大倶利伽羅ラプソディ   作:立花祐子

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闇落ち

ジャージ姿で、第1部隊宿舎の庭に寝転がっている3代目「大倶利伽羅」は、膝枕をしている1代目「乱(みだれ)籐四郎」といちゃついている。

 

「首しんどくない?倶利伽羅。」

「ん?寝心地いいよ。お前こそ足痛くないか?」

「うん。大丈夫!」

「そう。なら良かった。」

「疲れとれた?昨日の遠征きつかったって、聞いたけど。」

「…ん、昨日の遠征は確かにきつかったけど、大丈夫だよ。よく寝られたから。」

「なら、いいけど。…倶利伽羅、こうやって上から見下ろすのって初めてだけど、可愛い顔してるね!」

「ははは、可愛いってお前の方が可愛いよ。」

「やぁねぇ、もおっ!」

「何照れてるんだよ。」

「本当にそう思ってるのお?」

「思ってるって!じゃなかったら、こうやってお前にわざわざ会いに来ないよ。」

「他にも、可愛い子はいるのにぃ?」

「確かにそうだな。」

「!!」

「!いたた!髪の毛引っ張るなよ!」

「だってぇ!」

「光忠だったらキレてるぞ!…お、そのふてくされた顔も可愛いな。」

「知らないっ!」

「こらこら膨らましたままだったら、ほっぺが戻らなくなるぞ。…あはは!お前のほっぺ柔らかいなぁ…」

 

「お楽しみのところ、すまないが。」

 

その声に、2人はやっと傍にいる男に気づいた。

声をかけたのは、目元の涼しい、優しい顔つきの青年だった。大倶利伽羅も乱も初めて見る顔だ。青年は笑顔もなく、どちらかというと無愛想に2人に尋ねた。

 

「第1部隊の宿舎へは、どう行けばいいか教えて欲しい。」

「ああ、それなら。」

 

大倶利伽羅が、乱の膝から起き上がりながら言った。

 

「このまま、真っ直ぐ行けばいいよ。あっち、ちょっと木が生い茂ってるだろ?」

「ああ」

「そこまで行けば、宿舎が見える。そこが第1部隊の宿舎だ。」

「ありがとう。邪魔して悪かったな。」

 

青年はニコリともせずにそう言い、大倶利伽羅が教えた方向へ歩いていった。

 

「……」

 

2人は、青年の後姿が木々に隠れるまで、黙って見ていた。

 

「なぁ、倶利伽羅」

 

乱が、男言葉に戻って言った。

 

「なんだ?」

「僕、あの武装、見たことあるんだけど。」

「俺も。」

「腕の文様も、見たことある。」

「確かに文様あったな。」

 

大倶利伽羅はそう言って再び体を倒し、乱の膝に頭を乗せたが…

 

「!4代目っ!?」

 

乱と同時に叫んで、飛び起きた。

 

……

 

「お前ら、恋人ごっこもいい加減にしないと、まじで変な噂立つぞ。」

 

2代目「大倶利伽羅」があきれ顔で、息を切らして自分の前にいる3代目「大倶利伽羅」に言った。

 

「いや…それよりもさ…4代目だ。あれまじで4代目の大倶利伽羅だ。」

「確かに文様はあったのか?」

「あった!」

 

2代目は、目に手を当てながら言った。

 

「なんで、また「大倶利伽羅」なんだー。世間には、大倶利伽羅がなかなか出なくて、下手な小説書いてる奴もいるってのに。」(天の声:えーーーっと…)

「第1部隊の宿舎に向かって行ったから、今頃、1代目に挨拶してるはずだ。」

「どんな奴だった?」

「なんとなく優しい顔だちなんだが、無愛想だった。よけいな口は利かないってタイプだな。」

「ふーん。「大倶利伽羅」らしいと言えば「大倶利伽羅」らしいな。」

 

2代目がそう言った時、障子の外から「大倶利伽羅さん、1代目が宿舎にお呼びです。」という短刀の声がした。

 

……

 

2代目「大倶利伽羅」は、4代目の顔を見たとたん「へえ」と思わず呟いた。

その涼しげな目元は、何かぞくりとするような冷たい光を湛えている。

 

(3代目とはまた違う、目で殺すタイプだな。)

 

2代目は、そう思った。

 

「こっちが2代目だ。そして、こっちが3代目」

 

1代目「大倶利伽羅」が、2代目と3代目に順に手を向けた。2代目は「よろしくお願いします。」と頭を下げた。その後に、3代目は笑顔で「さっきは失礼しました。」と言いながら頭を下げた。

4代目は笑顔もなく「いえ」と言ってから、頭を下げた。1代目が不思議そうに尋ねた。

 

「なんだ、先に会っていたのか?3代目。」

「あ、いえ。ここに来る道を聞かれたんです。」

「そうか。」

 

1代目はそう言ってから、4代目に向いた。

 

「君の宿舎は第3部隊の方だ。この3代目と同室になる。」

 

3代目はそうなることは予感していたので、驚くこともなく「よろしく」と再び頭を下げた。4代目も無表情で「こちらこそ」と頭を下げた。

 

……

 

3代目は、ふと夜中に目を覚ました。

寝返りをうち障子に向くと、隣の床で寝ているはずの4代目がいない。

 

「?」

 

よく見ると、障子に4代目らしき影が映っている。

3代目は床から出て、そっと障子を開いた。

4代目は、輝く月を見上げていた。片膝を立てて縁側に座り、そのまま動かない。

 

「寝られないのか?」

 

3代目がそう尋ねると、はっとしてこちらを見た。

 

「起こしたか。」

「いや、勝手に目が覚めただけだけど…明日は、朝早くから1代目との手合いだろ?体横にしといた方がいいぞ。別に眠らなくていいからさ。」

「…強そうだな。1代目。」

「ああ。」

 

3代目は、4代目から少し離れて座りながら言った。

 

「2代目も半端ないぞ。ああ見えて。」

「へえ。楽しみだ。」

 

その4代目の返答を聞いた3代目は(恐くないんだ。こいつ)と、内心驚いた。

4代目が、少しうつむき加減に言った。

 

「俺はどう見える?」

「え?」

「…いや…強そうか、柔そうか。」

 

3代目は、しばらく考えてから答えた。

 

「正直…つかみきれない。どっちにも、見える。」

 

4代目は、ちらと3代目に流し目を送り、口の端を少し上げて「そうか」と言った。

それを見た3代目は、ぞくりと背中に悪寒が走ったのを感じた。

 

(俺、こいつに勝てないかも!)

 

そう思った。

 

……

 

翌朝-

 

4代目は、1代目に打ちひしがれていた。芝生に叩きつけられ、木刀をつきつける1代目を上目遣いに見た。1代目が言った。

 

「ここまでか?」

「…参りました。」

 

4代目は、顔をそむけて言った。いつもなら「人の目を見て話せ!」と怒る1代目だが、この時はなぜか「そうか」と言っただけで、木刀を引っ込めた。2代目3代目は驚いたが、ただ黙っている。1代目が微笑んで言った。

 

「いい腕だ。感心したよ。」

 

4代目は、上目遣いに1代目を睨み付けた。1代目は気にしない様子で「今日はこれまでだ。」と言って、木刀を持ち直し、宿舎に帰って行った。

4代目は、1代目の背を見えなくなるまで睨み続けている。

 

「…4代目…」

 

3代目が恐る恐る声をかけた。2代目は腕を組んで、ただ黙っている。

4代目は「馬鹿にしやがって」と呟き、その場に木刀を叩きつけた。

 

「どうせ…俺は…」

 

4代目はそう呟いてから、はっと、2代目と3代目のいる方へ顔を向けた。…が、何も言わず木刀を持って立ち上がり、1代目とは反対方向へ歩き出した。

 

「4代目!」

 

3代目が追おうとした。それを2代目が手を伸ばして止めた。

 

「しばらく独りにしてやれ。」

「え?」

「構うな。いいな。」

 

2代目はそう言うと、自分の宿舎へと向かって歩き出した。

 

……

 

(構うなったって…)

 

3代目は、自室で立てた両膝に顔をうずめて座っている4代目を横目で見た。

 

(真横で、こんな姿見せられて…構わないわけにはいかないだろ?)

 

そう思いながら黙っていると、4代目が突然顔を上げた。

 

「3代目」

「はっはいっ!?」

 

思わず、3代目は声を裏返して答えた。4代目が3代目をじっと見つめながら言った。

 

「俺…贋作(レプリカ)なんだ。」

 

3代目の思考が止まった。

 

……

 

2代目は、見開いた目で3代目を見た。3代目は、2代目の前で珍しく正座している。

 

「前の主(あるじ)の記憶がないって?」

「そうだ。全くないそうだ。」

「じゃぁ、光忠の事も?」

「ないんだそうだ。で、それを1代目が気づいてるって言うんだ。」

 

2代目は眉をしかめた。

 

「どうしてそう思うんだ?」

「自分の無礼にも怒らなかったから、レプリカなんてどうでもいいんだろうって…」

「1代目は、そんな人じゃないだろう!」

「俺もそう言ったさ。でも首を振るばかりで、後は拉致があかなくて…。」

 

3代目が困り果てた様子で、目に手を当てた。2代目が沈黙の後、呟くように言った。

 

「レプリカか…でも、それを言いだしたら俺達だって、わからないんじゃないか?」

「俺達は、政宗様の記憶があるじゃないか。」

「まぁ、そうだけど。でも、仮に4代目がレプリカだったとしても、俺は気にならないけどなぁ。「大倶利伽羅」には違いないんだから。」

 

3代目がうなずいた。再び2人は沈黙した。3代目がふと顔を上げて言った。

 

「…1代目に伝えた方がいいと思うか?」

 

2代目が、腕を組んで黙り込んだ。

 

……

 

結局、1代目には黙っておこうということになった。

 

(気ぃ重ー。)

 

自分の宿舎に向かいながら、3代目はため息をついた。

戻れば、またあの落ち込んでいる4代目と一緒にいなければならない。

 

「あー…どうすればいいんだー?」

 

そう言いながら宿舎の空を仰いだ3代目は、目を見張った。

 

「!?…なんだ!?空の色が…!」

 

真紫の空が広がっていた。3代目は後ろを振り返って、第2宿舎の方の空を見た。

普通の青空だ。

だが、第3宿舎に向かうにつれ、紫に変色している。

 

(雨空とは何か違う…!)

 

3代目は、宿舎に向かって走り出した。

 

……

 

「おい!誰もいないのか!!」

 

3代目は部屋という部屋の障子を開け放ちながら、走り回っていた。

いつもいるはずの短刀達がいない。

 

「皆、どこに行ったんだ!」

 

そう叫んでから、自室に向かった。

 

「4代目いるか!?」

 

障子を開け放つと、3代目は体を硬直させた。

4代目が立っていた。その体から、紫色のオーラの炎がゆらゆらと揺れている。

 

(!…闇落ちか!)

 

4代目が、紫色の瞳で3代目を見た。3代目は思わず、目を背けた。

 

(目を見たらだめだ!俺まで…)

 

3代目はとっさに思った。

そして体を反し、庭に飛び降りた。

 

(石切丸さんに!…!…)

 

そう思って前を向いたとたん、ぎくりとして足を止めた。

3振り目、4振り目を合わせた大勢の短刀達が、4代目と同じ瞳で自分を見ている。

 

「お前たちまで…」

 

そう呟き、とっさに刀身を出現させた。だが、鞘から抜くことなく、ただ握り締めた。

 

(斬るわけにはいかない!どうしたらいいんだ!)

 

そう思った時、短刀達が同時に、刀身を鞘から抜いた。

 

「!!」

「お前の本体をこちらに。」

 

その声に、3代目は驚いて振り返った。

紫色の瞳をした4代目が真後ろに立ち、手を差し出している。

 

3代目は4代目の瞳から少し視線をずらし、刀身を握り締めながら言った。

 

「…これを渡したら…短刀達を元に戻してくれるんだろうな?」

「もちろんだ。その代わり、お前は消えるがね。俺と連結するんだ。」

「!…」

 

3代目は4代目の瞳を真っ直ぐ見返し、刀身を持ち直して差し出した。

 

「…そら…受け取れよ。」

 

その言葉に、4代目がにやりと笑った。そして、3代目の刀身を握った。3代目の姿が、光となって消えた。

 

……

 

2代目は第3部隊の宿舎へ向かっていた。4代目と直接話してみようと思ったのだ。

宿舎にたどり着くと、庭へ回った。3代目の部屋には、その方が近道なのだ。

 

「?」

 

庭には誰もいなかった。

 

(短刀達はどうしたんだ?)

 

そう2代目が思った時、4代目が自室から姿を現し、笑顔で「やあ」と言った。

 

「ああ4代目、ちょっと話があって。」

 

そう言って、はっと4代目の顔を見た。笑顔が不自然に見える。ふと不安を感じ「3代目はどこにいる?」と尋ねた。

 

「3代目?3代目は俺じゃないか。」

「え?」

「何を寝ぼけてるんだよ、3代目は俺だって。4代目なんていないよ。」

「!」

 

4代目は、2代目にニコニコとしながら近づいた。

 

「ねぇ、今から手合いを頼めないかな。本体で。」

 

2代目は、じっと4代目を見据えながら答えた。

 

「本体で、手合いをするのは禁じられている。」

「そんな固いこと言うなよ。ここは第3部隊の庭だ。俺達しかいないって。」

「お前、誰だ?」

 

2代目の言葉に、4代目がにやりと笑って言った。

 

「誰って?…俺は「大倶利伽羅」だ。」

 

4代目の瞳が、紫色に輝いた。

 

……

 

石切丸は、第3部隊の宿舎に向かって走っていた。

 

(不甲斐ない!…私がいない間に大変なことに!)

 

その石切丸の前には、1代目「大倶利伽羅」が走っている。

石切丸は、出陣に出ていたのである。帰ってきてすぐに、第3部隊の異変を感じたのだった。

 

1代目は宿舎の前まで来ると、石切丸にうなずいて、裏へと走った。

石切丸は宿舎の玄関を開け放ち、土足のまま中へ入った。

 

……

 

1代目は庭に入るなり、いきなり叫んだ。

 

「渡すな!倶利伽羅!」

 

4代目に本体を差し出していた2代目は、驚いた表情で1代目に振り返った。

 

「1代目!来るな!」

 

4代目の体から、紫のオーラの炎が立ち上ったと同時に強い風が吹き、1代目の体を吹き飛ばした。2代目が叫んだ。

 

「早く俺を受け取れ!1代目には手を出すなっ!」

「やっぱり、お前はいらない。」

「!」

 

2代目が、とっさに刀身を抜いた時、ざっと風が吹いた。

 

「妖魔捕獲!」

 

その石切丸の声と共に、無数の札が渦を巻き、4代目を囲んだ。

 

「!!」

 

4代目は、渦の中で両腕を抱え込んだ。

1代目が、2代目に駆け寄った。

 

「3代目は?」

「4代目の中だ。…おそらく、連結…」

「!…」

 

1代目は、黙って刀身を抜いた。

 

「1代目?」

「下がってろ。」

 

2代目にそう言うと、1代目は刀身を握り締めて、札の嵐の中にいる4代目を見据えた。

 

(俺にできるか…?)

 

ここに来る前、石切丸から、妖魔を退散する方法を聞いていた。だが、それは1代目でも難しい方法だった。

1代目はふーっと息を吐いた。

 

(やるしかない。3代目を救うためにも…)

 

1代目は、1度刀身を払い構えた。

4代目が、札の渦の中で苦しみながらも、刀を抜いて立っている。

 

(先に、手合いをしておいて良かった。)

 

1代目はそう思うと、4代目に斬りかかった。札の嵐の中から、4代目がその刀を弾いた。

2代目がそれを見て刀身を抜いた。が、いつの間にか傍に来ていた石切丸にその手を押さえられた。

 

「!石切丸さん?」

「大丈夫。1代目を信じて見ておいで。」

 

2代目はしばらくためらっていたが、やがて刀身を戻した。

1代目と4代目は、打ち合い続けている。きいん、という音が何度も響き渡った。

 

「互角だ。」

 

思わず呟いたその2代目の言葉に、石切丸が首を振った。

 

「いや、1代目が手を抜いているんだ。」

「!?…どうして!」

「そのまま斬ってしまうと、4代目が壊れる。同時に3代目もね。」

「!!」

 

2代目は目を見張り、4代目と刀を交わす1代目を見た。石切丸が続けた。

 

「壊してしまった方が楽だ。…だが、彼は2人とも救おうとしている。」

 

『簡単に壊せなんて言うなっ!この馬鹿っ!』

 

2代目は、1代目に言われた言葉を思い出した。

 

「1代目…」

 

2代目は、目が熱くなるのを感じた。そして、零れたものを払った。

 

……

 

1代目は4代目と打ち合いながら、4代目を貫くタイミングを計っていた。

 

『札ごと貫くんです。できるだけ多くの札で囲みますから、その中のどれでもいい。札は、突き刺したと同時に効力を発します。札から突き刺して、4代目に貫通させるんです。』

 

(やるしかない!)

 

そう思った時、4代目が急に声を上げ、刀を落とした。

 

「!?」

 

1代目が、札の嵐の中を目を凝らして見ると、3代目が4代目の腕を背中に回し、押さえ込んでいた。

 

「3代目!」

 

1代目が思わず声を上げた。3代目は4代目を押さえ込んだまま、1代目に背を向けて叫んだ。

 

「1代目!俺ごとこいつを刺せ!」

「!」

 

1代目は初めて、ひるんだ様子を見せた。

 

「…しかし…」

「早くっ!!俺が消える前に!!」

「!…」

 

1代目は刀を持ちかえ、突きの構えになった。

2代目が拳を目に当てて、座り込んだ。石切丸が、その2代目の肩にそっと手を乗せた。

 

「大丈夫。信じるんだ。」

 

拳を目に当てたまま、声を押し殺して泣く2代目に、石切丸が優しく言った。

 

「3代目!許せ!」

 

1代目はそう叫ぶと共に、札の嵐の中にいる3代目の背を刺し貫いた。3代目の体がのけぞる。同時に4代目の断末魔の叫び声が響いた。

 

……

 

1代目の本体は、見事に札を貫いていた。

しかし、札が散乱している他には、何も残らなかった。

 

「3代目は?」

 

2代目が立ち上がりながら、震える声で言った。1代目と石切丸は黙り込んでいる。

 

「そんな…」

 

「あれー?2代目?1代目も石切丸さんも!」

 

宿舎の中から、3代目が現れて言った。

 

「!!!!!!」

 

全員が、3代目に向いた。

 

「うわー、紙散らかしちゃって…」

 

3代目が庭に散乱している札を見ながらそう言った時、4代目が障子の影から、顔だけを出した。

 

「!!」

「どうか…しましたか?」

 

4代目が言った。3代目が4代目に振り返って、首を傾げた。

 

「大倶利伽羅さーん!!できたよー!」

 

短刀達の声が、宿舎の奥から響いている。3代目が、顔だけを後ろに向けて叫んだ。

 

「あー!ちょっと待ってろ!すぐ戻るから!」

「俺、先に戻ってようか?」

 

4代目が、親指を奥に向けて3代目に言った。

 

「あ、そうだな。…あー待って!あれを出しといて欲しいんだ。」

「ああ、あれな。蒸すのか?」

「ん。焼いてもいいけど…。4代目はどっちがいい?」

「3代目の好きな方でいいんじゃない?」

「じゃ、蒸して。」

「わかった。」

「で、4代目。」

「何?」

 

4代目が行きかけて、3代目に振り返った。

 

「さっきから言おうと思ってたんだけどさ、その仏頂面どうにかならないのか?短刀達が、お前のこと怖がってるぞ。」

「何を言うんだ。俺はこれで「大爆笑」なんだ。」

 

それを聞いた3代目が、腹を抱えて笑った。

 

「お前…案外、面白い奴だな!」

 

4代目はにやりと笑ってから、立ち尽くしている石切丸達に頭を下げ、奥へ入って行った。

3代目は笑いながら、石切丸達に振り返った。

まだ呆然として立っている3人に、3代目は困ったように「えーっと」と呟いてから、

 

「短刀達と作った餃子…一緒に食べます?」

 

と言った。

3人は、ただ黙ってうなずいた。

 

 


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