世にリリウムのあらん事を   作:木曾のポン酢

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今日も今日とて泥縄式執筆法(事件を書いてから解決方法を考える)により重大事項が決定する。

あとで細部を整えるために描き直す可能性あります。


テロリズム

「いやぁ!楽しかったね、リリウム!」

 

有澤重工が用意してくれた高級ホテル。そのスウィートルームにあるベッドに飛び込んだ。一週間の日本出張も、明日で終わりである。いやぁ、色々あった。うん、将来のシャッチョサンとOIGAMIを超えるグレネードが出来たら購入する約束もしたし。接待で食べた懐石も、その帰りに食べた牛丼も、締めのラーメンライス餃子付きも、みんな美味かった。うん、やっぱり米だよ米。米食わな死ぬよ我々は!

 

「……ジャンヌ様は、あんなに味が濃いものが好きなのですか?」

 

そして、こっちがそれらの私の荒れた食生活に付き合ってくれたリリウム・ウォルコットちゃんです。え?どんだけ荒れてたかって?男子高校生が泣いて喜ぶタイプの生活をしてただけよ?

 

「うーん、なんというか、ただの味の濃さじゃないんだよね。こう、心に染み入るグルタミン酸というかイノシン酸というか。こう、何か、あるんよね」

 

「そう……ですか……ジャンヌ様はあのような料理がお好き……」

 

「いや、リリウムの料理も好きよ?優しい味がして。ただあぁいう料理も好きってだけだから」

 

そう、アクアビット社で私が食べるものは三食みんなリリウムが作っている。リリウムもリンクスとしての訓練で忙しいハズなのに、いつもいつも手の込んだ料理を食べさせてくれる。ありがたい、かわいい、出来れば身体が男の時に出会いたかった。

 

「……では、たまにあのようなものも作った方が?」

 

「あぁいや、大丈夫だよ。自分で料理するから」

 

うん、あの繊細なまでに雑な味はチェーン店か7年間の一人暮らしで得た自炊スキルでしか再現できない。ちなみに米は大量に買ってアクアビットに送りつけた。うん、まぁ平和になったし住所も手に入れたんだから、通信販売とかで買ってもいいかもね。

 

「さ、お風呂でも入って寝よっかリリウム。今日も背中を流してもらおっかなぁ」

 

「はい、わかりました。では、用意をしてきます」

 

あー、くそ、今だけ脂ぎったオッさんになりてぇ。美少女が美人の身体を洗っても尊いだけじゃねぇか。こう、背徳感というか、こいつ悪いことしとるのぉ〜的な何かが欲しいよーカミえもーん。

 

 

そして夜である。すんすんとリリウムの匂いを嗅ぐと本当に良く眠れるので、テレビの前のみんなは試してみてね!

 

しかし、ほんと綺麗な髪だなぁ、なんというか、こう、月の光をいっぱいに受け止めたような、そんな色。

 

うん、ほんと、なんか、尊い、とうとい、とおとい、ねむい、ねむ…………

 

くー………………

 

 

 

「ジャンヌ様、ジャンヌ様。」

 

んー

 

「ジャンヌ様、起きて下さい」

 

「起きてるー、起きてるよー」

 

「起きてる人は起きてるだなんて言いません。」

 

「起きてるー」

 

「ほら、ジャンヌ様。いま大変な状況なのです」

 

「……生理?」

 

頭に衝撃、飛び起きる。

 

「そういうデリカシーの無い発言は色々と疑われますよ?」

 

どうやら、リリウムがホテルに置いてあるタイプの聖書の角でぶん殴ったらしい。

 

「あ、はい、ごめんなさい」

そもそも常日頃から正気を疑われてるので何も問題は無いのだが、リリウムの気迫に思わず頷く。

 

「で、大変な事って?」

 

「テレビを見てください。内容はわからないのですがどうやらこの近くにネクストが出たようで……」

 

「何だって?」

 

そんな熊みたいな感じに出るものなのか?とテレビを眺める。

 

…………本当だ、アリーヤがいる。あれ?しかも、この場所は……

 

「私たちが帰りに使う予定の空港じゃん」

 

そう、ここから車で5分くらいの位置にある。流石に直接見えはしないが……

 

「そうなのですか?すいません、日本語はさっぱりで……」

 

さてさて、何が起こった?

 

 

 

ニュースで見た情報を合わせると、どうやらこういう事らしい。

今日の未明、一つの不審な大型船が極東地域の領海に侵入した。すぐにGA極東艦隊が出動し、勧告を行った後にこれを撃沈したが、そこから一機のネクストが出てきた。そいつはGA艦隊の包囲から抜け出すと、そのまま上陸し、空港……あぁ、はい、成田です。成田空港に突入した。

 

さらに、これと同時期に大規模な武装グループが数機のノーマルACやMTと共になだれ込み、空港を占領した。それが、今から一時間ほど前。

 

三十分前、犯行声明が全世界に対して流された。下手人は反パックス系の武装組織〝蒼天の審判〟。その要求は「企業が拘留する同志の解放」24時間以内にこれを行わないと、空港にいる人質は皆殺しにするとのこと。

 

「機体はアリーヤか……レイレナードの亡霊とは考えられんし……まぁ、相当数が流れたとは思うが」

 

さて、誰の鈴がついている?オーメル、イクバール、インテリオル、どこもかしこも復興の途中だろうが、テログループへの支援により嫌がらせするくらいの余裕はあるということだろう。

 

「いったい、どうなるのでしょうか……」

 

その内容を聞いて、リリウムが心配そうに尋ねてきた。

 

「まぁ、少なくとも私たちに出番はないでしょうね。やれる事はテレビの前で見てるくらい」

 

「…………」

 

「……なに、その目」

 

リリウムが驚いたようにこちらを見てきたので、思わず突っ込んでしまう。

 

「いえ、ジャンヌ様の事なので嬉々として首を突っ込みに行くと思っていましたので……」

 

「私を何だと思ってるんだ……」

 

これでも、結構面倒は嫌いなのよ?

 

「ジャンヌ様がこの場所で事態の推移を見守るなら安心です。どうしましょう、ホテルには延長の申し出を?」

 

「そうして、追加の料金については後で考えよう。まぁ、有澤かアクアビットが払ってくれるでしょ」

 

企業戦士万歳やね

 

 

 

一時間経過した。ルームサービスで頼んだコーラを飲みながらテレビを眺める。ふと、やった事は無いが何かのゲームで放射能コーラみたいなのがあるのを思い出した。コジマ・コーラ、ふむ、提案してみるか。などと考えてると、その間に有澤から電話があった、どうやら追加で滞在する費用も向こうが出してくれるらしい。曰く、「ここに上陸させたのは有澤の責任でもあります。」との事。素晴らしい。さらにアクアビットから安否確認の電話も、大丈夫ですよー、貴方の素敵な実験素体は無事ですよー!

 

「しかし、いったい誰が対応するのか」

 

「GAや有澤のネクストでは?」

 

「まず有澤は無いな。これを解決するには電撃的な対応の必要がある。ネクストはGAか有澤の対テロ特殊部隊と同時に突撃し、アリーヤや通常兵器に暴れる隙を与えずにこれを制圧しなくちゃいけない。そんな作戦に、遅いタンクタイプかつ、空港に被害を与えかねない有澤のネクストは向いていない」

 

それに、リンクスであるワカ……有澤隆文副社長も、怪我がまだ治りきっていないらしく、砲撃は兎も角リンクスとしての動きはまだ出来ないようだ。

 

「となるとGAのリンクスだが。まずメノ・ルーはダメだな。背負った武装が凶暴すぎる。まぁ、他の武装に換装したらその限りじゃあ無いとは思うが。と、なると、まぁローディーだろうなぁ。」

 

腕バズの瞬間火力だと相手に動く暇も与えずに削れるだろう。相手が機動こそ装甲のアリーヤなら尚更だ。まぁ、ハイアクトミサイルは使えないだろうが……

 

「そういえば、PAはしてないっぽいな」

 

テレビを見ていて気付く。コジマ粒子の妖しい輝きが見えない。

 

「……恐らく、GAが約束を違えたらすぐに展開するのでは?」

 

「あー成る程。そうか、そう考えるとネクストって動くコジマ爆弾だなぁ」

 

と、いう事は。相手が攻撃を認識してPAを展開する前に倒さねばならないのか。まぁ、PAが無いということは装甲が無いということだが。

 

しかし、動かんなぁあのアリーヤ。警戒行動などもとってるように見えない。ノーマルやMTはサクサクと歩いているのに……まぁ、結局は、テログループで潰されても問題が無い程度の腕という事なのだろう。そういや、アマジーグやススもAMS適性は低かったな。

 

「うーん、もうちょっとピョンピョン動いてくれたら楽しいのに」

 

「……ジャンヌ様」

 

呆れたような声色。えっと、なになに?事件を面白がるのは不謹慎だからヤメろって?うん、顔見たらだいたいわかるよ。

 

「へいへい」

 

素直にやめる。べ、別に反省したわけじゃなくて、リリウムが怖かっただけだからね!!

 

しかし、腹減ったな。どうせ今日はこのニュース見ながら過ごすつもりだし、ルームサービスで済ませよ。

 

受話器を取ってメニューで目に付いたのをいくつか注文する。うん、なかなかにセレブで資本家な生活だ。文明だな、ベッドで寝てるだけで食事が運ばれてくる現状はまさに文明だ。この数百年後にモヒカン共がヒーハーしながらACで「サッカーやろうぜ!ボールはお前な!」とガッキンガッキンやってるとは思えない。

 

ははは、絶対生きたくねぇなそんな所で。私みたいに繊細な人間にはまったく向いてないもん

 

 

 

「ピッタリ向いとったやないかーい!!」

 

「え…………?あ、あの……………………えっと……………何です…………か………………?」

 

「いや、何というか、暇だから自分の半生を思い浮かべてたらツッコミ所が出てきたから。やるなら今だなぁと思って」

 

「は、はぁ…………………」

 

 

 

さて、ばくばくむしゃむしゃごくごくである。状況は動かず、日は西へ向かって落ち始めてきた。

 

「……動きませんね」

 

「まぁ、こんなん体力勝負だしな。企業が屈するとも思えんし、何らかの動きがあるとしたら夜だろ。視界は悪く、判断能力も落ちる。それこそ、あのネクストだって警戒のためにずっと火を入れてるとしたらそれくらいにはもうへとへとだろし。」

 

疲れるからって起動してなかったらスクラップだし。

 

「ま、もうちょい暇でしょ。ゲームでもしようかね」

 

取り出したるはPSP、入っているのはAC。エースなコンバットの方ね、Xね、ナイアッドね。

 

私がそいつを持ってベッドに寝転ぶと、リリウムは寂しそうな表情を一瞬だけ見せて、またテレビへと目を戻した。

 

……いや、じりじりと近づいてきてるぞ。

 

 

 

夜になった。その間のニュースとしては、蒼天の審判の活動について(主に反社会的なものを)紹介したり、空港の様子を伝えたりした程度だ。

 

「さぁて、そろそろかな」

 

ゲームの電源を切って、起き上がる。リリウム?なんか私の身体にずっともたれかかってたよ。

 

「そうなのですか?」

 

「うん、露骨に空港の映像が少なくなってきた。今頃、対テロの特殊部隊が包囲してる感じだと思う。だからそろそろ始まると……ん?」

 

ジャンヌが何かに気づいたように首をあげる。その原因が外にある事に彼女は気付くと、ドアを開けて外を見回した。

 

「どうしたのですか?」

 

「……何か、音がする。」

 

その原因を探すべく、ジャンヌは首を動かす。

 

音は、どんどんと近づいてきた。ジャンヌは一度瞬きをする。左眼に埋め込まれたセンサーが周囲の暗さを読み取り、暗視モードへと切り替える。便利。

 

……いた、西側、近い、低空を飛行中の大型航空機……あれは。

 

「レイレナードの高速輸送機だと?」

 

そうだ、一度戦場で見た事あるし。アクアビット社にも数機ほど配属されている。ネクスト二機を同時に、高速で運搬できる優れものだ。

 

なぜそんなものがこんな所に、と一瞬だけ考えてすぐに理由に気付く。あぁ、そういう事か。

 

「なるほど、あの二人ならすぐに終わるだろうよ」

 

ベルリオーズがアナトリアの傭兵と合流し、傭兵稼業を始めたのは有名な話だ。なんたって、この世界において三本の指に入る実力者の内、二人が組んだのだから。(なお、もう一本の指は言うまでもなく私である)

 

こいつぁ楽しみだとヨダレを飲む、二人がどのような連携を行うかは興味がある。まぁ、夜だからテレビで見てもハッキリと映らないのは残念なのだが……

 

と、航空機から一機のネクストが飛び出す。ん?あれは……あのシルエットは……まさか……!!

 

「ホワイト・グリント!?」

 

マジか、もう新白栗できたのか!んで乗り換えたのか!終戦から六ヶ月、どこもかしこもネクスト関連において新たな商品が出たという情報を聞かないのに、天才アーキテクトはもう設計と製造を終わらせたらしい。ヤバい。

あれ?でもあのコアってうちのクレピュスキュールと同じじゃん!そしてどう考えても世間に日の目を浴びたのはこっちが先じゃん!パクリだ!パクリ・マーシュ……………ん?

 

…………断頭台のエンブレム?

 

脳みそが大混乱を起こす。なぜホワイトグリントにシュープリスのエンブレムが付いているんだ?おかしい、ホルスの目じゃないのはまだわかるが。いや、でもアナトリアの傭兵って確かエンブレムを付けてなかったよな……、じゃあ、あれか?シュープリスのエンブレムで統一したってことなのか?なんで?うーん、わからん……

 

 

 

だが、私のそんな疑問は、輸送機から投げ出されたもう一機のACを見て吹き飛んだ。私の全身を、疑問などという知性的な行為を不可能にさせる巨大な興奮が駆け巡ったからだ。

 

最初、私はそれが何なのか理解できなかった。

一瞬して、それが何であるかに気づき、何故それがここにいるかを疑問に思った。

そして、その肩に描かれたホルスの目を見て、理解を放棄した。それは、いまの自分が考えても答えに辿り着ける物事では無いと悟ったからだ。それに、あんなもの見て、思考できる余裕がある程に冷静な性格では無い。

 

あぁ、うん、そうだよな。あの武装構成ってお前にピッタリだよな、アナトリアの傭兵よ。

 

「ジャンヌ様……?いったいどうなさい……きゃっ!」

 

リリウムの声を聞いて、ジャンヌは窓を閉めると後ろに立った少女を思いっきり抱きかかえ、そのまま背中から布団へと倒れこんだ。

 

「ど、どうされたのですか!?」

 

突然の行動にリリウムが焦りだす。見ると、ジャンヌの顔は喜色に溢れていた。こんなに楽しそうな顔を、少女は初めてみる。

 

「リリウム!」

 

「え?は、はい」

 

「最高だな!」

 

「????」

 

リリウムには、彼女が窓の外に何を見たのか、そして、何故こんなに興奮しているのかはわからなかった。

 

 

 

 

その日、旧日本領上空に二条の閃光が煌めいた。

 

一つは、狂人が知る未来において、空へと逃げた企業と対峙し続け、地上の為に戦い続けた一人の最強が乗っていた白き閃光。

 

そしてもう一つは、その遥か未来において、人間を滅ぼすため、闘争に身を焦がす為に、狂ったナニかが駆った黒き閃光だった。




次回、『閃光が瞬く時』

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