嫌。絶対に嫌。こんなところで死にたくない。
このまま何もかも奪われたまま人生を終えるなんて、絶対に、お断りです。
絶対に許さない。
彼も、彼女も、みんな、みんな――地獄の底に引きずり落としてやる。
誰も許さない。誰一人として逃さない。必ず報復してみせる。
だから――。
「邪魔を、しないで、ください……っ!」
「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!」
だけど決意も虚しく、身体が動かない私はただモンスターに喰われる運命――。
「気に入ったぞ、娘。 人間の身で、それほどまでの復讐心――貴様のその心意気を買い、力を与えてやろう」
その運命を、あの方が変えてくれた。輝く黒紫色の鎧い、黒い靄を漂わせる柄は五つの宝石を埋め込まれた魔剣を持った狼……いえ、私にとってはもはや神様に等しい存在。
「しかし、それと同時にもう二度と貴様は人間の世界に戻ることが出来ない……等価交換というやつだ――さあどうする?」
あぁなんてお優しい言葉。
人間の身である私にそのような言葉を投げかけてくれるなんて……私の答えは決まっている。
たとえこれが悪魔の取引であっても私はこう答えるでしょう。
「私を、貴方様の世界に導いてください。 魔導騎士・オクタ様」
「あぁ、なんて素晴らしいんでしょう」
私は今とてもいい気分だ。私を苦しめ裏切ったお父様を、婚約者をこの手で縊り殺せたことに喜びを感じている。
昏い喜びだと分かっている。それでも私はこの喜びを上げたかった。
全てはあの御方の御蔭。感謝と敬意しか感じられない。
にやつく表情を押さえられず、私は笑みを浮かべようとしたが。
「ねぇ、どうしてっ! どうしてこんなことをしたのっ!?」
喧しい声が聞こえ、表情を歪ませながら私は振り向く。
そこにいたのは三人の冒険者。
黒髪、ピンク、黄色がかった薄茶色の髪をした少女……後ろには怯えた表情で腰が抜けている連中もいるけど、それは放っておいてもいいでしょう、大したことなさそうだし。
「別に復讐ですよ……貴方たちには関係がないことでしょう?」
「っだって、お父さんなんでしょ! 殺すなんて」
「おかしくありませんよ。寧ろどうしてあなたごときがそんな偉そうなことを云えるんですか?」
ピンク色の髪をした少女は表情を歪ませて涙目ながら「だって、だって」としかいわない……あぁたぶんこの少女は前の私と同じだ。
愛されて、友人がいて、裏切られたことがない甘い餓鬼だ。
そんな彼女に私は苛立ちと殺意しかわかない……今からでも殺してやろうと私は思った。
至高の御方に頂いた、魔剣を抜いて私は冒険者たちと対峙する。
「貴方の戯言はもういいわ、王国の裏切り者――アリス・ヴォ―ランド、討伐させてもらうわ」
「ゆ、ゆきのんっ!?」
黒髪の、たかが人間の小娘ごときの発言に私は思わず笑ってしまう――足が震えているのが分かる。それに剣の切先も震えていて、怯え切った表情を浮かべている。
見ると、後ろの連中――特に金髪の少年と少女たちは今にでも逃げ出そうとしている腰抜けばかりだ。
そんな連中如きが私を討伐……何て面白い冗談だ。
「ふふふふっ、さぁ、蹂躙してあげますよっ! 下等な冒険者たちめが!」
一方、そのころ、オクタがいるギルドでは。
「オクタ様、なぜあのような小娘を拾ったのですか? あの程度の小娘など、オクタ様が創る骸骨騎士にも劣るただの人間です……何かお考えが?」
「恨みと絶望に満ちた人間ほど強く脆いものはない……復讐を胸にしている者はそれを殉ずるまで裏切らん。喩えそれが、悪魔と取引でもな。それにこれの実験もしたい」
セレナの言葉に返答したオクタが取り出すのは、紫色の液体が入ったガラス瓶。
ユグドラシル時代でハズレアイテムとしてあまり利用されなかった、『魔物のエキス』と云われる物だ。
『対象のプレイヤー及びモンスターのみ狂化させる』という、相手を攻撃力を上昇させると同時にカルマ値も上昇させるアイテム。
相手を強くさせるだけのアイテムのため、あまり利用することがなく、十個以上にダブったハズレアイテムの消費させるのと実験ついでだ。
そして彼女に与えた魔剣も、序でにあげたものだ――下級中の下級である魔法武器。こちらも在庫に余り過ぎていたので、いい加減に捨てねばならないものを、丁度いいタイミングで彼女が現れたので提供してやったのだ。
カルマ値の上昇と下級の魔法武器……ユグドラシルでは大したものではなかったが、この世界ではどのような影響を与えるのだろうか。楽しみで仕方がないと云わんばかりの様子でオクタは含み笑いを浮かべる。
(やっべ、これ完全に悪に徹してるわ。 あぁ、でも復讐したいっていうのも分かるな)
異形狩りのターゲットにされることが多かった自分を思い出し、ため息をつくオクタ。
レベルも低く何度もPKされたことに腹立たしさを覚え、レベルを上げ続けてきた――情け容赦なく、打ちのめし報復するために。
(まぁ、自分に重ね合わせたわけではないがな)
彼女が抱いている憎悪に少しでも報いることが出来るなら、少しはしてやってもいいかと思ったのだ。
無論善意によるものではないが。
「これで自滅しても所詮その程度……死んだら骸骨騎士の素材にしてみるか」