世にリリウムのあらん事を   作:木曾のポン酢

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リハビリの為にばりばり書くぞー。というアレです。フレームアームズ買ったりしてロボ熱も戻ってきました。輝鎚乙狙撃型、早く四脚にしたい。


二人目

「搬入は以上です。数は大丈夫ですか?」

 

「ちょっと待って下さい。いま確認を……」

 

書類と輸送機に運び込まれたコンテナを交互に睨みつつ、フィオナは言った。 

 

北アメリカに存在するGAの大型基地。照りつける太陽が肌を焼き、不快な汗をじっとりとかく。つばの広い帽子を被ってはいるが、余り効果があるようには感じない。

 

「ガトリング用の弾薬良し……ミサイル良し……予備パーツも……」

 

チェックリストにマークをつけながら、コンテナの確認を行う。レイヴンズネストの大口スポンサーの一つであるGA社からは、多くの武装を購入していた。アナトリア時代は、レイヴンの主兵装がブレードだったため、GA製品を使用するとしてもミサイル兵器程度だったが。ベルリオーズと共に行動するようになると、ガトリングガンやハンドガン、バズーカにグレネードも必要となった。

 

作業服の裾で、顔に付いた汗を拭く。えっと、これはBFF規格の……

 

「あぁ、そう言えば……」

 

GA側の担当の人間が口を開く。アナトリア時代からの馴染みの男で、GAからの仕事は基本的に彼を通して伝えられる。

 

「BFFの工場、いくつか再開させたらしいですよ」

 

「本当ですか!」

 

フィオナが顔を上げた。リンクス戦争の終戦以来、敗北した企業の装備・弾薬は入手し難くなっていた(弾薬の製造工場など全てがストップした為)。BFFもその例外ではなく。かつての同盟企業出あったアクアビットや、現在の親会社であるGAが放出する数限りある在庫を、定価よりも高値で購入しているのが現状であった。

 

「たしか、弾薬の製造はもう始めてたはずだからそろそろ価格も落ち着くと思うよ。」

 

「良かった……」

 

独立し、二人のリンクスと共に行動し始めて以来、常にフィオナは弾薬費について頭を悩ませていた。

 

レイヴンズネストでは、基本的にレイヴンよりもベルリオーズの方が人気があった。当然である。接近戦一本、高速で突っ込んで叩っ切るという戦法のみに特化したレイヴンのブラックグリントよりも、あらゆる戦い方を極めて高い水準で行うことができるベルリオーズのホワイトグリントの方が、クライアントにとって使いやすいのだ。

 

すると、自然と弾薬費がかさむようになってきた。反企業組織は、質は兎も角、量が多くしぶとい。確実な殲滅と自機の安全の確保の為には大量の弾薬は必要だとはわかってはいるが、それでもキツいものはキツい。

それに、リンクス戦争が終わった為に、全体的に報酬金が少なくなってきているのも痛い。どの企業も(その勝敗関係なく)、復興の為に多額の資本が必要となっており。自然と軍事費の削減を行っている。流石に赤が出るような任務は無いが、新たな装備の購入などは厳しい。

 

……また、頭が痛くなってきた。とりあえず、今はいくつかの弾薬を安く仕入れられるようになることを喜ぶとしよう。レイヴンズネストでは、精度の高いBFF製の火器の使用頻度は高い。

少しばかり、気分が晴れへと近づいたフィオナは、そのまま最後までコンテナのチェックを終えた。

 

と、一つ。リストに入ってないコンテナが存在していた。

 

「これは?」  

 

「あぁ、ほら、いまお宅のベルリオーズさんが話してる奴ですよ。」

 

「ベルリオーズが……あぁ」

 

それで思い出す。ベルリオーズはいま、MSAC社の社員と仕事の話をしている。なんでも、新型ミサイルのテストを行って欲しいらしい。何でも、高速戦闘の際の使用感などを確認したいのだとか。まぁ、GAのネクストには向かない仕事だろう。

 

「契約が成立したのなら、これの積載もお願いします。とりあえず、契約期間中は弾薬は無料で提供することになると思います。」

 

「普通に買うとしたら弾薬費はどれくらいかかるんですか?」

 

「んー、詳しくは知りませんが。分裂系の……あぁ、シャイアンタイプですね。……だった筈なので……まぁ一発あたりは結構な値段になると思いますよ」

 

「そうですか……」

 

まぁ、契約期間中はタダな上に、データを送れば報酬も貰える。ありがたく使わせてもらい、ベルリオーズが気に入らなければGAに返せば良い。

 

「なら、これで大丈夫ですね。代金はいつものように……」

 

微かに電子音が聞こえる。たしか、昔のコミックの主題歌だ。男の携帯の着信音らしい。

 

「っと、失礼、電話が入りました。」

 

「あぁ、どうぞ」

 

フィオナが電話に出るように促すと、男は頭を下げ端末を懐から出した。

 

「俺だ。あ?うん、そうだ、いるよ。…………えっと、ベルリオーズはMSAC棟の方だ。もう一人は……」

 

男がこちらに視線を向ける、もう一人……あの人のことだろう。

 

「彼なら、今は寝室で休んでいるはずです。」

 

「輸送機にいるらしい。うん、ブラックグリントの方も大丈夫な筈……」

 

頷きながら、フィオナは考えた。仕事か。それも、速度が重要な。

 

「大丈夫らしい。……あぁ、うん、とりあえず概要と報酬を……武装組織の基地を襲撃、確認されている戦力は……ノーマルが主力ね、うん、うん、それに戦車と……」

 

その呟きを聞きながら、フィオナは自分の端末を操作する。一番上に登録されている番号にかけると、三コールで相手が出た。  

 

『……仕事か?』

 

仕事の時以外は起こさないでくれと念押しされていたため、レイヴンはすぐに察した。

 

「はい、すぐにブラックグリントに乗り込んで下さい。即応状態にしてあるので……」

 

「フィオナさん、ネクストはいないらしい!30万で……」

 

「大丈夫です。詳細な内容は機内で?」

 

「えぇ、参謀部曰く時間が重要らしいので。ベルリオーズさんにはこちらから伝えときますので、もう出て下さい!」

 

輸送機のエンジンに火が入った。おそらく、レイヴンが伝えてくれたのだろう。

 

フィオナは、貨物室内に存在する内線の受話器を取った。機長室につなげる。

 

「了解しました!すいません、カーゴ閉めて下さい!速やかに出発します!」

 

『了解。とりあえず、作戦行動に必要なだけの人間はいます』

 

「わかりました!では……」

 

「えぇ、ご武運を!」

 

機内から下りた男が、不格好な敬礼を行う。フィオナも小さくそれに返すと、ゆっくりと機体が浮き上がり、カーゴが閉まった。

 

 

 

 

「GAのお膝元で反企業活動とは、気合いの入った連中だな」

 

朝食代わりに食料庫から持ち出したブロックタイプの栄養食とペットボトルに入ったミネラルウォーターを飲みながら、送られてきたブリーフィング内容を読み込む。

 

数十分前、哨戒中の無人機が森林地帯で活動する武装組織の姿をとらえた。十分ほど偵察したところで哨戒機は撃墜されたが。送られてきたデータからは、武装組織はノーマルや戦車、ヘリコプターなどを装備し、さらに大型トレーラーも複数持っているらしい。

 

「えらく、機動力のある武装組織だな。」

 

『GA参謀部曰く、旧アメリカ軍やカナダ軍の残党で組織された集団らしいですね。自由アメリカ連合を名乗り、ゲリラ的にGA社の関係施設に襲撃をかけているようです』

 

「成る程ね、逃げられる前に叩きたかったと。」

 

フィオナから言われた話に返しながら、ブリーフィング内容を読む。なかなかに規模の大きな集団らしい。まぁ、かつての世界最強の軍隊の残党となると、この規模も納得ではある。

 

『今回は、同組織の殲滅が目標設定です。徹底的に叩いてくれとのこと』

 

『アメリカ製のノーマルACかぁ。米軍って、自分の兵器こそが世界のベーシックだって顔してたけど、何だかんだ結構おかしなものを造ってたよね』

 

唐突にフィオナの声を遮ってアブ・マーシュの声が響いた。あいつ、基地で降りてなかったのか。

 

『とれもこれも、今の時代じゃあ骨董品みたいなものだけど、脅威であることには間違い無いからねぇ。んー、でも破壊は勿体ないねぇ』

 

「なんだ?もしかして、博士はアンティークを集める趣味でも持ってるのか?」

 

『まぁさかぁ。兵器は使ってこそだよ。並べて集める趣味なんてないない』

 

そう言って朗らかに笑う。

 

『まぁ、ネクストにとっては歯牙にも掛けずに倒せる相手だね。んー、退屈な戦いになりそうだなぁ』

 

「あのなぁ、仕事なんてのは何の危機も無くて稼げるようなので充分なんだよ。常に命を張ってちゃ心と身体がもたん」

 

『あ、そうだね、それはそれで困るね。んー、AMS適性を無理矢理引き上げる方法とか無いのかなぁ』

 

それを出来れば苦労は無いが、どうしてだろうか、非人道的な手法しか思いつかない。苦労をしすぎたせいだろうか。

 

『あの、すいません。そろそろ作戦区域に……』

 

『っと失礼。じゃ、コーヒーでも入れてこようかな』

 

アブ・マーシュの声が遠ざかってゆく。なんというか、自由な人間だ。

 

「博士、俺の分も入れといてくれ。さて……そろそろかな?」

 

『三分後に投下します。現在観測中ですが、敵集団は南東に向かい逃走中です。すぐに追って下さい』

 

「了解。ま、気楽に……」

 

と、ブラックグリントのアイカメラから、外を眺めていたレイヴンが何かに気付いた。

 

「フィオナ、目標地点に煙が上がっている。何が起こっている?」

 

『こちらでも確認しました。現在解析を…………AC?ACが武装組織を襲撃している……?』

 

「ACだぁ?ネクストか?」

 

『いえ、コジマ反応はありません。恐らくはノーマルですが、見たことのないタイプです。』

 

「映像をこっちに回してくれ」

 

レイヴンがそう言うと、すぐにフィオナから映像が送られてきた。サーモで見ているために機体本来の色はわからないが、シルエットはわかる。

 

スマートな機体だった。武装組織の兵器など相手では無いとばかりに森林を疾駆しながら、ひとつひとつ敵を狩っている。

 

『ハイエンドノーマルかなぁ?』

 

アブ・マーシュの声が聞こえた。戻ってきたらしい。

 

「コーヒーを入れに行ったんじゃないのか?」

 

『いや、何か面白いことが起こってる気がしてね。ほっぽってきちゃった』

 

どういう勘をしてるのだろうか。時々鋭くなる変人に対し頭痛を感じながら、尋ねてみる

 

「とりあえず、俺は見たことないタイプだ。……うん、思い出せない」

 

『んー。僕も色々と調べてたけど。このフォルムは見覚えが無いなぁ。レイヴンって、現役時代何に乗ってたの?』

 

「ドイツ・アメリカ・ロシア……この辺りのパーツを組み合わせていた。カタログも一通り見てたが……うん、ダメだ、記憶には無い」

 

国家解体戦争以前の記憶を思い出しながら呟く。レイヴン時代は、各国に顔が売れていた事も有り基本的にどんなパーツでも手に入る環境にいた。

 

「新規開発か?」

 

『このご時世にかい?確かに、弱いものいじめには最適だろうが……コストがバカにならないよ。そんなものを戦力化できる組織なら、もうちょっと賢い使い方できると思うけど……』

 

驚いた。ブレードしか装備出来ないACを設計する人間が、兵器開発のコストパフォーマンスについて語るとは思ってもみなかったからだ。

 

『レイヴン、GAに現状のメールを送りました。現状、我々はこのアンノウンと敵対する要素はありません。よってこのまま敵集団を襲撃してください。アンノウンACに対しては鹵獲で追加報酬を出すそうです。……2万ほどですね』

 

「鹵獲……ね。ま、確かに。このご時世に、ハイエンドノーマルに乗る奴の顔は気になる。おそらく、どこかのコロニー所属の兵隊だろうが……」

 

『エチナ・コロニーの戦訓では、状況によってはノーマルはネクストを打倒しうるとされています。どうか、油断はしないでください』

 

(同業者)に対して油断してたら、それこそ命がいくつあっても足りんよ。」

 

『ファフニールよりレイヴン。10秒後に作戦区域に侵入する。カウントダウン。7.6.5.4.3.2.1.投下、投下、投下。幸運を!』

 

カーゴが開く。お伽話に出てくる魔王などとは比べものにならないほどの凶悪さを備えた兵器が姿を表し、獲物へと向かって飛翔する。

 

『ブラックグリントの投下を確認。……無事に帰って来て下さい』

 

「了解。さて……と!」

 

OBを稼働。周辺の空気を一気に取り込み、エンジンから大量の炎とコジマ粒子が噴出される。レイレナード製のブースターから与えられる推力を全身に感じながら、男は戦闘態勢へと移った。

 

 

 

 

 

『高エネルギー反応を確認。識別不能、該当データなし』

 

「!?」

 

そのCPUボイスを聞いた瞬間、彼女の体内に生々しい死の感覚が蘇った。

 

ほんの数十分前に味わった絶対的なソレ。自らの誇りなど理解しない相手から与えられた永遠分の痛み。

 

距離をとろうとする攻撃ヘリに対し銃撃を放った彼女は、レーダーが新たに捉えた対象へと視線を向けた。

 

そこには、神話的な光景が広がっていた。蒼天の下、緑色に輝く光を纏い、二対の羽を広げた死天使。破壊と暴力の権化。私には辿り着く事の出来ない……

 

その瞬間、彼女は気付いた。私は、最早レイヴンとして生きていけないのだと。

 

ジナイーダは力無く笑った。彼女の身体は、目の前に迫る恐怖の前に、生娘のように震えていた。




ジナイーダの設定漁ってたらジノーヴィーの妹説を見て成る程ねと首肯している。

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