オーバーロード―死の支配者と星の裁定者―   作:逆真

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……何で?


少女の叫び

 ローラ、俺はモモンガさんを尊敬している。絹花さんの次くらいに。

 

 だが、どうしてもあの人が本当にバカなんじゃないかと思った時が何度かある。俺が敬意を抱く人間はどうしてこうも何かしら露骨なまでのバカさがあるんだか……。まあ、モモンガさんと絹花さんじゃ全然違うんだけどさ。

 

 モモンガさんのおバカエピソードの一つが、超々レアアイテム流れ星の指輪(シューティングスター)だ。超位魔法《星の願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)》を経験値消費なしで三回まで使えるっていうアイテムなんだけどさ、こいつがガチャで出てくるタイプのアイテムなんだよ。

 

 あの人、これを得るためだけにガチャ回しまくってボーナス全部溶かしたんだってさ。言っちゃ悪いけど、バカだろ。運営も物欲センサー働かせすぎじゃねえか。運営マジ糞運営。俺も似たような経験はあるが。……サービス終わるなら返せよ、俺の半年分の特別手当。ごほん。まあ、俺のことはいいんだよ。

 

 やまいこさんはあの指輪を昼食一回分で当てたって言うのに、モモンガさんはボーナス使いきっちゃうんだもんんな。あの時の空気のまずさは今でも忘れないよ。俺も廃課金していた方だし、皆もそういう奴が多かった。だけど、あれはやり過ぎだろう。皆、ちょっと引いていたし。あんなモモンガさんでも昔は無課金だってんだから、人って変わるよねー。……ナザリックの違法建築っぷりがその結果だとしたら責めるに責められないけど、褒められた変化ではないよな……。

 

 しかも、何が笑えないってモモンガさん、そこまでして当てたアイテムを使ってないんだよな。一回も。貧乏性にも程があるじゃねえか。最後の最後で思い切って使ってもしょうがねえだろう、こんなアイテム。……いや、使わないまま最後を迎える可能性もあるのか? いや、思い切って使うよな、流石に。

 

 ちなみに、やまいこさんは三回中二回使って、残ったのを俺にくれた。まあ、俺もその残った一回を使えていないんだけどな。使い所が見つからなかった。わざわざ使うような事態が発生しなかったってことだけど。

 

 やまいこさんはこれ、どういうつもりで俺に譲ってくれたんだろうね? 使い切れば良かったのに。あーあ、全部使用済みだったらエクスチェンジ・ボックスに投げ込んでいくらになるか試したのに。善意で渡してくれたんだけど、有難みあんまりねえわー。俺、そんなにコレクターじゃねえしさ。

 

 ちなみに、俺が一番つぎ込んだガチャはドラゴンだ。爆死したけどな。……茶釜さんが当てたって知ったとき、久し振りに本気の殺意を覚えたわ。嫉妬って怖いね!

 

 

 

 

 考えれば考えるほど、シルク・タングステンという魔法詠唱者は怪しい。それがンフィーレア・バレアレが一晩考えた結論だった。

 

 まず、名前だ。シルク・タングステンだけではなく、「アインズ・ウール・ゴウン」という戦士や「デス・ナイト」というアンデッドの名前もンフィーレアは聞いたことがない。間違いなく偽名だと考えていい。人名ならともかくモンスターの名前を偽るということにはどんな意味があるのか。

 

 次に、顔の火傷だ。エンリの傷を治したのは回復魔法で間違いない。回復魔法は、信仰系あるいは精神系に属する。しかし、傷を治せるというのならば、なぜ自分の顔の火傷は治さないのだろうか。仮面で隠しているということは、好きで残しているわけではないのだろう。もしかして、そうまでして隠したい顔なのではないだろうか。

 

 そして、傷の治療や超レアなマジックアイテムが無料だったことだ。ただほど怖いものはないという。信仰系魔法による治療はそれ相応の金銭を要求しなければならないが、それをした様子もない。村長に聞いた話では、彼らへの謝礼は分割払いらしいが、契約書の類も書いていないようだ。それに、何か事情を隠しているようなニュアンスを感じた。それを指摘すると狼狽されたが、何も話してはくれなかった。

 

 やはり、シルク・タングステンやアインズ・ウール・ゴウンは怪しい。何か企みがあってカルネ村を救ったと考える方が妥当だろう。村長の態度から見て、彼と何か秘密の取引をしたのかもしれない。しかし、この村には薬草以外の特産品などない。特に大きな家畜も飼っていないし、あとは人間くらいしかいないが――。

 

(もしかして、村人の人身売買をするつもりなんじゃ……!)

 

 数年前、王国では『黄金』と呼ばれる姫のおかげで奴隷制度が撤廃された。しかし、未だにアンダーグラウンドでの人身売買は続いている。法律の穴などいくらでもある。表立っての取引はなくなったが、秘密裏の人身売買はまだなくなっていない。例えば、「奉公」という名目で無理矢理連れ去るという手段もある。そして、「転職」という名目で売りさばくのだ。

 この村の住人はシルク・タングステンに深い恩を感じている。彼が「人手が欲しい」と言えば断ることは難しいだろう。「良い給料を払う」と言われたら、人数が減ったがゆえに苦しくなった村には渡りに船のように感じるはずだ。実態がどんなものでも、彼らは詮索をしないだろう。いや、分かったとしても断ることなどできない。それほどまでに追い詰められているのだから。

 

 ンフィーレアはそのことをエンリに話すために、朝一番エモット家に訪れた。すると、エンリとネムはなぜか太陽に祈りを捧げていた。不思議に思いつつ、話があると言うと、とても不機嫌そうな顔をされた。どうやら祈りを邪魔されたのが嫌だったらしい。その態度にンフィーレアは不快感を覚えるが、我慢した。これから重要な話があるのだから。

 

 ンフィーレアは一晩かけて考えたことを話した。シルク・タングステンは危険だと。警戒した方がいいと。残った角笛も証拠品としてエ・ランテルの衛兵に渡した方がいいと。エンリは相槌も打たずに話を聞き終えると、静かに口を開いた。

 

「よく分かったわ、ンフィーの言いたいこと」

 

 その返答にンフィーレアは安堵する。これでエンリは悪い魔法使いに奪われずに済む。いや、いっそここで一緒にエ・ランテルに来るように誘ってみようか。

 

「――二度と、この家に来ないで」

 

 だが、実際はンフィーレアの考えとは逆だった。

 

「……え?」

 

 エンリ・エモットはンフィーレア・バレアレが聞いたこともないような低い声で告げる。

 

「聞こえなか……聞こえませんでしたか? お願いですから、もう二度とこの家の敷居を跨がないで欲しいって言っているんですよ、()()()()()()

「え、エンリ?」

「馴れ馴れしく呼ばないでください」

 

 エンリの肩は震えていた。恐怖ではない。憤怒だ。エンリは一度大きく息を吸い込むと、叫ぶように言った。

 

「タングステン様がそんなこと考えるわけないじゃない!」

 

 凄まじい剣幕とともに、彼女はその激怒を露にする。皮肉なことに、まるで親の仇でも見るような目をしていた。

 

「あの時、ンフィーの名前を呼んだら助けに来てくれたの? 来てくれなかったよね。来れるわけないよね。絶対に無理だよね。悪い予感さえしなかったでしょうね。この村に来るまであんなことがあったなんて知らなかったんだもんね。お父さんやお母さんが殺されて、私やネムが殺されそうになった時、ンフィーは何やっていたの? 薬草を煎じていた? 店のお得意様と御話でもしていた? それとも、昼寝でもしていた?」

 

 覚えていない。それに、ンフィーレアがいても何も事態は改善しなかっただろう。逃げるのに精一杯だったはずだ。

 

「……タングステン様は来てくれたの。助けを呼んだら来てくれたの! 私を、ネムを、村の皆を助けてくれたの! お父さんやお母さんを殺したあいつらを、私達の代わりに殺してくれたの! 必死だったよ、ネムだけでも助けなきゃって。怖かったよ、本当に死ぬかと思ったよ! 絶対にやっちゃいけないのに、ネムを見捨てようとも一瞬思っちゃったよ! それだけ怖かったの、本当に『死』が見えたの。でも、あの御方が助けてくれたの!」

 

 昨日は死んでざまあみろと思った帝国の騎士達に、ンフィーレアは別種の罵倒を飛ばしたくなった。どうしてシルク・タングステンを殺さなかったんだ。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ、エンリ! 僕はエン……カルネ村のことを心配して……」

「ふざけないで。心配って何よ……ンフィーなんて、余所者じゃない! この村のことなんて、薬草取りの休憩所くらいにしか思ってないくせに! 村がなくなっても宿がなくなるくらいにしか感じないんでしょう! なのに、勝手なこと言わないでよ! 村の恩人のことを悪く言わないでよ! お願いだから、私達の感謝を踏みにじらないでよ! 騙している? こんな辺境の開拓村にどんな価値があるっていうの!? 傷を治してくれて、角笛をくれて、血を吐いてまで戦ってくれるくらいの価値があるの!? 私達は大したお礼もできなかったのに、あの御方は構わないって言ってくれたの。あの御方の優しさを侮辱しないでよ!」

 

 問題はその大した謝礼ができなかったという部分なのだ。だからこそ、ンフィーレアは思い切って言う。

 

「も、もしかしたら、そのタングステンって魔術師はエンリの、その、か、身体が目当てなのかもしれないんだよ!?」

 

 エンリの表情に軽蔑の色が混じるが、相手はシルク・タングステンにではない。目の前にいる自分には勿体無い親切な友人だと思っていた男だ。

 

「私の身体が目当て? いいよ、別に。タングステン様が求めるなら、私は喜んで初めてを捧げられる。私にとって、タングステン様はそういう御方なの。でも、そういう発想が出てくるなんて、ンフィーレアこそ私のことそんな目で見ていたってこと? 貴方みたいな不潔な輩の欲望を、私の神様に重ねないでよ」

 

 エンリがコップを投げつけるが、勢いをつけすぎたため狙いは大きく外れる。床にこぼれた水がコップの中に戻ることはない。それは二人の関係を暗示しているようだった。

 

「大嫌い! もう二度と、私の前に顔を見せないで!」

 

 それはもう修正不可能なほどの決別だった。

 

 

 

 

「……あれ? ここはどこ? 僕は誰?」

「ここはエ・ランテルですよ、ンフィーレア・バレアレさん」

 

 気がつくと、ンフィーレアはエ・ランテルにいた。場所は見慣れた街道で、馬車の御者席に座っていた。空はすっかり暗くなり、夜になっている。

 

 そこには漆黒の剣とモモン一行の姿があった。

 

 周囲を見渡すと、見慣れたエ・ランテルの町並みだった。カルネ村にいたつもりだったが、白昼夢でも見ていたのだろうか。すでに暗くなっているため白昼夢というのが正解かは分からないが。

 

「何だか変な夢を見ていた気がします。エンリが僕のことを大嫌いだって罵るんです。はは、エンリがそんなこと言うはずないのに、どうしてそんな夢を見たんでしょう」

「……それはひどい夢でしたね」

 

 ペテルはそう言うが、実際は夢などではない。漆黒の剣の面々が難しい表情をしているのがその証拠だが、現実逃避に忙しいンフィーレアの目には入らなかった。

 

 エンリからの絶交を言い渡されたンフィーレアは放心状態だった。一応、御者はできていたが、何度か落ちそうになっていた。どうやら今の今までの記憶が吹き飛んでいるようだが。

 

 カルネ村を出る時、村人から浴びせられた視線が痛かった。不作の年の徴税官でもあんな冷たい目で見られることはないだろう。口では「エンリは言い過ぎだ」と言っていたが、それは裏を返せば似たような感情を村人全てが持っているということだ。石を投げてきそうな子どもまでいたのだから。

 実際に石を投げられなかったのは、ンフィーレアがいたからではない。ハムスケという強大な魔獣が、モモンの命令で村の用心棒になってくれたからだ。漆黒の剣だけでは石を投げられても不思議ではなかった。

 

「こんな夢を見たのも、こんなに苦しいのも、全部シルク・タングステンって奴のせいなんだ……。そうだ、そいつがいなくなれば全部元に戻るんだ……。悪いのは全部そいつなんだ……。騙されちゃ駄目だよ、エンリ……」

 

 うわ言を繰り返すンフィーレアを見ながら、漆黒の剣は小声で会話する。

 

「ニニャ、お前はどう見る? そのシルク・タングステンって人」

「正直に言えば、怪しいです」

 

 漆黒の剣は角笛のことは聞いていない。だが、帝国の騎士らしき集団と戦ったことと、その過程で吐血したことは聞いた。話の前後が混ざっているため、あまり正しくは把握できていなかったが。

 

「でも、あまりにも怪しすぎます。あの村にはそこまで価値はありませんでした。物も人もです。仮に人が目的ならもっと上手いやり方があります。強大なアンデッドを連れていたなら、どこかの豚のように、無理矢理連れていく方法だって取れたはずです。あんな寒村の事件ではエ・ランテルの衛兵も真剣に取り扱ってくれないでしょうし、冒険者を雇える財力もないようですしね」

「だな。善意も信じられないけど、悪意も感じられない。使用すると血を吐く魔法ってのに心当たりは?」

「ありません。魔法の使いすぎで頭が痛くなることはありますが、使用そのもので血を吐くというのは聞いたことがないですね。もしかして、騎士との戦闘で負った怪我をごまかしたのでは?」

「そうなのかもしれないのである。村人に心配をかけまいと吐血だと言い張ったのかもしれないのである」

「それはそれで心配になるけど……。咄嗟に良い言い訳が浮かばなかったのかもな」

「案外、間抜けな御仁なのかもしれないのである」

「もしそうなら、この状況は笑えないけどな……」

 

 本人も意図したわけではないのだろうが。漆黒の剣としては強者には興味があるが、それ以上に面倒事に巻き込まれそうなので逢いたくはないというのが共通の意見だった。

 

「では、モモンさん。我々はンフィーレアさんを店まで送っていきます」

「ええ、私達は組合の方で申請をしておきます。オーガ討伐の報酬がもらえるのは明日になるんでしたね」

 

 漆黒の剣がンフィーレアを送るのには二つの理由がある。一つは今の彼が危なっかしいからだ。もう一つは、仕事をしたという実感が欲しかったこと。自分達が同行したのは、森の中での警護や薬草取りの手伝いという意味があった。しかし、その役目はハムスケがいれば十分だったため、ほとんど働いていないのだ。

 

 ンフィーレアの馬車に積まれている宝の山にも等しい茸や木の実はすべて森の賢王のおかげだ。

 

「では、モモンさん。また明日、組合で」

「ええ。遅れないように気をつけます」

「ルナちゃーん! また明日ね!」

「ばいばいっす」

 

 ンフィーレアの馬車と漆黒の剣の姿が見えなくなると、モモンガ達は歩きだす。三人だけになったために何か会話があってもおかしくはないが、一切の無言だ。それはこれからすべき会話が人前ですべき内容ではないと重々承知しているためだ。

 

 組合で申請を出した後、数日前に宿泊した宿に部屋を取った。三人の微妙にピリピリした空気を感じたのか、初日のように絡んでくる者は皆無であった。部屋に到着するなり、ルプスレギナがこれ以上は待てないとばかりに口を開いた。

 

「モモンさ――ん。あの人間はいつまで生かしておくつもりなのでしょうか? シル……偉大なる御方のご慈悲にあのような物言いをした生物を生かしておく必要などないと思うのですが」

 

 表情や口調は真面目で冷静なものだが、その瞳の奥は憤怒で燃えていた。普段の彼女らしい語尾がないことも、その感情を如実に表していた。

 

 ルプスレギナからして見れば、あの少年は不快極まりない。こともあろうに、御方の慈悲に感謝をしないばかりか、身の程知らずにも嫉妬しようなどと。コキュートスも同じだ。普段の姿ならば顎を鳴らして警戒音を発していただろう。

 

「私もそう思う。だが、シルクさんはそう思ってはいなかった」

 

 カルネ村からエ・ランテルに移動するまでの道中、呆然としているンフィーレアや彼を気遣う漆黒の剣の目を盗んで、シルク・タングステンに連絡をした。昨夜は故意に話していなかったンフィーレアの戯言を伝えると、シルクの反応は『とにかく落ち着け。俺は気にしてないから放置しておけば』というものだった。彼曰く、『初の依頼で、依頼人が依頼直後にいなくなれば冒険者モモンの経歴にケチがつく』とのことだ。

 

 だが、その意見にはモモンガとは反対であった。

 

「そもそも、『モモン』はこれからいくらでも作りなおせるアンダーカバーだ。しかし、『シルク・タングステン』という偉大なる男の名前は本当の名前だ。この名前を知らない者など、ユグドラシルにはいなかった。アインズ・ウール・ゴウンの凶悪なる盾として、誰もが彼を恐れたのだ」

 

 “二度とサシではやりたくない”

 “シルク・タングステンがいる時だけは喧嘩を売らない方がいい”

 “あんなに割りの合わない勝利はない”

 

 ユグドラシルでは、シルク・タングステンとはそういう忌み名なのだ。誰もが彼を恐怖した。

 

 ンフィーレア・バレアレの態度からして、このエ・ランテルでシルク・タングステンの悪い噂を流す可能性もある。都市の有名人のコネを使われたら、瞬く間に都市全域に知れ渡るだろう。人の悪い噂はすぐに広まるのだから。まして、どこの誰とも分からない正体不明の不審者の悪評だ。大した素養のない者達が面白半分に尾鰭をつけて吹聴して回るだろう。

 

「偽装身分のために、あの偉大なる名前があのような小僧に貶められるなどあってはならないことだ。違うか?」

「いいえ。おっしゃるとおりかと」

「私もそう思います」

「では、すぐにでも影の悪魔(シャドウ・デーモン)に拉致させる。ナザリックに連れ帰って、色々とポーションの知識について絞らせてもらおう。ああ、生まれながらの異能(タレント)を奪えるかどうかの実験も忘れないようにしないとな。絞れるだけ絞ったら、後はアンデッドの素材にでもするか。モモンの名前にけちがつくかもしれないが、それは今後の活躍で挽回すればいいだけの話だ。それに、依頼は終わったのだしな。その後に行方不明になっても文句を言われる筋合いはない」

 

 モモンガがこのような決意をさせた最後の一押しは、シルクだ。カルネ村からエ・ランテルの道中、隠れて彼にンフィーレアからどんな感情を向けられているか説明した後の返答だった。

 

『エンリの友人だったら、俺を怨む権利があるよ。だって、俺は救えなかったんだから。彼女の両親を。無力な正義の存在価値は、悪にさえ劣る。だから、エンリやネムには俺を怨む権利があるんだよ。彼女達の友人にも俺を怨む権利はある。辛くないのかって? んー、ちょっとだけ辛いよ。けど、彼女達はもっと辛いんだよ。批難から逃げることができる俺と違って、あの子らは戦い続けないといけないんだよ。あんな子ども達が両親を急になくしたんだぜ? しかも、ろくな蓄えもないのに。俺は親から捨てられる苦痛は知っているけど、親を奪われる苦痛は知らないから。慰めの言葉さえも出てこないんだよ。それに、俺は感謝が欲しくて助けたわけじゃないからね。むしろ恨んでくれていい。それで、目の前の辛さが少しでも癒えるならそれでいいんだ。だって、俺は救えなかったんだから』

 

 戦士団は見殺しにできたが、村人はできなかった。おそらくは戦闘員かそうではないか。それがシルク・タングステンの生殺与奪の基準なのだろう。番犬が死ぬのは構わないが、愛玩犬が死ぬのは悲しむといったところか。

 

『それに俺、本当にロクデナシのヒトデナシだしねー。人を殺しても、何も悲しくはないんだ。だから、彼の言うこともそれなりに正しいんだぜ?』

 

 それにこんなことをも言っていた。

 

『それより、まずいのはカルネ村だろ。あの村、薬草以外はろくな収入源がないんだぜ。バレアレ家はお得意みたいだし、現在の状況を考えると、エンリとンフィーレアくんが不仲になるのやばいだろう。お金って場合によっては命より大事だからな。本当に身売りしないといけなくなる。あ、モモンガさんさえ良ければ、彼の記憶改竄してくれねえ? そうすれば万事解決だし。あの村はファーストコンタクトに成功したから、ちょっと親切にしたいしね』

 

 あの人は悪役になるには優しすぎる。

 

「糞が。俺の大切な仲間の優しさに泥をつける糞餓鬼が」

 

 精神沈静化で無理矢理気分を落ち着かせないと、怒りでどうにかなってしまいそうだった。しかし、そんなモモンガに突然の連絡魔法が入る。

 

『モモンガさん、時間いい?』

 

 相手はシルク・タングステンだった。定期連絡の時間ではないため、モモンガは一抹の不安を感じる。今は誘き寄せた野盗を処理しているかそれが終わった辺りの時間のはずだが。

 

 荒んだ心を無理矢理落ち着かせる。さすがに仲間に対して不機嫌をぶつけるような真似はしたくない。

 

「構いませんよ、シルクさん」

『じゃあ先に謝るわ。ごめん、モモンガさん。いや、昨日からごめんしか言ってないような気がするんだけど、ごめんなさい。モモンガさんのポーションの件をとやかく言われないや』

 

 昨日の件というのは、カジットやクレマンティーヌのことだろう。あれは確かに警戒が過ぎたが、本当にプレイヤーの可能性だってあったのだ。この状況下ではあれくらいの警戒はして然るべきであり、責められたことではない。それに、星獣転生の実験やこの世界の魔法の情報が手に入ったのは大きかった。

 

 だが、あれにはまた別に問題が起きたということだろうか。

 

「どうしたんですか、シルクさん」

『あー、野盗の中にそこそこ強い奴がいてさ。そいつを素材に星獣転生で悪魔を作ったんだけど……』

 

 種族を悪魔にしたのはモモンガの話を聞いていたからだろう。トブの大森林が荒れている理由を悪魔のせいにしてしまう計画のためだ。悪魔を倒すことでエ・ランテルに森を警戒させないようにするとともに、モモンの名声を高めようとするためだ。陽光聖典を襲撃した悪魔と同一視させることで、スレイン法国の注意を逸らそうという狙いもある。

 

「やっぱり、星獣転生で作ったモンスターは自我があって使いにくいって話ですか?」

『いや、そうじゃなくてさ。ああ、自我に関しては、特殊技術をいくつか使ったら自我は薄れたよ。二つほど使えばほとんど残滓は残らない感じかな。昨日は全部切っていたからあんな結果になったんだと思う。そんで、そいつにしばらく森で暴れるように言ったんだけど……』

 

 いつにも増して歯切れの悪いシルクだったが、やがて観念したように口を開く。

 

『誰かに倒されちゃった。レベル五十くらいにしたから油断してたわ。今度こそマジでプレイヤーかもしれねえ』

 

 この世界ではレベル三十程度でも珍しいほどに、全体のレベルが低い。そして、レベル差とはユグドラシルにおいて絶対的な概念の一つであり、レベルが十違えばまず勝ち目はなくなる。

 

 しかし、レベル五十のモンスターが倒されている。その意味を理解したモモンガは驚きの声を上げた。

 

「はあ!?」




御方、ンフィーレアどころじゃなくなるの巻。

やったね、たなぼたの執行猶予だよ。自覚がないから意味はないけど。
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