AC4とACfAの挙動の違いは、そのままアナトリアの傭兵と首輪付きのAMS適性の違いなのかな、なんて思います。
深夜、アクアビット社第一会議室には、大将級の軍高官や主席研究員、アクアビット社のCEOを含めた本社勤務の会社首脳陣が集結していた。もちろん、テペス=Vも参加している。(ミセス・テレジアは扱いが未だGAE所属のままの為、参加していない。)
議題は一つ、イレギュラーの取り扱いについて。
「……リンクス部門からの報告は以上です。なお、詳細については未だ調査中です。その為、質問などはまたの機会に」
ルークからの報告を聞き、他の参加者が一気に騒ぎ出す。当然だ、あんな報告、素面では到底聞けない。
「……到底信じられんな」
「だが、逆にこれで納得できたとも言える。あんな機動、リンクスになる際の人道的な強化手術程度では不可能だと思ってたからな」
「しかし、こんなAMS適性がありえるとは……」
「これも身体改造の結果なのか?」
「だとしたら人為的にリンクスの製造が可能だという事になるが」
「そんなの出来る訳ない!何年こっちが苦労してると思ってんだ!」
「確か、身体の機械化や精神の電子化によるAMS適性発現の計画をCPU部門が主導でやっていたよな、あれはモノになったのか?」
「いえ、全く。どれもこれも無駄に終わってますね」
「だから、あれは計画が悪いんだ。完全に電子化した上に思考の洗脳を施してネクストの操縦のみに特化したデータにするべきなんだ!」
「こちらとしては、このナノマシンも気になる。どれだけの衝撃に耐えられるかを検証する必要が……」
「いやそれよりも、このコジマ汚染の痕跡が皆無な点を……」
「しかし解剖はどうすれば……」
「いっそレーザーブレードで……」
「もしそれで殺したらどうするんだ!大事な被験者だぞ!!」
「そうだ!いままでリンクスを潰しかねないからと自粛していたアレやコレが出来るんだ!解剖するなら使い切ってからにしてくれ!」
「それよりも戦力としてだ!これだけの能力があれば間違いなくこの戦況を……」
「それよりもだ!?軍事屋共は俺らの研究の成果で戦ってるんだろ!!」
「その軍事屋に身を守ってもらってるのはどこのどいつだ!!そもそも貴様らが……」
「止めろ!こんな所で幼稚な喧嘩をするな!!」
……恐怖や疑問よりも、好奇心が勝ってしまっているのは流石アクアビットと言った所だろうか。
「とりあえず、報告の続きが聞きたい。次は……ネクスト部門だな」
この場でも最も若いCEOが、関係者が静かになった一瞬の隙に話を進めるよう促す。夢想家が多いアクアビットでも珍しい現実主義者のこの若者のお陰で、この会社は過度の暴走をせずに済んでいる節がある。
「はい。本人の許可があり、ネクストAC……名前はクレピュスキュールですね。これの解析を行いました。」
クレピュスキュール、フランス語で黄昏の意味。まさに、正体不明のイレギュラーにはピッタリな名前であろう。
ネクスト部門の主席研究員であるパトリックが、溌剌とした様子で報告を行う。学生時代は研究の傍らでラグビーに打ち込んでいたスポーツマンであり、その鍛え上げた体力により365日不眠不休で研究しても倒れないと噂される化け物だ。
「性能に関しては驚くべき事柄は余りありません。ヘッドパーツ、コア、脚部、それにOBなどの見覚えの無いパーツも、その殆どは既存の技術の延長線上といったような印象を受けます。ただ、コアパーツは変形機構を採用するなど面白い作りになっていますね。あと、腕部の武器には通常よりも威力が上がるようにチューンされていました。グレネードに関しては、アクアビットに専門家が少ない為に詳しいことはわかりませんが、GAEの研究員に聞いた所『有澤ほどの技術レベルが無いとこのレベルのグレネードは作れない』との事です。」
参加者たちが資料をめくる。そこには、クレピュスキュールを構成しているパーツについての情報が書かれていた。それを眺めながら、一人の将校が発言する。
「ジェネレーターとFCSはアクアビット製品なのか……。販売履歴の中にイレギュラーと思われるモノは無かったのか?」
「そもそも、我が社のパーツは同じ陣営だった企業以外には流れていない筈です。それに、気になることが一つ。」
「気になること?」
はい、とパトリックが頷く。
「製造ナンバーやアクアビット社の刻印が無いのです。我が社で正規に生産したものなら、必ず入っている筈の。これは他のパーツにも言える事で、どれにもどの企業が生産したかを示す刻印は押されていません」
「……それは、どういう事だ?」
「精巧なコピー品の可能性があります」
「コピーだと!?」
また会議室がざわつき始める。アクアビットの研究者は誰も彼も、自らの研究を至高の芸術品と捉えている節がある。だからこそ、そのコピーを嫌うものは多いし、誰にもそんな事は出来ないだろうと考えている。
と、一人の男が驚愕の声を上げた。ブースター部門の主席研究員だ。
「おい、パトリック。このOBについて話がある」
彼が見ているのは、OBの簡易的なスケッチだ。
「いったいどうしたんですか?」
「ここ、多分お前も気づいていると思うが、通常のOBなら不要な機構が付いているよな」
「あぁ、そうですそうです。後でそちらに行って聞こうと思ってたんです。それがどうかしたんですか?」
「こりゃ、あれだ。ウチが研究しているアサルト・アーマーの発生機構とソックリだ」
これまた、驚愕の声が聞こえくる。
「なんだって!?アレを思いついて実用化した奴が他にいるっていうのか?」
「嘘だろ……ウチだって四苦八苦してたってのに……」
「それは、本当ですか?」
兵器部門やコジマ部門の研究員の声を上げ、パトリックが尋ねる。
「間違いない。見ただけでわかる。このイレギュラーのOBは恐らく威力に特化したタイプだろう。推力や燃費を犠牲にしているが、アサルト・アーマーをやるには最適だ」
アサルト・アーマー。ネクストが防御用に纏うPAを圧縮させ、コジマ爆発を発生させるといった類の兵器だ。既に、技術としては完成している。それをいかに実用レベルに持っていくかにブースター部門は血道を上げていた。
さらに、イレギュラーに対しての疑問が深まる。ブースター部門の研究員などは、イライラにより貧乏ゆすりが止まらないでいた。
「あぁ、それと、機体には凄まじいレベルでチューンがかかっていました。FRSメモリに換算して1400。非常識なんてレベルじゃありませんね」
……どんどんと、頭が痛くなってきた。
アクアビットからあてがわれた部屋を使う。どうやら、そこそこ高級な部屋のようだ。少なくとも、寝心地は悪く無い。
外には衛兵が立っている。こっちの監視の為だろう。まぁ、余りにも怪しすぎるからな、しゃーない。
「…………」
リリウムはというと、今は同じ布団で、というか私の胸の中で横になっている。別の部屋を提供すると言われたが、本人の希望によりこのような形になった。
目を瞑って、寝ようとしているのだろうか。その髪をそっと撫でる。綺麗な髪だ。いい匂いもする。こういうときに、TSしたの失敗かなぁと思う。
「……ジャンヌ様」
「ん?」
リリウムが声をかけてきた。笑顔を浮かべ、どうしたのと尋ねる。
「本当に、大丈夫なのですか?いきなり、こんな場所に……」
「大丈夫大丈夫、リリウムは安心していいよ」
そう大丈夫、失敗しても結局死ぬだけだし。うん、大丈夫じゃないなそれ。
「何があっても、私はリリウムを守るから」
言葉とは便利なものである。言うのは無料だ、まぁ、本気ではあるが。
と、リリウムは笑顔を浮かべた
「ジャンヌ様がそう言って下さるなら……」
「そうそう、だからリリウムは安心して寝ていいよ」
やさしーく、やさしーく、まるで小型犬を触るかの如くにやさしーく撫でる。
「……ジャンヌ様、お願いがあるのですが」
「なんだい?」
クレイドルでも落とす?
「……キスを、してもらえませんか?」
…………はえ?
「……いつも、姉様や兄様は、リリウムが眠れない時にはキスをしてくれたので……」
き、キスなんてしたら子どもが出来ちゃうじゃないか!?(純粋無垢)よっしゃ!舌入れた濃厚な奴をぶちかましたるぜ!!(本心)
冗談はさておき、なるほどおやすみのキスか。やっぱりそこらへんは欧米である。そーいう文化とわちき接してきてなかったからね。
とりあえず、ふふ、リリウムはまだ子どもだなぁ的な笑みを浮かべて、キスの場所をさが…………胸……………却下…………………唇………………………………キャベツ畑にコウノトリ…………………………………デコ…………………………………最適解と言える…………………………………………
「いいよ。おやすみ、リリウム」
音の出ない程度に軽いキス。あ、うめぇ。こりゃうめぇよ。なんかよくわかんねぇけどうめぇよ。
「ん……ありがとうございますジャンヌ様。おやすみなさい……」
リリウムの目がとろんとしている。可愛い。もしこれで自分が男だったらもうダメだったね。R-18展開だったよ。いやぁ、女で良かった。ただの尊い触れ合いだもの。ぬふふ。
と、リリウムの瞼がゆっくり閉じた。落ちたらしい。じゃあ私も寝ようかと、リリウムの香りを愉しみながら意識を手放した。
「イレギュラーは受け入れる。」
CEOの言葉に、まぁそれしかないなとばかりに参加者たちが頷く。最早、アクアビットが生き残る為に他の手は考えられない。次に攻めてくるのが、あのアナトリアの傭兵の可能性もあるのだ。
「そして、これからの方針だが。イレギュラーの存在を手札に加え、GAとの和平交渉に移ろうと考える。」
「同胞たるレイレナード社は崩壊、エーレンベルクも破壊された。悲願の成就は今は不可能……か」
テペス=Vが呟く。ブルンヒルドは大気圏内での使用を考えられた兵器だ。計画に使う為には大規模な改造が必要である。
「あぁ、そうだ。ならば、これからは我が社の力を少しでも残しつつ、クローズ・プランへの支援を行えるようにするべきだど考える。」
そう言うと、若者は立ち上がった。そしてそこに座るものたちを一瞥し、言う。
「残念ながら、今回は我々の負けだ。諸君にはこれから暴れまわったツケを払ってもらう事になる。次の戦争の為にも、アクアビットの為に戦ってくれた数多の人間の命を無駄にはしないでくれよ」
「は!」
「今回はコレで終わり、各自解散後すぐに休め。明日からは間違いなく今日までよりも忙しくなるぞ」
その言葉を合図に、すぐに参加者たちは部屋を出て行った。残ったのは、テペスと、CEOのみ。
「不満か?テペス=V」
「……私は、奴を信用できません」
「だろうな」
若者が立ち上がり、そのままドアへとつかつかと歩いて行く。そしてかちゃりとノブをひねると、老兵の方を向き、言った。
「だが、あれくらいの劇物は必要だ。お前らの夢を実現させ、あんなに大きなフロンティアを閉ざした奴らを罰するというのならな」
そう言葉を残し、彼も部屋を後にした。
腕を組み、テペス=Vは誰もいなくなった部屋で一人思考する。
それで納得して良いものなのか、確かにあれは劇物だ。上手く使えば、アクアビットを救う薬になるだろう。あれだけのものを、人間を、本当に制御できるのか?あの毒で死ぬのは、本当にアクアビットだけで済むのか?
おそらく、皆警戒を解いた訳では無いだろう。頼らなければどうにもならない。だから受け入れた。
ならば、私も彼女に対する警戒を続けよう。例え化物だろうと、奴はリンクスだ。リンクスを抑えられるのは、リンクスしかいない。
そして、彼女を仲間と認めよう。決まった事でもある。それに、彼女がいなければ、間違いなくオーメル社の連中を引き止めるべく散華した者たちの命は無駄となっていた。そして、私も倒れていた。あの時点で、間違いなくあの劇物はアクアビットの死を救った。それを認められないようでは、ただの頭の固い老人だ。
テペス=Vは立ち上がった。そして無人の会議室の明かりを消すと、ゆるりと自らの部屋に戻った。
朝、私たちの部屋に唐突にアクアビットの将校が訪ねてくる。
「ジャンヌ・オルレアン。君の処遇が決まった。こらからの扱いはアクアビット社所属のリンクスということになる。ようこそ、アクアビットへ」
あら、案外早かったな。もう少し揉めると思ってたのだが。まぁ、余裕が無いのだろう。
「それに伴い、貴官にはこれから仕事を行ってもらう」
…………は?
「30分後、第八ブリーフィングルームに来てくれ。仕事の説明がある。場所については外の衛兵が案内する」
いや、え、早過ぎない?え、なに?
え?
「では、私はこれで」
そして、唐突に去っていった。
「えー…………」
後ろを振り向く、リリウムはまだおねんね中だ。
と、とりあえず用意して行くか。起こしちゃ面倒くさいし。昨日はミセス・テレジアが相手してくれたらしいし、今日もそうしてくれるだろう。エンブレム含め変態臭漂う方だが。あ、でも見目麗しい方だったよ!幸薄そうだったけど。なんというか、未亡人風?
静かに服を着替え、部屋を出る。まぁ、折角の新しい生活なんだ。これくらい急なくらいが楽しいだろう。
部屋を出る……の前に、リリウムの寝顔を眺める。かわゆい。
「じゃ、ごめんねリリウム。行ってくるよ」
そして額に優しく行ってきますのキス。がはは、役得じゃ役得。
静かに部屋を出る。……まさかこれが、ジャンヌ・オルレアンとリリウム・ウォルコットの永遠の別れになるとは……予想して無かった……おぉジャンヌ……まさかコジマ爆発により死んでしまうとは……情けない……
そんなナレーションを頭でかましつつ、私は衛兵と共にブリーフィングルームに向け歩き始めた。
次回、初めてのお使い(リベンジ)