輝く。

そしてゆっくりと、断頭台へと剣を向ける。勝てるかはわからない。だが、負けないことは出来るはずである。

男は、言葉を続けた。

 

「これ以上、戦争をやるわけにはいかない理由ができたのでな」

 

 

 

オーメル社が、GAのような総力戦ではなく、少数精鋭による侵攻作戦を選択したのは、アクアビット本社の性質によるものだった。

 

アクアビット本社及びその防衛設備が設置された浮島〝アトマイザー〟は、それを知る者からは最悪の要塞と呼ばれていた。

ボスニア湾の中央、直径30キロの巨大メガフロートの上に並ぶ無数の防衛設備と、それが巻き起こす無数の死の光は、その恐ろしさを知らぬ者からしたら、一種の神話的な美しさを持つ。

 

オーメル社は、その美しさを恐れた。彼らの持つ膨大な軍事インフラでも、この極光の前には無力に等しかった。

 

まず第一の障壁は、湾内に浮かぶ無数のタンカーねある。

 

これらは、元々アクアビット社が保有する資材運搬用の船舶であり、防衛装備などは設置されていない。

 

だが、今はその甲板上に最悪の蹂躙兵器が立っている。

 

ソルディオス

 

太陽神の名を冠するこの大型兵器は、本来はGA勢力に与するコロニーの蹂躙の為に開発された兵器だった。

 

だが、その開発は間に合わず、完成する頃にはこの大型兵器を遠方へと展開することが出来なくなっていた。

 

ならば、とアクアビット軍幹部は考えた。それならば、この強力な装備を防衛へと転用しようと。

 

完成されたソルディオス砲は、来る決戦の為に次々と輸送船に乗せられ、本社へと運ばれた。

少なく無い数は、敵対企業の通商破壊部隊により沈められ、海中にて半永久的に汚染を撒き散らす沈殿物と化したが、半数以上……約100機は本社への運搬に成功した。

 

アトマイザー自体が巨大な浮島の為、たった100機程度のソルディオスでは周囲に薄く展開させることしかできなかったが、それでもこの大型兵器が持つ数多のレーザー砲やミサイル、そしてコジマ・キャノンは敵対者にとって脅威であった。その他にも、BFFから貸し出された幾つかの軍艦が、防衛の為に出動している。

 

それらの兵器とともにアトマイザーの周囲に建ち並び、本社への侵入を拒むのはエーレンベルクの防衛にも使われるパルスキャノン〝インカント〟及び高出力レーザー砲〝イプソス〟である。

 

オーメルの第一陣……つまり、オーメル側のネクスト部隊は外周上に約500mごとに建てられたこれら高射砲塔と、ソルディオスを対処すべく動いた。

 

かけ離れた三つの箇所から突入したネクストたちは、濃密な弾幕と、迎撃に向かったネクストからの攻撃に耐えながら、それらの防衛設備を破壊、第二陣以降の突入経路を開いた。

 

 

第二の障壁とされる地点では、数多の通常兵器や自律ネクストである。かつての同盟企業から流れてきた物の中で、比較的損害の少ない部隊が集結し、侵入してきた敵部隊へと必死の抵抗を行っていた。

 

 

天才は、その様子を馬鹿馬鹿しく思っていた。

 

沈みゆく船で、必死に水をかき出しながら何とか最期の時を長引かせている。彼には、このノーマル部隊による抵抗がそのように見えている。

 

オリジナルのNo.6。天才、セロは自らの駆るネクストAC、〝テスタメント〟によってその抵抗を一蹴しながら、後ろに付く飛行型ノーマル部隊の様子を伺い、心の中で吐き捨てる。

 

こんな簡単な任務なのに、余分な子守が多すぎる。

 

そもそもが、単騎で充分な仕事なのだ。いくら大規模な要塞とはいえ、ネクストを相手に出来るほどに防備が緻密なわけでは無い。確かに、秀才程度のリンクスならば、なす術もなく撤退するかもしれない。

 

だが、俺は違う。

 

自律ネクストを破壊する。単純な機動、単純な思考、シミュレーター内の敵にだって、ここまで退屈な目標は居なかっただろう。

 

彼は天才だった。桁外れのAMS適性により、自らの手足を扱うが如くネクストを動かし、敵を屠る。

 

そもそも、あのノロマなデカ物や、ただただデカイだけの塔も、そしてアクアビットの女リンクスも、彼にとっては欠伸が出る程退屈な存在であった。

 

早く、こんなつまらない戦いを終わらせたい。もっと、相応しい戦いがある筈であるのに。

 

「……………ん?」

 

銃声、爆音、それらの音に紛れて、何か、声が聞こえた。

耳を傾ける。そして、その内容に嘲笑を浮かべる。

 

セロは信じられないような気持ちになった。アクアビットのノーマル部隊が、設置されたスピーカーでもって延々と叫んでいた。アクアビット万歳!アクアビット万歳!と

 

「馬鹿どもが、勝てない戦いだからって、精神論を唱えるか」

 

後天性の不遜さを隠そうともせず、天才は吐き捨てる。まぁいい、すぐに、その愛する会社へと殉じさせてやろう。

 

そんな事を考えた時だった。

 

「テスタメント、応答を。すぐに回避行動をとってください」

 

「あぁ?」

 

オペレーターからの通信が入る。セロは、自らの行動を邪魔する声に対し、不機嫌に尋ねる。

 

「何があった?」

 

「中央、アクアビット本社施設を防衛する大型コジマ・キャノンが起動しています。砲撃の可能性が……」

 

わざと、向こうにも聞こえるように大きな舌打ちをする。

 

「おい、あれは長射程の対空砲でメガフロート内に入れば障害じゃないって話だったが?」

 

「確かにブリーフィングではそう説明しました。しかし、実際にコジマキャノンは稼働を……」

 

「あぁわかったよ、かわせば良いんだろう」

 

オペレーターの声を遮りセロは言った。そしてそのまま、通信を切る。

 

これだから、どいつもこいつも信用ならないんだ。全てを馬鹿にしたように、彼は吐いた。

 

 

衛星破壊砲、という兵器がある。

レイレナードの支配地域に建てられたこの長大な塔状のコジマキャノンは、ある目的を果たす為にその照準を常に天へと向けていた。

アナトリアの傭兵により破壊されたこの兵器の名前を、〝エーレンベルク〟と言う。

この名前は、設計者であるエーレンベルク博士に因んでつけられたものである。

 

これには、夫婦砲となる存在があった。

 

ある会談にて一人の優秀なアクアビットの技術者と交流を持ったエーレンベルク博士は、彼女と共同で一つの設計図を書き上げた。

 

コンセプトは単純。

 

対衛星兵器であるエーレンベルクを、対空兵器へと転用したものだった。

 

これに目をつけたアクアビット社は、すぐにその建設を開始した。

アクアビット本社を直接囲むように建てられた九基の砲は、共同設計者であり、後にエーレンベルク博士の妻となった技術者の名前からつけられることとなった。

 

地対空磁気加速方式自動固定砲。

 

名は、〝ブルンヒルド〟という。

 

 

オーメル、イクバールの管制官たちが、この巨砲にコジマ粒子が充填されている事に気づかなかったのは、彼らの職務怠慢が理由では無い。

 

まず第一に、アトマイザーの中央…………つまり、九基のブルンビルドと、そこに囲まれたドーム状のアクアビット社本社施設は、常に高濃度のプライマルアーマーによって覆われていた。

 

これは、ネクストが近づけばそのPAを無効化する上に、さらに損傷まで与えるほどに強力なものである。まるで閉鎖空間のようなその中では、コジマ濃度の観測など不可能に近かった。

 

木を隠すのには森、最悪の盾の為に、最狂の槍に光が満ちるのを見逃してしまった。

 

そして、もう一つ。

 

彼らには、常識があった。

 

誰が、撃つのかと。

 

軌道上まで届くような高出力のコジマ砲を。

 

この大地に向かってなんて。

 

そんなものはありえないと。

 

彼らは、彼らの奥底にある常識で、断じてしまった。

 

 

 

光が、充ちた。

 

 

 

戦乙女から、三つの光の槍が放たれた。

 

 

一瞬にも満たない時間の後、槍は、地を穿った。

 

 

それは、その光は、鉄を、チタンを、タングステンを、アルミニウムを、ステンレスを、ニッケルを、ウランを、銅を、コンクリートを、プラスチックを、タンパク質を、カルシウムを、炭素を、喜びを、悲しみを、怒りを、驚きを、賛美の声を、怨嗟の声を、男を、女を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、そして、命を。

 

なんの差別も、区別も無く。丁寧に、残酷に、ある種の美しさを持って、消し去った。

 

 

 

その被害は余りにも大きかった。

ボスニア湾の沿岸にいたオーメル社やイクバール社の支援部隊も含めれば、その死者数は膨大なものとなるが、今回はその中でも、ボスニア湾内にいた戦闘部隊の被害についてのみ記す。

 

アクアビット特別防衛海軍……消滅

第一〜十三特殊高射砲連隊……消滅

第一特別近衛師団……消滅

第二十五バーラット連隊……消滅

第八飛行旅団……消滅

第八十八独立飛行連隊……消滅

 

また、第二十五バーラット連隊と共にアクアビット社への侵攻を行っていた、シブ・アニル・アンバニも、GAE社所属のネクスト、カリオンから受けた損傷が原因で回避が遅れ、コジマ砲の直撃により殉職した事をここに追記する。




アクアビット本社防衛設備のイメージは
メソン・カノン

エクスキャリバー

ストーンヘンジ

です。

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