本丸-
第1部隊「大広間」の大きなモニターに、出陣前の「大倶利伽羅」達が3人並んで、本丸の仲間達へ話しかけているビデオが映し出されている。
短刀達が驚いている顔、泣いている顔、乱が口に両手を当てて、涙している顔が並ぶ。
光忠、長谷部が、そのモニターの横で正座をし、うつむいている。
短刀達の後ろにいる石切丸がうつむき、獅子王はモニターから顔を背けている。
そして、1代目「大倶利伽羅」は、大広間の襖1枚隔てた廊下の柱にもたれて座り、2代目達の声だけを聞いていた。
……
女審神者は、パソコンから本丸とラインをつなごうとしていた。
だが、なかなか繋がらない。
困り果てて頭を抱えた時、やっとローディングが始まった。
「!!」
慌てて、本丸を表示すると、長谷部からメールが届いていた。
女審神者は、急ぐようにメールを開いた。
『主様 非常に辛い事をお伝えしなければなりません。
ラインが寸断している間に、2代目、3代目、4代目の「大倶利伽羅」3体が、この本丸を守るために殉職いたしました。』
女審神者は目を見開いた。
『添付させていただいた動画は、彼らが出陣する前に遺してくれていたものです。どうか、最後まで見てやってください。
またこの動画は、ラインが寸断されている間に、本丸の仲間達で先に見させていただきました。
無礼をお許し下さい。
へし切長谷部』
女審神者は、震える指で動画を開いた。
……
カチッという音と共に、画面が明るくなり、閉じられた障子が映る。
2代目「(画面上から、顔を横にして現れる)こんな感じ?」
3代目の声「いいんじゃない?」
2代目「じゃぁ、2人ともこっちこっち」
3代目、4代目が両端から現れて、2代目を挟んで座る。
2代目「主様、本丸の皆様へ、お伝えしたいことがあります。」
3代目「俺達「大倶利伽羅」3人は、これから出陣します。場所は言えません。ただ、もう戻って来れません。」
4代目「俺達、この本丸に生まれて幸せでした。きっと、どこの大倶利伽羅よりも幸せだったと思っています。」
2代目「だから俺達の命と引き換えに、この本丸を守り抜きたい。」
3代目「それが、俺達を最後まで育ててくれた、皆様への恩返しだと思っています。」
4代目「これまで、本当にお世話になりました。」
3人共、丁寧に頭を下げる。
2代目「(3代目と4代目を交互に見ながら)じゃ、ここから個人的に言いたい事をどうぞ。」
3代目「2代目からどうぞ。」
4代目が、2代目に向いてうなずく。
2代目「あ、そう?じゃぁ…遠慮なく。」
2代目そう言って、2人に交互に会釈する。2人も2代目を見てうなずく。
2代目「燭台切光忠様…あー堅苦しいから、普通に戻っていい?」
2人笑って、それぞれ「いいよ」と言う。
2代目「光忠、最後まで俺達の面倒を見てくれてありがとう。ただ、心残りがあるんだ。光忠、俺達の事は「倶利伽羅」って呼んでくれなかったよね。」
3代目「(膝を叩いて)そういや、そうだな!」
4代目「ほんとだ。」
2代目「おい、4代目は仕方ないけど、3代目、今更かい?」
3代目「気にしたことなかった。」
2代目「1度でいいから、呼んで欲しかったなーって思って。」
3代目「確かにな。」
4代目「でもそれは、俺達が1代目を超えられなかったからじゃないか?」
2代目「超えるのは無理だわー。」
3代目「じゃぁ、無理だと言うことで。」
2代目「はい(あっさり)。そして、長谷部さん、石切丸さん、獅子王さん、いろいろとご迷惑をおかけしました。」
3代目「そうだなぁ。出陣やら何やらで何かと手を煩わせちゃったからな。」
2代目「俺、獅子王さんには、しょっぱなから迷惑かけちゃって。」
3代目「動けない2代目を、肩に担いで帰ってくれたってやつ?」
2代目「そう。重かったと思うんだー。短刀達だって、起きてる時だっこするのと、眠ってる時にだっこするのと重さ全然ちがうじゃない。」
4代目「確かに。それに俺たちの武装具、結構重いしな。」
2代目「(手を合わせて)本当にありがとうございました。」
3代目「俺は、石切丸さんに迷惑をかけた事が多いかな。」
4代目「俺も、闇落ちで救ってもらって…」
2代目「えっ!?闇落ちの記憶あるの!?」
4代目「あるよ。」
3代目「俺もそうなんだけど、短刀達と餃子つくってる記憶と、1代目に刺された記憶と同時進行で残ってるんだ。」
2代目「どういうこと?」
4代目「すごく変なんだけど、短刀達と餃子作りながら、1代目と戦ってるみたいな感じ。」
2代目、大笑いする。
3代目「(笑って)俺は餃子つくりながら、刺された。」
2代目「あの時は、お前たちが消えてしまったってショック受けたのに、何もないように出てくるんだもんなぁ。」
4代目「(頭を下げて)本当に、ご迷惑をおかけしました。」
2代目「で、長谷部さんだな。たぶん、今臥せってるのって、主(あるじ)に会えないのも一因だと思うんだ。」
3代目「それが全部じゃないか?主と相思相愛だもんなぁ。」
4代目「うちのNo.1クールマンなのに、主に会ったとたん、風船がしぼんだような顔になる。」
3代目「(吹き出す)落差大きいよな。今回、その顔が見られないのが残念だなぁ。」
2代目「主にも、もう1度会いたかったね。優しいお母さん。」
3代目「(しんみり)そうだな…。」
4代目「(うつむいて黙っている)」
2代目「はいっ気を取り直して、次3代目、どうぞ。」
3代目「はい!まず、俺からは短刀達へ。お前達と過ごした日々は本当に楽しかった。特に、皆で「枕投げ」をしたことは、俺の中で1番の楽しい思い出だ。」
2代目「枕投げー!ほんと、楽しかったなあれ。」
4代目「俺も、やりたかった。」
3代目「俺達はもういないけど、あれも鍛錬のうちだ。週に1回はするように。」
2、4代目が笑う。
3代目「それから、乱。俺がいなくなっても、笑顔をなくさないこと。お前は笑顔でいるのが一番可愛いんだからな。後、自分の事を好きになること。約束だぞ。」
2代目「乱には、女装で世話になったな。」
3代目「お前、本当に可愛かったよ。」
4代目「うん。可愛かった。」
2代目「俺は、4代目にも女装させたかったけどなぁ。」
3代目「あー確かに!」
4代目「(笑いながら)それは勘弁して。」
3代目「そう言えば、あの時の俺達が踊った動画、結局消されたんだって。」
2代目「えっ!そうなのか?」
3代目「何でも、長谷部さんがビデオカメラの操作間違って、消しちゃったって。」
4代目「(笑いながら)良かったな、2代目。」
2代目「良かったー…これで思い残すことないわ。はい、じゃぁ4代目どうぞ。」
4代目「俺は、本丸の皆様に。短い間でしたが、レプリカかもしれない俺を最後まで、この2代目3代目と同じように接して下さり、ありがとうございました。今、こうして2代目達と一緒に死ねることを誇りに思います。」
3代目「いいこと言うねー。」
2代目「巻き込んじゃってごめんよ。」
4代目「いや巻き込んだのは俺だよ。それに俺だけ置いてかれたら、また闇落ちすると思う。」
2、3代目、笑う。
しばしの沈黙-
2代目「では。」
3代目「うん。」
4代目「(黙ってうなずく)」
3人、神妙な表情でこちらを向く。
3人「1代目大倶利伽羅様」
4代目「できの悪い俺達を、最後まで育てて下さりありがとうございました。」
3代目「俺達、1代目の下(もと)に生まれて本当によかったと思っています。」
2代目「1代目より先に死ぬ俺達を、許してとは言えないけど」
4代目「俺達の気持ちは、1代目ならわかってもらえると思います。」
3代目「「大倶利伽羅」は1人でいい。実は俺達、ずっとそう思ってました。」
2代目「これからも、俺達の分まで本丸を守って下さい。」
3人「(同時に頭を下げて)本当にお世話になりました。」
3人、頭を下げたまま、しばらく黙り込んでしまう。
2代目「(2人にそれぞれ向いて)ちょっと他人行儀過ぎたか?」
3代目「いいんじゃない?言いたいこといっぱいあるけど…これ以上は俺無理。(目をさっと拭う)」
4代目「俺も。」
2代目が「さて」と言って、さっと顔を上げる。目が真っ赤になっている。
2代目「じゃぁ、あれ行くか。」
4代目「(涙を拭いながら)あれ、まじで行くのか?」
3代目「死んでから言えないから、言っておこうよ。」
2代目「…恥ずかしい…けど、言うぞ。」
3人、前を向く。
2代目「せーの」
3人「(全員手を伸ばして)皆、愛してるぞー!」
言ってから、すぐにそれぞれ顔を伏せたり、頭を抱えたりする。
2代目「あー恥ずかしい。じゃぁ行くかっ!」
2代目が立ち上がると同時に、画面がゆっくり天井を向く。
3人が「あーーーっ!」と声を上げる。ガタンという音とともに、真っ暗になるが、音だけが残っている。
「わー!ビデオ倒れた!」
「2代目、コード引っ掛けただろ!」
「壊れたらどうするんだよ!長谷部さんに大目玉だぞ!」
「え?大丈夫これ?」
「俺達、写ってないような。」
「声だけ?」
「さっきのは残ってる?」
「さぁ?」
「さぁって。」
「あっおい、もうタイムリミットだ!出陣出陣!」
「あー…長谷部さん壊れてたらごめんなさい。」
「早く!あんまり騒いだら、皆、目を覚ますぞ。」
「ビデオ切って切って」
「なぁ、俺の腰布さー…」
そこで、音も切れる。
静寂-。