「どうやら始まったようですよ、ケイドウ」
六本木フォート近くのとあるホテルの一室で少年は誰ともなく呟いた。
少し茶色っ気がある短い金髪に太い眉、それ以外は普通の少年としか言いようがない風貌なのに、滲み出てしまう雰囲気が、彼は常人では無いことを明かしている。
「しかし、紛い物とはいえイブと出会い、力を手にするとは……さすがはオウマクロスの息子といったところでしょうか」
照明が何一つ点灯していない室内で、窓の外だけ青い光が輝いている。
その青い光は天空に吸い込まれ、新しい王を祝福する花火のようだと少年は感じた。
「運命、と呼ばれる類の物なのか。それとも偶然だったのでしょうか。アナタはどう思います?」
少年が問いかける、だが応えはない。
当たり前だ、この部屋に存在しているのは少年だけなのだから。
誰もいない空間で少年はうんうん、と頷くと。
「そうですね。アナタの言うことも正しい。ですが、もし聖杯より素晴らしいモノが見られるとしたらどうします?」
空気が弛緩する。
誰もいない筈の部屋から、咽るほどの殺気が充満し始める。
人間ならここが死ぬ場所だと、本能で理解しかねない程の圧に、少年は涼しい顔で誰もいない筈の返答を待つ。
外の青い光が消え始めると。プレッシャーは、一定の緊張を保ち緩まった。
「ええ、聞いてくれて良かった。やはりアナタはそこ等の英霊とは違うようだ」
少年は、まるでステージの幕を下ろすピエロのように大げさに頭を下げた。
「では、ごゆるりとご覧ください。演目名は……そうですね「幸せな
楽しそうに笑う少年とは対照的に、相変わらず乾いたような空気が漂い続ける。
やがて、その空気すら消え、ようやくホテルには少年しか存在しなくなった。
少年は、余りの対応のされ方にやれやれと首を振り、再び窓の外を眺める。
光はすでに消え、死を内包した炎と煙が立ち込める街を眺める。
「本当に楽しみにしているんですよ……
それだけを呟くと、少年は消えた。
まるで最初から存在がなかったかの様に、姿も形も無くなった。
ホテルは静寂を取り戻す。
つい5時間前は、少ないくないお客とそれに見合う社員も居たが、このホテルには生きているモノは少年だけだった。
***
「なんだよ……これ?」
赤い炎渦巻く戦場の中、思い人の中から抜き出した『剣』を空に翳し呟く。
柄から刀身の尖端まで、全てが銀色で塗りつぶされており、周りの炎で銀色に鈍く光っている。
刀身からは不思議な銀色の帯が絶えず流れ出し、僕といのりの周りを漂っているが、触っても特に何もない。
この現状を全て説明してもらおうと『剣』を取り出した当人、いのりを見るが。
「……」
彼女は気を失っていた。
正確に言うのであれば『剣』を取り出した時に、短い悲鳴に似た声を叫び、ぐったりと倒れこんでしまっている。
理由はもしかしなくても、今手に持っている『剣』にあるだろう。
(どうしよう……)
一度立ち止まり、彼女を安全な場所まで運び、その上で考え込みたかったが。
『貴様らァ!一体何をしたぁぁああ!』
だが、状況はそんな余裕を僕らにくれる様子はない。
目の前には3体のゴーチェ、いや、1体は既に破壊したから後2体だ。
「はッ―――」
息を浅く吐き、自分の何倍も重量がありそうな『剣』を軽く構える。
足にぐっと力を込め、そのまま宙へと飛んだ。
夜空との距離が一気に縮まり、逆に地面とは遠く離れてしまう。今この体は、高さ5mはあるゴーチェをはるか眼下に捉えている。
「たっか……!」
変に考える必要は無い。
ただ、思うだけで良いんだ。
アイツらを蹴散らしたい、と。
その為にはスピードが必要だ。
ゴーチェのセンサーにも機銃の照準にも追いつけないスピードが。
自由落下だけのスピードだけじゃ足りない。
足りないから、創り出す。
足元に銀色の膜のようなエフェクトが現れる。
彼女から『剣』を取り出した時に使えるようになった能力だ。エフェクトだけじゃ無い。
腕力、脚力、視力、聴力、およそ全ての身体機能が異常と呼べるまでに跳ね上がっていた。
ゴーチェ達が放つライフルの弾道を見切り、エフェクトを足場にし、真下へと跳躍した。
「――ハァッ!」
そして、すれ違いざまに『剣』を振り下ろす。
『剣』は空気を撫でるような、手応えを感じる事も殆どなく、ゴーチェの両足を切り落した
「あと1機!」
地面を滑り、着地の勢いを流す。
靴が砂埃と共にプラスチックが燃え溶けた嫌な臭いがしたが、別に熱くはなかった
『このォ……化物が……!!』
最後の1機となったゴーチェは半狂乱になりながら、ライフルやグレネードを撒き散らす。
だが、それは化物を遠ざける悲鳴でしかない。
当てる為でなく、遠ざけるための銃撃。
そして、当てる気のない弾が当たる道理は無い。
真っ直ぐ走る。
当たりそうな銃弾はエフェクトで受け流し、グレネードを切り裂いて、再び『剣』を2回振るう。
それだけで、
その筈だった。
持っていた『剣』が、唐突に動きを止めた。
勿論僕には止める意思なんて微塵も無かった。
既にゴーチェの片腕は切り落とされており、あと1回振り下ろせば、目の前にいるゴーチェを破壊する事が出来たのだ。
僕に止める理由等ない。
「ッ……!」
何も無い空中から銀色の線が染み出てくる。
銀色の線は徐々に伸び、まるで最初からそこに在ったかのように、暗闇から姿を現した。
それは鎖だった。
鎖が『剣』に巻きついて、いやむしろ絡みつくようにして『剣』の動きを完全に止めている
『剣』に巻き付いている鎖の行き先は、廃墟となっているビルの中。
その中に、この鎖の持ち主が現れる。
ソイツは痛んでグチャグチャな紫色の長い髪で顔隠していた。
長い肢体に面積の少ない黒色の衣服を纏っており、肌色すら何処となく黒い。
「貴女は誰だ……?」
「…………」
「退いて、くれませんか……? ゴーチェを破壊しないと色んな人が不幸になる」
ここに来るまでにみた惨状を思い出す。
逃げゆく人々を無慈悲に殺していく殺戮機械の姿を、僕は忘れていない。
彼女は何も言わない。
そして、応える必要は無いと言わんばかりに『剣』諸共、僕を空に打ち上げられた。
空中に放り出されながら、なんとか体制を整え、足元にエフェクトを作り出す。
「コイツも、あの槍使いと同じか……!!」
赤い槍兵の、人の形をした化物。
姿こそ違うがその異常性は間違いなく同類だった。
今日の夜、死にかけた時を思い出す。
何も出来ないままボロくずに同然までにされた。
だが、相手も異常なら今の僕だって異常そのものだ。
空中に展開したエフェクトの上に立つ。
自分が異常になったという証拠の一つ。
更に、釣りをする要領で『剣』で鎖女を引き揚げようとする。
「ッギグガァァアアッ!」
武器を取られまいと、鎖女も抵抗をする。
僕と彼女の間にピンッっと鎖の糸が貼られた。
両手の筋肉を総動員して『剣』に力を込めるが、彼女も両手両足を地に着けて、獣のように鎖を引く。
拮抗し緊張感だけが募っていく。
10秒か1分か、いつまでも続くと思っていた綱引きは1振りの剣閃で終を迎える。
「―――あれ?」
急に手応えが消え去った。
同時に体が力のバランスを失い、エフェクトの外へ吹っ飛び、地面へ落下した。
いったい何故?
理由は直ぐに分かった。
鎖が何者かに断たれたのだ。
月光を背にその何者か大地に降り立つ。
青いドレスに銀色の甲冑を身に付けた騎士。
騎士は鎖女と対面しながら、コチラに話しかけた。
「貴様がオウマシュウで違いないか?」
凛とした、清廉さが滲み出ているような神聖な雰囲気と丁寧でどこか高貴さを感じさせる言葉遣い。
だが、僕を親の仇のように睨み付けている。
「え、あっはい!あのッ貴女は……」
彼女の、僕の首を狙っているかのような形相にビビりながら、なんとか言葉を繋いだ。
初対面の相手にここまでの対応をされる程、自分は悪行をしたとは思えないのだが。
彼女の瞳には僕は連続殺害の犯罪者にでも移っているかのようだ。
「―――私はサーヴァントセイバー。マスターの指示で御身を救いに来た」
少しの沈黙の後、彼女は苦虫を噛み潰すようにつぶやいた。
「さーばんと……?セイバー……?えっと、それにマスターって?」
「我がマスターの名前はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン」
誰だろう、聞き覚えがない。
コチラの顔にクエスチョンマークが浮かんでいたのが分かったのだろう。
彼女――セイバーはイライラとした表情のまま言葉を付け足した。
「衛宮士郎の姉、と言えば聞き覚えがあるのでは?」
衛宮士郎。
それなら知っている。
自分が知る限り、重度のお人好しで好感が持てる同級 生で。そして、今日知り合い、別れた者の名前だった。
自分が巻き込んでしまった尊い命の名前だ。
顔を歪め唇を噛む。
そうか、彼の関係者か、ならば恨まれるのは道理だな。
「ええ……そうです」
険しい顔で、ぴしゃりとセイバーは言い放つ。
「貴方のせいで死に掛けた、ウチの可愛いくて料理上手でメイドになっても文句無しの半ば家政婦状態で、でも最近私にちょこっと冷たくなった反抗期気味だけどそのツンツンした態度すら永久保存レベルで素晴らしいシロウの事ですよ!!!」
―――この人ダメかもしれない
微妙な空気が流れる。
だがセイバーはそんな事お構い無しにマシンガンの様に叫び続けた。
「本来だったらこんな戦いに巻き込まないようにイリヤと必死に秘匿にしたのに!偶にちょっと寂しそうに「俺は仲間外れかよ……」って悲しむ姿が子犬っぽくてまた堪ら……って、話の途中なのだから黙って切り伏せられなさいライダー!」
あまりの長話に耐え切れなくなったのか飛び出た鎖女――ライダーを振り向きざまの一撃で切り捨てた。
切った、と言ってもセイバー手元には何も無い。
少なくても、僕にはそう見えた。
見向きもせず、僕と同程度の力を持ったライダーを虫でも払うかのように倒してしまった。
その後もセイバーによるウチの子可愛いでしょトークは続くと思えたが、彼女はアッサリと切り上げた。
「ふぅ………では行きましょう、オウマシュウ」
キリッとした表情で歩き始めるセイバー。
姿勢正しく歩く姿は正に中世の騎士の様に
「あのッ、どこへ行くんですか……?」
「私のマスターとシロウがいる場所です。葬儀社、でしたか。貴方が向かおうとしていた組織の隠れ家に当たる場所ですね」
「ああ、そうなんですかマスターさんと衛宮君は葬儀社の方に……………………え?」
今、誰と誰が居るって言ったんだ?
「どうしました、私は早くシロウの元へ戻りたいのですが」
一瞥もせずに歩くセイバー。
そん中の時の背中に、疑問を問い掛ける
「あのッ!衛宮君って、えーと、元気……何ですか?」
「は? ……いえ、そんな事は無い。血がまだ少し足りてないからかフラフラとしていました。貴方はシロウに会い次第早急にその頭蓋を地面へめり込ませる勢い土下座して下さい」
思わず、へたり込んでしまった。
「生きてて、本当に……」
「ええ、奇跡的に。……何を泣いているのですか?」
良かった。
本当に良かった。
いのりさんも、衛宮君も、もう二度と会えないと思ったのに。でも本当に生きてて良かった……!
涙と鼻水を垂らしながら『剣』を持ち、いのりを背に載せセイバーに付いていく。
状況は未だ分からないことが多く、混沌のド真ん中ではあるが、無くしたと思った二つの命が見つけられた。
未だ訳が分からない状態続くが、少なくとも2人が生きている事が分かった事は、僕にとって唯一嬉しい事だった。
ライダーファンの皆さんすみませんでしたあああああ!
そしてセイバーファンの方も申し訳ありません。
でも後悔してません。
このまま突っ走ります。