「では皆――至高の我らが主に忠誠の義を」
汚れが一つも無い大理石でできた玉座の間にて、豪汚華絢爛な椅子に座る漆黒の毛並みをもつ狼――暗黒魔導騎士オクタ。
狼は上半身に鈍重に輝く黒紫色の鎧を纏い、手には黒い靄を漂わせる柄は五つの宝石を埋め込まれた魔剣を持っていた。
玉座の間にはオクタだけでなく。オクタを絶対守護するための五人の魔導守護騎士たちが忠誠の義を示すためにここにいた。
「全ての攻撃・災害を防ぐ盾を司る騎士・エイナ・ガードル、御身の前に!」
「……同じく、騎士・マイナ・ガードル、御身の前に」
まず動き出したのは猫耳を生やした双子の姉妹。
銀髪の幼い表情が見え隠れしている少女たち。一人は冷静さを、もう一人は明るさといった表情を持っており、対比の性格差が明確に出ていた。
「全ての敵を叩き切り、なぎ倒す剣を司る騎士・ガイア。御身の前に」
身体・尾全体に鋭いスパイクを持った黒い鱗を輝かせ、2メートルほどの巨大な二足歩行の東洋龍を思わせる龍人。
厳しさが全面的に出ており、近寄りがたい雰囲気がガイアから溢れているものの、オクタは知っている――彼の設定上は武人で、面倒見がいいキャラだということを。
「敵を堕落し屈服させる歌を司る騎士・アリーナ。御身の前に」
背中から猛禽類の美しく白い翼を生やした、人間と同じ形態を持つ女性――半人半鳥であるセイレーン。
彼女は美しくもどこか妖艶に微笑みながら、熱っぽい視線をオクタに向ける……しかしそれにはオクタは敢えて気づかないふりをしながら、次の守護者に目を向ける。
「守護騎士統括・セレナ――御身の前に」
サイドテールに黒より深い漆黒の髪を纏め、尖るか短いかわからない程の耳の長さを持つハーフエルフの少女、セレナ。彼女は暗黒魔導騎士オクタに習い鎧を纏っており、腰には数本の剣を差していた。
『我ら、魔導守護騎士。至高の主であるオクタ様に我らの忠義のすべてを御身に捧げます』
「くくっ。ふひ、ふははあはっははははは! 素晴らしいぞ、お前たち! お前たちならば俺を、どんな時にでも守ってくれるだろう!」
(やっべぇ、やっべぇよ、これ。 下手な失敗は出来ないぞっ! 忠誠心高すぎだろ、いやマジで!)
心の中ではテンパってはいるものの、心身共に満足感を得ていた。
八幡が、己が作った想いの結晶が今ここに現れていることに。
そして自分を愛してくれていると――裏切らない、本物をくれると。
* * * * *
「暗黒剣」
オクトの剣から暗黒の波動が放たれる魔剣技――ユグドラシル内では最弱の暗黒魔剣技――を喰らい、山賊の一人がミイラ化となって死んだ。
「ダークパッセンジャー」
対象に暗闇を付与する魔法で、山賊たちは視界が見えなくなり混乱に陥いった。
そしてそのままお互いの姿を確認できないまま、自らの武器で同士討ちとなった。
「闇召喚(ダークサモン)――ダークバーキャリアスナイト」
どんな攻撃でも必ずHP1を残し召喚主を身代わる役目を持つ骸骨暗黒騎士を召喚し、山賊たちを殲滅させていく。
攻撃、魔法、召喚等、現実には決して起こせないユグドラシルの技が、今自分は使いこなせている。
興奮を覚え今にでも笑いそうなのに、そんな感情の起伏が起きかけると、何かによってその感情は強制的に収まっていく……。
(感情の起伏が激しくなると何かに抑圧されて平淡になるか……まあ食事や性欲はあるのは助かったな、人間――といってももう狼だが、楽しみはあっていいし)
正直感情の起伏はどうでもよかった。
既にそう考えてしまう時点で、もう比企谷八幡という意識が薄れかけている証拠かもしれない。
己を否定され続けて、今まで何度悲しみに暮れたし失望したか……寧ろ感情の起伏を制御してくれて有り難いとすら思っている。
そして、人間としての感覚を失っていると自覚しているのは――自分が使役した技によって広がっていく死屍累々を見ても何も感じないことだ。
――この辺りを荒らしていた山賊たちが村を襲っていたため、村を救うついでに自分の戦闘能力を確認したかった。
だが自分の持っている最弱のスキルを用いてもこのざまだ……練習相手にすらならない。
「もういい――さっさと消えろ 『カオスブレイク』」
天空は一気に黒き闇に支配されし、破滅の雷が降り注いだ――。
「あ、あの! 貴方様のお名前をお聞かせください! 村を救ってくれたお礼に、石像をたてたいと思いたくって! あの、お願いします!」
「私の名前、か――」
もうここでは比企谷八幡という名前は使えない、それに今の自分はNPCキャラクターたちにとって至高の主としての存在だ。
ならば――。
「よく聞け、人間――」
「我が名はオクタ、暗黒魔導騎士なり!」