希望少女の非ざる世界   作:youho

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 ※注意 ただでさえ好き放題の内容が、今回一際好き放題やっています。
     好き放題を受け入れられない方は戻って下さい。





番外編 希望に生きる例外

 

 

 

「次はあっちに行こうかしら」

 日も落ちかけた夕方頃、巴マミは日課のパトロールを行っていた。

「あっ、ちょっといいかい?」

「はい?」

 歩き出したところで声をかけられて、振り返る。そこには、スーツを来た一人の女性がいた。

「なにか?」

「いや、君、今あっちに行こうとしてなかった?」

 彼女が指さしたのは、マミの行こうとしていた路地。別に否定する理由も無いので、マミは素直に頷いた。

「ええ、そうですけど」

「あっちはやめたようがいいよ。二人組の怖い通り魔が出るって話だから」

 真面目に心配する表情を見せる女性。しかしその言葉を聞いてしまえば、マミはなおさらその先に行かなければならなくなった。

「回り道して大きい道を行くか、急ぎじゃないんなら別の日にしたほうがいいよ」

「その心配は嬉しいですが、失礼します」

 頭を下げて、マミは走り去る。

「あ……ちょっと!」

 女性は思わず手を伸ばすが、小さくなるマミの姿を見てすぐ下ろした。

「……若いねぇ」

 一つ息を吐いて、女性もマミの走った道を歩いて行った。

 

 

 

 

「ティロ・フィナーレ!」

 予想通り、その路地には魔女が隠れていた。相変わらずの手際の良さで、マミは難なく魔女を撃破する。

「よし!……って、あら?」

 魔女を撃破した。そのはずなのに、結界が消えなかった。普通なら直後に消えるのに、それどころかどんどん形を変えて……

「まさか……」

 気づいた時には遅かった。結界の至る所から出現した糸に捉えられ、マミは身動きがとれなくなってしまう。

「くっ……はぁ……!」

 胸もとのリボンを解いて操り、糸を切ろうと試みる。糸を切ること自体は簡単だが、次から次へと新しいのが伸びてきてきりがなかった。

「カタ……カタカタ……」

 そこへ出現した、さっきとは別の魔女。木の人形の手足が多関節になったような、例に漏れず気味の悪い見た目。

「魔女が、もう一体……!」

 同じ位置に二体の魔女。それはあまり起こりえないが、ありえないわけではない。一体目の魔女が大したことないと警戒を怠ったのマミの失敗だ。

 人形の魔女はマミに向けて腕を伸ばす。その腕は勢いに倣って関節が増えていき、擬似的に伸びながらマミの中心を狙う。

「あっ……くぅ……!」

 リボンで動きを止めようにも伸びる関節には意味がなく、マスケット銃で反撃しても集中できないせいか威力が出ない。あっさりと絶体絶命に陥ってしまった。

「――はぁ……」

 そこへ飛んできた一つの弾丸。それにより腕が粉砕された。

「言ったじゃない、二人組だって」

 続いて音もなく鎌鼬が発生し、マミを捉えていた糸が全て切断される。

「あなたは、さっきの……」

 マミはしっかりと着地して、助けてくれた人物を見た。その人物は、さっき路地に入らないよう注意してくれた女性。

「元気なのはいいけど、無茶は良くないよ」

 女性はゆっくりとマミに歩み寄ってくる。そう動いている間にも、喋る度に空間に弾丸が生成されて魔女を打ち抜いていた。

「あんたはもう魔力少ないでしょ。あとはあたしに任せな」

 それらしい動作はしていないのに、次々と濃い桃色の弾丸が魔女を撃つ。一つひとつの威力は弱いようだが、なにしろ数が多いうえに速度も異常に速い。魔女は怯みまくり身動きがとれないでいた。

「これは音を変化させてるの。音の振動を弾丸に変えて、速度はそのままでね」

 マミに言葉が聞こえているのは、その部分だけ変えてないからだろう。

「さて、今日は早く帰れるって言ってるからさっさと終わらせるかね」

 ピー、ピー、と二回口笛の音が響く。その音と同時に横一線、縦一線の鎌鼬が魔女を裂いた。

「これで終わり……だ!」

 言葉の音を纏めて、最後強く叫ぶと共に四つの弾丸で魔女を貫いた。そうして、今度こそ結界が消える。

「あー、結構濁っちゃったな」

 そこでやることは終わったと言わんばかりにさっさと去ろうとする女性。その後ろ姿を、マミは呼び止める。

「あ、あの!」

「ん?」

「ありがとうございました、助けてくれて」

 深々と頭を下げるマミに、女性は笑いながらひらひらと手を振る。

「いやいや。それじゃ、あたしは急いでるから」

「あの、グリーフシードはいらないんですか?」

「ああ、二つともあげるよ。あたしはそれ処理できないから」

「え……?」

 疑問を口にする暇もなく、女性はかかってきた携帯電話を耳にあてながら歩いて行った。

「……ああ、パパ? うん、今から帰るよ。ちょっと人助けしてさ…………」

 

 

 

 

 

 

「今日はお疲れ様」

 もうすぐで日も変わるだろうという深夜。子二人はすっかり寝静まり、親二人は静かに団欒を過ごしていた。

「なんのこと?」

 父親……鹿目和久からの言葉にとぼけながら、母親……鹿目詢子はお酒を受け取る。

「……魔法、使ったんでしょ?」

 お互い小さなテーブルの対面に座り、和久は呟くような声で質問しながら麦茶を口に運んだ。

「ばれてた?」

「もちろん。人助けをしたって聞いて大体察しがついたよ」

「パパには敵わないね」

 自嘲気味に笑い、詢子も小さくお酒を呑む。その手にはまる濃い桃色の指輪が、薄い月明かりに照らされ淡く光る。

「まだ大丈夫だったのに、結構濁っちゃった」

「大丈夫。あの子呼んどいたから」

 心配ないよと言わんばかりに、和久は笑顔を見せる。その笑顔に安心しながらも、詢子は少し悲しげに息を吐いた。

「珍しく『二人で呑もう』とか言い出したと思ったら、二人じゃないじゃない」

「ははっ、悪いね」

 笑いながら、和久はもう一度麦茶を飲む。その指に光るは、白い指輪。それを見て、詢子の目がジトッと変わった。

「結婚指輪、未だに買ってくれないね。あたしは買ってあげたのに」

「僕は働いてないから。それに、ママにはそれをつけてあげたじゃないか」

 和久が濃い桃色の指輪を指す。それを聞いて、詢子は一つ息を吐いた。

「これが結婚指輪だなんて、渡すの早すぎじゃないの?」

「そう? いつだっけ、君が僕と契約したのって」

「たしか――」

「――詢子が十四の時だよ」

 音もなく、唐突に女の子が現れた少女が口を挟む。いつの間にか居たというのではなく、まさに今姿を現したのだ。

「あっ、妖歩じゃない」

「毎度毎度、君は突然沸くね」

 現れたのはセーラー服の森沢妖歩。普通なら驚くべきことなのだろうか、二人にとっては既に慣れたことのようでわけもなく対応している。

「気づかれないのが私の願いだからね。突然だと思われなかったら困るよ。あっ、麦茶お願い」

「はいはい」

 二人の間に座り、妖歩は当然のように和久に頼む。和久は仕方なさそうに返しながら、しかし笑って麦茶を差し出した。

「どうも」

 妖歩は受け取って一口飲んでから、少し懐かしそうな面持ちで口を開いた。

「あれから二十年か。詢子はすっかり少女じゃなくなっちゃって、べえさんは主夫で、二人とも二児の親」

「引退したけど、今でも魔法少女だよ」

「いい加減べえさんってやめてくれないかな。僕はもうフゥべえじゃないんだから」

 そこまで気にするようなことではないが、かといって置いておくようなことではない。なので、二人はやんわりと反論した。しかし、妖歩は全く意に介した様子もなく話を続ける。

「いやぁ、インキュベーターの誰も思わないだろうね。まさか、インキュベーターが人間と結婚するなんて」

「僕も驚いたよ。魔法少女の願いが、僕を人間にすることなんて聞いた時は」

「だってそれが一番だったから。仕方ないでしょ。相手が地球外生命体とはいえ、好きになっちゃったんだから」

 ごまかすように酒を軽くあおる詢子と嬉しそうに微笑む和久を、妖歩はニヤニヤと眺める。

「懐かしいなぁ。結界に迷い込んで偶然出会った詢子とべえさん。一部始終見つつ、魔女に襲われそうになったところをかっこよく助けた私。そして、ワルプルさんを前に魔法少女へとなったのに手も足も出ずに負けそうになった詢子をカッコよく助けた私。さらにそれをあたかもなにもなかったようにしちゃう私……と愉快な仲間たち」

「酷かったよね。最初も最後も。途中はいろいろ教えてくれたりしてよかったのに」

 詢子は妖歩との出会いと、自らの願いを叶えた場面を思い出す。

 

 

《――ここ、どこ?》

 

《抜け出すのは無理だ》

 

《魔女? 結界?》

 

《僕はヒィべえ。インキュベーターという名の、地球外生命体だ》

 

《た……たすけて……》

 

《魔法少女になれば戦える》

 

《戦う? 私が?》

 

《やはり駄目だ。それは死ぬよりも辛いことなんだ》

 

《でも、このままじゃ死んじゃうよ!》

 

《ヒーロー登場!》

 

《これが、魔法少女……》

 

 

 

 

 

《――駄目だ!》

 

《嫌。私はみんなを助ける》

 

《君が傷つくのは耐えられない!》

 

《戦うのはこの一回だけ》

 

《な!? 僕を人間にする……だって?》

 

《まだ……まだいける》

 

《死ぬのだけはやめてくれ……》

 

《死な……ない……!》

 

《ヒーロー参上!》

 

《妖歩……さん?》

 

 

 

「――あんたはいいとこどりしかしてないわね」

 回想をして、詢子は冷めた目で妖歩を見る。最初はわけもわからずピンチになってから現れ、最後は覚悟の上でピンチになってから、妖歩は現れた。

「そ、そんなことないよ。ほら、出会ってからいろいろ教えてあげたじゃんよ」

 目をそらしながらの言葉だが、それは事実でもある。

 魔法少女のシステム、インキュベーターの存在理由、魔女という存在について、その他諸々。普通のインキュベーターなら話さないような内容まで全部教えていた。

「それにしても、なにからなにまで全部知ってたよね。僕が止めたくなるようなことまで」

「止めたくなる……か。普通のベーターさんならそんなことすら思わないんだろうけどね」

 魔法少女の真実は当人達にとっては知りたくない事実。しかし、インキュベーターにとっては知らなければ好都合だが、知られても問題ない事実。だからこそ、知られてしまう機会があったとしても止める理由は無い。

 ならなぜ和久は止めたいと思ったのか。その理由は簡単だ。

「インキュベーターの中で二体しかいない、人間と同等の感情を持った個体……だっけ? 私は和久しか会ったことしかないからよくわかんないけど」

 それは、普通ではないから。詢子にとってはそれが当たり前でも、全体から見れば異常の存在。それがフゥべえであり……和久。

「普通のベーターさんは、そりゃあうざいよ。言ってることは間違ってないから本当いやだ。間違ってないからと言っても、正しいとは限らないのに」

 理論的には合っているが、そこに感情が混ざると正しくなくなる。

 インキュベーターは全ての命の価値は同等と考えているが、人間は人間とそれ以外の命、さらに自分に近しい者の命とでは価値が変わる。

 さらにインキュベーターは宇宙全体を見て物事を考えるが、人間は自分の周りのみで物事を考える。だからこそ、見解の相違が生じる。

「だから、僕は隠れてたんだけどね。今ではその必要もなくなったけど」

「君は良くても、詢子が大変なんじゃないの? 娘さんのことで」

 思わせぶりに目を光らせる妖歩に、詢子は疲れたように一つ息を吐いた。

「ほんと、大変になりそうだよ。ついこのあいだなんか夜中にやってこようとしてたからね。なんか別の魔法少女が吹っ飛ばしたみたいだけど……なんか知ってる?」

「うん、知ってる。教えられないけど」

「そうかい。まあ、予想はしてたけどね。あんたなんにも教えてくれないから」

 あっさりと認めつつ何も言わない妖歩を、詢子は一切問い詰めたりせずに流す。

 詢子と和久にとって妖歩は二十年来の付き合いではあるが、しかし彼女のことはなに一つ教えて貰ったことがないからだ。

「いい機会だし、せめて何か一つくらい教えてよ」

「例えば?」

「あんたの容姿が一切変わらない理由とか、あんたと契約したインキュベーターのこととか、あんたの実力の限界とか、なにからなにまでなんでも知ってる理由とか?」

「やだよ」

 全て一瞬で一蹴。そして麦茶を飲み干して、和久に差し出した。

「おかわり」

「はいはい」

 二人の会話を眺めていた和久は、面白そうに笑みを浮かべながらコップに麦茶を注ぐ。そうしてから、真剣でかつ柔らかい目を向けながらコップを手渡す。

「そろそろ、本題に入ったらどうだい?」

「そうだね。盛大に魔法使ったんだって?」

 麦茶を飲んで、妖歩も少し声に真剣味を含ませる。

「使っちゃったよ。女の子助けるために」

 本来であれば悪いことでもなんでもないはずなのに、詢子はまるで後悔するような言い方をした。

「漏れ出る魔力を気配に変えるのにも魔力使ってるっていうのにねぇ」

 そう、詢子は常日頃から魔力を消費し続けている。魔法少女という者はその体の維持だけでも魔力を消費していくというのに、彼女は『インキュベーターを人間に変える』という願いによって手に入れた『変化』の魔法を使って、万が一にもばれる要素を排除していた。

「ほんとだね。誤って魔力使い果たしたら取り返しがつかないんだからさ」

 だからこそ、和久も余計に心配する。今の和久にはグリーフシードを処理する能力がないため、簡単に回復もできない。

「そうだよ。まあ、そんな事態がおこりそうになったら私が助けるけどね」

 根拠も何もない言葉に聞こえるが、彼女のそれは違う。現に、何度も二人は助けられていた。いいとこどりだとしても、その事実に違いはない。

 最初から最後まで、最後を迎えてもなお、今でもこうして助けて貰っている。

「てことではい、グリーフシード」

 彼女がどこからともなくグリーフシードを取り出す。

「ごめんね、いつもいつも」

 詢子も答えるようにソウルジェムを見せる。濁ったそれをグリーフシードに近づけて、透き通った濃い桃色へと変化させた。

「珍しく弱気だね。私が舵きってる限りなにも起こらないから安心しなよ」

「そうだね。あんたなら、なんでもなんとかしちゃいそうだ」

 妖歩は自信に満ちた表情でグリーフシードを消し、詢子は安心したように笑ってソウルジェムを消した。

「今もそうして、当然のようにグリーフシードを消しちゃうしね」

「これぐらいどうってことない」

 頼もしげに口角を上げる妖歩を見て、二人も安心の笑みを浮かべる。

「あんたにとってどうってことあることってなに?」

「う~ん……」

 そこで悩む妖歩。すぐに出てこないと言うことは、それほどなんでもこなせるということだろう。

「ワルプルさんぐらいかな」

 災厄の魔女と謳われる、舞台装置の魔女……通称ワルプルギスの夜。そこまでいってようやく、妖歩といえど一筋縄ではいかないということだ。とはいえ、既に倒した相手ではあるのだが。

「そんな気軽に呼べるのはあんたぐらいだよ」

 それと直接戦闘した詢子には災厄の意味がわかる。その恐怖がわかる。それをわかっていたら、その名前に畏怖の念を感じないわけがないのだ。

「いやそうだけどさ、実際倒すのきつかったんだよ」

「そう言われても、僕たちにはその様子が見えなかったけれどもね」

「ああ、そういえばそうだったね。その時は空間隔離してたから」

「ほんと、そういうこともさらっと言うわよね」

「いくら奇跡の存在とは言っても、そんな魔法少女は見たことがないよ」

 魔法少女の身だからこそ、詢子には限度というものがわかる。

 インキュベーターだった身だからこそ、和久には魔法少女という存在がわかる。

「べえさんは、私と詢子以外見たことないでしょ」

「そうだったね」

「それに詢子だって、あんたも周囲を一瞬で一掃するぐらいできるでしょ?」

「そうだけどさ」

 妖歩の的確なツッコミに二人は笑い合う。それでも、疑問は消えない。

 和久は二人以外見たことがなくとも魔法少女がどういうものかわかっているし、詢子はそれがどれくらいちからを消費するかもわかっている。それを踏まえた上で、妖歩の存在は異常なのだ。

 しかし最大の疑問は別にある。

「でも、それでもあんたは凄いよ。あんたを創ったインキュベーターを見てみたいくらいだ」

 冗談めかして詢子が言が、その言葉は本音だった。それほど多くはないが、似たようなことは何度か言っている。しかしその度にはぐらかされていた質問だ。

「あぁ、無理無理」

「……なんだって?」

 冗談を流すように軽く答えた妖歩だが、その答え方がいつもと違うことに詢子は驚くとともに聞き返した。

 いつもならば、『そのうち』や『機会があったら』といった次へと回す言い方なのに、今回ははっきり『無理』と言ったからだ。

「キリのいい日というわけじゃないけど、あれから二十年だし……そうだね。さっきは嫌だって言ったけど、私のインキュベーターについては教えようかな」

 飄々とした表情に不敵な笑みを浮かべ、面白そうに言葉を続ける。

「私のインキュベーターは、契約した直後に消したんだ」

「インキュベーターを……」

「消した……?」

 突然語られたその事実に、二人は驚きを隠せない。契約者を消したという事実に……ではなく、インキュベーターを消すことができた、という事実に……だ。

「そ。あんなのは私の行動の邪魔だからね、用が済んだら消えてもらったよ。とはいっても、あいつらを普通に消したところでどうせ復活する。だから私の能力で肉体・意識・感情・魂……生命を司るありとあらゆるものを消させてもらったよ」

 妖歩は『存在を消す』という願いによって手に入れた消滅の能力によって、本来ありえないことをやってのけたのだ。

「…………」

「…………」

「あはは。さすがに引いちゃったか」

 何も言わない二人を見て乾いた笑いを浮かべる妖歩。事実、二人はどん引きだった。

 別に彼女を嫌うとかそういうのはない。ただ、その異常さの極地点。その一部が垣間見えたような、まるで魔王の凄さを見せつけられた一般市民のような……そんな言い表せない恐怖が浮かんできた気がしていた。

「でもこれはほんとのこと。私には誰もいらないし、いてもらっちゃ困る」

 そこで区切り、いつかのように目が細められる。

「――私は、案内役だから?」

「おっと、言われちゃった」

 誰をも引き離すような孤高の瞳を向けられたというのに、急激にテンションが下がったように冷めた瞳を向け返した。

「それは今関係ないでしょ。毎回違和感ない繋ぎでそれ言うのやめてくれない?」

「ごめんね。言ってみたらなんか決め台詞っぽくって、かっこよくない?」

「言い過ぎはよくない」

 わざとらしくウインクを決める妖歩に呆れた目を放つ詢子。目だけではない。もう全体の雰囲気からして、飽き飽きとした様相が見て取れる。

「君は、結局なにが言いたいのかな。いや、なにか言いたいことがあるのかな?」

 話がまとまらない妖歩を見かねたのか、横から和久が冷静に質問をする。

「言いたいこと? ん~、そうだな」

 唇に指先をあてて考え込む仕草をすると、そのまま指を前に向けた。

「これから、大変だよ」

「…………はぁ」

 軽い調子で告げられたそれの意味がわからず、詢子は生返事をするしかない。

「だから、頑張ってね」

 言って麦茶を煽り、空になったグラスを置く。そうして、立ち上がった。

「んじゃ、そろそろお暇するよ」

「……最後に一つ、きいていいかい?」

「なにかな?」

 珍しく真剣味を帯びた和久の声。可愛らしく首を傾げて、妖歩は質問を待つ。

「そろそろ、僕の弟には会えるのかい?」

「……会えるよ」

 それだけ告げて、妖歩は存在を消した。

「そっか」

 一言、安心したように呟いてから、和久は詢子に目を向けた。

「ねえ、詢子」

「なに?」

「詢子はまどかが魔法少女になるの、反対かい?」

 魔法少女の真実を知っているというのに、娘に魔法少女の素質があるという皮肉な現実。インキュベーターが近づいたという事実がある以上、魔法少女という存在を知ることは免れない。そうなったとき、なにも知らずに魔法少女になるということも、あり得る。

「私たちにはとやかく言うことはできないけど……そうだね、もしなにか言うことができたら……」

 優しい表情を浮かべ、和久の目を真っ直ぐ見つめる。

「覚悟をしているなら、私は何も言わない」

「……僕もだよ」

 淡い月明かりに照らされながら、二人は静かに笑いあった。

 

 




はい、妖歩です。お久しぶりです。
まどかママが魔法少女で、まどかパパが元インキュベーターというぶっ飛んだ設定を繰り出してみました。
PSPのゲームに時々出てくる詢子の台詞を見てピンときて、一気に思いつきました。
伏線を張りまくって後々までとっておくというのも手でしたが、とにかく早く出したかった。てことで出しました。
オリジナルばっかに拍車がかかりましたが、それでも良いという方は生暖かい目でお願いします。

それでは。
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