革表紙を撫でる骨の指が、カタリと微かな音を立てる。
寝室は静かで、アインズが立てる音しかしない。
開いた眼窩の奥で、赤い灯火がゆっくりと明滅していた。
アインズの手の中にあるのは、ユグドラシルのシステムを使い、以前作り上げた一冊のアルバムだ。
ユグドラシル時代でのアインズ・ウール・ゴウンの思い出をアルバムの中に収めてきた。
懐かしきギルドメンバーたちの姿を見ながら、次のページを捲ると。
「あ……」
そこには自分と漆黒の狼が握手をしている姿があった。
骨と狼が握手するなんて滑稽な姿だと思われるが、アインズにとってはこれは懐かしい一枚である。
アインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいなくなり、一人となった自分がソロで活動していたとき、偶然フィールドで一緒になってパーティーを組んで戦ったのだ。
そこから意気投合しメールを交換して、時折組んでフィールドやボス戦を攻略したり、お互いのアイテムを交換し合い、異世界に転移する一週間前にはギルド戦も行った――その際は引き分けに終わったが。
(楽しかったな……)
あの時は楽しかった――無論今もギルドメンバーが遺してくれた子供たちという宝物がいるので楽しいと云えば楽しい――今となっては過去の遺物かもしれないが、アインズの記憶の中で宝の山のように煌びやかに輝いている。
(そういえば、彼も最終日には絶対にいますってメールで書いてあったなぁ)
(その時はギルドメンバーがいたし、何より時間がなかったんだよな……)
(時間があったら……都合が合えば会えたかな)
憂いを見せる――骸骨なので表情が不明だが――雰囲気を出すアインズに、部屋に隅にただずんでいたメイドの一人が心配げな表情を浮かべる。
そんなメイドに対してアインズは気づくことなく、アルバムから目を離し天井に目を向けた。
(君は……この世界に来ているかな、オクタ君)
* * * * *
「皆、今日からここで飼うことにしたペットのマクラだ」
「にゃう! ご主人様のペット兼護衛獣のマクラにゃ! よろしくお願いしますにゃ!」
「えー!? オクタ様、なんでこんな猫に護衛獣なんかするんですかー!?」
「…………ずるいっ」
「むぅ……なんと図々しい――ッ!」
「羨ましいですわぁ……。 そこの子猫、縊り殺ししてもいいかしら、セレナ?」
「ええ、ただし掃除は自分でやってくださいね」
『あれ……?』
アインズが憂いを馳せている狼、オクタは新しいペット兼護衛獣にしようと考えたスコッテイッシュフォールド――名をマクラをNPCたちに紹介したところ、顰蹙を喰らっていた。
オクタはてっきり歓迎されるかと、マクラはまさかのNPCたちの不満を受けて、茫然としていた。
「人間だと……?」
「はい、青髪の女がギルド内で倒れているのを発見しました……いかがいたしましょう?」
「青髪の女……? とりあえずは取り調べるとしよう、我がギルド内に不快な考えをもって侵入したならば容赦しない」
「はっ。 オクタ様のままに」
セレナの報告を受けてオクタはそのまま執務室から出た。
別に人間の女などどうでもよかった、それよりもここに侵入しただけでも殺すべきと考えている。
だがオクタは青髪の女という情報にどこか気にかかった為、その姿を見るために案内されるとそこには。
「……川崎か、懐かしい顔だな」
「あんた、なんで私の名前…………あぐっ!」
「はいはーい。 人間如きがオクタ様に生意気な口言うんじゃないよー、その綺麗な肌を剝いじゃうぞ♪」
「……お姉ちゃん、剝ぐんじゃ汚くなるから刺し殺して」
「ひっ!」
エイナとマイナの双子姉妹に捕らわれている、リアルでの知り合い――なのかは不明だが――の川崎沙希の姿があった。
「今はオクタだ。 あいつらの望む存在がそれならそれでいい……比企谷八幡という存在はお前に託す」
リアルでの八幡は今近くにいる川崎に託せばいい……この世界で臨まれているのはオクタという存在。
ならばその望むがままにオクタとして生きていけばいいと考えている――比企谷八幡という存在を消してまでも
「あんた……」
「もしも我――俺が八幡という存在が忘れそうになったらお前が思い出させてくれ、お前ならいい言葉で忘れさせてくれなさそうだしな」
「……仕方ないね、あんたには借りがある。 ここでメイドとして働きながら見てあげるよ」
「すまんな……愛してるぞ、川崎」
「なっ!? ば、バカ!」