世にリリウムのあらん事を   作:木曾のポン酢

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これは、天才で無かった者たちの新たな戦いの物語である。

実を言うと、1番好きなレイヴンはエヴァンジェです。私はあのラストで泣きました。

❇︎サブタイトル変更しました。


渡鴉は山猫の夢を見るのか?

これが……本物か……

 

エヴァンジェは、一人コックピットの中で自嘲した。

最早、勝敗は決した。オラクルのAPは尽きたも同然。いくつかのパーツは火花を噴き、まともに動くともできない。

 

機体を壁にもたれさせ、一人息を吐く。

 

「……笑わせる、偽物は私の方だったか…」

 

外装だけでなく、コンソールからも火花弾けるオラクルの中で、エヴァンジェは相対する鴉に向かって言った。どちらの姿もボロボロだ、レイヴンは右腕とヘッドパーツを失っていた。だが、彼の腕なら問題なくやり遂げるだろう。

 

その時、唐突な爆発音と共に独特の駆動音が響いた。二人が同時に空を向く。

パルヴァライザー……ただただ全てを粉砕し続ける無人兵器。その姿は、もはやACとはかけ離れた姿になっていた。

 

エヴァンジェは、それに対し右腕のリニアライフルを放つ。パルヴァライザーはそれを躱し、空へと舞う。

 

扉が開く。インターネサイン、世界を破壊し尽くした元凶への道がこの先にある。

 

エヴァンジェはレイヴンの方を見る。ここで、共倒れする訳には行かない。どちらかがインターネサインを破壊し、世界を救わねばならない。

そしてそれは、間違いなくドミナントである彼が為さねばならぬ事だった。

 

「奥の施設を破壊してくれ、ここは任せろ…‼︎」

 

レイヴンは頷き、そのまま奥へと進んで行く。

 

「お前ならやり遂げるかも知れん…」

 

いや、やり遂げるだろう。男は心の中で言った。あれは、間違いなく戦闘の天才だ。ジナイーダも強かった、だが、彼はモノが違う。彼こそが、彼だけが、全てを終わらせる事ができる。

 

再び、鴉がこちらを向いた。何も知らずに潰しあったもの、ジャック・Oに選ばれなかったもの、それぞれの想いの為に戦ったもの。この24時間の間に、多くの命が散った。もはや、この世界に鴉は彼と……いや、彼しか存在しない。

 

エヴァンジェは笑った。ジャックから見れば、自分の行動は道化のようだっただろう。だが、真のドミナントを見る事ができた。そして、彼を護る為、世界を救う為に死ぬ事が出来る。凡人に用意される最期としては、充分過ぎるほどだろう。

 

「後は頼んだぞ、レイヴン!」

 

扉が閉ってゆく。鴉は前を向き、もうこちらを振り向く事はなかった。

 

エヴァンジェも前を向く。ライフルも、イクシードオービットも、そして肩部に背負った〝決戦兵器〟も、残弾は少ない。頼りになるのは、世界がこんな姿になる以前から使い続けた左腕のブレードのみだろう。

 

エヴァンジェは、ムーンライトをゆっくりと天へと、空を飛ぶ破砕者へと向けた。

たとえこの命尽きようとも、この無人兵器を通す訳にはゆかなかった。それが送り出した者の責任であり、彼の凡人としての意地だった。

 

「行くぞパルヴァライザー。人間を…レイヴンを……舐めるなよ…!」

 

ブースターが稼働する。EOが展開、リニアライフルが唸り、エヴァンジェはブレードを振りかぶった。

 

パルヴァライザーとそのオービットキャノンによる全方位からのレーザー攻撃、大きなものはかわせるが、小さなものまで気にする余裕は無い。既に500を切っていたオラクルのAPが二桁台に突入する。しかし、それでも彼は動きを止めない。

 

遂にAPが一桁代に突入した。機体が、身体が、悲鳴をあげる。だが、何とか刃の範囲にたどり着く。

 

ブレードを展開する。黄金の鞘から、蒼月の刃が現れる。エヴァンジェは、燃えんばかりに熱せられた操縦桿を握り。ムーンライトでもって……

 

次の瞬間、彼の身体を激しい痛みが貫いた。オービットキャノンによる一撃が、ブースターを貫き、背後からオラクルのコアを襲ったのだ。

反射的に、エヴァンジェは下を向く。彼の半身はそこにはもう存在してなかった。

 

さらに、パルヴァライザーの両腕のブレードが、オラクルの頭部とコアを貫く。エヴァンジェの右腕も、それと同時に蒸発した。

 

APが0を指し示す、エヴァンジェの身体が限界を叫び、脳が次々とその働きを停止してゆく。視界が闇に閉ざされる。

 

だが、瞳が暗闇に包まれる直前に映した福音を、エヴァンジェは見逃さなかった。

オラクルのジェネレーターは、未だ左腕にエネルギーを供給し続けていた。そして、強化人間としてオラクルと繋がっている彼の身体は、左側の稼働が可能なことに気づいていた。

 

エヴァンジェは口元に笑みを浮かべ、倒れるように、だが自らの意志でもって、操縦桿に焼け付いた左腕を押した。

 

彼が意識を手放す直前、エヴァンジェが最後に知覚したのは、ムーンライトが振るわれる音だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっちゃな頃からレイヴンで〜、15で異端と呼ばれたよ〜〜」

 

両耳に異なるイヤホンをつけたジャンヌ・オルレアンは。左耳から流れるチェッカーズの名曲を歌いながら、傍に置いてあったコジマ・コーラを喉に流す。

 

「月光みたいに尖っては、戦う者みな……切り裂いたぁ〜〜」

 

日本から帰ったジャンヌが冗談交じりに提案したコジマ・コーラだったが。恐ろしいことにアクアビットの社員はそれを冗談とは捉えなかった。傘下の清涼飲料水の開発を行う企業との協力により、コジマ・コーラの試作品は完成してしまった。アクアビット驚異の技術力により、王冠により封印されている時は一切のコジマ漏れは起こっていないが。一度蓋を開けると、爽やかな香りや炭酸と共にコジマ粒子が漏れ出すこの革命的な飲料は、数名の被験者とジャンヌによって試飲が行われた。

飲んだ被験者10名の内10名は、全身から血が噴き出し、喉と臓腑を掻き毟り、しかし顔だけは恍惚として死んでいった。唯一無事なジャンヌは、「いままで飲んだどんなドリンクよりも美味い」とその味に太鼓判を押した。

 

さらに、アクアビットの研究員からの評判も良かった。「あの美しいコジマ粒子を近くに置いておける」とインテリアとして評判となったのだ。

そのため、コジマ・コーラは少量ではあるが量産されることとなった。

 

ジャンヌが摂取したコジマ粒子は、排泄される事なく全て彼女の身体にとどまっているらしい。

「いつか、私も光り出すかもね」と笑ったときの、あのリリウムの苦々しい表情はいまでも頭に残っている。

 

「あぁ↑あぁ↓わかってくれとは言わないがぁ!そんなに俺が悪いのかぁ!?」

 

超絶技巧でエアギターを掻き鳴らす。いいね、最高に乗ってきた!へい!盛り上がってるかいアリーナ!!

 

「カラサワ カラサワ お休みヨォ!!ピーピピボボボボ(デデデデデデデデン)子守唄ァ〜!!」

 

でれすてってってでーでん!でれすてってってででででで!!

 

「恋した主任と二人して〜、世界を壊そと……」

 

「ジャンヌ様!!」

 

唐突に、右耳にリリウムの声が突き刺さる。ジャンヌは驚き、エアギター(1965年のジャンヌオリジナルモデル。ストラディバリウスと同じニスが塗られている)を落としてしまった。

 

「ど、どしたんリリウム。犬の糞でも踏んだ?」

 

「違います。真面目にして下さいと言っているんです」

 

ジャンヌとリリウムは、現在アクアビット社の近く、ネクスト演習用の敷地内で、ランスタンによる機動訓練を行っていた。

この訓練用ランスタンは、コックピットが複座に改造されいた。普段はリリウムが操縦し、もし危険な動きが見えた時はジャンヌがコントロールを掌握し、立て直すという方式で訓練を行っていた。

 

「だってー、リリウムが訓練でガチガチだから、緊張ほぐすために歌の一曲でも贈ろうとおもって……」

 

「ジャンヌ様はいつも歌っているように記憶しているのですが」

 

リリウムがジト目でそう言う姿がありありと頭に浮かぶ。可愛い。見たい。

 

「まぁ、アレだよ、リリウムは操縦は上手いけど、緊張しすぎるのはダメなところだね。適度な緊張感と適度なゆるみ。これがネクスト操縦に最重要な事だ。」

 

外付けされたカメラから外部の様子を確認しているジャンヌが、これまでのリリウムの動きをそう評する。なかなかモノになって来てはいるが、まだ少しばかり視野が狭い。

 

「では、どうしましょうか?」

 

「操縦しながら私と会話しよう。多くの事を同時に処理できるようになれば、不思議と余裕も出てくるし、リンクスとして戦うにもマルチタスクが可能というのは重要だ」

 

たまには真面目に訓練内容を指示してみると。なるほど、確かにそうですねとリリウムか頷いた。

 

「では、どんなおしゃべりをいたしますか?」

 

「うーん、そうだねぇ。そういえば、リリウムってテレジアさんと仲良いよね」

 

ミセス・テレジア。旧GAEの女リンクスだ。幸の薄そうな銀髪で見た目は妙齢の美人だ。同じリンクスなので時たま話したりするが、そこまで深くは関わった事はない。

リリウムは、アクアビットに来て以来よくミセス・テレジアと過ごしていた。ジャンヌといない時は、テレジアと共にいると言っても過言ではない。

 

「えぇ、テレジア様にはここに来て以来色々とお世話になったので」

 

ブースターで規定のルートを飛行しながら、リリウムが言う。ジャンヌは計器を見る、少しばかり、エネルギー管理に敏感すぎるかな。まぁ、いまコントロールを奪うまでのものでもない

 

「テレジアってどんな人なん?ミセスなんて言われてるんだから旦那さんもいるんでしょ」

 

「……それは」

 

「……あれ、聞いてはいけない系の質問だった?」

 

「……一度だけ、話してもらいました。GAE社のメカニックで、GA社からの粛清の際に、とだけ言っておりました」

 

ぐげー、未亡人かテレジアー。くそー、萌えるー。

 

「ジャンヌ様、くれぐれもテレジア様にデリカシーの無い言葉をかけないで下さいね。ジャンヌ様は、良く人の気持ちを無視するきらいがあるので。」

 

「ははは、まぁ、うん、善処するよ」

 

「徹底してください」

 

ぴしゃりとリリウムが言って、そういえばと言葉を続ける。

 

「最近テレジア様を見かけないのですが、本社から離れておられるのですか?」

 

「あぁ、何でもアクアビット領内で大規模な資源埋蔵地が見つかったらしくてね。そこの採掘部隊の護衛に行っているらしい」

 

恐らく、B7だろう。これからコジマが漏れたり首輪付きに襲撃されたりコジマが漏れたり首輪付きに襲撃されたりと血が多く流れる場所だ、なるべく早いうちに資源を取り尽くさねばならない。

 

「そうですか……。ならば、長期の仕事になるのですか?」

 

「さぁねぇ。そこまでは流石にわからんねぇ。」

 

などなど、楽しくリリウムとの会話を行う。コジマ・コーラを飲み、なんか漫画でも持って来れば良かったかなぁ。

 

そんな事を思っていた時だった。

 

「……ジャンヌ様」

 

「ん?どないしたん?」

 

「前方、何か倒れていませんか?」

 

「どれどれ」

 

リリウムの言葉を聞いて、ジャンヌも目を凝らす。確かに、向こう側に青い何か……人型の……ACか?が倒れていた。

 

「どういう事だ、行き倒れか?」

 

「……どうしますか?」

 

「コントロール代わるよリリウム、確認しに行く」

 

移動訓練用のネクストであるこの機体に、武装やPAの発生機構は搭載されていない。もし不明のものの正体が敵の場合は、すぐに逃げなくては撃墜されてしまうだろう。

 

「わかりました」

 

リリウムの承諾を確認し、AMSを接続する。っし、これでよく見える。

 

警戒しながら不明機に向かい飛行する。

 

少しして、その正体がわかった。

 

「……これは」

 

「ノーマルAC……ですか?」

 

いや、違う。ジャンヌは心の中で否定した。

 

そこにいたのは、エヴァンジェの愛機〝オラクル〟だった。何故こんなものがAC4の世界に?と一瞬疑問が浮かび、すぐに消え去る。そういや、LRのキャラとインターネサインを異世界転成するよう願ってたな。既にここに来て三年以上は経過しているのですっかり忘れていた。へけ!!

 

と、いうことは。隊長は運良く私の近くに転成したという事か。今頃、他の二人やインターネサインも、何処かに飛ばされている事だろう。

よしよし、これで少しばかりはこの4とfAの幕間の時間も楽しいものになるな。そんな事を考えながら、ジャンヌはオラクルの姿を確認した。

 

左腕には光り輝くのドミナントブレード、右腕には隊長リニア。そして背には、あの絶対撃墜軽リニアではなく、何故かグレネードが積まれ……

 

ここで、ジャンヌの視線が止まった。

 

えっと、うん、えっと、あれ、なんで、なんだ、どぼじて?

 

「……?どうかされたのですか?」

 

「あ、いや、とりあえず動かないらしいし、降りて確認しよう」

 

そう言って、ジャンヌはランスタンを地面に降ろす。

 

…………間違いない。これは、あれだ。LRでお世話になりまくり、なおかつ辛酸舐めさせ続けられたこの武器を見間違えるわけがない。

 

だけど、なぜ?

 

 

 

なぜ隊長が、ライウン砲を装備してるんだ?




LRをやった事がない人!とりあえずこの機会に買ってやってみよう!最初は報酬金の高い管理局強行偵察をクリアしておけば後々が楽だよ!

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