魔法科高校の幻想紡義 -旧-   作:空之風

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予想以上に演出魔法の反応が多くてビックリしています。
今回はコメディ色、キャラ崩壊が含まれております。
ちなみに「あいつ」が出てくるのは次話になる予定です。



第19話 エンジニア

午前中の授業前後の休み時間。

 

九校戦の選手に内定した雅季は、同じく選手として抜擢された一年A組の面々と雑談に興じていた。

 

「それでは、結代君はピラーズ・ブレイクの単体種目ですか?」

 

「今のところはね。司波さんは?」

 

「私はピラーズ・ブレイクとミラージ・バットになります。ピラーズ・ブレイクには雫も出場するみたいですよ」

 

「まだ正式には決まっていないけど、私はピラーズ・ブレイクとスピード・シューティングの二種目になる予定」

 

「へぇ、北山さんも二種目か。そういや駿もスピード・シューティングだったよな?」

 

「男女別だけどな。僕はスピード・シューティングとモノリス・コードでほぼ決まりらしい」

 

「スピード・シューティングは森崎君の得意分野ですもんね。優勝も狙えそうです」

 

「ほのか、油断は出来ない」

 

「北山の言う通り、三高には『カーディナル・ジョージ』がいるらしいから、優勝争いは三高と、になりそうだ」

 

「誰それ?」

 

「『カーディナル・ジョージ』こと吉祥寺真紅郎(きちじょうじしんくろう)。基本コードの一つを見つけた英才、と言ってもわかるか?」

 

「全然」

 

「だろうな。『クリムゾン・プリンス』も知らないだろ?」

 

「知らない。あ、もしかして『スカーレット・デビル』の親戚か何か?」

 

「むしろそっちが誰だよ!?」

 

司波深雪の席に集まって雑談しているのは結代雅季、森崎駿、光井ほのか、北山雫と深雪を入れた五人だ。

 

四月の頃と比べて森崎は深雪、ほのか、雫の三人とこうやって談笑できる程度には親しくなっている。

 

まあ、主に雅季に振り回されている姿が哀れみと同時に親しみを持たれた結果だと知れば、森崎がどう思うか不明だが。

 

ちなみに総合成績で上位を占め、実技に至っては五位以上を独占している五人である。

 

その馴染みのある顔触れが揃って九校戦の選手として選ばれており、この五人は他のクラスメイトから密かにA組の中枢メンバーと呼ばれている。

 

「モノリス・コードには間違いなくカーディナル・ジョージとプリンスも出場するだろうな」

 

「厳しい戦いになりそうですね。結代君も出場できれば良かったのですが……」

 

「いや司波さん、雅季がモノリス・コードに出るとトンデモないことになります。むしろ出なくて安心です」

 

相変わらず何故か深雪にだけは敬語を使う森崎が、強い口調で深雪に言う。

 

深雪、ほのか、雫の三人が怪訝そうに森崎を見る中、森崎はピッと雅季を指差して、

 

「コイツの得意技はCADをぶん投げることですから」

 

キッパリと断言した。

 

「得意技って程でも無いさ。せいぜい中ワザぐらいかな」

 

「だからそもそも投げるな!!」

 

否定するどころか平然と認める雅季に森崎がもはや恒例となったツッコミを入れる中、「ほ、本当に投げるのですね……」と深雪は小声で呟き、引き攣った笑みを浮かべる。

 

「そ、それにしても、新人戦の選手も大分決まってきたね?」

 

ほのかの唐突な話題変換は混沌(カオス)になりつつあった場を修正する為のものであり、

 

「でも、エンジニアの方は難航しているって話」

 

その意図を察した雫が真っ先に乗ってきた。

 

この辺は付き合いの長い二人ならでは……というわけでもなく、常識的な感性の持ち主なら誰でもわかる類のものだった。

 

「七草先輩もその点を懸念していましたし、どうやらエンジニア不足は思った以上に深刻のようですね」

 

「僕もCADは点検程度しか出来ないから、本格的な調整となると専門家がいないと厳しいな。せいぜい自動調整(オートアジャスタ)の操作ぐらいか」

 

自らに直接関係することであるために、エンジニア不足という現実に四人は表情を曇らせる。

 

CADの調整が合っていなかったが故に自分の実力を出し切れずに負けたとなれば、その悔しさは全力を出して負けた時とは比較にならないだろう。

 

そこへ、

 

「そういや、達也も法機の調整ってできるの? 前に魔工技師志望って聞いたことあるけど」

 

エンジニアと聞いてふとその事を思い出した雅季が何気なく尋ね、四人の視線が雅季に集まる。

 

ちなみに雅季と達也は互いに名前で呼ぶぐらいには親しくなっている。

 

「出来ますよ。お兄様はCADの調整()大の得意としておりますので」

 

「そう言えば、風紀委員会の備品のCADも司波が調整していたな」

 

深雪の答えを聞いて、森崎も日常風景と化していた光景を思い出す。

 

風紀委員会の巡回、に加えて書類とか調整とか片付けとかとにかく雑務全般を、委員長の渡辺摩利(わたなべまり)に頼まれて、というか命じられて一人でこなしている司波達也の姿を。

 

……同じ新人なのに巡回と自分の実務以外は特に何かやった覚えはない森崎の中に、何とも言えない罪悪感が湧き上がる。

 

まあ、取り締まりも事務処理も達也は要領よく完璧にこなしてしまうが故に、摩利もつい達也に頼んでしまうのだが。

 

(すまない司波、僕は非常識(雅季)の相手で手一杯なんだ……)

 

心の中で謝りながら、さり気なく雅季を言い訳に使う森崎。

 

でも手伝うとは心の中でも言わない。誰だって面倒はゴメンなのだ。

 

流石に『心を読む程度の能力』は持ち合わせていない雅季はそんな森崎の心中を知る由もなく、深雪に話しかける。

 

「司波さん、実際に達也のエンジニアとしての実力って凄い方?」

 

「勿論です! エンジニアとしてお兄様に敵う者などいません!」

 

短くハッキリと、無類の信頼と自信をもって頷く深雪。

 

尤も、この時はほのかも雫も、深雪にはいつものフィルター(例のアレ)が掛かっているからだと思っていたが。

 

「じゃあ達也にもエンジニアで出て貰えばいいんじゃない?」

 

盲点だったのか、雅季の提案に深雪、ほのか、雫、そしてこれまでの人生を思い返すことで罪悪感から解放された森崎の四人はパチパチと瞬きを繰り返した。

 

 

 

 

 

 

(どうしてこうなった……?)

 

剣呑と言っても差し支えないピリピリとした緊張感が漂う九校戦準備会合。

 

その空気を醸し出しているのは、九校戦の選手に抜擢された、一部の例外を除いた選手たち。

 

九校戦は学校にとっても生徒にとっても重要なステータスとなる大会。緊張感があるのは当然……なのだが、今回の緊張感は些か趣が異なっている。

 

その原因となっている要因、選抜内定者が座るオブサーバー席にいる司波達也は憂鬱そうに内心で呟き、そっと溜め息を吐いた。

 

 

 

事の発端は昼休み。

 

何故かそわそわしている深雪と共に生徒会室へ足を踏み入れると、

 

「やあ、達也くん」

 

「待っていたわ、達也くん」

 

獲物を狙う狩人が二名、部屋の中にいた。

 

「あれが罠に嵌った瞬間の獲物の心境だったのだろう」と達也は後に語る。

 

そして深雪の裏切り(?)もあり、あれよあれよという間に達也は九校戦のエンジニア候補として推薦される立場に立たされた。

 

それが決まった時、達也は既視感(デジャブ)を感じたが即座に思い至る。

 

ああそうか、風紀委員に選ばれた時と同じか、と……。

 

ちなみに、達也がエンジニアに推薦された経緯はあの後に深雪から聞いている。

 

午前中の雑談で九校戦のエンジニア不足に話が及んだ時、まず雅季が「じゃあ達也は?」と言い出し、深雪とほのかが真っ先に賛成、雫と森崎も概ね賛同した。

 

そして、

 

「でも一年のエンジニアは過去に例が無い」

 

「それを言うなら二科生の風紀委員も、だろ」

 

「達也さんですからね。もしかしたら、も有り得るかも」

 

「お兄様が協力なさって下されば百人力です」

 

「じゃあ、とりあえず先輩に提案してみるか」

 

という流れで、後は雅季のその場で学校の端末から七草真由美の学校端末のアドレスを調べてメールを送るという無駄に高い行動力が事を決した。

 

深雪がそわそわしていたのはそのせいだ。

 

何せ返信には『貴重な情報をありがとうね!!』とビックリマークが二つ付いていたというのだから、昼休みの事態は予想できていたのだろう。

 

 

 

過半数の人数が紛れ込んだ異物を見る眼で達也を見ている中、それでも意外なことに上級生の間では好意的な眼で見ている者も少なくはない。

 

反対に敵意すら感じさせる程の視線を送ってくるのは一年、特に男子の選手たちだ。女子はそこまで嫌悪はしていなさそうだが、達也の参加には消極的のように見える。

 

一年の選手たちが座っている中に雅季と森崎、ほのかと雫の姿もある。一年の中で賛成なのはこの四人と深雪だけだろう。ちなみに深雪は生徒会室で留守番をしている。

 

「要するに」

 

達也の参加を巡る上級生たちの論争ですらない不毛な言い争いに終止符を打ったのは部活連会頭、十文字克人(じゅうもんじかつと)だ。

 

「司波の技能がどの程度のものか分からない点が問題になっていると理解したが、もしそうであるならば実際に確かめてみるのが一番だろう」

 

「もっともな意見だが、具体的にはどうする?」

 

「今から実際に調整をやらせてみればいい。何なら俺が実験台になるが」

 

摩利の問いに克人は答える。

 

技量が未熟な者が調整したCADを使用することはかなりのリスクを負う。

 

その技量が不明瞭な達也が調整したCADを使用することに躊躇するのは、魔法師ならば当然と言える警戒だ。

 

「はい、立候補します」

 

故に、いきなり手を挙げて席を立つと同時に立候補を宣言した一年生徒に、克人を含む全員の視線が集中した。

 

尤も、立候補した雅季の隣に座っている森崎だけは「今度は何をやらかすつもりだ」と頭を抱えていたが。

 

「お、おい結代!? 止めとけって!」

 

後方にいる一年の男子選手が小声で雅季に声をかける。

 

とはいえ、場が静まり返った瞬間に声をかけてしまった為、彼の“善意”は全員の耳に届いてしまっていたが。

 

「ん、何で?」

 

「な、何でって……」

 

流石にこの場で二科生(ウィード)だからとは言えず口ごもる。

 

「えっと、結代くん。理由を聞いてもいい?」

 

代わりに尋ねたのは真由美だ。

 

本来なら立候補の理由など聞くのは野暮なのだろう。

 

だが雅季たちからメールを貰ったのが切っ掛けとはいえ自分が達也を推薦した手前、自ら実験台に志願するつもりだった真由美からすれば、雅季も同じ気持ちで立候補したのかもしれないと思わずにはいられなかった。

 

もしそうならその役目は自分が、と思っていた真由美に、雅季は、

 

「いえ、以前に教育用CADをケチョンケチョンに貶していた司波さんが大絶賛しているので、どんなもんかなー、と」

 

あっけらかんと純粋な興味本位であることを告げた。

 

問いかけた真由美をはじめ誰もが目を点にする中、雅季の隣、森崎とは反対側の席に座っているほのかと雫が少しだけ吹き出す。

 

二人はあの場、以前の昼休みの実習室に居合わせていたので、その時のことを思い出したのだろう。

 

見れば達也も少しだけ笑っている。

 

そして、

 

「そいつは面白そうだな」

 

二年の選手の席に座っている彼、桐原武明(きりはらたけあき)もまた笑っていた。

 

「その役目、俺にやらせて下さい。悪いな結代、先輩特権だ」

 

桐原は席から立ち上がると、前半は克人に、後半は雅季に向かって言った。

 

四月の顛末を中途半端に知る者たちが心底意外といった目で桐原を見る中、

 

「いいだろう。桐原に任せる」

 

克人の一声で実験台は桐原に決まり、雅季は残念そうに席に座る。

 

ほのかと雫が雅季に小声で何かを話しかけている中、その光景を見つめる達也の心中には会議当初の頃にあった憂鬱感は既に無くなっていた。

 

 

 

 

 

 

そして、実際に達也が完全マニュアル調整という独自の方法で調整を行ったCADを、桐原は何の問題なく自前のCADと“全く同じように”作動させた。

 

元々のスペックが違うにも関わらず、である。

 

「私は司波くんのチーム入りを強く支持します!」

 

この場にいる誰よりも達也の行った調整の凄さを理解しているあずさが、再び消極的な反対を見せる面々を抑えて支持を表明した。

 

とはいえ、デバイス以外については元々弁が立つ人柄ではなく、気弱な性格も相まってあずさの言論は次第に力を失っていく。

 

このまま押されてしまうかと思われたその時、あずさに救いの手を差し伸べる者がいた。

 

「中条先輩」

 

普段の口調とは違った優しい声で、雅季があずさに話しかけた。

 

「達也の技量はそんなに高かったですか?」

 

「そ、それは勿論です!」

 

「それって、少し悪い喩えですけど中条先輩よりも、ですか?」

 

「はい! 少なくとも調整技能は私よりも司波くんの方が間違いなく上です」

 

「でも、さっき先輩方が言ったように達也が効率を上げずに安全マージンを大きく取ったのって、どうして何ですか?」

 

「元々、桐原くんのデバイスと競技用デバイスとではハードウェアのスペックが全く違います。本来、機種変更などでCADを変更する際、必ずソフトウェアの微調整を含めた再調整が必要になります。特に今回のように高性能なハードウェアに合ったソフトウェアをスペックの落ちたデバイスにそのままコピーしても、同じ性能は得られないどころか最悪の場合、誤作動だって引き起こしかねません」

 

あずさの説明に、ただコピーするだけと単純に考えていた真由美や反対論を唱えた者たちが驚きに目を見開く。

 

「だから達也は安全マージンを大きく取ったと?」

 

雅季の問いにあずさは頷く。

 

「その通りです。司波くんはかなりの安全マージンを残してリスクを抑えた上で、更に桐原くんにスペック差を全く感じさせませんでした。少なくとも私が調整をやっても桐原くんは違和感を覚えたと思います」

 

服部刑部と二年首席を争う中条あずさがどうしてあれほど強く支持を表明したのか、その理由を誰もがようやく理解してざわめきが生まれた。

 

その中で真由美や摩利、克人といった面々は、実際に調整を行った達也、その調整を理解したあずさの他に、もう一人の評価を上方修正していた。

 

(あれではどちらが先輩かわからないな)

 

そう思う摩利の視線の先には雅季がいる。

 

気弱なあずさに、周囲の注目が集まったあの場で、あそこまで話を引き出させるとは。

 

それに何より――。

 

「なあ真由美、あずさと結代は話したことあるのか?」

 

「私の知る限り無いわね」

 

そう、実は雅季とあずさは一回も会話を交わした事は無い。むしろ初対面に等しい間柄だ。

 

「何ていうか、結代くんって物怖じせず話しかけてくる割に、相手との距離感の取り方が上手いのよね」

 

「そうだな。あれを見る限り、子供の話し相手とか得意そうだ」

 

「プッ――。摩利、それだとあーちゃんに失礼じゃない」

 

摩利の物言いに、真由美は小さく笑いを零す。

 

場の空気も、達也のチーム入りに流れている。

 

後は話をまとめるだけ――だったのだが。

 

彼女たちは失念していた。

 

彼は、結代雅季は、森崎駿から非常識の塊とまで謳われる存在であるということを。

 

そして、雅季は事前に深雪などから聞いていた。

 

中条あずさはデバイスマニアであることを。

 

「じゃあ達也の実力をデバイスで喩えるなら?」

 

「シルバー・ホーンです!」

 

雅季のよくわからない質問に即答するあずさ。

 

周囲から「は?」という声が漏れ、目が点になる。

 

元々、中条あずさはデバイス以外についてはあまり弁の立つ人間ではない。

 

そう、デバイス以外ならば――。

 

「オートアジャスタに全く頼らない完全マニュアル操作でハードウェアの全容量を一切の無駄なくフル活用する、まさに最小の魔法力で最大効率を可能にするシルバー・ホーン! いえ、完全マニュアル操作ならどんな調整も自由自在、それはつまり夢の汎用型シルバー・ホーンです!! 司波くんがそんな夢のデバイスなら私なんてそこらに転がっている埃を被った旧型の教育用CADにも劣ります! 否、同じ舞台に立とうと思っていることすらおこがましいです、むしろ小石で十分です!!」

 

自分を乏しめているにも関わらず胸を張って自信満々に答えるあずさ。

 

会議室のざわめきはとうに収まり、あずさと雅季を除いた誰も(克人含む)がポカンとしている。

 

「そこまで凄いんですか?」

 

「凄いなんてものじゃありません! クレイジーです!!」

 

どうやら雅季はあずさの中にあるデバイス魂まで引き出したようだ。

 

無論、故意だろう。

 

「あの、あーちゃん?」

 

「いえ私は小石です!!」

 

「……いや、あーちゃん、ちょっと落ち着いて」

 

暴走するあずさに、責任感で頑張る生徒会長。

 

「と、中条先輩は仰っておりますが?」

 

「へ? あ、うん、そ、そうだな……司波くんも参加でいいんじゃない、かな……?」

 

雅季から突然話を振られて、唖然としたまま賛成に回る反対派の先輩。

 

「……森崎、結代はいつもああなのか?」

 

「……大体はそうです」

 

呆れた声で問いかけてくる摩利に、何故か疲れた声で答える森崎。

 

克人は腕を組んで黙したまま、生徒会長に任せると言わんばかりに事の成り行きを見守っている。

 

そして、

 

「……で、俺たちはどうすればいいんだ、コレ?」

 

「自分に聞かれましても……」

 

桐原と達也はカオスと化した状況にどうしていいのかわからず、途方に暮れていた。

 

 

 




あーちゃんを暴走させてみたかった、以上(笑)
原作では会議には上級生しか出席していないみたいでしたが、本作では一年の選手内定者も出席しています。
中条あずさの悲劇の原因はそれです(笑)

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