OVER DUELS~ナザリック決闘伝~   作:天休観測

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 カード効果に不安のある方は、wikiを片手にご覧ください。










アインズvsデミウルゴス

 

 第六階層、円形闘技場。

 

 その客席は全てが埋まっていて、しかし誰一人として歓声を上げることもない。

 ただ、静まり返って、場内に立つ二つの影を見つめている。

 

「いかがでしょうか、アインズ様。お楽しみいただけていますか?」

 

 一つは、炎獄の造物主。第七階層守護者のデミウルゴス。

 橙のスーツを身に纏い、すらりと直立した状態で、透き通った声を飛ばした。

 その背後には黒竜が従っていて――黒曜の如き輝きを放つ鋼の身からは、時折火の粉が舞い散っている。

 主人たる悪魔の身を守るように寄り添いながら、口から小さく火炎を吐いた。

 

「く、くく……なかなか……いや、やるじゃないか、デミウルゴス」

 

 一つは、死の超越者。大墳墓の支配者、アインズ・ウール・ゴウン――その人が苦しげにそう言い放った。

 ごくり、と唾を飲む音が誰ともなく観客席から響く。

 

「私を、ここまで追い詰めるとは。やはり優秀な男だ、お前は」

「お褒めにあずかり光栄でございます――しかし、やはりこれも至高の御方のお力あってこそ。こうしてアインズ様との決闘を盛り上げることができているのも、ひとえに我が創造主、ウルベルト・アレイン・オードル様より賜った力のおかげです」

 

 どちらともなく、表情には笑みが零れる。

 そしてアインズはゆっくりと立ち上がりながら思うのだ。

 

(――どうしてこうなった――)

 

 『決闘』を申し込んだのは、自分だ。それがどうしてここまで大ごとになってしまったのか――。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 ことの発端は、一枚のカードだった。

 

「む」

 

 ナザリック地下大墳墓の支配者、アインズ・ウール・ゴウンは、故あって私室にてアイテムボックスを漁っていた。とあるマジックアイテムがどうしても入り用になってしまい、調達のためにこうして捜索しているわけだが…… しかしどうして、部屋の掃除や整理をしていると横道に逸れてしまうものだ。目当てのマジックアイテムとは別に、もう一つ。偶然横に置いてあったケースを取り出す。

 蓋を開けると、中に入っていたのはカード……いわゆる、TCG。ユグドラシルが歴史あるカードゲームコンテンツ、『遊戯王』とコラボした際に入手した、俗に言うイベントアイテムだった。

 コンテンツ自体の人気もあったが、カードの名前やイラストを弄り、自分だけのカードを作り上げることができたので、身内でも躍起になって白紙のカードを集めている者もいたなとアインズは微笑む。

 

「……懐かしいなぁ。」

 

 一枚一枚手にとって、しげしげとその絵を、テキストを眺める。

 TCGというのは卓上遊戯。テーブルを挟んで二人で対戦し……というのがごく一般的だが、ユグドラシルのような体験型ダイブシステムが確立されてからはまるでアニメのように『モンスターを召喚して、共に戦う』ことが可能になっていた。対戦形式も元になったアニメに準拠し、スタンディング、ライディング、アクション……と多岐にルールが制定されている。

 もう一度アイテムボックスを開いてみれば、同じようなカードケースがいくつも発掘された。かつて仲間たちが組みあげ、共に遊び、そして別れの際に自分に託してくれた大切な宝物。それを開いては閉じ、一枚一枚眺めていると……みんなで遊んだ思い出が、フツフツと蘇る。

 

「ウルベルトさんとたっちさんの喧嘩にはうってつけだったなぁ。周りに被害が出ないし……ヒートアップしてリアルファイトになることが多かったけど。ぷにっと萌えさんのエグい制圧系コンボには俺もよくボコられてたっけ。ペロロンチーノさんは……女の子が描かれてたらとりあえず集めてたな」

 

 ああ、本当にあの日々は楽しかった。……楽しかった。

 

「また、みんなで遊びたいなぁ……」

 

 つい、叶わぬ願いを口にする。目的のマジックアイテムも見つけたのだから、さっさと片付けて執務室に戻るべきなのに、それがどうしてもできず。アインズはふうとため息をついた。

 

「……やめやめ。掃除中にアルバムでも見つけたわけじゃあるまいし」

 

 ようやく踏ん切りがついて、寂寥を振り払うようにふるふると首を振った。これは後で宝物殿にでも持って行こうととりあえず机の上に放置し、探していたマジックアイテムを持って席を立つ。

 と、そこで部屋のドアをノックする音が響いた。誰かシモベが来たらしい……アインズは慌てて支配者らしい佇まいに戻り、咳払いを一つしてから返事する。

 

「入れ」

「失礼致します」

 

 姿を現したのはデミウルゴス――マジックアイテムを捜してくると彼に伝えたまま、すっかり待たせていたのを思い出した。

 

「アインズ様、お戻りに時間がかかられたようですので、お迎えにあがりました。仰られていたマジックアイテムは見つかりましたか?」

「うむ、ちょうど戻ろうとしたところだ。待たせてすまないな」

「滅相もございません」

 

 マジックアイテムを手渡せば、彼の細い視線がチラリと別の方……机の上へと向いたのに気づく。

 

「失礼ですがアインズ様、このケースは一体……? かなり大量にあるようですが」

「ん、これか。これはカードゲーム用のカードだよ。我々アインズ・ウール・ゴウンのメンバーが遊んでいたものだ」

「なんと」

 

 デミウルゴスの表情が驚きに変わる。

 彼らにとって、創造主にあたるギルドメンバーはまさに神のような存在だ。そんな神々が遊んでいた遊戯――ならば、NPCたちの興味を引くのは必然と言えた。

 ああ、とそこでアインズは思いつく。

 

「……やってみるか?」

「よろしいのですか?」

「うむ。アイテムボックスの奥から引っ張り出したんだが、私も久々に遊んでみたくてな。ちょうど対戦相手を探していたところだったんだ。ここにルールブックもあるし、お前さえよければ」

「是非。私にアインズ様のお相手が務まると良いのですが……」

「ははは、ゲームにそこまで固くなる必要はないさ。私とて初心者相手に手は抜かずとも、厳しくするつもりはない」

 

 ナザリックに存在するNPCの中でも最も知略に長けた彼であれば、手ずから教えずとも手帳ほどのルールブック一冊で理解して見せることだろう。それが、どれだけ複雑なルールであったとしても。

 手渡されたルールブックのページをめくり、デミウルゴスはそれを黙読し始める。

 ……一つだけ懸念があるとすれば、彼らシモベが対戦ゲームをして、アインズに対して手を抜く、勝ちを譲るようなことがあるのではというくらいだ。アインズとしてもそれは本意ではない。デミウルゴスがそうするとも思えないが、遠慮がちな様子にはやや不安が残る。

 

(ゲームとはいえ、勝ち負けのある遊戯ではためらいのようなものが生まれるかもしれないよな……褒美で釣れるようなやつじゃないし、何か他に……)

 

 既にルールブックのページを七割ほど読み進めるデミウルゴスの立ち姿にかつての仲間を空見して、ぴこん、とまるで〈永続光〉でも灯ったようにアインズの脳裏に閃きが奔る。

 

(そうだ! 退路を断てばいいわけだ、彼らにも退けない理由を作れば)

 

「アインズ様、こちらを」

「へ? あ、ああ」

 

 気づいた時に目の前に差し出されていたのはルールブックだった。

 

「……早いな、もう読み終えたのか?」

「もちろんです。少々複雑ではありましたが、完璧に把握させていただきました」

 

 デミウルゴスの言葉と表情には本当に説得力があるなぁとアインズは羨む。自分にもそれができているだろうかと不安になりつつも、机の上のカードケースの中から一際禍々しい、黒と赤を基調としたデザインのものを取った。

 

「では、お前にはこのウルベルトさんのカードケースを渡す」

「アインズ様! よろしいのですか、このような……」

 

 良いんだ、とアインズは手でデミウルゴスを制す。

 こうすればきっと、創造主の名を汚すわけにもいかなくなり、ナザリックのシモベとて本気で決闘してくれる……久々に遊ぶのだからしっかりと楽しみたい。そう思っての行動だった。

 なにより、このカードケースを持つべきなのは彼らの子たるNPCたちだとアインズは考えていた。

 

「まぁまぁ。その中にはウルベルトさんが使っていたデッキと、ウルベルトさんが集めたカードたちが入っている。それを使ってデッキを組み、明日第六階層にて私とデュエルしようじゃないか。……楽しい決闘を期待しているぞ」

「……ハッ! かしこまりました!」

 

 デミウルゴスは震える手でそれを受け取り、ごくりと唾を飲む。

 嗚呼、とアインズは微笑んだ。アンサイクロペディアを渡した時のシャルティアや、時計をあげた時のアウラと同じ。彼らに創造主の所有物を渡すと、必ずこんな風に、幸せに満ちた嬉しそうな顔をしてくれる。そんな表情を見るのが、アインズもたまらなく喜ばしかった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 明日、第六階層円形闘技場。

 

(第六階層じゃなくて、私室でひっそりやればよかったか……)

 

 目を逸らした現実に鳴り響く割れんばかりの歓声と、アウラの司会進行を意識の外に追いやりながら、アインズは頭を抱える。

 

 ナザリックで一、二を争う知恵者たるデミウルゴスと、ナザリックの支配者アインズがカードゲーム――つまるところ、知恵比べをする。ともなればこうして観客が溢れるのは当たり前だし、そもそも主たるアインズが直々に何かしようとあらば目立つのは自明だった。久々に『遊び』ができると浮かれていたのが悪かったのか、第六階層の準備を言づけたアルベドやアウラ、デミウルゴスに口止めをしなかったのが悪かったか、今となってはわからない。

 

「アインズ様、どうされました?」

「いや……なんでもない。観客が多いようだが、彼らは『遊戯王』のルールを知っているのか?」

「その点はご心配には及びません。お借りしたルールブックをまとめた資料を配布しておりますので、十分に理解しているかと」

 

 ははは、とアインズはひきつった笑みを浮かべる。

 

(仕事が早すぎる……)

 

 どこまで行っても、デミウルゴスという悪魔は部下として――且つ、上司として優秀だった。

 

「あとはアインズ様の御準備さえよろしければ、アウラの合図で開始させていただきますが」

「……ああ、うん。」

 

 緊張だとか不安だとか、沈静されない程度にまとわりついた感情をいっそ振り切る。

 これはゲームだ、遊びなのだ。勝っても負けても問題はない……はず。デミウルゴス相手というのが非常に不安だが……。

 そんな強者の風格漂う対戦相手を見、アインズは驚く。左腕に装備されていた、剣とも盾とも取れない円形の金属板――いわゆる、決闘盤(デュエルディスク)

 

「デミウルゴス、その決闘盤(デュエルディスク)は……」

「こちらですか?」

 

 鎖で縛りつけられた赤黒い羽根が生え、時折悲鳴めいた呻き声のようなものが聞こえてくる決闘盤(ディスク)。以前ウルベルトが使用していたものとは異なるそれは、アインズも見たことがないものだった。

 

「以前ウルベルト様に賜ったものです。初めて拝見した際には珍しい装備だと思ったのですが、このゲームをする際の正装だとルールブックに書いてありましたので用意させていただきました」

「……そういえば、『デミウルゴスが使うならこんな盤がいいな』とか言ってたなあの人……結局作ってたのか……。ああ、いいディスクだな」

「お褒めに与り光栄です。アインズ様の決闘盤(ディスク)こそ、死の支配者に相応しい装い……つい見惚れてしまいますね」

「む、そうか? ふふふ」

 

 言われて、アインズも誇らしげに左腕を掲げる。そこに装備されていたのも決闘盤、付けられたその名は〈ディスク・オブ・モモンガ〉。白磁の如く艶やかな頭骨の装飾からは絶望を形にした瘴気のエフェクトが舞っている。

 

「これも拘りの逸品だ。ギルドメンバー全員に意見を貰って――ああ、いかん。また長くなってしまうな。アウラや観客を待たせるのも悪い、そろそろ始めるとしよう。いくぞ、デミウルゴス」

「ハッ」

 

 双方十分に距離を取り、相対してディスクを展開する。準備が整ったことを確認して、アウラが掲げた腕を振り降ろして合図した。

 

「「デュエル!!」」

 

「先ずは私の先攻だ。ドローは無し、メインフェイズに移行。《不知火の隠者》を召喚」

 

 ディスクにカードを載せれば、そこに描かれているものと全く同じシモベが目の前に呼び出される。

 

「《不知火の隠者》……。アンデッド族チューナー専用のリクルートモンスターでしたか」

「その通りだ、昨日初めて見たゲームだというのによく知っているな?」

「ウルベルト様のカードケースにも同じものがありましたので」

 

(まさかこいつ、あのカードケースに入ってるもの全部記憶してるのか? 軽く5000種はあるはずだぞ……)

 

 動揺を誤魔化すように、その効果を起動する。呼び出す守備力0のモンスターは、

 

「《ユニゾンビ》を特殊召喚。何もなければその効果を発動だ」

「チェーンはありません。御身の望むところまで展開してください」

「アンデッド使いにそれは良い挑発だな。発動するのは②の効果。《馬頭鬼》をデッキから落とし、《ユニゾンビ》のレベルを上げ――さらに《馬頭鬼》の効果」

 

 墓地からアンデッド族、《不知火の隠者》を特殊召喚する。これで、場にはレベル4のモンスターが2体。それも、うち1体はチューナー。

 

「さあ、死などという下らん生命の到達点を超越し、支配することこそがアンデッドの醍醐味だ。今からそれを教えてやろう――同調召喚(シンクロサモン)、《PSYフレームロードΩ》!」

「PSYフレーム……! てっきり、デッキはアンデッド統一かと思っていましたが」

「一応そういうデッキもあるにはあるが、今回は『使えるものは何でも使う』タイプのデッキだ。当てが外れたか?」

 

 にやり、と意地悪く笑って見せれば、デミウルゴスも心底楽しげな笑みを浮かべる。

 

「まさか。デュエルはまだ始まったばかりですから」

「おっと、そうだったな。先攻は攻撃権を失っている、故に俺はこのままターンエンド」

 

 

 

Turn:1

アインズ

Life Point:8000

Hand:4

Monster:《PSYフレームロード・Ω》

Spell&Trap:No Card

 

 

デミウルゴス

Life Point:8000

Hand:5

Monster:No Card

Spell&Trap:No Card

 

 

 

「では、私のターン……ドロー」

 

 シュッと空を切る音が響く。

 

「スタンバイフェイズに移行します」

「ではそのタイミングだ。《PSYフレームロードΩ》の効果を発動」

 

 除外されていた《馬頭鬼》が墓地へと戻る――これで、サイクルが完成した。

 《Ω》が除去されない限り、《馬頭鬼》は毎ターン除外と墓地を往復する――これはまずいと、デミウルゴスは少しだけプランを練り直すことにした。

 そして少しの間6枚のカードとにらめっこし、その中から1枚を丁寧にディスクへとセットする。

 

「《マスマティシャン》を召喚します。効果により《カーボネドン》を墓地に。そしてスペルを1枚伏せ――メインフェイズを終了したいのですが、如何いたしますか?」

 

 しっかりと効果を把握しているのだから、初心者だとは思えないんだよな――まるで熟練の決闘者でも相手にしているような錯覚を憶えながら、アインズはディスクのボタンを押す。

 

「ならばメインフェイズの終了時、《Ω》の効果を発動。お前のランダムな手札1枚と異次元へ逃避する」

 

 除外されたのは《DDオルトロス》。

 

「では、アインズ様の場が空いたのでバトルフェイズに移行しましょう」

「ほう?」

「《マスマティシャン》でアインズ様に攻撃します」

 

 アインズ Life:8000→6500

 

 躊躇なく、ライフポイントは削られる。要らぬ不安だったなとアインズは自嘲気味に笑ったが、観客席から不穏などよめきが起きた。

 

「やるじゃないか、デミウルゴス。このゲームはライフの削りあいだ、何も気にするようなことはないぞ」

 

 そう言って笑って見せれば、これが御身にとってはただの楽しいゲームに過ぎないのだと皆思い出す。

 

「ありがとうございます。それでは私はこのままターン終了です」

 

 

 

Turn:2

アインズ

Life Point:6500

Hand:4

Monster:《PSYフレームロード・Ω》(除外中)

Spell&Trap:No Card

 

 

デミウルゴス

Life Point:8000

Hand:4

Monster:《マスマティシャン》

Spell&Trap:Set Card

 

 

 自分のターンになり、アインズはドローする前、見えている情報から相手のデッキを推理していた。

 

(……DD? にしては初動が妙だ。《マスマティシャン》から《カーボネドン》を落とす場合、大体は《ガード・オブ・フレムベル》からの☆4シンクロや、《ハウンド・ドラゴン》からのランク3を狙うはず……【DD】なら後者のギミックで《彼岸の旅人ダンテ》を呼べるんだぞ? そうでなくとも《ラブラドライドラゴン》から☆9シンクロするなりあるはずだ。それをせずに攻撃宣言、しかも1伏せエンド……?)

 

 デミウルゴスの創造主、ウルベルトのメインデッキは【レッド・デーモン】……あの派生シンクロによる高火力と征圧力、強力なスペルによる場の支配がウリだった。

それと比べてもこの初動には、やはり謎が大きい。警戒すべきは罠か。仮にあれが《ミラーフォース》や《激流葬》であった場合……。

 思考は巡らせるが、デュエルを放置するわけにはいかない。デッキからカードをドローし、手札に《サイクロン》がないことに嘆息しながらフェイズはスタンバイへと移行する。

 

「Ωの効果により、お互いのカードが元いた地へと戻る。……さて、何もなければバトルだ。Ωで《マスマティシャン》へ攻撃――あっ」

 

 小さな、本人にしか聞こえないような声で、アインズは何かに気付いたように声を上げる。

 しかしそれを気にするまもなく、デミウルゴスの場の伏せカードは解放されていた。

 

「《魔法の筒(マジックシリンダー)》。申し訳ありませんが、《Ω》の攻撃を通すわけには参りません――反射ダメージ。2800を受けていただきます」

「うおっ!?」

 

 アインズ Life Point:6500→3700

 

「今のは効いたな! なかなか渋いカードを使うじゃないか」

「どうにも、こういうものが手になじむ性分なようです。罠カードというのはいいものですね」

「確かに、その点は私も同感だ。スペルを2枚伏せ――モンスターも1枚伏せよう。これでターンエンド」

 

 

 

Turn:3

アインズ

Life Point:3700

Hand:2

Monster:《PSYフレームロード・Ω》・Set Card

Spell&Trap:Set Card・Set Card

 

 

デミウルゴス

Life Point:8000

Hand:4

Monster:《マスマティシャン》

Spell&Trap:No Card

 

 

 

「私のターン、ドロー。……そうですね、この手札であれば。少々そちらの罠が気にはなりますが、私も動くとしましょう」

「ほう。ついに見せてくれるのかな、お前のデュエルを」

「御身のアンデッド族の展開力には敵わないかと思いますが――」

 

 苦笑しつつ、デミウルゴスは《DDオルトロス》を召喚する。

 

「レベル7、同調(シンクロ)召喚。黒き花園に芽吹き悪意の薔薇、穢れし棘にその身を焦し開花せよ! 《月華竜ブラック・ローズ》!!」

 

 叩きつけられた口上と共に、闘技場に黒い嵐が吹き荒れる。大地を割って現れた膨大な蔦の中から、薔薇そのものと見紛う姿の紅い竜が雄叫びと共に翼を広げた。

 その衝撃に吹き飛ばされぬようローブを抑えながら、アインズは吼える。

 

「その口上、まさかとは思うが!!」

「ウルベルト様のカードケースに付属していた『召喚口上集』より拝借いたしました。佳麗且つ荘厳な言葉の数々、全てをこの胸の内に記憶しております」

(そのまま胸の内に入れたままにしてほしかったなぁそれ!)

 

 素直にカッコいいと思う自分と、どこかむず痒くなる自分の板挟みになりながら、内心でアインズはそう叫ぶ。

 

「では、《ブラック・ローズ》の効果で《Ω》をバウンスしたいのですが――」

「そうはいかないな! 《Ω》の効果だ、手札を貰うぞ!」

 

 《Ω》と共に除外されたのは《カーボネドン》。2枚目――未だ全容の見えないデミウルゴスのデッキに、アインズの警戒心と好奇心はさらに昇っていく。

 

「他のカードを抜かれていたら、このターン動けるかどうか怪しかったですね。危ないところでした」

「そうか? 先ほどからあまりいいカードを引き抜けていないな、確かに」

「そこばかりはランダムですから……では続けて、墓地の《カーボネドン》を起動しましょう。デッキより――《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》を守備表示で場へ」

(《真紅眼の黒竜》……! まずい!)

「罠発動、《サンダー・ブレイク》!! 手札一枚を代償に、《月華竜ブラック・ローズ》を破壊する!」

 

 雷撃が一閃、竜を貫く。《カーボネドン》から呼ばれたカードによって、アインズの中でいくつかの疑問が氷解し、同時に焦りの表情が浮かび上がる。【真紅眼】であるならば――エースたるあのカードを出された場合、今のアインズの手札では詰みまで見えていたからだ。

 

「流石はアインズ様、これから何を召喚するつもりだったかは御見通しの御様子」

「レッドアイズを含めたレベル7が2体……とくれば、流石に誰でも思いつくさ。無駄に《サンダーブレイク》を温存するわけにもいかないからな。できれば、その残りの手札でもう一度レベル7が出てこないことを祈りたいところだが」

「さて、それはこのデッキ次第といったところでしょうか。《紅玉の宝札》を発動し、手札の《真紅眼の黒竜》をコストに2枚ドロー……」

 

 祈るようなドロー。彼が閉じた瞳に思い浮かべているのは、きっと創造主ウルベルト・アレイン・オードルだ。そういえば、彼もここぞという場面では瞳を閉じてドローしていたのを思い出す。

 

(……そっくりじゃないか、やはり)

 

 身震いする。自分の場は貧弱な伏せモンスターと心もとない伏せ1枚。相手に比べれば不利な状況だというのに、アインズはこのデュエルを心底楽しんでいた。

 

「デッキから墓地に送る効果は使用しません」

 

 《紅玉の宝札》の追加効果で墓地に送ることができるカードは限られている。それを放棄したということは――

 

「フィールド魔法《伏魔殿(デーモンパレス)―悪魔の迷宮―》を発動! さらにデッキより《真紅眼の黒竜》を除外し、《sin真紅眼の黒竜》を特殊召喚!」

「引き当てたか、その2枚を……いいぞ、来い! お前のエースを見せてみろ!」

 

 無生物的な鎧を身に纏う真紅眼と、純粋な黒を纏う真紅眼とが交差し、混ざり、2つの光となって重なり合う。

 瞬間、真っ黒な閃光が迸り、圧倒的な熱量を孕んだ爆風が闘技場の中心から発生した。

 

「逆巻け! 業炎! 降りよ漆黒の帳! 闇に塗れたその姿、今こそ我が前に顕せ!」

 

 熱風を凌ぐアインズが辛うじて確認できたデミウルゴスの表情は、会心の笑顔だった。

 

「ランク7、超量(エクシーズ)召喚。煮えし鉄纏いし竜――《真紅眼の鋼炎竜(レッドアイズ・フレアメタルドラゴン)》!」

 

 ずん、と闘技場の大地が揺れる。現れた竜は口から焔を吐き出し、鋼鉄でできたその身を赤々と反射させていた。

 

「バトルフェイズに移行します。スタートステップ、《鋼炎竜》の効果。素材を一つ外し、墓地より純真な《真紅眼の黒竜》を蘇生――そして戦闘。《黒竜》でセットモンスターへ!」

「くっ……」

 

 表がえったモンスターは《ゴブリンゾンビ》。2400の攻撃力にかなうはずもなく、当然のように炎に巻かれ破壊される。

 

「だが《ゴブリンゾンビ》は、その効果でデッキより後続のアンデッドを手札に呼びこむ!」

「そしてその効果解決時――」

 

 1枚のカードを手にした瞬間、アインズに向けられた熱波はさらに勢いを増す。

 

「《鋼炎竜》はアインズ様に500ポイントのダメージを与えます」

 

 アインズ Life Point:3700→3200

 

「相手プレイヤーがカードの効果を発動するたびに、鋼炎竜はその解決時に500のダメージを与える……アインズ様の使われる【アンデッド】は高い展開力と墓地利用が特徴だとお見受けしますが、カードの効果を発動する回数が多いこともまた事実。《隠者》から《Ω》を作るまでに手札消費はたったの1枚――しかし、その特殊召喚回数と効果発動回数は双方3回。《増殖するG》のようにはいきませんが、《鋼炎竜》のライフへの重圧もなかなかのものでしょう?」

「その通り――私のデッキの弱点を見抜き、的確にカードを選択してくる。本当に初心者とは思えんよ、お前は」

「アインズ様にお楽しみいただくため、私も力を出し惜しみするわけにはまいりません。――続けて、鋼炎竜でアインズ様に直接攻撃を宣言」

「流石にそれを受けるわけにはいかん!」

 

 アインズが発動した、残り1枚の罠カード……《くず鉄のかかし》。

 

「これで《鋼炎竜》の攻撃は止まり、その効果により私は500のダメージを受ける……」

 

 アインズ Life Point:3200→2700

 

「メインフェイズ2に移行します。1枚スペルをセットしターンエンド。――いかがでしょうか、アインズ様。お楽しみいただけていますか?」

 

 

 

Turn:4

アインズ

Life Point:2700

Hand:2

Monster:No Card

Spell&Trap:Set Card・Set Card

 

 

デミウルゴス

Life Point:8000

Hand:0

Monster:《真紅眼の鋼炎竜》(残り素材1)・《真紅眼の黒竜》

Spell&Trap:Set Card

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 ――そして、冒頭へと話はつながる。

 

 貴賓席に座った守護者たちも、息を飲んで戦いを見守っていた。

 中でも未だ状況を掴めていないのがコキュートスだった。

 

「ム――コレハ、アインズ様ガ不利ト見テ良イノカ? アウラ」

「……うん、そう。あたしはここで何度か茶釜様たちのデュエルを見てるからわかるけど……ライフポイントを先に削った方が勝ち、っていうルールから判断すれば、状況は間違いなくアインズ様が不利」

「デミウルゴスの場にいる、あの竜のせいでありんすね」

 

 事前にデミウルゴスから配布されたカードリストを捲っていたシャルティアが声を上げる。

 

「《真紅眼の鋼炎竜》……えくしーず素材とやらを持ったあれはカードの効果によって破壊されず、さらにカードを使用するたびに500のダメージを与える。さらに墓地の仲間まで蘇生できるとは……随分大盤振る舞いなことで」

「あれシャルティア、あんた案外詳しいのね?」

「……わたしの階層で、ペロロンチーノ様とぶくぶく茶釜様がたびたび遊んでらしたでありんすから?」

「あー、ここでもそのお二人の組み合わせが多かったなぁ」

 

 ぼんやりと、かつての創造主の姿を思い出す二人。それに懐かしさを感じつつも、目の前の光景からは目を離したりはしない。せっかくのアインズ様の御活躍を、しっかりと刻み付けておくことこそがシモベの務めだからだ。たとえそれが、ゲームであったとしても。

 だからこそ、御身直々に対戦相手として指名されたデミウルゴスには全員が嫉妬した。ゲームとはいえ、アインズの相手をできる光栄は誰にとっても甘い蜜のような機会。――しかし、そのゲームのルールというのは実に複雑で、1日2日でデッキをくみ上げ、対戦するに至ることが可能なシモベはナザリックでも限られる。その中で指名されたというのであれば、渋々とはいえ納得し、引き下がるを得なかった。

 

「正直、デミウルゴスがあそこまで有利な状態を維持することになるとは思わなかったけど。あぁ、アインズ様が負けるなんて私は微塵も思ってないけどね?」

「それは妾とて同じでありんす。至高の御方は力だけでなく智にも優れた方々。ああしてデュエルを楽しんでいるに違いありんせん」

 

 ……そして、女子二人はちらりと少し離れたところに座る守護者統括を見る。ここまで全く会話に参加してこない彼女を疑問に思ったからだ。

 

「……いつになくまじめな顔してない?」

「多分、アレハ怒リヲ隠シテイルノデハナイダロウカ。ゲームトハイエ、御身ガ傷ツクノヲ唯見ルダケナノハ辛イノデハナイカ?」

「……コキュートスの言う通りかもしれんせん。御身が望んで、剰え楽しそうに遊んでいるところなのに……あぁ、割り切れないから我慢してる部分もあるのかもしれないでありんすね」

 

 呆れ半分に、それぞれ小さく溜め息を吐く。

 アルベドが闘技場の中央へと向ける視線は、それでも鋭く、やはり全てを焼き付けんばかりに開かれていた。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

「ああ、そういえば」

 

 熱風荒ぶ中、デミウルゴスが声を上げる。

 

「先ほどの《ゴブリンゾンビ》でのサーチ先を確認し忘れていました。窺ってもよろしいですか?」

「……これはすまない。つい失念していたよ。私がサーチしたのは……このカードだ」

 

 ぴらり、と1枚のカードがデミウルゴスへと向けられる。

 

「――《死王リッチーロード》……。これは、そう――失礼やもしれませんが、どこか――」

「ああ、私に似ているだろう? 嬉しいじゃないか、皆もそう言ってくれてな。つい気に入って、こうしてデッキまで組んでしまった」

「もしや、御身を模したカードということでしょうか?」

「いや、これはもともと存在したデザインだ。単に雰囲気が似ているだけだよ」

 

 見せていたカードを手札に戻し、アインズはその絵を撫でる。

 

「こいつを斃すのにためらいが生まれたなら、気にしなくてもよい。こいつは滅多に場に出ないからな――デュエルを続行しよう。私のターン」

 

 デッキに手をかけ、アインズは気づく。カードに触れた指先が震えていた。

 それは恐れから来るものではなく、

 

(……武者震い、か)

 

 きっと、このターンが最後になるだろうとアインズは確信していた。デミウルゴスは全力を投じたがために手札を使い尽くしている。片やアインズのライフは《鋼炎竜》の存在からすれば風前の灯だ。

 今の手札に解決策はない。このドローに全てがかかっている……。そう思うと、震えずにはいられないのだ。

 

「……アインズ様?」

 

 そんな様子を、デミウルゴスは心配そうな表情で気遣ってくる。

 大丈夫だ、と言葉は無しに返し、意を決してアインズはカードを引き抜いた。

 

「ドロー!!」

 

 ディスクを、そしてドローした腕を動かすたびに、熱波に身体を灼かれるような熱さが伝わる。白磁の骨身に熱が入って、まるで赤々と焼けているようだった。

 

「スタンバイに《Ω》が帰還する。これは発動を介さない効果の処理。故に、《鋼炎竜》によるダメージは発生しない」

 

 場に《Ω》が、デミウルゴスの手札に《カーボネドン》が戻る。

 

(残された猶予は……5手。そこまでにあの《鋼炎竜》を斃せなければ、俺の負けだ。逆に、この場を返すことができればデミウルゴスの手札は《カーボネドン》のみ、トップ勝負に持ち込むことができる。やはりここは……)

 

 策を巡らせる。ついつい笑みが零れる。こんな少しの思考時間が、アインズには溜まらなく楽しかった。

 ――そんな楽しい時間が、このターン限りで終わってしまう。

 

(勝ちたいな、ここは。俺が主だからとか、皆の前だからとか、そういうことは関係なく――いい勝負をして、勝ちたい。そのために今最大限に警戒すべきはあの罠)

 

 デミウルゴスの足元に伏せられた1枚のカード。ここまで来てブラフということはないだろう、確実にこちらを殺しに来る罠だ。

 

(《激流葬》、《奈落》――その辺りなら、もう仕方ない。《サイクロン》が手札に無いことを恨むよりほかにないか)

 

 ただ、なんとなく。根拠はないが、そんなちゃちなカードではないような気がしてならない。

 ざわざわと、背骨をざわつかせるような感覚に任せ、アインズは練り上げる。ちょうど5手。デッキに全てを賭けることになるが、それ以外に勝ち筋が見つからなかった。

 

「……メインフェイズ。墓地の《馬頭鬼》の効果、《ゴブリンゾンビ》を再び場に」

「そして、《鋼炎竜》の効果により500のダメージ」

 

 アインズ Life Point:2700→2200

 

「《マンジュゴッド》を通常召喚。その効果によって、デッキから《影霊衣(ネクロス)の反魂術》を手札に。500ダメージは甘んじて受ける」

 

 アインズ Life Point:2200→1700

 

「《影霊衣の反魂術》……儀式魔法カード。なるほど、儀式によるリリースは効果ですから、それに《リッチーロード》を利用して損失を軽減すると」

「本来ならそうしたいところだが……今それをすると生命を焼き尽くされてしまうからな。デュエルとは、なるほど儘ならないものよ」

「おっと、そうでしたね。これは失礼いたしました」

「できればそのモンスターには退場願いたいところだが?」

「残念ながら、この伏せカードは即身仏ではありませんから……」

「そいつは残念だ。……さて、儀式を執り行うとするか」

 

 発動された《影霊衣の反魂術》に、場の《マンジュゴッド》と《ゴブリンゾンビ》が呑まれていく。

 

「捧げた供物のレベル合計は8。降臨せよ、《ヴァルキュルスの影霊衣(ネクロス)》!」

 

 精悍な顔立ちの男が、戦場に降り立つ。それと共に鋼炎竜から齎された熱風が、幾度目かの身を焼いた。

 

 アインズ Life Point:1700→1200

 

「供物となった《ゴブリンゾンビ》の効果により、2枚目の《リッチーロード》を手札へ!」

「そして、鋼炎竜の効果」

 

 アインズ Life Point:1200→700

 

「なるほど、《ヴァルキュルスの影霊衣》の効果によるリリースは《リッチーロード》の効果範囲――通常はそれにより手札を増やすと。しかし今回は、ひとまずこれで鋼炎竜を斃す手筈が整ったわけですね。お見事です」

 

 そんな賞賛に、アインズは破顔した。そこから続く言葉に、観客、そしてデミウルゴスは驚愕する。

 

「デミウルゴス、何か勘違いしているようだな。私は《ヴァルキュルスの影霊衣》の効果を発動するぞ(・・・・・・・・)

「……まさか! アインズ様が手札の《リッチーロード》をリリースした場合、墓地で効果を発動してしまい、ドローしたカードを利用する前に《鋼炎竜》の効果が適用され、ライフポイントはゼロに……」

「いいかデミウルゴス」

 

 《ヴァルキュルスの影霊衣》は効果を発動する。手札や場のモンスターを生贄に捧げることで、それと同数のカードを呼び込む――。

 熱く吹き付ける風に飲まれつつも、アインズは変わらず笑っている。

 

「私は『死の超越者(オーバーロード)』――生を嗤い、死を支配する者。命を投げ合う勝負に恐れるつもりも、負けるつもりもない」

 

 アインズ Life Point:700→200

 

「効果によってリリースされた《リッチーロード》2枚が、チェーンを組んで効果を発動する」

「……その効果解決時に、アインズ様は500のダメージを……」

 

 息を飲み、デミウルゴスはすっかり狼狽していた。目の前の至高の存在が何をするつもりなのか、さっぱりわからないという様子。

 そんな、普段は冷静な部下の狼狽える様に、アインズは愉悦めいた感情を覚える。

 ――そしてドローしたばかりのカードをディスクに、叩きつけるようにセットした。

 

「――さらにチェーン発動だ! 《禁じられた聖杯》! 当然対象は《真紅眼の鋼炎竜》!」

「モンスター効果を無効にする速攻魔法――! ならばさらにチェーン発動、《鋼炎竜》③の効果!」

 

 効果解決。素材を消費し墓地からは真紅眼が蘇り、かけられた液体によって真紅眼はその身の輝きをやや弱らせ、同時に400の攻撃力を得る。そしてアインズは《リッチーロード》を2枚、手札に回収した。

 全てのチェーン処理が終わるころには、闘技場に吹き荒れていた熱風は治まっていた。

 

「……お見事です。あの土壇場の状況で、そのカードを引き当てるとは――いえ、最初からそれを見越しての行動、というわけですか。その何者も恐れぬ胆力、感服致しました」

「あまり褒めるな。勝利を手にしていない以上、まだまだ有利なのはお前に変わりない」

「ですが、御身の場に存在する《Ω》と《ヴァルキュルス》――3200の《鋼炎竜》とまでは行きませんが、どちらも2体の《真紅眼》を斃すには十分なステータスです。このままバトルフェイズに入られれば、此方の不利は必至――」

「デミウルゴス」

 

 はた、とデミウルゴスの言葉が止まる。

 

「すまないが、お前の誘いには乗らんぞ。その伏せカードは読めている――私は2体のレベル8モンスターでオーバーレイネットワークを構築!」

 

 《Ω》と《ヴァルキュルス》が光の粒子になり、星の渦に巻かれて一つとなる。

 

「刻まれし聖なる理、創造せし九つの神の名の下に! 死者の魂を束ね、顕現せよ! 超量召喚(エクシーズサモン)――《聖刻神龍エネアード》!」

「《エネアード》……成程、効果でリリースを行うエクシーズモンスターですか!!」

「そうとも。その効果により手札のモンスター3枚をリリースし――」

 

 《リッチーロード》を含めた3枚のモンスターが供物として昇華され、《エネアード》に力を与える。纏った輝きが爆散し、《真紅眼の黒竜》2枚と――伏せカードを貫いた。

 

「くっ――!」

「やはり《レッドアイズ・バーン》か! 意地の悪いカードを使ってくれるなお前は、あのまま殴ってたらこちらが敗けていたわけか!」

「その通りです。やはり、私程度の浅知恵では御身には敵いませんでしたか」

「いや、正直そこまでされるとは思っていなかったぞ――今しがたリリースした3枚のうち、《リッチーロード》2枚は手札に戻り、残る1枚、《馬頭鬼》の効果により《サンダーブレイク》のコストに利用した《ゾンビマスター》を復活。《リッチーロード》を捨て、《ユニゾンビ》を復活――レベル7同調召喚、《月華竜ブラック・ローズ》。功労者の《鋼炎竜》にも消えてもらおうか」

 

 バウンスされた鋼炎竜を、苦い表情――しかしどこか満足げに、デミウルゴスはエクストラデッキへと戻す。

 

「バトルフェイズに総攻撃だ」

 

 デミウルゴス Life Point:8000→2600

 

「そしてターン終了――さて、返し手はあるか?」

 

 

 

Turn:5

アインズ

Life Point:200

Hand:1(死王リッチーロード)

Monster:聖刻神龍エネアード・月華竜ブラック・ローズ

Spell&Trap:Set Card(くず鉄のかかし)

 

 

デミウルゴス

Life Point:2600

Hand:1(カーボネドン)

Monster:No Card

Spell&Trap:《伏魔殿―悪魔の迷宮―》

 

 

 

「私のターン、ドロー」

 

 引いたカードを見、悪魔は静かに首を横に振る。

 

「……申し訳ございません。ご期待に応えることはできませんでした」

「いいとも、ここで返せるカードなどそうないさ――《ブラックホール》くらいか?」

「それでも《くず鉄のかかし》を超えることはできませんから……」

 

 デミウルゴスの手は、デッキの上に置かれる。

 それを合図とみて、アウラの口から勝者の名――アインズ・ウール・ゴウンが宣言される。

 静まっていた観客席から響く歓声に飲まれ、アインズは勝利の余韻に浸っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成程、発動条件が限られたカードは強力な分除去に弱い。故に発動タイミングの自由な罠の方が無駄なく利用できると」

「そうだ。例えば、あの《レッドアイズ・バーン》が《強制脱出装置》であれば《エネアード》を通すことはできなかったし、《仕込みマシンガン》であれば私のライフは尽きていた……まぁ、そう言ったカードの枚数を増やせば、相手も《サイクロン》の使用に躊躇いが生まれるというものだ」

 

 デュエル後、アインズの私室での談笑。デミウルゴスからぜひ反省を行いたいという要望があったために始まった構築論、プレイング論の教授は、NPCたる彼が自力でくみ上げたデッキを確認したかったアインズによって恙なく進んでいた。

 

「しかし、【真紅眼ビートバーン】か。真紅眼のサポートカードや融合体には火力系が多かったからな、それで悪魔族のカードも投入されていたわけだな?」

「はい。ウルベルト様の【レッドデーモン】をリスペクトしつつ、私独自のカードも採用したのですが……真紅眼サポートやデーモン関連のカードの枚数調整が想定より難航してしまいました。結果、伏魔殿の効果も活かすことができず……。こうして見てみると、些か受動的なカードが多かったようです」

「相手によっては、それだけでは自身の首を絞めることにもなり得る。カウンターだけでなく、ビート用のカードを増やすのもアリだな」

 

 机の上に広げたカードを1枚手に取り、悪魔は熱を持った溜め息を吐く。

 

「……このゲームは、本当に奥が深いですね。至高の御方々が夢中になられたというのも納得がいきます」

「お前にそこまで言わせるとは……気に入ったなら何よりだが」

「恥ずかしながら、アインズ様とああして知恵比べができたことに舞い上がってしまいました。図々しい願いとは重々承知していますが、デッキ調製後、もう一度対戦してはいただけないでしょうか?」

「ああ、構わないとも。まぁ、今度は座ってゆっくりやろうじゃないか」

「寛大なお言葉、心より感謝いたします」

 

 提案を受け入れられたことに安堵したように、彼はホッと笑顔をほころばせる。

 アインズはまるで子供の遊び相手になってやったような気分になりながら、ふと思いついたことを口に出す。

 

「そうだ。私以外の者ともデュエルしてみたくはないか?」

「アインズ様以外、と仰いますと――もしや」

 

 二人の視線はカードケースへと向く。

 

「これを皆、そうだな……それぞれ持つべきNPCに配布しよう。仲間たちも、きっとその方が喜ぶ。もしかしたら、休暇中に何をしたらいいかわからないと言っていた奴らの助けになるかもしれんしな」

「素晴らしい御考えかと」

 

 そうだろう、と何度か頷きながら、机の上に広げられたカードを片付け始める。そろそろ業務を再開する時間だ。

 それに倣うように片づけを始めたデミウルゴスは、しかし最後の1枚――《マスマティシャン》に手をかけたところで動きを止める。

 

「――重ねて、質問させていただいてもよろしいでしょうか」

「ん? なんだ、言ってみろ」

「アインズ様、あの第3ターンですが――」

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

「アインズ様は全力じゃなかったぁ?」

「そりゃ、アインズ様の全力があれで終わりとは到底思えないでありんすが……何を根拠にそんなことを」

 

 すっかり平常通りに掃除も整い、観客も引き払った後。闘技場は守護者が数名残るばかりとなっていた。

 アウラとシャルティアが声を上げれば、アルベドは静かに口を開く。

 

「アインズ様の先攻3ターン目。《Ω》の効果によって、墓地には《馬頭鬼》がいたわ。対するデミウルゴスの場は《マスマティシャン》と伏せカードが1枚。不安要素はあるけれど、手札に《ゴブリンゾンビ》がいたことを考えれば、展開するには十分なチャンスだった。むしろ高速展開を得意とするアンデッドであれば強力な除去効果を持つモンスターを出すことも可能だったにも関わらず、あのターンアインズ様は」

「……《Ω》ノ攻撃宣言ト、モンスターノセット、罠ノ2枚伏セノミダッタ、ト」

「そう。……デミウルゴスが初心者だったことから、悟られないよう窮地を演出し場を盛り上げ、手心を加えたということでしょうね。――嗚呼、アインズ様……智謀にも優れた支配者たる御方――」

 

 アルベドはそのまま自分の世界へトリップしてしまったようだ。そうでなくとも、守護者達は畏怖する。すべてを掌握したうえで戦況を支配する叡智とセンス、そして部下を思う慈悲深さに。

 

「――ダガ、アインズ様モ全力デ戦ウコトガデキナイ状況トイウノハ不満モアルノデハナイカ」

 

 プシュウと冷気を吐くコキュートスの言で、アルベドは戻ってくる。その表情は守護者統括に相応しい、観戦中のあの表情だった。

 

「それなのよ。私たちも、アインズ様の優しさに甘え続けるだけではいけないわ。このあとデミウルゴスも交えて講習を行うつもりですから、手の空く者は必ず参加するように。アインズ様によりお楽しみいただくためよ」

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

「…………」

「あのプレイングはやはり、私の力不足が原因ということで――」

「……否、それは違うぞ」

 

 デミウルゴスからの問いに、アインズは鷹揚に答える。

 

「あれは『警戒』だ。まだまだ序盤、焦るべきではないと判断し、欲張らず大人しい動き方をしただけだ。対戦相手のお前のことだ、《激流葬》やらの強力な罠を伏せている可能性が、あのタイミングではどうしても拭い切れなかったんだ。踏んで苦い思いはしたくなかったからな」

「成程……」

 

 疑問が氷解したように、悪魔の表情がさわやかな物へと変わる。そのまま頭は角度良く下げられた。

 

「大変失礼いたしました。アインズ様のお力を疑うかのような発言、お許しください」

「いいとも。楽しいゲームにそこまで言わずとも構わん。……さて、そろそろ業務に戻ろう。皆にカードを配る件についてはまた後日」

「ハッ」

 

 そして、デミウルゴスが退室したのを確認し――アインズはベッドへと走って飛び込む。そのまま枕をひっつかんで顔を埋め、部屋の外へ漏れ出ない音量で叫ぶのだ。

 

(そんなわけあるかぁぁああああ!!! ちくしょう、久々に遊んだからってあのプレミはないだろ! あれは!!)

 

 問題の第3ターン。手なりで宣言してしまった『攻撃』――それは慈悲でも、策でもない。純然で単純な、『プレイングミス』だった。

 

(前のターンに宣言もしたのにな! 《馬頭鬼》が墓地にあったのすっかり忘れてたわ! くそっ、数カ月のブランクが忌々しい! それでもアンデッド使いか!)

 

 おまけに、素になった顔面に直撃した《魔法の筒》の衝撃で、メインフェイズ2に展開することも忘れていた始末。

 

(《スクラップドラゴン》にチェーンして《Ω》を逃がすとか、《マスマティシャン》をどかす方法もいくらでもあったのにな……そんなんだから危うく鋼炎竜に焼き殺されかけるんだよ……)

 

 トップに祈りを捧げて《聖杯》を引き込めたのは、何のことはない奇跡だった――アインズは安堵する。

 

(まぁ……勝てたし、次はしっかり気を付けよう。『2度同じプレミはしないこと』……覚えてますよ、ぷにっと萌えさん)

 

 思い出すには遅すぎた、かつての仲間の言を心に刻み、そして来たるべき『次』の計画を練る。

 あるべき者の元へと配られるカードたち。休暇を潰すにはうってつけの遊び道具。40近くのデュエリストが揃う――ともなれば、

 

「大会とか……開いてみるか? 慰労を兼ねたレクリエーションとして。賞品はまた考えるとして……デミウルゴスも気に入ってくれたみたいだし、案を出してもらおう」

 

 

 

 夜は更けていく。ある者は業務に、ある者は計画に。ある者達は愛する主のために――。

 

 

 

 

 

 








 いかがでしたでしょうか。思いつきで一戦書き上げましたが、思いのほか本文が長くなってしまったようです。読みにくかった場合は申し訳ありません。

 未だ書籍10巻を読めていなかったため、そっちの展開がどうであろうと問題のないものを書こう!というのが執筆に踏み切ったきっかけです。

 とはいえ、私自身デュエル小説というのを初めて書いたので、読者の皆様のご意見ご感想を窺いたく思っています(ここがよかった、ここはこうした方がいい等)。そしてつづくっぽく書いてはみましたが、他の対戦マッチアップが全く思いつかないのでそちらの方もご意見いただきたいです。大会でも、休暇中の対戦でも。このキャラとこのキャラの対戦が見たい、等あればぜひ参考にお聞かせください。

 遊戯王では『アンデッ“ト”族』であって『アンデッ“ド”族』ではないんですが、ユグドラシルコラボ限定でそこはエラッタされたということで補完してください。

 デミウルゴスはバーン使いそう、でもロックバーンみたいにがちがちに固めるよりは逃げ道(希望)をチラつかせるビートバーンかな……と色々探していたら、鋼炎竜とかいういやらしいカードがあったので。ブラックデーモンズとかもあるので中々それっぽいんじゃないでしょうか、炎系ですし。今回はリソース管理ガバガバなプレイでしたが、次回はきっちり姑息なデッキをぶん回してくれることでしょう。

 アインズ様のデッキにはフルアンデッドのイメージが多いと思うんですが、かの廃人がデッキ一つしか持ち合わせていないとは思えないので『いくつかある中の一つ』です。多分アンデッド統一もあります。今回は久々にやるんだしいろいろしたかったのでしょうと言うことで。
 書く場所はなかったんですけど、『エネアード』はたっちさんにもらったカードという脳内設定も置いておきます。

 ルールミスはないと思うんですけど……どこかであったらぜひ教えてください。修正案をひねり出します。

 それでは、また次回。感想、ご意見お待ちしております。


(最初DDオルトロスの部分をゲリラカイトで書いたらアインズ様が敗けてしまったのは内緒)
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