「いや~、疲れた!」
うちは親に帰宅の挨拶を済ませてから、自室のベッドに倒れこんだ。
今日は本当に疲れたね。疲れたってレベルじゃないかな。実際に疲れてるわけじゃないけと、こう、楽しい勢い的な。
《だろうね。むしろ疲れないほうがおかしいよ》
インキュベーターさんは無表情で瞬きもせずに、じっとこっちを見つめながら喋りかけてきた。
今は電気が明るいからいいけど、月明かりのみでそんな表情見せられたら結構ホラーな気がするかな。
「そうだね。さっきの戦闘は遊んじゃったからね」
あのボス戦はやろうと思えば一瞬で終わらせられたからね。今回使った方法以外にも、巨大な剣で一気に両断したり、大量の爆弾を爆発させたり、空間を埋め尽くすほどの超巨大魔砲を放ったりとか……って。
「そういえば、うちの武器って刀だけじゃなかったね」
《気づいてなかったのかい!?》
うちは今回の戦闘を思い出して、ようやく気付いた。インキュベーターさんはうちが気づいていたと思っていたのか、即座につっこまれた。無表情なのに、声には感情があるんだなぁ。
「いやぁ、夢中だったからね」
あの時は中二魂に火がついたというかなんというか、仕方ないよね。
「しかも、ビームとか放ってたし、空間操作とかしちゃってたよね。でもなんで、最初はレーザー出せなかったんだろう?」
変身直後に壁を壊そうとしたときにレーザーを出そうとしても出なかったのに、戦闘中に作った砲筒からは出せたなぁ。空間結合とか空間圧縮とかもしちゃってたな。
《君は最初レーザーを出そうと思ったのか》
「そうそう。手からドーンと。魔力は集中できてたと思うんだけどね。」
うちはあの時のように手を伸ばす。レーザーは出せなくても、身体強化とか飛行魔法はできたのになぁ。
《しかし先程の戦闘を見ていたら、杖や大砲からは出していたじゃないか。もしかしたら、なにか道具を媒体にしないと発動できないんじゃんないのかい?》
言われてみて、そういえばとうちは思い出す。ほかの技……衝撃波とか空間操作とかは何かを元に発動していたかな。他の武器や道具は、そのままの使い方をしていたと思うけど。
「それじゃあ、なんで身体強化とか飛翔とかはできたのかな」
《それは君特有の魔法じゃないからだろう。おそらく基本魔法の一種で、どの魔法少女でも扱えるからだと思われるよ》
ふむ。それなら納得かな。ということは、みんな大体の魔法っぽい魔法は使えるってことなのかな。
「そういえば、他にも魔法少女はいるの?」
うちの中の成り行きで、ふとその疑問が生まれた。
《当然だろう。魔女は世界中に蔓延っているのだから、魔法少女も世界中にいる。さらに、少女を魔法少女へと変えるインキュベーターも世界中にいる》
そんなの全く気づかなかったなぁ。いつも二次元の世界に憧れていたけど、まさかこの三次元が既に二次元のような世界だったなんて。
「それじゃあ、うちの周りにも魔法少女はいるのかな?」
《それはわからないよ。この地域に一人いるのは知ってるけど、それが君の知り合いとは思えないし》
「なぬっ!?」
既にここら辺に魔法少女がいたなんて……。しかもそれにまったく気づいていなかったなんて……。
「どんな魔法少女なの?」
《他と比較したことはないけど、凄く強い。どんな魔女でも楽勝のようだからね》
「はへ~」
うちは素直に驚いた。あんなボスが楽勝なんて、それほど経験と才能のある人物なのかな。
《なにを驚いているんだい? 君だって例え超能力がなくとも、本気でやれば楽勝だろう?》
「まだ一戦しかしてないのに、そんなこと言えないよ」
これは本音ではあるけど、内心では少し自惚れていた。だって、さっきの戦いは楽勝だったから。
《それもそうだね。だけど、君は強いと自信を持っていい。彼女ほどではないと思うけど》
「なんだって?」
あんなに余裕を持って魔女を倒したうちよりも強いなんて、一体どんな魔法少女なんだろう? やっぱり経験豊富なのかな? 見た目も可愛かったりするのかな?
「会うことってできないの?」
他の魔法少女を見てみたいという気持ちと、その人への単純な興味から訊いてみた。先輩にいろいろ訊きたいし。
《それは難しい。なにせ、僕は彼女の居場所がわからないからね》
「えっ? わかんないの?」
契約者同士ならお互いの位置ぐらい感じ取れると思ってたけど、どうやらそんなに都合良いわけではないみたい。
「家とかも知らないの?」
《行ったことも聞いたこともない。尾行して突き止めようとも思っても、彼女はいつも気づいたらいなくなってるから成功した試しがない》
そんな簡単に撒くなんて、流石に強いと言われているだけはあるのかな。
「なんか手がかりないの?」
いつから関わりがあるのか知らないけど、少しくらい情報があってもいいはず。
《――そういえば、学校……見滝原中学校に通ってると思うよ》
「えっ!?」
見滝原中学校。そこは、うちも通ってる学校だ。
「何年何組!?」
私は身を乗り出す。だけど、インキュベーターさんは首を振った。
《そこまではわからないよ。それに、これはあくまで推測に過ぎない》
「聞いたわけじゃないの?」
《そうさ。僕は彼女の制服からそう判断しただけだ》
その言葉を聞いて、うちは掛けてある制服を指でさして訊く。
「あれ?」
《そう、それだ。ということは、君も見滝原なのかい?》
「そうだよ。見滝原中学校二年」
学校に慣れてきて、なおかつ将来のことを考えなくて大丈夫な、三学年の中で一番楽な時期。そんな時期に魔法少女になれるなんて幸運かな。
「それなら、彼女の名前は? それぐらいはわかるよね?」
どのくらいの付き合いかは知らないけど、流石に名前ぐらいは知ってるはず。というか、知らないと探せないし。
《それはわかるよ。彼女の名前は『森沢妖歩』。ついでに見た目も教えるよ》
インキュベーターさんの耳が伸びて、うちの頭に触れた。……耳が伸ばすことができるんだ。しかも、なんかモフモフしてる。その感触を楽しみたかったけど、脳内に画像が流れてきて邪魔されてしまった。こんなことできるんだ。
流れてきた画像は、彼女の全体像とフルネームの漢字。腰まで伸びた黒髪に、明るそうな容姿。見滝原の制服に身を包んだその姿を、うちは見た記憶がなかった。
「少なくとも、うちのクラスにはいないかな」
自分のクラスくらいは全員覚えてるから確信をもって言える。だけど、他クラスの生徒なんて見たことない人は何人もいるし、学年が違えばもっての外かな。
「というか、学校がわかってるなら中に入ればいいんじゃないかな? インキュベーターさんって、人には見えないんでしょ?」
実際にうちも最初は見えなかった。なんか気配とかもなかったから、侵入しても誰にも気づかれないはず。
《それは違いないが、僕は他のインキュベーターと関わりたくないんだ。魔法少女というのは第二次性徴期……君のような年代の少女から選出されるんだ。学校というところにはそういった人材が溢れているから、その中に魔法少女がいてもおかしくない。いたとすれば、その近くにインキュベーターがいる可能性がある。だから、僕としては不用意に近づくことはできないということだ》
それはつまり、インキュベーター同士はお互いを感じ取れるということかな? さすが地球外生命体。
「なんで見つかっちゃだめなの? もしかして悪いことして逃げ出したとか?」
見つかっちゃいけない理由なんて、二次元だと大体そんな感じ。というか、他になにかあるのかな?
《悪いことをしたわけではないが、逃げ出したというなら否定しない。僕は他のインキュベーターと言葉を交わすだけでも嫌なんだ》
「なんで?」
どうやら深刻そうな理由がありそうだけど、うちはそれを知りたいからはっきりと訊いた。
《僕はインキュベーターという種族の中で、例外中の例外だから。他の無機質で無感情な奴らとは違う、人間と同等の感情を持っている個体なんだ》
それはつまり、他の個体は感情がないということかな。うまくイメージわかないけど、機械型の悪者とかみたいなものかな。
《他の奴らは全員、他人のことも自分のことも一切考えない。この宇宙の存続にしか興味の無い連中なんだよ》
「この宇宙の存続?」
他人のことを考えないというのはわかる。自分のことも考えないというのもわかる。そういうキャラはよくいるから。そしてその裏には、なにか理由がある。それはわかる。でもその理由が意味不明なんだけど。
《そう。宇宙を維持するためにはエネルギーを必要とし、エネルギーを生み出すためには資源を必要としている。そして、一の資源からは一のエネルギーしか生まれず、それを使えば零となる。しかし、資源とは限りあるモノであり、消費し続ければいつかは限界が来る。つまり、いつかは宇宙が消滅してしまう。それを僕らインキュベーターはよしとせず、一の資源から一以上のエネルギーを生み出す方法を模索し、発見した。それが、魔法少女というシステムだ》
「魔法少女が、システム?」
システムとはやり方や方式、制度のこと。魔法少女というのは、うちがさっきなったあれのこと。それがどう宇宙の存続と関係するのかな。
《僕たちは少女を魔法少女することができるが、それ自体に意味はない。意味があるのは、その際に願いを叶えるということだ。それにより発生するメリットは二つ。一つは魔法少女になってもらうための餌。もう一つは、希望を持ってもらうためだ》
「希望を?」
そう言われて、うちはさっきの状況を思い出す。あの絶体絶命な状況の中、希望を求めて魔法少女へと変身した。でもそれは、その場を乗り越えるためだけの小さな希望を求めただけ。それに一体どんな意味があるのかな?
《ある者は絶望を希望に変えるため。ある者は新たな希望を手に入れるため。ある者は未来に希望を託すため。それぞれの強い想いのもと、願いを叶えて貰う。その後は、当分魔法少女の仕事に励んで貰う》
「仕事って確か、魔女退治だっけ?」
《改めて説明すると、人々の不安や猜疑心、過剰な怒りや憎しみといった負の衝動が元となって自然発生する怪物……それが魔女だ。それらは人々の心に侵入し、負の衝動を増幅させ、死に追いやる。しかし普段は結界という一般人には認識できない空間に隠れているため、それを見つけて退治することが魔法少女の仕事だ》
「それが、エネルギーとどう関係するの?」
《その仕事自体は関係ない。重要なのはその先。――話は変わるけど、魔法少女が魔女退治をするのは、なにも正義のためだけではない。魔女からとれる『グリーフシード』というモノが、魔法少女の存在維持に不可欠だからだ》
インキュベーターさんはどこからか、両端に棘のついた黒いなにかを取り出した。
《君は気づかなかったみたいだけど、これはさっきの魔女が落としたものだ。――ちょっと、君のソウルジェム……って言ってもわからないか。その指輪がはまっているほうの手を握りしめて、なにかを出すように念じながら開いてみてくれないか?》
「え~っと、こうかな?」
うちは言われた通りにやってみる。すると、そこにはぼんやりと光る、なんか特別な入れ物に入った卵のようなものが出現してた。
「なにこれ?」
《それが、ソウルジェム。魔法少女の魔力の源であり、君の魂が込められている代物だ。魔法少女となってしまった以上、君はそれを肌身離さず持っていなければ生きていけない》
「へぇ。魂なんて二次元チックだね」
《そこで一つ。まず、今現在君の肉体の中に魂はない。それについてはどう思う?》
「どうも。魂なんて単語は二次元でよく耳にするけど、はっきりと認識できないうちにとってはそれがどうなろうとどうでもいい。生きてさえいればね」
《そうか。ならもう一つ、そのソウルジェムを見てくれ。少し……いや、大分濁ってるね。さっきの戦闘、大分魔力使ったんだね》
「あ、これ濁ってるんだ。これがデフォルトなのかと思ってた」
ソウルジェムの先端を掴んで、目の高さにまで上げて中身を確かめるように震わせながら確かめてみる。まあ確かに、綺麗と言うには少し黒すぎるかも。
《それは、魔力を使った証拠だ。最初は真っ白に済んでいるが、使えば使うほど徐々に黒ずんでいく。若干わかりづらいと思うが、それが魔力の残量だ。魔力が減れば魔法も制限される。コンディションも悪くなる。それを回復する方法が、グリーフシードだ。》
話しながらうちの手からソウルジェムを取り、グリーフシードに近づけた。すると、濁りがグリーフシードに移動して、ソウルジェムが白く光るようになった。対して、グリーフシードのほうはぼんやりと黒い光を放ち始めた。
《これで回復は完了。ちなみに、このグリーフシードも使用限度がある。グリーフシードとは魔女の卵。濁りを与えすぎれば、魔女が生まれてしまうよ》
「使ったグリーフシードはどうするの?」
《それは僕が処理するよ。こうしてね》
インキュベーターさんは耳を使って上に放ると、背中の星マークが穴となってそこに落ちていった。
《細かいことは置いといて、こうすれば大丈夫だ。この処理に限界はないから、安心してグリーフシードを使って貰っていい》
「……いや、そんなことしなくても、うちの能力を使えば問題ないんじゃないかな?」
一通りの説明を聞いて思った。使えば減るのだったら、使う前に戻せばいいんじゃないかな。
《というと……?》
でも、彼はわかってない様子。仕方ないから、わかりやすいように説明を試みる。
「だってさぁ……まあ、見てて」
うちは能力で時間を戻して、ソウルジェムを濁った状態に戻す。次に特定空間の時間を戻して、濁った状態のグリーフシードのあった時空間を現在に顕現させた。
「うちの能力はなんでも戻すことが出来る。だったら、使ったグリーフシードを使う前に戻すことができるし、ソウルジェムの時間を戻して魔力を回復することだってできる。こうすれば、なにも問題は無い」
うちはここでどや顔を決める。我ながらカッコイイ!……なんちゃって。
《ははは。まさかそんな方法があるなんてね。君を魔法少女にしたのは正解だったようだ》
「おん? 今更そのことに気づいたの?」
《すまない。僕も経験が足りないね》
無表情なのに声は明るい。なんかシュールすぎて笑えるんだけど。
《――さて、ここで問題だ。このグリーフシードは魔女が持っているが、必ず持っているとは限らない。使い魔という、魔女が創り出す赤子のような存在も結界を創るが、こいつは当然持っていない。そこでもしそういった『持ってない』奴らとばかり戦闘を繰り返し、回復も出来ずに魔力が零になってしまったらどうなる?》
「そうなったら、死んじゃうんじゃないの?」
大体の特殊な力を操るキャラは、総じてそういうもの。だからこそ命がけの描写も発生する。
《死ぬことに変わりは無いが、厳密にはそうじゃない。魔力が零……つまりソウルジェムが真っ黒に染まってしまった者は、魔女へと変化してしまうんだ》
「へぇ~、それは大変だね」
《……やはり君は反応が薄いね。魔法少女がシステムということに関してはただの疑問としか捉えてなかったようだし、魂と肉体が別だという話に関しては別段興味が無いみたいだった。僕の認識では普通の人間なら、そんな話を聞いたら少なからず絶望するはずなのに》
「え? いやだって、怪物に変化しようが死んだことに変わりはないんだし、システムとやらに巻き込まれたってうちはやりたいようにやるだけだもん」
インキュベータさんの話にうちはキョトンとした。むしろそれに絶望する理由がわからない。そいつらなに? 豆腐メンタルなの?
《ちなみに、ただ魔力が零になったというだけで魔女に変化する人間はそういないだろう。これはあくまで僕の予想だが》
「他にもあるの?」
《ああ。むしろこちらが本命だ。ソウルジェムというのは心そのものも表している。もしその人間の心が絶望していればその分ソウルジェムは濁っていき、完全に絶望した者は真っ黒なソウルジェムがグリーフシードへと変化すると共に魔女へと変わる》
「わぁ。豆腐メンタルは大変だね」
《ここでエネルギーの話に戻るが、その魔女化の際に発生する希望と絶望の相転移。そこで生まれる感情エネルギー。これが僕らの求めている、法則に縛られない莫大なエネルギーなんだ。そのためには願いだって叶えてやるし、言葉巧みに絶望だってさせる》
「それは凄いね。じゃあさ、魔法を一切使わずに絶望もしなければ願いだけ叶えておしまいじゃないの?」
というか、普通そうするんじゃないかな? 魔女との戦闘なんてめんどくてやってらんないし。日常生活でそんな絶望する機会なんてないんだし。
《そういうわけにもいかないんだ。魔法少女となった以上、その肉体の維持に微量ながら魔力を消費している。結局はグリーフシードのために魔女と戦闘しなくてはならないんだ》
「めんどい仕様だね」
なんて言いつつも、そういうのがあって当然だとも思ってた。それがなきゃ、さすがに優しすぎるよね。
《まあ、全部の点に関して君は心配ないみたいだけど。実力はあるし、能力はおかしいし、精神も強い》
「ドヤァ」
うち最高。これはもしや、うちがこの魔法少女のシステムをどうにかしちゃう感じかな。
《それにしても、これは謝る必要もなかったな》
「へ?」
《君と契約した後に言ったじゃないか。僕はとんでもないことをしてしまったって》
「ああ。あれってこのことだったんだ」
《そうだ。だが、それは僕の徒労に過ぎなかったようだ。さっき話した森沢妖歩も、君と同じように魔法少女のシステムを気にしていなかったよ》
「むしろ、うちには気にする人の気持ちがわからない」
《仕方ないさ。人は皆違うのだから》
「地球外生命体がそんなことを言うなんてね」
《だからこそさ》
相変わらず無表情の地球外生命体と、お互い笑い合う。
「これからよろしくね、インキュベーターさん」
《そういえば名乗ってなかったね。僕の名前はヒィべえだ。君は?》
「うちは
《ああ》
「つか、ヒィべえってダサ」
《そう言われても……》
「よし。君はこれからスターだ。背中に星があるから」
《ええ!?》
「そして、うちが魔法少女の時はライトと呼んでくれ。宜しく頼む」
《なんでそんなことを……》
「かっこいいから」
《わけがわからないよ》
はい、妖歩です。書き溜めはここまで。
今回はただの説明回。故に長いです。
明の魔法の基準を細かく考えてないので、途中おかしいところが出るかと思います。
ちなみに、作中に出てくる『森沢妖歩』は作者ではありません。ただのオリキャラです。
それでは