メテオリウム─翠晶眼の傭兵─   作:影迷彩

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 今回は銃撃戦あり、タイトルから察するのと予告通りローが撃ち始める! サバイバが運転し出す!(誇張あり表現)

 最後の戦闘シーン、結構凝らしました。 夜遅くまで。
 ──気づいたら朝になっており、データが消えていました。

 何を言いたいとて?
 "今週中"の予告を破ってすみませんでした!!

 そんないうことで、3ヶ月程ぶりの最新話です!!!


──第六話 運び屋と狙撃兵、そしてお嬢ちゃん──
──装填し始める運び屋と狙撃兵──


 泣きじゃくる少女。 彼女は今までも辛い目にあってきた。 

 だが今回は、己の行動による犠牲への後悔で泣いていた。

 

 (────)

 

 少女に対して、少年は何か言おうと思った。 だが身体中に痛みが走る。

 

 (痛い、痛ぇな、うるせぇな──)

 

 煙、怒号、泣きじゃくる声。

 己らが巻き起こした争乱に包まれ、少年の目の前が暗くなる──

 

 「……ん?」

 

 アームドレイヴンの看護室、ツキカゲはベッドの上で起き上がろうとする。 だが体が動かない。

 

 「オーバーパーティクルか……チッ」

 

 オーバーパーティクル──翠晶眼が度々引き起こす身体内の粒子暴走。

 その痛みと身体内の粒子の暴走を抑えるため、ツキカゲは点滴で鎮静剤を打たれ、口には呼吸器を着けられている。

 ツキカゲは前々回の無理な潤滑剤投与、そして前回の任務での粒子放出の多さにより、身体にガタが来ていたのだ。

 

 「チッ、また面倒な……アイツになんて言われるか」

 

 ツキカゲは片手だけを額上にかざす。 その手はほんのりと温かかった。

 

 「ん……?」

 

 「あら~、やっと起きましたね」

 

 ツキカゲは眼だけを動かす。 虹彩のない視線の先には白衣の女性──グレイがいた。

 

 「グレイさん……あれから何日経った?」

 

 「三日よ。 ツキカゲ君は暴走が落ち着くの早いからね~、カーチスも喜んでるよ♪」

 

 不様な有り様の己を見て、ニタリと嘲笑うカーチスの顔が、ツキカゲの脳裏に写る。

 

 「……アケヨは?」

 

 「アケヨさん?……うーん」

 

 一息ほど口に指をあて、グレイは言葉を考える。

 

 「うんうん……ずっとツキカゲの側についてたよ~」

 

 「今は?」

 

 「サバイバさんが連れていったよ、しょげてるアケヨさんが見てて我慢できないって、体動かせばスッキリするだろうなってね~」 

 

 「ハ!?」

 

 ツキカゲは咄嗟に起き上がろうとしたが、全身に激痛が走りベッドへ倒れこんだ。

 

 「!……チッ」

 

 「動かないでね、今は少し治ったばかりでしょ?」

 

 グレイは優しい笑顔のままツキカゲを寝かしつける。

 

 「今はいったん落ち着きましょう、カーチスもそう言ってるわ」

 

 「……アケヨは、アイツは何してた?」

 

 己の頭を撫でるグレイの手を、ツキカゲは面倒そうにはたいた。

 

 「泣いてたよ、ずっとね、貴方の手を握りながら」

 

 はたかれた己の手を、グレイはいとおしそうな様子でさすった。

 

 「私が動いたから、余計に犠牲が増えたんだって……聞かれたよ、任務遂行の為ならば何でもするのですかって?」

 

 ツキカゲの眠たげな、細まった感情の見えない普段の眼を、グレイは見つめ──

 

 「だから言っておいたよ、"私達はお金の為に動くの、その過程で犠牲が出ても気にしないのよ"ってね♪」

 

 グレイは普段の優しい笑顔で答えた。 その表情は、どことなくカーチスを真似しているようであった。

 

 「……あぁ、そうかい」

 

 世界に絶望する少女の顔を思い浮かべ、ツキカゲは眼を閉じる。

  

 

 荒野のど真ん中にある町、"統制外第23区域"、別名"ナチュラルビーンズ・タウン"

 結晶に侵されておらず整った環境であるこの区域では、特に豆の栽培が盛んである。

 そこでは少し前から、この土地の利権を巡る抗争が勃発していた。

 抗争に使う武器が日を増すにつれ増えていき、遂には他方面から用心棒を雇う事態にまで発展した。

 

 

 依頼受付場の外、一人の少女が空を見上げていた。 曇り空は少女を光で照らしてくれない。

 

 「新しい任務……新しい何か……新しい──」

 

 少女──カヨウは物思いに耽っていた。 

 

 ──私達はお金の為に動くの、その過程で犠牲が出ても気にしないのよ──

 

 グレイの言葉が、カヨウの精神内で反芻される。

 

 「新しい──犠牲……アウッ?」

 

 通行人とぶつかり、カヨウは地面にドサッと倒れた。

 

 「ごめーん姉ちゃん、アタイ急いでるから!」

 

 両足にローラーシューズらしきモノを履いている少女は、カヨウに一瞥もせず走り去った。

 

 「……何やってるんだろ、私」

 

 「アケヨ、go」

 

 アケヨ──カヨウは建物に顔を振り向かせる。 声の主は、建物に寄りかかるようにして、カヨウと同じく待機している小柄な少女。 細身の体型に灰色の上着と左半身にかけたローブ、コンバットベルトに多数のポーチが取り付けられ、ショートヘアーに顔には牙を模したマスクとバンダナを飾ってる。

 何よりも目立つのはその背中であり、折り畳むように一挺の巨大な銃器を背中に携行している(・・・・・・・・・)

 

 「え、ローさん──」

 

 「ローガン・シモン」

 

 ローと呼ばれた少女はフルネームを名乗り、己が愛称で呼ばれたくないという意志を表明した。

 

 「も、申し訳ございません……ローガンさん?」

 

 「……ポケット、チェック」

 

 ローの言葉にカヨウは一瞬キョトンとし、そして慌ててジャケット等のポケットをひっくり返す。

 ポケットの中には"コルトガバメント"やメモ等以外は何も入っていなかった。 財布さえも。

 

 「さ、財布を落としました!」

 

 「違う、盗られた」

 

 ローは先程の少女が走り去った方向に銃口を向けた。

 

 「盗られたとは、先程を見たのですか!? でしたら先程お声を……」

 

 「アケヨ、go、言った」

 

 ローは淡々とした表情で銃器を上着内に閉まった。

 

 「行動、遅い、警戒、しっかり」

 

 「すみません……」

 

 謝るカヨウをバカと見ている眼のロー。 眼は暗く、虹彩が見えない。

 

 「お前ら~、待たせたな~」

 

 ローのその眼は、依頼受付場から出てきたサバイバへと移った。

 

 「遅い、アケヨ、バカした」

 

 「どうしたアッキー!? 大丈夫か!?」

 

 狼狽えだすサバイバに、ローは彼女の腕をレンタル・オールドカーの方向に引っ張る。

 

 「あ、あぁロー……話はあとだ、依頼状受け取ったから、早速依頼者の所に行くぜ」

 

 ポニーテールをほどき、サバイバは二人を連れて、建物の側に配置しているレンタル・オールドカーへと乗り込む。

 フードを目深に被って涙目を隠しているカヨウも遅れて乗り込む。

 

 

 「ふーんなるなる、財布持ってかれたか~」

 

 サバイバはハンドルに肘をかけて苦笑する。

 

 「ま、それほど入ってないんだろ? まっさか有り金全部を財布に入れる程、天然可愛いじゃねぇよな?」

 

 「は、はい! ツキカゲさんに注意されて、一割程度の所持金のみを……」

 

 安心したように顔を緩ませるサバイバ。 そして目だけをしっかりとし、ミラーを通して己の座席後ろにいるカヨウに向けた。 カヨウはオドオドとしており、目線はやや下に向けられている。

 

 「それにだ、言っちゃ悪いんだが……アッキーの所持金がどうなろうが、俺らには気にすることじゃないんだよ」

 

 サバイバは目の前の道路に目を戻し、ハンドルを切って交差点を曲がる。

 道路には砂が蔓延し、三色のライトスタンドめいた柱が倒れていた。

 

 「アッキーが俺らに金をせびる以外には、俺らは別にどうと言わねぇからさ」 

 

 「せ……お、おねだりしません!」

 

 「フフッ!」

 

 サバイバはカヨウの言い換えに吹き出した。

 そのせいで前を一瞬見なかったにも関わらず、サバイバの運転しているレンタル・オールドカーは次々と道路を曲がる。

 

 (私は別段気にされない……私だけの失態ならば、誰にも迷惑はかからない──あれ?)

 

 カヨウは気づき、ローのいる座席に顔を向ける。

 

 (だとしたらローさ──ローガンさんは己に関係ないことなのに、わざわざ私に注意してくださった──)

 

 「何、アケヨ」

 

 ローが怪訝そうな、少しばかり己を睨んでいる表情でいることにカヨウは気づいた。

 

 「す、すみません! えと、先程は注意してくださり、ありがとうございました!」

 

 「ブっハハハハハ!!」

 

 爆笑するサバイバの隣、ローは怪訝そうな表情のまま色のない色彩の眼を丸くした。

 

 「ローに正面から謝罪と礼を言う人間なんて久し振りに見たぜ!」

 

 「そう、なのですか」

 

 「ちんちくりんな見た目と、誰それ関係なく愛想ないからな~、舐められるか苛つかせるかしか見ることないんだよな」

 

 「……フンッ」

 

 ローはサバイバの言う通りの無愛想な態度でそっぽを向く。

 

 (……照れてるだろ)

 

 ニヤけながらサバイバはカヨウに見えないように口だけを動かした。

 窓ガラスの反射で彼女の一言を読み取ったローは、一瞬だけムッとしてミラーに眼を向けた。

 

 「ちんちくりん、肯定」

 

 「お、どしたよ?」

 

 「ローガン、サバイバ程、はみ出た腹、望む、フンッ」

 

 ローは再度鼻を鳴らした。 先程と違い、今度は小馬鹿にした響きであった。

 

 「へ、へへへ! そりゃどーもよ……ま、まぁ俺だって最近、お腹周りは段々無くなってるんだけどな~!」

 

 サバイバは苦笑いしながら、やや声を震わせてローに反撃する。

 

 「ローガン見た、サバイバ、腹つまみ、嘆くところ」

 

 「なぁロー、車から降りたら覚悟してな、そのちんちくりんな頭をグリグリすっからよ~」

 

 苦笑いを保ちながら、サバイバはその顔をサバイバに向けた。

 グリグリという単語を聞くと、ローの背筋がビクリと震えた。

 それと同時に、カヨウも二人のやり取りを不安そうに涙目で見届けている。

 

 「や、止めましょうローガンさんにサバイバさん! 御二人共、普段は家族のようで仲がいいじゃないですか……なのに……う、ぅ」

 

 「な、泣くなアッキー! コレはアレだ、じゃれあってるだけだ! 気にすんな!」

 

 嗚咽し出すカヨウをなだめながら、サバイバは素早くローの顔を引き寄せた。

 

 「ホラホラ、俺達仲良しずっと仲間だせ!」

 

 「ムググーーーッ!!」

 

 ローはジタバタともがきながら、押しつけられるサバイバの豊満な胸と、下顎に繰り出されるグリグリ攻撃を耐えて正気を保ち続けている。

 

 「そうですか……なら良かったです」

 

 カヨウの目に浮かべた涙を拭うのを確認してからサバイバはローを解放した。

 

 「ゼェーッ、ハーッ……」

 

 「へーうん、家族、か……」

 

 サバイバは窓から、まるで何かが空にあるように見上げた。 

 カヨウはその様子に気づき、だが普段とは違って憂いの表情を浮かべているサバイバには何も尋ねられかった。

 

 

 町外れの喫茶店、その中にはバリスタの女性と幼女の他、壮年以上の男性が物々しい雰囲気で会議をしていた。

 

 「それで集ったんかい、助っ人は?」

 

 「それがマツヤの野郎、ウチより多い大金と遊女を使って、近隣に集ったエニマリー全員を用心棒にしやがって……」

 

 「なんちゅうこった、元々数ではコチラと大差はねぇってのによ!」

 

 男性老人の一人がテーブルを強く叩く。

 

 「若いのは殆ど逃げちまうか闇討ちされちった! くそっ、モルガンのクソ野郎が!」

 

 「ホント一瞬だったわね、町の半分を乗っ取られるのは」

 

 バリスタの女性がコーヒーを汲み、ウェイターである幼女の持つ皿の上に置いた。

 

 「ウチのコーヒー目当てに来る客は、今じゃ私目当てが多いわね」

 

 女性は淡々とした表情と口調で、残りの客用のコーヒーをブレンドする。

 

 「近くに都市があるからね……そこで稼いで得たモノを、自分達の造る楽園で楽しむってところかしら」

 

 「このまま引き下がれるか! ここには結晶汚染のされてない豆があるんだぞ! 金しか欲しかないアイツらに渡せるか!」

 

 男性老人の一人が叫び、そしてウェイターである幼女から渡されたコーヒーを一杯飲んだ。

 

 「この土地、このコーヒー……渡してなるものですか」

 

 バリスタの女性が呟いたその時──バタンとドアが開いた。

 

 「失礼しま~す、皆さんのいる"カフェ・バドビーンズ"の──」

 

 「「「「「てめぇ何者じゃい!!」」」」」

 

 男性老人達は咄嗟に"S&W・M686"を抜き、入室した人物に銃口を向けた。 今時は見られない、メテオリウムを一切使っていないオールド・ハンドガンだ。

 

 「うわっ!? いきなり何だってんだよ! 俺らはエニマリー、アンタらの依頼を受けに来た!」

 

 入室してきたのはサバイバ。 制服は裾を出して胸元をはだけ出し、ウェーブがかった赤茶色の髪は無造作にゴーグル付きキャップから溢れてる。

 

 「聞いてくれよ! 俺は"サバイバ・キャリー"! 愛称は"サバイバ"や"SC"! アンタらの助っ人なんだってば!」

 

 「皆、銃を仕舞ってな」

 

 困惑しながら、しかし相手の警戒心を抑えるかのように苦笑いを浮かべるサバイバを見定め──そしてバリスタの言葉もあり、男性老人達は"S&W・M686"をホルスターに納めた。

 

 「うっひゃーピリピリしてんな……だけどオッサン達、アンタら今死んだぜ♪」

 

 男性老人達は納めた直後、サバイバの横にいる二人の少女に気づいた。

 一人は暗い表情で店内を眺める、紺色のフードジャケットを羽織ったカヨウ。

 もう一人、ローガン・シモンは三人の中で最も小柄、しかし二挺のMt・Hg"ベレッタM92"を店内に向け、牙を模したマスクとバイザーで覆う顔からは、三人の中で最も戦意に溢れていた。

 

 「ほら、ロー、全員納めたから、アンタも仕舞いな」

 

 サバイバに促され、ローはMt・Hg"ベレッタM92"を腰のホルスターに収納した。

 

 「歓迎、無感謝」

 

 「ハイハイ落ち着こうぜ……じゃあアレだ、まずはこのカフェで一番いいのを傭い金として出してくれ」

 

 「はいはーい! しばし待ちー!」

 

 ウェイターである少女は、警戒心の強い面々とは反対に、子供特有の純粋さでサバイバ達に恐れることなく接していた。

 

 「では、コーヒーを一杯貰おうか」

 

 サバイバは冷静に注文をする。 先程からのあたふたっぷりからの様子を見て、男性老人達も既に警戒を解いていた。

 

 「あぁ、そういやお前らいるか?」

 

 「please」

 

 「で、ではご、ご馳走に……」

 

 頷いたカヨウとローを確認し、サバイバはバリスタの近くの椅子に座った。

 

 「見たところ、アンタが中心人物っぽいな? とても若いな~、少なくとも、ジジィだらけのこの中じゃ、嬢ちゃん抜かすとアンタだけだぜ若者は」

 

 「ケニーよ……他の女性は危険ですので、候補戦が始まる事前に遠くの町へと避難させました。 娘も行かせたかったのですが、なんと空の麻袋に入って隠れまして……担いで外へ出たときには既に荷車は旅立ってました」

 

 得意気な表情をする幼女の額を小突きながら、バリスタ──ケニーは己の娘である幼女の持つトレイにオリジナルブレンドのコーヒーを乗せる。

 

 「何だよそれ! いや~ホントに可愛い娘さんだな~、ウチの子(・・・・)もあそこまで可愛い年頃あったな~」

 

 健気にきちんとコーヒーを運ぶ幼女を目に、サバイバはケニーと共に見守るような笑顔を浮かべた。

 

 「……小さい子でも働くのですね」

 

 「当たり前」

 

 こちらへとおぼつかない足取りで向かう幼女を見ながら、カヨウとアケヨはテーブルに腰かける。

 

 「遊ぶ、暇なし、それが常の、地表」

 

 ローは訝しげな表情でカヨウをジトリと睨む。

 

 「……アンタ、何者?」

 

 「え──」

 

 カヨウが冷や汗を流した時──

 

 

 「失礼するぜぇ~!!」

 

 扉が乱暴に開かれ、店内に数人の男共が入る。 店内を見渡す悪辣なニヤけ顔は男共が全く味方ではないことを示していた。

 

 「ヒッ!?」

 

 恐怖に足がすくみ、幼女は立ち止まる。 トレイを落とさなかったところは褒められるべき精神的耐久力である。

 

 「皆、ただの客よ……ただ(・・)ならね」

 

 立ち上がろうとする男性老人達を諌め、ケニーは幼女を奥へと避難させようと手招きをする。

 

 「おぅおぅ飲み物じゃねぇか、あんがとよーガキ!」

 

 先頭に立った悪辣顔の男性がコーヒーをひったくり、それを己の口にぶっかけた。

 

 「そ、それは──」

 

 「アラビカ、奥に行ってな」

 

 泣きべそをかきながらも幼女──アラビカはカウンターの奥へと逃げ込もうとする。

 

 「──べぇ!」

 

 カウンターに入る寸前、悔し涙を浮かべるアラビカは舌を出して奥へと消えていった。

 

 「このガキゃあああああ!!」

 

 「よせ、騒ぎを起こすな」

 

 鉄製の旧大型義腕を振りかざそうとした悪辣男を、後ろにいる青年が掴み止めた。

 

 「おいロブ、離しやがれ!」

 

 「今日は交渉に来たんだ。 最後の交渉にな」

 

 ロブと呼ばれた男は手を離し、カウンターへと向かった。

 カヨウは周囲のロブを見る目が、何故か他の悪辣男よりも鋭く侮蔑的なのを感じた。

 

 「……なぁケニー、まだ売り払う気にならねーのか? こんな寂れた田舎町の、寂れた畑を売る気にならなんか?」

 

 店内──あるいは外ごと見渡し、ロブはケニーに忠告する。

 

 「いい加減相手を見ろ、相手はマツヤ・モルガン町長候補だ、近くの統制区域を根城にしてる大親分だ、勝てるわけないだろ」

 

 「私達には、この土地を守るという先祖代々の意志を継いでるわ。 貴方達の雇った用心棒よりは、意志の点において強いわ」

 

 ガシャァン!と、ケニーの横にガラスが力強く投げつけられ、食器棚に当たり砕け散った。

 

 「おい女、あんま調子にのってるとよ、今度はその身をグシャグシャにするぞ!」

 

 「止めろ、ココ!」

 

 ロブの制止も聞かず、ココと呼ばれた男性がケニーに襲いかかろうとする。

 

 「威勢だけかよバリスタぁ!!」

 

 老人たちが怒り顔で立ち上がった瞬間──

 

 

 「うるせぇな、せっかくの苦味と甘味のブレンドに、汚ならしい暴力が混じるのは嫌なんだぜ」

 

 

 老人達が"S&W・M686"を抜くより早く、サバイバは懐から"コルトガバメント"を取りだし、銃口をココに突きつけた。

 

 「つーかテメぇ、ウチのローとアッキーの分のコーヒー、吐いてでも返しやがれ」

 

 サバイバは普段の陽気な態度とは反対の、操縦時の険しくストレートな視線を目の前のココにぶつけた。

 

 「何だと褐色女、てめぇに何を吐き出せばいいってのかオイ!」

 

 舌なめずりしながらココはサバイバを睨みつけながら彼女の全身を見定める。

 

 「オイ褐色女、大人しく土下座するっていうなら骨折りぐらいは勘弁してやる、テメェを連れ帰って──」

 

 「バリスタさん、店内は清潔を保ったままがいいか?」

 

 「悪菌(・・)を消毒するならばお好きに構いません」

 

 バリスタから手渡されたコーヒーを貰い、サバイバは静かにそれを一口飲む。

 

 「あぁ分かった、痛めつけてからカフェを潰す!!!」

 

 

 「サバイバ──」

 

 カヨウは"コルトガバメント"を抜き、ココに定めようとした。

 

 ──あぁ~そうそう、アンタが引っ掻き回したせいで、予想以上に犠牲者がでたぜ~──

 

 だが"コルトガバメント"を構えようとするカヨウを、かつてカーチスから放たれた言葉が重くのしかかる。

 手が震え、引き金を引こうとしても引けない。 目の前が真っ暗な恐怖と不安によって押し潰される。

 

 「さん!──」

 

 遅かった。 手遅れだった。 カヨウの持つ銃口は敵を撃つことが出来なかった。

 

 だが、反応したのはカヨウだけではない。

 すかさず潤滑剤を投与し、高めた脚力によって素早くココの振り上げた義腕の真下に潜り込んだロー。

 

 「"Look on (標的了解)"」

 

 ローの背部のサブアームが展開、備え付けられた展開式狙撃銃"Coil up snake"のシールドが指めいて義腕を挟む。

 

 「な!?」

 

 ローは真上にMt・Hg"ベレッタM92"を一挺のみ真上に向ける。 突撃と同時にホルスターから抜いていたのだ。

 

 パン!

 

 "ベレッタM92"から放たれた9×19㎜メテオリウム製銃弾一発がココの義腕のシリンダーをひしゃげさせた。

 

 「(エメ)──」

 

 パン!

 

 "ベレッタM92"から放たれた9×19㎜メテオリウム製銃弾一発が義腕の僅かな隙間から見えるケーブルを破る。

 

 「(リス)──」

 

 ズドン!

 

 力を失った義腕を挟んでいるシールドを収納、そして"Coil up snake"から放たれた7×62㎜メテオリウム製銃弾がココの掌に命中、神経全てを破壊してスクラップ(使い物ならず)にする。

 

 「眼ぃぃぃぃぃ(タリーーーーー)!!」

 

 ローは素早く伏せ、"Coil up snake"を収納形態へ変形させる。

 伏せると同時にココの足元を"ベレッタM92"で撃ち抜き、そして二挺の銃口を他の悪辣共に向ける。 

 

 「クソ女ぁぁぁぁぁ!!」

 

 「オ、ラヨォォォ!!!」

 

 足の力を失いバランスを崩したココの壊れた義腕を、サバイバが掴み上げ背負い投げる。

 伏せたローを飛び越え、ズシィン!!と重たい響きと共にココは床へ強く叩きつけられた。

 

 「ひゅーっ」

 

 老人達の中の一人が感嘆した。 老人達は各々が"S&W・M686"等で、銃を抜こうとする悪辣共を制している。

 

 (今の二人……凄く強かったです!)

 

 唖然として今の光景を見ていたカヨウ。

 そして、それはロブも同じであり、冷静な表情であるが目だけが動揺していた。。

 

 「オイ」

 

 気絶したココをサバイバは親指で指す。

 ロブはハッとし、ココを引き摺って店内から出る。

 

 「…………」

 

 「「「「…………」」」」

 

 「返事は以上よ」

 

 無言となった店内に、ケニーの一言が波紋を起こした。

 

 「じょ、上等だコラァァァ!!」

 

 「覚えとっけコラァァァ!!」

 

 捨て台詞を吐きながら、悪辣共はローと老人達の構える銃器に追いやられるように外へと逃げ出した。

 

 「今のすごかったわね」

 

 「あぁジュードーつってな……まぁ"CQC"みてぇなモンだ!」

 

 悪辣共の捨て台詞なぞ何処吹く風、ケニーがサービスで淹れたコーヒーをサバイバは啜る。

 

 「サバイバ」

 

 「おぉロー、ナイスプレイ!」

 

 「……確信、依頼、違う(・・ ・・)

 

 「まぁ色々あってな……嫌だったか?」

 

 「……サバイバ、ついてく」




 如何だったでしょうか?

 前半は"日常"を書いたばかりだからか、比較的アットホームな雰囲気に仕上がりました。
 前回までの殺伐さが和らげて良かったです。 書いてて楽しいのはサバローです。
 
 今回銃器について細かく描写しましたが……作者はその辺の知識がない為に現実と食い違っている箇所もあったでしょう。
 ジュードーとCQCの関連も同様、似ているやルーツ等聞いたことがあるぐらいです。
 出来るのでしたら、メテオリウムと現実は違うという認識にした方が楽かもしれません……

 そんなこんなで、これからも一週間から二週間を目安として精進していきます。
 続く最新話もお楽しみに!!

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