豊臣秀吉 「日本史上最も優れた天下人」   作:藤種沟

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どうも、手羽先ちゃんです。

今回でついに最終回です。

何か………ホッとするような、寂しいような、複雑な気持ちです。


ゆめのまたゆめ

ある日、信長様が俺の寝床に立っていた。

 

「の、信長様⁉︎」

 

「猿、いつわしのところに来るのか?待ちきれなくて迎えに来たぞ。」

 

わしのところ………?

極楽浄土のことか?

 

「お気持ちはありがたいのですがそれがしにはまだやらねばならない事が沢山あります故、まだそちらには参れません。」

 

「天下を取ったのにか?」

 

信長様の顔が少し険しくなった。

 

「はっ我が国は統一できましたが未だ朝鮮などは服従せず、そちらを征伐し………」

「黙れ!猿!織田家のの天下を横取りしおって!言いたいことは山ほどあるぞ!」

 

言い終わらないうちに信長様は怒鳴った。

 

「お、お待ちください。それがしは信長様の意志を継いで天下を平らげただけのこと。信長様に怒られることは何一つ………」

 

信長様の顔はますます険しくなる。

 

「黙れ黙れ黙れ!此の期に及んで未練がましい‼︎わしはな、我が子のあまりに情け無い姿を嘆いておるのだ!我が子、信雄(次男)は今どうしておる⁉︎」

 

信長様の声で城が崩れそうだ。

 

「………小牧長久手での戦い以降、それがしの御伽衆(主君の話し相手)として雇っております………」

 

「信孝(三男)は⁉︎」

 

もう、信長様は、目を合わせるのも辛いような顔をしていた。

 

「柴田勝家を倒した後………切腹に追い込みました………」

 

「秀信(信長の孫。三法師)は⁉︎」

 

信長様の気迫で飛ばされそうだ。

 

「それがしのもとで成長して………豊臣家の家来に………」

 

「おぬしには忠義というものが無いのか⁉︎真の天下人たる織田家を飲み込み、我が子供達をアゴで使いおって‼︎いますぐわしのもとへ来い‼︎早く‼︎」

 

「の、信長様⁉︎」

 

俺は信長様に胸ぐらを掴まれ、布団から投げ飛ばされた。

 

「猿………猿………‼︎」

 

「ヒイィ‼︎」

 

 

 

 

 

 

「太閤殿下‼︎」

 

目がさめると俺は三成に起こされていた。

 

「大丈夫ですか?だいぶうなされておられましたが………」

 

「大丈夫、大丈夫。」

 

ふう、夢か………

 

起き上がると俺は唖然とした。

 

夢の中で信長様に投げ飛ばされ、倒れたところで俺は横になっていたのだ。

 

「ヒイィ‼︎信長様⁉︎」

 

「いかがなさいました?」

 

三成が心配そうに聞く。

 

「最近、お身体の調子が良くありません。横になってらっしゃいませ。」

 

「う、うむ………」

 

本当に体調が悪い。

頭はくらくらするし、吐き気がする。

 

朝鮮に二回目の出兵をするにあたって俺は名護屋城にいたがどうも体調が優れず、京都に帰ってきたのである。

 

「朝鮮の戦況は?」

 

「はっ思わしくありません。前回は漢城、平壌と占領できましたが今回は漢城の手前までしか進軍できていません。」

 

「朝鮮も二度目の出兵に備えてあったのだろうな………まだ朝鮮の件は時間がかかりそうだな。」

 

「御意………そろそろ失礼します。」

 

三成は静かに部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

信長様の夢を見てからというもの、俺は数々の悪夢に惑わされた。

 

ある日は切腹させた千利休や秀次が出てきて、またある日は小一郎が出てきて、またある日は竹中半兵衛や蜂須賀小六が出てきて、早くこっちへ来いと誘ってきた。

 

秀頼はまだ六歳だ。

 

今俺が死んだら隙をついて豊臣家を乗っ取ろうとする輩が出るかもしれない。

 

まだ俺は死ぬ訳にはいかないのだ。

 

しかしそういうと利休や秀次は、自分たちを切腹させておいてわがままだと俺を連れて行こうとする。

 

小一郎や半兵衛、小六は自分たちが死んだ後、豊臣家にはろくな事が起こっていないと言って、早くこっちへ来ないとまた俺が何をするか分からんと脅してくるのだ。

 

毎日のように見る悪夢のせいで俺はさらに体調が悪くなり、精神的にも疲れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「太閤殿下。」

 

「おう………どうした………」

 

俺は疲れ切った声で言った。

 

「前田利家様がお見舞いに見えました。」

 

「おう………通せ。」

 

「はっ」

 

 

 

 

 

「秀吉殿、久しぶりだな。」

 

「おう、利家殿。わざわざ来てくれてかたじけない。」

 

久しぶりに会った親友と長々と話した。

 

最近、毎日のように悪夢を見ること。自分の体調が優れないのでもしものことがあるかもしれない、ということ。もし自分が死んだら秀頼のことを頼む、ということ。

 

「そんな弱気なことを言うな、秀吉殿。」

 

「いや、俺はもう疲れた。」

 

「秀吉殿………」

 

「………」

 

しばらくの沈黙。

 

利家殿も何と言ったら俺の元気が出るのか、悩んでいるのだろう。しばしの間、二人の口は閉じたままだった。

 

最初に口を開いたのは俺だった。

 

「最近、俺は信長様の気持ちがやっと分かるようになったんだ。」

 

「………?」

 

「信長様は残忍で、逆らう者は容赦なく切り捨て、天下を目指したお人だった。」

 

「うむ。俺も織田家に仕えていた身。それくらいは知っている。」

 

「俺はな………なぜ信長様はあんなに残忍になったのか、ということが分かったのだ。」

 

「………?」

 

「まあ………俺も人のこと言えないんだが………権力を得ると………どうも人は残虐になるのかな………」

 

「………???………分からんな………?」

 

「信長様は………自分で望んだのか成り行きでそうなったのか分からんが………独裁的で何でも一人で決めた。だから一人で、自分の築き上げた権力を守らにゃならなかった。

だから神経が余計ピリピリして、自分に逆らう、自分の権力を覆す可能性のある人間に残虐な仕打ちをしたんだな………小一郎が死んだ後の俺のように………」

 

「………」

 

利家はてっきり秀吉が自分のやっていることが分からず、秀次切腹や朝鮮出兵を断行したものだと思っていたから、秀吉が自分が残虐だと認めたのであっけにとられた。

 

俺はそんなこと気にもとめず喋り続けた。

自分の話せるうちに自分の気持ちを伝えておきたかったのだ。

 

「信長様はそれが原因かどうか分からんが結局、志半ばで倒れ、子供たちも落ちぶれてしまった………。まぁ子供たちの件は俺が原因だが………」

 

「………」

 

「俺は本当に馬鹿なことをした。将来の不安に取り憑かれて………

 

俺は怖いんだ。俺が散々残虐なことをした後の豊臣家の運命が、秀頼の運命が………。信長様亡き後の織田家のようにならないか………」

 

「秀吉殿………」

 

「ま、織田家を落ちぶれさせた張本人がとやかく言えたものじゃないがな………」

 

「………」

 

「俺はその昔、信長様が足利義昭を追放した時、義昭を送っていったんだ(第七話参照)。その時、権力のはかなさを感じずにはいられなかった。信長様もあれだけの権力を持っていたがついには滅びた。

 

豊臣家も………そのうちはかなく滅び去る運命にあるのだろうな………地上に消えるひとしずくのつゆのように………」

 

そう言い終わると、俺は利家殿の手を握り、言った。

 

「利家殿、俺は多くは望まん。平和な世を保ってくれ。

 

権力者が残虐な行いをして保つ平和ではなく、真の平和を築いてくれ。犠牲の上に成り立つ平和など真の平和ではない。

 

真の平和とは…ゲホッゲホッ………」

 

「大丈夫か、秀吉殿‼︎」

 

「ゲホッゲホッ」

 

「誰か!誰か医者を呼べ‼︎」

 

 

 

 

 

「むむむむ」

 

「医者、秀吉殿の容態はどうじゃ?」

 

「極めて良くありません。治る見込みは無いに等しいかと………」

 

医者は首を横に振りながら言った。

 

「利家殿………皆を呼んでくれ………」

 

「分かった。」

 

しばらくして皆集まった。

 

「寧々(秀吉の妻)………」

 

「はい………」

 

「いろいろ苦労をかけたな………今までありがとう。」

 

「太閤殿下、これからも共に生きとうございます。」

 

俺はゆっくり首を横に振った。

 

「………もう俺はだめだ。もうすぐあっちへいく。」

 

寧々は俺の手を握りながら涙を流している。

 

「三成………」

 

「はっ」

 

「朝鮮から………兵を引くように手配せよ………」

 

「………はっ」

 

「朝鮮の事、苦労かけたな。」

 

「太閤殿下………」

 

三成は平常を装おうとしているが、今にも泣きそうだ。

 

「利家………」

 

「おう」

 

「おぬしには秀頼の養育係を頼みたい………立派な子に育ててくれ。」

 

「安心しろ。立派な子に育ててみせる。」

 

利家は頼もしく言ったが、寂しそうな顔をしていた。

 

このように一人一人に一言ずつ話をしていった。

 

そして最後に秀頼に話しかけた。

 

「秀頼………」

 

「はい。」

 

「これからの豊臣家………頼んだぞ。」

 

「はい。」

 

秀頼は頼もしく頷いた。

 

「こんなに早く死んでしまってすまなかったな………」

 

俺の頬を涙が伝う。

 

「父上、悲しまないで。秀頼は立派な大人になってみせるから。」

 

まだ六歳の少年は、父親が死ぬことをまだ理解できていないらしい。

 

秀吉は我が子の頭を撫でながら弱々しく笑った。

 

「ふう、俺は疲れた。少し休ませてくれ。」

 

「はっ」

 

皆、俺の部屋を出ていく。

 

「待て。」

 

俺は一人の男を呼び止めた。

 

徳川家康である。

 

「少し話がしたい。良いか?」

 

「もちろん。」

 

 

 

「家康………」

 

「はっ」

 

家康は悲しくも嬉しくもなさそうな、無表情な感じでそこにいた。

 

「おぬしは戦では俺に勝ったが(小牧長久手の戦い)全体的には俺に負けたな………」

 

俺は意地悪な笑みを浮かべて言った。

 

「まだ天下を狙っておるか?」

 

「いえ、そのようなことは………私は秀頼様を支え、豊臣の発展に尽くすつもりです。」

 

家康は動揺せず、答えた。

 

「ふふふ、まあ良い。おぬしが天下を取るにせよ、豊臣の重臣として働くにせよ、天下はしばらくおぬしのものとなる。

もしおぬしが天下を取ったら、俺のような失敗はするな。むやみに人を殺したり、海外に兵を出したりしてはならぬ。

 

日本は任せたぞ。」

 

俺はできる限り力強く言った。

ただ、昔のような力強さは出せなかった。

 

「御意。」

 

家康はここで初めて寂しそうな顔をした。

 

「下がって良い。」

 

家康は部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆が部屋を出て、その時が来るまで長くて短い静かな時間が流れた。

 

ふう〜

 

俺も終わりか………

 

まるで地上に消えるひとしずくのつゆのような人生だった。

大坂城を築いた、難波の事も夢のようだった。

 

「ふふふ、良い夢を見たわ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太閤豊臣秀吉は京都伏見城にて六十二年の生涯を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 




何はともあれ、ついに最終回!

とにかく、一言言わせてください!

今まで本当にありがとうございました!
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