希望少女の非ざる世界   作:youho

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『もしその願いがそのまま叶えられたのだとしたら、貴女は誰も騙してなどいませんわ』

 佐倉杏子は考えていた。彼女が言った言葉の意味を。

『だってそうでしょう? 貴女は"話を聴いてほしい"と願っただけなのですから』

 佐倉杏子は考えていた。自分の願いは間違っていなかったのか。

『そこに、信じるか否かは含まれていませんわ』

 あの楽しい日々は偽りだったのか。

『それなのに、信者が増えたのは何故なのでしょうね』

 本物だったのか――





第十四話 絶望少女

 

 

(あんなにあっさり受け入れられるものなんだな)

 適当に街を歩きつつ、杏子はお菓子を頬張りながら仁美の反応を思い出していた。

 魔法少女という存在を説明し、自分の過去について説明した。戦いの日々に明け暮れたことも、自分の願いが家族を殺したことも。

 魔法少女については全部推測通りだったのだろう。頷くだけで特に反応を見せなかった。

 杏子の過去についても同様だった。推測通りで驚くこともなく、同情することもなく、責めることもなく。ただ唯一の違いは、疑問を感じていたこと。

(そういえばそうだ。いつだってあたしは、親父の話を信じて欲しいなんて思っていなかった)

 父親の話は正しかった。だけど、受け入れられなかった。だから、五分でもいい、話を聴いてくれればわかってくれると、昔の彼女は常々思っていた。……そう、話を聴いてくれれば、それでよかった。

 だから願った。『みんなが親父の話を真面目に聴いてくれますように』と。

(自分で願っておきながら、自分の本当の望みを忘れるなんてな)

 杏子は心の中で苦笑した。

 願った結果が引き起こした出来事が衝撃的過ぎて、大事なことを見逃していた。

 何に苦しみ、何を憎み、何を想い、何を望み、何を願ったのか。自分が本当に欲しかったモノは、一体何だったのか。

(あたしが望んだモノは……)

 手に入れたモノはいくつかあった。大量の信者。貧しくない生活。裏で人々を救う自分。家族の笑顔。

 もし信者が増えなかったらどう思っていただろう。もし貧しいままだったらどう思っていただろう。もし自分が人々を救えなかったらどう思っていただろう。もし家族が笑顔にならなかったら、どう思っていただろう。

 信じてほしいわけじゃなかった。お金が欲しいわけでもなかった。人々を救いたいわけでもなかった。

(……なんだったんだろう)

 希望を失った今となっては、希望を想い出すことなんてできなかった。

 

 

 

 

 時刻は夜。とある路地裏で魔女が暴れていた。

「ひゃっひゅいえぶうううんひゃあああああ!!??」

「――逃げるなぁ!」

 その姿を言葉で説明するなら、人が乗っている車。まるで小さな子供がクレヨンで描いたような、稚拙な姿だ。それはただの使い前でしかないが、素早く飛び回るそれに美樹さやかは苦戦していた。

「はっ! ふっ! でやぁ!」

「ぴゃああああぴううううひゅひゃっひゅいいいい!」

 ただ闇雲に逃げ回っているように見えて、うまく緩急をつけてさやかが飛ばす剣を紙一重で躱している。しかも時折、これまた乱雑な見た目のミサイルを飛ばして反撃も行っていた。爆発もコミカルな見た目だが、しかし威力がないわけではない。

『マミさん! 見つけました?』

『ごめんなさい。まだ見つからないわ』

 気を逸らさずに、さやかはこの結界へ共に来た巴マミと念話をする。

 マミはというと結界を形成している魔女本体の捜索を行っていた。どうやら本人は姿を現さず、全て使い魔に任せるタイプのようだ。

『あたしじゃ使い魔倒すの限界あるので早く見つけてください~!』

 順当に考えるならばマミが使い魔を倒したほうが効率的だろう。ベテランの、しかも遠距離型の彼女ならば、素早く不規則に飛び回る敵でも容易く仕留めることができる。なぜそうしなかったのか。それは魔女の正体が不明だからだ。

 隠れているからといって、弱いとは限らない。思いも寄らない攻撃を仕掛けてくる可能性だってある。そういった不測の事態に対応できるようにと、マミが魔女に接近することにした。

(でも、このままじゃ埒があかないわね)

 結界の最深部であるこの場所は大きな部屋となっているが、おもちゃのような代物が大小問わずあちこちに散らかっていた。それのどれかに隠れているであろう魔女を見つけるためにマミは次々と破壊しながら確認しているのだが、それに次ぐ速度でおもちゃが増えていてなおかつ移動しているようなので、まるでいたちごっこのようになっていた。

(魔力は……大丈夫。グリーフシードは、鞄に一つ。たしか家にも一つあった。この魔女が持っていなくとも、まだ問題はないわね)

『美樹さん、こうなったら私が強引に見つけるから、出てきたところを叩いてちょうだい』

『はい! でも、使い魔が邪魔で集中が……』

『それもなんとかするわ。構わず力を溜めて』

 指示に従ってさやかは魔力を集中する。対してマミはこれから大技を発動するというのに、魔力を纏めながら同時に魔法を発動していた。

「『ダンサ・デル・マジックブレッド』そして『トゥット・セレンディピタ』」

 周囲に生成したマスケット銃で使い魔を排除しつつ、地面に網を張った。それはもう、大部屋を覆うぐらい広大に。いや、地面だけではない。置物全てに細かく網の目は巡っていた。

「…………見つけた」

 大部屋の端、いくつかあるオモチャの山の一つから縛られた魔女が出現した。

「はあぁぁあああああ!」

 その姿を認めたさやかが猛スピードで突っ込んでいく。一分の隙すら与えず、青い閃光は魔女を貫いた。そうして魔女は霧散し、結界は崩れた。

「やったわね、美樹さん!」

「やりましたマミさん!」

 お互い駆け寄ってハイタッチを交わす。それを見た鹿目まどかも駆け寄ってきた。

「かっこよかったですマミさん!」

「あらあら。私より美樹さんのほうがよかったわ。最後の一撃なんて特に」

「そんなことないですよ。マミさんの技のほうがかっこよかったです!」

「おかげで魔力を大分消費しちゃったけどね」

 言いながら歩き、魔女が落としたグリーフシードを拾って――

「――もらい」

 直後、その手から消えた。

「グリーフシードもらうね」

「誰?」

 さやかとまどかを背に隠し、マミはマスケット銃の銃口を路地裏の先に向ける。

「誰でもいいよ」

 暗闇から歩いて出てきたのは、桃色の髪の少女。

「あたしにはグリーフシードが必要なの。だからちょうだい。貴女が持ってるもう一つも」

 脅すような強い声でも、ねだるような可哀想な声でもない。しかし拒否を受け付けると思えない、そんな抑揚のない声だった。

「あげるわけないでしょ。それを返しなさい」

 自分がグリーフシードを持っていることを知られていることに疑問を持ちつつも、しかし警戒を第一に考えた。

「いや」

 ただそれだけ返す謎の少女。先の戦闘で魔力を消費したこともあって、マミは様子を窺っていた。

(魔力がうまく感じ取れない。もしかしてもう限界が近い……?)

 魔力が残り僅かしかないにも関わらず、グリーフシードを持っていないからなりふり構わず奪いに来た。マミはそう推測する。

「仕方ないわね。それはあげるわ。だから次からは気をつけなさい」

「いいんですかマミさん!?」

 不服そうにさやかが口を挟む。突然現れたわけもわからない人物に報酬と奪われたなんて、彼女が納得いかないのも無理はない。

「いいのよ。まだストックはあるし、同業者に手を貸すのは当然よ」

「マミさんがいいなら、いいですけど……」

 余裕の表情を見せるマミに、さやかは強く言えなかった。自分よりもマミのほうがグリーフシードを必要としているのだから。

「そういうことじゃないんだよね」

 しかし少女は引くどころか、むしろ近づいてきた。

「あたしはグリーフシードが欲しいの。穢れも吸い取ってあげるから、残りもちょうだい」

「えっ!?」

「マミさん!」

 無気力な声を出しながら、なんの前触れも予備動作もなく、マミの首に黒い刃が迫っていた。寸でのところでさやかが剣で防いだが、少しでも気を抜けば競り負けそうなほどそれは強かった。

「ついでだから、あなたのももらっておくよ」

 言うやいなや、下から現れた黒い刃にさやかの右腕が切断される。片腕で支えることになった剣は黒い刃に弾きとばされ、結果マミの首が飛んだ。

「えっ……う……ああああぁぁぁぁああああああああああああ!」

「さやかちゃん! マミさあぁああああん!」

 一瞬遅れて、さやかとまどかの絶望の声が響く。その叫びを聞いているというのに、少女はうるさそうに顔をしかめるでもなく耳を塞ぐこともせず、ただただ見ていた。

「こ……この――」

「うるさい」

 憎悪に満ちた顔があっさりと切り飛ばされる。

「あ…………」

 ショックと恐怖といろんなものが混ざったまどかは、声を失って呆然と二人を眺めていた。

「そこのあなたは魔法少女じゃないんだね。この子たちは死ぬわけじゃないんだからそんな絶望しないでよ」

 マミの鞄をあさってグリーフシードを取り出しながら、淡々とした口調で、しかし慰めるように言った。

「……どういう……こと?」

 へたりこんでいるまどかが、沈みきった目で少女を見上げる。

「知らないんだ。じゃあ教えてあげる」

 邪魔だからか、切り飛ばした頭と手を跡形もなく潰して、首のない二人に魔法をかけながら説明を始める。

「魔法少女はただの人間じゃないんだよ。契約の際に創られるソウルジェム。この中に魂が移動されているから、なにされたって死ぬことはないんだよ。もしソウルジェムが本人から離れたら死んだみたいに体の機能は停止するけど、近づけば元に戻るから大丈夫。距離にして百メートルだったかな。魔法少女が死ぬとしたら、このソウルジェムが壊れた時か、穢れきって魔女になった時。あっ、ソウルジェムって魔力を使うと穢れるけど、絶望を募らせても穢れるんだよ。そして浄化せずに穢れきったら魔女になるんだよ。それも知らなかったよね」

 かわらず無気力ながらも、まるで友達に伝えるような適当なノリで告げた。魔法少女ではない、普通の人間……鹿目まどかだけに。

「はい、これで時間がたてば目を覚ますよ」

 少女が立ち上がる。その傍らに倒れている二人には頭も手もあり、何事もなかったようにただ眠っていた。どうやら治癒魔法をかけていたようだ。

「どう……して……?」

 傷つけた相手をわざわざ治したのはどうしてか。なぜ自分に魔法少女の秘密を話したのか。まどかには理解できなかった。

「だってこの二人は今言ったこと知らないんでしょ? 知らずに魔法少女になっちゃったなら、知るべきじゃない。だから、まだ人間のあなたに話した。あなたならまだ選択の余地があるし、ただの人間という視点から真実を打ち明けることもできる。よく考えなよ」

 さっきとは打って変わって優しい言葉をかける少女。それを聞いたまどかは、その純粋な心を持って少女の印象がガラリと変わった。

「ま……まって!」

 どこからともなく現れた、いつかマミを殺した蛇のような魔女のことなど気にも止めず、その背に乗る少女を呼び止めた。

「名前、教えてください」

 とっさに出た言葉がそれだった。彼女は悪者じゃない、ただ不器用なだけ。だったら、仲良くなれるのではないか。まどかはそう思った。

「……」

 返されたのは、さくらんぼ。それを投げただけで、少女は飛んでいってしまった。

「さくらんぼ?」

 明らかに作り物なざらざらとした手触りのそれを、一口かじってみる。

「……甘い」

 それは、砂糖菓子だった。

 

 

 

 




はい、妖歩です。急遽出演決定。
今回出たキャラ、言っておきますがオリキャラではないです。オリジナル設定を詰め込んだ原作キャラです。
先の展開なんて全く考えてない。出したいからだしました。さて。どうなることやら。
ちなみにオリ技の『トゥット・セレンディピタ』は、トゥットが『全て』、セレンディピタが『よいものを見つける』……なので全てを見つけるとかって感じで名付けました。

それでは
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