最後辺りはいつにも増して遅筆になってしまいながらも、何とか今回も書き上げました……
今回、活動報告でも申し上げましたが、キャラに一部今まで隠していた一面を前面に押し出しました。 それ故か、今回はいつにも増して文字数が二倍以上です。 もう少し纏められたんじゃないかと反省する部分です。 パッと読んで適当に寝れる作品……某内藤イラストゲームめいたのを目指していたのに、文字数20000文字とはこれ如何に。
そんなこんなでやっとの最新話でございます。 単純とはならずも、武器が乱れ撃ちされまくるような爽快感あれば嬉しいです。
──破壊しなぁ、眼の前に阻むもの全てを崩壊しなぁ!──
──はかい……──
──そうだぁ、ただ破壊することのみ。 それが俺の望む道であり、"戦渡術"の到達点でもある……そして、テメーの望む道であるよなぁ!──
──はかい……のぞむ……──
──一緒にぃ、破壊を楽しもうじゃあねぇかぁ!! 次々とぶっ壊せ!! 人々を恐怖させなぁ!!──
──はかい……こわす……きょうふ──
カヨウが路地裏に着いたとき、既にツキカゲはその場にいなかった。
「何なんですか……これは」
ネコと争った形跡……にしては非常に荒々しい現場だけがそこに残っていた。
巨大な引っ掻き傷で壁はめくれたり崩れたりしており、周囲に捨てられていた粗大ゴミは粉々に壊されている。
傷跡はまるで走るかのように壁を這い、そして上へと続いていた。
「ツキカゲさんは何処へ!?」
ふとカヨウは周りの景色の色に気づいた。
周囲にはまるで霧のように翠がかっていた。
その光景をカヨウは戦場で知っていた。
「この色……まるで」
「ニャ~オ?」
路地の陰から仔猫が数匹、怯えるように這い寄ってきた。
(猫ちゃん……先程のでしょうか?)
仔猫一匹に見覚えのあるカヨウは近づこうとした。
恐る恐る近づくカヨウに、仔猫達も同じようにして恐る恐る後ずさる。
「だ、大丈夫ですよ! こういうのもあります!」
カヨウは忍ばせていた缶ヅメを取りだして置いた。
「ニャオ!」
仔猫達は一斉に缶ヅメへと集まり、我先にと缶ヅメを頬張り合った。
「ほう……」
カヨウは一息ついて身を屈み、そして仔猫の一匹に見覚えがあるのに気づく。
「先程の仔猫さん……猫さんをお探しでしょうか?」
「ニャ~オ!」
仔猫の内の一匹が顔を上げ、答えるかのように可愛く鳴いた。 その顔にキュンと和むカヨウ。
「~!……あなた方を、あの猫さんは守っていたのでしょうか?」
そう言った瞬間、仔猫達の顔が頬張るのを止めてしょげた。
「皆……さん?」
カヨウが仔猫達に歩み寄った直後、遠くにて爆音が響き渡った。
「ツキカゲさん!?」
あの爆発音にツキカゲがいる証明はない、だがカヨウは何となくあそこにツキカゲはいると確信した。
そう感じた瞬間、カヨウはすぐさま狭い路地裏を走り出した。
「ツキカゲさん!ヘブッ!?」
路地裏から出た瞬間、カヨウは何者かとぶつかった。
「も、申し訳ございません! 急いでおりまして気づかなくて……申し訳ございません!」
目深に被ったフードをより深くかけ、カヨウはとにかく謝った。
「気をつけたまえ、地表人……」
ぶつかってスッ転んだ白コートの金髪女性は、尻餅をついたまま不機嫌そうに応えた。
「失礼いた……!?」
金髪女性の服装を見た瞬間、カヨウは驚愕した。 白い布地に華美な装飾、それらを厳格に仕立てあげたようなそのコートを、カヨウは式典等で目にしたことがあった。
(スカライズ警察3番隊……なぜ!?)
カヨウは咄嗟に──何故か──フードを更に目深に被って立ち去ろうとする。
「まぁこちらこそ失礼し……んん?」
背中を見せて去ろうとしたカヨウに、金髪女性──エイリーンは立ち上がって手を向けた。
「そこの地表人!」
「は、はい!?」
エイリーンは人差し指をカヨウに向け──
「……そこから向こうは危険だ、行かぬ方が身のためだぞ」
正確にはカヨウの向かおうとする道を指さし、エイリーンは警告した。
「……聞いているか、地表人?」
ジャケットに隠れて白で飾り気のないワンピースが目立たなかったからか、あるいは切り落とした髪をフードが覆い隠してたからか……
「我らは重要な任務が関係する故に向かうが、一般人は大人しく避難した方がいいぞ」
エイリーンは重要な任務の目的である目の前の少女に気づかず、その少女カヨウを後ろにどかして前を進んだ。
「えぇと……!?」
戸惑うカヨウの後ろから、爆音のした方向へ向かうエイリーンをスカライズ警察部隊が追ってきた。
カヨウはフードで顔を隠し、何故か素早く路地裏へ身を潜めてしまった。
(…………)
一瞬スカライズ警察部隊の一人に見られた気がした。
それでもカヨウはスカライズ警察部隊が通りすぎるのを待つ。
(何で隠れたんだろう、私は……)
全員が走り去ったのを確認し、カヨウは外に出た。
「……まだツキカゲさんが、戦ってるからです!」
ツキカゲさんを探す、それを目的にカヨウは爆音のした方向へ走り出した。
「シャッコラーーー!!」「武装解除しなさい!!」「死ねッコラーーーー!!」「武装解除しなさい!!」「テメー撃ったなコラーーーー!!」「武装解除しやがれクズ共!!」「テメー味方撃つんじゃねッコラーーーー!!」「逃げるな貴様ぁ死にやがれ!!」「シャクアゲロッテコラーーーーー!!」「クソ共は纏めてしにやがれぇぇぇぇ!!」「包囲しろ! ガーンズオウ一味とエニマリーの闘争を鎮圧しろ!!」「クソ維持局共は纏めて破壊、ついでに稼ぎを邪魔してきた女二人は纏めてアレだぁぁぁぁl!!」「あーあー面倒だなオイ」「
市街地は治安維持局、ガーンズオウ一味の増援、そしてエニマリー二名による三つ巴の戦争によって、銃撃と爆発に埋め尽くされた。
「なぁロー、いつまで閉じ籠ってりゃいいんだろうな?」
「殲滅、全て、撃つまで」
治安維持局とガーンズオウ一味に挟まれた場所にあるバーのカウンター内にて、サバイバとローは室内に押し寄せてくる敵を全て迎撃していた。
「どうして治安維持局は、こんな頭がヒーハーな野郎を野放しにしてるんだろーな!?」
「上層部、癒着、手出し、不能、現状維持、精一杯」
「今の治安を維持ってか、クソが!!」
お互いに愚痴を言い合いながら、サバイバはMt・Hg"M1911"で、ローは銃身を短くした"Coil up snake "と"ベレッタM92"一挺で敵の眉間や胸を撃ち抜いていた。
「なぁロー、俺らはさ、もう帰っていいんだよね? 手配書分は討ったんだしよ、帰らせろ!」
半ば逆ギレ気味になりながらサバイバは"M1911"を乱射する。
元々射撃の腕が高いというわけではないのだが、それでもサバイバの"M1911"は何発か外し、壁やガラスや外で争っている者達を撃ち抜く。 外した標的はローの"ベレッタM92"が撃ち倒す。
「同意、早急、帰還、希望」
弾切れを起こした"M1911"を床に捨て、サバイバはローから"ベレッタM92"を素早く手渡される。
ローは片手で"M1911"を拾い上げ、ベルトのホルダーからマガジンを取り出して装填する。
「射撃地点、確保、賢明」
装填している間も、サブアームに繋がれた"Coil up snake "からは銃弾が放たれる。
"Coil up snake "に備え付けられたセンサーは次々と標的を定める。
「『早く終わらせて帰ろうぜ』って言ったのは俺だからな……無理言って悪かった」
「早急始末、ローガン、同感」
銃撃と爆発音の中、二人は反省会を始めた。
「まぁ細かいことはあとだ。 今はコイツらをどうするか」
「接近、Mt・A、2機、
「ハぁ!? なんでたかが1町の治安維持局が、そんな物騒なモン抱えてるんだよ!?」
「接近、"
「ハぁ!? もう親玉出現かよ! これ以上激化するってか!!」
外で鎮圧用サイズ4mのMt・A二機と、巨大アックスを片腕に取り付けたガーンズオウ一味の中でも3mと最大級であるサイボーグギャングがぶつかり合った。 それに続いて互いの下っ端も激しくぶつかり合う。
「勝手に戦ってろ! こちとら依頼された人数の討伐を終えて、さっさと帰って酒飲もうぜ!」
店内に敵が入り込まなくなった隙に、サバイバは抜け道を確認する。
裏口へ進めるルート、そこから侵入してローとサバイバに倒された者たちの前方に、扉が開いている。
「よし、向こうが勝手に激化してる間に行くぞ!」
姿勢を低くし、サバイバは裏口へ向かおうとする。
「オッコラァァァァァァーーーーーーーー!!」
巨大アックスが振り回され、"ESMSS"が何人か吹き飛ばされる。
吹き飛ばされた"ESMSS"の破片が店内の棚に当たる。
その衝撃で棚が揺れ、酒瓶数本が床に落ちる。
そして酒瓶の一本が、サバイバの脳天に直撃した。
「ウギャッ!」
「サバイバ!」
頭から流れ出る血を抑えるサバイバに、ローは思わず視線を向け狙撃を止める。
「痛たっ……帽子がなけりゃ即死だったぜ」
フラフラと顔を揺らしながらも、サバイバはローに向けて無理矢理な笑顔を作った。
「たくっ、だけど脳ミソは震えるな……ロー?」
ローの視線は前方、2つの勢力がぶつかり合う戦場に視線を戻した。
爛々と翠色に輝く眼は、冷静な猟犬から獰猛な獣へと変わっていた。
「なぁ、この隙に逃げるぞって、ロー……おい、ロー?」
前方で次々と敵が倒れていく。
全て一人の少女の一撃必中で倒されていく。
「なぁおい、ロー!? あんな面倒な野郎共は無視してずらかろうぜってば!」
ローはカウンターを飛び越えて"Coil up snake"のシールドを展開した。
敵からの銃弾は全てシールドによって防御され、唯一シールドから覗かせる銃口から放たれたメテオリウム製銃弾によって敵は次々と倒れていく。
プロテクターの隙間を、関節部の継ぎ目を、眉間に次々と撃ち込んで戦闘不能にさせる。
その狙撃は獰猛な眼つきに違い、冷静で正確無比であった。
「聞く耳向けようぜ、ロー! 俺は大丈夫だからさ、ロー!」
半数を撃ち倒し、ローはMt・Aとサイボーグ親玉にも眼を向けた。
室内からはよく見えず、互いの武装が見えるだけ。
ローはただそれを翠色の眼で定め、"Coil up snake "を構えた。 後ろで頭から血を流しながらも必死に説得するサバイバには眼は向けていない。
「
銃身が変形し延長、まるで戦車の砲台のような威圧感を放ち照準を展開、それと共にローの眼も翠色に激しく灯る。
「俺の為に争わないで逃げようってば、ロ~~~!!」
シリンダー制御式巨大アックスが降り下ろされるところを、メテオリウム製銃弾が一直線に放たれた。
「膝まずけい!! 控えおろう!!」
乱戦の真ん中、白コートに身を包んだ集団が鎮座していた。
その気高き一声によって振り回されようとした巨大アックスは宙で停止し、片腕を破壊されているMt・A二機は銃撃を止め、ローから放たれた銃弾は発言者である金髪女性の頭部をスレスレで掠め、後ろの建物にヒュンと撃ち込まれた。
「!?…………コホン、我らスカライズ警察3番隊! 前方の建物内に立て籠る集団に聞きたいことがある!」
先頭に立つ金髪女性──エイリーン・ソウマ厳しい顔つきに戻り、乱戦のド真ん中で仁王立ちをする。
「貴様らクランチェインの団員全員には、スカライズ第三都市の第一階級家次女失院関与の疑いがかけられている! 大人しく投降し、取り調べを受けてもらおうか!」
険しい表情で、イエスかノーかを答えさせない口調でエイリーンは要求した。
「クランチェイン……!?」
この場にいる誰かが、乱戦の中心で乱射していたエニマリーパーティーの名を口にした。
「き、聞いたことがあるぜ……気の向くまま任務も受け、そして全てを破壊尽くしながら遂行する……一つの内紛を勢力全て壊滅することで終結させ、逆に巨大犯罪勢力を町半分破壊までして活動不能に追い込んだという……エニマリーパーティー屈指の要注意団体!」
誰かがクランチェインの説明をしている間、バーの内で冷静さを取り戻したローと頭部をズボンの裾で止血したサバイバは、キョトンとした顔で見合わせた。
「え、なにあの真っ白コート共……スカライズ警察って言わなかったか?」 「肯定」 「えぇ~、一応聞くが、知り合いか?」 「金髪、見覚え、有」 「そうかい……どんな感じだった?」 「真っ白、眩しい、うるさい」 「だな~、あの真っ白洗濯したてっぷりと威張りっぷりよ……てゆうかロー、今アイツなんつった?」 「ローガン達、連行」 「あぁ。ホントなんだかさっぱり分からねぇが……俺らを捕まえるっつたら敵でいいよな!」 「肯定の、殲滅」
バー内で銃器を構えながら軽口を叩き合う二人の前方、静まりかえった戦場のど真ん中にエイリーンは姿勢を崩さず揺らさず仁王立ちでバーを真っ直ぐ見張っていた。
「エイリーン……立て籠り犯がカヨウお嬢様を拐ったと?」
カギホは近場で買い占めたMt・
「あの日、カヨウお嬢様が失院したと同時期に、私はある密輸船の調査をしていた」
エイリーンはそのときの捜査を思いだし、唇を噛みしめる。
「不正を表沙汰にしたくない上層部は、その時周辺を飛んでいたエニマリーパーティーに極秘の依頼を出した……」
腰に備えたMt・
「失院事件に関わってるであろう数少ないモノが目の前の俗物共……カヨウ嬢様の居場所を確認すべく、身柄を拘束せよ!」
「ちっと待ちやがれ」
そのままバーへと突入しようとするエイリーンだったが、自分の周辺を影に覆われたことに気づき、頭上を見上げた。 頭上には巨大アックスを宙で停止させられていた。
「おいコーカソイドハーフ、てめーらシジュウミヤ家の者か?」
巨大アックスを制止しているサイボーグ親玉が尋ねた。
「シジュウミヤ……!?」
その家名を聞くと、エイリーンの眉間が揺れた。
「貴様、何故その家名を知ってる!? 貴様となんの関係が!?」
「知らない……つーか、関係ねぇってか」
巨大アックスが上に上げられ、シリンダーが稼働し、サイボーグ親玉の背中の排気口から蒸気が放出される。
「ならば邪魔だ、死んどけコラ」
シリンダーによって真っ直ぐ固定された巨大アックスは、後ろのブースターを凄まじい勢いで吹かせて降り下ろされようとしていた。
「な!?」
エイリーンは咄嗟に"オサムネ・ナガミツ"を構えるが、73㎝程度しかない"オサムネ・ナガミツ"では、刃渡りだけで2mする巨大アックスを防ぎきれるハズもない。
そのまま巨大アックスに押し切られ、刃にこびりつく肉ミンチにエイリーンはされ──
「!?」
サイボーグ親玉は頭上を覆った影に気づく。
振り落とす寸前をシリンダーで停止させてサイボーグ親玉は頭上を見上げた。
「シャアアアアアアアアアアアアア!!」
見上げた瞬間サイボーグ親玉の頭部が肉球で潰される。
エイリーン達は倒されたサイボーグ親玉の図体と、頭上から落ちてきた巨大生物を避ける。
だが何人かは間に合わずサイボーグ親玉の下敷きになったり、巨大生物に吹き飛ばされて壁に殴打された。
「な、な、なんだ貴様はぁぁぁぁぁ!!」
エイリーンは素早く"M4カービン"を巨大生物に向けて発砲する。
巨大生物はそれを背中で受け止め振り返った。 その大型車程の大きさの生物はネコそのものであったが、爪は異様なほど鋭く伸び、歯は痛々しく不揃いであった。
「シャアアアアアアアアアアアア!!」
翠色に爛々と光らす眼をしたネコはひたすら暴れ、武装車や周辺の人間を吹き飛ばす。
「猫……何故ネコが巨大で襲ってくるのだ!?」
エイリーンは叫びながら隊員と共に発砲を繰り返す。
「なんなんだ地表というのはぁぁぁぁ!!」
だが銃弾を数発くらいながらも巨大ネコは進攻を止めず、発砲したエイリーンに襲いかかる。
「な、我はソウマ家の跡取、ここで死ぬわけ……」
その瞬間、巨大ネコの肉球と爪が何かに防がれ弾かれた。
「シャアアアアア!」
弾いた前足に、砕け散った武装で巨大ネコの攻撃を防いだその人物は背中に背負った鞘を前に向けた。
前に向けた鞘から電磁ネットが発射され、巨大ネコの前足に絡みつく。
「んな!? 貴様も誰だ!?」
「今のうちに逃げろ、一般人」
175㎝ほどの人物が顔を後ろに向けた。
端正な顔立ちは細く鋭く、それでいてやや幼さの残る少年であった。
だがその眼は巨大ネコと同じく翠色に爛々と輝いており、その眼から放たれる感情は──
「悪魔……」
「シャアアアアアア!!」
電磁ネットを引き剥がした肉球と爪が横から少年めがけて襲いかかってきた。
「あ、危ない!!」
エイリーンは思わず声をあげ、素早く当たる前にしゃがんで回避した。
だが爪の通りすぎたあとを見上げると、少年の姿は一瞬揺らいだあと消え去った。
「しょ、少年……!?」
思わず建物を見た。 まさか建物に吹き飛ばされたのだろうと……
だがどの建物にも少年の肉片はこびりついていなかった。
「ど、どこへ!?」
エイリーン──そして巨大ネコは見上げた。 上から少年がネコ目がけて振ってくる。
少年は手に構えた"オサムネ・ナガミツ"を巨大ネコの背中に斬りつけた。
「シャアアアアアアア!!」
「"影惑イ"」
少年は無言で"オサムネ・ナガミツ"を深く突き刺し、そして巨大ネコから跳躍した。
巨大ネコに突き刺さった"オサムネ・ナガミツ"はその瞬間砕け散り、背中の傷跡から激しく翠色の血液が流れ出した。
「ハッ、私の太刀!?」
呆然から気を取り戻したエイリーンは、己の腰から"オサムネ・ナガミツ"が消えたことに気づいた。
「まさか、あの一瞬で!?」
エイリーンだけでなく、周辺の人間も己の所持していた近接武装が消えたことに気がついた。
困惑するエイリーン達と悶絶する巨大ネコの間に少年は着地する。 その太股と腰、肩や背中にはスリ取った刀剣類が携えていた。
「エイリーン、武装は無くした、重傷者多数、ここは……」
少年を凝視するエイリーンに対し、カギホが腕を抱えて意見する。
「くっ……皆、退却するぞ!」
「シャ、シャアアアアアアアア!!」
少年に対して巨大ネコは威嚇を繰り返す。 その背中と振るった前足には、太刀によって鋭く深い傷跡が痛々しく疼いていた。
傷に沿って結晶が覆われるも、その進行は遅く不完全なまま砕け散りもしていた。
「……破壊、壊す、痛めつける」
少年はスリ取った"オサムネ・ナガミツ"を構えて呟く。 全身からは激しく翠色の粒子を蒸気めいて放出しており、構えているだけの刀剣類にヒビが入る。
「……
「おい、今の見たかよ……」
「肯定」
恐る恐る割れた窓から外を覗くサバイバ。 ローも顔を出しながら、"Coil up snake"を収納状態にして背中にまわす。
「なんでぇありゃ……区画外から紛れ込んだ持込禁止生物か? つーかアイツ……」
自動拳銃を構えたまま、サバイバとローはひとまず外に出た。 周辺で無事に立っていられてる者はほとんどおらず、なんとか立っていられる者も既に退散していた。
「なぁ……俺らの任務終了でOK?」
「OK、標的、殲滅、完了」
「じゃあ……俺達はスタコラ帰るか!」
「さすがだぜぇ、ツキカゲよぉ……」
建物の屋上、望遠鏡を使ってカーチスは巨大ネコと戦うツキカゲを眺めていた。
「ほぉ~らよぉ……どんどん破壊し潰しなぁ……邪魔物を纏めてぶっ飛ばしなぁ……!」
その顔は愉悦に歪んでおり、ツキカゲが攻撃する度に興奮を高めていた。
「信じられん……"AEBW・04"があそこまで巨大化するとは……!!」
その光景を、眼鏡の望遠鏡レンズを通してD・ヒゲドムは観察していた。
「想定以上の急襲率……まさか野性化による生存争いを生き延びた故か……あるいは」
「あるいは、ウチのツキカゲの粒子状が桁違い故に、それに合わせて無理矢理に巨大化したか」
カーチスは望遠鏡で眺めながら口を挟む。
望遠鏡の向こうではツキカゲと巨大ネコ──"AEBW・04"が大暴れし戦っていた。
「後者だよねぇアレは。 あのネコ野郎、ツキカゲからの攻撃以外にも明らかに疲弊しているじゃねぇか」
カーチスの言葉通り、"AEBW・04"はツキカゲよりも疲弊の色を濃くしていた。 爪をただ振り回すのみであり、不揃いで欠けている歯も現在の分を表していた。
「アレはヤバいんじゃねぇかよ~おい。 どう見たって分が悪いぜ、このまま暴れてもネコ野郎の敗北は必──」
「黙れ、一時的な戦況を見ただけの惰弱な人間」
カーチスの周囲をエメラルフが取り囲む。 その向こうには右手をカーチスに向けるレヴォルツィオーンがいる
「Doctorの造りし最高傑作兵器を甘く見るな。 その吸収力、それによる力の増大は貴様の惰弱な想像を遥かに凌ぐ。 たとえ小僧がそれなりに強く、小回りがきこうとも、"AEBW・04"には敵うまい」
レヴォルツィオーンの翠色の眼はカーチスに向けられている。 その眼と口調は無機質的に何も感じられないが、発言内容はカーチスを強く否定していた。
「惰弱な人間、貴様の見通しは甘い。 たかが武装し強いだけの
翠色の眼の先、カーチスは望遠鏡を覗いているまま止まっている。
「貴様ら惰弱なエニマリーパーティーには残念だが、与える報酬はないと思いたまえ」
「……そうかい?」
カヨウは路地裏を抜け、町の真ん中で勃発している抗争に向かっていた。
「はぁ……はぁ……ツキカゲさん……!」
その手に"M1911"を握り、カヨウはひたすら走る。
「はぁ……はぁ……!」
路地裏の向こう、一瞬だが"AEBW・04"が見えた。
「はぁ……撃たなきゃいけません!」
カヨウは必死に自分を鼓舞した。
"AEBW・04"を撃ち無力化、そうしてツキカゲがこれ以上戦い消耗させることをなくす……
(ツキカゲさんは私の為に疲労しています……)
カヨウは"M1911"をセーフティーをかけた状態で手に携えている。
(私には何を支援することもできない……今の私は何も持たない地表人……)
その瞬間、カヨウの頭に思い浮かんだのはスカライズ、そして先程見かけた3番隊……
(あの方々に支援を求めれば……私がここにいることを明かせば──)
そう考えた瞬間、カヨウの思考は混乱し始めてきた。
素性を明かせばスカライズに連れ戻される、それなりに出世して暮らすだけの窮屈な世界……
「──ツキカゲさんを私が助けて、そのままツキカゲさん達についていけばいい!!」
カヨウは勢いよく路地裏を抜け、"M1911"を強く握りハンマーを起こす。
「私は! あんな所で終わりたくない!」
カヨウは"M1911"の銃口を目の前で威嚇してる故に止まっている"AEBW・04"に向けた。
「私は……私が……!」
「シャアアアアアアアアア!!」
カヨウは巨大化していた"AEBW・04"に恐怖した。
最初に見た大きさなら、それほど恐れもしなかったであろう。
だがカヨウ以上となった"AEBW・04"の鋭い爪や、不揃いな歯を見せつけ凶悪な面構えで威嚇する表情に、カヨウは身をすくめ怯えた。
銃撃を認識したとき、"AEBW・04"は真っ直ぐこちらに向かうだろう……
「それでも私が……ツキカゲさんを助けないと!」
恐怖を無理矢理おさえつけ、カヨウはトリガーを引こうとした。
「私は……あなたを撃つ選択をします!!」
必死の形相でカヨウは目をつむり慟哭し、トリガーを引く──
「ニャア~……?」
カヨウはトリガーを引く前に振り返った。
その後ろ、数匹の仔猫が"AEBW・04"に向かって鳴いていた。
「…………!」
しきりに鳴く仔猫たちと"AEBW・04"を交互に見、"M1911"を持つ手が再度震える。
「ニャアオ……」
仔猫はひたすら鳴く、我を見失おうとし暴れる"AEBW・04"に対して。
その光景を見てカヨウは考えてしまった。
(猫さんにも、仲間がいる……心配してくれる仲間がいる……)
そう考え込む度、引き金を握る力が弱まる。
仲間がいる"AEBW・04"を撃ったとき、仔猫たちはどう思ってしまうのか……
「……あ……ああ……」
カヨウは混乱する。 自分の行動で、残されてしまった仔猫を思う度、その思考は混乱を再度始めた。
「……それ……でも」
悲しみ、守ってくれる猫を失い途方にくれる仔猫と、満身創痍のツキカゲをカヨウは天秤にかける。
「私は、ツキカゲさんを助けなきゃいけない!!」
仔猫に目とを向けるのを止め、カヨウは目の前の"AEBW・04"に集中する。
「ニャアオ……」
「うるさい!! 私はもう!」
"M1911"を構え、カヨウは泣きながら叫ぶ。
「ツキカゲさんに任せにしたく──!」
"AEBW・04"が後ろに退くと同時に周囲の車を投げ飛ばす。
「はうっ!!」
カヨウは驚いて尻餅をつき、思わず引き金を引いた。
ドンッ!!
銃弾が放たれた衝撃が腕を駆け巡り、カヨウに痛みを引き起こす。
「ぐ、あああ……うう……ツキカゲさん!!」
"M1911"を握る腕を抑え、カヨウはへたれこみながら前を向く。
吹き飛ばされた車が切り刻まれ、その間を一人の少年が飛び込んでいた。
「ツキカゲさん! 貴方はもう戦わなくて──」
ツキカゲの眼と合った瞬間、カヨウは絶句した。
「…………」
カヨウの瞳に映るツキカゲの眼は淡々としていた。
肉体的には満身創痍に近い状態であろう、だが翠色の眼には疲労などを一才見せず、ただただ眼の前の敵を定めており──
「……する」
翠色の眼に映るのは、自らが敵と定めた"AEBW・04"だけ──
「破壊する、壊す、無力化する」
暴走寸前の肉体すら、その感情一筋のために粒子を放出しており──
「
ツキカゲの感情は、眼の前の敵と戦い、そして破壊したいという欲求のみであった。
疲労も同情も哀しみも忌避感も苦しみもなく。
ツキカゲというバケモノは、相対した敵を徹底的に痛めつけるという感情のみでできていた。
「シャアアアアアア!!」
上から"AEBW・04"の両前足の爪が襲いかかる。 その図体は大型車を超え、最早普通の大型生物を凌いでいた。
ツキカゲはその攻撃を捉えた。 そして考えた。
(腕の神経……切断)
爪を避けた瞬間、ツキカゲは"AEBW・04"の踵を両手の"オサムネ・ナガミツ"で切りつける。
「シャアアアア!!」
倒れ込もうとする"AEBW・04"。 その腹を──何十と切り刻んだその腹を──ツキカゲは大量に粒子を吹き出しながら蹴りあげた。
「シャアアアアアアア!!」
"AEBW・04"は後ろへ吹っ飛ばされる。
その腹には蹴りあげると同時にツキカゲの粒子が流れ込み、ツキカゲが広げた衝撃と合わせて体内へ拡散された。
「"影波紋"」
ツキカゲは地に足を軽く叩きつけて呟いた。
「……止めだ」
「グルァアアアアアアアアアアアアアアア!!」
"AEBW・04"の体躯が弾きれそうなぐらいに更に巨大化した。
ツキカゲの流した粒子を無理矢理吸収し、だがその影響で体内の臓器を何ヵ所も壊しても、"AEBW・04"はツキカゲに執着した。
「グル、グルァ、グルァアアアアアアアアアア!!」
「チビ猫共はテメーから逃げた。 バケモノのテメーに、もうここに居場所なんかねぇ」
ツキカゲもまた過剰に放出する粒子により全身を消耗しても、"AEBW・04"から眼を離すことをしない。
「たとえ慕われても、あとで拒絶されるだけ。 恐怖される存在、それが
ツキカゲは眼を見開いた。 全身の粒子が燃え上がるように吹き出し、両腕に構えた"オサムネ・ナガミツ"が耐えきれず砕け散り崩壊した。
「グルァアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「
"AEBW・04"が猛スピードで突進してきた。 それはまるで一発の弾丸めいて、ツキカゲという標的を狙っていた。
ツキカゲも次々と加速して後退する。 飛んできた車や死体を避けながらひたすら後ろへ進む。
「グルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
"AEBW・04"はひたすら鳴きながらツキカゲを追い詰める。 後ろには建物、ツキカゲが回ろうとした瞬間を突進して轢き潰そうと策した。
だが、もはや建物二軒分の距離で曲がり角に追い詰めようとした瞬間、ツキカゲが一瞬かがみこんだ。
「シャ、グルァアアアアアアアアアアアアアアア!!」
"AEBW・04"は飛び上がり、ツキカゲをその爪で潰そうとした。
ツキカゲはその爪を、拾い上げたサイボーグ親玉の巨大アックスを片手で引きちぎり、それで爪を防御した。
「シャアアアアア!?」
腹に隙を見せた"AEBW・04"の爪を巨大アックスの刃で弾き、その腹に加速する斬撃をツキカゲは食らわせた。
「シャアアアアアアアアア!!」
切り上げた瞬間巨大アックスを投げ捨てた。 投げ捨てられた巨大アックスは建物に突き刺さり、そして砕け散って崩壊した。
続いてツキカゲは鞘からMt・TB"柳生"を抜刀し、"AEBW・04"の身体の周りを加速しながら"柳生"で次々と斬り刻む。
「シャ!シャア!シャアア!シャア!!」
「"影連剏"」
そして大きく飛び上がり、倒れ込んだ"AEBW・04"の背中に"柳生"の刀身を一直線に走らせる。
「シャアアアアアアアアア!!」
そして着地したツキカゲは"ヤギュウ"を振り上げる。
その一連の流れを、カヨウは呆然と見ていた。
側にいる仔猫たちと同じく、ただ圧倒されるのみであった。
「ツキカゲ……さん……」
カヨウは俯いた。 ツキカゲへの恐怖と、己への無力さを痛感する。
「私は……何も……」
自分はツキカゲに何もしてあげられてない。 そしてツキカゲは、今の境遇を憂うどころか求めてすらいた。
戦いに明け暮れ、あらゆる障害を破壊し、目につく敵を全て殲滅する。
「何も……知らない……」
優しさなんてない。 単に自分が依頼主だから助けてるだけ。
カヨウは改めて、ツキカゲの淡々とした部分を認識した。
それ以外に何もない。 ツキカゲは淡々と、それでいて荒々しく戦いに身を委ねていた。 それでよかったのだ。
「ニャアオ!」
「ツキカゲ……ツキカゲさん!?」
ツキカゲが"AEBW・04"に大太刀を振り上げるのをカヨウは目にした。
「待っ──!」
カヨウは片手を伸ばし、そして下ろした。
──決着はついた、もうそれで終わりに──
カヨウはそう言いたかった。
だけどそれは甘く愚かな発言であろう。 ツキカゲにとっては邪魔な一言であろう。
(私は……地表で何もできない……)
カヨウは俯いたまま目を濡らす。 自分の無知への悔しさ故に。
その向こうでは、ツキカゲが"AEBW・04"に止めを振るっただろう。
(ツキカゲさんを知った……戦いのみを求めるその人を)
そう思いながら、カヨウは顔を上げた。
「任務完了、ネコ野郎は無力化できましたぜ」
カーチスは望遠鏡から目を離さず報告する。
「つ~ことで、報酬はたんまり頂きますぜぇ~損害費は無しで♪」
カーチスは手拍子しながら念を押した。
「ハ~ハッハッハッハ!! いやぁ~いい怖しっぷりだぜぇ~! 脚の神経グサッと切断してよぉ~! 牙全部バッキバッキへし折ってよぉ~! 腹をぐっちゃぐっちゃ切り刻んでよぉ~! ハ~ハッハッハッハ!!」
カーチスは望遠鏡の向こうの光景を見て狂ったように笑い転げる。
その光景と、戦闘結果を見たレヴォルツィオーンは驚いていた。
「"AEBW・04"が……負けただと」
無機質的無表情なその口調は、明らかな動揺を見せていた。
「粒子はあれだけ吸収し、自らの力に変換できていた……なのに何故」
「そっからなんだよなぁ~言ったハズだよなぁ~」
──
その発言を、レヴォルツィオーンは思い出した。
「相性……だと」
「
カーチスは体だけをレヴォルツィオーンに振り向かせた。 ただし頭はそのまま、身体をのけ反らして倒れ込むように後ろを望遠鏡で見つめたままだ。
カーチスは望遠鏡を持ってない方の手を握って突きだす。
「変異能を発動している間、アイツの出す粒子に触れたメテオリウムは数秒で内部粒子を瓦解、砕け散らせる」
パラパラ~とするように、カーチスは握った手を宙で広げた。
「"AEBW・04"だっけか、ツキカゲの粒子を吸収した時点で、身体がボロボロになるのは必然だったんだよ」
カーチスは再び握り拳をつくり、親指を下に向けた。
「けれどねぇ~アイツにとっても賭けのハズなんだよなぁ~あの巨体を壊すぐらいの粒子を出さなきゃいけないんだしよぉ~」
カーチスは望遠鏡でツキカゲを見つめる。
「……あぁそうそう、さっきのさぁ、『たとえ小僧がそれなりに強く、小回りがきこうとも、"AEBW・04"には敵うまい』という発言さぁ、この光景を見てさぁ、どう思うよねぇねぇ~?」
望遠鏡を放り投げ、カーチスはレヴォルツィオーンに一瞬にして顔を近づけた。
「!?」
「テメーら自慢の最高傑作をさぁ、たかが小僧一人に無力化されよぉ、今どのくらい平常心でいられていますかぁ~?」
カーチスは笑いながら猫背の状態で顔を近づけた。 口角は裂けそうな程にあげられ、その目は見下し小馬鹿にするように、憎悪で怒り狂うように、それら取り巻く環境全てを楽しむかのような感情を覗かせていた。
「ハーハッハッハッハッハッハ!! 俺のツキカゲを甘く見るんじゃねぇぞ! アイツほどなぁ、最高にイカれた本性を暴れさせる奴はいねぇ!」
カーチスは目と同じような感情を込めて大声で笑い、狂喜にまみれながら両手を広げ天を仰いだ。
「ひたすら眼の前の敵を破壊し無力化する……それのみを考え、それのみ通りに戦う……圧倒的能力で邪魔物なカス共は殲滅する……アイツはそんな破壊衝動と戦闘意欲のみによって作られてた戦闘鬼なんだよ!」
大きく体を仰け反らせたカーチスは、一瞬の内に胴体を起こしてレヴォルツィオーンに顔を近づけた。
「純粋に能力と術を持って戦闘に専念されたツキカゲをなぁ、あんな暴れるだけのネコ野郎と比べんじゃねぇぞ……ツキカゲ以下のザコ翠晶眼がよぉ!」
歪みきった笑顔をする眼は、純粋にツキカゲを見下されたことへの苛立ちに満ちていた。
「惰弱な!」
レヴォルツィオーンは素早く蹴りあげた。 カーチスは笑いながらそれを後退して避けた。
「人間が!」
レヴォルツィオーンは前に手を突きだした。
それに合わせるかのように周囲で威嚇していたエメラルフがカーチスに纏めて襲いかかった。
「我々の……悲願の道を笑うな!」
シャリン……
一瞬、空気を斬る音がした。 それと同時にエメラルフがその場に落ちて倒れ込む。
「!?」
その真ん中には、両手に小太刀を構えたカーチスが周囲を見下していた。 その身の着崩したコートの中に、小太刀を忍ばせていたのだ。
「な!?」
「なぁD・ヒゲドムさんよぉ~」
切り伏せたエメラルフの群れから離れ、カーチスは屋上付近に立った。
「あのネコ野郎、
カーチスの歪みきった笑顔は、戦闘から興味を外していたD・ヒゲドムに向けられた。
「……構わん」
「所長!」
「今回必要なデータは観測して得られた。 だが本体に関しては、不確定要素に蝕まわれて使い物にならぬだろう」
先程まで自慢げに話していた"AEBW・04"を、既に興味を失った表情で切り捨てた。
「不良品となったものに価値はない、処分は任せる」
「あいよぉ~ あぁあと最後、俺の前で
屋上の段差にカーチスは立つ。
「嫌いなんだよねぇ~その名前」
「どこへ行く?」
何にも気にしない表情でD・ヒゲドムは尋ねた。
「ちったぁねぇ……愛する
カーチスは振り向き様、赤い眼光を照らして屋上から落下した。
──はかい……ころすってこと──
──ハァ~? なぁにバカ言ってんだ? 破壊つってんだ、殺すったぁ言ってねぇだろ──
──ちがうの?──
──あったり前だぜ! 俺らの求めるのは破壊なんだぜ、何故わざわざ殺す必要がある? 俺の編み出したこの術が、殺してハイ終わりな術ってかぁ~!?──
──ころさなくていいの?──
──あぁそうだ! 殺すんじゃねぇ、その術その強さを、惨めに敗北し破壊されたザコ野郎に刻み付けるのさ! 殺すのは目的じゃねぇ、ただ指を切って鼻を切って耳を切って目を潰して首筋切って顎を砕いて骨をへし折って絶えず痛みと恐怖を与えるだけだ……その方が最高に気分がいいじゃねぇか!!──
──……うん!──
「──ツキカゲさん?」
ツキカゲは振り上げた"柳生"を放り投げた。 捨てられた"柳生"は道路に突き刺さり、そして砕け散り崩壊した。
「シャア……ニャア……」
大量の粒子を放出し、"AEBW・04"は元のサイズへと縮んだ。 全身の傷跡が痛々しく、非常に消耗しているが、生きてはいた。
「任務完了……」
ツキカゲは"AEBW・04"を見下ろし呟いた。
その眼が暗転し、力尽きて倒れようとした。
「ツキカゲさん!?」
カヨウは駆け寄り、倒れ込むツキカゲを受け止めた。
「え、あわわっ!?」
「……アンタか」
「えっ、あっハイ!」
「……さっきネコ野郎の前足に発砲したの、アンタだったか……」
ツキカゲは"AEBW・04"の前足に眼を向けた。 片足には銃弾で貫かれたあとがあった。
恐らく、この傷跡も"AEBW・04"を消耗させたのだろう。
「……殺さないんですか?」
ツキカゲを受け止めながら、カヨウは恐がるように尋ねた。
「……殺してほしいのか?」
ツキカゲの一言に、カヨウは思わず首を横に振った。
「……だったら殺す必要はねぇ。 任務も"
ツキカゲは翠色の光をなくし、瞳すらないようにみえる眼で"AEBW・04"を見下ろした。
「俺はコイツを倒した……だったらいいだろ……グハッ」
ツキカゲは翠色の吐瀉物を吐き出す。
「グハッ! グハッ!」
「ツキカゲさん!?」
「どけ、アケヨちゃん」
カヨウを押し退け、一人の男性が座り込んだツキカゲの前に立つ。
「……カーチぃス!」
「よぉツキカゲ~♪」
立てなくなるほど力を失いながらも、ツキカゲは強くカーチスを睨んだ。
その眼に一瞬、大空のように明るい笑顔の人物──ツキカゲに"影道流外戦渡術"を伝授させた人物が写る。
だが眼の前で己を見下ろす、ドロリと悪意を固めたように目の奥の感情を曇らせている笑顔を見た瞬間に現実に引き戻された。
「……見てたのか!? テメー今まで!!」
「あぁ見てたぜぇ~ハーハッハ! 不様に噛まれ引っ掻かれまくるテメーをなぁ~♪」
ツキカゲの睨みに怯むどころか、それすら楽しむようにカーチスは腹を抱えて笑う。
そして座り込み、ツキカゲの顔を片手で抱えて近づける。
「イイ顔だぁ~まだ戦えるって面してよぉ~♪」
何かを言いたげな表情のツキカゲの首筋に、カーチスは懐から取り出した潤滑剤を注した。
「ウグッ!……」
「たくっ、まぁ~た武装と潤滑剤を使いきってよぉ……後先考えろってんだ」
「グアッ!……」
「まぁそれほどまで破壊したいよなぁ~戦いたいよなぁ~惨めに敗北したザコ野郎を見下したいよなぁ~それがテメーにとっての戦い殺さない理由だからなぁ~!!──
ツキカゲの意識が消える。
「たくよ、無茶しやがって……まぁお前は強いから気にしないけどさぁ~」
カーチスは立ち上がって振り向く。 視線の先には、呆然としているカヨウが立ち尽くしていた。
「どうだったよ、ツキカゲというバケモノを見てさぁ?」
カヨウは思わず俯こうとし、そして咄嗟に顔を上げた。
「ツキカゲは任務を遂行した。 ただそれだけです」
両手を握り、ツキカゲを足元に置くカーチスに臆することなくカヨウは目を合わせた。
悪意の塊、己を見下し小馬鹿にし嫌悪しているその目を、カヨウは真っ直ぐ見つめた。
「……確かに私の思っていたものとは違う性格でした。 だけど私は、ツキカゲに対しバケモノなどと呼ぶような感情は抱いていません」
カーチスの感情を見せない笑顔に、カヨウは気丈に立ち向かう。
「私のツキカゲさんに対する感情は変わりません、ツキカゲさんはただ……」
カヨウは戦闘時のツキカゲの表情を思い出す。
冷淡で、ただ眼の前の敵に専念する真っ直ぐな表情を。
「ツキカゲさんはただ、戦を求めるエニマリーですから。 その純粋な性格を、私は尊敬しました」
「……」
カーチスの笑顔が一瞬消え、能面のように無表情となった。
「……ハ」
カーチスは顔を俯かせ──
「ハーハッハッハッハッハッッハ!! ヒャッハッハッハッッハ!! キャッハッハッハッッハ!!」
顔を勢いよく上げ、奇怪な笑い声をけたましく響かせた。
「尊敬だと!? こんな戦う以外に何も持たないコイツをか!? 戦うことしか能のなく、かつ何にも殺さないコイツをか!? そんな空っぽ野郎なコイツをか!? ハーハッハッハッハッハッッハ!!」
カーチスの曇った瞳に赤い眼光が灯りだした。 常に狂気を宿しているカーチスの目に、隠れた感情が覗いて見えた。
赤い眼光と共にカーチスは気味悪く体を動かし、奇怪な笑い声をどんどん上げる。
「ハーハッハッハッハ!!……なぁおい、テメーまだツキカゲをよぉ、分かった気でいるんじゃねぇよなぁ?」
笑い声をピタリと止め、薄気味悪い笑顔だけを変えずにカーチスはカヨウに顔を近づけた。
「なぁおい?」
「……まだ分かりません、ツキカゲさんも、この世界も」
カヨウの手が震え、カーチスの威圧に呑まれそうになる。
だがそれを耐え、カヨウはカーチスと顔を合わせて答えた。
「ですので、私はこれからも知っていきたいです。 ツキカゲさんも、この地表という世界も」
カヨウとカーチス、互いに顔を逸らさず互いに睨む。
「……!?」
先に目を離したのはカヨウであった。
(今の発言、私の素性がバレ──ツキカゲさんをどこまで知りたい!?)
「へぇそうかい、そうかい」
カーチスはユラッとカヨウを通りすぎる。
「ツキカゲに惚れたってのか」
「惚れたあああああ!?」
カヨウは思わず声を上ずった。 その顔が燃えるように真っ赤になる。
「あわわわわわ! いえそういう意味ではなくツキカゲさんとは節度ある依頼主とエニマリーの関係をですねってえぇとえぇと!!」
慌てふためくカヨウを無視し、カーチスはどこかへ歩き去ろうとする。
「……俺は破壊が好きだ、戦乱が好きだ、クソッタレな人間の行う最低最悪な不条理全てが好きだ。 それと同じくらい、ツキカゲも破壊と戦乱を求めている」
足を止め、カーチスはカヨウに聞こえるように呟いた。
「"翠晶眼"、地表で生まれし突然変異生物、起源は不明、存在が確認されて以来、あらゆる戦場で行使されるようになった最強の生物兵器……その中でもツキカゲ……テメーは最高だ! テメーはなぁ、地表に蠢くどんなザコ生物よりも強い!」
カーチスの歪みきった笑い顔が振り向いた。
「ツキカゲはなぁ、破壊しなきゃ気が済まないバケモノなんだよ、戦うことしか興味のない戦闘鬼なんだよ、そんでもって術の理を律儀に守り続ける愚か者なんだよ!!」
カーチスは笑う、不条理に、常に無意味に。
「そういうアイツは最高だ、最高に狂った愚かなアイツは最高だぜ」
赤い眼光が灯り、最後にカーチスは己の感情を素直に吐き出した。
「そんなツキカゲを、俺は愛してるんだ。 アケヨちゃん含め、他のどんなザコ野郎共よりなぁ!」
「重傷者五名、生死不明が二名か……」
近くの病院にて、スカライズ警察3番隊は負傷の手当てをしていた。
その中で、エイリーンだけは手当てを素早く済ませたあと、壁に寄りかかるように座り込んだ。
「なんという失態だ……報告書には恥しか書けておらぬ」
「しょうがないよ、だって"地表"だもの」
その隣をカギホが座り、エイリーンを慰めるように語りかけた。
「何が起こるかの不確定要素の連続……今日だって、まさか抗争に巻き込まれるとは思わなかったもの」
カギホは優しく信頼する顔で、落ち込むエイリーンをフォローする。
「しょうがない、今はただ任務を遂行するのみ!」
「カギホ……確かにこうしてはおられん、至急クランチェインの行方を追わねば!」
エイリーンは拳を握り立ち上がった。
「スカライズの平和、そして秩序の為に……この任務、遂行せねばならぬ!」
「うん、その意気だよ!」
カギホはガッツポーズをしてエイリーンを応援する。
「よし! ではカギホ、報告書の纏め、そしてシジュウミヤ家の捜査を要請しておいてくれ」
「え、シジュウミヤ?」
「ギャング共の口から漏れたのでな……一応調べておいてくれ」
そう言ってエイリーンは場を離れた。
「スカライズの安寧と正義の為、我々3番隊は更に地位を向上せねばならん! 故に、これしきで止まってなるものか!」
「……」
立ち去るエイリーンを、カギホはにこやかな顔を変えずに見ていた。
エイリーンが視界に入らなくなったのを確認し、カギホは通信機を取り出して連絡する。
「カギホ副隊長です……はい、シジュウミヤ家の癒着が知られました……はい、妨害も、しばらく続けなければいけないかと……」
カヨウは倒れているツキカゲの近くに座り込む。 顔は赤いままだ。
「ツキカゲさんに……惚れ……」
顔から湯気を噴き出すカヨウの横で、細かに息をしながら"AEBW・04"は仔猫達に見守られていた。
「ニャアオ?」
「……シャア!」
心配する仔猫に対し、"AEBW・04"は威嚇し後ろに下がらせた。
「ニャア……」
「シャア!」
通常の猫と変わらないサイズでありながら、しかし"AEBW・04"は先程までのサイズと同じ程の唸り声を、牙を無くした口で上げる。
「シャアアアアア!!……」
ツキカゲの傍らに座るカヨウは、"AEBW・04"から間を置いて離れていった仔猫たちを見届けた。
「ネコさん……」
「シャア…………ニャア……」
唸り声を上げ終わり、"AEBW・04"は再度動かなくなった。
「…………」
どことなく、仔猫を見届ける"AEBW・04"の表情に、カヨウはツキカゲの普段の表情を重ねた。
「……グハッ!」
ツキカゲが咳き込みながら起き上がった。
「ツキカゲさん!?」
「カーチス! うっせんだよクソ上司がぁ!──お前?」
起き上がって早々怒鳴り散らすツキカゲに、カヨウは怯えて震えた。
「あぁ……いや、面倒だ」
ツキカゲは起き上がろうとしたが、力が思うように入らず上体しか上げられなかった。
「……なんだ、その顔」
ツキカゲはカヨウに顔を向けた。
カヨウは"AEBW・04"に目を向け、そして俯いていた。
「私は……猫一匹撃てませんでした……怖くて、同情して……」
ツキカゲ、そして"AEBW・04"の傍らに座り込むカヨウは、震えながら思いを吐く。
「私は……役に立てず、ツキカゲさんに迷惑ばかり……!」
震える握り拳に、涙がぽつぽつと落ちる。
ツキカゲは頭をかき、そしてカヨウの泣き顔を片手で上げた。
「アンタがわざわざ戦う必要なんてない」
カヨウの泣き顔を上げさせながら、ツキカゲは己を睨み付けている"AEBW・04"に色彩のない眼を向けた。
「シャア!」
「コイツは俺の獲物だった、誰にも邪魔させるものか」
そしてカヨウに顔を戻す。 その眼は冷淡で鋭かった。
「アンタが命じれば、俺がそれを引き受ける。 ただそれだけだ、報酬はつくがな」
ツキカゲに顔を上げられたまま、カヨウは目を合わせ思った。
ツキカゲの眼は、カーチスの目と似ていると。
「特に戦闘ならば……引き受けがいは最高だ」
戦闘といった瞬間、ツキカゲの眼に一瞬翠色の眼光が灯った。
カヨウは驚くも、ツキカゲから目を離さず、その翠色の眼を見つめた。
「……そういうことだ、あんまり気にするんじゃねぇ」
カヨウの顔から手を離し、ツキカゲは倒れ込んだ。
「無理に考えるんじゃねぇ、アンタは地表人じゃねぇんだから、アンタはアンタのできる範囲で行動しろ」
「…………」
「それ以外、こういうことは地表人……いや、バケモノにうってつけなんだよ」
そう言ってツキカゲの眼は虚ろになる。
「……す」
「?」
「ツキカゲさんは──」
「そこの人間! 大人しく投稿しなさい!」
突然、カヨウ達の周りを武装車四台が包囲した。
「大人しく身柄を拘束されなさい! 貴様らに拒否権はない!」
「あわわわわわ!?」
「ちっ、"ESMSS"か!」
武装車からMt・Hg"M92F"を構えた局員ら四人が降りてカヨウ達を取り囲む。
「ええ、ええと!?」
「……ヤる気か?」
「シャア!」
ツキカゲと"AEBW・04"は局員を睨み付けるが、それ以外に身体に力が入らない。
「そこで寝転んでる
局員の中でも太い体格の男が舌なめずりしたその時──
ズドン! ズドン! ズドン! ズドン!
武装車の砲主と局員達の拳銃を持つ手が吹き飛ばされ、後ろから車が痛みに悶える局員を轢き飛ばしながらカヨウの前にドアを向けて停車した。
「アッキー! ツッキー! さっさと乗りな!」
運転席には頭に包帯を巻いたサバイバ、助手席には"ベレッタM92"を構えたローが座っていた。
「……あっはい!!」
カヨウは怪我してるツキカゲ、そして"AEBW・04"を乗せてカヨウは乗車した。
「よし、出るぞ──っておい! その猫はもしかして……」
「はい、先程暴れていた猫さんです」
「シャア!?」
"AEBW・04"は驚くようにカヨウに顔を上げた。
「ちょ、アッキー? それって危険なのじゃ──」
"AEBW・04"を見て動揺するサバイバに、カヨウは真っ直ぐ真剣に向かい合った。
「任務は"確保"です。 ですから、私は保護します。 今、私ができることをしたいのです……!」
カヨウは優しく"AEBW・04"を抱え込む。
「け、けどよぉ~……」
「GO、サバイバ」
困り果ててるサバイバに、"ベレッタM92"で局員を撃ちながらローは発車を促した。
「……たくっ、了解!」
立ち上がる局員を再度轢き飛ばしながら、四人と一匹を乗せた車は局員や武装車から逃走した。
「あ、ありがとうございます!」
「詳しいことはあとだ! 今グレっちがアームドレイブンの確保を阻止してるところだ! さっさと行くぞ!」
車は走る。 喧騒賑やかに日常通り破壊が巻き起こる町を後にして。
数分後──
「良かったです~皆さんご無事で~♪」
グレイがアームドレイブンの隣に停車した車に駆け寄った。
「……!?」
「グレっちにカーチス……
運転席から降りたサバイバが激しく怒りだす。
「ツキカゲ君!? 大丈夫ですか!? いつもと同じく倒れ込んでますが!?」
グレイがカーチスに駆け寄る。 彼女の着ている白衣は返り血に染まっていた。
「いや、グレっちこそ大丈夫かよ……あぁ頭から更に血が吹き出そうだぜ……」
頭を抱えながらアームドレイブンに搭乗するサバイバと、それに寄り添って同じく搭乗するロー。
「ツキカゲ君、立てる?」
「立てるぐらいできる、だから手は出さなくていい、グレイさん」
ツキカゲを介抱しようとするのを止め、グレイは白衣を脱ぐのを止める。
一瞬見えた背中には斬り傷や火傷、何かを打ちつけたような傷跡で覆われており、そして刻印らしきものも僅かに見えた。
「そう? じゃあ、無理しないでね~」
露出した谷間の部分を閉め、グレイは先にアームドレイブンに搭乗して行った。
「わ、私達も──」
ツキカゲがドアを開けた瞬間、カヨウの足元に飛び出た"AEBW・04"が寄り添った。
「猫さん!?」
「……ニャアオ♪」
"AEBW・04"は甘えた鳴き声をしたあと、アームドレイブンに搭乗にして行った。
「ちょっあの暴れネコが何で乗ってるんだぁぁぁ~……」 「サバイバ!?」 「サバイバさん、しっかりしてください! 頭から血が大量に──」
ドタバタしているアームドレイブンに、ツキカゲ達も搭乗する。
「カヨウ、あのネコ野郎は契約外だ」
「……はい」
カヨウは俯き、両手を合わせながらツキカゲについていく。
待機室を通り、そのままロッカールームへと入る。
「……追加報酬払うってなら、アンタと一緒に養うが?」
「……いいえ、その必要はありません」
カヨウは頭を上げた。 その表情は決意をしている目だった。
「私を──ツキカゲさんと同じ、エニマリーの一人となりたいです!」
「……ハ?」
ツキカゲは一瞬眼を丸くしたあと細める。
カヨウは一瞬口をつぐみ、そして覚悟を決めたように口を開く。
「1つ分かったことがあります、地表は容赦のない世界だと、人が不条理に巻き込まれてもおかしくない世界だと」
カヨウは哀しそうな表情で、煙を上げ離れる町に顔を向けた。
「そんな世界で、私は何もできません……何もしてあげられません」
ふとカヨウは顔を赤くし、だが顔を背けずツキカゲに向けた。
「だから私は、ツキカゲさんの側で、自分のできることを広げたい!」
精一杯の気持ちで、カヨウはツキカゲに向けている思いを告白した。
「だからエニマリーとして……ツキカゲさんの側にいさせてください! 貴方の側で、世界を教えてください!」
カヨウは頭を下げ、顔を赤くしながら固く結んだ。
「……頭を上げろや」
カヨウは言われた通りに上げた。 ツキカゲは無表情に、それでいて非常に鋭く冷淡な眼をカヨウに向けていた。
「……アンタを連れながら世界を教える、その間は俺がアンタを養う、その代わり──」
ツキカゲはペンダントに触れながらカヨウに向き直る。
「それ以外、ネコ野郎などはアンタの受け取った報酬から差し引く。 そういうことか?」
「はい!」
「……今日見た通り、任務によっちゃ身の安全は保証できない。 それでいいな?」
カヨウは手を握り、そして覚悟を決めた顔でツキカゲと向かい合った。
そして、淡々と無表情なツキカゲに、カヨウは優しく活気ある精一杯な笑顔を向けた。
「強く、真っ直ぐに生きる、ツキカゲさんの側で立っていきたいです!」
先程言えなかったその一言を言い、カヨウとツキカゲは関係をより複雑にしていった。
如何だったでしょうか。
ツキカゲの戦闘理念、カヨウの甘さ、カーチスの感情……人によっては嫌悪するかもしれません。
私自身も投稿する瞬間までこれで投稿していいか、読者から嫌われるキャラになるんじゃないかと内心とても心配していました。
だけど同時に、この性格で書き上げていきたいという思いが強くありました。
この性格として書き続け、たとえ読者に評価されずとも、私がツキカゲらを好きでありたいという気持ちで一杯でした。
異様な文字数、荒唐無稽滅茶苦茶な描写、狂っているようにしか見えないキャラ、今回もまた反省するところが多い作品。
だけども、これからも愛してるツキカゲらで、この作品を書き続けていきたいです。
そんなツキカゲらを、これからも読み進めていただければ、とても嬉しいです。