希望少女の非ざる世界   作:youho

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第十三話 全てを知る候補者

 

 

(展開が早すぎる……)

 土曜日。半日だけの学校に来てみたら、美樹さんが魔法少女になっていた。しかも志筑さんが休み。適当に過去を見てみると、どうやら魔女にやられたらしい。まあそっちはいずればれることなので、大したことじゃない。

(まさか、昨日の今日で魔法少女になるなんて)

 おそらくあの上条くんになにか言われたのかな。こまかい内容なんてどうでもいいからわざわざ過去を見たりしないけど、そうなると流れに任せるしかないかな。

(マミさんはうまく生き返ったみたいだから、そんなすぐには魔女にならないと思うけど)

 一人で戦うならともかく、二人なら苦労を分かち合えるから少しぐらいなんとかなるかも。でもあの子わかりやすく豆腐メンタルだから結果は変わらないかな。それこそ、なにかキッカケがあればすぐに壊れてしまうほどだし。

(とりあえず、様子を見るしかないかな)

 なってしまったものは仕方ない。うちは彼女が魔女になってから動くとしよう。

 

 

 

 

(ただ、唯一の懸念といえば……)

 

 

 

「――こんにちは、明さん」

 帰り。いつものバス停に志筑さんがいた。

「こんにちは。体調不良って聞いたけど、出歩いてていいの?」

 体調不良という名目で休んでいたので、とりあえずそんな感じに対応しておく。

「外の空気を吸っていたほうが気分がいいですの」

「そうなんだ。それで、なぜに待ってたのかな?」

「待ってなどいませんわ。今来たとこですの」

「そんな差異はどうでもいいから。うちに会おうと思ってたんじゃないの?」

「そうですわ。これからそちらにお邪魔したいのですけど、よろしいかしら?」

「別に構わないけど、また突然どうしたの?」

「ちょっとお話がありまして」

 きたよ。早速きたよ。大体推測できてるから確証を得ようとしてるんだろうなぁ。隠そうとしても隠せないから、聞かれれば話すけど。

「了解。んじゃ、行こっか」

 丁度バスが来たからうちらはそれに乗り込む。

(魔法少女のことを知って、志筑さんの動きが変わればいいけど)

 唯一の懸念が志筑さん。もし上条くんを志筑さんがとったら、その方法如何によって美樹さんの魔女化のきっかけになってしまう。もしそうなった後に美樹さんを生き返らせたとしても、うまくことが進むとは思えない。

「…………」

「…………」

 バスに乗ってる間。うちは無言で考える。そんなうちに気遣ってか、志筑さんもなにも喋らない。

「――さ、入って」

 口を開いたのは、家に着いてから。バスを降りてからも、一言も喋らなかった。

「おじゃましますわ」

 丁寧な動きで家に上がる志筑さんを見て、なんとなくお嬢様だなぁと思う。

『おかえり』

『ただいま』

 肩に乗ってきたスターに念話で挨拶を済ませて、うちは志筑さんを部屋に招いた。

「さて、なにかな」

 雑談に興じるのもいいけど、うちとしては志筑さんがどう話すのか気になるので早速本題に入る。

「本題に入る前に、一つ……」

 柔らかい笑みを浮かべながら人差し指を立てて、そのままうちの肩を指さした。

「姿を見せて頂いてもよろしいですか? 契約者さん」

「えっ!?」

『えっ!?』

 この展開は予想出来なかった。まさかその存在を知ってるなんて。というか、見えてないのにどうしてわかったの!?

「そこにいるのでしょう? 服に不自然なしわができてますもの」

 おかしい!? そんなとこまで見てるのあなたは!?

『まさか僕の存在を知ってるなんてね』

「初めまして、お名前は?」

 志筑さんにも見えるようにしたみたい。しかも前触れもなしに念話して、しかしというかやっぱりというか志筑さんは普通に対応してるし。

『ヒィべえ。彼女にはスターと呼ばれているよ』

「明さんから名前を聞いたこともあるかもしれませんが、わたくしは志筑仁美ですわ。よろしくお願いしますね」

『こちらこそ。それで、一体どうして僕の存在を知ってるんだい?』

 魔法少女のことならともかく、インキュベーターの存在を知る情報なんて与えてないはず。契約を行う何者かの存在を感じ取っていても、彼女は明確に存在を知っていたようだし。とても気になる。

「貴方の存在だけではないですわ。魔法少女や魔女について、とある方から全て聞きましたの」

「……いつの間に」

 おそらく今日の午前中だろうけど。でも暁美さんも巴さんも美樹さんも鹿目さんもみんな学校に来ていた。一体誰から?

「明さんの知っている方ではありませんわ」

「そういうことですか」

 志筑さんの家族は顔が広いから、その関係かもしれない。そこまでいったら、うちも感知できないからなぁ。

「あら、過去を覗くことはしませんの?」

「いいよ。知らなくても問題ないし」

 相変わらずできる前提で訊いてくるね。志筑さんがどんな人物から聞いたかなんて些細なことだからやんないけど。問題は知っていることなんだから。

「魔法少女のことを知ってるなら、話っていうのはなにかな?」

 てっきりそのことだと思っていたから、うちには全くわからなくなってしまった。ただでさえ志筑さんは読めないんだから。

「一つはその契約者さんを見たかったのですわ。もう一つは、貴女にもお話を伺いたかったのです。」

「なにが聞きたいのかな?」

「ソウルジェムというものについて。それはただ魔法少女の証というだけなのでしょうか? ただ魔力を生み出す媒体というだけなのでしょうか? わたくしにはそれだけとは思えないのです」

 さすがの洞察力といったところかな。確かにそれだけじゃない。

「その人はなんて言ってたの?」

「深く考えたことはなかったようですわ。魔力の源じゃないか……なんて適当な予想を仰ってましたけど」

 志筑さんに話をした人はソウルジェムの秘密……魔法少女の末路というものを知らなかった。そもそもどうして、魔力を使いきったらどうなるとか考えないのかな。ソウルジェムが濁るなんて変なシステムなのに。

「それは間違ってないけど、隠された秘密は確かにあるよ」

 普通のインキュベーターがどのように隠しているのかはわからないけど、その人が知らないってことは積極的に明かしているわけではないんだなぁ。

「ソウルジェムは魔力を消費すると濁るのは知ってるかな?」

「ええ」

「そうやって魔力を使ってって、回復もせずに真っ黒になると魔女になっちゃうんだよ」

「敵になっちゃうのですね」

「なんだかんだで嫌になっても黒くなって、絶望しちゃっても魔女になっちゃうんだよ」

「よくわかんないですわね」

「あとその前提として、うちらの魂がこの中に入ってるの」

「それになにか問題でも?」

「これが壊れたら死んじゃう。あとある程度の距離を離れたら死んじゃう」

『その距離はおおよそ百メートルだね』

「それはむしろ危険なのでは?」

「普段は指輪になってるから問題ない」

 中指に光る指輪を見せてから、手首を回してソウルジェムを出して見せる。

「ちなみにこれがソウルジェム」

「あら、かわいらしいですこと。それが二回り程小さかったら、ストラップにしても良さそうですわね」

「そんな発想をするとは流石志筑さん」

 相変わらずこの人は着眼点が違う。この場合はスレてると言ったほうがいいのかもしれないけど、間違ってはいないからいいかな。

「わたくしもそれを頂くことはできますの?」

 つまり魔法少女になりたいってことなんだろうけど、目的はこれなのかとツッコミたい。

『できるよ。ただし、願いを決めてもらないとならないけどね』

「後で願いを叶えてもらうというのは?」

『無理だね。魔法少女というのは、願った際に発生する希望の感情エネルギーを利用するのだから』

「なにそれ初耳」

 あれにちゃんと理由があったことに驚き。だから願いによって固有魔法が決まるんだ。

「では、合理や理屈のみを求めた希望のない願いは叶えられないのですね。例えば『何度でも願いを叶えられるようにしたい』とか」

『無理だね。仮にそれが本当に求めている願いなら可能かもしれないが、魔法少女の素質を持つ者がそんな『理屈のみの現実的願望』を抱くことはない。なぜなら、僕らにとって魔法少女の素質を持つ者というのは『希望を夢に見る者』か『絶望に沈んでいる者』だからね。そう言った者は、目先の希望しか考えないからそういった願いを思いつくこともないんだ』

 どんどんうちも知らない事実が明かされていく。気にしてなかったけど、いろいろきちんとした理由があるんだ。

「その言い方ですと、素質というのは生まれつきのなにかではなく、その時期の感情で決まるようですわね」

『そうさ。手当たり次第に魔法少女を作るわけにはいかないから、魔女になりやすい感情の持ち主を選別する必要があるのさ。希望を夢に見た者は、夢は夢だったと絶望し、絶望の中に希望を生み出した者は、結局絶望が消えないことに絶望する。素質のある者というのはつまり、いずれ魔女になる人材ということさ』

「ですが、素質はなくても魔法少女にはなれるようですね」

『魔女になる保証がないどころかシステムを壊す恐れがあるから、そんなことする個体はいないけどね。僕みたいな例外中の例外じゃない限り』

「実際、うちがシステムに反したことやってるしね」

 ソウルジェムの回復、グリーフシードの再利用、消えた人間の蘇生。これらを無条件にやってるからね。

「……例外中の例外というのは?」

『僕たちインキュベーターというのは本来感情がない生き物なんだ。だが例外的に少し感情を持つ個体が出現することがある。それを僕らの間では精神疾患と呼んでいるのだが、僕のそれは例外の中でも例外、精神疾患なんて生易しいモノではなくはっきりと感情というものが現れているんだ』

「だから明さんが知っていて、あの方が知らない事実があるのですね。普通のインキュベーターさんは、必要最低限しか話さないから」

『そういうことだね。もし魔法少女がなにかのキッカケでソウルジェムの事実を知ったとしても、彼らは『訊かれなかったから』ととぼけ『なんで魂の在処にこだわるんだい?』と逆に問うだろうね。話す必要がないとか言っておきながら、それを話したら契約がとれなくなることを経験から知ってるから話さなかったのだろうのにさ』

 こうやって同族に対して嫌味を吐くのも、感情があるからなんだよね……と、ふと思う。

「さて、では最後に一つよろしいですか?」

「なにかな?」

 もう話すことがないと考えていたら、志筑さんはそれを察したようで締めを切り出してくれた。

「明さんは何を願って魔法少女になったのですか?」

「超能力」

 それだけ言ってあげた。詳しく説明するのは面倒だし、なんとなく秘密にしておきたかった。志筑さんならどうせわかるだろうけど。

「明さんらしいですわね」

 ブレないことに安心して和やかに笑う志筑さん。こういうところに関しては、昔から変わらない自信があるよ。

「……ねえ、志筑さん」

 ここまで話したのだから、言うべきことがある。うちは声のトーンを落として話を切り替えた。

「魔法少女になりたいなら、止めないからね」

 なりたいかなんて訊かない。彼女なら『なる必要ができたら』とかそんな回答をするから。

「ここまで話を聞いて、それでも志筑さんがなりたいというのなら、それはそれなりの考えがあってのこと。巫山戯た理由じゃないのはわかってる。もしなりたくなったらうちに何も言わずに自由になっていい」

 志筑さんが奇跡に頼る事態なんて、それは相当なことだということ。それに魔法少女になって魔女と戦ったって負けるようなことはないから、その辺の心配はしない。

「でもね、もし魔法少女の願いを使って、もしくは魔法少女のちからを使って馬鹿なことをしたら、志筑さんの中にある魔法少女に関することを全てなかったことにするからね」

 そうすることができる能力が、うちにはある。

 そんなちからの使い方をしたくはない。でも不安だった。あの時見た黒い笑み。あれが現実になるんじゃないかって。

「ご心配なく……と言いたいところでずが、明さんにはなにか懸念があるようですね」

 志筑さんは背を向けて立ち上がり、首を傾けてうちに見る。

「わたくしが間違いを犯したら、その時は遠慮なく叩いて下さいね」

「うん、わかった」

 自分を観察することににすら長けている志筑さんがこんなことを言ってくれるのは、たぶんうちだけだと思う。たぶん他の人が同じように心配したって、否定されて終わる。自分にはわからない違和感をうちは感じ取れる……それをわかってくれてると思うと嬉しかった。

「それでは早いですけど、わたくしはお暇いたしますわ」

「えっ? 折角来たんだから普通に遊ぼうよ」

 鞄を掴んでそのまま立ち去ろうとした志筑さんを引き留める。わざわざバスを使ってうちに来て、話をしてすぐ帰るなんてもったいない。

「いえ、一応病院の帰りなので、早く帰らないと心配されてしまいますわ」

「じゃあ、なんでうちまで来たのさ」

 話をするだけならうちに来る必要はない。どこか適当なところでもよかったはず。時間がないならなおさら。

「そのインキュベータさんを見たかったからですわ」

「それだけ?」

「はい」

 見た感じ隠していることはない。本当にそれだけみたい。

 確かに見滝原じゃ一緒に行動することが少ないしスターは家にいることだって多いけど、よく確証もなく時間もないのにうちに来ようと思ったかな。

「今から帰って心配されない?」

「大丈夫でしょう。何か言われても適当にかわしますわ。それでなければ、お邪魔しませんもの」

「そっか」

 志筑さんがそう言うなら、そうなんだろうな。余計な心配はしなくてよさそう。

「それでは、また明日ですわ」

「うん、またね」

 玄関を出る志筑さんを見送ってから、うちは考える。

「さて、どうしようかな」

 




はい、妖歩です。説明回になっちゃいました。
見滝原中は土曜日半ドンなのですね。そんなことどうでもいいですかそうですか。
全く関係ない話ですが、最近中沢くんにはまりました。気が乗れば一本書こうかな。

それでは
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