オーバーロード―死の支配者と星の裁定者―   作:逆真

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魔樹戦は原作とほぼ同じなので省略。
コキュートスとシャルティアのテンションが違うくらいで、他は同じなので。


目覚め

 シルク一行が王都に到着して一週間が過ぎた。

 

 現在、シルク・タングステンは王都高級住宅街の一軒にいる。周辺の館と比較すると小さいが、それでも三人が住むには広すぎる。遠方の大商人の家族という設定のため、かなりの額で借りた館だけあって、部屋はかなり豪華だ。ナザリックを知る者からすれば鼻で笑うレベルだが、元々一般庶民であるシルクにとっては良い緊張を味わえる贅沢さである。

 

 王都にいる間は基本的に人間形態であるシルク・タングステンだが、この時だけは異形形態だった。人間型をした紫色の炎。黄色い亀裂のような閃光が顔を描いているが、それが形を変えることはない。主装備である鎧ではなく、群青色のローブ姿だが、太陽を象ったネックレスはそのままだ。

 

 シルクの目の前には、十代前半と思わしき少年が跪いていた。いや、正確に言えば、人間の少年のように見える生物だ。かなり癖の強い緑色の髪に、やや褐色に近い肌、黒い瞳。貼り付けたような無表情だが、人形や昆虫というよりも植物を彷彿とさせる雰囲気。存在感が強い癖に、そこにいることが自然であるかのような感覚がある。あるモンスターの死体からシルクが新しく生み出した己の眷属、星獣である。

 

 セバスやソリュシャンは別室で情報の整理を行っている。

 

「ってことで、お前は指示した場所で暴れて来い。ただし、その姿は誰かに見られるな。本来の姿で一通り暴れたら、今の姿になってどっかに身を隠せ。マーキングはしておくから、適当なタイミングで回収してやる。デミウルゴスから借りた魔将が裏方にいるから、お前は暴れるだけでいい」

「承知しました、我が王」

「そうか、頑張って来い」

「全ては王の御心のままに」

 

 シルクは星獣を《転移門(ゲート)》で目的地まで送り出す。

 

 シモベの姿が完全に靄の中に消え、靄自体も消えたところで、シルクは溜め息を吐き出した。その様子は予算の使いすぎを後悔する企画部長のようだった。

 

 特殊技術で人間化し、ソファに腰を落とす。異形形態だとそもそも疲労しないのだが、人間形態の方がなんとなく精神的な疲労は小さい気がするのだ。人間としての残滓がそうさせるのかもしれない。

 

「ふう、もう三つも枠を使ってしまったぜ」

 

 シルク・タングステンの種族的ペナルティの一つ、モンスター召喚の制限。それがシルクの選択肢に関して、大きな枷となっていた。上限九体というのは多いようで実は少ない。ユグドラシル時代、シルクはモンスター召喚をあまり多用するプレイヤーではなかったため、それを実感することはなかった。だが、特殊技術でモンスターが永続的に存在するこの世界において、九体というのは少なすぎる数だ。

 

 一つはカジットに使った。実験的に転生させた彼だが、司書長曰く、魔法やマジックアイテムの研究に大きく貢献してくれているそうなので、潰すことは躊躇われる。

 

 エ・ランテルで悪魔を二体作ったが、どちらとも死んでいるため埋っている枠はすぐに空いた。しかし、再びマッチポンプな茶番をする必要が出た時や緊急時のために、二つの空席はキープしておきたい。そして、現在二つ埋まってしまった。また、シルクの最強の超位魔法の関係で一つは空けておく必要がある。ミリオンに身柄を預けているクレマンティーヌという女が死んだ時のためにまた一つ。

 

 よって、シルクが新しく作り出せる星獣は実質二体までだ。無論、現在埋まっている枠が空けば話は早いが、そう上手くはいってくれないだろう。いや、空いてしまう方がまずいため、そちらを願っていないと言った方が正しいか。

 

 別に、現在枠を埋めている者達に不足はない。いや、厳密には不足が色々とあるのだが、それに妥協するだけの価値はある。それにしても、という話なのだ。

 

 別に、数を増やす必要はないということは理解しているのだ。しかし、モモンガやパンドラズ・アクターが特殊技術で作ったアンデッドの軍勢を見ると焦ってしまう。そういえば、もうすぐ例の蜥蜴人との戦があるはずだ。連絡がないということは、予想通りの結果になりそうだ。

 

「どうするかなあ・・・・・・」

 

 シルクは左手の人差し指にある指輪を見る。ギルメンの一人であるやまいこから贈られた、使用権が一つだけ残さられた流れ星の指輪(シューティングスター)だ。流れ星の指輪(シューティングスター)を使用すれば、召喚モンスターの枠を増やすことができるだろうか。しかし、こんなことに使っても良いのか、使っても増やせず指輪の力を無駄にしてしまうのではないか、もっと有効な使い道があるのではないかと色々と考えてしまうため、結局先送りである。

 

 シルクは流れ星の指輪(シューティングスター)とは別の指輪を見る。それは大きく赤い宝石がはめこまれた指輪だった。しかし、その宝石の輝きは奇妙だった。宝石の色が赤いのではなく、水晶のような透明度の高い宝石の中に炎のようなものが燃えているように煌いているのだ。

 

 指輪の名前は封印の指輪(スモール・プリズン)。シルクには召喚されたアンデッドを保存できる特殊技術『封印の棺』があるが、その全種族版と言ったら説明は容易だ。一度封印したらそのモンスター以外を封印することはできず、ユグドラシルではその性質上使い捨てのアイテムだった。

 

 指輪の中に封印されているのは、先ほど作り出した星獣の一体。アウラとマーレがトブの大森林で捕まえたというウォー・トロールを素材にした。特殊技術を全部使用した上、素材もそこそこのレベルだったため、現在のレベルは八十弱となっている。やはり転生の際に使用する召喚補助の特殊技術が多いほど、素材の残滓は残らないようだ。いや、生前の知識や人格だけではなく、知性まで残ってはいないようだが。実際、指輪に封印されているモンスターは、ほとんど野獣となってしまった。だからこそ、使い勝手が良い。創造主であるシルクに対して反抗するだけの思考がないからだ。忠実な飼い犬のように、与えられた命令には忠実に動く。

 この指輪に封印されているモンスターが『切り札』とするつもりだ。ユグドラシルでもそこそこの力を持つモンスターだが、この世界では神話級の怪物だろう。説得力があるはずだ。もっとも、強いモンスター頼みの指輪野郎などと揶揄されないようにしなければならないが。

 

 対して、先ほど《転移門(ゲート)》で送り出した星獣は、特殊技術による強化は行わなかった。元々のレベルが高いというのもあったが、情報を抜き出すという意味もあった。まあ、彼はそもそも『生前の記憶』という奴があまりなかったため、役に立つ情報はほとんどなかった。その代わり、召喚主と同義であるシルクに忠誠を誓ってくれたのは有り難かった。彼に先ほどの命令を出したのは、主にプレイヤーの釣りという意味がある。陽光聖典から得た情報でちょうど良い場所があったため、そこに送り出した。世界の反応を想像するとわくわくする。

 

 しかし、星獣転生はまだ実験が必要であり、大きく二つの課題が残られている。まず、武技や生まれながらの才能(タレント)といったこの世界独自の能力を転生後に受け継ぐことは可能なのかどうか。次に、プレイヤーやNPCは転生させることができるのかということだ。前者はともかく、後者は試すわけにはいかない。まさか自分やモモンガ、大切な臣下達を殺すわけにはいかないのだから。ユグドラシルでは素材の性質にもよるが、転生されたモンスターは素材の能力をいくつか受け継げた。しかし、ユグドラシル由来の能力はどうなるのだろうか。

 

「それにしても、あの時の悪魔がローラやミリオンを襲ったのは何でだ?」

 

 モモンガ達の手によって倒された二体目の悪魔。あれは陽光聖典の遺体に対して特殊技術を全て使い、人間の残滓を限りなく零にして生み出した。実際にモモンガ達と戦ったが、あれはそういう指示を出したからだ。

 

 カジットや先ほどの新入り曰く、シルク・タングステンに生み出された同族というのはオーラ的なもので分かるらしく、ローラとミリオンはそのオーラが特に大きいとのことだ。つまり、最初に生み出した悪魔もローラやミリオンがシルク・タングステンの子どもであると分かったはずなのだ。

 

 それだけ、あの悪魔の人格の残滓が強かったということだろうか。

 

 まさか、ローラやミリオンが嘘をついているとは考えられない。なぜならば、そのような嘘を言ったところで得などないからだ。いや、彼らが嘘をついたならばその理由はなんとなく想像ができるのだが、口にするべきではない。

 

「あー、武技が継承できるかどうかはあの悪魔で確認しておけば良かったな。俺のバカめ。生まれながらの才能(タレント)は、奪う価値はないけど所持していることが分かり易いみたいな能力だといいんだけど。そんな都合の良い死体はねえか」

 

 余談だが、星獣転生でレベル百モンスターを作り出すには最低でも素材がレベル五十でなければならない。しかし、この世界は高くても精々三十程度だ。王都の道中の森で色々と実験をしたが、結果は予想通りだった。無論、無駄に枠を使うわけにもいかないので、作成したモンスターはその度に潰しておいた。その際、レベル一であっても転生が可能であることが判明した。

 この世界では、レベル五(難度十五)以上でなければ復活魔法を使っても灰になるらしいので、これを利用して何か出来ないだろうか。『奇跡』と言うべき能力だ。使わなければ損だろう。まあ、復活の代償としてそれまでの生物をやめてもらうしかないのはデメリットだが。

 

「でも、奇跡の安売りをするわけにはいかんよなあ。せっかくの枠をゴミで埋めるも面白くないし」

 

 シルクとしては、この王都でどうにか金銭を稼げないかと考えている。理由は、モモンガ――否、モモンの収入だけではこの館を借り続けるのはかなり辛いからだ。現在はそれほどでもないが、この世界の金銭に関して色々と支障が出てくるのは時間の問題だ。この館を借りるのも、とんでもない出費となってしまったのだから。

 

 しかし、冒険者になるのは微妙に気が引ける。モモンの話が王都では霞んでしまう可能性があるからだ。この世界では、人間形態の自分でもそれだけの強さがある。それに、自分は『雇われの身』ということになっているのだ。あまり目立ちすぎるのも考え物だ。釣りの意味で本名を名乗っているため、プレイヤーに目立つのは良いが、現地人にまで目立つのは避けたい。ソリュシャンが『遠方の大商人の家族』ではないことがバレるかもしれない。

 

 ワーカーという犯罪者まがいの連中に落ちるのは勘弁してもらいたい。冒険者と同じ理由で、魔術師協会もやめておいた方が良いだろう。例の野盗のような無辜の民を襲う犯罪行為も遠慮したい。信仰系魔法詠唱者ではあるが、よく知らない宗教の神殿に属するのは色々とまずい。

 

 最近知ったのだが、神官が人の怪我を治す場合、それに見合うだけの金銭を要求しなければならないシステムらしい。ならば、闇医者ならぬ闇神官にでもなろうか。この世界では使い手が滅多にいないような高位の治癒魔法が使えるシルクならば、それで十分に稼ぐことが出来るだろう。売り込みが困難という一点を除けば完璧だ。

 

「あ、戦士長のコネで宮仕えとは、ないな。絶対にない」

 

 王都に来てまだそれほど経過していないため、現在は地盤を固めるのに忙しい。おまけに、転移魔法でナザリックやトブの大森林を行ったり来たりしている。そのため、ガゼフ・ストロノーフ戦士長にはまだ逢えていない。確かに、自分とモモンガは彼に貸しがある。それを返してもらう意味で仕事を紹介してもらうことは可能だろうが、あまり良い仕事はないと断言できる。

 

 カルネ村での一件以来、シルクの中では王国貴族と法国上層部の印象は最悪である。帝国騎士に偽装して何の罪もない小さな村を襲撃するような法国の工作員も間違いなく悪だが、それに便乗して王国戦士長を暗殺させようとする王国貴族も屑である。

 

 そんな貴族が跋扈する社会に出て、自分が上手くやれるとは思えない。悪意を見抜くのも利用するのも得意だが、それは対個人だ。国という大きなうねりの前では、ちょっとした見切りなどすぐに飲み込まれる。

 

 まして、自分は確かな身分を証明することもできない。冒険者のような職業を除いて、就職するのは困難だろう。やはり闇神官にでもなろうか。かの伝説の黒コートドクターの真似事でもしてみるのも悪くないかもしれない。

 

「『医者はなんのためにあるんだ』が一番好きなセリフだなあ。この世界じゃ手術は野蛮らしいけど、かの漫画の神様が聞いたら何と言うかな。そうだ。ナザリックに帰ったら図書館の漫画でも読もう。著作権切れの奴は大量にコピーしていたはずだ。はっはっは、やっぱり日本人たる者、漫画やアニメ、ラノベを愛さないとねー」

 

 その時、シルクの脳裏に閃光が走った。

 

「あの世界の話を、この世界でも通じるように内容をアレンジしたら売れるんじゃねえ?」

 

 言って二秒で諦める。シルクには王国の文字が書けない。読むだけならば特殊技術でどうにかなる。だったら吟遊詩人の真似事でもしてみようと、シルクは頭の中にある物語を振り返り始めた。

 

「今は昔――」

 

 

 

 

 そこは木で作られた一室だった。

 

「ふっふっふ。肩身の狭い思いも今日でおさらばでありんす」

 

 ナザリック地下大墳墓階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールン。銀髪の美しき吸血鬼はほくそ笑んでいた。

 

 自分がナザリックの功労者になる瞬間が来たからだ。つい先日、魔樹を倒したがあれは守護者のチーム戦だった。果たして、チーム戦というには微妙だったが。

 

 現在のシャルティアが特に嫉妬しているのは、シルクが新しく生み出した二体の星獣だ。片方はシルクの所持する指輪に封印された――つまり、四六時中一緒にいる護衛ということになる。もう片方は、詳しくは知らないが特別な指令を与えられたとのことだ。アルベドが「流石は御方ね。これほどの策を思いつくなんて」と言っていたため、その叡智が存分に活かされた計略なのだろう。

 

 御方の叡智を理解できるという点では、デミウルゴスやアルベドには嫉妬の念を禁じえない。そして、その二人をして驚嘆する頭脳の持ち主である御方々は流石としか言い様がない。

 

 そんな御方々へ、自分は崇高な勝利を捧げるのだ。これほどの名誉があるだろうか。おそらく謎の転移以来、最も栄光ある命令だ。この戦いの後、今度は自分が嫉妬される立場になるのだ。アルベドが悔しがる顔を想像して、シャルティアの顔に笑みが浮かび上がる。

 

「おい、ヤツメウナギ」

 

 だが、そんなシャルティアの気分をぶち壊す声が掛かる。同席しているシャルティア配下のアンデッド達が慌て出す。実際、シャルティアには濃厚な不機嫌さが漂っていた。

 

「何でありんす、この謹慎スライム」

「それだよ。何で俺がここにいるんだよ。普通に謹慎させろよ」

 

 ミリオンの疑問に答えたのは、シャルティアでもその配下でもなく、彼の部下という立場にある人間、クレマンティーヌだ。

 

「御方の御命令だね。分かってるくせにー。ほら、みーさんって口が悪いけど優しいからさー。副将という立場に合っていると思われたんじゃない?」

「それ、こいつがしくじったら俺に責任転嫁されるパターンのやつだよな! 蜥蜴の尻尾切りかよ」

「いや、蜥蜴はこれから死ぬ連中だって」

「蜥蜴じゃなくて蛇もいるんだよ、くーちゃん」

「・・・・・・うん。みーさんって呼ぶのも、くーちゃんって呼ばれるのも慣れてきた自分がいるよ。ところで、蛇って?」

「連中、ヒュドラを飼ってんだよ。あれが鍵になりそうなんだよなー」

「さっきから聞いていれば、もしやおんし、私の指揮する軍が負けると思っているんでありんすか?」

「控えめに言って、絶対に負ける」

 

 ぶちぃ! という音が聞こえてきそうなほどに顔に怒気を滲ませるシャルティア。

 

「みーさん、シャルティア様に謝った方がいいんじゃない・・・・・・?」

 

 クレマンティーヌだけではなく、ミリオンを除く全員がシャルティアの怒りが爆発しそうになっていることに戦々恐々としていた。それを受けてというわけではないが、全く悪びれることなく、ミリオンは頭を下げるような動きをする。

 

「シャルティア様、ごめんなさいねー。お詫びに、この戦いに負けたら俺のせいにしてもいいぞ」

「要らぬ世話だぇ!」

 

 与えられた軍は数が多いだけの雑魚軍勢。モモンガが作った指揮官を除いて、ナザリック地下大墳墓においてはPOPするものばかりであるため、どれだけ倒されても損害は零である。しかし、そんな軍勢でも蜥蜴人を滅ぼすには十分な戦力だ。

 

「ペロロンチーノ様の被造物である私に限って、失敗などありぃせん」

「そうか? 今回の軍勢だとちょいと厳しいぞ? 軽く見てきたけど、スケルトンはあの蜥蜴どもの武器と相性が悪いし、レベル的に噛み付ける奴もいたぜ」

 

 シャルティアの不安を煽るようなことを言い出すミリオン。しかし、シャルティアにどうしろと言うのか。御方々はこの軍で侵攻しろと言われた。ならば、その通りにするしかないではないか。

 

「・・・・・・問題ないでありんす。所詮、蜥蜴人でありんす」

 

 シャルティアは《伝言(メッセージ)》の魔法を使えないため、マジックアイテムを使用して指示を出す。

 

「全軍、全力で突撃するでありんす!」

 

 

 

 

 王国や帝国から見て南方に位置するスレイン法国。その最奥である神聖不可侵の部屋において、十二名の最高権力者達が円卓に座っていた。

 

 そこでは、今日も人類の行く末を守るための会議が開かれていた。人類の救済のため、人類の繁栄のため、彼らは常に熱い議論を交わしている。大きく六つの派閥に分かれていながらもその全てが協力し合えるのは、彼らの強い信仰心と正しい危機感のおかけだ。自分達が協力しなければ人類は滅ぶことを、法国の人間は自覚している。

 

 会議の議題は多い。エルフとの戦争、王国の腐敗ぶり、復活間近だと予言された竜王の手がかりなど、人類の守護者達である彼らの解決するべき問題は多岐に渡る。帝国は皇帝が優秀であるため、定時連絡で終わることも多い。そして、現在話し合われているのは、少し前に漆黒聖典を、国を裏切った女とその女が盗んだ国の秘宝についてなどだ。

 

「では、あの裏切り者と叡者の額冠の所在は不明だと?」

「ええ。エ・ランテルまでの道筋は判明しているのですが、そこからぱたりと足跡が見られません。風花聖典や水明聖典も調査していますが、全く」

「はあ・・・・・・」

 

 報告を聞いて、その場にいた全員が一斉に溜め息を吐き出した。

 

「巫女姫の穴は大きいぞ」

「せめて叡者の額冠の無事だけでも確認したいものだ」

「あれほどのマジックアイテムだ。誰であろうとぞんざいな扱いはしないだろうが・・・・・・。王国貴族やズーラーノーンの手に渡らぬことを六大神様に祈るしかない」

「では、引き続き調査は続行ということでよろしいですね?」

 

 進行役の土の神官長の言葉に、全員が重々しく頷いた。

 

「次の議題は、先日のガゼフ・ストロノーフ暗殺を妨害した謎の存在。シルク・タングステンという魔法詠唱者とアインズ・ウール・ゴウンという戦士についてです」

 

 全員の目の色が変わる。本日の議題の中でもトップクラスに重要な内容だからだ。

 

「やはり、シルク・タングステンやアインズ・ウール・ゴウンはかの者ではないのか? 特に、前者は怪しい。最高位天使を封じられる魔法など聞いたことがない。しかも、伝説のアンデッドも同時に支配していたなどとんでもない実力者だ。時期も一致する」

 

 かの者。すなわち、『ゆぐどらしる』という世界からやってくる『ぷれいやー』と呼ばれる者達。六大神や八欲王の正体である。十三英雄の数名もぷれいやーであったと伝えられている。百年ごとに降臨する彼らのことは、口伝でのみ伝えられてきた。

 

「いや、厳密には存在します。古い記録にしか存在しない信仰系に属する第六位階魔法ですが。特徴が、陽光聖典の生き残りの証言や私が魔法で見た映像と一致するため、間違いないと思われます。効果は如何なる召喚モンスターであろうと行動を封じられるというものになります」

 

 第六位階魔法。それは人類の限界とされる領域。現在では、法国の巫女姫による大儀式を除いては、帝国のフールーダ・パラダインくらいしか使えない。おそらく魔法と縁の遠い戦士長や戦士団は『すごい魔法』程度にしか思わなかったのだろうが、間違いなく英雄級の魔法使いである。

 

「相手の格が上だったことに加え、相性が最悪というわけか。陽光聖典の隊長はモンスター召喚に長けていたからこそ、最高位天使を召喚できるアイテムを預けたが、それが裏目に出たということか」

「どうかな。それしか使えなかったというなら相性の問題で済むが、攻撃魔法を使用できる可能性もあるぞ?」

「それこそないだろう。もし使えるのであれば、どうして使わなかった?」

「天使の魔法に警戒したのではないのか? あの時、彼らの敵は最高位天使だけではなく、陽光聖典がいた。相手の狙いが自分に集中させることで戦局を操ったのかもしれない」

「確かに、最高位天使が封じられたとあれば、誰であろうとその封じ手に狙いを集中させる・・・・・・。当然、ガゼフ・ストロノーフやアインズ・ウール・ゴウンへの注意は散漫になってしまう」

 

 結果的に、ニグンはガゼフの剣によって倒された。その敗因の一つは間違いなく、最高位天使が封じられたことにあるだろう。

 

「アインズ・ウール・ゴウンは戦士長と互角の戦士、というのが陽光聖典の生き残りの見解だったな」

「つまり、神人を除く漆黒聖典クラスか」

「二人ともこちら側に来て欲しいものだが、望みは薄いだろうな」

「帝国・・・・・・否、王国以外の人間の組織ならどこに属してくれても良い。そうなれば、必然的に他種族と戦うことになる」

 

 スレイン法国のやったことは何も知らない者から見れば、無辜の村々を焼き払うという非道な行いだ。仮に彼らがぷれいやーであり、村の襲撃が法国の第一印象であった場合、敵対関係になる可能性がある。人類の守り手になってもらうことが最善だが、次善としては鮮血帝の配下になってもらうことだ。帝国でなくとも、人間の国の一員になってもらえればその国に関しては異種族の心配がなくなるため、法国としては他に労力を回せるだけ助かる。ただし、王国は除く。あの国には少しでも早く滅びてもらうのが人類のためだ。

 

「まず、シルク・タングステンとアインズ・ウール・ゴウンという名前に関してはどこの組織にも見当たりませんでした。表も裏もです。そして、陽光聖典の生き残りの情報を繋ぎ合わせると、危険度が高いのはやはりシルク・タングステンということになるでしょう」

 

 確かに、アインズ・ウール・ゴウンは強い戦士だ。しかし、最高位天使を封じられ、伝説のアンデッドを使役できるという点では、シルク・タングステンの方が危険度は上だ。魔法詠唱者であるがゆえに肉体は脆弱であろうが、攻撃を与えられなければ意味がない。

 

「水明聖典からの情報で、シルク・タングステンの足取りが分かっています。どうも戦士長と別れた後、エ・ランテルで帝国商人に用心棒として雇われ、王都に向かったそうです。ただ、アインズ・ウール・ゴウンの姿は見られなかったため、現在別行動をしていると思われます」

「王都か。あの屑どもの腐敗を知って、敵愾心を王国に向けてくれたら良いのだが」

 

 追従の苦笑が漏れる。苦虫を潰したような顔で眉をひそめる者もいた。同じことを考えているからであり、その通りになると考えているからだ。

 

 王国の腐敗はこの場にいる者だけではなく、現場の戦闘員さえも周知の事実だ。シルク・タングステンが王都でどのような行動を起こすかは不明だが、それでも王国に忠誠を尽くすようなことはないだろう。あの国とは、王国貴族とはそういう連中だ。魔法使いを下に見る風潮も強い。法国としては、八本指辺りをついでに潰してくれると助かるのだがそれは夢の見すぎだろう。相手はあくまで個人なのだから。

 

「では、彼らに関しては調査をしつつ、敵対的な行動は避けるという指針にしましょう。可能であれば、こちら側に引き入れ、無理そうならば帝国に引き入れさせるように手配することに。さて、先ほどの件も関わってきますが、次は陽光聖典についてです」

 

 ガゼフ・ストロノーフの抹殺任務は、ただ失敗しただけでは終わらなかった。優秀な隊長の死という大きすぎる穴が出来たこともそうだが、より重要な問題はその後だ。戦士団から撤退できた隊員達が、謎の悪魔の群れに襲われたのだ。疲弊した隊員達では対処できない量であったため、逃走以外にはなく、結果として本国に帰還できたのは三名だけだった。

 

「陽光聖典を襲ったという悪魔はどこから沸いて出た? トブの大森林は伝説が多いが、陽光聖典を圧倒できる悪魔がいるなど聞いたこともない。シルク・タングステンが召喚した可能性もあるのか?」

「それは早計だ。敵対的な行動は避けると決まったばかりではないか。第一、何のためにそんなことをした?」

「エ・ランテルにも強大な悪魔が出現したと聞く。冒険者に倒されたそうだが・・・・・・」

「エ・ランテルといえば、あの裏切り者が消失した場所ではないか。まさか関係があるのではないだろうな」

「目下調査中です。エ・ランテルの悪魔はズーラーノーンが召喚したという情報もありますが、断定するには情報がたりません」

「悪魔の正体も重要だが、竜王国への援助はどうする? 竜王復活が予言されている現状では、漆黒聖典を動かすことは控えたいのだが」

「しかし、あの国からは少なくない額を寄進してもらっている。ビーストマンの侵攻を抑える意味でも、強い者を派遣させるべきだと思うぞ」

 

 いっそ引退した漆黒聖典の隊員に協力を要請しようかという話になった時だった。

 

 部屋の扉を激しく叩く音がする。この部屋で行われる会議は極秘であるがゆえに、透視魔法への妨害加工がなされている。連絡の魔法も入れることができない。そのため、緊急の連絡が入れば人が来るしかない。会議の途中で扉がノックされるということは緊急事態なのだろうが、それにしても妙に激しい音だ。

 

 扉を開くと、上位の神官が息を切らしながら部屋に入ってくる。明らかに様子がおかしい。彼もまた信心深い使徒のはずだ。この部屋に入室する態度は心得ているはずだが、それがない。つまりは、それほどの事態が発生しているということだ。

 

「か、会議中に失礼します! 緊急事態です! 連絡員からの報告で、破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)らしきドラゴンが発見されたとのことです!」

「何だと!?」

 

 数名が著しく動揺するが、他のメンバーは慌てた様子はない。

 

「落ち着け、我らが神の前でそのような醜態を晒すべきではない」

「左様。竜王の復活は予言されていたのだから、冷静に対応すべきだ」

 

 彼らとて内心では慌てている。しかし、自分達が慌てふためいていた所でどうにかなる問題ではない。むしろ冷静に対応しなければならない。準備はしていたのだ。六大神の加護を祈りながら、手はず通りに行動するだけだ。

 

「それで、そのドラゴンはどこに現れたのだ? トブの大森林か? それともカッツェ平野か? まさか、この神殿の近くではないだろうな」

 

 いや、この神殿の近くに出現したというのならば願ってもいないことだ。待機している漆黒聖典と最秘宝の力を以って、支配してくれる。

 

「い、いえ。それが・・・・・・」

 

 神官はある国の名前を口にする。彼自身、嘘であって欲しいと願っている様子だった。

 

「は?」

 

 その場にいた誰もが、その国の名前を聞いて愕然とする。先ほどは冷静さを失わなかった者達も同じだ。最高神官長が皆の気持ちを代弁するように、震える声で国名を呟く。

 

「竜王国、だと?」

 

 この部屋にゴキブリが紛れ込んでいない辺り、流石は法国と言えるのかもしれない。




正直、彼(?)にはドラマCDで終わるには惜しいポテンシャルがあると思うのです。竜王や神人、ナザリックを除いた存在ではトップクラスの怪物ですし。
そのため、このような形の登場になりました。実質オリキャラです。

実を言えば、不肖私が植物モンスターが大好きなんですね。
ポケ〇ンの最初の相棒はどの作品でも必ず草にしたくらいです。でも、一番好きなタイプは霊だったりする。次点で毒。
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