「……ねえ、地味すぎない?」
放課後、うちは普通の魔法少女の動き方というのを観察してみることにした。
その対象は、見滝原三年の巴マミさん。暁美さんは見つからないというのと、巴さんをちゃんと見たことがなかったから。
スターも一緒に非干渉魔法(技名:独立存在)を発動して、学校を出るところから後をつけてるけど地味すぎる。ソウルジェムの反応を頼りに歩いて探すんだ。
『普通はこうなんだよ。魔法少女も楽じゃないってことさ』
「なに知った風に言ってるのかな」
森沢さんとウチという、楽してる魔法少女しか知らないスターには言われたくない。
(それはいいとして、なんであの二人がついてきてるんだろう)
魔女退治に行くというのに、巴さんの後ろには鹿目さんと美樹さんがいた。あの二人からは魔力を感じなから、魔法少女ではないのは確か。
さっき喫茶店で『魔法少女体験コース』とか言ってたから、たぶんなにかのきっかけでその存在を知って、才能があるとかってインキュベーターに言われたのかな。
(……こんな風に考えるより、覗いたほうがはやいかな)
過去を覗くコンタクト(技名:人生観照)を発動して、三人の過去を一気に覗く。
デパートの裏であったこと、魔法少女の才能を認められたこと、魔法少女のなんたるかを知るために勉強しているということ。そして、騙されているということ。
(あれが、普通のインキュベーターなのかな)
嘘は言ってないけど、リスクを説明せずにメリットのみに目を向けさせるその手口は、詐欺となんら変わりはない。しかも、本当に感情ないんだなぁ。
それと、あの暁美さんは一体なんだったんだろう。なんかしら目的があって行動しているのはわかるんだけど、三人の記憶だけだと情報が少なすぎる。今度ゆっくり話せるときにでも覗かせてもらおうかな。
(……楽しそう)
鹿目さんと美樹さん、楽しそうに話しながら歩いてる。巴さんも、真剣ながらもやっぱり楽しそう。なにも知らないから、ただの正義のヒーローだと思ってるから、そうやって笑ってられるんだよね。
うちには願いで手に入れた能力があるから、なんの不安も抱かずにやっていける。でもそれがなかったら、どうなっていたんだろうと考える時がある。最初は楽しく闘っているんだろうけど、いくら戦いが好きだからってずっとたたかっていられるわけじゃない。激しいなにかはないけど、次第に、ゆっくり、音もなく絶望していくのかな……とかって考えたり。
そう考えると、あの万引き魔法少女は凄かったんだなぁ。自分の所為で家族が死んだっていうのに、絶望せずに生きていられるなんて。普通だったらあそこで魔女化するはずなのに、しなかった。それは、彼女の意地なのかな。その代わり、幻覚魔法を失ったみたいだけど。
……って、そういえば、あの子の過去にはあそこにいる巴さんがいたような。喧嘩別れしたみたいだけど、どうにかして仲直りできないかなぁ。
でも、その前に巴さんが魔女化しないかが問題かな。過去を覗いてみてわかったけど、巴さんは強がってるだけで実のところ繊細な心を持ってる。魔女化するのも時間の問題かもしれない。
魔女化しても助けることはできる。生きていた時間を顕現すればいいから。もしくは、ソウルジェムがグリーフシードへと変わって魔女化するんだから、グリーフシードの時間を戻してソウルジェムに変えてしまえばいい。もしくは、過去のソウルジェムを顕現してしまえばいい。
でも、もしそうなったとき、そうしてしまっていいのかわからない。
(わかんないなぁ……)
そして長いなぁとも思う。魔女の捜索。真剣なこと真剣に考えていれば時間過ぎるかと思ったけどそんなことないし、三人に進展は全くないし。
「というか、暇なんだけど」
『僕に言われても困る』
「――やっとお終いかな」
長時間ついていって、魔女を見つけて、そっから結界を進んでって、少し手間かけて魔女倒して、お終い。真面目な魔女退治って、こんな大変なものだったんだなぁ。
「退屈すぎる。よくこんな地味なことやってられるかな」
それ以外に方法がないからやってるんだろうけど、うちだったらどうにかして楽な方法を探すかな。これじゃ自分の時間もないじゃない。
『まあ彼女の場合は他の人を連れているというのもある。一人だったらもっと素早く動くことも可能だろう』
そういえばそうだった。でもやっぱり、手がかりがソウルジェムの反応だけっていうのがネックだなぁ。
『そもそもの話、君には探す気がないだろ。考えるだけ無駄じゃないか』
「その通りだね」
それでも、目の前の事象に対して考察するのは自然なことじゃないかな。全く持って無関係というわけじゃないんだし。
「さて、じゃあ帰ろうかな」
『君はなにもやってないけどお疲れ様』
授業中、うちは暁美さんの過去を覗いた。
別に話す必要なんてなかった。後ろから見れば全部わかるんだから。
でも、長かった。長すぎた。おかげで授業全部潰した。
強く記憶に残ってる部分のみ抜き出したのに、それでも長かった。
それだけ、彼女の心には残っているということ。忘れられないということ。
何回も時間を巻き戻して……
何回も同じことを繰り返して……
何回も人が死ぬところを見てきて……
よくもまあ、めげずに頑張ってると思う。
戦うのが好きなうちでも、目の前で親友が死ぬところを見て正気でいられるとは思えない。
何回も忘れられて、何回も友達になることなんて、うちにはできない。
ただの友達 だったらどうでもいいけど、それが親友……志筑さんだったら、うちは……。
でも、それでも、親友が危険な目に会うとわかっていれば、頑張れるのもわかる。
忘れられても、怯えられても、気づかれなくても、大切なことに変わりはないから。
「――明さん」
「ん?」
「バス停に着きましたよ」
……今が下校中なのすっかり忘れてた。歩き始めた辺りまでしか記憶がない。思考に没頭しちゃったよ。まったく、暁美さんの過去が深刻すぎるから。
「随分と考え込んでましたね」
一言も話しかけないでくれて、一言もお喋りができなくて、なのに、優しくそう言ってくれた。
「ちょっとね、人生というものについて考えてた」
「それは壮大なことですわね」
しかも、こんな突飛なことを言ってもなにも追求しないでくれる。彼女のそれはなにもわかっていないんじゃなくて、話すべき事は話してくれるとわかっている信頼の現れ。だから安心できる。
「そういった哲学に正解はありませんけど、答え……見つかるといいですわね」
「うん」
そこでバスがやってきたから、うちはそれに乗り込む。志筑さんも乗り込む。
「あれ? 今日合気道だっけ?」
「そうですわ。お忘れでしたの?」
「うん、すっかり忘れてた」
危ない危ない。うっかりさぼるところだった。
日も沈みきった頃、合気道の稽古が終わった。
「――明さん、今日も付き合って頂いてよろしいですか?」
「いいよ」
合気道の稽古が終わった後、いつも志筑さんには行くところがある。それは、同じクラスの上条くんのお見舞い。
「いい加減、一人で行けるようになってよ」
毎回毎回、一人で行く勇気がないからってうちを誘わないでほしい。友達の友達だからって理由で既に無理があるのに、そこに友達の友達の友達を連れて行ったら違和感じゃないかなといつも思う。いや別に断る理由はないんだけど、いつまでもそうだと別の意味でなにも変わらないんじゃないかなぁと。
「それは無理なご相談ですわ」
それをわかっていてこんなことを言ってくるから、嫌味の一つも言えない。言うつもりもないけど。
「上条くんが退院するまで、わたくしに付き合って頂きますわよ」
いつになるんだと思う。足はともかく、あの手が治るとは思えない。足が治れば退院できなくもないだろうけど、だからといって精神的にまともに学校通えるとは思えない。
(美樹さんも、通い続けるのかなぁ)
うちは廊下の先にある、上条くんの病室の前を見る。
超能力によってなにかを戻そうとするとき、戻した際の状態が頭の中に流れ込んでくる。それでどこまで戻すか決めるんだけど、戻さずに過去を見る能力としても使うことができる。
その能力の副産物によって、美樹さんが病室に入らずに帰っていったことを知った。
(検診かなにかでいなかったのかな)
だからといって、うちには関係ないんだけど。今は上条くんいるし。
「――こんにちは、上条くん」
「志筑さんと懐さん。わざわざ来てくれなくてもいいのに」
上半身を起き上がらせて窓の外を眺めていた上条くんは、首をこちらに動かして、沈んだ声色でまるで拒絶するように言ってきた。
やばい。直感がそう告げた。ここで選択肢を間違えたら大変なことになる。
「んじゃあ、帰ろっか」
最善の選択肢は、逃げることだと見た。関われば関わるほど穴を広げることになる。下手に関わらないほうがいいんじゃない。関わること自体が間違い。
そんなことをわかっていながらあえて突き進むのが志筑さんなんだけど、でもうちは先手を打った。たとえ志筑さんでも、ここを上手く切り抜けられるとは思えなかったから。
「そうですわね。思いの外遅くなってしまいましたし、顔を見られただけよかったですわ」
だけど、それでも、関わっていくと思っていたのに、その予想は裏切られた。あっさりと、志筑さんはうちに従った。
「それでは、また今度ですわ」
ドアの前でさっさと踵を返す。
「どうしたの? らしくないんじゃないかな」
病院を出てから、うちは率直に訊いてみた。うちは逃げたかったから出たかったけど、志筑さんの表情はそんな感じじゃなかった。
「懐さんは、上条くんが落ち込んでいたのはわかりましたよね」
「うん、結構深刻そうだったね」
あれは落ち込んでいたなんてレベルじゃない。もっと酷かった。
「その理由はおわかりになりました?」
「……いや、それはわからなかったかな」
あれだけじゃ情報が少なすぎるし、過去を覗く時間も余裕もなかった。推測をたてるとすれば、病室を離れている間になにかあったんだろうけど……例えば、検診でなにか言われたとか。
「恐らく、お医者様に言われたんだと思いますわ」
考えるうちに、志筑さんは声に真剣味を増して告げてきた。
「もう二度と、指は動かないって」
それは、彼にとっての絶望。もしもそうだったら、彼があそこまでの状態になっているのも納得がいく。
もしこんな事を言ったのが志筑さんじゃなかったら『そうかもしれない』と不安になるけど、志筑さんだと『そうなんだ』と、取り乱さず、疑わず、真実として受け止めてしまう。それはうちが見た情報から納得できる結論で、その場の状況から納得できる結論だから。
「それは彼にとって大変なことですの。わたくしが一番に踏み込んでいいべき話ではないのですわ」
志筑さんならあの場を上手く切り抜けられたかもしれない。利用して自分にとって良い状況に持ち込めたかもしれない。そうだとしても、志筑さんは関わらなかったということ。それは、友達のためであり、明確に言ったわけではないけど……恋の好敵手のためなのかな。
「らしくないって言ったけど、前言撤回。相変わらずだね」
優しさなのか、プライドなのか、志筑さんが何を想ってそうしているのかはわからない。だけど、今の志筑さんの表情は、どこか……黒く見えた。
「ねぇ……」
恋は盲目と言う。もし志筑さんが周りを見ずに目の前のモノを求めるようになったら、手に入れることは容易だと思う。どんな手を使ってでも、そんな手を使ったと思わせずに。
「話変わるけどさ……」
だというのに、会話を続けてしまった。口を開いてしまった。うちが志筑さんを心配してるって、悟られてしまう。
「志筑さんは……」
言葉を選びながら、違和感のない程度にゆっくりと言葉を紡ぎながら、高速で思考する。
表情だけだったらまだ『なにかある』程度で終わったのに、声まで聞かせてしまったら心を読んでくださいと言ってるようなもの。
「もし……」
うちの気持ちが知られたら、それも含めて志筑さんは上手くやってしまう。誰かを絶望におとしめるなんて親友にはやってほしくないのに、うちがそれに気づくことすらなくなってしまう。
時間を戻してやり直す? そんなことしたって変わらない。もううちのなかには志筑さんに対する不安が膨らんでしまっている。もしなにも喋らずに素通りしようとしたとしても、今度は表情だけで読み取ってしまうかもしれない。だから――
「もし魔法が使えたら、どうする?」
だから、強引に疑いの矛先を変えた。
「魔法……ですか?」
「うん」
こんなこと言ったら、うちが魔法を使えると言ってるも同義。そんなことはいずればれることなんだから、志筑さんが相手なら大したことじゃない。
「魔法で上条くんの腕を治せたら、カッコイイなぁって思って」
さらに二次元好きのうちだからこそ、突然こんなことを言ってもなにも違和感はない。
「そうですわね。でも、仮にできたとしても、その役目はわたくしではないですわ」
それすらも、あの子に託すということなのかな。
ただ単に控えめなだけなのか、それだけ自信があるということなのか、はたまたプライドなのか、もしかしたら作戦なのかもしれない。
「明さんは、治せるのに治さないのではないですか?」
「みんなが魔法を使える世界だったら治してもいいんだけどね。ここみたいに本来魔法がない世界だったら、そんな事を軽々しくやるべきじゃないよ」
あくまで仮定の話として進めたけど、志筑さんの言葉で確信した。あの言い方は、うちは治せることを前提とした言い方。確証はないし理屈としてはおかしいけど、そんなことがあってもおかしくないといった様子かな。
「でしたら、明さんが魔法を使うような状況ってなんですの?」
「うーん、そうだね……」
その質問を、魔法が使える自分として真面目に考える。
少なくとも、うちが魔法や能力を使ったということは悟られたくないし、あの万引き魔法少女みたいに悪行に使う気はない。かといって、上条くんの腕を治すみたいに現実をねじ曲げるようなことはしたくない。でも、誰かを助けるために使いたい。
「同じ魔法で不幸になった人を、助けるために使いたいかな」
手の届くところだけでいい。魔法少女になって苦しんで居る人がいたら、密かに助けてあげたい。それこそ、魔女に殺されたって、魔女化したって、うちには助けることができるんだから。
はい、妖歩です。やる気出てます。
まず、ややこしいことをして申し訳ないです。いつもノリで書いてるので、前話を投稿した後に続きを書いてたら『このシーンは前話に入れたほうがいい気がする』と思ったので、一回消してあのシーンを書ききってから再投稿しました。
はい、ということで本編の話。
前も言いましたが、仁美が凄いです。補正かけまくりです。お見舞い行ってる設定は、そっちのほうがやりやすかったので。行っててもおかしくないかなぁと。
それでは