魔法科高校の幻想紡義 -旧-   作:空之風

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この作品は「魔法科高校の劣等生」と「東方Project」のクロス作品になります。
またオリジナル主人公をはじめオリジナルキャラ、独自展開を多く含みます。


プロローグ
紡ぐ者たち


××××××出て岐れ、天地初めて発けしとし、高天原に成りし神の名は、天之御中主神、次に高御産巣日神、次に神産巣日神。

 

この三柱の神は、みな独神と成りまして、身を隠したまひ――。

 

(大八洲結代大社に厳重に封印された書物の最初の一文より)

 

 

 

 

 

 

魔法が伝説や御伽噺の世界から飛び出し、既存の技術となった現代。

 

古の夢幻が現在の常識となれば、自ずと消えゆくものもある。

 

幻想。

 

人がまだ世界を認識するのではなく、世界を感じていた頃に、人と共に在ったもの。

 

科学の発達によって失われていき、そして魔法が広く認知されるにつれて、幻想は儚き泡沫のように消えていった。

 

失われた幻想。だが科学と情報が蔓延する現し世で、今なお幻想を紡ぐ者たちもいる。

 

 

 

これは、原より出ていて、神代より紡がれる幻想紡ぎ――。

 

 

 

 

 

 

日本という国には、結代神社という神社が日本中に存在する。

 

結代神社は国津神である八玉結姫(やたまむすびのひめ)を祀る神社であり、八玉結姫とは古事記、日本書紀などに記されている朱糸神話に登場する神だ。

 

朱糸神話、或いは朱糸伝説とは、以下のような内容だ。

 

 

 

八洲と呼ばれる地方で、一人の旅人が深山花の地で休息を取っていたところ、国津神である八玉結姫が現れる。八玉結姫は旅人に問うた。

 

「汝はどこへ行くのか?」

 

旅人は答える。

 

「天にあるという宮へ。月が忘れた鏡を届けに行かねばなりません」

 

その答えに感心した八玉結姫は、やがて旅人と仲睦ましくなる。

 

だが旅人は宮へ鏡を届けるために八玉結姫の下を離れる。

 

その際、八玉結姫は深山花で編んだ朱い糸を持ち出し、旅人に告げる。

 

「この糸の両端にそれぞれの名を繋ぎましょう。たとえ深山花が散れてもこの糸が結う代となりて私とあなたを繋ぐでしょう」

 

旅人は頷き、糸の両端にそれぞれの名を繋いだ。

 

旅人は天の宮に赴き、月が忘れた鏡を届けた。鏡を受け取った月は夜の空を照らすようになった。

 

やがて地へと戻った旅人は深山花の地へ戻ってくると、待っていた八玉結姫に告げた。

 

「たとえ天と地が分たれても、紡いだ縁は切れません」

 

旅人と八玉結姫は夫婦になった。

 

両者は仲睦ましく、その様子を見た月読命が命じて八玉結姫を奉った社が建てられた。

 

 

 

以上の内容が朱糸伝説の大まかな概要であり、八玉結姫は「縁結び」の神として祀られ、八玉結姫を奉った社が淡路島にある結代神社の総本宮である大八洲結代大社(おおやしまゆうしろたいしゃ)という伝承が残る。

 

書類上は大社と列格されているので結代大社と呼称すべきだが、記録上では少なくとも飛鳥時代から結代神社と呼ばれ続け、歴史にすら基づいた習慣によって今なお結代神社と呼ばれている。

 

また古くは帝や親王の祝言の際は、縁結びに肖って結代神社の神主が代々立会人を務めており、神前結婚が成立した明治以降から現代までも、皇族の結婚式は結代大社で挙げることが多い。

 

ある意味、最も権威ある神社と言えよう。

 

ちなみに朱糸伝説は神話では珍しいラブロマンスであり、二十世紀に朱糸伝説をモチーフにした映画『運命の赤い糸』がハリウッドで上映されると大ブレイクし、同時に朱糸伝説も瞬く間に世界中に広がった。

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

歴史ある結代神社、その総本宮である大八洲結代大社と、皇族の東京移住に合わせて東京に建設された結代東宮大社(ゆうしろとうぐうたいしゃ)

 

この二つの神社の神職、宮司を代々務めている一族が、結代家である。

 

だが、人々は知らない、決して知ることはない。

 

結代家が宮司を務める神社は、大八洲結代大社と結代東宮大社だけではない。

 

現世より忘れ去られた幻想の住まう地でも、結代は紡ぎ続けている――。

 

 

 

 

 

 

日本は東方の何処か、山中に現代社会より置いてけぼりを食らったような神社がポツンと建っている。

 

人々に忘れ去られたこの神社の名を、鳥居に掲げられた額がここを訪れた者に教えてくれている。

 

幾年も放置されていたせいか風化が著しいが、辛うじて読める文字には、こう書かれていた。

 

――博麗神社、と。

 

 

 

ちょうどその時、この鳥居の向こう側、現代社会の常識とは違う常識を持つ者たちが隠れ住む世界で、こんな会話が交わされていた。

 

「雅季、魔法科高校に入学してくれないかしら?」

 

「は?」

 

結代家の今代の結代、結代雅季(ゆうしろまさき)は、目の前にスキマを開いて突然現れた妖怪の賢者の唐突な要望に、口をあんぐりと開けて相手を見返した。

 

「雅季、魔法科高校に入学してくれないかしら?」

 

そんな相手の様子などお構いなしに、幻想郷の妖怪の賢者、八雲紫は同じ要望を繰り返し伝えた。

 

 

 

この地が幻想郷と呼ばれ始めた頃から、幻想郷には二つの神社がある。

 

東の最端にあり博麗大結界の境目に位置する博麗神社。

 

そして人里の外れにある結代神社。

 

最近では妖怪の山の頂上に守矢神社も出来たので今では三つだ。

 

結代雅季は結代家が代々受け継いでいる『能力』を強く受け継いでおり、既に幻想郷の結代神社の神主(宮司)を務めている。

 

結代家が神職を代々務める結代神社で宮司を務める者は、当人たちと幻想側の関係者の間で『今代の結代』と呼ばれるようになる。

 

よって結代雅季は幻想郷の結代神社の神主――幻想郷では宮司とは呼ばず神主と呼ぶ――を務めていることから『今代の結代』の一人である。

 

 

 

さて、そんな彼の今日の一日の行動は次のとおり。

 

『能力』で外の世界と行き来できる雅季は、一週間ぶりに幻想郷へ戻ってくると、まず人里の外れにある結代神社へ赴き、定住している神様と巫女と共に朝食。

 

その後は気の向くままに人里を訪れると『人里の守護者』と遭遇。

 

談笑していると『守矢の風祝』が現れて雅季を拉致。「人々と神奈子様への信仰を結ぶのも結代の務めです!」という強引な論理で他の神社なのに信仰集めを手伝わされる。

 

守矢さん家の巫女は実に幻想郷らしさに染まってきているようだ。イイ意味でも悪い意味でも。

 

信仰集めの演説の途中で脱走した後、博麗神社に向かうと『紅白の巫女』と『白黒の魔法使い』がお茶していたのでご同伴。

 

その時に「山菜で一番美味いのはタラの芽かコシアブラか」で魔法使いと討論になって弾幕ごっこにまで発展。ただし途中で「境内が汚れるでしょうが!」と二人して巫女に撃墜される。

 

その後は「自分で建てた分社だから定期的には管理しないとなー」と結代神社の無縁塚分社にやってきたところで、『妖怪の賢者』が突然現れて現在に至る。

 

 

 

分社の縁側に腰掛けて、淹れたお茶を啜る雅季と紫。

 

無縁塚に建てられたこの分社は、『奇縁異変』と呼ばれる異変の後に建てられた結代神社の分社だ。

 

縁側から紫の桜を見ることも出来るが、今期は未だ紫の桜が咲く周期ではない。

 

「……さてと」

 

落ち着いたところで、雅季は口を開く。

 

「先ほどの問いですが、その答えは「はい」と答えましょう」

 

「随分と簡単に決めるわね」

 

「元々、俺自身も魔法科高校へ入学する予定でしたので」

 

「フフ、それは貴方が外の世界でやっている趣味の関係でしょう」

 

「ええ。『魅せる魔法』であっても魔法は魔法。きちんとしたところで学んだか否か、経歴というのは大事なのです。最も――」

 

雅季は苦笑いを浮かべながら困ったように続ける。

 

「よっぽど手を抜かないと、困ったことになりますけどね」

 

 

 

『原より出ていて、神代より紡ぐ結う代』。

 

『結び離れ分つ結う代』。

 

結代家に伝わる、結代家を表す言葉。

 

結代家とは神話時代から続き、今なお神や妖、そして『月』とすら関わりを持つ家系なのだ。

 

世界に対する理解と行使は、外の世界で理に干渉する術を持った者たち、魔法師たちなど比較にならない。

 

それは十師族であっても例外ではない。

 

その最もなこととして、魔法師は「想子(サイオン)」のみで術式を構築する。

 

――それだけだ。

 

彼らが「霊子(プシオン)」と呼んでいるものは、未だ解明すらされていない。

 

その正体を、雅季はあっさりと口にした。

 

霊子(プシオン)とは、即ち幻想。それは彼らが忘れ去り、彼方へ追いやったもの。認識と情報を信仰する現代の人々が再び幻想を抱くには、さてあと何百年必要になることやら」

 

そう言って雅季はゆっくりとお茶を啜った。

 

「人は歴史を繰り返すもの。かつて地動説を唱えた学者が異端とされたように、今は幻想を唱える者は異端となる。――だから、あなたのところの巫女も幻想郷へ招かれたのでしょう?」

 

紫は扇子で口元を隠すと、意味深な視線を雅季に向ける。

 

視線を受けた雅季は飄々とした様子で縁側から見渡せる無縁塚を見つめながら、

 

「それでも、やがて人々は地動説を受け入れた」

 

その瞳の奥に強い光を宿して、言葉を続けた。

 

「いつか、人は再び幻想を受け入れる。その時こそ、博麗大結界はその効力を失ってしまうでしょう」

 

博麗大結界は常識の結界。幻想が否定されているからこそ作用する強力な論理結界だ。

 

逆に言えば、幻想が肯定されると結界は意味を失う。

 

そして外の世界の人々は、『幻想』を観測する術を手に入れている。

 

今はそれが何なのかわからなくとも、いつかは「それ」は「そういうもの」なのだと、幻想を理解するだろう。

 

その時、幻想郷の住人たちはどうするのだろうか。

 

雅季自身は生きてはいないが、結代家は続く。

 

そして、八雲紫を含めた妖怪や神のほとんどが、当事者としてその時を迎えることだろう。

 

また『月』も本当の姿を現世に晒す羽目になる。

 

それは果たして良縁となるのか。

 

先のことはその時の人々の思い次第だが、少なくとも今代の結代としては、現在の世界と幻想を結ぶのは悪縁にしかならないと判断している。

 

「少なくとも今、現世と幻想を結ぶは悪縁以外の何者でもなし。結代としては悪縁が良縁となるまで、両者を『離し』『分つ』ことでしょう」

 

「ええ。それには同意しますわ」

 

「それを踏まえた上で、妖怪の賢者殿にお尋ねします」

 

雅季は『結代雅季』としてではなく、『今代の結代』、そして『結び離れ分つ結う代』として問う。

 

「なぜ、私を魔法科高校へ勧めるのでしょう?」

 

結代雅季が魔法科高校に入学を希望するのは、外の世界でやっている自分の趣味のためだ。

 

八雲紫が求めている理由とは全く違う。

 

ならば、彼女は何を結代家に求めているのか。

 

結代の問いに、紫は目を細めて扇子をパチンと閉じた。

 

「外の世界で、再び流れ始めた動きがあります」

 

そして、いつもの真意を見せない笑みを浮かべて、紫は問いに答えた。

 

「その動きに最も関わるであろう者たち、魔法師はあの学び舎に集う。そして、結代家もその動きを無視できないでしょう。――百年前と同じように」

 

最後の一言で、結代雅季は流れ始めた動きが何なのかを察した。

 

「――なるほど、それは結代としては放置できませんね」

 

ふぅ、と雅季は大きく肩を落とすと、再びお茶を啜り一口飲み干した後、答えた。

 

「わかりました。魔法科高校に入学し、彼ら彼女らの縁を紡ぎましょう。いずれ来る時のために――」

 

「ええ、お願いしますわ。今代の結代にして結び離れ分つ結う代、結代雅季」

 

 

 

 

 

 

終わりを求める者たちと、紡ぐ者たち。

 

対を成す者たちが静かに動き始めたころ。

 

二人の兄妹が魔法科高校への進学を決める。

 

 

 

波乱の日々が始まるまで、あと少し――。

 

 

 




《オリジナルキャラ》
結代(ゆうしろ)雅季(まさき)

東方本編とは百年ぐらい時代設定が違いますが、百年遅れて原作が開始した設定です。

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