《君を超能力者にするから、僕を助けてほしい》
キターーーーーーーーーー! と叫びたいところだけど、それは心の中ですらもう無理。最初の蝶に加えて、足に走る火傷の痛み、それに動き続けた疲労もあって、うちはもう満身創痍だった。正直な話、うちのほうこそ助けて欲しい。
《なんでもいいの……?》
《ああ、なんでも言ってくれ……。僕は応えてあげるよ》
《それじゃあ――あぐっ!》
言おうとして、またやられた。蹴るのをミスったようで、さっきとは逆の足のすねをしっかりと火傷してしまった。
やばい。両足をやられたせいでもううまく走れないし、全身の痛みと疲労で動くこともままならない。やっぱり、二次元のキャラのようにはなれないな。全身傷だらけでも戦うことなんて、うちにはできない。……でも、せめてこのインキュベーターさんは守らないと。心優しいキャラなら、そうするはずだから。
《あきらめないで……! はやく僕と契約するんだ……!》
ああ、そうだった。怪我で思考が変わっちゃった。あの能力があれば、こんな状況回避できるじゃん。
うちは倒れながらもインキュベーターさんを胸に抱えて丸まり、次々と感じる爆発に耐えながら自分の能力を伝えた。
《うちは、念じただけであらゆるモノを戻せる能力が欲しい。生物無生物関係なく、モノの状態や見た目、命や時空間すら。念じたように、本当になんでも。あらゆる法則や理や概念だって無視した能力。反動も制限もない。そんな能力が、うちは欲しい》
チート過ぎる? いいでしょ別に。中二病の強さへの憧れ舐めんなよ。
《凄いな。そんな能力があれば、今までの常識が覆る。受け入れよう。僕と君は、契約成立だ》
その瞬間、うちの体が光を放ち始めた。
(うわっ、目の前真っ白でなにも見えない)
最初に抱いた感想がこれ。中二病の欠片もない。でも、大体率直な感想抱くよね。
《言っておくけど、君の望んだ能力はおまけだ。実際のちからは、魔法少女としての魔法にある》
《魔法少女!? なに、魔法も使えるの!?》
《ああ。どういう魔法が使えるのかは、実際に確かめてくれ》
――そして、光が収縮した。なぜか体の痛みは軽く引いて、疲労も回復してきた。……動ける。
動けるなら、まずはこの状況から逃げないと。なので、本当に超能力が使えるようになったのか確かめる意味も含めて、念じてみた。――周りの爆兵を、存在する前まで戻すように。さらに、自分とインキュベーターさんの傷と疲労を完全な状態に戻すように。
(……ふふ。うち、本当に能力が使えるようになったんだ……!)
感じる痛みが、疲労が、なくなっていくのがわかる。爆発が収まったのがわかる。インキュベーターさんが回復したのが、わかる。
「もう、大丈夫かな」
完全回復したところで、うちは立ち上がって状況を確認する。先ほどまで周りにうじゃうじゃといた爆兵は全て消え失せ、自分の体もしっかり動けている。
「――って、あれ!?」
そこで気がついた。服装がおかしい。さっきまで着ていた私服じゃなくて、二次元にあるような可愛らしい格好になってる。
長い髪は赤いリボンで左右に縛られて、黒い大きめの帽子に茶色い幅広のマフラー。金色のマントに、袖も丈も長い白いワンピース。…………可愛いのかおかしいのか中二なのかわからなかった。
「なにこれ!? プリキ○アみたく変身でもしたの!?」
これはなに。『キ○アライト』とでも叫べと言うのか? いややれと言われればノリノリでやるけど、いかんせん状況が掴めない。この程度の状況変化に対応できないなんて、所詮うちもパンピーということか。
《……ごめん。今の僕は全力で君に謝りたい。怪我が治って、意識がはっきりして、気づいたよ。僕はとんでもないことをしてしまった》
突然どうしたのかな? インキュベーターさんはうちの変身をはっきり認識した途端、まるで絶望したように後悔のようなことを言い始めた。
《なにを言ってるの? あなたの怪我が治って、うちは超能力魔法少女になって、悪い事なんて何一つ無いよ。そんなことより、ここの攻略法わかる?》
インキュベーターさんが何を思っているのかはわからないけど、うちとしては速く帰りたい。そろそろ帰らないと怒られそうだし、家でゆっくり休みたいし。
《……ああ。そうだね。ここを抜けるには、最深部にいる魔女を倒さないと駄目だ。そいつが、この異質な空間……結界を作り出したから》
ふむ。つまり、プレイヤーに優しいRPGってところなのかな。ボスを倒したら簡単にダンジョンを抜けられる的な部分が。
《じゃあ、速く先に進まないとね。確認するけど、魔法少女ってことは魔力が使えるんだよね?》
《それはそうだけど、なにか策でもあるのかい?》
それは当然。ここはゲームじゃなくて現実。なら、『現実ならこうできるのに』みたいな、ダンジョン設定を無視した無理矢理チートを発動するべきでしょう。
うちは感覚で自分の中にあるはずの魔力を感じ取ってみる。……うん。力が……溢れてくる……わけではないけど、なんかこう、不思議な感覚がある。
「…………ふぅっ!」
今うちのいるステージがどのくらいの広さかわからないけど、、できるだけこの不思議な感覚……魔力を広げてみる。魔力の単純な使用方法としては、探索でしょ。
(おおっ! なんか凄い感覚が広がってる感じがする。しかもきっちり理解してる自分がいて凄い。え~っと、ここには扉を開いてやってきたから、恐らく次への扉を開くのかな。だとしたら、それらしき場所を探し当てれば…………と。あっちかな)
次への移動ルートらしき位置を発見することに成功。魔法って便利! てことで、こんな迷路は無視してそこまで一直線に行こうかな。
「さて、うちの魔法はどんななのかな」
とりあえず手を前に出して魔力を集中し、巨大レーザーを出すイメージをしてみる。
「…………あれ?」
しかし、なにも出ない。なにか違うのかな。
《おかしいな》
《なに? なんかイレギュラーでもあったの》
こういう場面でのこういう発言は、大体そんな展開。
《そうなんだ。僕の契約は君が初めてだから自信はないけど、魔法少女はそれぞれ得意装備があるはずなんだ。たとえそれが初変身時だとしても、自然と持っていたり、わかっていたりするものだと僕は思うんだ。でも、君にはそれがない》
《なにそれ。つまり、うちの魔法はこの超能力ってことなの? それはちょっとさっきと話違くない?》
先ほどのインキュベーターさんは、『超能力はおまけだ。実際のちからは魔法にある』とかそんな感じのことを言ってた気がする。でもこれだと、超能力が魔法ということになってしまう。
《いや、それはないと思う。現に、君は能力を使う際に魔力を感じてないだろう?》
確かに。実はさっきから『一定範囲内に進入・生成された爆兵の時間を生成前まで戻す』ように能力を発動しているのだけど、それにはさっきの探索のように魔力を使ってる感覚は無い。
《もしかしたら、素質がないからなのかもしれない。普通だったら魔法少女の素質がある子は、自然と僕達の姿が見えるんだ。だけど、君は僕が意識しない限り見えなかった。そこの違いが、こういった不便を生み出してるのかもしれない》
なにその、微妙だけど重大な不便。というか、素質の有無でその程度しか変わらないのもどうかと思う。
《じゃあなに? うちの武器を知るには閃きに頼るしかないとかそんな感じになるのかな?》
《そう……いや、どうだろう。これはあくまで僕の推論だから、はっきりとしたことはわからない》
う~ん、現実って大変なんだなぁ。変身できたのはいいけど、自然と全てがわかる的なご都合展開はないのね。しかも、肝心の魔法の使者みたいな存在は経験薄だし。
《仕方ないなぁ。だったら、普通に進むしか無いかな。さっきの探索でここの構造は大体把握したし》
無理矢理チートが使用不可なことを残念に感じつつ、うちは走り始める。結局、ゲームのように道なりに進まないといけないのかぁ。たとえ現実でも、二次元的空間にはそういう制約でもあるの?
《ただ走るんじゃなくて、身体強化でもしたらどうだい?》
《えっ? できるの?》
インキュベーターさんはたしか変身前に、『どんな魔法が使えるかは――』とか言ってたから、使える魔法は限られてるのかと思ってた。
《魔法なんだからそれぐらいできるよ。得意不得意はあるけど、浮遊や治癒などの魔法っぽいことはなんだってできる。さっき僕が言ったのは、君特有の魔法のことさ。まあ、それは不明のままだけど》
へえ~。魔法ってやっぱり便利なんだなぁ。それは二・三次元共通なのかな。……レーザー出せなかったけど。
《それじゃ、適当にやってみようかな》
うちは脚に魔力を集中し、さらに身体を持ち上げるように魔力を働かせる。
大体魔力を集中すると風が起きたりするけど、うちはそんなの起こさないようにコントロールする。あれはつまり魔力が拡散しているということ。そんなことしてしまうと、効果が十分に発揮されない上に、無駄に魔力を消費してしまう……と、うちは考えていたから。魔力初体験のうちが言うのもなんだけど。
《無駄なく魔力を集中しているのか。君が本当に初めてなのか疑うよ。なにせ、普通は初めてでそんな制御できないはずだから》
インキュベーターさんが驚嘆の声を上げた。中二病舐めないでよ。うちにとって魔力制御は、初めてだけど初めてじゃない。
《魔力制御は毎日イメトレしてたからね。まさか、イメージ通りにできるとは思わなかったけどっ!》
うちは地を蹴り、高速飛行を開始する。もちろん行く先には壁があるけど、激突しないように強化した手をついて、曲がる方向に体を向けて地面を蹴る。
《……おかしくないか? 魔法とは君たちの感性からすれば、本来ありえない空想のモノなんじゃなかったかい?》
予想通りのツッコミをありがとう。うん、普通はそう思うよね。そのおかげで昔は苦労したなぁ。
《うちにとっては空想じゃないからね。空想だとはわかってるけど、ありえないとは思わない。『希望を持ってれば、いつか夢は叶う』って、昔言われたからね》
《希望か……。そうだね。希望を持つことは大事だよ》
……今の言い方、どこか陰がかかっていたような気がする。まるで、それがとても重大な内容みたいな。――ってことが大体重大な内容だったりするから、今の言葉は頭に留めておこうかな。
「いや~、それにしても速い楽しい面白い! 魔法は最高だね!」
この風を切る感覚、妄想していた身体能力、本来あり得ない動きをする自分。超能力のおかげで敵もよってこない。この調子でボスも倒しちゃおう!……って、死亡フラグかな?
「どあらっ!」
そして一分ほどで目的の扉を発見したうちは、勢いのまま蹴っ飛ばす。おお~、案外簡単に吹っ飛んだ。
「さて、ボスは――でかっ!」
どうやら最終フロアだったらしく、大きな部屋に大きなボスがいた。でかいぬいぐるみみたいな、妙に可愛らしい熊。只でさえ体育館ぐらい大きな丸部屋なのに、壁のように配置されている雑魚達の一番奥に控えてる。
「うはぁ……。めんどいけどやるしかないかぁ」
はい、妖歩です。少しずつ投稿。
素質云々から既に独自設定が始まってます。
わかているとは思いますが、インキュベーターもオリキャラですよ。名前は後々明かされるかと。
それでは