魔法科高校の幻想紡義 -旧-   作:空之風

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第14話 死の魔法

ジェネレーターには恐怖や不安といった感情は無い。

 

故に、ジェネレーターが標的(ターゲット)を前に萎縮することなど、『製造者』達から言えば有り得ないことだ。

 

だというのに、二十六号として製造されたジェネレーターは数十メートル先に佇む少女に気圧されるように、僅かに足を引き摺って後退していた。

 

或いは表面的な感情ではなく、その更に奥にある本能レベルで察したのかもしれない。

 

格が違い過ぎる、と。

 

だが、ジェネレーターはあくまでも命令を忠実に実行する為に動き出す。

 

司一の「ガキ三人を始末してこっちに来い」という命令は、ちょうどHMDが壊れた直後であったため受諾せず、その前の「ガキどもを殺せ」という命令がジェネレーターを縛る。

 

そして、目先の少女が最も脅威と判断したジェネレーターは少女に、司波深雪に対して殺意の牙を剥いた。

 

 

 

自己加速術式で飛び出し、司波深雪に向かって疾駆する。

 

途端、ジェネレーターの身体が霜に覆われ始める。

 

深雪が氷のような冷たい目で、襲いかかってくる獣を見下しながら冷却魔法を行使する。

 

瞬く間に身体が凍り始めるが、それでもジェネレーターは止まらない。

 

凍った足にヒビが入り、血潮が吹き出す。

 

常人ならば激痛に苦しむそれを、ジェネレーターは身体機能の低下という信号としてのみ受け取り。

 

これ以上の二足歩行は不可と判断したジェネレーターは、最後の脚力を駆使して前へと跳躍した。

 

一気に彼我の距離を詰めるジェネレーターが、己が右腕を凶器として腕を大きく後ろへ構える。

 

自己加速術式の勢いと相まって突き出されるそれは、岩石をも貫く威力を持つ。

 

況してや司波深雪の華奢な身体など容易く貫き、引き裂くことだろう。

 

その腕が届けば、の話だが。

 

深雪の隣にいる人影が、彼女を庇うように、彼女の前に進み出る。

 

司波深雪の守護者(ガーディアン)、司波達也。

 

ジェネレーターが標的を深雪から進路上にいる達也に変える。

 

達也からすれば望むところであり、そして何より――。

 

 

 

深雪に殺意を行使した、否、殺意を向けたジェネレーターを、達也は許すつもりなど毛頭無かった。

 

 

 

そして、ジェネレーターと達也が交叉する。

 

突き出される貫手、今度は十文字克人の『障壁』は存在しない。

 

よって、指先は何にも防がれずに達也の胸元へと吸い込まれていき――空を貫く。

 

達也が体勢を低く構えたことで、矛先が胸元から顔へ。

 

そして、達也は首を軽く傾けただけで貫手を避け、カウンターでジェネレーターの腹部に掌打を打ち込んだ。

 

九重八雲から教わった古式の体術を駆使した重い一撃。

 

更に四葉の秘術である『フラッシュキャスト』をも発動。

 

二科生である普段の達也からは有り得ない、友人たちも認識できない速度で加重系魔法を行使し、その威力を何倍にも増幅して叩きつけた。

 

そして、既に全身の大半が凍り付いていたジェネレーターの身体は、その一撃に耐えることは出来なかった。

 

吹き飛ばされるジェネレーターの全身に亀裂が走り、砕けた。

 

 

 

「……本当に見せ場が無くなっちゃった」

 

呆然と佇むエリカがポツリと呟いた言葉が、同様にレオと森崎の胸中をも表していた。

 

そんな三人の視線の先には、砕かれた氷の彫像。

 

つい先ほどまで三人が戦っていたジェネレーターの成れの果てだ。

 

司波兄妹が姿を現すや、勝負は一瞬で片が付いた。

 

ジェネレーターが深雪に襲いかかったかと思うと、瞬く間にジェネレーターが凍りついていき、最後は達也のカウンターの掌打が入るやジェネレーターは凍りついた身体を砕かれながら吹き飛ばされた。

 

自分たちが苦戦していた相手を文字通り秒殺した事に、三人は嫉妬を通り越して呆れるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

司一は、絶望の淵に佇んだまま、眼前の光景を見ていることしかできなかった。

 

「ば、バカな……そんな、バカな……」

 

司一の視線の先では、二十五号と命名されているジェネレーターが、桐原武明と戦いを繰り広げている。

 

否、それは“戦い”にもなっていない。

 

「フッ――!!」

 

短い呼吸と共に桐原は振動魔法『高周波ブレード』を纏った刀を袈裟斬りに振るう。

 

対するジェネレーターは獣のような俊敏性で後ろに飛んで刀を避けた。

 

一進一退の攻防、に見えるそれは、実のところ大きく違う。

 

ジェネレーターが一気に距離を詰めて、桐原に攻撃を繰り出す。

 

ジェネレーターが振り払った左腕を、桐原は身を捻って紙一重で躱す。

 

紙一重なのは攻撃を見切ったからではなく、ギリギリ間に合ったからに過ぎない。

 

よって、一撃を躱した直後の桐原は万全な体勢とは言い難く、そこへジェネレーターが追撃を仕掛ける。

 

自身も攻撃を繰り出した直後だというのに、常人ならば筋肉が悲鳴を挙げる動きで体ごと桐原に向き直る。

 

感覚も何も無く、ただ敵を殺すことだけに意思を特化させられているからこその動き。

 

まずは眼前の桐原を殺すためなら、身体を酷使することも厭わない。

 

ましてや身体強化を施された身ならば尚更だ。

 

ジェネレーターは桐原に向かって殺意の塊を、右腕を振り下ろす。

 

桐原にはそれを避ける術も、防ぐ手立ても無い。

 

何より桐原自身が避けようとも防ごうともする動きすら見せない。

 

ただ迫り来る凶腕を、一切も見逃さぬが如き目で捉え続けているのみ。

 

それは諦観によるものではなく、敬する先輩への絶対的な信頼の証。

 

振り下ろしたジェネレーターの右腕が桐原に当たる前に、見えない壁によって空中で弾き返される。

 

その正体は、桐原の高周波ブレードと干渉しないようジェネレーターの攻撃する瞬間かつピンポイントにのみ展開される、十文字克人の『反射障壁(リフレクター)』だ。

 

攻撃が勢いごと弾かれて、ジェネレーターの身体が大きく仰け反る。

 

それは、先程から何回も繰り返される光景の巻き返しだった。

 

ジェネレーターの攻撃は、その一撃一撃が致命傷に成り得る威力を持つ。

 

だが、その一撃がどうしても桐原武明には届かない。

 

桐原がよけられる攻撃は防がず、よけられない攻撃のみ防御される。

 

それは、「戦い」ではなく、さながら「実戦稽古」。

 

それを演出するのは、この国の魔法師の頂点に君臨する十師族の一人、十文字克人。

 

そして、桐原の戦いぶりを見つめる克人の後方には、両手両足を折られた挙句、意識を刈り取られ戦闘不能に陥った二十四号と呼ばれるジェネレーターが横たわっている。

 

 

 

司一の絶望の原因は、先ほどまでは司波達也であった。そして今は十文字克人に代わっていた。

 

二十四号は、十文字克人に呆気なく敗れた。

 

それも克人は桐原の援護と並立しながら戦ったというのに、それでも二十四号は手も足も出なかった。

 

否、手だろうと足だろうと魔法だろうと全てを出し尽くしても勝てなかった。

 

ジェネレーターは命令通りに十文字克人を殺すために攻撃を続け、物理的な直接打撃も、魔法による事象改変も、短期間で放たれたあらゆる攻撃が無力だった。

 

その光景を目撃し、最終的に克人によって二十四号が倒された時、司一は逃げ出そうとした。

 

だが司一の逃走も、克人の魔法によって阻まれる。

 

今、司一は四方一メートルの物質非透過の性質を持つ不可視な壁によって閉じ込められている。

 

故に、司一はただ見ていることしか出来ない。

 

逃げることもできず、戦う気力すら失い、ただ残った二体のジェネレーターが勝利するという有り得ない希望に賭けることしか出来なかった。

 

既に一体は司波兄妹によって文字通り粉砕されたという事を、彼は知らなかった。

 

 

 

十文字克人から「実戦稽古」の施しを受けている桐原武明は、ただ戦闘にのみ意識を集中させている。

 

彼も男だ、内心では情けないと思う気持ちも無くはない。

 

だが、それを上回る強い戦意がそれを塗り潰していた。

 

一体を圧倒的な力量で倒した克人は、桐原の援護に徹するだけで自ら手を下そうとはしない。

 

口は黙したまま、だが強い視線で桐原に告げていた。

 

 

 

お前の手で倒して見せろ、と――。

 

 

 

(ここまでお膳立てされて「決められませんでした」はねーよ、な!!)

 

そんなことは桐原武明のプライドが許さない。

 

せめて一体だけでも自らの手で倒して、壬生紗耶香を利用したブランシュの、司一の思惑を打ち砕く。

 

何度目になるかわからない交叉の後、再び距離を取った桐原とジェネレーター。

 

桐原は乱れた呼吸を整えると、剣を中段に構えて、

 

「会頭、次で決めます」

 

静かに次での決着を宣言した。

 

「……わかった」

 

桐原から何かを感じ取った克人が頷いた直後、ジェネレーターが再び、そして最後になるだろう襲撃を仕掛ける。

 

再び展開される自己加速魔法、展開速度は最初とまるで変わらず疲れを見せた様子もない。

 

そして、加速した速度もまた最初と変わらない。

 

人間の知覚を上回る、だがジェネレーターにとっては制御下に置かれた速度。

 

最初は司一に意識が向いていたとはいえ気付くことも出来ず、その後は一撃目を避けるのが手一杯の速さ。

 

その「速さ」こそが、桐原武明にとってジェネレーターを打倒する唯一の隙だった。

 

ジェネレーターの両手は、何度も『反射障壁(リフレクター)』に弾き返され最早ボロボロだ。

 

だが、鋭利さを失ったのなら鈍器にするまでと、ジェネレーターは先ほどと同じく右腕ごと桐原へ叩きつけるように振り落とす。

 

「オオォ――!!」

 

振り下ろされた右腕に合わせるように、桐原は刀を下から切り上げ、高周波ブレードを纏った刃がジェネレーターの右腕の肘から先を切断した。

 

だというのに、宙に舞う自身の腕には目も向けず、ジェネレーターは無表情に桐原をジロリと見るや、左掌をフックのように桐原の側面から頭部に向けて突き出した。

 

桐原の目は切り落とされたジェネレーターの右肘へ向いており、体勢は刀を切り上げた直後。

 

そこへ側面という死角から放たれる一撃。

 

今までならば克人の『障壁』が展開されるところだが、今回は違った。

 

克人が手をかざすよりも速く、「タイミング」を図った桐原が仰け反りながら後ろへ一歩下がった。

 

そして、ジェネレーターの左掌が、桐原の眼前を横切った――。

 

確かにジェネレーターの自己加速は速い。まさに人の知覚を超えている。

 

だがその速さは、それ以上遅くなることも速くなることもない、緩急も無い機械的な速さだ。

 

故に、

 

「こう何度も見てりゃあ――」

 

ジェネレーターの攻撃は空を切り、桐原は既に刀を上段に構えている。

 

それでも動揺も何も浮かべない、浮かべることの出来ないジェネレーター。

 

その姿に、桐原は心の奥で小さな哀れみを感じながら、

 

「俺だって見切れるさ!!」

 

構えた刀を振り下ろし、左腕も切り落とした。

 

両腕を失い、後ろへよろけるジェネレーター。

 

だが桐原へ向ける害意は未だ消え失せていない。ジェネレーターにとって命令以外のことを考える思考回路を持っていない。

 

CADも腕と同時に失った今、残された攻撃手段を検索する。

 

足か、頭か、体当たりか。

 

だがジェネレーターが他の攻撃方法を検索し行使する前に。

 

「よくやった、桐原」

 

桐原の「実戦稽古」の成果に満足げに頷いた十文字克人が、十文字家の代名詞『ファランクス』でジェネレーターを上から叩き潰した。

 

 

 

 

 

 

携帯端末に映っていた全てのモニターが途切れたことで、水無瀬呉智は顔を上げた。

 

「所詮『兵器』とは名ばかりの『道具』ならあの程度か。まあ手土産としては上々だったな」

 

言外に「手土産以上の価値は無い」と切って捨てる呉智。

 

ラグナレック本隊に属する者にとって、ジェネレーターというたかが『道具』如きを脅威に思うはずもない。

 

そして、呉智はジェネレーターをさっさと頭の隅に追いやり、思考を切り替える。

 

何せ、ジェネレーターというラグナレック・カンパニー提供の“余興”が終わったのならば、次は“本番”だ。

 

「始めるか」

 

呉智は振り返り、無言のまま佇んでいるアストーへ視線を向け、視線を受けたアストーは懐に手を伸ばす。

 

取り出したのは、ポストカードサイズの鉄製の黒いカードケース。

 

中に入っているたった一枚の絵を保管するための専用ケースだ。

 

「中身は俺には見せるな。まだ死ぬわけにはいかない」

 

念を押しながら呉智はカードケースに手を触れ、魔法を行使する。

 

 

 

そして、全ての準備が整った。

 

 

 

手を離した呉智はアストーに背を向けると、アストーはケースを開いて中の絵に手を添えた。

 

アストーが絵に想子(サイオン)を流し込んだのを感じ取って、呉智も魔法を展開する。

 

「我々からの『お礼参り』だ。――受け取れ、司波達也、司波深雪」

 

呉智が二人の名を呼んだ直後、廃工場で“それ”は起こった。

 

 

 

 

 

 

達也たちがエリカたち三人を連れて廃工場の奥へ戻ってきたとき、既に二体のジェネレーターは地に倒れ伏していた。

 

「司波兄、お前たちの方も終わったか」

 

気がつけば独特の呼び方をされている達也がそちらへ顔を向けると、桐原が工場内にあった鎖で司一を拘束しているところだった。

 

その側には克人もおり、司一を監視している。

 

否、本人としては監視のつもりなのだろうが、達也たちにはその存在感によって相手を威圧しているように見える。

 

尤も、威圧されている相手、司一は俯きながらブツブツと口の中で何事かを呟いているだけだったが。

 

「アレ、先輩たちが?」

 

達也が何かを言う前に、エリカがジェネレーター二体を指差しながら問いかける。

 

「他に誰がいるっていうんだよ?」

 

「いえいえ、あたし達は三人がかりで何とか拮抗状態だったのに、流石先輩だなって思っただけですよ」

 

両腕を切断されたジェネレーターを目敏く見つけたエリカが、口調では何事もないかのように桐原に答えるが、その目には好戦的な色が宿っている。

 

(この戦闘狂は……)

 

それを察した森崎とレオは、心中で同じことを思い呆れていた。

 

桐原もそれを感じ取り、苦笑する。

 

「十文字会頭が援護してくれたからだ。あの化け物相手に俺一人だったらとっくに死んでるだろうよ」

 

「エリカ、雑談はちょっと後にしてくれ。少し“それ”に聞きたいことがある」

 

途中で達也が口を挟んだことで視線が達也に集中し、達也は司一を見ている。

 

達也としては疑問が一つ残っている。

 

アンティナイトの入手経路や、ジェネレーターと呼ばれた敵については国家の情報機関が調査することだ。

 

達也の持つ疑問とは、四月の初めに起きた自宅端末のハッキング未遂の件。

 

達也の持つ感想としては、ブランシュが未知の魔法技術、若しくは魔法師を抱えているとは考え難い。

 

あれは本当にブランシュの仕業だったのか、それを確かめる必要がある。

 

そう考え、達也が口を開く――その前に、くぐもった笑い声が七人の耳に届いた。

 

「ククク、ハハハハハ……!!」

 

顔を俯かせたまま不気味な笑いを零す司一。

 

そして、司一は顔を上げて司波達也を見るなり、口元を大きく歪ませた。

 

「終わりだ、私だけじゃない、お前も終わりだ……!」

 

「どういうことだ?」

 

冷徹な声で問い返す達也に、司一は狂った笑みを益々深くする。

 

「彼らがお前に興味を持った、だから終わりだ! お前も無様に死ぬんだ、ハハハ――」

 

司一の狂笑は、すぐに止まった。

 

 

 

そして、死の魔法が襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

突然だった。

 

司波達也を見ていた司一の視界の中心に、絵が入り込んできた。

 

それは絵が二人の間に投げ込まれたというわけではなく、司一の視界に投影されたものだ。

 

その証拠に、絵の立体感は実物を見ているのと全く同じだが、まるで3D映像のように触れることは出来ない。

 

この絵は魔法によるもの、ということは司一にも即座にわかった。

 

そして、それだけしかわからないまま、“それ”は起きた。

 

 

 

描かれている絵は、舞踏会の一場面のようだ。

 

男女がそれぞれ正装して優雅に踊っている光景。

 

それだけなら普通の絵だろうが、ただ一点のみの変化点が、この絵を異様なものに変えている。

 

描かれているのは、全員が骸骨だった。

 

タキシードを着込んだ骸骨達がドレスを纏った骸骨達と踊っている。

 

骸骨が演奏団を構成し、骸骨が指揮を執って骸骨達が楽器を演奏している。

 

そして骸骨達が一斉に動き出した。

 

骸骨達が奏でる演奏に合わせて踊る骸骨達。

 

気がつけば視界全部が絵で埋まっている。

 

まるで絵の世界に迷い込んだかのように、それ以外の光景を見ることが出来ない。

 

踊りながら骸骨達が近づいてくる。

 

骸骨達の数は際限なく増え続け、見渡す限り骸骨だらけだ。

 

目を背けることも出来ない。もし背けることが出来たとしても、背けた先も骸骨だろう。

 

 

 

やがて、踊り狂った骸骨達が舞台も見えぬ程に視界全てを埋め尽くし。

 

 

 

「ヒギャアアアァァァアアーーー!!」

 

司一の精神をも埋め尽くした。

 

 

 

 

 

 

それは、達也たちに取っても突然だった。

 

司一が唐突に狂笑を止め、焦点が合っていない目で虚空を見つめ始める。

 

桐原、エリカ、レオ、森崎、深雪の五人は何事かと訝しむ中、達也と克人は“それ”に気付き、そして二人が行動を起こす前に、

 

「ヒギャアアアァァァアアーーー!!」

 

司一は苦悶に満ちた絶叫を残して、目を見開いたまま倒れ込んだ。

 

「な、何だ……?」

 

一番近くにいた桐原も動けない中、達也だけが即座に駆け寄ると司一の首筋に手を当てて、やがてゆっくりと首を横に振った。

 

「死んでいます」

 

達也の報告に誰も、エリカや克人すらも次の言葉を発せない。

 

ただ得体の知れない『死』に、不気味なものを見る目で、表情を苦悶に歪ませたまま硬直している司一の顔を見つめるのみ。

 

その中で、克人は険しい顔で司一の身体を見つめ。

 

達也は『精霊の眼(エレメンタルサイト)』で何が起きたのかを把握しようと意識をイデアに向け。

 

深雪はそんな達也に不安と信頼の混ざった目を向けていた。

 

 

 

 

 

 

「……ブランシュのメンバー全員の死亡を確認」

 

精霊魔法で成果を確認した呉智は淡々と告げると、ゆっくりとアストーへと振り返る。

 

アストーはカードケースを閉じて、ちょうど懐にしまっているところだった。

 

「『お礼参り』は完了だ、撤退する」

 

返事を待たずに廃工場とは反対側へと歩き出す呉智。

 

アストーもその後に続く。

 

 

 

二人が立ち去った後、ラグナレック・カンパニーの関与を示すモノは何も残されなかった。

 

 

 




ラグナレックが何をしたのかについては、オリジナル魔法の説明と含めて次回に。
簡単に言うと非常に危険な火遊びです。

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