「すまんな、アスピナの。それじゃあ俺には勝てねぇよ」
汚染されたアナトリアの地に立つ異形のAC、そのコアに深々と突き刺さるムーンライトを抜く。
哀れな男の亡骸を乗せたソレは、光ない瞳を地に向け、全身からコジマ粒子が噴出させながら、少しずつ崩壊していく。男は距離を取る。ここにいたら、爆発に巻き込まれかねない。
爆発。緑色の光が機体全体を包んだ。最早、そこに生者は存在しないだろう。
「あんたは死ぬ気かもしれんが、こっちは終始生きる事しか考えてなかったからな」
だが、疲れた。あの戦闘以降、自身の活動限界が目に見えて短くなっていくのが感じられた。
まぁ、それならば長期戦など考えなくて良いくらい強くなれば良いだけだ。
男は目を瞑る。少しばかり時間が経ち、ワルキューレのコアが開いた。
対コジマ防護服。顔は全く見えない、しかし、わかる。
「ねぇ……聞こえる?」
「イレギュラーか?」
「……ばか」
「ははっ……」
フィオナを抱き寄せる。彼女の身体の感触は全くわからない。だが、とてもあたたかい。
「……ありがとう。生きていてくれて」
「当たり前だよ。大事な人は傷付けないのが俺のポリシーだ」
強く、強く、抱き締める。やっと戦いが終わった実感と幸福を離さないように。
「幸せそうだな、二人とも」
突然、外から声がかけられる。
驚いたように男とフィオナは声の方向を見る。そこには、この前に命のやり取りをしていた巨人が立っていた。
「ベルリオーズ……!?なんだってここに!?」
「油断しすぎだ。オーメル社は二の太刀を用意してたぞ。」
「なんですって!?」
フィオナが声を上げる。
「奴ら、散々世界中を荒らしまわったお前の事を許すつもりは無かったらしいな。大事な大事なNo.6を差し向けてきていたよ」
「どこもかしこも荒れてるのに、一つだけ豊か極まりない街だなんて存在するだけで目の敵か。……で、そいつは」
「あぁ、代わりに仕留めといたぞ。……さて」
シュープリスの赤い瞳が光る。なんとなく、その向こうにいるベルリオーズの表情が男には見えた気がした。
「何も、私は二人の蜜月を邪魔するハエを落としに来たわけじゃない」
空からエンジン音が響く。見覚えのあるレイレナード製のネクスト輸送機。貪欲な龍のエンブレムが描かれたその機体は、間違いなくあの見知った男たちが乗り込んでいるそれだ。
「どうだ、独立傭兵。一人、首輪の外れた相棒を雇う気は無いか?」
「…………腕を盗もうってか?」
「何、来たる時まで効率よく磨くには、伝説のアナトリアの傭兵の近くに居続けるのが一番かなと思ってな」
「成る程」
男は笑った。まぁ、いい。一人でやるより楽になるというのは、歓迎すべきことだった。
男は、シュープリスに向けて手を伸ばす。ちょうど、握手の形になるように。
「よろしく頼むよ」
ベルリオーズも、コアの中で手を伸ばした。シュープリスが握手の体勢をとる。
「あぁ、こちらこそ」
「これより稼働実験を開始します。試験場にいる全ての作業員は速やかに撤収して下さい」
サイレンが鳴り響く中、狂人は楽しそうに鼻歌を歌う。
シナリオの変更加減はそこそこ、ブレイクはしない程度に、だが大きく変わっている。これくらいが、個人的には丁度良い。
上を向くと、幾重にも重なる強化ガラスの向こう側に、白衣の大人達と並んで心配そうにこちらを眺める少女の姿が見えた。
そこへ向けて、コックピットで投げキスを一回。いや、しかし、本当に負荷が強いな。クレピュスキュールに慣れてると、視界のリンクだけでもそれを感じてしまう。
まぁ、余裕ですけどね。なんたって私はチーターですもの。
「全職員の退避を確認。隔壁の閉鎖を開始。」
うん、そうだな、一つここらでAC4を区切るとするか。脳の中でThinkerを流す。エンディングロールが流れる。主要人物一覧、デカデカと流れる私の名前。あいむしんかーとぅとぅとぅとぅー、あいむしんかー……………
「隔壁の閉鎖を完了」
「聞こえるかいジャンヌ君。カウントダウンが終わったらソレを起動させてくれ」
「あいあい」
ふんふふんふーんふんふんふんふーん、ふふふふんふーんふふふふんふーん
「10、9、8、7」
ふぅうふぅ〜〜〜〜
「6、5、4」
あー、この先の歌詞殆どおぼえてないな。帰ったら聞き直すか。
「3」
なんだっけ、深海魚とか言ってたよな確か。
「2」
まぁいっか、また曲聴いてたら思い出すだろう。
「1」
さぁ、行くか。うん、とりあえずの、第一幕のオープニングとしてのインパクトは満点だろう。いや、それとも、まだ世界は長いプロローグの中だろうか?フロムゲーだし。
「0」
「〝ラグナロク〟稼働します。」
上機嫌にそう宣言する。次の瞬間、決して狭くは無い試験場にコジマ粒子が一気に満ちる。
あぁ、心地良い。なんの問題も無い。うん、少しくらい負荷がある方が動きやすい。自転車だってそうだろう?
「No problem. このまま宇宙にだって行けそうなくらいには快適な乗り心地だ」
狂人は笑った。うん、素晴らしい、チーターなんだ、やっぱり狂武器の一つや二つは持っとかなきゃね?
とりあえず、4編これにて完結です。皆様お付き合い頂きありがとうござあました。次回からは、アアクアビット本社で何があったのかや、fAに続くまでの数多の戦いと日常についてやっていきたいと思います。
それではみなさん!世にリリ!!(たった今思いついたあいさつ)