魔法科高校の幻想紡義 -旧-   作:空之風

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まさかの二日連続投稿!
頑張りました。

その頑張っちゃった作者から一言。
「三日目は無いと思え」


第38話 選択と決断

一高本部までやって来た雅季、当たり前だが布でノックなど出来ない。

 

なので、一声掛けてから天幕を潜る。

 

「失礼します、お待たせしました」

 

中に入った雅季の視界に入ってきたのは真由美、摩利、克人、鈴音、服部、あずさの六人。

 

そこまでは縁を感じてわかっていたが、加えてもう一人の人物が先客として六人の前に立っていた。

 

「あれ、達也も呼ばれたのか?」

 

「ああ。雅季もか」

 

達也の言葉は問い掛けではなく確認のようなものだった。

 

このタイミングでここに来るということは、余程の偶然でなければ呼ばれたと考える方が納得できる。

 

「遅かったな、結代」

 

「どこ行っていたんだ?」

 

服部、続けて摩利が問い掛ける。

 

「屋上にいました」

 

「何でまたそんな所に……」

 

鈴音の呆れたような声は、幹部だけでなく達也を含めた七人の等しい感想だった。

 

またホテルの屋上と勘違いしているところも、七人とも同様だった。

 

「それで、用件は何でしょう?」

 

あまり深入りされたくない雅季は早速呼ばれた理由を尋ねる。

 

案の定、話題は達也と雅季を呼び出した用件に切り替わった。

 

「今回、達也君と結代君を呼び出した理由は、他でもない新人戦のことです。いえ――」

 

真由美は改めて達也と雅季、二人の目を見つめ、

 

「正確には新人戦モノリス・コードのことです」

 

真剣な目で、そう口にした。

 

「ミラージ・バットの時点で一高の新人戦優勝は確定しました。達也君も結代君も、本当にご苦労様でした」

 

「いえ、選手達が頑張ってくれたので」

 

「俺も優勝までは行かなかったですし」

 

「ううん。そんなことないわ」

 

真由美は首を横に振り、まずは達也へ視線を合わせた。

 

「達也君の功績は、ここにいる誰もが認めているわ。担当競技で事実上の無敗。あそこまで三高に大差を付けられていた点差がここまで盛り返せたのは、達也君のおかげよ」

 

真由美の手放しの称賛に他の幹部も頷く。服部すら小さく頷いていた。

 

達也としてはどう反応していいか分からず、ただ軽く頭を下げるぐらいしか出来なかった。

 

そして真由美は、今度は雅季の方へ向き直る。

 

「結代君も、一条選手を相手にあそこまで接戦を繰り広げられるなんて、正直思っても見なかった。本当に全試合が予想以上で、素晴らしい試合だったわ」

 

「ありがとうございます」

 

雅季も達也に倣って頭を下げる。

 

「新人戦でみんなが頑張ってくれたから、ここまで追い付くことが出来た。逆転優勝の射程圏内までたどり着くことが出来た……」

 

真由美は目を瞑り、感慨深く言葉を紡いだ。

 

真由美の後を摩利が続ける。

 

「三高との今のポイント差は知っているな?」

 

摩利の問いに達也と雅季は頷く。

 

「十九点差。新人戦モノリス・コードで優勝すれば、ほんの一点差で逆転できる。総合優勝に大きく近づける」

 

だが、と摩利は表情を曇らせる。

 

「ここで試合を棄権してしまえば、点差は広がることはあっても縮まることはない。仮に控えの選手を揃えたとしても試合に勝てなければ同じだ。各校のエース級を相手にして最低でも上位に食い込める――いや、優勝を狙える人材でなくてはならない」

 

ここまで言えばわかるだろう、と摩利は視線で二人に語りかける。

 

「その条件に合うのが、俺と達也、ということですか」

 

ほとんどわかっていたことだが、確認の意味を込めて雅季が言葉にする。

 

それに対する幹部陣の沈黙が、肯定である証だった。

 

続いて達也が口を開く。

 

「二つほど、質問いいでしょうか?」

 

「何かしら?」

 

「予選の残り二試合は、明日に延期された形になっているんですね?」

 

「ええ」

 

「ですが、怪我でプレーが続行不能の場合であっても、選手の交代は認められていないはずですが?」

 

「それも、老師が口添えして頂けたおかげで特例が認められることになりました」

 

「九島閣下が?」

 

意外な名前に達也は思わず聞き返す。

 

実際、引退してから滅多に表舞台に立つことが無くなった九島が、表の行事に口を挟んでくることは珍しいことだ。

 

ただの情か、もしくは九島なりの思惑があるのか。

 

どちらにしろ、一高としては願ったり叶ったりで助けられた形だ。

 

ちなみに雅季は無頭竜の会話で九島の干渉を知っていたので、少しだけ驚いたフリをするに留まった。

 

達也としては九島の思惑が気になったが、今は気にしている場合ではないとすぐに思考の隅に追いやり、もう一つの質問を投げかけた。

 

「モノリス・コードは魔法競技です。雅季が選ばれたのは充分に納得できますが、自分は魔法の実技は苦手であり、更には選手でもありません。……何故、自分も代役として選ばれているのでしょうか?」

 

代役抜擢にやや拒否的ながらも、それ以上の戸惑いを含んだ口調が、達也の内心を物語っている。

 

本当なら拒否したいが、現状では中々そういうわけにもいかない。

 

達也の内心はまさにそんな心境であった。

 

それを察した真由美が、精一杯の誠意を込めて説得にかかろうとして、

 

「お前が代役に相応しいと思ったからだ、司波」

 

それに先んじて、克人が口を開いた。

 

「相手は一条将輝と吉祥寺真紅郎だ。結代ならば吉祥寺真紅郎にも、一条将輝にも対抗できるだろう」

 

克人は一旦言葉を区切り、

 

「――だが、勝つまではいかない。それが我々の判断だ」

 

ハッキリと言い放った。

 

真由美やあずさが慌てて雅季に目を向けるが、雅季は特に気分を害した様子も無かったのでホッとする。

 

真由美とあずさの配慮を知ってか知らずか、克人は続ける。

 

「お前の実戦での腕前はよく知っているつもりだ。そして、お前の智謀には一高の全員が助けられている。司波と結代ならば優勝も狙える、そう判断した。だからお前を推挙した」

 

「ですが――」

 

「司波、お前は弱者ではない」

 

何かを言おうとした達也を遮って、克人は強く断言した。

 

「言ったはずだ。“他の選手”より司波達也の方が優勝を狙えると判断した、と」

 

「それは……」

 

達也は今度こそ言葉を失った。

 

他の選手より、即ち九校戦の選手として選ばれた一科生(ブルーム)の生徒より、二科性(ウィード)である達也を選んだのだと克人が明言したのだ。

 

「お前の選出は我々が協議し、リーダーである七草が決断した事だ。一度決定した以上、リーダーを補佐する我々以外に異を唱えることは許されない。それが誰であっても、だ」

 

言外に、全ての責任は負うと克人は語り、誰もそれに異論を挟まない。

 

「既にお前は代表チームの一員だ。選手であるとかスタッフであるとかに関わり無く、お前は一年の二百人の中から選ばれた代表の一人だ」

 

そして、今まで以上に強い眼光で達也を見据え、克人は重く言い放った。

 

「選出された以上、それを受諾した以上、務めを果たせ。お前達なら果たせるはずだ」

 

ここに至って、達也はようやく理解した。

 

幹部達はもう覚悟を決めていたのだ。

 

元々、達也が選ばれた時点で一科生には既に少なくない衝撃がもたらされている。

 

そこへ更に追い討ちをかけてでも、一科生のプライドを引き裂くことになっても、一高の優勝を狙うと。

 

――お前は弱者ではない。

 

それは、“制度上の弱者”であることを逃げ道にするなということだ。

 

 

 

達也は一度、目を瞑った。

 

深雪のガーディアンである達也が目立つのは、四葉が許さないだろう。

 

それに達也自身も、『司波達也』が表舞台に出るのは時期尚早だと考えている。

 

その認識は今も変わっていない。

 

だが、このモノリス・コードに一高の総合優勝がかかっているのだ。

 

九校戦の初日に聞いたラグナレックの件について、あれから風間少佐達からの続報は未だない。

 

達也も深雪も、来年もこの九校戦に出場できるかどうか、否、一高にいられるかも定かではない。

 

ならば、せめて深雪に優勝の喜びを経験させてやりたい。

 

それが達也の率直な思いだ。

 

それに達也自身も、ここまで言われて引き下がるつもりもない。

 

克人は達也と雅季ならば優勝を狙えると言った。

 

だが達也は、ある理由から一条将輝に勝てるかどうか判断できないでいる。

 

それでも、真由美達は達也を信じて大任を任せようとしている。

 

その信頼を、裏切るような真似はしたくなかった。

 

 

 

達也はゆっくりと目を開けて、克人と真由美に視線を向けた。

 

「わかりました。務めを果たします」

 

達也の言葉に、克人だけでなく真由美も、摩利達も頷いた。

 

 

 

達也と克人のやり取りを聞いていた雅季は、一点だけ気に掛かったことがあった。

 

どうやら幹部達は一つ、大きな勘違いをしているらしい。

 

それを察した雅季は、達也の後に続けて口を開いた。

 

「すいません。俺からも二つ、伺ってもいいですか?」

 

突然の雅季の質問に、一瞬だけ真由美が目を白黒させたが、すぐに「何でしょう?」と聞いてくる。

 

「まず一つ目なんですが、もう一人の選手って誰になります?」

 

「お前達二人で決めて構わない」

 

答えたのは真由美ではなく克人だ。

 

隣では達也が「は?」と呟いたように一瞬理解が追いつかなかったようだが、雅季は素直にそれを受け入れる。

 

「つまり、決まっていないんですね」

 

「説得には我々も立ち会う」

 

……それは説得という名目の命令でしょう、と何人かが思ったが、誰も口には出さなかった。

 

かくして残り一人の選手に選ばれた相手の拒否権は無くなった。

 

「それともう一つ。全然構わないので、率直に答えて貰いたいのですが――」

 

そう前置きを置いて、雅季は質問した。

 

「今回のモノリス・コードで、俺と達也、どっちを主軸として考えていますか?」

 

真由美だけでなく克人も達也も、この場にいる誰一人、雅季の質問の意図がよくわからなかった。

 

「えっと、どっちが主軸、というのはどういう意味かな?」

 

「んー、リーダーに置き換えても通じるかな。つまり、どっちが中心人物になるかって意味です」

 

何故そんな質問を、と考えつつ、真由美は摩利と克人に視線を配る。

 

二人とも頷いた為、真由美は遠慮がちに答えた。

 

「結代君には申し訳ないけど、達也君が適任だと思っているわ」

 

「達也君の実戦での腕前は私達がよく知っている。作戦立案も判断能力も一流だ。結代には悪いが、リーダーを任せるならば達也君だと私も考える」

 

真由美をフォローするように、すかさず摩利も自らの見解を述べる。

 

一方の雅季は、先程と同じく特に気分を害したような様子は全く見せていない。

 

「なるほど、わかりました」

 

雅季は納得したように頷くと、達也へと向き直った。

 

「達也、選手については“俺も含めて”お前が決めてくれ」

 

「いいのか?」

 

雅季からの突然の提案に、達也は驚きと困惑がブレンドした様子で聞き返し。

 

返事を待つ前に、“それ”に気付いた。

 

「“俺も含めて”……?」

 

「ああ、誰を選ぶかは達也に任せる。――俺を外して、別の選手に変えるっていう選択肢もありだ」

 

「えっ!?」

 

達也だけでなく真由美も、この場にいる全員が驚いた。

 

「おい結代、お前何を言って……!?」

 

本当に思わずといった様子で服部が声を荒げかけ、

 

「結代、自信が無いのか?」

 

摩利が挑発するような口調で雅季に問い掛ける。

 

克人は黙したまま、ただ雅季を見据えている。

 

「ひょっとして、さっきの質問で……」

 

「いや、違いますって」

 

あずさの言葉を雅季が苦笑しながら遮る。

 

「優勝を狙っているのは俺も同じですけど……たぶん皆さん、一つ思い違いしていますから」

 

「思い違い、ですか?」

 

「はい」

 

鈴音が怪訝そうに聞くと、雅季は頷く。

 

そして、達也は雅季が何を懸念しているのか、“当事者”であるが故にすぐにわかった。

 

「雅季。お前、気付いていたのか?」

 

「ああ。お前と組むって聞いて、ちょっと考えたら気付いた」

 

達也と雅季の会話を聞いて、真由美達は益々困惑した。

 

「何か、問題でもあるの?」

 

恐る恐るという感じで尋ねた真由美に、雅季は敢えて達也に向かって答えた。

 

「達也さ、俺の試合、いや俺の()()って見たこと無いだろ」

 

「……ああ。練習も試合も、見る機会が無かったからな」

 

達也の返答に、真由美達は一瞬虚をつかれたような、そしてすぐさま愕然とした顔を浮かべた。

 

「……そういうことですか、迂闊でした」 

 

「参ったな……確かに思い違いだ。てっきり達也君もピラーズ・ブレイクを見ていたものと勘違いしていた」

 

鈴音も摩利も、苦虫を噛み締めたような苦い声をあげた。

 

九校戦の練習では、雅季はサマーフェスの方に出演していたため参加しておらず。

 

ピラーズ・ブレイクでは、雅季の試合中、達也は女子三人のエンジニアとして女子の試合会場にいた。

 

つまり、達也は雅季の魔法を何一つ知らない状況なのだ。

 

達也が将輝に勝てるか判断できなかったのも、メンバーとなる雅季の実力が不明瞭だったためだ。

 

だが真由美達は、雅季の試合があまりに印象的だったために、そこを勘違いしてしまっていたのだ。

 

「試合は明日なのに、魔法もクセも知らない状態から作戦を立てるっていうのはかなり難しいですから」

 

「それならいっそ、達也君が実力を把握している二人にした方がいい。そういうことね……」

 

思いも寄らないところで壁があり、真由美は頭を抱えた。

 

「ですが、一条選手に攻撃を届かせる結代の魔法力はあまりにも惜しい。優勝を狙うなら入れたいところですが……」

 

「その気持ちはよくわかる。だがモノリス・コードは団体戦だ。最低限、仲間の魔法を把握しておく必要がある。でなければ最悪、連携が取れずに自滅するぞ」

 

服部も摩利のやり取りも、両者とも口惜しそうだ。

 

「……服部副会長」

 

だが今の会話の中に、達也の中で気になる点が含まれていた。

 

「雅季の魔法は、一条選手の干渉力を上回ったのですか?」

 

「ああ。ピラーズ・ブレイクでの試合で、結代は一条選手の氷柱を一本にするまで追い詰めた。それまで、誰も一条選手の氷柱を傷つけられなかった」

 

服部の説明に、達也は「成る程」と頷いた。

 

それならば雅季を惜しむ理由に納得がいく。事実、達也もそう思ったのだから。

 

(だが……)

 

残りのメンバーと言われて真っ先に思い浮かんだのは、レオと幹比古の二人だ。

 

あの二人ならば達也もよく知っているし、実力も申し分ない。

 

とはいえ、それで将輝と吉祥寺に必勝を期せるかと問われれば、首を縦に振ることは出来ない。

 

だが雅季の実力を知らない現状では、必勝を期すどころか連携さえ取れるかどうか……。

 

思案に暮れる達也は、自然と無言になる。

 

いつの間にか全員の視線も達也に集中していた。

 

 

 

全ての選択は、達也次第――。

 

 

 

そして――

 

 

 

「十文字会頭」

 

真由美と同様に、達也もまた決断を下した。

 

「何だ?」

 

「選手は、チームメンバー以外から選んでも?」

 

「ちょっと、それは……」

 

「構わん。例外に例外を積み重ねているのだ、今さら一つや二つ増えても変わらん」

 

「十文字君……」

 

真由美は軽い呆れを含んだ視線を克人に送ったが、克人は全く動じなかった。

 

「わかりました」

 

達也はひと呼吸置いて、全員に選手の名を告げた。

 

 

 

 

 

 

裾野の軍用病院。

 

その一室に入院している森崎は、ただ自分の手のひらを見つめていた。

 

他の二人は目を覚ましたことで問診と検査を受けている。

 

二人より早く目を覚ました森崎は既にそれを済ませていたため、病室には彼一人しかいない。

 

(……やっぱり、使()()()よな)

 

心の中で自問自答をする。

 

天井が崩落してきたあの時、魔法は発動しなかった。

 

だが森崎の中には、今も尚“あの感覚”が根付いている。

 

実際にCADで試したわけではないが、その感覚のおかげで森崎は「自分は今も変わらず魔法が使える」と自覚できている。

 

森崎自身は無意識だったが、その為に自然と魔法に不信感を覚えることは一切なかった。

 

(それに、あの時の弾けるような感触。ということは……)

 

視線が手のひらから、ベッドに一つは備え付けられている棚に移る。

 

棚の上に置かれた汎用型CAD。

 

――そして、特化型CAD。

 

魔法が発動しなかった理由は、おそらく……。

 

その時、ノックも無く唐突に病室のドアが開かれた。

 

「あ、起きたのか、駿」

 

「なんだ、雅季か」

 

ドアの方へ振り返った森崎は、そこに腐れ縁の姿を見つけた。

 

「……起きたのかって、前にも来たのか?」

 

「ちょっと前にね。怪我は大丈夫か? 全治二週間だけど後遺症は残らないって聞いたけど」

 

「そこに三日間はベッドで絶対安静を加えれば間違っていないな。怪我は……今は薬が効いているから痛くはない」

 

「なら薬が切れる夜あたりは激痛か、大変だな」

 

「少しは気遣え!」

 

ちょっとした不安を容赦なく抉ってきた雅季。

 

今の治療技術なら患者の痛みをかなり軽減できるのだが、ここまでの大怪我をしたことがない森崎にはわからないことだった。

 

ちなみに雅季も知らない。知らないで抉ってきたあたり、かなり容赦が、いや遠慮が無い。

 

――今更、互いに遠慮するような間柄でもないのだから。

 

森崎は溜め息を吐いて、気になっていたことを雅季に尋ねた。

 

「他の試合は、ミラージ・バットはどうなった?」

 

「光井さんと里美さんがワン・ツー・フィニッシュ。三高との得点差は十九点まで縮まったぞ」

 

「そうか、流石だな……」

 

呆れたような口調で森崎が苦笑する。

 

誰が流石なのか、聞かなくても雅季にはわかった。

 

「十九点差……せめてモノリス・コードさえ……」

 

小声の呟きは、無意識に出たものだろう。

 

それだけに森崎の心境が、悔しさが一際篭っていた。

 

だから雅季は、敢えて明るい声で用件を切り出した。

 

「ああ、そうそう。ちょっとCAD借りていくから」

 

「は?」

 

キョトンと、森崎は雅季をまじまじと見た。

 

そんな森崎をお構いなしに、雅季は棚の上に置かれた特化型CADを手に取った。

 

何に使う気だ、そう森崎が問い掛けようとして、

 

 

 

「モノリス・コードに出ることになった」

 

 

 

それを予見していたように、雅季は森崎に言った。

 

それが達也の決断だった。

 

 

 

――選手は、雅季とE組の吉田幹比古。この二人でお願いします。

 

――オフェンスは自分。幹比古には古式魔法を駆使して状況に応じた遊撃に回ってもらいます。

 

――雅季、ディフェンスはお前に一任する。敢えて作戦は立てない。お前のやり方で、相手のオフェンスから一高のモノリスを守ってくれ。

 

――予選の試合を見た上で、決勝リーグで三高と当たるまでには作戦を考える。だから、まずはお前の実力を見せてくれ。

 

 

 

試合をしながら雅季の魔法を見て作戦を考える。

 

随分と難しい決断をしたものだと、雅季は思ったものだが。

 

そこまで信用されたのならしょうがない。

 

縁を大切にしてこそ『結代』だ。

 

(一高の優勝も掛かっている訳だし……まあ、怒られない程度に本気出すか)

 

悪縁には悪縁を。今回は結代たる自分自身も、彼らにとっての悪縁だ。

 

あの悪縁の元凶達には、せいぜい冷や汗をたっぷり流してもらおうか。

 

 

 

雅季の言葉の意味がようやく飲み込めた森崎は、改めて雅季を見遣った。

 

「……予選はどうなったんだ?」

 

「明日に延期。特例だってさ」

 

「他の選手は?」

 

「達也と幹比古。こっちも特例」

 

「……特例だらけだな」

 

そう言って森崎は小さく笑い、

 

「雅季、司波に伝えておいてくれ。事故の時、その特化型CADから弾けたような感覚がして、魔法が発動しなかったって」

 

雅季に伝言を預けて、ゆっくりとベッドに背中を預けた。

 

「――りょうかい」

 

森崎から達也への伝言を受け取った雅季は、

 

「それじゃ、ちょっと行ってくるから――後は任せておけ」

 

最後にそう告げて、ドアを開けて病室から出て行った。

 

「あいつらがモノリス・コードか……」

 

結代雅季、司波達也、どちらも常識では推し量れない二人だ。

 

吉田幹比古はさぞ苦労するだろうな、と他人事ながらも同情する。

 

同時に、一条将輝(クリムゾン・プリンス)吉祥寺真紅郎(カーディナル・ジョージ)にも対抗できるメンバーだと、森崎は思った。

 

「あいつも珍しくやる気を出していたみたいだし、大丈夫か」

 

そうして、森崎は安心したように肩の力を大きく抜きながら天井を見つめて――。

 

 

 

 

 

 

「――待てよ?」

 

一転して、ものすごく不安そうに雅季の去っていったドアを見つめた。

 

「あいつ、まさかとは思うが……そんな大舞台でCAD投げない、よな?」

 

やらない、とは言い切れないあたりが、とてつもなく不安だった。

 

 

 

 

 

 

 

そんな森崎の不安など露知らず、ホテルに戻ってきた雅季は、森崎からの伝言を達也に告げた。

 

「――そうか。森崎には礼を言わないとな、かなり参考になる情報だ」

 

「本人に言ってやってくれ。仏頂面で視線を逸らすと思うから」

 

雅季の予想に、達也は軽く噴き出した。

 

「違いない」

 

達也は笑いながら、雅季が持ってきた森崎の特化型CADに目を落とす。

 

靄に包まれていた無頭竜の“手段”に、朧気ながら輪郭が見えてきた。

 

(お前達のカラクリが読めてきたぞ、無頭竜(ノーヘッドドラゴン)

 

 

 

 

 

そして、大会八日目。新人戦最終日。

 

モノリス・コードの幕が再び上がる――。

 

 

 

 

 




祝! 結代雅季、モノリス・コード出場!

実は出場させるかどうかでかなり悩みました。
九校戦編が始まった時の構想では、

まず雅季が代役候補として呼ばれる

雅季が代役を拒否、『魔法師』と『結代』の価値観の相違が浮き彫りに。

達也が呼ばれて出場。その間に雅季は無頭竜の制裁に。

という流れでしたが、結論として軌道変更、出場させました。
しかもただ出場させるのではなく、原作主人公の達也の信用を受けて出場するという展開。
たまには主人公させないとね(笑)
勿論、無頭竜に対しても裏でこそこそ動きます。

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