メテオリウム─翠晶眼の傭兵─   作:影迷彩

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 1ヶ月経っての投稿。実際の執筆期間は2日か3日分。
 それ以外では、冬コミの原稿を書いたり、課題や試験に追われていました。

 コミケといえば、この度冬コミに初めてサークル参加いたしました。私が原稿を務めた同人誌、30分の1が売れて良かったです。これからもサイトとコミケの両方とも精進していきたいです。

 そんな近況報告を終えて、最新話です。


──武器屋、今日も走るなり──

 「カネモリ、アンタは販売がなっちゃいないねぇ」

 

 船=漁船と呼ばれる種類=に巨大なタイヤを付けた乗車の司令室の最奥、荒々しい筋肉と鉄骨を持つ肉体の男性が口ひげを擦る。その目線は船のマスト越しに、走る工房をバギー車で追う部下の姿がゴーグル越しに見える。

 

 「ビジネスなんだぜ、世の中はよぉ。気に食わない客には一太刀も売らない。そんな売り方じゃあ、客は減るどころか敵は増えるんだぜ。そのことをよぉ、俺ハドゥセルと若衆が爺さんに教えてやる!」

 

 男性、ハドゥセルは口髭から手を離し、その手の親指を下に向ける。それが合図となって、地平線を走るバギー車から工房へアンカーが放たれる。

 

 

 

 「「キャアッ!!」」

 

 工房を走る衝撃に対し、カヨウはフードを目深に被ってコルトガバメントを構え、マサは思わずカネモリに身を寄せ怯える。

 

 「おやおや……そうだ、俺と数比べしませんか? 倒した数の」

 

 「いや、俺が全員噛み砕いてやる」

 

 「アンカーか!! おい二人、さっさと武器を構えて行きやがれ!」

 

 カネモリはマサの頭を掴んで彼女を離し、手ぶさたのツキカゲとエクスプリーストに指示する。

 

 「って、そうだ!! 武器がねぇんだった!! コンチクショウ!!」

 

 そして、二人が非武装なのに気づき、カネモリは己の額を叩く。

 

 「おいテメェら!! 今工房内から武器を探すから、ちょいと待ちな!!」

 

 「いえ、俺の方は要りませんよ」

 

 エクスプリーストはカネモリに振り向き平手を振った。

 

 「今すぐ向かわないと乗り込まれますし、俺の変異能は肉体付随ですから」

 

 エクスプリーストの顔、かけたサングラスの奥から翠色の瞳が灯る。

 

 「エ、エクスさん……!?」

 

 「俺は先に向かいますので、貴方はトウホウ・ブレードを用意してていなさいな」

 

 エクスプリーストは余裕を見せる笑顔をカヨウに向け、ツキカゲには互いに鋭い視線で顔を合わせた後、ドアを開けて退室した。

 

 

 「武器だ! 金だ! 破壊の金山だぁ!!」

 

 アンカーを伝って盗賊は工房へ乗り込もうとする。

 

 「……アン!?」

 

 工房から出てきたエクスプリーストに盗賊は気づく。

 何だ、このすました雰囲気のカソックコート野郎? 盗賊がエクスプリーストの風貌をそうして見下す数秒、エクスプリーストは拳を振り上げる挙動に入った。

 

 「……何ァおいっ!?」

 

 エクスプリーストの振り上げた拳はアンカーを掴み勢い強く引き剥がした。アンカーを伝った盗賊は、なすすべなくアンカーと共に地表を引き摺られる。

 アバババババババッという断末魔を後方に鳴らし、エクスプリーストは両手を振り上げ二本のアンカーを引き剥がそうとする。

 

 「用心棒か、この青服!!」

 

 アンカーを伝う残りの盗賊は小銃を抜き、エクスプリーストに銃口を向け発砲する。

 ズドンッという銃声と共に、エクスプリーストの肉体に薬莢と煙がこびりつく。

 

 「……なっ!?」

 

 煙は翠色であった。煙がはれ、エクスプリーストの破れた牧師衣装が現れる。

 破れた肩先からは、翠色の結晶がエクスプリーストの体を覆っていた。

 

 「エ、エメリスタリー!?」

 

 肉体を結晶で防護する変異能。しかし、軽減されるものの銃弾の衝撃はエクスプリーストの肉体を伝っていた。

 

 「うぅーん、軋みますね」

 

 しかし、エクスプリーストの笑顔は崩れない。その瞳は小銃を発砲した盗賊に向けられ、アンカーを引き剥がし振り回す。

 アンカーを伝う盗賊同士が宙で衝突し、転倒したバギー車と共に地平線の後方へアバババババババッという断末魔と共に流される。

 

 「あとは位置的に手が届きませんし……」

 

 エクスプリーストは両腕に力を込める。

 

 「仕方ない、乗り込みましょう」

 

 両腕に備え付けられた自傷道具が、エクスプリーストの腕の肌を細かに引き裂く。エクスプリーストの両腕を結晶が傷口から覆い包む。

 バギー車には盗賊が恐怖し固まっていた。その隙にエクスプリーストは端から順にバギー車へ飛び移る。

 

 「Praaaaaaaaayer!!」

 

 盗賊達が最後に見た光景は、曇り空から覗く日光を背に、すました笑みと翠色の瞳、己の顔を潰す翠色の豪腕であった。

 

 「どうです、神は見えますか? Praaaaaaaaayer!!」

 

 

 エクスプリーストが殲滅を始めて僅か3分の間である。

 

 「おいツキカゲ、だからオメェも向きになるなって!!」

 

 カネモリはドアへと向かうツキカゲを止める。

 

 「テメェが素手で挑んでも手間取るだけだ、武器を探すから待ってやがれ!」

 

 ツキカゲは仕方なしと不機嫌な態度で座る。

 外では殲滅される断末魔が途切れない。ツキカゲの隣では、カヨウがオロオロとしながらもコルトガバメントを構えていた。

 

 「ツキカゲには、その能力を駆使して本陣を潰してもらいてぇ、そこまでならこの工房を近づける」 

 

 「だ、だったらコレ!」

 

 マサがモノを抱え、ツキカゲにそれを差し出した。

 

 「アタシの出来を見せてやる! ”風影駆風影駆(かぜかげかけ)”!! 初期に作ったものの改良だけど、自信あるよ!!」

 

 それは1振りの鞘である。小太刀が納刀できるサイズであり、先端に鋭く物々しい機能が備わっていた。

 

 「マサ、いきなり何を出してんだ!? 試作品なんて出すんじゃねぇ!」

 

 「……どう扱えばいい?」

 

 ツキカゲは左腕のガントレットを取り外し、風影駆を代わりに装着した。

 

 「先端のこれは……柄、いや鉤ヅメか?」

 

 「うん、これを相手に向けるの!」

 

 マサは指さしでツキカゲに風影駆のギミックを説明する。

 

 (ツキカゲさん……冷静です)

 

 「なるほど。これはどう扱える?」

 

 風影駆にはマニュピレーターが取り付けられていた。ツキカゲがマニュピレーターを装着し、指に力を込めると影影駆の先端が可動した。

 

 「普通に鉤ヅメにしろや」

 

 「師匠は黙って! それに、ただの鉤ヅメじゃないんだから!」

 

 突然、先端の鉤ヅメが発射され、待合室のドアをガシャァンっと突き破った。

 

 「ドアァァッァ!?」

 

 カネモリは悲鳴をあげた。

 ツキカゲが指を引くと、飛ばされた鉤ヅメがワイヤーによって風影駆に収納される。

 

 「これで太刀を投げても、柄型鉤ヅメが手元まで持ってきてくれる! それに発射威力は、相手の顔面を抉りとる!!」

 

 「先に言え!」

 

 「先に言えや……」

 

 カネモリとツキカゲに同時に突っ込まれ、マサはバツが悪そうに唇を尖らせ頭をかく。

 

 「で、それに使える小太刀は?」

 

 「……爺ちゃん?」

 

 「売り切れだ」

 

 マサは目を丸くし、次いで焦り始める。

 

 「……これだけで十分だ」

 

 ツキカゲは指を動かし、風影駆の可動を確認する。

 

 「待てぃツキカゲ! 今ブレードを持ってくるから、それ以外の武装を……」

 

 ツキカゲは破壊したドアの向こうで起きている虐殺を睨む。

 

 「獲物が横取りされる」

 

 「ツキカゲさん!」

 

 カヨウの呼び声に、出撃しようとしたツキカゲが振り返る。

 

 「無理、しないでください……っ!」

 

 「嬢ちゃんの言うとおりだ、病み上がりに酷させてすまないが……面倒あったら退却しろな」

 

 カネモリとカヨウの先に、ツキカゲは待合室から走り去った。

 

 

 「……オメェ、何で刀まで作らねぇ?」

 

 隣で悔し涙を浮かべるマサに、カネモリは正面から向かって立つ。

 

 「だって……いい刀が、斬れる刀が作れない」

 

 マサは俯き、涙目をこする。

 

 「ギザギザで、滑らかじゃなくて、すっきりしなくて……師匠みたいに、切れのいいブレードに研げない!」

 

 「マサ、オメェよ……」

 

 カネモリが手を差し出すより先に、マサは部屋から走り去った。

 

 「たくっ……」

 

 「あの、カネモリさん……」

 

 カヨウはコルトガバメントをホルスターにしまい、膝に手をついてカネモリに向かう。

 

 「アイツには、別に工芸の才があるわけじゃねぇわな」

 

 カネモリは懐に手をしまい、憂いのある瞳でマサの向かった方向を見つめる。

 

 

 

 移動式漁船上にて。

 

 「何を手間取ってやがるんだ、尖兵共?」 

 

手すりに近づいた盗賊達は、手すりに何か掴まったのに気づく。

 

 「あン……!?」

 

 一方では顔を殴られ、一方では顔を蹴られた。

 

 「「何だテメェ!?」」

 

 別々の方向から同じ悲鳴が鳴る。

 

 「ってガキか!?」

 

 漁船上に降り立ったツキカゲは、右腕に装着しているガントレットの内部からクナイを引き出し、盗賊が武器を持つ手に投擲した。

 盗賊共は腕をクナイに射ぬかれ、それに反応した乱射をかいくぐり、ツキカゲは素手でもって盗賊の一人一人に重い一撃を決め込む。

 

 「ガキがぁぁぁ」

 

 盗賊がバズーカなど重火器を取り出した時、ツキカゲは風影駆から柄型鉤ヅメを発射し、盗賊の足を掴んで引き寄せる。重火器が発射されるより早く、盗賊の懐に突きの一手が喰らわれる。

 

 「グハッ……」

 

 「……たかが5体か」

 

 状況を確認しツキカゲが残党を狩ろうとしたとき。

 突然漁船がターンし、工房と正面同士を合わせる。

 

 ズドドドドドドドドドドドォッ!!

 

強烈な乱射音。何事かと、追ツキカゲは沸いてくる盗賊を蹴散らして漁船の正面へ向かう。

 

 

 「カ、カネモリさん!?」

 

 頭から血を垂れ流すカネモリ。衝撃に倒れ、床に頭部を打ちつけたのだ。カヨウは止血しようと辺りを探る。

 

 「クソッタレ……よい、こんなの……すぐ治るわ!! ウッ」

 

 「カネモリさん!! しっかり!!」

 

 「ワシはただ、ワシの持つ技術をアイツに残したかっただけじゃしな……ワシも老い先長くあらんし」

 

 「それは、それはマサさんにとっての……」

 

 「押しつけじゃのう……戦争時にアイツを拾った手で、道を転ばしてしまった……じゃがのう、アイツは機能を付けるところは自然に受け継いじまった。ワシが捨てた技術を、何故かアイツはのう……」

 

 カネモリは周りを見渡し、ポツリポツリと言葉を溢す。

 

 「アイツは覚えてないじゃろが……ありゃワシの孫娘だ」

 

 「え? それは……マサさんは……」

 

 初めて知る翠晶眼の事実に、カヨウは混乱する。

 

 「ワシが結晶戦争から戻ったとき……幼き頃のアイツの眼は変わっていた」

 

 カネモリは腕を捲った。腕には結晶が生えていた。

 

 「ワシも結晶に浸かった、眼か結晶か、どちらになるかのう……その前に、アイツには一本木な技術を、ワシの持てる技術を叩き込みてぇかった……」

 

 カヨウの腕のなかで、カネモリは意識を失おうとしている。

 カヨウはカネモリの小さな言葉を、少しでも多く拾う。

 

 「じゃが、アイツがワシに似たのは……無駄に詰め込みすぎる機能美じゃった……マサがこれからどうなるか、こも技術は廃れるかのう」

 

 「だ、大丈夫だと思います」

 

 カネモリの容態を悪化させないよう落ち着き、しかしカヨウは声を張る。

 

 「ツキカゲさんは、常に鞘の持つ武器をしっかり活用しています。カネモリさんの太刀と、マサさんの鞘。どちらも、ツキカゲさんにとって大事な武器です! それは恐らく、ツキカゲに鞘を作るマサさんだって思ってる筈です! だって、鞘とは刀を納めるものでしょう!」

 

 「し、師匠……お爺ちゃん!?」

 

 いつの間にか壊れたドアの隣にマサが腰を落として倒れていた。

 

 「マサさん……!?」

 

 「……アタシだって、刀を作るために技術は研いてきた。アタシだって、鞘に納める刀を今作ってやる!!」

 

 

 [カネモリ、聞こえているか? 喰らったか、このMt・W"スモールハンマー"の威力をよぉ!?]

 

 ガラスがない司令室の最奥から、ハドゥセルの陰湿な笑い声がメガホンを通して響く。

 

 [結晶弾丸を1秒に20発、1分で1300発! んー猛々しい!!]

 

 ハドゥセルは腕を広げて立ち上がる。

 

 [この気持ちはよぉ、カネモリからブレードを商品に入れられないんじゃねぇ、俺が売るといってるのに売らない……客が、売り方が、武器への態度か? 全てがクソッタレと抜かしたジジィに対する苛立ちだ!!]

 

 ハドゥセルは怒声をあげながら、指で部下にスモールハンマーの次弾を装填させるよう指示する。

 

 [俺は別に刀剣が欲しいんじゃねぇ、俺を舐めたテメェに侮辱を返してぇんだ!!]

 

 「ゲホッ……お前みてぇに、ただ斬るしか脳のない野郎共に……ワシの分けた魂をくれるかぁぁぁ!!」

 

 ハドゥセルのメガホン越しに出す声明に、カネモリは負けじと声を張り上げた。それは工房から洩れ、ハドゥセルの耳にはいる。

 

 [このっ……悲しいねぇぇぇ、結晶戦争時代の遺物が、ここへ亡くなるのはよ!]

 

 広げた片手をハドゥセルは握りしめ、親指を立てて下に向けた。

 

 [ま、時代はブレードよりも弾だな、それを理解して昇天しな!!]

 

 

 カヨウ達が次の乱射に身構えた。

 ズドドドドドドドドドドドォッ!!

 

 「……あれ?」

 

 続く銃撃音。しかし、カヨウ達の身に衝撃は訪れなかった。

 

 

 「おい、テメェ……!」

 

 ツキカゲの目の前、漁船の甲板上に巨大な結晶がある。

 結晶はパラパラと粒子になって砕け散り、覆われた者の正体を出す。

 

 「うぅ、ふぅ……これは中々、俺の身に効きますね」

 

 ズタボロとなった牧師服を着こなすエクスプリーストは、スモールハンマーの銃口の真正面に仁王立ちしている。

 

 「え、エメリスタリー……!?」

 

 「さてと、あなた方は神を……ゲボッ!!」

 

 スモールハンマーに一歩歩んだとき、エクスプリーストは口から翠色の血を勢いよく吐き出し、甲板に膝をつけ倒れた。

 

 「な、なんだぁぁぁおい、ばっちり効いてるじゃんかよ!!」

 

 胸を抑え苦しむエクスプリースト。彼に向けて罵倒と嘲笑が投げかけられる。

 

 「テメェ、それは」

  

 エクスプリーストが抑える胸の傷は一文字の斬り痕であった。銃撃によって出来る傷ではない。

 

 「フフッ、その小さな弾カスで、俺の“Blees(加護)”は軋みませんよ」

 

 「……あァん!?」

 

 「あなた方は神を信じますか?」

 

  挑発に乗った盗賊達に、エクスプリーストは唐突に問う。

 

 「神か!? テメェの信じる神はいねぇなぁ!!」

 

 「えぇいませんね、そもそも俺も神なんて信じていません」

 

 「……あァん??」

 

 盗賊は目の前の牧師服の男に対し、今度は呆けた目で睨む。

 

 「神がいればね……この地表はこんなに苦しく、生き辛いわけないでしょう」

 

 エクスプリーストは吐血しながら、ゆっくりと足に力を込め立ち上がる。

 

 「なれば、神は一体どこでしょうね……俺は、神は“死”に在るんだと考えます」

 

 エクスプリーストは立ち上がり、腕をだらんと垂らす。胸の一文字の傷からは絶えず翠色の血が流れる。

 

 「私は神がいるとは信じたいです。なので、俺と合間見える相手に俺は“死”という神を会わせたい、そこは苦しみないです」

 

 「テ、テメェ……っ!?」

 

 銃撃によってエクスプリーストのサングラスは吹き飛ばされていた。

 

 「あなた方にも、こんな世界であっても神はいるハズです……ほら、お隣にね」

 

 爛々と翠色に輝くエクスプリーストの瞳に、ハドゥセルは驚愕して隣を向いた。もしかしたら、隣には神=死がいるのだから。

 

 「……いえ、ただの悪魔ですね」

 

 ハドゥセルはハッと反対を振り向く。デッキの横からツキカゲが飛び出していた。

 

 「も、もう一人!!」

 

 ハドゥセルの側近が気がつくより速く、ツキカゲはクナイと鉤ヅメを投擲する。

 しかし、側近が身を呈したため、それらの装備はハドゥセルに届かなかった。

 

 「チッ……」

 

 ツキカゲはエクスプリーストの隣に着々し、ハドゥセルとスモールハンマーに真っ向から対立する。

 

 「せっかく……ゲホッ……お膳たてしたのに。やはり武器ですかねぇ」

 

 「ツキカゲさぁぁぁん!!」

 

 工房のドアからカヨウが身を乗り出した。手には柄のない翠色の刀身が握られている。

 

 「マサさんが、これをツキカゲさんに!!」

 

 カヨウは腰を回し、思い切りに手に構えた刀身を振り投げた。

 投げられた刀身はツキカゲに届かず、地へと落ちていく。

 しかし、すかさずツキカゲは風影駆から鉤ヅメを射出し、刀身に柄として合体する。

 

 「アクセル──!!」

 

 ツキカゲはワイヤーで刀身と合体した鉤ヅメを引き戻し、スモールハンマーから発射された弾丸を刀身ではたき落とす。

 ズド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ドォッ!!

   キンッカンッキンッカンッキンッカンッキンッカンッ!!

 1300発の弾丸を、ツキカゲは速く、全てをはたき落とした。

 

 「じ、次弾装填!!」

 

 「エクスさぁぁぁん!!」

 

 工房からマサの声と共にロケットが発射された。ロケットにはある武器が括り付けられていた。

 盗賊達がツキカゲに怯えて怯むなか、ロケットに付けられたエグゼスカッターを、エクスプリーストはロケットを投げてそれを掴んだ。

 

 「潰れろ、“機能美の匠”!!」

 

 「Praaaaaaaaayer!!」

 

 ロケットは漁船の司令室に衝突、爆風をあげた。エクスプリーストは爆風を背景に、展開したエグゼスカッターを宙で振りかぶり、勢い強くスモールハンマーに叩きつけた。

 

 「Praaaaaaaaayer!!」

 

 スモールハンマーに叩きつけられたエグゼスカッターは可変機能を利用し、スモールハンマーを翠色の刀身で掴んで銃口などを歪ませた。

 

 「M、Mt・W、スモールハンマーァァァァァ!?」

 

 ツキカゲは全身から粒子の蒸気を放出し、甲板を蹴り跳躍する。

 

 「お、お前らぁ!!」

 

 ツキカゲはハドゥセルの眼前に着地し、砕け散る寸前の刀身で回転斬りを喰らわそうとする。

 しかし、ハドゥセルの周りの護衛に阻まれ、刀身はハドゥセルに届かなかった。

 

 「ハハッ!?」

 

 刀身は粒子となって砕け散った。砕け散る寸前まで柄となっていた鉤ヅメは、既に刀身から外され、ハドゥセルを狙っていた。

 一瞬安堵し隙を見せたハドゥセルの首に鉤ヅメが発射された。

 

 「グッッ!!?」

 

 鉤ヅメはハドゥセルの首をスレスレで外し、しかしワイヤーはハドゥセルに巻きついた。

 ツキカゲは後ろのマストに飛び移り、ワイヤーをマストに引っかけて甲板に着地する。

 

 「アバババババババッッッ!!!」

 

 「これは苦しそうですね……」

 

 マストに引っかけられたワイヤーはハドゥセルの首を吊るしていた。甲板に落とされ、爪先で立つハドゥセルは首のワイヤーをほどこうと暴れる。

 

 

 「グッゲホッオッオゲッ」

 

 「暴れない方が苦しくなさそうですがね……」

 

 エクスプリーストはエグゼスカッターを手から落とし、胸の傷痕から流れる血を抑えながらハドゥセルへと近づく。

 

 「……ふう、ここには神じゃなく、悪魔しかいませんか」

 

 ツキカゲに睨まれ、エクスプリーストは仕方ないという苦笑いを浮かべて甲板に倒れた。

 

 「ここは俺の求めるブレードが揃ってる」

 

 ツキカゲは右手でワイヤーを掴みながら、もがき苦しむハドゥセルに淡々と告げる。

 

 「俺の力、俺の“崩壊”に耐えうる刀身はあの工房製だけだ。今も9秒持てた」

 

 「しゅまねぇ、俺が悪がっだ……離しぇ!!」

 

 「次いで、今回はアイツの為の新たな装備を作ってもらう。カネモリ先生も、マサも、そしてアケヨも……邪魔するんじゃねぇよ、三下が」

 

 ツキカゲは手に込めた力を緩めた。ワイヤーに吊るされたハドゥセルが涙と涎と吐瀉物を吐いて気絶していた。

 

 「任務、完了」

 

 

 「爺ちゃん!? 爺ちゃん!? 爺ちゃん!!」

 

 待合室にて、マサはカヨウの腕に抱かれるカネモリへと駆け寄る。

 

 「マサか……うるさいのう……普段から口だけは大きく出やがって」

 

 「悔しかったもん!! 爺ちゃんをギャフンと言わせる武器が作れなくて、悔しかったもん!!」

 

 マサは悔し涙を目に溜めてカネモリに詰め寄る。

 

 「ギャフンと言わねぇよ……武器なんざ、使ってようやく評価されるもんだ……お前の武器は尖りすぎてる」

 

 「ウッ、ウッ……」

 

 「じゃがのう……見れんかったが、この静けさ……アイツら、テメェの武器で勝てたようじゃのう」

 

 「はい、勝てました……」

 

 カヨウは絶望に泣きながら勝利を告げた。

 

 「そうか……ツキカゲはいいぜ……ありゃ殺すために戦ってるからじゃないさ……アイツはいい、道具の道を与えてくれている。俺たちは殺す武器じゃねぇ、相手に選んだ武器を与えるのさ」

 

 カネモリは苦しみながらも笑い、マサの頭を撫でる。

 

 「そういう点じゃあ……テメェは既に一人前かもなぁ……」

 

 「爺ちゃん……オイ、爺ちゃん……爺ちゃん?」

 

 「カネモリさんっ!?」

 

 カネモリは笑みを浮かべながら、目をゆっくりと閉じていた。

 

 「カネモリさんっ!? カネモリさん!!」

 

 「っ爺ちゃああああああああああん!!」

 

 「うるっさいわボケぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 目をカッと見開き、カネモリは激昂した。

 

 「頭痛いんじゃ……大人しく寝かせろや」

 

 大粒の涙を流していたカヨウとマサは、その涙を引っ込めた。

 

 「いや、おい爺ちゃん!」

 

 「疲れた、ワシはもう寝る」

 

 「爺ちゃん、何もしてねぇだろ!!」

 

 マサも怒ってカネモリにより近く詰め寄った。

 

 「それとマサ、ワシは爺ちゃんではなく師匠と呼べ」

 

 「知るか! アタシは孫っぽいんでしょ!? だったら爺ちゃんでいいじゃん」

 

 「……照れる」

 

 「うっさいわ!!」

 

 「エヘ、エヘヘ……」

 

 カネモリとマサのやり取りを、カヨウは安堵して笑みをこぼした。

 

 

 「とりあえず、一件落着ですね」

 

 甲板上で、エクスプリーストは大の字に倒れながらツキカゲに話しかける。

 

 「半分は俺が倒した」

 

 「半分は俺が神に召させました」

 

 ツキカゲは倒れた盗賊から武器を剥ぎ取る。

 

 「……不思議ですね、俺は周りの人間には神が隣にいると思っている」

 

 エクスプリーストは光射す曇空を見上げている。

 

 「なのに、あなたには神がいない、そしてあなたが相対した者からも、神は消える」

 

 エクスプリーストは光の消えた無色の瞳を閉じた。

 

 「俺は俺にない神を信じたい。なのにあなたといると……俺達に神が訪れない気がします」

 

 「あっそう」

 

 武器を剥ぎ取り終え、ツキカゲは甲板に片膝を立てて座る。

 

 「俺はただ……戦うだけだ」

 

 「ふっ、カネモリさんが喜ぶ台詞ですね」

 

 甲板で意識を保っている二人は、カヨウに呼ばれるまでそれっきり口をきかなかった。

 

 

 

 数分後、ツキカゲとカヨウはアームドレイヴンに戻っていた。

 

 「そういったことが、工房でありました」

 

 「武器だ、おい」

 

 ツキカゲは大量の銃器や刀剣をテーブルにばらまく。

 

 「ハーハッハ!! 予想以上の収穫じゃねぇか!!」

 

 カーチスが手を叩いて喜ぶ。

 

 「いやぁうん、アッキー。なんてエニマリーあるあるを体験したんだ今日はよ」

 

 サバイバは疲れきったカヨウの肩を叩き、続いて頭を撫でた。

 

 「お前もよく巻き込まれるなぁ……今回は、完全にとばっちりか?」

 

 「え、えと……これを貰いました」

 

 カヨウは太ももをサバイバ達女性陣に見せる。右ももにはコルトガバメント用のホルスターが装着されていた。

 

 「このホルスターはお前用だってカネモリさんから渡されました」

 

 「マジか、カネモリから武器を貰うなんて!?」

 

 サバイバは驚いた。カネモリとは面識こそないが、カネモリの気難しく頑固な性格は有名であったからだ。

 

 「武器……コレがですか?」

 

 ホルスターを外し、カヨウはホルスターをしげしげと眺める。

 

 「カネモリが普通の入れ物を顧客認定した相手に渡すハズがねぇ……昔から顧客だった俺が言っとくぜぇ」

 

 武器をばらまき終わりロッカールームへと戻るツキカゲに、カーチスはニヤニヤとした笑みで振り向いた。

 

 「ツキカゲ、テメェの計らいかぁ?」

 

 「……そんぐらい持っとけ、ただそう言った」

 

 ツキカゲはロッカールームへと入った。

 

 「まぁいいや……カネモリから渡されたってのはそういうことだ、気張れよ嬢ちゃん」

 

 「ハ、ハイ!!」

 

 ホルスターを装着し戻し、カヨウはアームドレイヴンの窓に身を近づけた。

 地表では三人を乗せた工房が煙を上げて走っていた。

 カヨウに武器という道標を渡した工房は、師匠と弟子を乗せて今日も地表を走り行く。




 いかがだったでしょうか?

 今回苦戦したのはアクション面。力を入れた分、いつも以上に神経質となりました。やはりアクション面はまだまだだなと反省しながら、読者からの突っ込みをマッドマックスを見ながら待ちます(アクション元の映画)

 今回も個性あるキャラを書けて楽しかったです。特にプリスト、今回初めて内面を書いたので、これにて新たな命のあるキャラとなれました。性格や戦闘もシンプルで書きやすかったです。

 あとがきはこの辺で。
 次回、アイドル回です。どんな内容か想像しながらお待ちしていってね!

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