今回は秀吉が天下統一をした後のお話。
天下統一後、秀吉はどこへ向かうのか?
新章スタートです!
狂い始めた歯車
ある日のことである。
俺はいつものように大坂城にいた。
天下統一から既に半年あまりが過ぎていた。
「小一郎、どうしているかな………」
最近小一郎に会っていない。
小一郎は自分の領地の大和郡山城で生活しているのである。
「戦もなくなって、まったりと過ごすのも悪くない。」
小一郎と会わなくなったのはともに戦う敵がいなくなったからかな。
「でもたまには顔を見せてくれもいいものを………」
そう思ったので手紙を書いて誰かに届けさせようとしたところ石田三成が俺の部屋にやってきた。
「おお、三成、丁度良かった。」
三成はえらく息を切らしている。
何かあったんだろうか………。
「関白殿下、お知らせしたいことが………」
「何⁉︎小一郎が死んだ⁉︎」
「は、はい。」
「その情報、偽ではないのか⁉︎」
「い、いや、確かな情報です。」
し、信じられん。
まさか。そんなまさか。
「鶴松(俺の子)もまだ三つ。おまえだけが頼りだったのに………」
「関白殿下………」
「小一郎………ともに築いた平和を二人で守ろうと誓ったではないか………」
俺は目の前が真っ白になり倒れこんだ。
その後のことはあまり覚えていない。
どうやら三成が俺を布団に連れて行ってくれたらしい。
目がさめるとそこには家康のところから帰ってきた母上がいた。
母上によると俺が倒れてから三日経っていたという。
「母上………」
母上はただ黙って座っていた。
もう涙もでなかったのである。
家康に嫁いだ俺の妹、旭姫も去年亡くなっており、母上にとっては立て続けに子供が死んでいるのである。
あまりに静かであまりに衝撃的な死であった。
ある時、秀吉は家臣一同を集めた。
「皆に今日は話がある。」
秀吉は一瞬ニヤリとニヤつき、こう宣言した。
「我々は明(今の中国)へ攻め入る。諸将はこれより支度せよ!」
この突拍子のない宣言に皆目が点になった。
当たり前である。秀吉が天下統一して平和になった。此の期に及んで戦が始まるとは思ってもみなかったからだ。
「宗義智、小西行長は朝鮮と交渉し、明攻めの先導をせよ、と伝えい!!」
二人はまだ状況を把握しないまま言われるがままに交渉の文を書き始めた。
宗義智にしてみてはこれは大変なことだ。
宗義智の本拠は対馬であるが、対馬は我が国と大陸の中継地点。宗家は代々大陸との交易で栄えていた。
それだけに宗義智はわかっていた。
明と朝鮮は仲が良いので朝鮮が明攻めの協力をする訳がない、と。
秀吉の言っていることがどれたけ無謀か、ということを。
そしてもし朝鮮とも戦うことになった場合、貿易で成り立つ宗家は窮地に立たされる、ということを。
重い雰囲気の中、ひとり皆を代表するかのように関白に物申す人物がいた。
石田三成である。
「関白殿下、明に攻め入るというのはあまりにも無謀です。それにその戦には意義、というものがありません。」
皆、秀吉がこのひと言で目が覚めることを心底願った。
誰も見知らぬ異国に行きたいものなどいないのだ。
しかし現実はそう甘くなかった。
「黙れ三成!臆病風に吹かれたか⁉︎」
「違います、我が国でせっかく戦がなくなったのに異国に戦を求める必要はない、ということを………」
「ええい黙れ黙れ黙れ!!もう決まったことじゃ!ごちゃごちゃ言うんじゃない!」
秀吉の異様なまでの執念に三成は体をピクリとも動かすことができなかった。
俺はどうしてもやらねばならんのだ。
かつて小一郎は俺のことを「最も優れた天下人」と言った。
俺はそれを実現するのだ。
天下を統一するのなら「信長」にもできる。
小一郎が期待したのはそれ以上。
すなわち世界の覇者だ。
しかしそれを実現する前に小一郎は死んだ。
ならばせめて小一郎が極楽浄土で安心できるように、小一郎が期待した世界の覇者になるんだ!
そうしないと俺は向こうに行った時、小一郎にあわせる顔がない。
「最近、殿下は変わられた。」
三成は親友の大谷吉継と話していた。
「うむ………秀長様が生きていたらこんなことにはならなかったろうに………秀長様のように殿下を諌められる人間がいなくなってしまった。」
「私がもっと粘っていれば………」
三成を悔しさと罪悪感が襲った。
「おぬしのせいではない。それよりこれからのことだ。宗義智殿や小西行長殿と協力してなるだけ穏便に済ませられるよう努力しよう。」
「うむ………」
秀吉が変わったと感じたのは三成だけではなかった。
「父上、どう思われました、今のは。」
「うむ………いったい殿下はどうしたのだ。」
黒田官兵衛である。
今は家督を息子の長政に譲り、出家して如水と称している。
「私は前、殿下とこんな話をした。」
『官兵衛、もし俺が死んだら次は誰が天下を取ると思う?』
『いや………それは鶴松様が………』
『信長の時は親子共々討たれた。俺の場合そうでないにしても鶴松はまだ幼い。これにつけこみ天下を取る輩が居るかもしれん。』
『では………』
『おそらく俺が死んだらおぬしが天下を取るだろうな。』
『な、なんと!!』
『ふふふ、俺には分かるぞ、おぬしの野心が。』
『な、な、な、』
「だから私は隠居したんだ。身の潔白を証明するためにな。」
「父上………」
「殿下は秀長様が死んでから、これからは一人で天下を治めなければならない、というプレッシャーで疑りぶかくなった。
それからというもの家来のいうことも聞かないしな………
明攻めも秀長様死去の影響だろう。ろくに皆の意見も聞かずに頭が混乱した状態で決めたもんだから普通なら異常と感じることも平気で言ってのける。」
「父上、これからどうなりましょう。」
「………分からん。」
ある時、俺は利休のところで茶を飲んだ。
「辛いこともありましょうがこの利休、お役に立てれるなら何でも致しますぞ。」
「心強いな。………ところでなぜわざわざ俺の気に入らん狭い茶室で黒い地味な茶碗を使って俺に茶を振る舞う?」
「こういった心境の時こそ落ち着いた世界で茶を飲むのです。
殿下の好きな派手な茶室や茶碗では心も落ち着きません。」
「俺を否定するのか?」
「いえ、そういうことでは………」
「そういえばおぬし、大徳寺という寺の山門の上に自分の木像を置いたそうだな。」
「あ、それは私が火事で焼失した大徳寺の復興の費用を出したので寺が善意で置いているのです。」
「山門の上に像を置くとは………あの門は俺もくぐるのだぞ。」
「………?」
「その門の上に利休の像があったら、利休が俺を踏みつけでいるみたいではないか!!」
「………そ、そんな滅相もない。私は決して………」
「黙れ!今まで俺を否定した挙句、俺を踏みつけおって!まさかおぬし天下を狙っておるな?そうはさせん!たとえ小一郎が居なくても俺一人で天下を守ってみせる!!」
「関白殿下………!!」
「利休!切腹せよ!」
侘び茶の開祖、千利休は関白秀吉の命により切腹した。
小一郎秀長の死からわずか一カ月しか経っていなかった。
豊臣家は小一郎秀長の死で歯車が狂った。
利休切腹は小一郎秀長の死で変わり果てた秀吉を象徴する事件である。
これから秀吉は秀長と共に築いた豊臣家を自らの手で破滅へと導いていく。
ただ、まだ秀吉はそれを知る由もなかった。
次話、いよいよ朝鮮出兵。
豊臣家はこれからどうなるのか?
次話お楽しみに〜☆