Fate/guilty crown   作:モブキャラzx

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出会い/can not go

 「あの、いのりさんだよね?……egoistのボーカルの」

 お弁当も食べ終わり、自然とゆったりした時間が流れていた。楪さんもコチラへの警戒を解いているのか、背を向けて鼻歌交じりにあやとりをしている。

 

 声も後ろ姿もいつも動画で観ていた彼女で間違いない。疑問符が付いたのは彼女の格好にこそある。

 先程は我を忘れていたせいで気付きもしなかったが、今の彼女はボロボロだ。

 服が大きく裂け、元々肌色成分が多かった服はほぼ服の機能を無くしていた。

 左腕には傷があり、床下に落ちていた出血量を見ると、かなり深い傷のようだ。服は適当に結び、傷口には包帯を巻いているが、滲んでいる赤色がより酷い状態を連想させる。

 まるで戦場から抜け出したようなその姿は、普段動画の中で歌う彼女とは余りにも違い過ぎた。

 だからこそ生まれた疑問。

 

 彼女が本当にegoistの(ゆずりは)いのりなのか?

 「〜〜♪」

 無視かあ……。

 余りの対応に心が挫けそうになるが、ギリギリで持ち直し、違う質問を試みる。

 「そ、それで何でここに。ていうか、どうしてそんな怪我を?」

 「この子を涯に届けるの」

 「え……?」

 応えてはくれたが質問の答えにはなってない返答に戸惑う。この子とは、手に持っている丸っこい白色のロボットかな。

 そして、涯とはマネージャーか家族、もしかしたらもっと特別な関係の人間かもしれない。

 そんな邪推を考え始めた僕の目の前に楪さんの両手が伸びる。

 

 「とって」

 そう言う楪さんの右手と左手の内側には青色のあやとりが梯子はしごの形になり収まっていた。

 何故いきなりあやとり?

 流石に理解が追いつかず、硬直してしまう。

 そんな僕にお構いなしに彼女は同じ文言を口にする。

 

 「とって、…………ええと」

 僕を見つめ首を傾げる。

 まるで、目の前にある謎々を解こうとしている彼女を見て僕は重要な事を思い出した。

 

 「(しゅう)ッ、桜満集(おうましゅう)!」

 ……僕は質問ばかりで、自分の名前すらまだ言って無かった。

 こうして、ようやく僕と彼女は文字通り他人から知り合い程度の関係になれた……らいいなあ。

 

 とって、とは今目の前にあるあやとりの事だろう。

 彼女の白指に掛るあやとりを僕が受け取る。言葉にすれば簡単な行動のだ。

 僕も彼女と同じ様に両手を出し、彼女と同じ様に赤い糸を五指に引っ掛ける。小学生でも出来る簡単な遊びだ。

 

 そんな事わかっている。

 それなのに僕の手は動かない。

 

 何か裏があるんじゃ……。

 失敗したらどうしよう。

 そもそも、僕なんかが彼女に触れて良いのだろうか?

 止まらない陰険で卑屈なな思考が両手の動きを止めてしまう。

 そんな僕を見て、彼女は言う。

 

 「やれば出来るかもしれない。でもやらないと絶対にできない」

 僕の事心を見透かすように、見定めるように、彼女は続ける。

 

 「桜満集は、臆病な人?」

 

 赤い瞳が僕の顔を映し出す。

 臆病も何もこんな事やった事が無い。      

 『違う』

 人間なら初めての事に動じるのはしょうがない事だ。

 『僕はこれが初めてじゃない。』

 やった事が無い以上、とった事が無い以上臆病になるのは当たり前だ。

 『ずっと昔に……』

 

 

 映像が脳髄を稲妻のように走る。

 ほんとに一瞬。瞬く間の鮮烈な景色。

 

 それは、全身から銀色の棘が生まれる少女。

 それは、血を流し石畳で蹲る少年

 それは、宙を跳ぶ十字架。

 それは、天へと届く金色の流星。

 

 その全てが記憶に無いものだ。なのに、その全てに見覚えがあった。

 

 『覚えていない』

 『でも知っている』

 『そう、彼女達は僕の……』

 

 

 「ッ……?あれ、なんだ今の」

 

 意識が飛んでいた。記憶の端っこにさっきまで見ていたであろうモノの残滓が残っている。

 誰だったのだろう、思い出そうとしても、何かを視たと言う実感だけ残り問題の何かは忘却の彼方だ。

 その、一瞬の白昼夢に考えを巡らせていた。

 

 目の前で応えを待っていた彼女を忘れてしまっていた。

 

 

 突然、部室の入口から大きな音が聞こえた。同時に、大勢の規律の伴った足音が部屋に響く。

 

「え、え?」

 

 足音の正体は彼らが僕達に銃口を向けた時に分かった。

 黒い隊員服の上に白の防具を纏っており、その両手にはアサルトライフルを下げている。その統率された動きから彼らが軍人であり、隣にいる楪さんの警戒している雰囲気で、彼女を追って来たのだと分かった。

 

 「ふゅーねる!」

 

 隣から呟くような叫びが聞こえると、タンッと言う軽い音と共に眼下へと飛び降りていた。

 

 「いのりさん!?」

 

 確かにそこまで高くは無いけどさ!

 心配になり声を上げる。

 

 「##-3y1g#l2urb@'qb!!」

 

 ふゅーねるとは、恐らく彼女が持っていた丸いロボの名称だ。

 楪さんに続こうとしたが、移動をしている四本の軸足の一本が火花を上げ、そのまま動きを止めてしまう。

 

 無事飛び降りた彼女は、兵隊と兵隊の間にある僅かなスペースを狙い、逃亡の一手を計る。

 だが、訓練を重ね統率された彼らにそう易々と隙が出来る筈もない。

 彼女もそれをすぐさま理解したのだろう、抜く事は諦め迂回して窓から飛び出そうとする。

 

 「おっと」

 

 大柄な体躯の黒人が彼女の手を掴む。

 彼だけ分かり易く武装をしていないのは、この部隊の隊長だからなのだろう。そして、まるで予想通りと言わんばかりの顔を見ると、彼女はまんまと敵に誘導されていたようだ。

 

 逃げようと必死に体を強く揺らす。

 そこへ、黒人の隣に立つ兵士がアサルトライフルの銃床で鳩尾を強く殴った。

 

「ッ!」

 

 あまりの衝撃に体がくの字に折れそのまま倒れこんでしまう。

 

 一体何が起きているんだ……?

 混乱し始める頭。

 黒人もコチラ気付き、大きく叫ぶ。

 

 「学生かッ!?」

 

 「は、はい!あの、その子怪我をしているんです。出来れば優しく……」

 

 「この女は犯罪者だ。庇うなら君も同罪として浄化処分を行うぞ」

 

 扱って欲しい、と言う僕の願いは呆気なく遮られた。

 黒人の隣に居た兵士が無言で銃を向ける。

 彼らは本気だ。

 その気になってしまえば、学生一人の命等本当に消してしまえるのだろう。

 

 銃弾に貫かれ倒れこむ自分の姿を幻視する。

 

 「ヒッ……!」

 

 ……怖い。……嫌だ。

 頭を押さえ、身体を床に付ける。

 

 そんな、怯え切った負け犬の姿をどう受け取ったのか。

 黒人は鼻で笑い、もう二度と僕をを見る事は無かった。

 

 「データ認証は?」

 

 「六本木の葬儀社そうぎしゃの一員に間違いありません」

 

 「フ……、テロリスト風情があッ!」

 

 柔らかい何かを蹴る音と小さな悲鳴。

 止めてくれ!彼女に乱暴をしないでくれ!

 叫んで、彼女の下へ飛び行きたい衝動に駆られても、奴らが手に持つ凶器見ると体が竦んで動く事が出来ない。

 こんな時でさえ僕は……!

 

 「連行しろ」

 

 「ハッ!」

 

 兵士が気絶する彼女を引きずる様に連れて行く。

 そうして足音が一つ、また一つ遠ざかり、あっという間に部室は何時もの静寂を作り出す。

 こうなると、さっきまで彼女と居た事すら夢だったように感じる。

 だが、床に残る血痕が、横にあるふゅーねるが、今あった事が現実で、決して夢では無かった事を教える。

 

 何より僕自身の心が、突き刺さる後悔が、先程の事を夢で済ませてはいけないと僕自身に叫ぶ。

 こんな俺で良いのかッ……!?

 

 現状が伝えてくる。。

 君たちには任せておけない。

 

 君たちは大切な者を守る力が無い……と。

 

***

 

 ただ、時間が過ぎていった。

 兵士が彼女を連れ去っってどれくらい経ったのだろう。

 10分前か1時間前か、それすらも曖昧だ。

 冷たい鉄製の床に寝転び、曖昧な時間の中で曖昧に思考する。

 

 情けない事に暴力の危険から解放されて少しホッとしてしまった。その程度だ……僕は。所詮彼女の相手をする格じゃ無かった。

 

 ただの言訳という事は重々承知している。だけど、そうでもしないと死んでしまいたくなる。

 

 『とって』

 

 取りたかった……。

 彼女に近づいて手に触れたかったよ。

 彼女がさし伸ばしてくれたモノに応えたかったよ。

 

 でも、それも全ては終わってしまった事だ。後悔してもあの時には戻れない。

 所詮他人事だったんだ。僕とは関わる事が無い世界の話だ。

 

 だから、もう忘れよう。しばらくすれば心が回復する。

 そしたら、また何時もの僕に戻ろう。

 

 だけど……忘れる事が出来るだろうか。

 あの赤い瞳を、彼女の姿を。

 

 部室に佇む彼女の姿を見た。

 僕の動画を見て、綺麗だと言ってくれた。

 一緒にお弁当を食べた。

 そして、名前を教え合った。

 

 …………出来るわけがない。忘れられるわけがない。

 何より、彼女を……楪いのりとの出会いを忘れたくない!!

 

 「……*'@u_%:z)@#_+* !」

 

 「え……?」

 

 傍らにいたふゅーねるの頭部が展開する。同時にふゅーねるの頭上に広がるのは四角い半透明のホログラムだ。

 その中には、この町の地図が描かれている。

 白く点滅している所は概ねの地理からこの部室を指している事が分かった。

 だけど、部室とは遠く離れた場所で黄色で点滅しているのは一体何処なのだろう……?

 

『この子を涯に届けるの』

 

 楪さんの声が頭の中で反芻する。

 ……彼女はふゅーねるを何処かへ届ける途中だった。

 そして、その届け先こそが、今現在も地図上で点滅を続けている場所の筈だ。

 

 「マジか……、ココへ行けと?」

 

 ふゅーねるから返事は無い。

 ただ、選択肢は作られた。 

 

 再び冷たい床に身を預け、不貞寝して狸寝入りを決め込むか。

 知り合いの為に、自分から地雷原に特攻するか。

 

 答えなど、既に決まっていた。

 

 『とって』

 

 あの時、動かなかった両手を動かし、ふゅーねるを抱える。

 ああ、今取りに行くよ。

 

 そして、僕は走り出した。

 約束ですらない知り合いの願いの為に。

 

 

 

 

 

 「おっと、急に飛び出したら危ないだろ?」

 

 ……誠に残念だが、僕の決死のお使いは部室の入口で終わってしまった。

 っていうか約束の時間は放課後だろ! 何でこんなタイミングで来てしまうんだ!?

 

 「士郎ッ…………くん?」

 

 恐る恐る、間違っていてくれと、他人の空似で合って欲しいと思いながら聞き返す。

 

 「ああ、自己紹介はいらないっぽいな。ええと桜満でいいか? 今日は宜しくな」

 

 茶が入った赤毛で颯太に似た短髪。

 うちの学校で知る人ぞ知る有名人。

 修理された学校機材はそろそろ3桁に届くと言われる。

 

 頼めば聞いてくれる人助けの鬼。

 颯太はそんな風に軽口を叩いていた事もあった。

 そして、今程その鬼を恨むことも無いだろう

 

 




主人公スキル:間の悪さ

どの主人公もA++くらいあるイメージ。
ラッキースケベは勿論EX。女難の相もEXである。
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