魔法科高校の幻想紡義 -旧-   作:空之風

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モノリス・コード決勝戦前の話になります。
2014年もよろしくお願いします。


第41話 知恵者

準決勝を前にして、三高の一条将輝と吉祥寺真紅郎は作戦について話し合っていた。

 

準決勝の相手である八高、ではなく決勝で当たる一高についてだ。

 

少々失礼かもしれないが三高にとって、いや吉祥寺や将輝にとって八高は自分達を脅かす敵ではない。おそらく将輝一人でも充分に倒せる相手だろう。

 

だが一高はそうではない。

 

司波達也、結代雅季は決して油断できる相手ではない。

 

またステージによっては古式魔法を使う吉田幹比古も厄介な相手となり得る。

 

一高が九高を降して決勝戦に勝ち上がってくることすら、将輝も吉祥寺も当然のことだと認識していた。

 

「まず司波選手の強みは『術式解体』と高い戦闘技能だ。もし司波選手だけが相手なら、将輝との真っ向勝負に持ち込むことで戦闘技能を封じるという手も取れたけど……」

 

「それ以上に厄介なのは結代選手か」

 

将輝の指摘に、吉祥寺は頷く。

 

「結代選手は将輝とまともに戦える選手だ。実力で言えば将輝が勝つだろうけど、僕達が相手だと正直厳しい。かといって、じゃあ僕達が司波選手と吉田選手を抑えこめるかと言えば、確実にとは言えない。特に市街地や森林みたいに障害物が多いステージだと尚更だ」

 

遮蔽物の多いステージでは、相手を視界に収める必要のある『不可視の弾丸(インビジブル・ブリッド)』の効果を充分に発揮できない。

 

対照的に達也の戦闘技能と幹比古の精霊魔法は、遮蔽物の多いステージで真価を発揮する。

 

草原ステージのような見通しの良い舞台なら雅季を将輝が、達也と幹比古を吉祥寺達がそれぞれ抑える、そんな組み合わせで対応できるかもしれないが……。

 

そもそもステージ次第という運任せに頼った作戦など、智謀を自認する吉祥寺のプライドが許さなかった。

 

(何か、妙案は……)

 

術式解体、戦闘技能、索敵魔法、古式魔法……。

 

吉祥寺の脳裏で数々の情報(ピース)が飛び交う。

 

それぞれの長所と短所を挙げて、弱点となるようなものがないかを探していく。

 

 

 

そして、その中の一つの情報(ピース)が、吉祥寺の目に留まった。

 

 

 

「――あった」

 

司波達也、結代雅季、吉田幹比古の三人を相手にして打倒できる、唯一の糸口。

 

それさえ見つけてしまえば、瞬く間に吉祥寺の中で作戦が組み上がっていく。

 

顔を上げて将輝へ向き直った吉祥寺、そこには確かな自信が宿っていた。

 

「将輝、作戦ができたよ。――これなら勝てるはずだ」

 

「……本当に、頼りになる参謀だよ、ジョージは」

 

吉祥寺の智謀に無類の信頼を置いている将輝は、それを見て不敵に笑う。

 

同時に、作戦の内容を聞く前にその作戦案を受け入れることを、将輝は心の中で既に決めていた。

 

 

 

 

 

 

 

正午から始まったモノリス・コード準決勝、岩場ステージで行われている三高対八高の試合は、開始直後から完全なワンサイドゲームと化していた。

 

八高選手三人の魔法を、それを上回る魔法力で無力化しながら八高の陣地へ単身歩いていく将輝。

 

加速系魔法も、移動系魔法も、振動系魔法も、あらゆる魔法が届かない。

 

吉祥寺達は三高の陣地から全く動かず、援護の魔法すら行使しようとしない。

 

八高が繰り出す魔法の弾雨の中を、その全てを無力化しながら悠然とただ一人歩いている将輝を見送っているだけだ。

 

援護の必要性など全く見当たらない。

 

将輝の止まらない、誰にも止められない行軍がそれを雄弁に物語っていた。

 

 

 

「一条のプリンス……予想以上ね」

 

一高本部のモニターで試合を見ている真由美がポツリと呟く。

 

ちなみに摩利はこの場にいない。

 

今頃は海外で研修中であったにも関わらず会いに来てくれた恋人と共にいることだろう。

 

実は先程まではこの天幕で、一高幹部としての義務でここに留まるか、それとも来てくれた恋人に会い行くかで悩んでいたのだが。

 

……持てる者の贅沢な悩みに苛立った真由美が半ば無理やり追い出した。

 

内心で「ああ妬ましい」とか思っていたかについては定かではない。

 

「『干渉装甲』。予選とは戦い方が異なりますね。一条家の戦闘スタイルは中遠距離からの先制飽和攻撃のはずですが……」

 

疑問を口にする鈴音が見ている中、八高のオフェンスが将輝の魔法によって倒される。

 

「おそらくは」

 

残り二人となった八高選手に向かって将輝が歩き続ける中、今度は克人が口を開いた。

 

「司波に対する挑発だろう」

 

「挑発?」

 

真由美が聞き返すが、克人の次の言葉はそれに対する返答ではなかった。

 

「だが、司波に対するものだけではあるまい」

 

「ええ、他にも何か狙いがありそうです」

 

鈴音も克人と同じく、あれは三高が仕掛けてきた策の一つであると見抜いていた。

 

「え、え?」

 

真由美は見抜けていなかったが。

 

視線で「説明して」と訴えるも、克人も鈴音も三高の意図の方が気にかかっていたので、真由美の訴えを無視……もとい気付かずに話を進める。

 

「この一手に、結代に対する布石も含まれているだろう」

 

「ですが、その狙いがわかりません。何を狙っての一手なのか……」

 

「ふむ……司波を一条選手との真っ向勝負に引きずり込めば、結代の相手は残る二人となる」

 

「吉祥寺選手は、それを狙っていると?」

 

「断定は出来ん」

 

二人の視線は再びモニターに移る。

 

試合は、将輝が残っていた八高の二人も倒したことで終わりを告げていた。

 

 

 

ちなみに話についていけなかった真由美は隅っこで不貞腐れていたとか何とか。

 

妬んだ罰かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

観客席で友人達と試合を見ていた達也もまた、克人達と同じ疑念を抱いていた。

 

(何を狙っている? 『カーディナル・ジョージ』……)

 

達也の視線は、この試合で圧倒的な存在感を見せつけた将輝ではなく、三高陣地から一歩も動かなかった吉祥寺に向けられていた。

 

今の将輝の戦い方は、おそらく自分に対する挑発だ。

 

戦闘での駆け引きを取り払い、『術式解体』を武器に将輝との真っ向勝負に引き摺り出すための。

 

――それは、一高にとっては望ましい展開だ。

 

確かに雅季なら将輝に対抗できるとはいえ魔法力で劣り、尚且つ相手が実戦経験者(コンバットブローブン)であることを考えると、分が悪い戦いには違いない。

 

だが達也が相手ならば話は別だ。

 

いくら将輝の魔法が強力だろうと、達也の『術式解体』ならば将輝の魔法を無効化できる。

 

真正面から将輝と戦っても、勝つのは難しいが大きく時間を稼げるはずだ。

 

雅季と幹比古が、三高のモノリスを攻略するまでの時間を。

 

(俺が一条選手を抑え込んでいる間に、雅季と幹比古で相手のモノリスを攻略する。それが一番現実的な作戦だが……)

 

吉祥寺選手は間違いなく、またおそらくは三高のディフェンスも手強い相手だろうが、雅季ならば充分に勝機はある。そこに幹比古の援護が加われば尚更だ。

 

達也は彼我の戦力をそう分析している。

 

そして、吉祥寺真紅郎(カーディナル・ジョージ)ならば、達也と同じ結論に容易に達するはずだとも。

 

その吉祥寺が、敢えて達也と将輝を戦わせるような采配を見せている。

 

(自分達なら雅季を倒せると思ったのか、それとも何か対抗策があるのか……)

 

将輝を達也にあてる意図が、吉祥寺の狙いが読めず、思考の海に潜っていく達也。

 

 

 

「おー、まるでどこかの不良みたいに真っ直ぐ行ったなぁ」

 

「あの有頂天ね。あっちは攻撃に当たりながら突き進むけど」

 

「あれ、実は気合で我慢しているだけらしいよ、有頂天なだけに。まあ、元々ナイフも刺さらないぐらい頑丈なんだけどね」

 

「雅季も紫も、なんでレオの話になってんのよ?」

 

「え! 今の話ってレオのことだったの!?」

 

「いや俺じゃねぇだろ!」

 

「だってナイフも刺さらない不良って言ったらアンタじゃん」

 

「エリカてめぇ、俺のどこが不良だ! つーか、有頂天って何だよ?」

 

「そうだねー、一言で言えば桃かな」

 

「桃ね」

 

「いやわかんねーっつーの!」

 

「あの、もしかしてその不良って女性なんですか?」

 

……なので、隣で繰り広げられている会話は聞こえていないことにした。

 

 

 

 

 

 

 

真由美が水橋パルスィと意気投合できそうな気分になっていても。

 

達也が三高対策を名目に再び生み出された混沌(カオス)から逃げても。

 

時間が経つのは変わらない。

 

三高対八高の後に行われている一高対九高の準決勝、その舞台は渓谷ステージ。

 

水深が五十センチメートルという湖というより大きな水溜まりがステージの割合を大きく占めるのが渓谷ステージだ。

 

そのステージは現在、全体が霧に包まれている。

 

正確には一高選手の周りは霧が薄く、九高選手の周りは霧が濃いというやや不自然な分布。

 

これもまた、幹比古の魔法によって発生した霧だ。

 

視界が効かない恐怖に九高のオフェンスが手探り状態で進んでいるのに対し、一高のオフェンスは駆け足に近い早歩きでどんどん進んでいく。

 

そして九高選手が一高陣地までまだ半分も達していないにも関わらず、一高のオフェンス、結代雅季は九高のモノリスの射程圏内までたどり着いていた。

 

この試合ではオフェンスを達也ではなく雅季に変えている。

 

霧の視界不良に加えて、雅季ならば相手の居場所を知ることができるため更に有利になると判断したためだ。

 

本当ならば達也も相手の位置、更には地形も探れるのだが、それを明かせない事情もある。

 

達也は内心で申し訳なく思いつつも雅季にオフェンスを委ね、達也の内心を知らない雅季は二つ返事で了承し、その役目に応えてみせた。

 

九高のモノリスが割れ、コードが開示される。

 

九高のディフェンスが慌てて振り返るも、霧が視界を遮り相手を視認できない。

 

だが魔法の兆候を感じ取るのに視界は必要ない。

 

九高のディフェンスがそれを感じ取り、慌てて対応しようとするも間に合わず。

 

次の瞬間、足元の地面の摩擦がゼロになり……九高選手はそのまま湖へと滑り落ちた。

 

大きな水飛沫が舞った後、九高選手はすぐに立ち上がってCADを構える。

 

だが、その時には既に悪戯の主犯は逃げた後だ。

 

魔法の発動も早かったが、逃げ足もまた速かった。

 

そうして後には開いたモノリスと、全身ずぶ濡れの状態で肩を震わせる九高選手のみが残された……。

 

 

 

 

 

(遊んだな、雅季……)

 

(遊んだね、雅季……)

 

達也は『精霊の眼』で、幹比古は精霊魔法でそれを見ており、奇しくも同じ感想を抱く。

 

尤も、幹比古は達也が同じものを見ている、見ることができるとは現時点では知らないため、苦笑混じりに達也に向かって言った。

 

「雅季がモノリスを開いたよ」

 

幹比古の苦笑の理由に同感しながらも、それを表に出さずに達也は頷く。

 

これで一高の決勝戦進出はほぼ確定したようなものであり、それは同時に三高との決戦も確定したことを意味している。

 

「そうか。幹比古、頼むぞ」

 

「任せて」

 

幹比古が二高戦の時と同様に、『視覚同調』で九高のモノリスを遠視する。

 

意識を遠くに置いたままウェアラブルキーボードを叩いていく幹比古を横目に見ながら、達也は改めて三高戦に思考を巡らせる。

 

この試合で達也は何もしていない。

 

雅季と幹比古だけで今まさに試合を決めようとしている。

 

先程の将輝のような高度な力任せとは違うが、魔法の使い処の巧さが二人にはある。

 

本当に、吉祥寺達はこの二人に勝てると判断したのだろうか。

 

程なくして試合終了のサイレンが鳴り響くが、達也の中で答えは出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

モノリス・コード決勝戦、一高対三高の試合は三位決定戦の後、午後三時半からの開始となった。

 

その八高対九高の三位決定戦が行われ、その試合が終了した頃、九校戦の広い会場を歩いている二人の男性がいた。

 

「それにしても予想以上の逸材だね、結代君は。才能は申し分なし、そして十師族とも距離を置いている。まさに僕達の部隊にピッタリだと思わないかい?」

 

「そもそも前提が間違っている。結代家は“十師族”ではなく“魔法師”と距離を置いている。スカウトしたところで労力の無駄だろうな」

 

私服姿ながら一般人とは違う雰囲気を醸し出している二人。よく見れば片耳に目立たぬようイヤホンを付けている。

 

真田繁留大尉と柳連大尉。独立魔装大隊の幹部であり、達也の戦友だ。

 

「勿体無い気もするけど仕方がないか。結代家も頑なだし」

 

「少なくとも千五百年は続いている名家中の名家だ。あの家にも何かしらのしがらみか、越えられぬ一線があるのだろう」

 

醒めた声で答えた柳に、真田はわざとらしく肩を落とした。

 

「演出魔法はオーケー、でも魔法師コミュニティーは拒否。その間にどんな線引きがあるんだろうね」

 

結代雅季が演出魔法師として有名になった頃、九島烈が結代家を訪問しコミュニティー入りを改めて要請したが、やんわりと、そして取り付く島もなく拒否されたことは一部では知られた話だ。

 

「さてな。だが、“奴”の家系も千年は続いている名家だ。なぜ一族諸共ラグナレックに走ったのか。その答えも、或いはそういったしがらみの中にあるのかもしれんな……」

 

柳がそう言った直後、二人のイヤホンから声が発せられた。

 

『柳大尉、真田大尉。標的(ターゲット)を捉えました』

 

藤林少尉からの連絡を受け取った途端、二人の表情が引き締まる。

 

()()はどこだ?」

 

柳の問い掛けに藤林が場所を告げる。

 

そして、告げたと同時に柳と真田は既に目的地に向かって走り出していた。

 

先行する柳の後を追いながら、

 

「しがらみ、ね」

 

真田はポツリと呟く。

 

「水無瀬家。朝敵として、“鬼”として語り継がれた家系か……」

 

その呟きは誰にも聞こえることなく、風の中に消え去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、自由行動を終えた雅季は、集合場所である一高本部の天幕へと向かって歩いていた。

 

ちなみに自由行動では、達也は小野遥から荷物を受け取り、同時に「『無頭竜』の拠点の所在調査」という“ちょっとしたアルバイト”を依頼している。

 

幹比古は富士の息吹を浴びにホテル最上階の展望台へ。

 

そして雅季は。ホテルの食堂で肉じゃがを注文して食べていたとか。

 

……各人の個性が如実に表れた過ごし方、という見方もできるかもしれない。

 

閑話休題。

 

(ん?)

 

ホテルから会場まで戻ってきた雅季は、一高の天幕の中だけでなく、外にも感じ慣れた縁が二つあることに気付いた。

 

(天幕の中にいるのは先輩達。外にいるのは、達也と司波さんか)

 

相手があの兄妹だと察すると、少しだけ口元が綻ぶ。

 

『縁を結ぶ程度の能力』が感じる二人の縁は、結代として今まで見てきた縁の中でも最上級に位置する良縁だ。

 

信頼関係、絆とも言っても良い。

 

あれほどの良縁で結ばれている者達など滅多にいない、特に現実では初めてだ。

 

幻想郷でも数えるほど、例えるなら蓬来山輝夜と八意永琳の二人と同等ぐらいだろう。

 

(司波さんは輝夜さんと容姿も似ているし、達也も永琳さんと同じく賢者っぽいし)

 

似た者同士だ、と思いながら雅季は天幕へと歩み寄り、

 

 

 

「……それでも私は、お兄様は誰にも負けないと信じています」

 

 

 

天幕のすぐ傍から、そんな強い思いが込められた声が雅季の耳に届いた。

 

その直後、雅季の視線の先で深雪が天幕の中へと駆け込んでいく。雅季に気付いた様子は無さそうだった。

 

一方の達也は、ここからでは見えないが縁を感じる限りその場に佇んでいるようだ。

 

「――やれやれ、本当に」

 

そして、雅季はそんな二人に対し、優しげな笑みを浮かべて、

 

「いい縁だね、お二人さん」

 

良縁を祝福しつつ踵を返し、少しだけ時間を潰してから、何事も無かったように天幕を潜った。

 

 

 

 

 

 

 

達也のやや後に雅季が、そして最後に幹比古が到着して、選手三人は天幕の外に集まった。

 

これから作戦会議を開くためだ。

 

天幕の中では五十里達が達也の持ってきた二つのローブのチェックの真っ最中。

 

その間に作戦を決めてしまおうというのが達也の意見であり、雅季と幹比古がそれに反対する理由は無かった。

 

「正攻法でいくなら、俺が一条選手を相手している間に、雅季と幹比古で三高のモノリスを攻略というのがベストなんだろうが……」

 

珍しく煮え切らない様子の達也に、雅季と幹比古は首を傾げた。

 

「それでいいんじゃないの? 相手の居場所なら俺がわかるし、目当ての人物と当たるようセッティングは整えるぞ。確実に、絶対に、結代の名に賭けて」

 

「いや、そんな強調して言うところか?」

 

「ウチの本業だからね、縁結びは」

 

「流石は結代家」

 

結代家らしい雅季の宣言に、達也と幹比古は自然と笑う。

 

程良く場が和んだところで、幹比古が改めて口火を切る。

 

「達也、今回はオフェンスとディフェンスっていう区切りは無くすってことでいいのかな?」

 

「ああ。一条選手のような卓越した選手がいる場合、ポジションで分けるのではなく相手との相性で分けた方がいい」

 

「だから『術式解体』を持つ達也が一条選手の相手をするってわけか」

 

「じゃあ僕と雅季の相手は『カーディナル・ジョージ』だね」

 

納得したと幹比古は頷き、そこでふと思い出して達也に尋ねた。

 

「でもさっき、達也は納得してなさそうだったけど?」

 

「納得していないというか、腑に落ちない点があるんだ」

 

達也の懸念、将輝が試合で見せた戦い方がおそらく挑発であること、その挑発の意図がいまいち掴めないこと。

 

その説明を受けて雅季は腕を組み、幹比古は険しい表情となる。

 

尤も幹比古は「あの試合にそんな狙いがあったなんて」と、試合前から既に知略戦を繰り広げていた達也と吉祥寺に内心で衝撃を受けていた。

 

ちなみに雅季は「考えているんだなー」という感想のみだったりする。

 

「吉祥寺選手の狙い、か。達也の言う通りだとすれば、確かに不気味だね」

 

「ああ。さっきも説明した通り、あのローブは『不可視の弾丸』に有効だ。だがあれの他に保険として別の手も持っておきたい。二人からも何かアイディアは無いか?」

 

達也の問いに、幹比古は顔を俯かせて考え込む。だが眉間に皺を寄せて険しい顔を浮かべているあたり、良いアイディアは無さそうだ。

 

それを見て雅季は、達也に向かっておもむろに口を開いた。

 

「なあ、達也」

 

達也と幹比古、二人の視線が向けられる中、

 

「達也の中で、一条選手を倒せる手段ってある?」

 

真っ直ぐに達也を見据えて、雅季は言った。

 

雅季と達也、二人の視線が交叉する。

 

「……接近戦に持ち込めば、手はある」

 

達也の答えに、雅季はニヤリと笑った。その様はまるで悪戯を思い付いた子供のようで。

 

「なら、いいのがあるぞ。――“とっておき”の魔法が」

 

内心では一高の勝利のために、そして達也と深雪の縁のため。

 

雅季は“とっておき”を切ることを決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決勝戦のステージが『草原ステージ』に決定したことで、続々と草原ステージの会場に集まってくる観客達。

 

前方から観客席が埋まっていく中、最も後方上段に座っている男性が一人いた。

 

まだ人が集まり始めて間もない時であり、彼の周囲の客席は一人も座っていない。

 

そもそも一般客の大半が試合もモニターも見やすい前方へと座ろうとする中で、彼のように迷う素振りも見せずに最後列に座った人物は珍しい部類に入るだろう。

 

あまり競技に興味が無い人間なのか、もしくは何らかの理由があるのか。

 

彼自身の理由は定かではない。

 

だが、少なくとも無言で彼の両隣に座った二人は後者だった。

 

周囲が空席にも関わらず、突然両隣から挟まれる形になったというのに、男性に不愉快そうな様子は無い。寧ろシニカルな笑みを浮かべている。

 

そして、

 

「隣に座るのなら、せめて一声ぐらいあってもいいと思うが」

 

視線を前に向けたまま、水無瀬呉智が言葉を発すると、

 

「生憎と、どこかの誰かが散々に翻弄してくれたおかげで機嫌が悪くてな」

 

右隣に座った柳が、

 

「まさかこの年になって隠れんぼと鬼ごっこをする羽目になるとは思わなかったよ」

 

左隣に座った真田が、それぞれ答えた。

 

 

 

ラグナレックの水無瀬呉智。

 

独立魔装大隊の柳連、真田繁留。

 

三年前の夏、沖縄戦以来の再会であった。

 

 

 

 

 

 

 

各所で智謀と思惑が交錯する最中。

 

多くの注目を集めながら。

 

新人戦モノリス・コード決勝戦が始まる――。

 

 

 

 

 




真由美「パルパルパルパルパル……」
パルスィ「はッ――同志の気配がするわ……!」
ちなみに雅季とパルスィには友人知人とは違った関係が。
なにせ縁結びの系譜と嫉妬の妖怪ですから(愉)
詳細はいつかの幻想郷編にて。

次回はモノリス・コード決勝戦になります。


ふと最近になって考えたのですが、魔法って宇宙開発に大きく寄与できますね。
太陽光の有害線を遮断、無重力状態での移動、重力を作れる、事故時などに貴重な空気を移動や収束できる、等々。
魔法ならではの利点が宇宙では数多くありますし。
案外、原作の着地点は「魔法師の役割は兵器から宇宙開発(フロンティア)の最前線へ」で落ち着くかもしれませんね。

ちなみに、本作におけるその場合の月の都の反応は、
(こっち)来んな、火星(あっち)行け!」
空気がある火星の方が利点は多い云々で、結代家も巻き込んで月をスルーさせそうです。



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