まあ、二次創作の中でくらい仲間と楽しくしてほしいという願望の元に生まれた作品です。
ユグドラシル。それは、かつてとんでもない人気を博した体験型オンラインゲームのタイトルだ。
多彩な職業、広大なエリア、いくらでも手を加えられる外装。狙って作らない限りは同じ存在が二つとして生まれないような自由度の高さ。日本人のクリエイト魂にニトロをぶちこんだような自由度の高さは、爆発的な人気を誇っていた。
今日、そのユグドラシルという世界は終わる。
理由は簡単で、ユグドラシルの人気が衰退したというだけの話だ。別に、ユグドラシルを超えるゲームが誕生したわけではなく、単に『飽きられた』ということだけだ。無限に続く人気などない。爆発的な人気であったからこそ、飽きられるのも必然だった。過疎化の果てに、運営に限界が来ただけ。どんなものにも終わりが来る。多くの未発見エリアを残したまま、十二年の歴史に幕を閉じることになった。
「シルク・タングステン」というプレイヤーもまた終わりの瞬間に立ち会うために、この世界に最後のログインをした。
精霊系の頂点である
彼のアバターの姿は、空っぽの鎧から紫炎が漏れていると評するのが適切だろうか。顔に当たる部分も炎が燃えているのだが、目や口を象った黄色の光がある。鎧を始めとする装備は黒を基調として、その姿は夜空のようだ。背中のマントは天の川をモチーフとしており、漆黒の布に数多の色の煌きがある。色からするとアンデッドっぽいが、実際はエレメンタルなのだから詐欺である。
所属するギルドは「アインズ・ウール・ゴウン」。ギルドメンバーは最盛期でも41名という少人数で、最強の一角にも数えられた伝説のギルド。1500人の大侵攻の撃退は伝説だ。唯一、世界級アイテムを二桁所持していることでも有名だろう。ユグドラシルでは、DQNギルドの代名詞として扱われてきた。
もっとも、全て過去の話だ。
ユグドラシルの人気が衰退し始めた頃、ギルドメンバーが徐々に引退を始めた。また逢えると言って去っていたメンバーが帰ってくることは、結局ただの一度もなかった。残ったのは、シルク・タングステンとギルド長だけだ。
いや、シルク・タングステンは構わないのだ。むしろ、メンバーがやめていく度に影が差してきたギルド長の方がおかしいのだ。所詮、この世界はゲーム。現実とどちらが重要かなど、比較するまでもない。彼もそれは理解しているようだが、割り切れないことは隠せていない。
今日までシルク・タングステンが引退しなかったのは、強いてやめなければならないようなことがなかったことと、ギルド長に付き合えるだけ付き合おうと思ったからだ。
「このナザリック地下大墳墓ともお別れか。何とも寂しいもんだ」
彼が歩いているのは、アインズ・ウール・ゴウンの拠点『ナザリック地下大墳墓』の内部、第九階層の廊下だ。「円卓」と名付けられた、かつてギルドメンバーで会議を行うのに使っていた場所に向かっている。
「最後の最後くらい、大侵攻のリベンジに来ると思ったんだが、希望が過ぎたか」
最後に偉業を成そうとする挑戦者が来るかもしれないとも、今日まで期待していた。
だが、誰も来なかった。不可能だと諦めているのか。それとも、別の終わり方を望んでいるのか。あるいは、かつての栄光など誰の意識にもないのか。すでに侵入者が来ても第一階層を突破するような時間すらもない。これから攻略に来るような者はいないだろう。
さすがにいくら大流行ゲームとして成功を収めたユグドラシルでも、表情を再現するシステムはない。感情表現は声以外ではアイコンを出すくらいだ。だからこそ、シルク・タングステンの寂寥感は声にこれ以上ないほどに滲んでいた。
ギルドメンバーのみが所持している指輪――リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン――を使えば、墳墓の入り口からでも目的の場所『円卓』に到着できる。それをしないのは、名残惜しさだ。皆で築き上げた地下大墳墓を、少しでも見ていたかったから。
予想外の誰かが来ていることを期待して、円卓の扉を開ける。だが、
「ここは皆で築き上げたナザリック地下大墳墓だろ! なんで皆そんな簡単に棄てることができる!」
――そこにいたのは、円卓をブッ叩きながら激情に駆られているギルドマスターだった。
モモンガ。
このアインズ・ウール・ゴウンのギルドマスターであり、最古参の一人であり、シルク・タングステンの他に最後まで残った唯一のプレイヤー。
種族はアンデッドの魔法使いでは最上位にあたる
そんな玄人プレイヤーではあるものの、彼がギルドマスターに選ばれたのは、実力以上にその性格が大きい。彼がギルドマスターでなければ、早い段階でギルドが空中分解していただろうと、古参のメンバーは口を揃えていた。そんな人だからこそ、最後まで残ってしまったのだろうし、こんな恨み言を口にしてしまったのだろう。
「あ、シルクさん……」
「……どうもです、モモンガさん。ヘロヘロさんは……もう帰られたみたいですね」
怒号の理由にはおおよその見当がつくため、あえて話題にはしないシルク・タングステン。シルク・タングステンとほぼ同時にログインしたプレイヤーの姿はすでに円卓にはなかった。
ヘロヘロとは、ギルドに籍だけを残して長い間ログインしていなかった三人の内の一人だ。ブラック企業に転職してしまい、ゲームどころではなくなったと聞いている。他の二名はシルク・タングステンと入れ違いにログアウトしたらしい。ヘロヘロが帰ってしまう前に円卓に戻ってくるつもりだったが、どうやら入れ違いになってしまったようだ。しかも、モモンガが荒れた瞬間に戻ってきてしまうとは、何てタイミングの悪い日だ。
シルク・タングステンが挑戦者を待っていたように、モモンガは仲間を待っていたのだ。モモンガは今日だけではなく、ずっとずっと待っていた。仲間が帰ってくるのを待っていた。それこそ、本当にアンデッドのように。異様なほどに、未練がましく。
「最後まで残ってくれればいいのに」
「はは、そんな無理は言えませんでしたよ。大変お疲れの様子でしたしね」
「んー、でしょうね」
モモンガの態度や空席ばかりの円卓を見れば分かる。今日という最後の日にも、誰も帰ってこなかった。残り時間から考えて、これから誰かがログインする可能性は限りなく零に近い。そして、それはモモンガにも分かっているようだ。
「シルクさんと二人だけってのはちょっと寂しいですね。皆、忙しいんでしょうけど」
ギルドに加入した時は、まさかギルマスと二人で最後の瞬間を迎えることになるとは思わなかった。こういう役目は、「最初の九人」が担うものだと思っていたから。
「あ、そういえば、シルクさん。どうでした? 例のオークション」
今日という栄光の締めくくりの日、今の今までシルク・タングステンがこの場所にいなかったのは、とある商人ギルドが開催していたイベントに参加していたためだ。
すなわち、最終オークション。もっとださい正式名称があるのだが、省略する。
つまり、ユグドラシルの金貨を最後に使いきってしまおうとする者達のイベントだ。ポーションのような有り触れたアイテムを億単位で買うような者もいれば、伝説のプレイヤーのアイテムに全ギルド資金を投げ込むような者もいた。
そして、シルク・タングステンも、己の個人的な金貨をすべてつぎ込んであるアイテムを手に入れた。
「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれました、モモンガさん。見よ、これこそが我がアインズ・ウール・ゴウン第十二番目にして最後のワールドアイテム……『太陽の雫』だ!」
ユグドラシルにおいて、最高ランクのアイテムとは『ワールドアイテム』に他ならない。二百種類あるが、それらすべてが一点もののアイテム。世界一つ分の価値があるとすら言われ、バランスブレイカー的な能力のアイテムがいくつもある。一つ所持するだけで、そのギルドの知名度は跳ね上がる。アインズ・ウール・ゴウンという例外を除けば、一つのギルドの最高所持数は三つである。
ただし、最高のアイテムといっても能力はピンキリである。
「おお! って、『太陽の雫』ですか……」
「何ですか、その反応。いえ、何が言いたいかはわかるんですけどね。こいつの能力がしょっぱいって言いたいんでしょう?」
ワールドアイテム『太陽の雫』。見た目は、太陽を象ったネックレスだ。本体も鎖も細かい装飾がなされている。ワールドアイテムの中でも微妙系に数えられるものだ。
ユグドラシルにおいて死ぬことは、レベルダウンと装備アイテムのドロップを意味する。『太陽の雫』を装備した者は、このデスペナルティをどちらともなくすことができるのだ。加えて、復活魔法による蘇生にボーナスが付く。……ただ、その程度の能力ならば課金アイテムやスキルで代用できる部分が多い。そのため、このアイテムは微妙系ワールドアイテムの汚名を与えられる羽目になった。ただ、そんなアイテムだからこそ、シルク・タングステンの個人資産で入手できたとも言える。
ワールドアイテムの中でも特にバランスブレイカーと言われる性能のアイテム『二十』もオークションには出ていたが、落札額がアホみたいなことになっていた。
「シルクさん。提案なんですけど、折角ですから第十階層で最後を迎えませんか? 多分、残り時間じゃ誰も来てくれないと思いますし」
「いいですね。ここで終わるのも悪くないですけど、この際ですから」
本当にそう思っているのではなく、シルク・タングステンはモモンガのしたいようにすればいいと思っているだけだ。ギルドメンバーが自分達だけになってから、実質一人で頑張ってきたような者だ。それくらいの労いはするべきだろう。
「あ、でも、その前に最後に第八階層に行っていいですか?」
「第八階層ですか? 別に構いませんよ。先に行って待ってますね」
「へーい」
円卓の席から立ち上がったモモンガは部屋に飾ってある杖に目を向ける。
スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。ヘルメス神の杖ケリュケイオンをモチーフにしたギルド武器。モモンガに合わせて作られた武器でありながら、ただの一度もその力を振るうことがなかった。製作には尋常ではない労力と手間を要し、かつての仲間の中には計画の中断を提案した者も多かったほどだ。
一瞬それに手を伸ばそうとして、止める。皆の努力の結晶を自分の意思で勝手に持ち出していいのか悩んでいるのだろう。変なところで律儀な男である。だからこそ、シルク・タングステンはその背中を押してやる。いつもの会話より、現実世界での素に近い喋り方で。
「モモンガさん。最後の日くらいワガママやれよ」
「シルクさん、でも……」
「『アインズ・ウール・ゴウン』は多数決のギルド。今は二人しかいない。モモンガさんは持って行きたくて、俺は持っていって欲しい。それに、その杖は元々アンタの物なんだぜ? あ、別にモモンガさんのことを思っているわけじゃないんで。苦労して作った杖が使われることなく消滅するのが勿体ないと思っただけなんで。勘違いすんな」
「……はは、じゃあお言葉に甘えて」
おそらく自分がいなければ悩みつつも勝手に持ち出したであろうと、シルク・タングステンは考える。
「行こうか、ギルドの証よ、いや、我がギルドの証よ」
立ち去るギルド長の後ろ姿を見送りながら、シルク・タングステンは指輪を使用し、第八階層へと転移する。
■
転移が終わり、第八階層『荒野』へと到着した。
かつて、このナザリック地下大墳墓には1500人という桁外れの人数による大侵攻が行われたことがある。それはゲーム史上始まって以来の一大イベントだった。大侵攻までは第六階層より先に入られたことはなかった。そして、あの大侵攻を止めてみせた階層こそ、この第八階層である。
「さてと」
アイテムボックスから、録音機能を持ったマジックアイテムを取り出す。特に特別な機能はなく、音声を記録するだけのものである。
シルク・タングステンは周囲に人の気配がないことを――念の為に――確認して、音声を再生する。
『いやだああああああ!』
録音機から流れる音声は、絶叫。あるいは悲鳴。あるいは苦悶。あるいは憤怒。そこには絶対的なまでの絶望があった。
この音声は、かつてのあの日――ギルド八連合および傭兵ギルド総勢1500人が、この場所――ナザリック地下大墳墓第八階層に流れた音声。とても『ゲーム』で流れていいような声ではない。まさに、阿鼻叫喚と言うに相応しいものだ。何百という人間が一斉に奇声を上げたのだ。声だけでありながら、どれほどの地獄が展開されているか想像できる。それほどの『悲鳴』だった。
『ふ、ふざけんな!』
『あ、有り得ないって!』
『うわああああああ!』
『運営仕事しろ!』
『助けて……!』
『こ、こんなの、違法改造だろ!』
『チートどころじゃない! こいつら頭おかしい!』
『どんだけ課金したんだよ!』
『糞が糞が糞が糞があああああああああ!』
あの栄光の証。41人の力の結晶。あの日の伝説は、確かにユグドラシル全体に轟いた。いや、他のゲームにさえ響いた。ムービーを見たものでさえ悲鳴を上げたという。公式メールがパンクするほどの抗議がされたとも聞く。他のギルドのダンジョンでさえ、そのようなことは滅多になかったはずだ。
「ああ、いい悲鳴だ」
素敵すぎる、と嘯くシルク・タングステン。彼は今、満ち足りていた。彼の二十年以上の人生の中で、絶対に忘れられない瞬間が三つある。内二つはユグドラシルに由来するもので、かの大侵攻撃退はその一つだ。
「あーあ、結局、一回だけだったなあ」
そう、彼が最後まで侵入者を待っていた理由の一つがこれだ。あるいは、見たかったのかもしれない。どうやってこの第八階層を攻略するのかを。まあ、無理だろうが。
そこまで考えて、彼は自嘲する。他人の不幸でしか中身を満たせない、あまりにも空っぽな自分を省みて。思えば、生まれて初めて『幸福』を意識したのも、他人の不幸からだった。
「……行くか。あんまり待たせるのも悪い」
ただ、こうしてギルドマスターと共にギルドメンバーの大切なものを守っていられただけ、少しだけ中身ができたのかもしれない。
■
指輪の力を発動して転移すると、シルク・タングステンは長い廊下を歩く。途中ですれ違うメイド達や、クリスタル型モンスター、ゴーレムを眺めながら、それらを作りだした時のことを思い出す。
感慨に耽りながら、勢い良く玉座の間の扉を開いた。
ナザリック地下大墳墓は設定上、転移が禁じられている。例外がリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンなのだが、その指輪でもナザリック地下大墳墓の中心部である玉座の間には転移できないようになっているのだ。よって、直接転移することはできない。折角来たというのにギルドマスターはこちらに気付かず、なにやらコンソールを覗き込んでいた。
「ま、まあ、最後だしな……」
「どーも、お待たせしました、モモンガさん」
「どわあああ! し、シルクさん、は、早かったですね」
「ん? いや、むしろゆっくりしていたつもりですけど。時間もギリギリですし」
何故か慌てた様子のモモンガを一瞥して、シルク・タングステンは異変に気付く。異変といっても、何か問題があるというほどのことでもない。
第十階層の玉座にはいないはずの、執事長のセバスと戦闘メイド達だ。彼らは第八階層が突破された相手に対して時間稼ぎとして第九階層に配置していたNPCだ。このナザリックの最終防衛ラインは第八であり、最深部の玉座の間まではギルドメンバーが侵入者を待ち構えるための時間稼ぎとしての意味しかない。
だからこそ、彼らには製作されてから出番が一度もなかった。モモンガが彼らを玉座まで付き従わせたのは、仕事をせずに消えることになる彼らを哀れんだからだろうか。
無論、所詮はデータであるNPCにそんな感情を抱くのは不適切だ。だが、しょうがないことだ。それほどの愛着を抱くほど、このナザリックには手間をかけたのだから。だからこそ、彼らの製作者が最後の瞬間に立ち会ってくれなかったことが、無性に寂しい。モモンガほど思い入れが強いわけではないが、皆無ではないのだ。
「今日くらいは俺たちの好きにしても、皆許してくれますよね」
「さらっと俺を共犯にしないでくれ。まあ、反論はねえけどさ」
続いて、支配者の片割れの視線は、その玉座の傍らに佇む美女に向けられた。
ナザリック地下大墳墓階層守護者統括のアルベド。このナザリックに配置されているNPCの中では最強の盾。製作者の気合いの入れようが分かるほどの絶世の美女にして、悪魔。ただ、問題なのは装備されている世界級アイテムだ。
宝物殿に厳重に保管されているはずの最強アイテムの一つ。アルベドの持つ杖はそういう類のものだ。頻繁にログインしているはずのモモンガやシルク・タングステンでも気付かず、いつの間にかこの美女に装備されていた。モモンガは外そうとも考えたが、結局、装備させたメンバーの意思を尊重してそのままにするようだ。
一言言ってくれればいいのに、と内心でぼやきながら、シルク・タングステンも気にしないことにした。軽い悪戯のつもりだったのだろう。そして、その悪戯の意味ももうじきなくなる。
付き従えてきた執事長と戦闘メイドたち、アルベドをひれ伏させて、モモンガは玉座に腰掛けている。シルク・タングステンはアルベドとは反対側に佇んだ。
玉座に座すモモンガの姿は魔王――『悪』と謳われたこのギルドの長に相応しいものだった。その傍らに立つものが自分で相応しいのかと悩むシルク・タングステン。加入時期が遅かったが故の葛藤である。
不意に、モモンガが天井から垂らしてある大きな旗に骨の指を向ける。合計41枚の御旗。それらはギルドの紋章とは別に、ギルドメンバー41名のサインが刻まれた旗。
「たっち・みー」
「確か、モモンガさんはたっちさんに助けられたのがきっかけなんですよね。結局、俺は一回も勝てなかったな」
「死獣天朱雀」
「最年長だけあって、色々とためになることを話してくれましたね」
「餡ころもっちもち」
「あんこさんといえば、あのペンギンを作った時は笑いました。ペストーニャはガチ回復構成なのに」
「ペロロンチーノ」
「あの人との猥談、結構楽しかったです」
「ぶくぶく茶釜」
「何だかんだで、茶釜さんには頭が上がらなかったなあ」
モモンガが旗に記された人物の名前を挙げる度に、シルク・タングステンもまたその人物との思い出を口に出す。
モモンガが最後に指差したのは、太陽系をモチーフにしたサインが刻まれた旗。即ち、シルク・タングステンを示す旗だ。
「シルク・タングステン」
「ええ」
「……今日まで付き合ってくれてありがとうございました」
「いや、別にモモンガさんのために残ったわけじゃないですから。勘違いしないでください」
でも、最後に、これだけは言っておこう。シルク・タングステンはそういう思いを込めて、モモンガの旗を指差す。
「楽しかったですよ、モモンガさん。ありがとうございました」
改まって言うには気恥ずかしい台詞だ。だが、今日で最後なのだ。モモンガと逢うにも、モモンガに何かを言えるのも。
――『シルク・タングステン』という存在が消える瞬間まで、この身はアインズ・ウール・ゴウンとともにある。
そんな誓いを嘯いて、41人の一人になった。
カッコつけ過ぎですよと、聖騎士に笑われた。いや、俺達の仲間に相応しいと、大悪魔に褒められた。それよりエロについて語ろうと、翼王が言うと、黙れ弟と、粘体が諌めた。あの日の全てを、一字一句覚えている。だが、あの誓いも今日で終わりを迎える。
自分が最後の二人の片方になると確信したのはいつからだろう。たっち・みーに『モモンガさんのことを頼みます』なんて言われた時だろうか。ウルベルト・アレイン・オードルが『シルクさんが残るなら安心です』と去った時だろうか。やまいこから使用権が一回だけ残った『流れ星の指輪』を託された時だろうか。武人建御雷や弐式炎雷、ペロロンチーノから大量の課金アイテムを譲ってもらった時だろうか。るし★ふぁーから他のギルメンには秘密にしている悪戯トラップについて教えてもらった時だろうか。
そして、誰もが考えたように、誰かが言ったように、シルク・タングステンは最後まで残ってしまった。深い思い入れがあるわけではないというのに、それほど長い付き合いというわけでもないのに、今こうしてモモンガと一緒に最後の瞬間を迎えようとしている。
……モモンガがユグドラシルより大切な物を見つけて、自分が最後の一人になれば良かったのだ。あるいは、自分が去ってもモモンガとともに残るようなメンバーがいれば良かったのかもしれない。だが結局、最終日まで付き合うことになった。別に、恨み言があるわけではない。ただ、気がかりなだけだ。
ああ、本当に、どうしてここには自分がいるのだろう。どうしてモモンガの隣には、自分しかいないのだろう。
これでは何も報われないではないか。結局、自分もこの場所を去った三十九人と同じだ。このギルドマスターに、何一つ報いることができなかった。
モモンガからの返答はなかった。だが、感極まったような雰囲気がアバターから伝わってくる、ような気がする。もし本当にそうならばどんだけ入れ込んでいたのだろうか。
だけど、別れの言葉は言わない。もう時間もない。それに、自分ではどうしようもない。明日も早いのだ。すぐに寝ないと仕事に差し支える。それもまた、モモンガの望むことではない。
時計の時間を見れば、カウントダウンの余裕さえもなかった。
23:59:59
ああ、これでおしまい――――
――――ではなかった。
「……ん?」
「あれ?」
どうやら、シルク・タングステンにとって最大の人生の転機が訪れたようだ。もっとも、これから送るそれが、「人生」と呼べるものかは分からないが。