Fate/guilty crown   作:モブキャラzx

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始まりへと/Genesis

「……行ったようだな」

 

 ゴーチェの射線から避ける為に、瓦礫を利用して隠れていると、大事な依頼主が話しかける。

 

 「恙神涯、一体何を企んでいるのですか? 」

 

 「……勿論、日本の将来及び貴女の主にとって益になる事ですよ」

 

 涼やかな顔で嘘を吐く。

 いや、あながち嘘でもない。

 最終的に彼女らが求める結果が手に入るなら問題ないだろう。

 

 「もし、我が主にあらゆる意味で被害が及ぶと分かったのなら」

 

 コチラを鋭く睨む赤い瞳。

 彼女から発せられる殺気は彼女が人ならざる者であると再認識される。

 ホムンクルス――錬金術と呼ばれる化学とは全く別のアプローチから生まれたアンドロイドとも言おうか。

 特に、アインツベルンと呼ばれる魔術師の家系のホムンクルスの練度は高いらしく、ほぼ人間と変わらない。それどころか人間より何倍もの寿命を持つ個体も生成が可能という話だ。

 彼女たちはロボットのように命令を実行し、犬の様に主人に忠実だ。

 だからこそ、主への不敬は許さない。

 

 「――喜んで貴女方に殺されましょうアインツベルン」

 

 恭しく、白々しく、揶揄するように口にする。

 

 「よくもまぁズケズケと心にもない事を……」

 

 失敗するわけがないだろう?

 ましてや殺されるわけがないだろう?

 そういった意味を込めた、挑発。

 

 アインツベルンのメイド―――リズは、呆れと怒りが融けあったような溜息を吐き出す。

 

 「貴方達には信用も信頼もしてません。我が主から手を出すな、と釘を刺されているから生きているのだと自覚をする事ですね」

 

 「しっかりと、胸に刻んでおくよ……さて、主にご執心なのは結構だが、今この時はこの場を生き抜くことを考えろ、死者の仲間入りをしたくなければな」

 

 「残念ですが、私は死者でもなく生者でもなく、造物です。ならばこそ、お嬢様の敵になり得る輩を残したまま、勝手に破壊される等、許される筈がありません」

 

 そうか、とだけ答える。

 信じる者がいる。

 それが狂信であるか妄信であるか、分からない。

 だが、キッパリとそれが口にできる彼女が――羨ましいと、思ってしまった。

 

 『涯、後15秒で接触します』

 

 葬儀社のエンドレイヴである操縦者の篠宮綾瀬から無線が入った。

 予定時間通り、流石ウチで一番のオペレーターだ。

 

 「了解した。コチラもカウントを始める――10――9……」

 

 意識を戦場に戻す。

 既に王の冠は自分のモノだが、未だ手の中には無い。

 諦めるつもりこそ無いが、これが運命だと言われれば納得はしてしまう。

 王に選定される者が俺か、それとも桜満集なのか。

 この運命の夜に託すとしよう。

 

***

 

 楪いのりは視界を奪われている中、唐突に体を宙に投げ出された。

 元天皇洲大学の廃棄された研究所で、お弁当をくれた少年――桜満集と出会い、そして別れた。

 GHQに捕まった後、葬儀社について知っている事を話せと、尋問、拷問、さらに自白剤と思われる注射まで打たれた。だが、それもGHQの連中もそれが無駄だと気付いたのだろう。

 

 尋問されても何も話さない。

 ――何故なら、「何も話すな」と恙神涯から命令されていたから。

 拷問されても何も話さない。

 ――何故なら、痛みは我慢が出来るからだ。

 自白剤を打たれても何も話さない。

 ――何故なら、私には普通の薬は効かないから。

 

 私を捕えに来た黒人のグエン少佐は、葬儀社のに着いて情報を引き出せないと知ると、葬儀社のアジトと噂される六本木フォート全体の駆除を始めた。

 名目上は「六本木フォート全体の防疫行動」だが、六本木フォートに住む住人全てがAPウイルス感染レベル4と指示されている為に事実上の「六本木フォート住民の皆殺し」だ。

 日本人=ウイルス持ち、故に彼らGHQ及び大半の海外の人間は、日本人を病原菌をまき散らす害獣としか認識していない。そうも思わなければ、民間人への大量虐殺という、倫理的にも人道的にも精神的にも問題があるような命令は思いつきもしない。

 彼がその命令を出せたのは、日本人を既に人として見ていないからに他ならない。

 

 私から聞けることが無いと分かると、GHQのコンテナに押しこめられ、両手を拘束され目隠しをされて、今に至る。

 車外の外は先程から悲鳴と轟音が雨音の様にぽつぽつと聞こえたが、車内は未だに静かなままだった。

 

 (もう大丈夫かな……)

 

 両手を拘束するものは手錠だけだ。手首の関節を幾つか外し、するりと抜ける。

 目隠しを外すと、思った通り見張りはおらず、脱出の絶好の機会だということを教えてくれた。

 

 コンテナの扉は外部からの衝撃で壊れており、簡単に外に出ることが出来た。

 後は葬儀社のアジトまで戻るか、無線なりなんなり使って涯と連絡がすれば言い。

 そう思い、近くの建物に入ろうとすると

 

 『そこのお前、止まれ』

 

 頭上からスピーカーを通したような機械音が聞こえた。

 振り返ると、そこに居たのはGHQのエンドブレイヴ―――ゴーチェが此方に銃口を向けていた。

 

 (どうせ、止まらなくても撃つ癖に……)

 

 敵の指示通り動くことは死に直結すると涯に教えられていた。

 だから、駆けた。

 

 『ッ!クソ、止まれ、このテロリストが!』

 

 やはり素性はバレている。

 現に今も、自分の横を銃弾が通り過ぎていった。

 いのりは、動きを読まれないように右に左にフラフラと、そしてスピードはどんどん加速させてひた走る。

 ゴーチェは機動性が高く、銃撃の精密性も高い機体だ。

 だが、乗り手が人である以上、どうしてもパターンは生まれてしまう。それが訓練を受けている軍人ならなおさらだ。

 

 だが、相手は疲れを知らない機械。自分は肉体を持ち、連続運動にも限界がある。

 最初こそ逃げられる確信があったが、目の前に二体目、三体目のゴーチェが現れるとその考えは霧散した。

 

***

 

 「――ヒッ、ハァッ……八ッ……ふ、ふゅーねる、目的地はまだなの……!?」

 

 「(’%(#)’%)(#)(%#」

 

 岩陰に隠れ、ふゅーねるにマップを出してもらう。

 

 「クソッ、またルートが変わってる……!」

 

 ふゅーねるの指示通りのルートを走っているが、GHQの先読みか、単純に通行ができない状態になっているのか、既に7回ものルート変更が行われていた。

 

「こんなモノがそんなに大事なのか……!」

 

 胸ポケットに入れてあるシリンダーを睨む。

 これは、涯がふゅーねるの頭部にから取ろうとしてたものだ。

 だが、ゴーチェの強襲の際に振った瓦礫がふゅーねるにも当たり、頭部部分が壊れてしまっていた。

 そのままだと、ひょんな事で落ちてしまいそうだったから取り出している。

 黒い硝子質の筒の中には、細長い棒状の結晶に二つの金属板が螺旋になって絡まっている。

 自分には一体何なのか皆目見当が付かないが、恐らく知ったら二度とまともな人生を送れない類の物な気がした。

 

 疲れで震え来た身体に鞭打ち、壁に手を付いて立ち上がる。

 休む時間は無い。

 少しでも遅れたら、自分はこの町の赤い染みの一つになってしまう。

 それは、隠れてやり過ごしている時に見た、GHQが六本木フォートの住民に行っていた非道で理解できた。

 奴らは悪魔だ。

 何の躊躇居もなく、引き金を引き、人を殺す。

 ここでは彼らGHQ以外は人間ではない。病原菌を持つ殺傷対象としてしか見られてない。

 その底冷えするような事実に吐き気がする。

 

 「’%E!!」

 

 ふゅーねるからピピッというアラーム音が鳴る。

 GHQの奴らが半径100m以内に侵入した合図だ。

 体をビルの陰に隠し、じっと堪える。

 少しでも身じろぎしたら、ゴーチェにセンサーで見つかってしまう。

 そしたら、僕も死者の仲間入りだ。

 

 数トンものある鉄の塊があり得ないスピードで道路を滑って移動する。

 それ一つ一つが意思を持ち、自分たちを殺すために延々と動き続けている。

 ゴーチェが動く姿を見ると、改めてそれを再認識させられる。

 

 ――――また、運が良かったようだ。

 あいつらは僕に気が付くことなく、通り過ぎてしまった。

 だが、こんな幸運が何度も続くはずがない。急いで目的地までいかないと。

 焦燥感と苛立ちを踏みつけるように走ろうとしたその時。

 

 「……ッ……ぁ…………!」

 

 歌が、聞こえた気がした。

 妙に耳に馴染む、何百回も聞いたような、ずっと昔に聞いたような歌。

 心が悴む。

 あり得ない、という感情と、あってほしいという感情が交差し、殴り合っている。

 体は進む、声を道標に、か細い光を追いすがる旅人のように、僕は静かに歩く。

 

 赤い、地獄の業火のような火の海を超え、何が焼けてるか想像もしたくも無い煙を超えていく。

 ふゅーねるはさっきからピッピッとアラート音を流すが、無視して歩く。

 

 そして、見つけた。

 居てくれた。生きていてくれた。

 彼女は――楪いのりは、初めて見た時のように空を眺め声を流し続ける。

 三体のゴーチェに囲まれ、正に今、この時に命を落としかねない状況だというのに、誰かに祈るように歌っていた。

 

 「――いのりさんッ!!」

 

 「……桜間集? 」

 

 わずかに彼女の声が聞こえた。

 声も足も勝手に出ていた。

 さっきまで限界だった両足は羽より軽い、今なら空すら飛べそうだ。

 

 心のどこかで暗い何かが囁く。

 

 『また、そうやって勝手に動いて全部を台無しにするのか?』

  違う。

 

 暗い何かは僕と同じ姿で、同じ声で囁き続ける。

 

 『お前の勝手な感情のせいで、また人を殺すのか?』

 違う。

 

 『お前の勘違いの自分らしさは、傲慢なエゴだ。それは誰の救いにもなりはしない』

 暗い何かは口元をゆがませ、甘い毒を吐く

 

 『だから、諦めろ』

 ああ、そうだ。

 

 これは勘違いかもしれない、彼女を助けるどころか、状況をさらに悪化させるかもしれない。

 

 『――逃げろ』

 『死人には関係のない事だったな』

 

 ここに来るまでに言われたセリフが頭の中で反射する。

 

 『桜間集は臆病な人?』

 

 そうだ。

 僕は臆病でちっぽけな人間だ。

 

 だけど、

 

 『――――とって――――』

 

 彼女の声を、彼女が差し出した手を思い出す。

 

 ふゅーねるを持つっているのが嘘のように体は軽快に動いた。

 瓦礫を踏み、煙を突き抜け、死力を尽くして彼女の元へ向かう。

 

 『新たなターゲット出現。まとめて掃討する』

 

 近くから、とても不穏で嫌な言葉が聞こえる。

 ガチャンと言う音と共にゴーチェが持つライフルの標準が僕と彼女に向けられた。

 鉄と鉄が軋めき、僕を殺す凶器となって迫る来る。

 数秒後死ぬ未来を幻視しながら、それでもなお、この足は止まる事がない。

 

 「うあああああっ!」

 

 自分を奮いあがらせる為に、疲れでガタガタの体を悟らせない様に、吠える。

 身体に残る僅かな力を全て両足に捧げ、彼女へと跳ぶ。

 

 彼女は驚いているようだった。

 何故いるのか?

 何故来たのか?

 そんな疑問を浮かべているのだろう。

 全部に応える事は出来ないから、代わりに彼女を全力で抱きしめた。

 強く、強く、二度と離さない為に。

 もはや聞きなれてしまった、ゴーチェのライフル音が聞こえる。

 少しでも、彼女を守りたくて、その華奢な身体を抱きしめた。

 

 

 パリンと、僕と彼女の間で硝子――シリンダーの割れた音が聞こえた。

 

***

 

 

 「――――これは……」

 

 目の前に広がるのは白い空間。そして鈍く輝く銀色の帯。

 無限に広がるそれだけが、僕と彼女を取り巻いている。

 

 自分達はさっきまで戦場に、しかもゴーチェのライフルで打ち抜かれる寸前だった筈。

 すると、右手に焼けるような痛みが生じる。

 痛みで目を瞑り、再び開けた時には手の甲に黒い痣の様な紋章が浮かんでいた。

 

 「集……」

 

 目の前に居た彼女が話しかける。

 

 「お願い、私を使って」

 

 まるで抱いて欲しいかのように、両の手を広げ自分を見つめる赤い瞳。

 

 『これは力。人の心を紡いで成す『罪の王冠』』

 

 懐かしい声が頭に流れる(女の人の声が頭に流れる)

 

 『でも、コレを取るなら、貴方はまともな人の生を送る事は出来ない』

 

 悲しそうに、彼女は語る(試すように、彼女は語る)

 

 『集、どっちが欲しい?』

 

 銃弾を浴びて、人として死ぬか。

 王冠とやらを手に入れ、得体の知らないモノとして死ぬか。

 

 どちらもゴメンだ。

 

 「僕は、彼女が、楪いのりが欲しい」

 

 彼女の手を取って死ぬ。

 それは、走り出した時に決まった事だ。

 この止められない感情が動き出した時に分かった事だ。

 

 彼女は『……そう』とだけ呟く。

 

 『ならば取りなさい、集。今度こそ。』

 

 彼女の最後の言葉が胸に染み込むと同時に、白い世界が僕といのりを中心として収束していく。

 

 再び僕は知らない記憶を見せられた。

 何処までも続く懐かしい青空と海。

 見覚えのある三人の子供。

 焼け落ちる教会。

 黒い太陽。

 

 そして、泣きそうな、桃色の髪をした××。

 

 やはり、知らない。

 だが、覚えのある景色。

 そこで記憶は途切れた。

 

***

 

 目の前に居たいのりの慎ましい胸から光が溢れている。

 無我夢中で右手を伸ばした。

 理由なんて知らないが、『ソレ』を取れると確信して右手を胸の更に奥――肉体と現実の向こう側の領域へと伸ばす。

 そして、『ソレ』の持ち手部分を掴み、一気に引きずり出す。

 同時に世界の色が変わった。

 戦場の焼け爛れた赤色に、天まで届く青い光の柱が自身を中心に爆発する。

 

 「何なんだ…コレは…」

 

 彼女から抜かれた『ソレ』は、自分の身の丈もありそうな長大な『剣』だった。

 『剣』は柄から刀身まで全てが銀色で彩られており、日本刀とも西洋刀剣とも違う形。

 

 切る事だけに特化された、それ以外の事を全て忘れたような『剣』

 その在り様は、美しく、悲しいと、僕は思ってしまった。

 

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