メテオリウム─翠晶眼の傭兵─   作:影迷彩

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 まず、これまでご愛読して頂いた読者に感謝です。
 投稿期間が空くことの多い作品ですが、読者の感想や意見が励ましになり、何とか執筆できています。

 ここ最近は受験シーズンとなり、執筆がままならない状況の作者様が多いですね。
 かくいう私も、これからしばらく最新作は投稿できないかもです。

 それでは最新話、文字数一万が平均となりつつある本作をどうぞ!

  


──苦しみを知るお嬢ちゃん──

 違法な取引でその地位を手に入れたツチハラ地主、彼の怒りを買った民達を面白半分に処分する為の柵の中、"柳生"を構えるツキカゲと経垂れ込んだカヨウ。

 

 「ツキカゲさん! 私──」

 

 「アンタ、なんで前に出てきた?」

 

 ツキカゲがカヨウに振り向いた。

 その淡々とした表情には苛立ちと呆れが込められていた。

 

 「ツキカゲさん……」

 

 「アンタは何もするな、余計に動かず下がってろ、(こういう)うことは全部──」

 

 "柳生"の切っ先を前に向け、ツキカゲは狼狽えるラフライフルを翠色の眼で捉えた。

 

 「俺が壊して、破壊するもの」

 

 「ツキカゲ……さん!?」

 

 「伏せろ」

 

 燃え上がるように煌めくツキカゲの眼を、カヨウは思わず畏怖してしまった。

 そんなやり取りをする二人を、ボディーガード達が両腕の短機関銃を展開して包囲した。

 

 「ヒューっ! 誰かと思えばだが、戦闘鬼、噛み砕き屋(クランチャー)、そして不殺野郎(ノーキルアス)で有名なサムライ・ツキカゲかぁー? そんな腑抜けが、この数に包囲されては──」

 

 手に突き刺さったMt・Tb"武蔵"を投げ捨て、ラフライフルは口笛を吹いた。

 

 「弐ノ術"影ノ陣"」

 

 ツキカゲは一言唱える。 その瞬間ツキカゲは消え、そして周囲のボディーガードが全員吹き飛ばされた。

 

 「「「「ぐわぁぁぁ!!」」」」

 

 「な……ななっなぁぁぁぁぁ!?」

 

 「これで全員か?」

 

 今の一瞬、ツキカゲは相手の視線と銃口の向きを読み取り、それらの死角を通ってボディーガード全員に"柳生"で一撃をくらわせ無力化したのだ。 古来の東方では"大太刀"というカテゴライズに位置した"柳生"のリーチ、そしてツキカゲの持つ"影道流外戦渡術"の一対多勢術が合わさった鮮やかな技前であった。

 

 「骨を数本切っただけだ、増強剤使ってるんだろ、だったら死なねぇだろ、そのまま傷んで苦しんでろ」

 

 地面の上でのたうち回るボディーガード共を、ツキカゲは無関心な表情で無視し、"柳生"を抜いた。

 生身の人間相手なら蹴りで十分であるが、相手が翠晶眼──特にメテオリウムを直接使う強化系が相手なら、自分の変異能"崩壊よ、加速しろ(アクセル・クラップス)"を纏わせた"柳生"が有効なのだ。

 

 「邪魔はなくなった……次はテメェの番だ」

 

 ツキカゲは"柳生"をラフライフルに突きつけた。

 

 

 

 (チッ、あのバカ共!!)

 

 近くの建物の屋上。 何とか上がり、射撃体勢を構えたローが翠色の眼とセンサー越しに見たのは、その身を暴露して突撃するツキカゲとカヨウであった。

 

 (何してるの全く! ローガン達の建てた計画がボロボロじゃない!)

 

 ツキカゲが隠密行動で用心棒達を叩き、ローがその隙に地主を狙い撃つ。

 用心棒が翠晶眼なのには驚いたが、それ以外は別に……別に見せしめなんぞロー達に関係ないのは放っておけばいいハズであったのに──

 

 (ツキカゲのバカは論外として……アケヨって女、あそこまでバカとは思わなかった!)

 

 センサーが捉えるはツチハラ地主。 弾を装填した瞬間にツチハラ地主はボディーガードを盾にして逃げ去る。

 ローはボディーガードの足を次々と撃ち抜く。 ボディーガードが倒れる度にボディーガードはツチハラ地主を身を呈して強固に護る。 ローは眉間に照準を変えようとするも、ボディーガードの展開した腕部シールドに阻まれ銃弾が届かない。

 

 (あぁ邪魔! ガードも、バカツキカゲも、アケヨって女も!!)

 

 心の中で悪態をつきながら、ローは牙を模したマスク内の通信機で連絡を取る。

 ローの声帯は、脳内で口に出そうとする文章を、簡単な単語に変換して声を出してしまう。

 

 「邪魔、ボディーガード、ツキカゲ……アケヨ!」

 

 ふと、レンズ越しにツキカゲと一瞬眼が合う。

 

 ──あっちに行ってろ──

 

 ツキカゲはそんな目つきをした

 

 「チッ! 勝手しろ!!」

 

 

 

 「イィーっ……イヤッハァァァハァハァ!!」

 

 突然、ラフライフルは笑い声をあげた。

 

 「どうした、粗雑な笑い声をあげて?」

 

 「邪魔じゃねーよ……こうできるからなぁぁぁぁ!! キャハッハァァハァァ!!」

 

 ラフライフルは懐から、手ほどの大きさのカプセルを取り出した。 

 

 「!……テメェ、やっぱり持ってるか」

 

 「その、まっさかよぉぉぉぉぉ!」

 

 「アンタ! あっちへ行ってろ!」

 

 ツキカゲはカヨウの胸ぐらを掴み、素早く遠くへ放り投げた。

 

 「え、えぇ!?」

 

 「あれ、ラフライフルさ──あああぁぁああぁぁあぁぁ!!」

 

 ツキカゲがカヨウを投げられ、ラフライフルがカプセルを割り、ボディーガード達の悲痛な鳴き声が地主を大きく柵の中で響いた。

 

 「邪魔じゃねーさ……俺様のメテオリウムよ!!」

 

 割れたカプセルの中から放出されたのは結晶粒子である。 結晶粒子に触れたボディーガード達の身体がたちまち結晶に変えられる。

 

 「「「「あああぁあぁぁっぁぁぁああっぁっぁ!!」」」」

 

 悲痛な叫び声を上げるメテオリウムを、真ん中でラフライフルは潤滑剤を使いながら歯牙にもかけなかった。

 

 「ありがったぁぁぁくウヒャヒャヒャッハアアア!! 使わせてもらうぜ、俺様の"ラァフライフル"!」

 

 元は人であったメテオリウムが、ラフライフルの持つ"USSR マカロフ"と融合した。

 

 「ウヒャッハァァッァァァッァ!! ちったあ短いが、いい銃身だ!!」

 

 ラフライフルは甲高い笑い声をあげ、ツキカゲ達に歪んだ銃身を前に向けた。 それは最早拳銃と呼べず、一本の大剣(バスターソード)と形容した方が納得するような見た目であった。

 

 「え、人が……けっ──メテオリウムに……ウっ!?」

 

 その光景を見てカヨウは震え、驚愕と恐怖に顔を歪め、その光景に吐きそうになる。

 

 「あまり見るな、アンタにとって見ていていいものじゃねぇぞ」

 

 「ウッヒャッハハァァッァァッァァアァッ!! どうした怖いか!?? 人間らはただの資源材料、当たり前の常識だろぉうが!!」

 

 ラフライフルは粒子を払う。 粒子は数秒で消え去った。 

 

 「俺はどうだっていい、テメェが誰を消そうが知ったことじゃねぇ……」

 

 ツキカゲは"柳生"の刃先を前に構える。

 

 「アンタは俺の依頼人を危なくさせた、ぶっ倒すには十分な理由だ」

 

 「イヤッホオオォイィィィ!!」

 

 歪んだ"USSR マカロフ"──ライフルから銃弾が放たれた。

 銃弾は通常の倍の速さで放たれ、さらに銃弾の鋭利な先端は爆発的な粒子を纏ってツキカゲを狙う。

 

 「くったばれぇぇぇぇ!!」

 

 ツキカゲは己を撃ち抜こうとする銃弾を"柳生"の刃先中心で受け止める。 だが銃弾は勢いをなくさず、突っ込んできた暴走車めいてツキカゲを後ずさせる。

 

 「たかが強化系の雑魚が──!」

 

 ツキカゲは押してくる銃弾を"柳生"の刃先をずらして横に弾道をずらした。

 弾丸はツキカゲの頬を掠り、後ろの小屋へ飛んでいった。

 ドガァン!!と音をたて、後ろの小屋が爆発した。

 

 「イヤッホゥゥウ!! 俺様の"ラフライフル"、1度でも受ければぁウヒャヒャヒャッハアアア!!粉微塵!!」

 

 "USSR マカロフ"は自動拳銃、次々と銃弾と薬莢を撃ちだす。

 

 「ウヒャヒャヒャッハアアア!! さぁ避けろ! キャァハハッハァァァァァ!!」

 

 ツキカゲはそれを次々と避け、時に刃先で弾道を反らし、ドガァン!という大きな爆発を背にして突入する。 ラフライフルはその光景を目にし、全く下がらないツキカゲの突入に畏怖してきた。

 

 「何でェ? キャァハハッハァァァァァなぁんで当たらん!?」

 

 ラフライフルは危機感を覚え、ふとツキカゲから視線を外す。

 そして既にツキカゲとの距離が三メートルまで迫ったとき、ラフライフルは銃口を明らかにツキカゲから外した。

 

 「たかが強化系の雑魚が──」

 

 「イヤッハァァァ!! おぉっとまた外れたぜぇイヤッハァァァ!?」

 

 頬を掠めた銃弾の向かう場所を、ツキカゲは翠の眼を光らして追った。

 

 「人が……資源──」

 

 カヨウが顔を上げたとき、目の前に写ったのはコチラに向かう銃弾であった。

 

 「チッ、崩壊よ、加速しろ(アクセル・クラップス)!!」

 

 ツキカゲは加速し、銃弾以上の速さで銃弾の前に立ちはだかる。

 銃弾は粒子を纏った"柳生"の刃先で真っ二つとなり、そして暴走した粒子により爆発した。

 

 「グハッ!!」

 

 至近距離での爆発にツキカゲは大きなダメージを受けた。

 顔からは止めどなく翠色の血液が流れ、着用している特殊防護服も傷つき、それらでは抑えきれなかった衝撃が全身を伝っていた。

 

 「ツキカゲさん!!」

 

 「テメェは逃げてろよ、弱い癖して戦場に迂闊に飛び出すな!」

 

 カヨウは自分に眼を向けず、弾を装填するラフライフルを定めるツキカゲの言葉に顔を蒼白にした。

 

 「人質……になるよなぁ!」

 

 そんなカヨウに、粒子から逃げ延びたであろうボディーガードが"USSR マカロフ"を向ける。

 

 「駆けつけてきたのか、テメェ」

 

 ツキカゲはラフライフルに眼を向けたままだ。

 

 「……いたなら連れて行け、ネコ野郎!」

 

 「シャアアア!!」

 

 ボディーガードは背中を切り裂かれた。鮮血と共に背後から一匹の獣が飛び出した。

 白い体に灰色の縞模様、背中にはMt・Tb"ムラサメ"を専用アームでマウントし、口には専用義歯"雷牙"を備えている獣に気づき、カヨウは振り向いた。

 

 「ワクさん!!」

 

 そのネコ──"WAAC・N"は翠の鋭い眼をカヨウに向け──

 

 「ニャア~オ!」

 

 猛獣の表情を緩めてカヨウの脚にすり寄った。

 

 「ニャア~……シャア!!」

 

 WAAC・Nはその表情を凛々しく直し、カヨウの脚を尻尾で引っ張るようにして逃げることを促した。

 

 「……私は……役立たず……ですか」

 

 ふと、カヨウは小屋の近くで倒れている少女を見つけた。

 

 

 

 「グレイちゃん? どうしたよ外をボケーッと眺めて?」

 

 爆発音の響く退廃的な村を、グレイは窓から眺めていた。

 

 「あ、う~うん大丈夫♪」

 

 カーチスに振り向き、グレイはアタフタしながら優しい笑顔で答える。 優しい笑顔だが、その目には察するには重い何かが表情を隠していた。

 

 「少しね、うん……思い出しただけだから、大丈夫だよ……」

 

 そう言ってグレイは窓に顔を戻し、手を窓に掲げた。

 その手には、切り傷や火傷が刻まれていた。

 

 「そうかい、そうかい♪……だがしっかし、昔っから変わらねぇよなぁ、この地表(せかい)ってのはよぉ」

 

 カーチスはそんなグレイを背中から抱き込み、共に破壊される村を笑顔で眺める。

 

 「今も昔も戦でよぉ……勝たねばやられる、負ける前に相手を討て、戦い終われば再び戦う」

 

 カーチスの目は赤く染まり、村の破壊の中心で暴れるツキカゲの方向を正確に向いていた。

 

 「邪魔も何も切り捨てて……本能の限り戦えや、俺のツキカゲよぉぉ!! ハーハッハッハッハ!!」

 

 ツキカゲの巻き込んだ破壊を、カーチスは歓喜し狂い笑う。

 

 

 カヨウは一人の少女を匿い、翠晶眼の戦闘から逃げていく。

 なんでも、体の弱い母に食べ物を恵むよう頼んだら、ツチハラ地主とラフライフルによって柵の中に入れられのだ。

 

 (こんな年端のいかない少女までも……死の裁定に入るというのですか!)

 

 カヨウは手を強く握り、そして痛がる少女に気づき慌てて手を離した。

 

 「ごめんなさい、私──」

 

 「……お姉ちゃんもクーデター?」

 

 カヨウは少女の痩せこけた顔に、そして聞きなれない単語に思わず思考を惑わせた。

 

 「……クーデター?」

 

 「うん、もう我慢できないっていうから、だけど自分達に村を取り戻す力がないから、近くのエニマリーに依頼したって」

 

 少女は俯き加減に話す、先程の地主──正確には地主に依頼された用心棒を思い出しているのか。

 

 「ときどきバケモノとかに襲われることはあるし、デッカい町に守られてない所だから仕方ないっていうけど……」

 

 少女は顔を上げ、退廃的な町並みを見渡した。 

 

 「昔はまだ活気があったんだって……わたしは覚えてないけど」

 

 少女は自分達を警護しているWAAC・Nと、そしてカヨウにすがるような顔を向けた。

 

 「お姉ちゃんや猫ちゃんは、クーデターして悪い地主やエメリスタリーをヤッつけるんでしょ!?」

 

 「ニャ~オ?」

 

 WAAC・Nもカヨウを見上げ、脚にすり寄りながら答えを求める。

 

 (私に……アレらを止められるのか、コルトガバメントだけで止められるのか……)

 

 (……いや、そもそも私の任務は──)

 

 カヨウの任務は見せしめの阻止。 それは既に果たされている。

 

 「ツキカゲさんのおかげで……」

 

 一言呟いたカヨウと、少女の見上げた顔の目が合う。 その虚空を見つめるような表情は、カヨウに依頼した女性にとても似ていた。

 

 「お姉ちゃんは、私達を助けてくれる?」

 

 カヨウは立ち止まる。 ここからどう動くべきか、そう考えて歩くことを止めた。

 

 「私は……」

 

 カヨウの脳裏に、ツキカゲの淡々と突き放すような翠色の眼が浮かぶ。

 

 「ツキカゲさん……私は、何もできません……アイツらを倒すことすら……見せしめを止めることすら」

 

 遠く離れた場所で悲鳴と翠色の爆炎が響く。

 カヨウはそれらの音、そしてすがるような少女の顔に挟まれ動けなかった。

 

 

 「ウッヒャッハハァァァァァァアァッ!!」 

 

 ボロボロなツキカゲはラフライフルと戦い、村の中でも一際大きな屋敷へと突っ込んだ。

 その過程でツキカゲの"柳生"、そしてラフライフルの歪んだライフルによって村の半分は破壊されていった。

 

 「アヒャッハハハハ!! 何もできね~かいサムラぁイ?」

 

 次々と発砲し、辺りを爆炎に変えるラフライフル。 だがラフライフルは、調子と狂笑によってツキカゲが本気になっていることに気づかなかった。

 

 「ほぉら、さっきみたいに弾き返せよなぁ~!!」

 

 ラフライフルは気づかなかった。 ツキカゲは避けてるのではない、銃弾がツキカゲに当たらないのだと。

 

 「イヤッハァァァァイ!! 俺様はこの精製度で戦うの初めてなんだからよぉ、当たって威力を教えろや!!」

 

 「なるほど、道理で杜撰な制御だよ」

 

 横に飛び、そして前方のラフライフルに確実に近づくツキカゲ。 

 

 「ふっわァァァァァアァァァアアアァ!!」

 

 「逃がすか!」

 

 ラフライフルは銃口を後ろに向けて放つ。

 

(こちとら潤滑剤が足りねぇんだ! 何か道具がッハッハハ!!)

 

 後ろに向けた銃口が噴射し、ブースターめいてラフライフルを勢いよく飛ばした。

 

 「ウッヒャハッハハハッハッハ!!」

 

 飛び立ったラフライフルは銃口を戻し、ラフライフルは歪んだライフルを発砲しツキカゲを襲う。

 だがツキカゲは特殊な足裁きで銃弾を避ける。 気づいていないが、ラフライフルは照準を合わせられていない。 

 

 「弾道は単純、威力による余波があっても、俺には何も届かない」 

 

 "影見"

 ツキカゲの使用する"影道流外戦渡術"における一撃離脱戦法である。

 ツキカゲはラフライフルの動きを読み、ラフライフルの狙いを自身に集中させるように動き、そして不規則な軌道の足裁きをすることでラフライフルの狙いを惑わしているのだ。

 故に障害物がなくなろうとも、ラフライフルの銃弾はツキカゲに当たらない。

 

 「ちょっこまっかとぉぉぉぉ!!」

 

 横に素早く移動し全ての銃弾を避けるツキカゲ。 強化の媒体が銃であれば、相手の動きはいずれ止まる。

 

 カチッ

 

 ラフライフルの弾切れの僅かな音が、ツキカゲの鋭敏となった聴覚に伝わった。

 ツキカゲは地面を蹴って前方に直進、装填を始めるであろうラフライフルの隙を突いて"柳生"で切り刻もうとする。

 

 「ウヒャッハハハ!! あったなぁ道具!!」

 

 ラフライフルはライフルの余波で破壊した建物を指差す。

 

 「キャッハッハ!! ここにも資源がまだ群がっていたぜ!」

 

 凪ぎ払うように壊された建物から、鍬等を持ち隠れていた民達が出てきた。

 

 「!?」

 

 ツキカゲは"柳生"を地面に差して突撃を止まった。

 

 「アンタら、さっさと逃げてろや雑魚共!!」

 

 「……バレちゃしょうがねぇ! お前らを倒して村の平和を!!」

 

 「この屋敷をぶっ壊して安心を!」

 

 ツキカゲが優勢になったら出てきたであろうクーデターの発起人達は、各々の武器を持って立ち上がる。

 

 「集まったぁぁぁ!! 俺様の資源、集まったぁぁぁぁぁぁ~~~!!」

 

 ラフライフルは銃身を天高く上げて叫ぶ。 その目は翠色に燃え上がるように灯っていた。

 

 「猛々しく暴れろ! 俺様のラぁぁぁフライフルぅぅぅぅぅ!!」

 

 屋敷の側の小屋の中に蓄えられたメテオリウムが、壁を突き破って飛び出した。

 周囲のメテオリウムが粒子状となり、まるで吸い寄せられるように"USSR マカロフ"の銃身に集まる。 

 

 「ああぁぁぁああぁぁぁあぁぁ!!」

 

 そして、結晶粒子に巻き込まれた民の全身からメテオリウムが現れ、民の体を埋め尽くした。

 

 「ウッヒャッハッッハッハハッハハッハ!! 俺様のメテオリウムが集まるぅっ!!」

 

 ラフライフルは粒子をライフルに吸収しおえ、バイポッドめいた脚立を地面に突き刺し、二挺の銃身をツキカゲに向けた。

 周囲のメテオリウムと民を吸収して出来たソレは最早猟銃と呼べず、トラックめいて巨大な砲身の中には同じく巨大化した銃弾が装填されていた。

 

 「どうだぁサムライ・ツキカゲ! これをじ~っくり見ても斬れると思うかぁぁ?」 

 

 ツキカゲは"柳生"を構え、ラフライフルの歪んだライフルを見定める。

 

 「たたっ斬る、それだけだ」

 

 潤滑剤を首筋に打ち込み、空になった容器を投げ捨てツキカゲは回収した"武蔵"も抜刀した。

 ツキカゲは淡々と、だが目の前の標的を斬るという意思で、眼を爛々と翠色に灯らせる。

 

 「イヤッホゥゥゥ!! ヤ~ってみろぉぉぉ!!」

 

 ライフルから銃弾がツキカゲ目掛けて発砲される。

 巨大な銃弾はツキカゲが身を翻すより速くツキカゲを吹き飛ばそうとする。

 

 「崩壊よ、加速しろ(アクセル・クラップス)!!」

 

 ツキカゲの身体から翠色の粒子が放たれ、常人の視線には追いつけない速度で銃弾に突撃した。

 銃弾と僅か1m以下の間合いに入ったとき、ツキカゲは"柳生"と"武蔵"の刀身を交差させ、巨大化した銃弾に斬り込む。

 火花を散らせ、ライフリングで回転する巨大な銃弾と、ツキカゲの粒子を纏わせた"柳生"と"武蔵"がぶつかり合う。

 

 「うひゃっはっははっは!! 俺の弾に敵わねぇぇぇ!!」

 

 「Crunch (噛み砕く)

 

 僅か五秒の激突、先に壊れたのは巨大な銃弾であった。

 

 「あれ?」

 

 ラフライフルが呆けた瞬間、弾道を突き通ってツキカゲが"柳生"と"武蔵"がその胸を斬り上げた。

 X字に刻まれた斬傷から翠色の血が吹き出した。

 

 「あぁぁぁあぁぁぁぁぁあっぁぁぁあ!!」

 

 ラフライフルは身体に入る激痛に耐えながら、何とかツキカゲに残りの銃弾を撃ち込もうと銃口を向けた。

 

 「崩壊よ、加速しろ」

 

 だがツキカゲは、刀身の砕けたMt・Tbを捨て、巨大化したライフルとラフライフルの片腕を掴む。

 

 「降参だ降参だ降参だ!! 全部負けた! 全部話すぞ! ツチハラのダンナの不正、そしてこの土地で開発した──」

 力強く、有無を言わせずツキカゲは粒子を込めて掴む。

 僅か五秒、銃弾がツキカゲの手を焦がした瞬間、銃弾とライフル、そしてラフライフルの片腕が砕け散った。

 

 「──────────っ!!……」

 

 「──雑魚が、負けて苦しみやがれ」

 

 声を上げず、ラフライフルは激痛と精神的敗北で倒れこんだ。

 

 「任務完了」 

 

 ツキカゲは、自ら等が破壊尽くした村とメテオリウムの粒子の中心で立ち尽くす。

 

 

   

 「もうダメだ! アイツらを抑えきれない! どうしてこうなった!」

 

 その光景を眺め、ツチハラ元地主は自身のオフィス内で暴れていた。

 

 「フアアアアアッ!! どうしてこうなったのだ!?」

 

 「そらぁ銭で得た地位は、こうして脆く崩れるんでやすぜ」

 

 書類をぶちまけた机の前に、黒いスーツに身を包んだ男がソファーであぐらをかいていた。

 

 「へぇ……クランチェイン、前回のメテオリウム採掘阻止に次いで、あっしらの邪魔にな……」

 

 「どうにかしろナイティーク!! お前らが派遣したラフライフル、ヤられただけではなく採掘場まで壊して!!」

 

 書類を漁り、いるものだけを鞄に詰めるツチハラ元地主。

 

 「……確かに、アイツは暴れすぎやしたね~。 ま、元々この地は、あっしらの管轄から外すことになってやしたがね」

 

 黒スーツの男──ナイティークは焦って狼狽えてるツチハラ元地主と反対に、この事態に動じず淡々と話を進めた。

 

 「何だと!? この地には我らの開発し──」

 

 「それらが必要なしとなりやしたんですよ、開発データは回収済み、あとは適当に民を放っとくだけでやす」

 

 ナイティークは立ち上がり、オフィスを去ろうとする。

 

 「その後の始末はラフライフルや貴方に任せようとしやしたが……もう仕事の必要はありやせんね」

 

 「ワシはどうなる!?」

 

 机を叩くツチハラ元地主に、ナイティークは憐れみと嘲りを混同した表情で振り向いた。

 

 「どうにもこうにも、必要なしの土地に飛ばされた時点でお察しくれやす」

 

 言葉をなくしたツチハラ元地主と話すことなどないという態度で、ナイティークは尖ったトップの帽子の唾を傾け顔を隠す。

 

 「まぁウチからネコババした悪銭で、どうにか生き延びてくれやす」

 

 「!?」

 

 「そういうことなのでやす。 もうアンタさんは、あっしら組織(・・)から切り捨てられたんでやす」

 

 狼狽えていたツチハラ元地主の表情が消え、そしてその直後に怒り顔に変わった。

 

 「ああぁぁぁ!!」

 

 激昂したツチハラ元地主は最早冷静な判断を保てなくなり、自分から去ろうとするナイティークを"USSR マカロフ"で撃ち殺そうとした。

 だが"USSR マカロフ"を振り上げた直後、それを握る手が宙を舞った。

 

 「あ、ああああぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 数秒おいて赤い血を吹き出した腕を抑え悶えるツチハラ元地主。

 その横にはいつの間に、165㎝ほどの背丈に鎖帷子を着こんだ正藍色の特殊スーツ、顔に無機質なバイザーマスク、そして手首の付け根には黒い刀身のブレードを備えた人物が立っていた。

 

 「エージェント・ラフライフル、損傷激しいがエージェント・ゴーストが確保した」

 

 「あら、そういえば回収を任せてやしたね」

 

 ブレードを回転させて邪魔にならないようにし、腕組をする正藍色の人物は、ナイティークの側に一瞬にしてついた。

 

 「グ、グアアアアア!!」

 

 「さってと、タロットの結果でアンタさん生かすことにしやしたので、あとはご自由に。 あっしらは一才問いませんので、責任の心配はしやくていいですぜ」

 

 ナイティークはせせら笑いながら、袖からカードを取り出した。

 

 「ワシを……ワシを舐めるなぁ!! ワシには貴様ら、たかが何でも屋以上の権力が──」

 

 激昂して発砲したツチハラ元地主。 だが銃弾はナイティークを貫く前に消失した。

 

 「ハエッ?」

 

 その光景と共に、ツチハラ元地主が最後に見たのは、自分の体が輪切りにされる姿だった。

 

 「生かすという結果を捨てやしたか……これも結果でやすな」

 

 ナイティークが振るったカード──メテオリウム加工されたトランプを袖にしまうのに合わせ、輪切りにされたツチハラ元地主は床にべチャリと落ちた。

 ナイティークはそれを、翠色の眼で侮蔑的に見捨てた。

 

 「出張は済みやした。 では次の任務と行きやしょうか、エージェント・暗影」

 

 「御意、エージェント・ナイティーク」

 

 正藍色の人物──暗影は僅かに首を縦に振り、一瞬にしてナイティークと共に部屋から消え去った。 

 後に民が突入した時、部屋に残されたのは、荒らされたオブジェクトと、切られた片腕と、輪切りの死体だけだった。

 

 

 

 「お母さぁぁぁん!!」 

 

 屋台の中で、泣きじゃくる娘と母親である女性が抱き合った。

 

 「……良かったですね」

 

 カヨウはその光景を微笑ましく見てた。

 その目はしかし暗かった。

 

 「……報酬だ、商品全て持っていっていいぞ」

 

 母親は商品を並べて答えた。 ローブの奥の顔は笑顔であった。

 

 「……商売に支障は?」

 

 カヨウは商品を眺めて聞いた。

 

 「心配ない、畳むからな」

 

 「……え?」

 

 ローブの奥の首が見えた。 そこには結晶が生えていた。

 

 「!?」

 

 「お母さん?」

 

 呆然としたカヨウと反対に、娘は純粋無垢な表情で聞いた。

 

 「大丈夫よ、これからはお母さんと一緒に、色々な所を回りましょうね」

 

 「うん!」

 

 

 

 カヨウはWAAC・Nに護衛されながら、手荷物を持ってアームドレイヴンに戻った。

 アームドレイヴンに搭乗しようとした瞬間、ツキカゲも同じく隣にいた。

 

 「ツキカゲさ──」

 

 ツキカゲは全身を傷つき、そして翠色に染まっていた。 翠色のそれが何なのか考えるのを、カヨウは無意識に拒んだ。

 

 「あ、あの、私は任務で──」

 

 「勝てそうねぇのに突っ込んだと?」

 

 ツキカゲの無機質な翠の眼がカヨウを睨む。

 

 「ごめんなさい! だけど……見過ごすことはできなくて……」

 

 カヨウは涙をこぼしてツキカゲと目を合わせる。

 

 「あんなのおかしいです! 人が……人が生きたままメテオリウムにされて……人が資源だなんて──!!」

 

 「──それが地表では当たり前だ」

 

 ツキカゲは淡々と言い放ち、カヨウから眼を離した。

 

 「メテオリウムは生物から増殖する……メテオリウムは加工すればどんな素材にさえ変化する……それだったら人間をメテオリウムにして増やすことになるのは当たり前だろ。 スカイカントリーだって、死体でメテオリウムを作って浮かせてるって話じゃねぇか」

 

 スカイカントリーという単語がツキカゲから言い放たれたとき、カヨウは過去の一言をを思い出した。

 

 ──カヨウ、お母様はね、この地を動かすための資源になるのよ─

 

 泣きじゃくる幼女時代のカヨウと、今も泣きじゃくるカヨウが己の感情内で混ぜあった。

 

 「……それが地表だ。 人間なんて、ただの資源の一つ、それで役に立つんだよ」

 

 ツキカゲはカヨウから顔を離した。

 

 「アンタには力も常識もない、大人しくしてろ」

 

 カヨウは最後の一言に、心を砕かれたような感情となった。

 ツキカゲはフラフラとした足取りでアームドレイヴンに戻る。

 

 「おうおうツキカゲ──」

 

 アームドレイヴンからカーチスが飛び出し、ツキカゲを抱きしめようとした。

 ツキカゲはカーチスに腹を蹴りを入れる。

 

 「ツキカゲぇ~どうしちゃったぁ~猛烈怒ってよ~♪」

 

 カーチスはツキカゲの蹴りを片腕で、ツキカゲの怒りを己の邪悪な笑顔で受け止める。

 

 「アイツをどうして外に出した、カーチス!!」

 

 「新人には経験を積まなきゃいけないだろう~こぉんな素人は特によぉ~♪」

 

 ツキカゲはカーチスに殴りかかるも、カーチスはそれを容易く避ける。

 空振りしたツキカゲはよろめき、カーチスに倒れ込んだ。

 

 「粒子放出しまくったな……あと数分したらオーバワークするな」

 

 ツキカゲを担ぎ、カーチスはアームドレイヴンに戻る。

 

 「グレぇ~イちゃ~ん、カーチスをベッドに運んでぇ~」

 

 ツキカゲを担いでカヨウの視点から消えそうとなる前、カーチスは彼女に振り向き一言かける。

 

 「あぁ~そうそう、アンタが引っ掻き回したせいで、予想以上に犠牲者がでたぜ~」

 

 「え──」

 

 「見せしめだっけ、それ以上のな♪」

 

 カーチスは笑う。 ボトボトと大粒の涙を流し後悔するカヨウを嘲るように笑う。

 

 「まぁその後のことは安心しな、俺らにクーデターを依頼したお偉い人が、この村の新しい地主に就くからよぉ~♪」

 

 カヨウの頭は混乱し、新しい地主のことを考えられなかった。

 ただ、同じような事が繰り返される事しか理解できなかった。

 

 「ハーハッハッハッハ!! あ、アケヨちゃんの任務は遂行できたようだね~ご苦労さん♪」

 

 最後にカーチスは狂ったように歪み壊れた凶悪な笑顔に、血のように赤い瞳を眼鏡の奥で見開いた。

 

 「仕事できて満足だろ? 仕事を知ったなら、もうしばらく何もしなくていいぜ」

 

 カヨウは泣いた。 己が多くの人の犠牲を生むことになった事実と、行動したことは結局無駄であったこと、空虚な表情に後悔と絶望の涙が伝った。

 

 

 

 「ツキカゲ君には鎮静剤を打ったよ、アケヨさんは大丈夫?」

 

 看護室からグレイが退室し、ロッカールームで待ちわびているカーチスに近づく。

 

 「ハーハッハッハッハ!! アケヨちゃんのあの顔、久しぶりに見たぜ最高な顔!!」

 

 カーチスは先程からタブレットを持って笑い転げていた。 他者から見れば非常に馬鹿馬鹿しい有り様だ。

 

 「いや、それ以上にツキカゲが俺を侮蔑するあの表情~~~あぁ~堪らねぇ最っ高だぁぁぁ!!」

 

 カーチスはひたすら笑っていた。 カーチスにとって、自分に向けられる敵意など笑い転げる程度でしかないのだ。

 

 「フフッ……貴方が大嫌いなアケヨさんが邪魔するのも、大好きなツキカゲ君に嫌われるのも、全て分かってやったでしょ、カーチス」

 

 グレイはその光景を、呆れたように笑って優しく見つめた。

 

 「あぁそうだ、ツキカゲにはあの表情が一番だ!! 全てを敵に回し戦うことこそアイツの生き場所!! アイツにはそれしかない!! 戦うことしか出来ない!! 俺のようになぁぁぁ!!」

 

 グレイはけたましく笑うカーチスを、肯定するかのような優しい表情で見守る。

 

 「……だからよ、何処の出身だか分からねぇ小娘に、ツキカゲと一緒にいて欲しくねぇんだわ」

 

 カーチスの赤い瞳は憎悪にまみれ、タブレット画面を確認していた。

 画面には[成功報酬]の項目、そしてニュースが流れていた。

 

 [第三都市シー・バルバスにてスカライズ警察の目撃情報あり、地表にて極秘任務か!?]

 

 「……何やってんだかな、天空都市よ」




 如何だったでしょうか? カヨウと同じく心が折れた読者はどのくらいでしょうか? 
 ハーハッハ。

 正直私自身、もう少し希望を持った終わりかたがあるんじゃないかと思い、ラストにそれらしい文章を載せようとしました。
 しかし予想以上に文字数を食うのと、一端カヨウを突き放してみたらどうなるか考え、カヨウにはこんな終わりかたをさせてしまいました。

 そして上記の通り、またしばらく投稿期間は空きます。 それまでの間カヨウは苦しむままです。
 私も苦しむままでしょう。 というより、今の私の苦しみがカヨウに表れているかもしれません。 己の器量、そして実力の低さ……私と同じ苦しみを受け、カヨウだったらどう動くか……
 それを思いながら、これからもカヨウと共に精進していきたいです。
 
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