「この世界に来て初めて、いやこれからも体験することはないのではないかとも思われる恐怖を、いや狂気の体現をまさか僕が体験いや、自分の視覚にとらえることになろうとは…。元の世界にいるときはもちろんのこと、こちらに来て何度となく危ないことにあった今になっても、あれほどのことは想像することも、創作することさえももできないはずだ。ただし、ヤムチャ曰くセルという能力の素晴らしい有用性を改めて認識することになったことだけはよかったのかも知れないが。
本当であればこのようなトラウマになり、引きこもりになってもしょうがないほどの恐怖体験は、思い出すだけでも背筋に冷たいものがはしることなんだが、ここに来てから毎日必ずつけようと決心した日記であるからこそ、このことを記し残そうと思う。
あれはこの世界に来て20日目のことである。
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「モリア様、僕とぉ、ヤムチャがこんなにぃ朝早くぅ呼ばれるとはぁなにかあったんですかあ?」
アナゴとヤムチャは朝早くにモリアに呼び出され、モリアの私室に眠たさを堪えながら訪れていた。まさかこれから一生の内で初めて体験することになる恐怖の依頼を言い渡されるとも知らずに。
「よく来た、アナゴにヤムチャよ。お前らを呼んだのは、お前たちにしかできないことをしてもらおうと思ったからだ。」
「俺達にしかできないか、いいじゃねえかやってやるぜ。」
ヤムチャはなにか喜んでいるが、アナゴには悪い予感がしていた。虫の知らせともいうのだろうか、野生の勘といえばいいのであろうかは分からないが。
「今回してもらいたいことは、新しいゾンビ兵を作るための、素体の回収だ、キーッシッシッシッシ。」
「素体?」
「ああ、ホグバックがいうマリオのことだ。」
アナゴは日本人の宗教感によるものか、人間の本来から持つ倫理観からくるものかは分からないが、ゾンビ兵は、死体の冒涜になると思っており、あまりよくは思っていなかった。ただし、自分の恩人であり、だんだんスリラーバークの仲間に親近感や親愛の情を抱き出していたので、嫌悪感を顔に出すことなく、依頼を聞いくことにした。
「前から目をつけていた海賊なんだが、今回海軍に粛正されるらしい。そこでアナゴお前が覚えたという瞬間移動で、その海賊の死体でもいいし、生きたままでもいいから捕まえてこいということだ。」
「なんだ俺達には簡単なことじゃないか。」
ヤムチャがきざな笑いを浮かべて感想を述べれば、アナゴも同様の感想を持っていた。次のモリアの注意点を聞くまでは。
「ああ、ここまでのことならそう思うのも当然だが、ここからが問題なんだ。海軍が粛正するために送り込むのは海軍大将の赤犬と呼ばれる男で、コイツの強さと能力がとんでもないやつなんだ。」
「俺より強いやつがいるとは思えんが。」
ヤムチャは強がるが、ヤムチャの強さをモリアも知っていながら言っていることなので、アナゴも神妙な面持ちで聞く。
「強さで言えば、この世界でも5本の指に入るんじゃねえかと思う。で能力なんだが、悪魔の実〈マグマグの実〉を食ったマグマ人間だ。
コイツと戦った奴は死体も残ることはない。死んだあとは炭になるか、消し炭になるかだからな。ということでお前たちは赤犬が目的の海賊を消し飛ばす前に、四肢が万全の体を持ち帰ってもらいたいんだ。ただ俺は王下七武海だから、俺の部下と知られずにしろということだ。キーッシッシッシッシ。」
「ほう。久しぶりに腕がなるぜ。今まで退屈していたんだ。」
ヤムチャは腕を回しながら自信満々でいるが、海軍大佐であるスモーカーでさえあれほどの強さであったことを考えると、まったく楽観できることでないことは、火を見るより明らかなことであった。
「安心しろ、俺に叶うやつなんかいないんだからな。」
ヤムチャの気遣いを嬉しく思う反面、なぜか安心することができないアナゴであった。
「では頼むぞお前達、吉報を待っているぞキーッシッシッシッシ。」
「ああ希望に答えてやるぜ。」
「できるだけぇ、頑張りますぅ。」
自信満々のヤムチャと自信なさげなアナゴという両極端のコンビがここに結成された。
「じゃあ一時間後に広間に集合な。」
「ああ。」
口数少なく準備に戻るアナゴであった。
しかしながら、アナゴ自身も何故ここまで気落ちしているのかは、理解できていなかった。
戦場につくことで改めて気づくことになるのであった。
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「ええっとぉ、この麻袋に死体もしくは生きた海賊を入れればいいのかぁ、でこの手配書がその海賊の写真かぁ。一億五千万ベリーかぁ。高いのだけはわかるなぁ。」
「唇~。」
アナゴが手配書を見ていると後ろからペローナに呼ばれる声が聞こえた。聞こえた声にはなにか悲壮感が感じられる声であった。
「唇、お前海軍の赤犬とやりあうんだってな。大丈夫なのか?」
「瞬間移動でいって戦うことなくすぐに帰って来るんでぇ大丈夫ですよ。」
普段のペローナとはまったく違った悲壮感漂う表情で聞いてくるペローナに、心配をかけないように、弱々しいながらも今できる最高の笑顔で答える。
「絶対無事に帰ってこいよ。死んだら許さないからな。」
「…わかりましたぁ。」
アナゴは一言だけ返し、ヤムチャとの待ち合わせの広間に向かった。
――――
広間について10分経ってやっとヤムチャがやって来た。
「悪いな。アブサロムに引き留められてな。かなり心配した様子だったからなだめていたら、遅れちまった。」
「ペローナ様もぉ、同じような感じだったんでえよく分かるよぉ。」
二人できょうかんしあう。
「まあ、俺は修羅場は何回も潜り抜けている、強敵も、女関係もな、安心して俺に任せろ。じゃあセルになれアナゴ。」
「わかったぁ。ハアッ。」
アナゴはセルになると気を探り出す。三日前とは段違いの感知能力になっていた。
「でヤムチャ、赤犬の気はとんな気なんだぁ。」
至極真っ当な疑問である。
「まあ、大きい気を感知して、そこから少し離れた気のところに飛べばいいぜ。」
「そうか、いきなり戦闘だけはぁ、勘弁して欲しいからなぁ。…………!!!あったが、なんだこの気はぁっ、化け物じゃないかぁ。」
青ざめるアナゴにヤムチャも心配し、探ってみる。
「……!!!アナゴお前の感知した気はあっちの方向のじゃないか?」
「…ああ、そうだがぁ。」
「あれは違う安心しろ、多分赤犬という奴の気は反対方向だ。多くの気と大きい気が感じられる…。」
ヤムチャの真剣な顔を久々に見て少し驚いたが、再び集中しヤムチャが言った方向を探る。
「……!!あった、こちらもかなり強い。私達より上なのは確かだ。すぐにいってぇ帰って来ればぁ大丈夫かぁ。じゃあヤムチャ私につかまれえ。ヤムチャ?」
「ああ、悪い」
大きな気を感じてから心ここにあらずのヤムチャを連れ瞬間移動を行い、戦場に赴く二人であった。