グランディスクワガーモンの咆哮により、周囲のデータが乱れる。強力なXデジモンが放つ力の波動はこの時代のデジタルワールドにおいては危険極まりない代物だった。
ドルモン達はコントロールしているため影響を最小限に抑えられているが、彼にそんな思考はない。
周囲のデータを破壊しながら、グランディスクワガーモンは前進していた。眼前にいるのはストライクドラモン。すでに攻撃により体はボロボロで、プロットモンがネフェルティモンに進化し、彼を守っている。
カノンが魔法剣を撃ち込んで攻撃するも、一向に止まる気配は無い。
「――X抗体の力に呑まれて暴走してるのか!?」
「まずいですね。早急に手を打たなくてはなりません」
「そんなこと言ったって、足止めするのが精いっぱいだよ!」
サンゾモンの言う通り、早急に手を打たなくてはいけないが……それも簡単な話ではない。ゴクウモンたち弟子三体が直接グランディスクワガーモンを抑え込み、マキナが状態異常弾で体の各部をバグらせて行動を阻害しているものの、動きは止まることがない。
それどころか、一秒たつごとにどんどん力が増していっている。
「ねえカノン、かなりまずい状況なんじゃない?」
「ああ――Xプログラムは元々デジモンを削除するために用いられるものだ。だから、時間経過で自然消滅する可能性が高い。あいつは無理やりデジコアと融合させて使っているけど」
無理やりが故に、体がメルトダウンを起こしている。副作用としてパワーが上昇し続けているから厄介ではあるのだが。自然消滅を待つという手もなくはないが……
「いや、自然消滅はまずいな」
「その通りです。あの自然消滅など許してしまえば、あのプログラムが放出されてしまいます」
ならばと、カノンは自分の右腕を見つめる。デジタマ化を行うことが出来れば、とりあえず何とかなるのではないか? 以前ドルモンやプロットモンとなる前のデジモンに自分が行ったように、あの力を使えれば――そう思った矢先、サンゾモンはカノンの考えを否定した。
「貴方の力の一端を用いるのはやめた方がいいでしょう……β版にそんな甘い考えは通用しません。デジタマの状態でもメルトダウンが続くはずです」
「そうか……なら、どうすればいいんだよ」
正直な話、デジタマ化がダメなら奥の手の凍結封印でもダメだろう。術式自体は持っているものの、使いどころの少ない奥の手を思い出して嘆息する。
とにかく早く処置しなければXプログラムが放出されてしまう。抗体のあるドルモンとプロットモンは大丈夫かもしれないが……
(僕の打てる手じゃどうにもならない。どうする? 何か手はないのか?)
X抗体の削除ツールについて前に話したことがあると思う。だが、今回の場合それは使えない。あれはデジコア内のX抗体、それも通常のものに対して使うことを前提としたプログラムだった。
β版なんてものは初めて見たため、使うことが出来ない。
と、そこでサンゾモンが焦ったカノンの表情をみて話しかけてきた。
「…………なるほど、そちらはまだ持っていませんでしたか」
「? サンゾモン、なにか手があるのか?」
「ええ――本来なら、すでに貴方は入手して然るべきかと思いましたが、以前行った選択が故に手に入れることはなかったのでしょうね」
何かを納得するように、サンゾモンは頷き手のひらに小さな光の球を出現させた。
それを二つ、カノンとマキナへとぶつける。
「なんだ!?」
「え、何!? なにコレ!?」
「今あなた方に渡したのはX抗体を剥離させるプログラム、Xリムーバーです。β版にも対応した、マスターデータによるものですから効果がありますよ」
「そんなものがあるのか!?」
「ええ……お二方、私たちが何としてでもあのデジモンを止めます。剥離させたのちに、すぐに封印を施してください」
「わかった。マキナ、やるぞ」
「オーケー。それじゃあ本気でやりますか!」
二人の力が解放される。マキナはフードを深くかぶり、自身のデータを解放する。獣のデータが肉体を強化し、胸元がはじけ飛んで光り輝く紋章が出現した。
カノンの姿が緑色の光に包まれる。以前ライラモンから受け取ったデータ。それが、彼を新たな進化へと導いた。身を包むのは植物族のデータ。緑色の新たな形態――
「超進化、アイギオテゥースモン・グリーン!」
「覚醒、シスタモン・ノワール!」
マキナが銃を乱射し、グランディスクワガーモンへと攻撃する。彼の体のデータが乱れるように姿がブレて動きが数秒だけだが止まる。
その隙にカノンが接近し、両腕の茨を使いグランディスクワガーモンの体を拘束した。
そしてその拘束した体を起点にし、上空へと飛び上がる。
「ドルモン、チャージ開始だ! 合図したらぶち抜け!」
「合点ッ!」
ドルモンの姿が変わる。赤い色の巨体、完全体のドルグレモンへと進化し、その角へとエネルギーが蓄積されていく。
カノンは茨を切り離し、次の攻撃へと移る。反撃の隙を与えさせてはいけない。一秒が勝負を決める。だからこそ、全力でリムーバーを撃ち込まなくてはいけない。
(必要なのは砲撃、ならブルーだ!)
機械族のデータを引き出し、肉体が変質していく。
マキナも砲撃のチャージを完了させており、狙いを定めていた。
「マキナ、いくぞぉおおおお!!」
「しっかり合わせてよね!」
マキナの銃と、カノンの右腕から砲撃が放たれる。リムーバープログラムによってX抗体をはがす効果を持った光に飲み込まれ、分解されたデータの一部が放出されていっている。
そのデータが寄り集まる、本の形へと再統合されていく。
「ドルゴラモン、いっけぇええ!」
「ブラッディータワー!」
赤い色の閃光がグランディスクワガーモン……いや、メタリフェクワガーモンを貫き、一撃で消滅させた。
時間はギリギリ、なんとかXプログラムを放出させずに済んだ。
「まったく、ひやひやしたよ」
カノンはXプログラムが形となった本をその
と、そこで何か違和感に気が付いた。
(あれ……ブルーに進化したはずなのに、赤色だった?)
改めて右腕を見てみるが、すでにアイギオモンに退化している。
そもそも砲撃なら右腕ではなく左腕で行うはずだったのだが……
(……まあ、失敗したわけじゃないし、僕の気のせいか)
とにかく、ひとまずの危機は去った。どさりと地面に座り込み、息を吐く。
気が気でなかっただけに、疲れがどっと出てきたようだった。
◇◇◇◇◇
ピコピコと電子音が鳴り響く。ひとまずの戦いを終え、各々回復を図っていた。その中で僕は回収したXプログラムのβ版をチェックしている。
基本的には前にドルモンのデジコアに入り込んだ時に見たX抗体内のデータと同じだ。だけど違う点も色々と見つかった。
「……やっぱりXプログラムに感染してから消滅までに多少時間がかかるのか」
正規版ならすぐにデジコアが消滅しかねないが、β版では強制的にX抗体が発生し、その負荷もあって消滅するような形になっている。メルトダウンの原因はこれだろう。
逆に言えば、短時間ならばパワーアップが確実に可能でもあるのだが。
β版はX抗体が確実に発生するが、剥離しなければ確実に消滅する。
正規版はX抗体は適性があれば発生し、それ以外のデジモンは消滅する。
違いと言えばこんなところだろう。危険物には変わりないので封印しておくが。データを消去しようにも妙な不具合が起こされても困るため、現実世界でもないと怖くて取り出せない。
「…………残りのエレメントは3つ。アイギオテゥースモンも姿が4つになった」
この時代に来てから、色々なことがあった。そろそろ向き合うべき時が来たのかもしれない。
幸いにも、事情を知っているかもしれないデジモンに出会えた。
「サンゾモン。教えてくれ……僕は一体、何者なんだ?」
イグドラシルとの接続能力、デジモンを直接デジタマへと還元する力。ブラスト進化を発動させた際のあの力の波動、他にもただの人間の範疇から逸脱した力を僕は発揮してきた。
今までは理由を知ろうにも答えまでたどり着けない状況だった。だからこそ、僕の姿を見て何かを知っているようだった彼女に話を聞いた――のだが……
「残念ですが、答えまでを教えることはできません。それはあなた自身が直接確かめなくてはならないからです」
「やっぱりそう簡単に教えてくれないよなぁ……」
「ですが」
サンゾモンは諦めるには速いとばかりに、僕の方を向いて語り掛ける。
「この時代における戦いが終わった暁には送り届けましょう。あなたが、真実をしるための場所へ」
「――――え」
「まずはこの時代の歪みを修正しないことにはたどり着けない場所です。まずは目の前の問題を片付けることを優先するべきでしょう」
それだけ言うと、サンゾモンは立ち上がりお供の方へと向かった。
……のらりくらりとかわされたが、ゴールが見えてきた。やはり彼女は知っているのだ。そして、僕が目指すべき場所も。そこへ行くための方法も握っているのだろう。ならば、やるしかない。
「よしッ」
マキナ達も休息を終えてサンゾモンを見送る。彼女たちは彼女たちで行かなくてはならないところがあるらしい。水の神殿には僕たちだけで向かうことになる。
まあ、当初の予定通りだが。
「それではみなさん、再び会う日を楽しみにしております。私たちは光の神殿の方へ向かうので、出会うとしたらその付近になるでしょうけど」
「お前たち、達者でな」
「短い間だったけど楽しかったヨ。また会おうゼ」
「それじゃあアチキ達はこの辺でー」
そして互いの道は分かれる――と思われた。
ストライクドラモンが前に出て、声を上げたのだ。
「待ってくれ!」
「む?」
「……決心はついたようですね」
「ああ――すまねぇカノン。俺はサンゾモンたちについていく」
「ちょ、ストライクドラモン!?」
「いったいどうしたです?」
マキナとプロットモンは驚いているが、僕はストンと状況が飲みこめてしまった。ドルモンも薄々感づいていたんだろう。何も言わず、彼をじっと見ている。
ストライクドラモンは拳を握り、悔やむ様に語りだす。
「俺、今のままじゃダメなんだ……力だってお前たちについていけていない。心だって弱いままだ。ライラモンがいなくなって、本当にどうしたらいいのかわからなくなっちまった…………だから、強くなりてぇ。今のままじゃ俺はダメになり続けちまう。お前たちに甘えたまま、何もできない奴になっちまうんだ。
だから、俺はもっと強くなる。力だけじゃねぇ、心も――今度は守れるようにならなくちゃいけないんだ。だから、俺はお前たちとは一緒には行けない」
「ストライクドラモン……」
「それがお前の決断なんだな?」
「ああ――悪いな」
「いや、それが自分で決めたことならそうするべきだと思う。サンゾモン、すいませんが……」
「大丈夫です。これもまた運命、今は別れる道でしょうが、いずれ再び交わるでしょう――彼のことは任せてください。必ずや、導いてみせます」
そして、サンゾモン一行にストライクドラモンが加わった。
僕たちは先へ進まなくてはいけない。大丈夫、今度は永遠の別れではない。
「いつかまた、出会う日が来るさ」
「うん――ウチたちも頑張らないとね!」
「地図だとロコモンの線路って近かったよね。中で休めるだろうし、飛ばしていこう!」
ドルモンはラプタードラモンに、プロットモンはネフェルティモンに進化し僕とマキナはそれぞれ背に乗った。まっすぐロコモンの線路へ。
風を切って進み、やがて目的の線路が見えてきた。
◇◇◇◇◇
「まさか線路に触るとすぐに情報が伝わるとは思わなかった」
「近くにロコモンがいてよかったね」
線路を見つけたのはいいが、肝心のロコモンがいないなと思いなんとなく線路を触ったところ、すぐに彼へと情報が伝わってロコモンがやって来てくれたのだ。
まあ、近くにいてくれたということもあるのだが。客車内は快適な温度となっており、長旅の疲れもあって椅子に深く座り込んでしまう。
「ふぅ……一息付けるよ」
「まったくだね」
「他にも乗客はいるみたいだけど、運行ダイヤとか大丈夫なのかな?」
「さっきロコモンに聞いたら彼らも海へ向かうデジモンたちだって言っていたよ」
「へぇ……どおりで水棲系が多いなぁと思ったら――――?」
「マキナ、どうかしたか」
「ねえあの子って見覚えない?」
「ん?」
マキナが指さしたデジモンは、赤い色の……オタマモン?
「――――!」
「うわっ!? って、お前あの時のオタマモンか」
オタマモンは僕に向かって飛びこんで、喜びの声を上げている。どうやらしゃべれるタイプではないらしいが、表情から感情がまっすぐに伝わってくる。
「なんだかおもしろいね」
「なにがだ?」
「別れもあるけど、こういう出会いもあるんだなって」
「……そうだな」
たしかに、旅ってのは面白いものだな。
さあ目指す水の神殿がある大海原は近い。
次の冒険はすぐそこへ迫っている。
アニメで言うなら次回からOPが変わる感じです。
そういえば超進化魂のアルファモンが参考出品されたそうですね。実際に商品化するかどうかはわかりませんが、期待しております。