オーバーロード―死の支配者と星の裁定者―   作:逆真

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神よ、貴方は誰だ

 エモット姉妹と別れた後、直接村には向かわず、村を囲うようにいた――おそらく逃げようとした村人を殺す役目だった――騎士達を実験がてら殺して回る。神に祈るように手を合わせた死んだ騎士を見て、モモンガは吐き棄てる。

 

「神に祈るくらいなら、虐殺なんてしないといいのに」

「あー、そりゃ逆だわ、モモンガさん」

 

 シルクは天体観測時の変装状態だった。暗黒星雲の鎧と銀河のマントは脱ぎ、神官ではなく魔術師が着るような群青色のローブを着ている。無論、特殊技術で人間化している。

 なお、人間形態のシルクの顔には大きな火傷があるため、嫉妬マスクで隠している。この人間形態は何度か見たことがあったが、ゲーム時よりも火傷がリアルになっていた。なぜそのような外装に設定したのか聞いたことがあったが、その答えは「今、俺の中で傷がブームなんです。時代は左右非対称ですよ!」だった。

 

 変装しているのは神様呼ばわりを避けるためだろう。これまで見た騎士達の強さならば、種族レベルが無効化したこの姿でも何の問題もないため、モモンガも咎めるつもりはない。

 

「いやさ、楽なんだよー? 神様に祈るのって」

 

 無神論者のモモンガには理解できない言葉だった。むしろ、祈祷や戒律、お布施など面倒なことの方が多いと思うのだが。

 

「楽、ですか?」

「そう。こいつら人殺しに葛藤とか少なかったと思うぜ。だって、この人殺しは神様のためなんだから。悩んだり苦しんだりしないのって楽だからね。好き好んで夜魘される奴もいねえだろ?」

 

 分かるような分からないような。会社の利益のためだと言って商品や帳簿の偽造をするようなものだろうか。第三者から見れば保身のためにやっているだけにしか見えないが、本人は会社のため、多くの従業員のためにやっているんだから悪いことではないといった理屈だ。

 

「神のためだから悪くない。神のためだから許される。神のためにやっているんだから何かあっても神が守ってくれる。神に仕える自分が殺すこいつらこそが悪いのだ。だから自分は悪くない……はっ! 神を人殺しの言い訳に使ってんじゃねえよ。面倒くせえ」

 

 謎の転移から妙にシルクの口調が悪くなっている。いや、おそらくこちらが素なのだろう。ゲームが現実化した影響の一つだろうか。

 

「もしかして、シルクさん宗教関係の人だったんですか?」

「惜しい。俺は神に逢ったことがあるんだ。ああ、神ってのは比喩だぜ? 祖国に裏切られた聖女様じゃあるまいし、天の神の言葉なんぞ聞いていない」

 

 聖女云々の話はモモンガには分からなかったが、シルクが言う「神」が人間だというのは理解できた。

 

「前に話したじゃん? ローラのモデルにした初恋の女性だよ。俺の『シルク・タングステン』って名前もその人の名前を参考にしています」

「ええ……。思ったより重いですね」

 

 NPCのモデルにしたり神呼ばわりしたりアバターネームの参考にしたり、どのような女性なのだろう。

 

「その、シルクさんはあちらに帰りたいとは思わないんですか? その人に逢うために」

 

 モモンガの質問は不安から来るものだった。いつでも聞けるというのに、今、アルベドのいる前で問うべきではないのかもしれない。しかし、問わずにはいられなかった。

 モモンガとしては出来れば、ずっと一緒にいて欲しい。だが、シルクが望むなら彼だけでも現実に返すべきだ。しかし、シルクは「はっはっは」と笑った。

 

「いや、それはねえわ。あの人、もう死んでいるしー」

「重ねて重いですね!」

 

 思っていたよりやばい人かもしれない。

 

 モモンガは自分のギルドへの執着が強いという自覚はあった。しかし、シルクの「初恋の相手」への恋慕も相当なものだ。この態度からするとそこまで地雷ではないのだろうが、あまり話題にすべきではないだろう。死者の話は誰にとっても重いものだ。

 

「永遠の片思いだよ。そして、この想いが報われる必要などない。なぜならば、あの人は俺にとって太陽だ。星に手が届く人間がいないように、俺のこの感情は片思いでいいのさ」

「はあ」

「いまいち理解できていないみたいだねー。モモンガさん、多くの『好き』を知れば世界が変わるぜ? 実際、俺はそうだった。あの人から愛を受けたから、今の俺がある。良い機会だから、モモンガさんも恋とかしなよ」

「嫌味ですか? 相手がいませんよ」

「横から失礼します、モモンガ様。僭越ながら、私ならばその役目を果たせると愚考します」

 

 その言葉が、自分が設定を変更したせいだと知るモモンガは露骨に話題を変える。

 

「そ、それよりもだ、アルベドよ。私が、アインズ・ウール・ゴウンを名乗ることに対して何か思うところはないのか? 別に、モモンガの名前を棄てるつもりはないが、ナザリックの外ではこちらの名前で通すつもりだ。これは本来、私だけではなくシルクさんやお前の創造者であるタブラさんも含めた四十一人の名前なのだぞ」

「不興を買うことを覚悟で申し上げます。モモンガ様やシルク様がわずかでも眉をしかめられるのならば、自害を命じてください。……我々をお捨てになった方が、御二人を差し置いてその名前を名乗るならば多少なりとも思うところがあったかもしれません」

 

 その言葉は、モモンガの心を抉るものだった。自分もそういう感情を、ユグドラシルから去った三十九名のギルドメンバーに対して思ったことはないだろうか。

 シルク・タングステンは残ってくれたのに他の皆は俺を捨てていった、と。

 

「しかし、最後まで残ってくださったモモンガ様がその名前を名乗るというのなら喜び以上の何があるでしょうか。無論、シルク様が名乗るというのならそちらでも異存はありません。しかし、どちらかといえば至高の御方々のまとめ役であられたモモンガ様にこそ相応しいかと」

「……そうか。それは礼を言う」

 

 モモンガはシルクの顔を窺うが、仮面で顔を隠している彼の表情を見透かすことはできない。モモンガの視線に気付いたシルクは嫉妬マスクを被った顔をこちらに向ける。

 

「何でしょうか、モモンガさん」

「あ、いえ。俺も骨の部分は隠した方がいいかなあと思いまして」

「そりゃそうだね。さっきみたいに怯えられたくないでしょ」

 

 心の中で同意すると、自分は《上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)》を発動して、漆黒の鎧と巨大な双剣を創造する。この姿を変装に選んだことに意味はない。強いて言うなら、シルクが天体観測の時の格好をしていたため、自分もそれに合わせたのだ。大した敵はいないようだし。仮に強敵がいても、「相手は戦士」と錯覚させることで初手を間違えさせることができる。

 

 ちょうどその時、村の方から角笛が鳴り響く。

 

「モモンガさん、死の騎士(デス・ナイト)は?」

「まだ消えていませんね。あの程度のモンスターで大丈夫なら、村にも強い騎士はいないと考えていいでしょう。ああ、そうだ。俺は通りすがりの戦士で、シルクさんはその相棒の魔法詠唱者(マジック・キャスター)、アルベドは従者の戦士という設定で」

「おっけい。だったら、死の騎士(デス・ナイト)は俺が使っている設定にしておこうか? 俺だったら、そういう風に()()できるしさ」

「では、そういうことに」

「承知しました」

 

 そのまま角笛が聞こえてきた方まで歩いて移動する。

 

 広場のような場所には村人が集められていて、四人の騎士達は息も絶え絶えといった様子だ。騎士の死体もそれなりに散らばっている。

 

死の騎士(デス・ナイト)よ、そこまでだ」

 

 騎士と村人の視線が一斉にモモンガへと注がれる。

 

「我が名はアインズ・ウール・ゴウン」

 

 モモンガは最も近くにいた騎士の前まで歩行する。ゆっくりとした動きだが、騎士は逃げようとも戦おうともしない。すでに心が折れているからだ。戦意を微塵も感じない騎士から兜を器用に剥ぎ取り、その絶望に染まった顔を覗き込む。

 

「この辺りで騒ぎを起こすな。騒ぐようならば、貴様らの国まで死を告げにいくと諸君らの飼い主に伝えろ」

 

 騎士は滑稽なほどに首を振り続け、モモンガが顎でしゃくると騎士達は滑稽な走り方で逃げ出した。

 

 騎士達を尻目に、シルクはこっそり特殊技術(スキル)を発動して死の騎士(デス・ナイト)の支配権を自分に変更しておく。この特殊技術(スキル)は簡単にレジストされるが、本来の支配者の同意があれば簡単に支配権の変更が可能なのだ。

 

 騎士が視界から完全に消え去ったことを確認すると、村人達へと言葉を投げかける。先ほどの姉妹や騎士達の様子から言葉が通じることは確認済みだ。

 

「さて、もう安全だ」

「あ、貴方達は?」

「俺は魔法詠唱者(マジック・キャスター)のシルク・タングステン。友であるアインズとともに、この村が襲われているのが見えたので助けにきた」

 

 シルクの言葉に安堵を見せる村人達だったが、不安の色も強い。それを看破したモモンガは手段を変えた。

 

「とはいえ、ただと言うわけではない。村人の生き残った人数にかけただけの金をもらいたいのだが?」

 

 村人達の顔に、金銭的に心もとないという色が浮かぶが、その分だけ懐疑的な色は薄れていた。金銭的な目的があったという世俗的な心が逆に警戒心を解かせたのだ。

 

「さすがモモ……、アインズさん。上手いですね」

「それほどでもないさ、相棒」

 

 小さな声であったため、村人には聞こえていないはずだ。

 

「ああ、そうだ。エモット夫妻は存命かな? 向こうの方で娘二人は助けたんだけど」

 

 シルクの出した名前を聞いて、村人達は周囲にいる人間の顔を見渡す。だが、名乗り出る者はおらず、村人の顔は暗かった。誰もが歯切れが悪そうな態度だ。

 

「そうか……」

 

 やや重い気持ちでエモット姉妹がいるはずの場所へと足を向けるシルク。だが、そんなシルクの様子を見て、モモンガはふとある疑問を覚えた。

 

「そういえば、あの姿のシルクさんは種族特殊技術(スキル)が無効化されているはず……。なのに、平然と騎士を殺せたのは何でだ?」

 

 その独り言は村人はもちろん、シルクやアルベドにも届かなかった。

 

 

 

 

 エモット姉妹を回収し、アインズの魔法で記憶を改竄した後、モモンガとシルクは村長の家にいた。アルベドは家の外で騎士達の増援が来ないか警戒中である。

 

 結果として、今回の救出劇は非常に有意義だった。現地人、それも人を疑わないような相手に高い恩を売れるという最高の形でコンタクトを取ることに成功したのだから。

 

 村長が報酬を金銭で払うのは苦しいと言ったことを利用し、金銭の代わりに情報を要求した。「剣の修行や魔法の研究で世間知らずな戦士と魔術師なんです」という言葉を信じてくれた村長夫妻は色々なことを教えてくれた。

 

 得られた情報は、予想外のものだった。ユグドラシルでもリアルでもない世界ではあると薄々気付いていたが、実際につきつけられると衝撃は大きかった。

 

 まず、この村はリ・エスティーゼ王国の辺境にある開拓村、カルネ村。近くにある一番大きな都市の名前はエ・ランテル。王国は毎年隣国のバハルス帝国と戦争をしていて、ある時季になると徴兵が行われるそうだ。帝国の他には、スレイン法国がこの周辺では一番大きな国家らしいが、小さな村の村長では国や都市の規模までは分からないらしい。

 ユグドラシルには全く聞いたことがなかった地名ばかりだ。シルクは北欧神話以外にも多くの神話を多少かじっているが、やはり記憶にはない。

 

 科学技術は発達していないが、魔法がある。といっても、魔法を使える人間はこんな寒村には旅の途中で訪れることが極稀にあるだけで、多くは都市にいるらしい。ある程度大きい村ならば神官がいることもあるそうだが。識字率も高くないようだし、農具や服装から、シルク達の世界で言う中世ヨーロッパにファンタジーが混ざった世界と言えば最もイメージに近い。

 

 昔話として教えてもらった六百年前の六大神、五百年前の八欲王、二百年前の十三英雄はプレイヤーそのもの、または関係がある可能性が高いと思われた。もしプレイヤーならば百年単位の時差が意味不明だ。この正体不明の転移現象が百年ごとに発生するならば、一度に転移されるプレイヤーはどれだけの人数が転移されるのか、転移されるプレイヤーの規則性は何なのか、いずれの場合もギルドホームほど転移されるのか、プレイヤーやNPC以外の存在(レイドボスやダンジョンのモンスターなど)も転移されるのか。それに、本当に百年ごとならば百年前と三百年前と四百年前はどうなのか。知りたいことは山ほどあるが、情報が少なすぎて憶測を立てることさえ満足にできない。

 

 この村を襲った騎士は帝国の騎士の格好をしていたそうだが、アインズは法国による偽装工作の可能性も考えていた。シルクも同感である。もっとも、それぞれの国の詳しい事情が分からないようでは断定はできない。もっと別勢力の可能性だってある。王国の自作自演だって考えられるだろう。誰がどのように何をしたら利益を得るのかが把握できていないため、どれもこれも憶測でしかない。

 

(襲われた村が他にもあれば何らかの情報が手に入りそうだ。それにしても、帝国の戦争行為の一環にしろ法国の陰謀にしろ、寒村を襲う理由って何だ? 王国に与える損害より、ここまでやる手間の方が大きいだろうに。トブの大森林とやらも調べないとな。この辺りを縄張りにしている『森の賢王』ってのも気になる。何百年も生きているなら下手な人間よりも知識があるかも。時代的に十三英雄と面識があると有り難いが)

 

 この世界においては金貨、銀貨、銅貨と通貨には複数の種類があった。村長夫妻曰く、ユグドラシルの金貨に見覚えはなく、王国の金貨二枚分の重さがあるそうだ。

 

 そして、言語である。実は、日本語が通じるにも関わらず、彼らは日本語を話していなかった。というのも、聞こえてくる声と口の動きが全く一致していないのだ。そして、そのことに村長達は違和感を覚えていない。つまり、この世界は翻訳コンニャク状態ということだ。あらゆる言葉が翻訳されるなら獣や鳥の鳴き声も意味が分かるようになるのだろうか。その辺りは要検証である。

 

 シルクとモモンガが出した結論としては、この世界はユグドラシルではない、この世界にはプレイヤーらしき存在がいる、まだまだ知識や情報がたりないということだった。計画中だった調査隊はそのまま都市への潜入隊に代わるかもしれない。とりあえず、地理的に最も近く三国の要所であるという都市エ・ランテルに行く必要があるだろう。

 

 殺された村人の葬儀なども挟んだため、村長から知識を教えてもらうのが終わった辺りには夕方近くになっていた。

 死の騎士(デス・ナイト)が一定時間になっても消えないことに首を傾げたり、ナザリックから来たモンスター達が過剰だったため撤退を命じたり、至急作られた墓前で手を合わせたり、あの時鏡に映った男性こそがエモット姉妹の父親であると知って奇妙な縁を感じたり、記憶を改竄しきれなかったせいでエモット姉妹に神様呼ばわりされそうになって慌てたり、この村で過ごした数時間はシルクの人生でもベスト10入りするくらい濃い時間だった。

 村を軽く見て回り、さあ村長に挨拶をしてナザリックに帰ろうとした時だった。またしても非常事態である。

 

「何事です、村長殿」

「そ、そのゴウン様。騎士らしき集団が村に近付いていると……」

「なるほど……任せてください。安心してください、今度は特別に無料で助けますよ」

 

 村長の家に村人を集合させ、村長はモモンガらと広場で騎士達を待った。

 

 やがて、馬の蹄の音がして、姿が見えてきた戦士達。数にして二十人ほど。馬上の一団の武装に、先ほどの騎士達と比較して、モモンガとシルクは違和感を覚える。

 

「モ……アインズさん、あれって正規軍ぽくなくね? 武装に統一感がない」

「ああ。歴戦の戦士集団、あるいはまとまりのない傭兵団だな」

 

 武装集団の中で最も目を引くのは、屈強を絵に描いたような男。おそらくリーダー格であろう男が、警戒しながら前に出る。その眼光には威圧感があり、暴力を生業にしていると瞬時に理解できる。自分の視線に対して騎士と魔術師が大きな反応を示さないと理解した男は、重々しく口を開く。

 

「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。この近隣を荒らしまわっている帝国の騎士達を討伐するために王の御命令を受け、村々を回っているものである」

 

 先ほどの話に出てこなかったため、村長に聞くと、戦士長とは昔王国で開催された御前試合で優勝した人物らしい。村長も商人の噂でしか聞いたことがないため、本人かどうかは不明だそうだが。

 

「この村の村長だな? そちらにいる者達は誰なのか教えてもらいたい」

「それには及びません。私はアインズ・ウール・ゴウン。通りすがりの戦士で、この村が襲われていたため助けに来たものです」

「相棒のシルク・タングステンです」

 

 それを聞いた戦士長は馬から降り、頭を下げた。

 

「この村を救っていただき、感謝の言葉もない」

 

 戦士長の言動に、驚きの声が上がる。おそらく身分制度がしっかりされている世界なのだろう。戦士長という立場がどの程度の地位にいるのかは分からないが、身分も明らかではない者に対して頭を下げるというのは余程のことと思える。

 

 良く言えば誠実、悪く言えばバカ真面目だ。しかし、モモンガやシルクの心象は決して悪くなかった。

 

 ただ、シルクとしては先程の「この近隣を荒らしまわっている騎士達」という言葉が気になった。王国戦士長という人物の立場がそれなりのものということは、こんな寒村――住んでいる本人達には失礼だが――のために出動するのは奇妙だ。近隣で一番巨大な都市らしいエ・ランテルに戦士長が常在している場合を除いて、わざわざこのような辺境まで来るのはご足労が過ぎる。乗っている馬も立派ではあるがモンスターには見えないし、戦士達の中に魔法詠唱者(マジック・キャスター)の姿は見えないから転移で来たわけではないだろう。

 それとも、殺した帝国の騎士達が戦士長でなければ殺せないほどの猛者だったと言うつもりだろうか。あの程度の騎士がそんな力量に位置しているならば、帝国の軍のレベルを心配する。

 

「いえ、私達も報酬が目当てでしたから」

「ほう。報酬か。冒険者なのかな、ゴウン殿とタングステン殿は」

「そのようなものです」

「かなり腕の立つ冒険者とお見受けするが、寡聞にしてどちらの名前も存じ上げませんな」

「こちらは旅の途中ですから。この辺りではあまり名前が通っていないのでしょう」

「……旅の途中か。お時間を奪うのは申し訳ないが、村を襲った不快な輩について詳しい説明を聞かせていただきたい」

「もちろんそのつもりです」

 

 モモンガが了承すると、戦士長の視線は死の騎士(デス・ナイト)へと向けられる。

 

「あれは?」

「俺が支配しているアンデッドです」

 

 シルクが答えた。嘘は言っていない。創造したのはモモンガだが、現在の支配権はシルクにある。無論、支配権を返すことはすぐに可能だが。

 

 戦士長はしばらく死の騎士(デス・ナイト)を見ていたが、モモンガとシルクに視線を戻す。

 

「その仮面は?」

「あまり人に見られたくない顔なので」

「……失礼だが、顔を見せてもらっても良いだろうか?」

「構いませんよ」

「どうぞ、こんな顔で良ければご覧になってください」

 

 戦士長からの要望に、二人は特に抵抗をするでもなく兜と仮面を取る。

 

 モモンガの顔には特に反応がなかった。本来であれば骸骨の顔であるはずの彼の顔は、幻術によって作られた人間の顔に見えているからだ。幻術が有効であることは村長の家で実践済みである。幻術の顔はモモンガのリアルの「鈴木悟」の顔がそのままらしい。自分で三枚目と言っていたが、シルクの主観でもありふれた顔のように見える。これはつまり、この中にモモンガの使用する低位の幻術を見抜ける者が存在しないことを意味した。

 

 ただし、シルクの顔に対する反応は劇的だった。当然だろう、顔の左半分を覆うような巨大な火傷があるのだから。加えて、左右で瞳が違うことも大きい。特に、左目は明らかに人間の目ではないのだから動揺も大きかった。戦士の何人かが殺気立つほどだ。

 

 前持って何があっても冷静にしろとアルベドに言っておかなければ、「下等生物である人間が御方の御尊顔に対して無礼な!」と戦士を斬り殺していたかもしれない。更に言えば、戦士長が殺気だった戦士達を一睨みするのが一瞬でも遅ければ血の海が出来ていた。

 

「……部下が失礼な態度を取ってしまって申し訳ない」

「別にいいですよ。そういう反応になるとは思っていましたので。では、もう良いですよね?」

 

 返事を待たず、シルクは仮面を被るがそれを咎める者はいなかった。モモンガも同じように兜を被る。

 

『変身用の外装をこんな顔にしたのを後悔しています』

『時代は左右非対称とか言うから』

『当時はそれが格好いいと思ったんですよ。ああ、モモンガさんのパンドラに対する気持ちが少し分かったような気がします』

 

 脳内でそのような会話がされているとは知らない戦士長は至極真面目な声で問う。

 

「御二人とも黒い髪に黒い瞳ということは、南方のご出身なのかな?」

「その認識で構わないと思います」

 

 南方には黒髪黒目の人種がいると心のメモに記す。南方に詳しい人間と会話することになった時、食い違いが起きないようにする必要があるだろう。幸いにも戦士長はそれ以上出身について追及することはなかったが。

 

 そのまま村長の家で騎士達のことを話せたらよかったのだが、ことは更に混沌としていく。

 

 村が何者かに包囲されたのだ。しかも、御丁寧にモンスターを召喚している。モンスターの召喚者は服装からして魔法詠唱者(マジック・キャスター)、それも本来のシルク・タングステンと同じ信仰系だ。かなりの人数がいる。

 

 村を包囲するモンスターに、モモンガとシルクは見覚えがあった。まさかとは思い、相方に確認を取る。

 

「アインズさん、あれって天使だよな?」

「ああ。私達の知識にある天使に似ているな」

 

 この世界はユグドラシルではない。だが、ユグドラシルのモンスターが存在している。矛盾している。

 考えられるパターンは三つある。

 一つ目は、やはりこの世界には自分達以外にもプレイヤーがいる。そして、プレイヤーの手によって魔法が教えられた。この場合、現実化した以上、魔法の覚え方がゲームと同じわけではないだろう。コンソールが出ない以上、覚えられる魔法をぽんと選べるわけではないのだから。その辺りのプロセスをじっくり教えて欲しいものである。

 二つ目は、ユグドラシルの魔法は実はこの世界の魔法だったということだ。あるいは、ユグドラシルの魔法は異世界でも共通する魔法だったということ。これはユグドラシルの運営が異世界交信に成功していない限り有り得ないため、可能性は零に近い。

 三つ目は、他人もとい他モンスターの空似。これはない気がする。否定する理由が「勘」であるため、説得力に欠けるか。これに関しては魔法を使用している人物に天使の名前を聞けばすぐに判明する。もっとも、件の「六大神」が魔法を教えたプレイヤーだった場合、六百年の間に天使の名前が変化することは十分に有り得るのだが。

 

「あれをご存知なのかな? タングステン殿」

 

 モモンガ――戦士アインズ・ウール・ゴウンではなく、シルクに聞いてきたのは魔術師の方がモンスターなどに対する知識を担当することが多いからだろう。

 

「ええ。俺達が炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)と呼ぶものと酷似しています。俺も第三位階魔法で召喚できますね。……ところで、戦士長。彼らの目的は一体何なのでしょうか? こう言っては何ですが、この村にはそこまでの価値があるように思えません。敵側から見ただけではなく、王国側から見てもです。本来ならば、これは戦士長が出てくるような仕事ではないのでは?」

「……余計なことに首を突っ込みたがるのだな、タングステン殿は」

「毒を食らわば皿まで、ですよ。途中までは好き好んで首を突っ込んだわけですが、これ以上は巻き込まれた者として一応の説明が欲しいのですが?」

「成る程。ごもっともだ」

 

 ガゼフは大きく息を吐き出すと、二人を見据えた。仮面と兜のため顔色は窺えないが、視線が合ったことを感じる。

 

「御二人は現在の王国の派閥争いについてご存知か? ……存じていないか。今、王国の貴族は王国派と貴族派に別れて長年争っている。自慢ではないが、私は王派閥の中では無視できないほど大きい存在だ。王は素晴らしい方だが、その派閥にいる貴族が全員そういうわけではない。貴族派も然りだ。今回の任務にあたり、私は王より賜った国宝の武装の所持を禁じられた。戦士団の全員を連れて来ることも、エ・ランテルの衛兵に警護をさせることも、冒険者を雇って帝国の騎士を探させることも、貴族派の手回しと難癖のせいで出来なかった」

「はあ? ……と、失礼。では、村が襲われていたのは戦士長をおびき寄せて殺すための罠だったと? では、あの敵は王国の暗殺部隊か何かですか?」

「いや、あれは我が王国の者ではない。あれほどの部隊がいれば帝国との戦争でどれだけ心強いか。……おっと、すまない。帝国には毎年煮え湯を飲まされていてな……。おそらくだが、あれは法国の非公式特殊工作部隊、噂に聞く六色聖典のどれかだろう」

「六色聖典……」

 

 さらっと王国の軍には第三位階魔法の使い手さえも満足にいないことが判明してしまった。カルネ村村長の話では、王国に正規の大きな軍隊はなく、衛兵はいるが都市の護りが主で、戦争時は徴兵制で農民達を戦わせるという。そして、カルネ村の村民が特別に弱いということはないらしいが、はっきり言ってユグドラシルの観点で見れば弱すぎる。

 

 これらの話から判断するに、王国の軍事力はかなり低そうだ。下手をしたら、デミウルゴスの配下である魔将一体で滅ぼせるのではないだろうか。いや、実は切り札があるパターンも考えられる。王国戦士長さえも知らない王国の闇の部分が。……だが、先程の派閥争いの話を聞くになさそうな気がする。そんな切り札があれば、こんな面倒な暗殺はしないだろうし、帝国との戦争もそこまで押されないだろう。

 

 そもそも、この暗殺は王国と法国のどちらが主導権を握っているのだろう。流石に、法国が王国の貴族を思考誘導しているとは考えたくない。もしそうだとしたらバカすぎる。腐っている上に愚物とか救えない。

 

「ゴウン殿、タングステン殿。雇われないか?」

 

 モモンガは断ろうとした。特殊工作部隊という立場の人間が弱いわけがない。先程の騎士達のようにはいかないだろう。流石にこんな場所で死ぬことはできない。しかし、シルクからこんな提案があった。

 

『モモンガさん、こういうのはどうでしょうか? ごちょごちょ……』

『……いいですね。戦士長は人がいいようなので踊らされてくれるでしょう。けど、シルクさんって悪意のある詐欺をしますよね。相手の要望に乗った振りして、自分だけが得するようなやつ』

『いやいや。ぷにっと萌えさんには劣るよ。それに、今回の奴は危険も多いからね。相手の総合力も分からないし』

 

 いざという時はナザリックの総合火力を持って戦士団ごと全部ぶっ潰す、それが出来そうになかったら正体を隠したまま逃げるとしよう。ナザリック地下大墳墓の物理的な隠蔽工作はほとんど終わっているし、魔法による探知はワールドアイテムの効力により不可能だ。

 

「……分かりました、戦士長殿。引き受けましょう」

「おお! 本当か、ゴウン殿!」

「ええ。ただし、相手の戦闘能力が圧倒的だった場合、村人を逃がすために村に引き返すことをお許しください」

「ああ、構わない。むしろそうしてくれた方がこちらとしても安心して戦える」

 

 暗に「もしもの場合は囮になってくれ」と言われたにも関わらず、快諾する戦士長。そんな人物を利用することに、二人は何の罪悪感も抱いていなかった。




とりあえず、現時点での原作との大きな差異
・最後まで残った御方は御二人
・レベル百NPC一体追加
・パンドラズ・アクターは転移してすぐに宝物殿から出ている
・「世界征服」発言に「神になる」が追加
・エンリ、信仰に目覚める
・カルネ村を救ったアインズ・ウール・ゴウンは『漆黒の戦士』
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