「フグタくぅ~ん。たいへんなんだよぉ~。」クチビルがやけに部厚くそれ以外は、さほど特徴がない背広を着た男性が、叫びながら社内を走ってきた。
「いったい、どうしたんだい、アナゴ君?」
フグタと呼ばれた彼の同僚らしき人物が慌てて走ってきた、アナゴに驚きながらも、いつものことだろうと気軽に話にのった。
「実は、今部長に呼ばれて行ってきたところなんだけど、1ヶ月の出張を命じられちゃって…。」
「そうなのか、でもたった1ヶ月だろ、なんとかなるって。」
「いやぁ、問題は期間ではなくて、行き先なんだよぉ。」
「行き先?」
フグタとアナゴは海山商事という会社に勤めており、会社事態は安定している。そして、子会社や提携先に不安があるところもないというイメージからアナゴの思い過ごしだろうと、簡単にフグタは考えていた。
「なぁんとぉ、命に危険がある、海賊が蔓延る場所にいかなくてはならないんだぁ。」
「か、海賊!!」
普通の生活をしている日本人には、馴染みが全くといっていいほどない単語。しかしながら、その単語を聞いただけで嫌な予感がしてくる。
「アナゴ君まさかソマリアおきにでもいくのかい?」
「いぃや、部長が言うには、6時30分枠から9時30分枠に出張ってことらしいんだよぉ。」
「???」
「僕も言っている意味はさっぱり分からないんだけどぉ、どうも海山商事より上のところからのお達しでぇ、僕に白羽の矢がたったらしいんだよぉ。」
「それはお気の毒にアナゴ君。」
「やってられるかぁ、ってことでぇ、今日のやけ酒には付き合ってくれよぉ、フグタくぅ~ん。」
「ああ分かったよ。」
人のいいフグタはアナゴを憐れに思い、誘いを快諾する。
―――
「じゃあ、行くぞぉ、フグタくぅ~ん。」
フグタとアナゴは行き付けの店に行って飲むは、飲むはで意識を失うほど呑んで寝込んでしまうほどであった。
「お客さん。もう閉店の時間なんですが。」
店のオヤジに起こされ目を冷ますフグタ。しかし隣にはアナゴの姿はなかった。
「アナゴ君は先に帰っちゃったのか。連れないなあ。」
とフグタは会計を済ますと一人で帰途についた。
――――
「ああ、よく飲んだなぁ。あれフグタくぅ~ん?あれここはどぉこぉだぁ?」目を覚ましたアナゴは愕然とした、昨日の夜フグタと飲んでいたはずなのに、フグタはいない、その上なにやら舟の上にいるようだ。
「どぉいうこぉとぉだぁ?」
パニックに陥るアナゴ、回りを見回すとなにやら見覚えのない奇妙な果実とメモ帳がある。
〈アナゴ君、君が目を覚ました時には、もう君は海賊の世界にいるはずだ、しかしいままで平和な暮らしを日本でしてきた君には、この世界は過酷すぎる。ということで私から君に素晴らしいプレゼントをあげよう。このメモ帳の上にある果物、それを食べれば素晴らしい能力を得られ、この世界でも生きていけるだろう。では1ヶ月頑張ってくれたまえ。〉
「………。」
なにがなんだか分からない状態に置かれているが、どうしようもない。ということで怪しいが物は試しにその果物を食べてみることにした。メモ帳を見ると何やら名前が書いてある。
〈セルセルの実〉
聞いたことがない名前だが、なにかセルという響きに親近感がわくアナゴであった。
そして一口かじる。
「ぶるああ~。なんだこぉのぉ味はぁ。」
言い尽くせないほどの不味い味が口の中に広がる。我慢して飲み込むと体に異変が起こる。
「な、なんなんだぁ。このあふれかえる力はぁ。フハハハハ、素晴らしいぞ。」
体のそこから溢れだす力にうち震えるアナゴは、自分の体を見てよりショックを受けることになる。
顔は整った顔にトレードマークの唇。目元から縦に黒いメイクがなされ、体は胸の辺りが黒く光沢を持っており、他は全体的に薄緑で所々濃い緑の斑点が浮かんでいる、そして背にはかぶと虫のような羽が生えていた。歩くとシュタッ、シュタッととてもいい足音がする。アナゴは悪魔の実〈セルセルの実〉によって、海賊世界を1ヶ月間生き抜く為の力を手にいれだのだった。