世にリリウムのあらん事を   作:木曾のポン酢

46 / 55
おまたせしました。難産でした。なんとかなりました。


アクアビットは成長する その未確認AC排除

爆音

 

着弾したグレネード弾が生み出した破壊の風が、サークシティ地下の閉鎖空間を暴れまわる。空を飛び、それを回避したエヴァンジェは、相対するACに目を向ける。

 

反動による弾着のブレを最低限にすべく、腰を落とし、グレネードランチャーを構えるナインボール。そこに向けて、エヴァンジェはリニアライフルを二発放つ。

 

それに対するレイヴンの反応ははやい。彼は銃口に光を見た瞬間、射撃体勢を解除し、跳ぶ。

 

(またアレか……ロックが……ッ)

 

エヴァンジェは心の中で舌打ちをする。あのレイヴンが使う、独自の、奇妙な回避機動。

 

短時間のうちにブースターの稼働と停止を繰り返す。小刻みな跳躍は、非強化人間にとっての悩みの種であるエネルギーをある程度無視し、相対するACのCPUは、秒単位で変化する敵の速度に対して、まともに未来予測位置を割り出すことができない。高速機動と回避の両立。特攻兵器による災厄以前から、彼の代名詞とされている起動であった。

 

かつてのエヴァンジェも、この機動に相当苦戦した。

満足に攻撃を当てられず、ミサイルとリニアライフルによって嬲られ、グレネードによって砕かれ、ブレードによって刻まれた。

 

苦い、敗北の記憶。

 

だが……

 

エヴァンジェは武装を変更する。

 

CR-WBW98Lx <<<

 

クレスト製の、高出力レーザーキャノン。ライウンが装備していたこの兵器を、オラクルは搭載していた。チャージが始まる。エネルギーが収束する。

 

幾度かのシミュレーションの際に、エヴァンジェはこの装備が自分の戦闘スタイルに合致していることに気が付いた。

高機動のACを、常にサイト内に捉えておくのは、エヴァンジェにって造作でもないことだった。正確な射撃、リニア兵器による足止め、そして高出量ブレードによる一撃。それが、エヴァンジェの戦い方だ。

 

しかし、このレーザーキャノンを使用した戦法はそれとはまったく違う。

 

単純な理屈であった。射撃を当てる自信があるなら。その射撃を必殺の一撃とすればよいのである。

 

この戦法は、エヴァンジェと驚くほどかみ合っていた。長いロックタイムも、常に敵をサイト内に入れておけるのならば関係ない。莫大な消費も、強化人間であるならば無視できる程度だった。

 

チャージ完了。レドーム内の各種機器が集めた情報から、最適な弾道を計算……完了。

 

発射。

 

蒼い破壊の槍が、黒衣の鴉を貫かんと放たれた。その狙いは、微かに、通常の弾丸であるなら致命的なほどに狂っていた。

 

が、次の瞬間に発生した爆発は。この兵器にとって、その誤差など関係ないということを証明していた。

 

着弾。先ほどのグレネード弾のそれとは比べ物にならないほど凶暴な爆風の嵐と、エネルギー弾の着弾によって発生した瓦礫の雨が。弾丸となりレイヴンに襲い掛かった。

 

動きが鈍った。エヴァンジェはそれを見逃さなかった。リニアライフルを構える。

 

改造手術により、彼の反応速度は人間の限界を超えていた。通常の高速ACとは比較にならないほどの速度と、高い旋回性能を持つようになった新生オラクルのパイロットとして、当然の処置であった。

 

だから、何とか気付けた。破片と砂煙の間を縫い、飛来する弾丸に。

 

「なぁッ……!?」

 

コアに対して放たれたそれを、ブーストにより無理矢理回避する。が、一瞬間に合わない。オラクルの脚部に命中する。

 

衝撃が機体を揺する。刹那、オラクルが自分のイメージに従わない。

 

その隙を逃さんとばかりに、鴉は肉食獣の笑いめいた駆動音を発した。右肩、ミサイルランチャーの開く音と発射音が同時に奏でられる。

 

まるで破壊神の奏でるオルガンのような暴力的音をまき散らしながら、拡散し、殺到するマイクロミサイルの弾幕。まともな回避では、傷を大きくするだけなのは間違いなかった。

 

無論、いまのエヴァンジェならば回避は容易い。コアのミサイル迎撃機能に問題は発生していないし。オラクルの速度をもってすれば楽にミサイルは引き離せる。

 

だが……

 

「ドミナントを……」

 

エヴァンジェは、操縦桿を思いっきり前に倒す。ブースターから発生した推力に落下速度が足され、機体のトップスピードを超えた速さでもってオラクルは弾幕に突っ込んだ。

一撃、右腕に被弾。問題は無し。

 

「舐めるなぁッ!!!」

 

エネルギーブレードを機動。月の女神が如き刀身が伸びる。

レイヴンは……グレネードを展開した?一瞬、反応に困る。構えずに、当たりは……

 

が、次の行動で考えが読めた。レイヴンは、反動を殺さずにグレネードを放つことにより、その衝撃によって回避を狙ったのだ。

 

爆風と共に、おかしな体制でレイヴンが吹っ飛ぶ。天井の方向に飛んでいくグレネード弾。反動によって飛んで行ったナインボールは、普通のACが行う突進が相手なら問題なくかわせただろう。

 

が、オラクルの機動は鴉の予測を大きく超えていた。

 

月光の一閃は、空気と共にナインボールの右腕を切り裂いた。リニアライフルが、腕と共に力なく空を舞う。

 

これで、レイヴンは高速射撃戦が封じられた。

 

エヴァンジェはブレードを収納せず、そのままナインボールの方向を向く。

 

起き上がったレイヴンも、ブレード……CR-WL69LBを稼働させていた。リニアライフルを失った今。オラクルに決定打を与える方法は、それしか無い。当然だ。

 

ならば、得意な白兵戦を押しつける。エヴァンジェは、再び速度を上げた。突進による。一撃、これにより全ての決着をつけようとしていた。

 

ムーンライトを構える。出力で無理矢理切り裂ける。エヴァンジェには確信があった。勝利の女神が、すぐ目の前にあらわれていた。

 

その時、彼には慢心があった。傲慢でもあった。心の中で、一瞬緊張がゆるんでしまった。

 

だから、彼は気付けなかった。ナインボールが担いでいたグレネードが、ゆっくりと展開していたことに。

 

ナインボールは突進した。殺し場を飛び越え、長刀の死角へと、自らの飛び込んだ。相対速度にして優に音速を超える二つの鉄塊同士の衝突。轟音。軋み、砕き、弾ける音。

 

『コア損傷』

『脚部損傷』

『頭部損傷』

 

エヴァンジェは衝撃に耐えた。オラクルも、ある程度の被害をだけで耐えた。

 

だから、彼は気付いた。ナインボールのグレネードが、オラクルのコアに突き刺っていることに。

 

「まさか……貴様ッ!!」

 

それは、クレスト製品の頑丈さを表しているかのように。砲身も砲口もまっすぐに伸びていた。

 

グレネードの0距離射撃。衝撃がオラクルの全身に破壊をもたらす。矧がれたコアパーツが跳ね、ナインボールの頭部パーツを損傷させ、吹き飛び地面に叩きつけられそのまま破損した。オラクルは、火花こそ吹いてるものの、全身無事だった。しかし、それは何の慰めにもならない。エヴァンジェは、レイヴンとしての質が、決定的に違うことを確信してしまったのだ。

 

「…………」

 

何が起こったか、すぐには判断できなかった。ただ、負けたことだけしかわからなかった。

 

「そんな、ドミナントである私が……」

 

信じられなかった。何故、自分が、ドミナントである自分が、負けたのか……

 

あぁ、そうか。違うのだ。ドミナントなのに負けたのではないのだ、自分に才能など無かったのか。

 

真の天才は、ドミナントは……

 

唐突に、エヴァンジェは笑いたくなってきた。そう考えると、自分の滑稽さに笑えてきたのだ。こんなに機体の性能が違うのに勝利できない自分が、何故ドミナントであると錯覚できてたのだろうか?

 

レイヴンが起き上がる。未だに戦い続けようとしていた彼は、しかしエヴァンジェの様子が変わったことに違和感を覚えたのか動きを止める。

 

エヴァンジェは、ふらつく機体を支えるためにオラクルを壁にもたれかけさせた。

 

彼なら、間違いなく成すだろう。そんな確信と共に、エヴァンジェは口を開いた。レイヴンに、自らの目的を話すために。彼に、世界を救ってもらう為に。

 

 

 

 

 

「AI職人の朝は早い。

 

「まぁ好きではじめた仕事ですから」

 

はにかみながら、少女は答える。最近はアセンがマンネリ化してきているから、新しいものを色々と試したいですよ。

 

彼女のアセンブルは、パーツの入念なチェックから始まる。

 

大変なことは?と尋ねる。

 

「やはり、アクアビットの装備をいじるときは大変ですね。癖が極めて強いですが、ハマると強い。オリジナルリンクスにコジマキャノンをぶち当てられる機体とAIを作れたときなんかは、それはもう嬉しかったですよ。」

 

なる程、と頷く。

 

「リンクスの皆さんの練習になるよう、AIには皆個性……癖を付けています。すると、どんどん可愛くなってきて、自分の子どものようにも思えますね」

 

 

そう言いながら、彼女は無心にコンソールをいじる。 

 

「毎日毎日温度と湿度が違う 機械には任せ……」」

 

「いったい何をやってるんだ?ぶつぶつと」

 

唐突に声をかけられ、驚いたように私は顔を上げた、何をって、日課のプロジェクトXごっこである。

 

 

「AIの調整よ、不審者さん」

 

 

神に願った自分がゲームで出来るとこは頭っから出来るというチートは、FFやVDで鍛えたAIの調整にも影響を及ぼしていた。この技能を駆使してさいきょーのAIを組むのは、自分に支払われる高給の一部を構成していた。

 

エヴァンジェのまわりには、2人の男が立っていた。リンクス担当の研究者とネクスト担当の技師。

 

あぁ、成る程。

 

「エヴァンジェだ、これからは君の同僚となる。覚えておいてくれ」

 

もう覚えている。しかし、よくもまぁよくわからん奴を戦力として雇おうとおもうもんだ。流石アクアビット  

 

「そんなに適性が高かったの?」

 

隣に立つ研究者に尋ねる。

 

「えぇ、既存のリンクスの中でも上位に入る適性でした。いまから、ここのシミュレーターで彼に最適な機体のアセンブルを行います」

 

アセンブル?アクアビットマン一択では?  

 

「なに?他社のパーツを使って機体を組むの?」

 

「いえ、違います」

 

技師が首を振る。確か、GAEから流れて来た男だ。

 

「アクアビット社の時期主力ネクスト……その中量機を彼に合わせて作ろうと考えています。彼のAMS適性とACの操作技能は、既存の軽量機や計画中の重量機には合致していません。いま、新たにプロジェクトを立ち上げています。おそらく、これまでのアクアビット社のネクストACのイメージとは、大きく離れた機体となるでしょう!」

 

おーおー興奮してらっしゃる。

 

私は笑った。うん、良いね。とんでもない世界になりそうだ。

 

私はエヴァンジェに対して手を伸ばした。

 

「まぁ、そういうことならよろしくエヴァンジェ。私の方が先輩だけど、別に敬語はいらないわよ」

 

エヴァンジェは、その手を握った。

 

「よろしく、ジャンヌ・オルレアン。私がどれだけやれるかわからないが。まぁ、生きてるということは私にも成すべき事が有るのだろう。全力でやらせてもらうよ」

 

こうして、アクアビット社に新たな山猫が生まれた。

彼が、どのような影響を世界に与えるか。それが判るのは、もう少し先のことである。




つぎはなるべく早く書きたいなぁ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。