オーバーロード―死の支配者と星の裁定者―   作:逆真

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個人的に、モモンガ様には怒って欲しくないけど、仲間への想いがゆえにブチ切れるシーンが好きです。

それと勘違いしないでよね! ンフィーレアなんて嫌いじゃないんだからね!(好きとも言っていない)

まあ、こんなことになったのは作者がバットデンド症候群を患ったハッピーエンド至上主義者だからですね。
原作で不幸な目にあった誰かに幸福になって欲しいと思いつつ、どうしてもそのしわ寄せを別の誰かに負ってもらいたいと言いますか。

でも、皆様がご期待しているような結末にならないかな。
今回フラグが折れますし。


星獣転生

 絹花さんの死を知ったとき、驚きとか悲しみとか怒りは感じなかった。今も感じない。納得が一番大きかったかな。あるいは、残念とかそんな感じ。

 

 ああ、そうなんだって、あっさりしたもんだった。

 

 酷い話なんだが、どうでもいいとさえ思った。

 

 一秒後には死にそうな人だったからな。というか、初対面の次の日に死ぬとかねえわ。どう見ても穏やかな死に方じゃなかったのに、満足そうに微笑みながら死んでんのな。全身から出血してんのに、全く悲痛さを感じない死とかやばすぎるだろう。

 

 だからこそ、あの人の死は必然だ。死を恐怖しない人だったから、死を拒否しなかった。生物として落第だよ。あの人の死を悼むなんて、そんなことはできない。それはやっちゃいけないことだ。笑って見送ってやらないとな。せめて、俺と会ってから死んだことに感謝してさ。

 

 あの人は、痛みも苦しさも否定せず、死さえも受け入れた。多分、あれが世界の全てを愛するってことなんだろうよ。悪意さえも受け入れたら、そりゃ死ぬよ。殺されるよ。愛って感情は取り扱い注意の危険物だぜ。何を勘違いしていたんだろうね、あの人も。他人の悪意とは許容するものじゃなくて、利用するものだろうにさ。

 

 恩人がひどい死に方をしたのに欠片も同情できねえじゃねえか。あの人の尊さは、残酷すぎる。

 

 俺が代わりに死にたかったとは思わない。もし俺が死んだらあの人が生き返るとか言われても、俺はそれに応じないだろうな。だって、俺の命の使い方は、もう決まっているんだ。あの人に、そうあるように願われたから。いや、呪われたと言った方が正しいのかな。

 

 死ぬことは恩返しなんかじゃないんだから。死んだところで、怒られるだけだ。

 

 俺は、世界を好きになると決めたから。それが出来るようになるまでは、何があっても死ぬわけにはいかない。あの人の言葉を否定するわけにはいかない。変わりたいと思った。俺はあの人の願いが、美しく正しいと感じたからじゃない。義務じゃない。運命でもない。誓いなんて堅苦しいものでもない。

 

 あの人の言ったことが素敵だったから、そうあろうと決めた。

 

 だけど、もう一度会いたいよなあ。また意地悪な笑顔で残酷に優しくして欲しい。はっはっは、我ながら未練がましいぜ。

 

 ああ、だから俺はお前を作ったんだろうな、ローラ。結局、俺も寂しいんだろうな。どっかの誰かじゃないけど、ハムスターでも飼おうかな。いや、獣だとペットロスが怖いから、魚にしよう。

 

 

 

 

『巨大ハムスター?』

 

 ハムスケを服従させた日の夜、モモンガは宛がわれた家でシルクに連絡を入れていた。今日あったこと(ンフィーレアの戯言を除く)を話すと、シルクはやや音が外れた声でそこに食いついた。

 

『え、森の賢王ってハムスターだったの?』

「ええ。良ければ、ローラへのプレゼントにと思いまして。シルクさんが王都にいる間はカルネ村に預けておく予定ですけど」

『巨大ハムスターねえ。どのくらい大きいの? ビーバーくらい? まさかカピバラくらいあるんじゃないでしょうね』

「いえ、馬くらいあります」

『巨大すぎるわ! 何食ったらそんなに大きくなるんだよ!』

「肉食らしいですよ」

『げっ歯類って基本的に草食のはずじゃん? ネズミは実際にはチーズなんてあんまり食べないんだぜ。なのに、肉食ってどういうことだよ。それ、ハムスターの体をした別の生物なんじゃない?』

 

 モモンガもそう思うが、あれは誰がどう見てもハムスターだ。この世界の人間やNPCには立派な魔獣に見えるそうだが。

 

『あー、そうだ。俺もモモンガさんに伝えたいことがあるんだけどさ。本当はもうちょっと色々調べてから報告しようと思ったんだけど……』

「どうしました?」

『モモンガさんが例のポーション渡した女って、金髪かな? ちょっと猫っぽい』

「いえ、名前は聞いていませんけど、赤系統の髪だったと思いますよ。あと、猫というより猛牛でした」

『へえ……。じゃあ、やっぱり確定かな?』

 

 シルクが声を低くする。

 

『モモンガさん、プレイヤー見つけたかもしれねえ』

「え?」

『例のンフィーレアくんだっけ? 彼の家つうかバレアレ店に、なんか張り込みしてる奴らがいるんだってさ。監視を頼んだ恐怖公の眷属が見つけた。で、こっそり見に行ってみたんだけど。そいつらどうも精神操作されているみたいなんだよねー』

「精神操作、ですか?」

『そうそう。で、恐怖公の眷属に色々探してもらった結果、さっき言った金髪の猫っぽい女が操っているみたいなんだよ。俺としては、その女がプレイヤーか、その手先じゃないかと思うんだよ。いや、バレアレ家に因縁を持つ相手かもしれねえけど、赤いポーションの話に食いついたのかも』

「成る程……」

 

 モモンガの中では、あの糞餓鬼の死は決定している。バレアレ家に禍根のある相手ならばどうぞご勝手にと言いたいが、目的が赤いポーション、この世界でいう『神の血』であった場合、少々厄介なことになる。

 

『どうする? 俺は明日の夜にエ・ランテルから出る予定だったけど残ろうか? 王都行きは延期してさ。いや、宿屋には言ってある滞在予定を考えると、延期って言い方もあれだけど。ソリュシャンに癇癪起こしてもらうのを明後日の朝にしてもらえばいいわけだし』

 

 モモンガは思案する。確かに、それが安全な判断だろう。王都行きを『予定通り』にしたところで不審に思われる可能性はないはずだ。せめて相手の目的が何かを明確にしておく必要がある。動物の尾か枯れ草か分からないものを自分から踏む必要などないだろう。

 

「いえ、今晩中にその女の正体を暴きましょう」

『今晩? 随分急だね』

「相手の目的が赤いポーションだとしましょう。まだ見張りはいるんですよね? だったら、相手はまだ『冒険者モモン』に辿り着いていないということ。相手の居場所が分かっているなら、後手に回ることこそ悪手です」

 

 仮にプレイヤーではなくとも、獲物を他人に盗られるのは癪だ。

 

『……おっけい、ギルマス。エ・ランテルの墓地は分かる? でかいとこ。その近くの門の外で待っているよ。衛兵に見つからないようにねー』

「ええ、ナザリックにいるNPCも……警護の問題もありますから、シャルティアを呼びましょう」

『了解』

 

 連絡を切り、モモンガはコキュートスやルプスレギナに視線を向ける。

 

「コキュートス、ルプスレギナ」

 

 本名を呼ばれたということは、冒険者モモンとしてではなく、ナザリック地下大墳墓の支配者モモンガとしての態度ということだ。二人はほぼ同時に姿勢よく跪く。

 

「「はっ!」」

「私はこれからエ・ランテルに行く。朝までには戻るつもりだ。念のため、影武者としてパンドラズ・アクターが来るようにしておくから、上手くやってくれ」

「「はっ!」」

 

 二人が了承するのを受けて、モモンガはナザリックへと連絡を入れる。アルベドにナザリックの警戒レベルを上げさせつつ、シャルティアをエ・ランテルに、パンドラズ・アクターをこちらに来るように伝える。

 

 パンドラズ・アクターにモモンの姿を取らせ、モモンガは自分の最強装備へと姿を変える。

 

 モモンガは《転移門(ゲート)》を発動して、一気にエ・ランテルの目的地の墓地へと飛ぶ。無論、人の目がないことは魔法で確認してある。

 

 すぐにシルクやシャルティアと合流する。シャルティアの挨拶もそこそこにさせて、早々に状況を確認する。

 

「シルクさん、話の女は?」

「あそこの霊廟。恐怖公の眷属に潜入してもらっているけど、中が隠しダンジョンみたいになっているみたいだぜ」

「成る程。さあ、鬼が出るか蛇が出るか」

「案外、ネズミしかいなかったりして」

「……さっきのハムスターの話、まだ引き摺ってます?」

 

 

 

 

 一時間後。

 

 エ・ランテルの墓地の最奥にある霊廟。その隠し地下室で、ある男が女を抱き締めていた。ただし、それは恋人の抱擁などではなく、バケモノの拘束だった。

 

「どんな気分だ? 魔法詠唱者に身体能力で負けている気分は? スッといってドス、で決着が付かなかった気分は?」

「な、なめるなぁ!」

 

 女の名前はクレマンティーヌ。

 

 元スレイン法国秘密工作部隊群漆黒聖典第九席次である。

 

 現在、彼女は国を裏切り、その追っ手を振り切ろうとしている最中だった。どうせならば派手なことをして追っ手の目をそちらに向けている間に逃げようと考えていた。そのために、ズーラーノーン十二高弟の一人であるカジットに協力することで大禁術『死の螺旋』を発動させようとしていたのだ。

 

 クレマンティーヌの手には国を裏切った際に行き掛けの駄賃として手に入れた『叡者の額冠』がある。これを使い、第七位階魔法『死の軍勢(アンデス・アーミー)』を発動すれば死の螺旋を起こせる。このアイテムは使用可能な者が限られているが、この都市にはどんなアイテムでも使用可能な生まれながらの異能(タレント)を持つンフィーレア・バレアレがいる。どうしてか今晩は都市にいなかったが、見張りをつけておいた。あとは追っ手を警戒しつつ彼の帰りを待てばいいだけの話だった。

 

 なのに、突然現れた死の大魔法使い(エルダー・リッチ)に邪魔された。

 

 死の大魔法使い(エルダー・リッチ)は突然現れたかと思えば、何やら意味の分からないことを言ってきた。だが、クレマンティーヌの勘が告げていたのだ。こいつはやばいと。そして、得意の刺突をした結果がこれだった。

 

 死の大魔法使い(エルダー・リッチ)は本来、魔法能力に長けているため純粋な戦士であるクレマンティーヌの方が肉体的には上のはずだ。だが、抱き寄せられるような拘束はびくともしない。殴りつけたり武器で攻撃するが、全く効いている様子がない。

 

 カジットは死霊(レイス)らしきモンスターと戦っているが、切り札である骨の竜(スケリトル・ドラゴン)もすでに倒されている。弟子達はおぞましい数のゴキブリの群れに襲われていた。

 

 アンデッドの軍勢を召喚しようとしたらアンデッドに妨害されたなど笑い話にもならない。

 

「あまり動くな、鬱陶しい。――麻痺」

 

 死の大魔法使い(エルダー・リッチ)の放った魔法によってクレマンティーヌの身体が凍りつく。否、これは凍りついたのではなく、麻痺だ。

 

「あ、あ……」

 

 女が動けなくなったことでモモンガが腕の力を抜くと、女はそのまま地面に倒れる。その時、女の服から何かが落ちた。

 

「ん? 何だ、これは?」

 

 モモンガが拾い上げたのは、蜘蛛の巣のようなサークレットだ。この女には妙に似合わないので少し気になったモモンガは《道具上位鑑定(オール・アブレイザル・マジックアイテム)》を発動して、アイテムを鑑定する。

 

「何々……叡者の額冠? 成る程……。ユグドラシルでは再現不可能なアイテムだな」

 

 サークレットの効果は、本来のレベルでは行使不可能な位階魔法を使用可能にするというものだった。ただし、着用者の目を潰さなければ使用できない上、その自我を封じる。おまけに、外した場合は発狂する。発狂させずに自我を戻すには、破壊するしかない。

 

 ほとんどガラクタだが、ユグドラシルにはなかったアイテムというのがモモンガのコレクター魂を刺激した。折角だからもらっておくことにする。モモンガは探知魔法対策を施して、サークレットをアイテムボックスの中に放り込む。

 

(近くにシャルティアに待機してもらっているけど、過剰戦力だったかな。探知魔法対策に反応がないってことは、カルネ村の時みたいに誰かに覗き見されているわけでもないみたいだし。結局、シルクさんの心配が過ぎたってことだったのかな。それにしても、こいつらは何でバレアレ店を見張っていたんだ? まあ、あんな糞餓鬼の家だ。人から怨まれることも多いんだろうな)

 

 モモンガがそう考えていると、シルクがバツの悪そうな声で話し掛けてきた。

 

「モモンガさん、ごめん。加減を間違えちゃった」

 

 シルクの手には頭の潰れた魔法詠唱者がぶらさがっていた。

 

 死体の名前はカジット・バダンテール。デイルという洗礼名もあったが、現在は捨てている。ズーラーノーンという邪悪な秘密結社が誇る十二の高弟の一人ではあるが、彼の強さは“この世界”の基準で高いものだ。彼がアンデッドになったところで、シルク・タングステンの敵ではない。むしろ、脆弱すぎて殺してしまったほどだ。骨の竜(スケリトル・ドラゴン)が切り札だと知った時は反応に困ってしまった。

 

 シルクは多くの拘束魔法を習得しているが、一部の拘束魔法はダメージを伴う。自分の攻撃力がユグドラシル基準では低いことを知っているシルクは誤ってダメージを与える魔法を使用してしまったのだ。加減することもできたのにそれを怠ったのは彼の失態だ。

 

 貴重な情報源であるはずの彼の死体を見ても、モモンガはどうでもよさそうだった。戦闘前の軽い問答で、彼は捨て駒だと判断したためだ。

 

「馬鹿確定でしたから問題はありませんよ」

「そういう問題?」

「ええ。口はこっちの女がありますし、大丈夫ですよ。あ、ついでだから、あれを試してみてはどうですか? こっちの女と同等くらいならば二十くらいはあるでしょうし」

「試すって……ああ。星獣転生ね」

 

 モモンガが首肯する。

 

「おっけい。まあ、今回はテストだし、補助系の能力はいらねえだろう。ギリシャ、北欧、スラヴ……いや、クトゥルフだな。じゃあ、特殊技術発動だ。『星獣転生』――邪影魚(ダゴン)!」

 

 星の守護霊(アストラルガーディアン)の特殊技術、星獣転生。ユグドラシルの公式によると、『死せるものに新たなる命を吹き込む神の御業』という設定らしい。死体を必要とするという点については、アンデッド創造と近いものがある。

 

 召喚系としてはかなり上位に入る部類の特殊技術だ。召喚できるモンスターの種類は多く、昆虫から悪魔、竜まで召喚できるものだ。補助系の特殊技術を発動すれば、経験値消費などの代償抜きでレベル百モンスターを作ることさえ可能である。

 しかし、星の守護霊(アストラルガーディアン)にはモンスター召喚は同時に九体までしかできないというペナルティがある。これは星獣転生だけではなく、他の特殊技術や魔法も入る。このペナルティがゆえに、転移後の実験を行うことを控えてきた。モモンガのアンデッドが死体を素材にした場合には、存在し続けたためだ。それに、相応しい死体がなかったというのもある。

 

 空中に七色の靄が出現すると、カジットの死体に降りかかる。それは複雑に形を変えていき、やがて消滅する。

 靄があった場所には、醜い半魚人がいた。例えるならば、手足の生えたピラニア。あるいは鱗の生えたカエルだろうか。素材となったカジットの面影はない。ぴくぴくと鰓が動き、口には不恰好な牙、手には水かきがある。ぬめりのある粘液が薄っすらと光っていた。

 星獣のレベルは素材となった死体のレベルに上乗せする形になるが、今回は強化していないため、この半魚人のレベルは四十にも届かないといったところだ。

 

 呆然とした様子で半魚人は自らの身体を見る。そして、正面のシルクを見据えると、その瞼のない眼球から滂沱の涙を流す。

 

「――神よ」

 

 その言葉を発すると同時に、カジットは地面に平伏した。突然のことに困惑するシルク。まさか喋るとは思っていなかったのだ。NPCを彷彿とさせる態度だが、これはシルクが予想していたものではない。魔法で召喚したモンスターやモモンガ謹製のアンデッドとは何かが違う。

 

「……え?」

「かつては水神を信仰し、現在は邪神を信仰しておりました。しかし、私は間違っていました。貴方様こそが、真に崇拝すべき至高の神! 私が探し求めていた答え!」

 

 カジットは確かに死んだ。そして、目の前の神の手によって甦らされた。しかし、カジットの生命力は弱体化していないのだ。それどころか、以前よりも強い生命力に溢れている。

 

 復活魔法で生き返った場合、甦った死者は死の前よりも弱体化してしまう。だからこそ、一定の生命力がない者は復活魔法を使っても生き返ることはできない。だが、現在のカジットは弱体化どころか強化されている。つまり、生命力を奪われるどころか与えられているのだ。人間でなくなったことなど些事である。元々、カジットはアンデッドになろうとしていたのだから。

 

 カジットは理解できた。この神の力ならば、母を甦られることができると。

 

「と、とりあえず、事情を説明してもらえるか? お前は誰で、どうにしてここにいて、何をしようとしていたのか。何で、俺の御業が欲しいのか」

「は、はい、神よ! 私はカジット・バダンテールと申します!」

 

 カジットは全てを喋った。自分の目的である母の蘇生から、ンフィーレア・バレアレを使った死の螺旋発動の計画まで、全てを。

 

 全てを聞き終わったシルクは一度だけ重々しく頷いた。――自分にももう一度会いたいと思っている女性がいるから同情したというわけではない。断じて、そうではない。あの人のために、人は殺せないのだから。

 

「何卒、何卒私にその御業を授けてくださいませ! 身の程知らずであることは重々承知でございます。御身に歯向かった愚も理解しております。しかし、その御業を授けてくださるならば、私の全てを捧げます! 私は母を生き返らせたいのです。どのようなことでもします。どうかご慈悲を、神よ!」

「……うーん。無理だな。これは教えてどうにかなる技術じゃねえ」

 

 その言葉にカジットは絶望する。ようやく答えが見つかったというのに、自分では届かないというのか。だが、目の前の神は手を差し伸べてくださった。

 

「ただしだ。お前、第十位階魔法の知識、知りたくはないか?」

「だ、第十位階魔法……?」

 

 それはまさに神話の領域。例え永遠の命を得たところで、知り得ることは困難を極めたであろう力。否、絶対に得ることなど出来なかっただろう。もしこの神以外に言われたならば信じなかっただろう。

 

「知識を与えてやる。それをどう活かすかはお前次第だ。それで良ければ、絶対の忠誠と交換で授けてやるぞ」

「はああ! 御方のご慈悲に感謝いたします! 絶対にして永遠の忠誠を誓います! どうぞこのカジットめをお使いください!」

 

 この世界のそこそこの魔法使いゲット、と内心でほくそ笑むシルク。

 陽光聖典の生き残りよりは勝手が良いだろう。それに、もっとも欲しかった情報の一つ、復活魔法にも詳しいようなのは嬉しい誤算だ。

 

 それにしても、この結果には驚いた。

 生前の記憶や体験がそのまま残っているとは。彼だけが特別だと考えるのは無理だ。このスキルはそういうスキルだと判断した方が正しいだろう。死者から情報を引き出すには便利かもしれないが、逆を言えば甦らせた相手を説得する必要があるわけだ。創造された瞬間からモモンガに忠誠を誓っているアンデッドと比較して使い勝手が悪過ぎる。それともこれは、補助系特殊技術を発動していないからか。陽光聖典で実験しなくて良かったかもしれない。

 

 今後も検証の必要があるが、『上限九体』の縛りがあるため迷うところだ。今回の件を見るに、あまり強いモンスターを作ることも危険だと思われる。万が一自分達やNPCに害を及ぼすことがあってはならないのだから。

 

「お前には俺達の家に来てもらうとしよう。荷物まとめて来い。ここは破棄してもらうが問題は?」

「ございません。直ちに準備いたします」

 

 シルクが急いで走っていくカジットを見送っていると、モモンガも彼を見ていた。

 

「星獣転生ってああなるんですね。俺のアンデッド作成とは全く違う。興味深いけど、使う相手は選ばないといけませんね」

「だね。しかし、今回は見事に空振りだったねー。悪かったね、モモンガさん。無駄な労力を割かせちゃって。すまないな、恐怖公。わざわざお前を呼ぶほどのことでもなかった」

「いえ、シルク様。御身のお役に立てるならば、この程度は苦労に内に入りません。むしろ、我輩の眷属達も久し振りに人間を食して満足のようです。それよりも、よろしいのですか? あれは」

 

 恐怖公の言うあれとは、シルクによって新しい命を与えられた男、カジットのことだろう。

 

「構わないさ。現地の価値観や知識は必要になってくる。あれはあれで価値があるのさ。俺達に攻撃したと言っても、ダメージなんて受けてないし、アポなしで訪問したこっちが悪いからな。それに、裏切ったら殺すだけだ。それらしい素振りをしたら食っていいぞ」

「畏まりました」

「あ、モモンガさん。重ねて申し訳ないけど、ちょっとお願いがある」

 

 シルクはモモンガに黒い物体を差し出してきた。カジットが死ぬまでは大事に持っていたものだ。甦ってからはどうでもよくなったのかその辺りに放っておいたものを、シルクが拾っておいた。

 

「俺じゃ効果は分からないから鑑定お願い。特殊技術に引っ掛からないからトラップ系の効果がないってことは分かるんだけど」

 

 シルクから手渡された黒いオーブは改めて見ると河原にでもありそうな不恰好な石に思えた。モモンガは再び《道具上位鑑定(オール・アブレイザル・マジックアイテム)》を発動して、アイテムの効果を見る。

 

「死の宝珠……インテリジェンス・アイテム?」

「え? その石ころ、知性あるの?」

「ええ。効果は俺達から見たら微妙ですけど」

 

 何か喋れと小突くと、頭の中に声が響いた。

 

 ――お初にお目にかかります、偉大なる死の王よ。そして、崇高なる命の王よ。御二方に出会えたことを、この世の全ての死に感謝します。

 

 それ以上何かを言う気配がないので、モモンガはもしかしたらと思い口に出す。

 

「発言を許す」

 

 ――感謝いたします、深き死の御方。高き命の御方。

 

 何を以って、自分達を「死の王」や「命の王」と呼ぶのか。アンデッドやエレメンタルに対するお世辞のつもりなのだろうか。

 

 ――私は今まで多くの者に死を与えるために生み出されたのだと思っておりました。しかし、御二方を前にして私は初めて自分が生まれた理由を悟りました。御二方にお仕えするために私は生まれたのだと。

 

「ふうん? モモンガさんはともかく、俺はエレメンタルだぞ? アンデッドみたいな死とは対極だろうに」

 

 ――ええ、本来ならば貴方様のような存在は私の敵対者なのでしょう。しかし、私がこれまで見てきたどんな命よりも、貴方様は超越していらっしゃる。死の王と肩を並べていることこそ、貴方様の偉大さの証明。すなわち、貴方様こそはあらゆる命を統べる者。私の役目は、死の王と命の王に歯向かう愚者に死を与えることだと考えた次第でございます。どうか、御二方の忠実なシモベの端に私を並べていただけますようお願い申し上げます。

 

「大仰な奴だな。で、モモンガさん、こいつどうする?」

 

 モモンガは思案する。女の方が持っていたサークレットもそうだが、このようなアイテムは、ユグドラシルには存在しなかった。安全を考慮するならば、破壊すべきだ。しかし、モモンガのコレクター魂が勿体無いと叫んでいる。それに、これらを研究することでこの世界の魔術の仕組みを知り得るかもしれない。

 

「探知魔法対策を施して、ナザリックに持って帰りましょう。喋られるなら、色々と教えてくれるでしょう」

「おっけい。じゃあ、そういうことで。いやー、明日の予定変更しないですんで助かったわー。まあ、変更したところで何も痛いことなんてないんだけど」

「恐怖公。引き続きバレアレ店の監視は続けておけ。これから本当にプレイヤーが来る可能性も零ではない。私は一度ナザリックに戻って、そのままカルネ村に向かう」

 

 モモンガが一度ナザリックに戻るのは死の宝珠をアルベドに預けるためだ。近くに待機しているシャルティアに託すのが手っ取り早いのだが、彼女は取得している職業のペナルティで低級アイテムを持つと破壊してしまう。それに、アルベドに報告すべきことも多い。

 

「畏まりました、モモンガ様」

「神よ! 荷物をまとめて参りました!」

「モモンガさん、彼もお願い。司書長にでも預けておいて」

 

 こうして、死の凱旋は未然に阻止された。

 

 後日、クレマンティーヌと秘宝の足跡が完全に消えたことに風花聖典が慌てふためくことになるが、そんなことをモモンガ達が感知するはずもなかった。

 

 

 

 

 モモンガがアルベドに事態の説明をしてカルネ村に戻る頃には、すでに朝方が近い時間になってしまった。

 

 影武者を務めていたパンドラズ・アクターと交代すると、何やら女のヒステリックな声が聞こえてくる。その声が聞こえてきたのがエモット家であったことに嫌な予感を覚えたモモンガは、其方に向かう。

 

「何よ……ンフィーなんて、余所者じゃない! この村のことなんて、薬草取りの休憩所くらいにしか思ってないくせに!」

 

 分かり易いくらいの修羅場が展開されていた。




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