比企谷八幡とその周辺 作:無題
懐かしい夢をみた
俺は8歳の時、父親の仕事の都合でベルギーに引っ越した。日本から遠くは離れたヨーロッパである。
遠い異国の地でまだまだ幼い俺はよく泣いていたと思う。なんせ言葉の分からない異国の地。そんな場所ではコミュニケーションの取りようがなくいつも一人だった。
そんな時、よく俺に構ってくれたのが八千代さんである。
八千代さんは本名『山吹八千代』と言い元々世話好きな性格だったのだろう。一人ぼっちでさみしかった俺の話を親身に聞いてくれたり、お菓子を作っては俺にプレゼントしてくれたり、一緒に遊んでくれたりもしたとも思う。
そんな八千代さんは日本からの留学生であり、ファッションデザイナーを目指しているらしい。
そんなある日、俺は八千代さんに大学へと連れて行って貰う。
理由何てない、ただの暇潰し。しかしここで見た物は自分を大きく動かしたのである。
きらびやかで華やかな衣装やシックで落ち着いた衣装など多種多様な服たち。
モデルは同じ筈なのに衣装が変わる度にまるで人が変わったような、そんな印象が当時はとても衝撃的だった。
自分も作りたい。あの世界に入りたい。
俺はその日からほぼ毎日、放課後に大学へ向かうようになる。そこでおれは八千代さんの他に三人の人と出会ったんだ。
それが後に世界的に有名なデザイナーとなるジャン・ピエール・スタンレー。
お金持ちでありながらトンカツが好きな大蔵 衣遠。
究極のナルシスト、サーシャ=ビュケ=ジャヌカン。
この四人の下で俺はデザインについて学び始めたのである。
最初は子供の遊びと思われていただろう。しかし半年位たった頃だろうか、ジャンが俺の描いたデザインを見て才能があると誉めてくれたのだ。
「まるでモデルの本質を体現してるようだ。モデルの人の心の中を服で表している!!」
それにはあの才能大好きな衣遠さんも驚き、そして珍しく不器用な頬を緩めて誉めてくれる。
その日から俺も四人と一緒に年の差など関係なくデザイナーの卵として同じ土俵に立ち初めたのだ。
それからと言うもの、俺はデザインについて学び続けた。ジャンを初めとし、衣遠、サーシャと次々とコンクールで賞を取っていく。
俺は四人よりもスタートダッシュが遅い。早く追い付かないと。スポンジが水を吸収するように俺は知識やスキルを身に付けて行ったのだ。
俺が四人と出会って一年半位だったと思う。唯一、コンクールの受賞経験の無かった八千代さんが見事入賞したのだ。
その日の夜はみんな大騒ぎだった。
あの堅物衣遠さんが鼻にピーナッツを入れたり、軽口を叩いたりとあんな姿は普段見える事はないだろう。それぐらいみんなが興奮し、喜んでいた。
そんな中、俺は次は自分自身の番だとみんなの前で高らかに宣言した。
みんな俺を応援してくれたがその時、八千代さんの顔には影が掛かっていたのを俺は気づく事が出来なかった。
次の日、八千代さんが家にやって来て言った。明日、日本へ帰ると。家の都合だと言って俺に謝って来た。
それを聞いた時、俺は走り出した。悔しかった。
みんなが頑張り、同じ目標を掲げた仲間が居なくなる。
さみしかった。俺が居て、ジャンやサーシャ、衣遠が居て八千代がいない。
みんなが同じ道を目指している時が一番楽しかったのである。そんな時が終わるのである。
そして物思いにふけながら近くの公園のベンチで体育座りでうずくまっていたら前の方から足音が聞こえた。
誰だろうと思い顔を上げてみるとそこには衣遠さんが居た。衣遠さんは俺に目線を合わせるとこう言った。
「これが人生だ。人生こんなことばかりだ。俺は特にだ。俺の道は覇道の道。愛を捨て、覇道を貫く道だ。だからお前はお前自身の道を行け。これはお前の道の一つの通過点だ。それを乗り越えて見せろ!!」
その時の俺は言っていることが良くわかっていなかったと思う。だけどその言葉は胸の奥に深く刺さった。
そして俺は衣遠さんの腕の中で泣いた。
八千代さんが日本へ帰る日。俺は八千代さんの荷物の一つのトランクを持って一緒に空港へ向かった。
隣のアパートに住んでいた八千代さんのお陰で俺はこの道を歩むことが出来た事を思い出す。そして俺は決心した。
荷物を受付に預けロビーへ行く。そこには何時もの四人ともう一組、小町と母親もいた。
泣きそうな顔を必死に我慢している妹。
お隣さんでもあり良く一緒に夕食を食べたりした。小町にとっては年の離れたお姉ちゃんだったんだろう。
そしてみんなとお別れの挨拶をし、一人一人声をかける。涙を流したり、励ましたり。そして俺の番がやって来た時、俺は彼女に誓った。
「俺はこのままデザイナーとしての道を目指す。そして八千代さんの分まで賞を取るんだ。だから俺を応援してくれ‼」
すると彼女は
「えぇ。私の分まで頑張るのよ。だけどね。賞を取る事を一番にしてはならないわよ。あなたはあなたが作りたい衣装を作る。それに後から評価がつくのだから。そして何時かは後ろにいるジャン達を追い越してみなさい‼」
「なら、僕たちもグタグタしていられないね。」
「そうだな。」
「子供は成長が早いもんね。」
「「「ハッハハハハ」」」
そして俺達の仲間であり、俺をこの道に進める切っ掛けを作ってくれた彼女は日本へ旅立ったのである。
それからというと俺は放課後になると毎日大学へ向かい、ジャン達に学校でこそこそと描いたデザイン画を評価して貰ったり、パタンナーとしての技術を教えて貰ったりしていた。
そうした俺の行動は大学の中で有名になり、こそっと授業に出てもお咎めなしになっていたりしたのである。
そのような結果、メキメキと力を蓄えた俺はファッションコンテストの18歳以下の部で優勝したり、ヨーロッパ規模のコンクールで入賞したりとさらに力を蓄えていったのだ。
だがこの生活もジャン達の卒業という形で幕が閉じようとしていた。
これから俺はどうしたらいいんだろうか。
俺はデザインが人一倍描ける以外はただの小学生である。ジャン達と同じ土俵に立つならば中学、高校そして大学を卒業しなくてはならない。
そうすると10年も待たなくてはならないのだ。
そんなのは嫌であった。
しかしジャンはここでまさかの一言を告げた。
「オレの会社でデザイナーをしない?」
どうやらジャン達は卒業後に自分達の会社を設立するらしくその仲間の1人として俺を誘ったらしい。
俺は歓喜しその話に乗った。そうして俺はジャン達の仲間の1人として同じ道を踏み込んだのだ。
だが当時の俺は小学生。そんなのがバレると大騒ぎになる。なのでジャンと俺とでこのような契約になった。
1.個人デザイナーとして活動する事。
2.顔ばれなど個人情報は御法度。わかるのは
ローマ字読みの名前だけ。
3.まだまだ学生なので一番は学業。そっちを優先。
1はまだ小学生の俺が他の人と共同で仕事ができる訳がなく、時間を確実に取ることも出来ない。
また家から出るわけにもいかないので注文を受けて個人で作製する完全受注制になった。
2はまだ小学生であったからだ。
ジャンは
「いいじゃん。天才小学生デザイナーとして売ればいいのに。」
と言われたがそんなの御免である。それだと人が見る目に『小学生』というフィルターが掛かる。そうすると世間は他のデザイナーと同じ目をしなくなる。それは正しく評価されてないのと同じだ。
それがいやなため俺の正体を知っているのはジャン達会社上層部。後はモデルの人だけとなった。
まあ、名前を知られると静かに暮らせなくなるという理由もあったんだが。
そうしてジャンの会社が設立。世界中の人々が俺達のデザインを評価し、一気に会社は有名になった。
そして世間は会社設立時のメンバーの7人を『伝説の7人』と呼ぶようになったのだ。
しかしそこで俺は名前以外はまったくわからない謎の7人目として有名になった。
出回る数は少ないがモデルの内面を写し出すデザインは人々を魅了して行ったのだが、そのデザイナーは名前しかわからない。いったいどの様な人物なのか話題になった。
といってもその謎の7人目は毎日が忙しく、学校でぼっちであった。
そんなある日。衣遠さんが電話で二週間程度、ベルギーに滞在するのでその時に合わせたい人物がいると伝えてきた。
会わせたい人とは誰だろうと思いながら指定された日付に衣遠さんが滞在するホテルに向かったのだがそこで俺は初めて自分と同じ道を歩む同級生に出会った。
彼は大蔵 遊星といい衣遠さんの弟だそうで衣遠さんが滞在する2週間、我が家へホームステイさせるという話らしく我が家の両親の許可も取れているらしい。
なお俺が仕事をしている事は秘密にしてもらうよう言われた。わざわざ言う必要も無いので二つ返事だったが衣遠さんは俺に欲がない奴だと高笑いしていた。
2週間はあっという間だった。
一緒に遊だり、デザイン画を見せ合ったり、我が家の天使である小町でファッションショーをしたり実に充実した2週間であった。どうやら仕事で忙しい俺に気を使ってくれ、このような時間を取ったみたいだった。
この2週間の間に仕事が一つも入らなかったのが決定的証拠であった。
この2週間で俺達は互いに初めての友達として仲良くなったのである。そして衣遠さん達が旅立つ時、俺達は互いに健闘しあい、彼は旅立ったのである。
彼が旅立って一年ぐらいたった頃だろうか。父親の仕事の任期も切れ、家族で日本へ帰るときがやってきた。
自分の仕事は契約だと日本でも続けることが出来るのだが俺はこの機会にジャン達の元を離れることにした。
日本に戻っても時間が取れるとは限らないし、中学に上がってから勉強のレベルも上がり、学業も疎かに出来ない。そしてジャン達、大人を見ていると人間関係やコミュニケーション、教養などまだまだ学ぶのはたくさんある。
なのでこの機会に服飾の世界を離れていろんな事を学びたいと思いジャン達に伝えた。
衣遠さんは大蔵家の次期当主を狙っており、服飾以外も極めているため俺が言っていることに共感し、ジャンは最初は渋っていたが俺が
「普通の女の子に戻りたい!!」
とキャンディーズの解散のセリフを真似ると笑いながらながら許可した。
しかしジャンは元ネタを知っていたのだろうか?
そうして日本へ帰国した俺は中学時代はいじめられたり、高校入学式では車に引かれたりぼっちになったりと散々だったが今はベルギーのメンバーと遊星の他に奉仕部の仲間達などと関係を持つことが出来た。
本当、自分は成長したなとしみじみ思う。
しかし今になってなぜこんな走馬灯みたいな夢を見たのだろうか。何かの前触れか考え更けてるとダイニングの方で小町が
「お兄ちゃん。ご飯だよ~♪」
と俺を呼ぶ声が聞こえる。俺はわかったと返事をして下へ降りる。
今日も1日、始まったばかりだ。
皆さまごきげんよう。桜小路ルナだ。
この小説はつり乙のSSが少ない事に衝撃を受けた作者が自己満足のために書き上げた作品だ。
オリ主でもよかったのだがそれだとつり乙を知っている人しか見てくれないと思い、このようなクロスオーバーになったと聞いている。セコい奴だ。
後、なるべく両方の作品設定を崩さないようにしたら八幡と言う奴が高スペックになってしまったと作者がいっていた。ふん。まあいい。私には朝日がいるからな。
なお次回は簡単な人物紹介と時系列、用語解説をするぞ。
楽しみに待つが良い。