ブラスト進化。丈達にもメタルエテモンでさえもその仔細は分からなかったが、ただ一人。命が消えいくサーベルレオモンにだけは何となく理解できていた。今、この瞬間に彼の命が消えて行っているからこそ気が付くことが出来たというべきか。
(……なるほど、彼のデジヴァイスにあったのは生きる力そのものか。光でもあり、闇でもある。だからこそ異質に感じたが…………ある意味どこにでもある力だ)
異質なのはそれを反発するでもなく表裏として存在させているわけでもない。当たり前のように併せ持っているのが他の誰とも異なるところだ。
昔聞いた伝説に、そんな力を持った魔王の存在がいたことを思い出したが……それとは違う。調和のとれたものだった。だが、サーベルレオモンの犠牲をきっかけに、その奥にある何かが目覚めてしまった。
奥底に眠っているものが今この現象を引き起こしている。
(性質は光だ――だが、身を焦がす太陽のような輝き……あまりにも危険だぞ)
しかしもう止めることはできない。
カノンからあふれ出した光はデジモンたちに降り注ぎ、彼らを強制的に進化させてしまう。
「うぉおおお!!」
まずオーガモンの姿が変わり、巨人のような姿へ変貌する。手に持っていた棍棒は大剣へと変化し、鬼神のような出で立ちだ。
「ガアアアア!!」
「なんなのよ!?」
メタルエテモンはその攻撃をかろうじてかわすものの、今度はいばらの鞭が彼を捕える。
赤いバラのような姿をした、女性型のデジモンだ。彼女がメタルエテモンを捕まえたのだ。
「――この、ふざんけじゃないわよ」
「――ッ」
「ってまたぁ!?」
次に攻撃したのは巨大な鉄球を二つ背負った獣人のようなデジモン。鉄球には棘が付いており、それらが射出されメタルエテモンへ迫る。
「この――調子にのるんじゃないわよ! どうやって進化したのかは知らないけど、所詮付け焼刃――なっ!?」
黒い雷撃を放出し、攻撃をそらそうとしたが効果が見られない。慌ててかわそうとすれば、黄色い鎌が突き立てられる。黄色い忍者のようなデジモンが、組み付いてきていたのだ。
すぐに身をからめとられ、地面へ叩きつけられてしまう。
「ごはっ――!? この、ダークスピリッツデラックス!」
とっさに攻撃を仕掛け、体勢を立て直そうとするが――オタマモンの姿が変わり、イカの様な触手を生やしたデビモンのようなデジモンとなって攻撃を防ぐ。
その後ろから、鎧を着た男の人魚のようなデジモンが手に持った武器を使い子供たちへ襲い掛かっていた雷撃を全て弾き飛ばしていた。
「そんな、このメタルエテモン様の攻撃をいとも簡単に!? こんなのありえないわ――ッ」
その直後。地面が盛り上がり、噴火する。巨大な大岩に手足をはやしたようなデジモンが叫んでいる。彼の咆哮により大地の力が解放されたのだ。それにより、メタルエテモンは再び吹き飛ばされてしまう。
そのあと光の鎖がメタルエテモンを捕える。それを行ったのは、緑のローブに身を包んだ鏡のようなデジモンだ。二体が息の合った連携を見せ、メタルエテモンを捕縛したのである。
「なんなのよ……なんなのよこれは!」
わけがわからない。その一言に尽きるだろう。
カノンから発せられる光は更に大きくなり、より大きな力を放出しようとして――途端に、弾けてしまった。紋章が一際大きく輝いたと思ったら、光を発さなくなったのだ。それどころかカノンから放出される力を吸っているようではないか。
「ふふふ……あはははは! 何だかわからないけど、どうやら打ち止めのようね! だったら今度こそあんたたちの……ッ」
悪寒。いや、死の恐怖と言うべきか。
体に駆け巡ったのはいったい何なのか。メタルエテモンにはわからなかったが、なにかとても恐ろしいものが現れたのだけは分かった。
急いで逃げなければいけない――だが、体は依然としてとらえられたまま。身動きが取れない。
「あ、あああああ……いや、やめて――嫌アアアア!?」
「グル……メタルインパルス」
直後、メタルエテモンのデータは消し飛んだ。ただ、デジコアのデータだけを残して。最後に現れたドルゴラモンにも似た竜はそのデジコアを見続けていたが――それはいらないとでもいうかのように、指でひとはじきして消し飛ばす。
そして、全員の姿が元に戻っていく。みな驚きに目をまわしており、首をかしげていた。
「みんな大丈夫かい!?」
「あ、ああ……なんだったんだ今の? なんだか急に体か力が湧いてきたと思ったら、いつの間にか……?」
「そんな感じだった。強くなった――かと思ったら気がついたら元に戻ってて……あれ?」
全員が先ほどまでのことを覚えていないらしい。通常の進化とは違うのか、ゴマモンもズドモンのままだ。まさに、”元”に戻ったのである。
「……あ」
「カノン君!」
丈が走り、カノンを抱き留める。体からどっと汗が流れ出しており、顔色も悪い。だが、意識が飛んでいるわけではなく正気を保っていた。
「さっきのは、いったい……」
「僕にも、わかりません…………体の奥底が暑くなったと思ったら、頭の中に色々な情報が流れてきて、それ以上はなにも……それより、レオモンは?」
「……」
丈は黙って首をふる。サーベルレオモンからレオモンに退化しており、どんどん息吹がなくなっていっていた。ミミが泣いて彼にすがり、死なないでと叫んでいるが……もう長くない。
「……森が、戻っている」
「え……」
レオモンの瞼が開き、彼の目線の先を見るとたしかに森が戻っていっていた。誰かがピノッキモンを倒したのだろう。これで、また一つデジタルワールドが元に戻っていった。
「すまんな、私はここまでのようだ」
「諦めないで! まだ助かる方法はきっと……」
「いや、自分の体のことは、自分がわかっている……」
「なんで、なんでそんな風に笑えるんだよ」
ドルモンの言葉にレオモンは彼の額をトンとつき、言葉を続ける。
「命は受け継がれる。ここで私が倒れもお前たちがあとを継いでくれる」
そして、今度はオーガモンへと向き直った。彼にも、まだ言わなくてはならないことがあるから。
「すまんなオーガモン、決着をつけられなくて。はじまりの町でまた生まれ変わる時まで、勝負は……お預け、だな」
「レオモン……」
オーガモンが涙を流し、レオモンに手を伸ばすが――その手をレオモンが握る前に、彼は消え去った。
「ちくしょう!!」
「……結局、こうなるのかよ!」
丈もカノンも自分の無力さが嫌になった。もっと何かできたであろうに、結局はまた一つ命を失っただけだ。
「…………二人とも、はじまりの町へ行こう」
「そうね、あそこならレオモンも生まれ変わる。それに、ピッコロモンたち今まで死んでいったデジモンもきっと――」
「残念だが、それは無理だぜ」
「――え」
淡い希望。だが、それはオーガモンの口から否定された。
「俺はこの前行ってきたんだよそのはじまりの町に。だが、ダークマスターズのせいではじまりの町は死んじまった。デジタマは黒く染まり、孵化することはない」
「そんな……でも、カノン君の持っているデジタマは!?」
「それは向こうの世界で手に入れたデジタマだろう? こっちになかったから影響を受けなかっただけだ……俺も最初に見たときはもしかしたらと思ったが、そいつは運よくそのままだっただけさ」
「そんな……」
「それで、どうするんだ? ダークマスターズを倒さない限りレオモンたちは生き返れねぇぜ」
「オーガモンの言う通りだ。今はダークマスターズを倒すしかないんだよ」
「ねえ、ミミ……アタシも戦わせて。戦わなくても仲間が死んじゃうんなら、戦った方がいい」
「――――わかったわ。はじまりの町を元に戻すためなら、私なんだってするわ!」
ミミも戦うことを決意した。カノンもその姿をみて、疲れた体を叩き立ち上がる。立ち止まっている暇はない。落ち込んでいたらそれこそダメだろう。
「ねえオーガモン、あなたも手伝ってくれる?」
ミミはオーガモンに問いかけるが、彼は少しの驚きと照れで横を向く。
「本当ならお前らに手は貸さねぇんだが……まあ、しょうがねぇか」
「ありがとう! 心強いよ!」
「そうと決まったらまず仲間を集めねぇとな。あちこちにダークマスターズに抵抗しているデジモンたちがいるはずだ。まずはそいつらを集めるんだ!」
「なるほど……」
「ねえお姫様。おれたちもついていっていいタマか?」
オタマモンとゲコモンもミミにそう聞いているが、なぜかミミは顔を険しくして彼らの申し出を断った。
「ダメよ!」
「なっ――」
「ミミ、って呼んでくれなきゃダメ」
「――ミミ!」
「うん!」
もうお姫様ではない。これからは仲間なのだから、ちゃんと名前で呼ばれなくてはだめだ。一つの決意を新たに、彼らは先へすすむ。
今この時、他のえらばれし子供たちもそれぞれの道を歩み始めていた。
太一たちは次のエリアの主であるダークマスターズを倒すためにまっすぐ進み、ヤマトとガブモンは自分を見つめ直すために仲間たちから離れ、進んでいる。その過程で、彼らがピノッキモンを降した。
そして最後に彼ら。一度後方に下がったものの、目的のために再び前へ進みだしたものたち。
「乗り掛かった舟だし、オレたちも最後まで行くよ!」
「また渋谷に遊びに行きたいからな」
「スカモンが生まれ変われるように、オイラも頑張る」
「それじゃ、準備をととのえて先に――――およ?」
同行者たちも決意を新たにしたとき、唐突に異音が響く。
ぴきぴきと音が鳴り、デジタマがグラグラと揺れて暴れ出しそうになっていた。
「もしかして、生まれるの!?」
「なんだか激しく動いているけど、これ大丈夫なのよね?」
「たぶん……オーガモン、デジタマってこんなだっけ?」
「いや俺も初めて見る――っていうか生まれたばかりのデジモンもここまで激しくは動かないぞ!?」
そしてついにデジタマが割れ、中から白い何かが飛び出した。そいつは歯茎をむき出しにし、カノンの顔にかぶりついてしまったではないか。
「――――」
「カノン、君?」
「えっと……このデジモンどこかで見覚えのある…………でもデジタマから出てきたにしては大きいような?」
「――生暖かい!」
顔から引きはがし、そのデジモンをみると……なぜか、すでに一段階進化した状態で生まれてきていた。
「トコモンよね、そのデジモン」
「ああ、そのはずだけど……デジタマからうまれたのなら、ポヨモンのはずなのに…………それに、触覚の形も変だな」
パタモンの進化前であるトコモンではあるのだが、触覚の形が微妙に違うのだ。おでこのあたりで交差しており、Xのように見える。
トコモンとは違うデジモンかとも思うが、ゴマモンたちがそれはないと首を振る。
「確かにそのデジモンはトコモンだよ。なんだか違うけど」
「でもなんでトコモンの状態で……カノン君? どうしたんだい、なんだか顔が怖いけど」
カノンの目が驚きに見開かれていたが、やがて何かに納得したかのように落ち着いていく。
「いえ、そっか……元々X抗体を持っていたんだから生まれ変わっても当然持ったままか」
「そういえば前にも聞いたことがあるような気がするけど、そのX抗体ってなんなんだい?」
「文字通り、抗体ですよ。僕も詳しくは知らないですが」
それも出来れば調べたいものだが……と、そこでカノンがレオモンの言っていたことを思い出した。
「そうだ、情報屋。そのデジモンに聞けば何かわかるかも」
「でもその情報屋に会いに行くにしても、どこにいるのかわからないんじゃ探しようが……」
「そうなんですよね。オーガモンたちは何か知っているのか?」
「いいや。知らねぇ……俺はアウトローだからよ、そういう奴らとはあまりかかわらなかった」
オーガモンは知らないという。そのことに落胆しかけたが、思いもよらないところから話が出てきた。
「オイラ、風の噂で聞いたことがあるよ」
「チューモン、本当に?」
「うん。緑色の忍者みたいなデジモンがそういう事をしているって話だけど、詳しくは知らないんだ」
「そっか……でも見た目が分かっただけでも――――って、アレ?」
ミミが首をかしげる。何だろうと思って全員が視線をミミが向けている方へ持っていくと――テレビのような顔をした緑色の忍者デジモンがぽつんと立っていた。
「い、いたー!」
「あのう、すみません。出て行こうと思っていたんですがタイミングを逃してしまいまして。ワタシ、直接戦うのは苦手でしたので」
「まさか向こうから来るとは……でも、本当に情報屋とは限らないし」
「いえいえ。その情報屋であっていますよハイ。えらばれし子供の城戸丈さん、太刀川ミミさん。お二方の紋章のことも知っていますし、デジモンの情報もわかっております」
「な――そんなところまで!?」
「ついでに、ピエモンの居場所と歌っていた鼻歌も教えて差し上げますが?」
「……居場所は知りたいけど、なんで鼻歌?」
「この前後ろをこっそりつけていた時、いきなり鼻歌を歌っていたのでびっくりしました」
おそらくは実力を示すために言ったのであろうが、なんだか途端に胡散臭くなった。
しかしどうやら彼が情報屋というのは間違いないようだが……急にカノンの目の前に膝をつき、土下座せんばかりの勢いになる。
「お久しぶりでございます、カノン殿」
「え、僕君に会ったことあったっけ?」
「ええ……ドルモンさまも、お懐かしいかぎりです。以前お会いしたときはワタシはしゃべりませんでしたし、まだ進化前の姿でしたからわからないのも無理はないと思いますが」
「進化前――そういえば、似たようなデジモンにあったことがあるけど……」
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。ワタシの名前はモニタモン。以前、人間界でカノン殿と出会ったときはモニモンでしたね」
えらばれし子供たちはそれぞれの道を歩みだした。カノンもまた、自分の道を歩みだすこととなる。
「カノン殿、どうかお力をお貸しください――バステモン様を助けるために!」
運命がまた一つ、動き出した。
というわけで、モニモン改めモニタモン再登場。
デジタルワールド時間では何万年、下手したら何億年と時が過ぎているのに彼がいる理由については次回。
デジタマから孵ったのはトコモンXです。