「――今日は、少し様子がおかしいね」
お昼ご飯中、志筑さんに今日一日思っていたことを口に出してみた。
「明さんも気づきました?」
上条くんのお見舞いに行った翌日、鹿目さんと美樹さんの様子がどこかおかしかった。
表面上はいつもと変わらないけど、ちょっとした隙があると視線がどっかいっちゃってる。
「志筑さんなにかわかった?」
うちが朝のHRの時点でわかったから、一緒に登校している志筑さんはその時点で既にわかっていたはず。なにか知っているか訊かないのは、知ってるのならそれはそれでわかるから。
志筑さんなら事情を知らなくても、二人と接する機会が多いからなにかわかったのか期待したのだけれど……。
「なにも。深刻ななにかがあったことはわかるのですけれど」
尊敬する程の観察眼を持つ志筑さんでもわからないということは、それぐらい大したことじゃないのか、それぐらい大したことなのかのどちらか。二人の表情を見れば、大したことなのは容易にわかる。
「明さんのほうが、なにかわかるのではないかしら?」
その観察眼がうちを射貫く。普通に話しているだけなのに、凄い威圧感。
あの、まだ魔法のこと打ち明けてないんだから、そんな『わかりますわよね』みたいな視線を向けないでほしい。
「志筑さんがわからないのに、うちにわかるわけないよ」
実際、今はまだわからない。あの二人のことを調べてないから。
「そんなことありませんわ。わたくしの視点では見えなくても、明さんの視点なら見えることだってありますわ」
「期待されても困るかな」
真面目に、期待されても困る。志筑さんのそれは見えないんじゃなくて、見ることができないから。うちのそれは見えるんじゃなくて、覗いてるだけだから。
「期待だってしますわ」
それをわかっているはずなのに、いや、わかっているから。
「明さんにしかできないことがあるのですから」
真っ直ぐ、期待の目を向けられた。もしかしたら、こんなことは初めてかもしれない
「明さんのそれは恥じることではありませんわ。わたくしが自分の力で様々なことがわかるように、それも含めて明さんの力ですわ。わたくしにすらわからないことがわかると、誇らしく振る舞えばいいのですわ」
本当、志筑さんには敵わないかな。そんなこと言われると、凄い嬉しくなっちゃう。
「仕方ない」
うちはお弁当を片付けて、席を立った。そして、堂々と告げる。
「期待に応えようかな」
まず人目に付かないとこで独立存在を発動して、予想通り屋上に鹿目さんと美樹さんを見つけて過去を覗くコンタクト……人生観照を発動する。そして、過去の記憶が流れてきた。
上条くんの病室に行って、会えずに帰る美樹さん。
グリーフシードを発見して、巴さんを呼びに行く鹿目さん。
魔女の不意打ちを喰らって、酷い死に方をする巴さん。
魔女を難なく倒して、美樹さんを突き放す暁美さん。
(これは……きついかな)
普通の人が見たらトラウマものかな、これは。二人のあの状態にも頷ける。
(にしても、巴さんが死んじゃったんだ)
現実とは関係ない世界で、現実とは関係ない理由で、無残にも魔法少女が死んでしまった。それだけでも酷いのに、そのおかげで美樹さんと鹿目さんが苦しんでる。
(これは、どうするべきかな)
もしこれに二人が関わってなかったらすぐに蘇らせるんだけど、あの二人は魔女退治に同行していた。それは、魔法少女になる可能性があるということ。うちとしては何も知らない二人には魔法少女になってほしくないから、このまま残酷な世界をつきつけて離れてもらうって手もある。
(このまま何事もなければ、それでいいんだけど)
問題がありそうなのは、美樹さん。恋は盲目だから、もしかしたら上条くんの腕を治してしまうかもしれない。ただでさえ今まで治さなかったのが不思議なのに、腕が治らないと知ったら、あの上条くんになにか言われてしまったら、残酷な世界なんて考えずに目の前の希望に飛びついてしまうかもしれない。
(いっそ上条くんの腕を戻す? いや、でもそれは……)
できるけど、現実の世界に干渉するのはうちのポリシーに反する。でも、美樹さんが魔法少女なんかになってしまったら、簡単に壊れるのが目に見えてわかる。友達の友達だけど、知ってる人を失いたくはない。
(どっちにせよ、巴さんを戻すしかないかな)
うちにできることと言ったらそれぐらい。あとは、流れに任せるしかない。
(巴さんを戻すのは、家でいいかな)
鹿目さんと美樹さんの記憶にあった巴さんの家を思い出しながら、独立存在と飛行魔法を使って向かう。
自分で言うのもなんだけど、こういうのってカッコイイなぁ。
魔法少女の常識も、インキュベーターの常識もぶっ飛ばして、人知れずとんでもないことをやってのけるのって。
奇跡を願った以上、魔法少女になって戦いの運命を受け入れるのは仕方ないと思う。でも、だからって、死ぬべきじゃない。死んでいいわけがない。
現実の理由で死ぬのはいいけど、一般人に理解されないところで、適当な理由をつけられて消えてしまうのは嫌だ。
それが個人的な感情なのはわかってる。受け入れられない人がいてもおかしくないとは思ってる。でも、死にたい奴は死ねばいい。うちはうちにできることを、存分に、誇らしく、一方的にやってやる。
(これが、うちの役目)
巴さんの部屋に入って、能力を発動する。行うのは一定空間への時空間干渉。この場に巴さんが存在していた時間の巴さんが存在していた空間だけを、その時間まで戻す。こんなことを今在る対象にやったらどうなるかはわからないけど、巴さんはいないからできるはず。
ついでに結界の中で消えたであろう巴さんの私物も一緒にやろうかな。
(能力発動)
念じると、音もなくその時の巴さんが現れた。
「……へ?……あ……れ?」
当然記憶も当時のままだから、できるだけ差異がないように戻すのは昨日の朝にしたんだけど、おかげで日当りなど瞬間的に変わった環境に戸惑ってしまってる。
だから、一回眠らせて、美樹さんと鹿目さんの記憶をうまく編集しつつ違和感のないように植え付けた。こうすれば、魔女に食われたはずなのに気づいたらここで寝ていたという構図ができあがる。
ちなみに記憶操作はやっぱり基本魔法にはないみたいなので、糸を創ってうちと巴さんをリンクし、プログラムを書き換えるように記憶を創り変えた。
(これで、問題ないといいけど)
こんなことやって大丈夫なのか、実を言えば不安。でも後悔はしない。これがうちにできることだから。
(じゃ、うちは消えますか)
巴さんを目覚めさせてから、うちは部屋を去った。
「――……どうしよ」
夜の街で魔女の口づけをつけられている仁美を見つけたまどかは、同じく魔女の口づけられた集団についていき、今まさに集団自殺をしようとしている場面に遭遇した。
勇気を出してどうにか阻止をするも、操られている一般人に追い詰められて物置へと逃げ込んだ。
しかしそこで魔女の結界ができあがってしまう。たった一つの出入り口から出ることも出来ず、無力なまどかは魔女に捕まってしまった。
「……あ」
(これって罰なのかな。わたしが弱虫で、嘘つきだから、きっとバチがあたったんだ)
異質空間で魔女の手下に手足を伸ばされ、壊されそうになる直前、しかし黄色い線が手下を貫いた。
「はああぁぁぁ!」
その黄色は次々と手下を倒していく。
「……え? うそ……!?」
戸惑うまどかには目も向けず、一瞬にして魔女を孤立させた。
「これで終わりよ!」
そして、大砲のような巨大な銃が……放たれた。
「ティロ・フィナーレ!」
派手な爆発と共に魔女は消滅し、同時に結界もなくなる。
「――間一髪だったわね、でももう大丈夫」
変身を解除しながら、いつか言ったその言葉を、彼女はまどかに届けた。
「マミさん……マミさぁぁん!」
理由なんて考えるより先に、まどかは飛びついた。大量の涙を流しながら、ありえないはずの再開に震えながら。
「……どういうこと?」
遅れて、もう一人やってきた。彼女はこの状況を見た途端理解が追いつかず、ポカンと突っ立っている。
「こんばんは、美樹さん。契約したのね」
魔法少女姿のさやかを見てマミは驚くこともなく、まるで普通の会話のようにそう言った。しかしさやかはそれどころではない。
「なんでマミさんが!? そんなことより、本当にマミさんなんですか!?」
詰め寄って肩に手を置いてきたさやかに、マミはその手を握ってあげる。
「本当の私よ。心配させちゃってごめんね」
「う……うぅ……マミさあぁぁぁん!」
さやかもまたマミに抱きつき、その感触に、その温かさに、涙を流す。
そんな二人を、マミは優しく包んだ。
「……どういうこと?」
その場に、さらに遅れてやってきた人物が驚きと疑いの混じった声を出した。
「暁美さん。詳しい話は、あとにさせて」
「……わかったわ」
感動の再会もいいが、今は魔女を退治した直後。魔女の口づけをされた人たちが目覚める前に、どうにかしなければならない。
「この人たちはどうする?」
「この人数を巻き込んだ事態を隠蔽するのは難しい。寝かせておいて、適当な事故だと勘違いさせるのが一番ね」
つまり、放置して移動するということ。それにマミは頷いた。
「さあ、貴女たちも移動するわよ」
泣きじゃくる二人は言葉を発するのも難しいのか、ただ頷く。それを確認してから、ほむらに続いてマミとさやかまどかは動き始めた。
「――おいおい、話が違うじゃんか」
見滝原市のどこかにある展望台。そこからマミたちを眺めていた少女……佐倉杏子はいらついた様子で傍らにいるインキュベーター……キュウべえに言葉をぶつけた。
「こっちはマミのやつがくたばったって聞いてわざわざやってきたってのに、生きてんじゃねえか」
『どうやらそのようだね。訳がわからないよ』
「しかももう一人魔法少女がいるじゃねえか。一体どういうことだ?」
『その子はさっき契約したばっかなんだ。悪いね、話が噛み合わなくて』
「まったくだ」
魔法少女がいなくなったと思ったら新しい魔法少女が生まれており、しかもいなくなったはずの魔法少女がいなくなっていないという。この違いに杏子はいらつきを露わに、むしろ強調するような雰囲気を見せた。
しかし、その心中では、別のことを考えていた。
(一度言葉を交わしただけだが、知ってる奴が殺されそうになるのを見るのは気分悪いな)
(あいつ、同じ目に会わねぇといいが)
(まさか魔法少女にはならないだろうし)
(――あれが魔法使いですのね――)