昼休み。うちは感覚を集中して魔法少女の魔力を探索してみた。
(……この感覚からすると、三年に一人。二年に一人かな。二年は暁美さんだから、三年の人が森沢さんかな)
三年となると、ここからは少し距離があるから探しに行くのに少し時間がかかる。どうせ見た目はわかってるんだから、見つけるのはそう時間がかからないはず。
(だったら、ご飯食べてからでも間に合うかな)
そう思って、お弁当を持って立ち上がった。どこで、暁美さんと話してる志筑さんを見つけた。
「志筑さん、ご飯食べよ」
「あら、明さん。暁美さん、よろしくって?」
「……構わないわ」
どうやら志筑さんは暁美さんをお昼に誘っていたみたい。了承を得た志筑さんは、嬉しそうな表情で「では、行きましょうか」と言って教室を出て行った。うちと暁美さんもそれについて行く。
「ここでいいんじゃないかな?」
「そうですね。それでは、お昼に致しましょうか」
テーブル席が多数設置されているスペースの一つに腰掛けて、うちらはお弁当を広げる。
「それにしても、なんで暁美さん誘ったの?」
食事を始めてから。うちは気になっていたことを訊いてみた。どうも志筑さんと暁美さんは接点があるようには思えない。似ているようなタイプでもないし、話しやすそうな雰囲気でもない。
「人を寄せ付けない雰囲気をお持ちの方ですが、本当はどういった方なのかと思いまして」
確かに、暁美さんの達観したような雰囲気にはどう割り込んでいいかわからない。うちも積極的に声をかけようとは思えないし。
「よく声をかけられたよね」
「避けていては何もわかりませんわ。まずは第一歩を踏み出さないことには、なにも始まりませんの」
「だってさ、暁美さん。どう思う?」
ここで暁美さんに振ってみる。こうしないと、一人で黙々とお弁当を食べて終了してしましそうだから。
「むしろ、どう思ったのかしら? 志筑さん」
話題を振ったというのに、さらに振り返してきた。答えないだけまだいいかな。
「そんなすぐにはわかりませんよ。ただ、お話ししやすい方だとは思いましたわ」
「おろ? それはどうして?」
「理由なんてありませんわ。なんとなく、そう思っただけですの」
「ほうほう、それは……」
そこは流石志筑さんと言ったところかな。いくつもの習い事を掛け持ちして、いろんな知識と経験を身につけて、お嬢様としての人間関係を保っているだけはある。
「ところで、貴女たちって仲がいいのね」
仲睦まじいうちらを見て、ふとそう思ったのかな。向こうから話題を振ってくれるなんてありがたいね。
「志筑さんっていくつも習い事をやってるんだけど、そのうちの一つが一緒なんだよ」
「まさか同じクラスに合気道をやってらっしゃる方がいるとは思いませんでしたわ」
「合気道……?」
「そっ。志筑さんは護身術のためにだって。うちはなんかできたらカッコイイかなって」
できたらカッコイイと言っても、きっかけは二次元なんだけどね。流石に二次元みたいにできるとは思ってないけど。
「そ」
一言というより、一文字だけ言葉を返して暁美さんは食事に集中し出した。こういうの見ると、どうにかして話をしたくなる。
「暁美さんはなにかやってないの」
「特に」
「それじゃあ、放課後は暇なのかな」
「そうでもいないわ。やることがあるから」
(やることねぇ……)
そう聞いて、真っ先に魔法少女の仕事が浮かんだ。他になにかあるかもしれないけど、確率としてはそれが一番だと思う。
ここで「魔法少女……とか」なんて呟いたら「な……!」とか返してきて二次元よろしく面白くなりそうだけど、うちも正体を知られたくないので却下。
「――ごちそうさま」
「はやっ!?」
暁美さんがいつの間にか食べ終わっていて、既に片付けも終了していた。
「少食なの」
「いや、それにしたって速いでしょ」
うちもそんなに量があるわけじゃないのに、まだ半分程度しか食べてない。志筑さんだって同じくらい。
「それじゃあ、私は先に戻るわね」
「え、ちょ!?……あ~」
うちには目もくれずにさっさと帰って行ってしまった。逃げられちゃったな、これは。
「お先に失礼されてしまいましたね」
志筑さんが残念そうに笑う。でもその表情は、どことなく嬉しそうだった。
「その割には嬉しそうに見えるけど?」
「すいません。予想通りのお方だったので」
「あの人を予想するとは流石かな。して、その内容は?」
「暁美さんは他人を避けていらっしゃるようですけど、他人を嫌ってるわけではないということです」
「ほうほう。あの短時間でよくわかったね」
少し話して、数分一緒にお昼を食べただけ。それだけなのに何故そこまで理解できたのか、そこが気になるところかな。
「先ほど足早に帰ってしまったことから、できるだけ他人と関わりたくないと思っているのでしょう。しかし私の誘いを断らなかったことから、人の誘いを無下にするのも悪いという優しさが窺えました」
「それだけでそこまで考えが及ぶかな」
志筑さんの考えが絶対合ってるとは言わないけど、言われてみればうちも共感できた。ただ少なくとも、うちではそこまで推測することはできないかな。
「感じろとは申しませんが、ただ見て考えるだけではわかりません。良い方向に考えて、いろんな方向から見て、心を読み取りませんと」
その理屈はわかるけど、さも当然のように言われても困ってしまうかな。そんなこと言ったって、初見で良い方向から人を見ることができること自体がすごいことだと思ってるから。暁美さんのような人が相手ならなおさら。
「そんな志筑さんに、一つ訊いていいかな?」
「なんですか?」
初対面の人ですら的確に見抜くその観察眼を見込んで、うちは今不意にわき上がった疑問を思い切ってぶつけてみる。
「うちのことは、どう思う?」
小学四年生からの付き合いだけど、こんな冗談を交えずに訊いたのは初めてかな。真剣だと言うほど大層な内容ではないけど、冗談だと流すことはしたくない内容。
「ふふ――」
その空気を彼女は感じ取ったようで、一つ微笑を浮かべてから口を開いた。
「そのような質問は、無粋というものじゃありませんの?」
全てを見透かされてもいいと思うような、鋭く温かい目を向けられた。他の誰にもできないようなその瞳に、うちは不覚にも言葉を失ってしまう。
「だって、親友に言葉は必要ありませんもの」
追い打ちとばかりにそんな言葉を告げられ、さらに目を逸らしてしまった。その瞳でそんなことを言われたら。もう無理。嬉しいけど恥ずかしすぎる。
「さすがに恥ずかしいですね」
自分で言ったというのに、志筑さんは照れくさそうに笑った。見ることはできないけど、お互い顔が赤くなってるんだろうなぁ。
「も、申し訳ありませんが、私は食べ終わりましたのでお先に失礼しますね……!」
いつの間にか食べ終わっていたようで、てきぱきとお弁当を片付けると、小走りでどこか行ってしまった。常に自分を崩さない志筑さんにしては珍しい光景だった。
「……でも、あのボケはやめてほしいなぁ」
場を楽しませようとしてるかはわからないけど、たまに勘違いを勘違いとわかっていながら本気のようにふるまう冗談を繰り出してくる。確かに面白いけど、暴走が過ぎないようにしてほしいかな。
「この前なんか、ちょっと楽しそうに綾川くんと話してたらそういう仲だーって暴走されたし。ただたんに、ちょっとしたことで気が合っただけだったのに」
その時のことを思い出して、うちは呆れる。でも、あの存在自体はオタク界隈だと有名だけど一般人は絶対に知らないあの弾幕STGファンが同じクラスにいるとは思わなかったかな。
「――ちょっといいかな」
「ん?」
ご飯を食べ終わってさあ戻ろうとしたところで、誰かに声をかけられた。それに振り向く前に、その人物は私の前に回って椅子に腰掛けた。
「初めまして、懐さん」
「…………って!?」
相手の顔を見て思わず叫びそうになったけど、なんとか一文字で止める。これは不意打ちすぎるでしょ。
「えっと……森沢妖歩さんですか?」
身を乗り出して恐る恐る訪ねてみる。
「そうだよ。驚いた?」
「そりゃあ、驚きましたよ! え? 魔法少女ですよね? というか、うちのこと知ってるんですか?」
スターの話では、森沢さんにうちの話をするために登校バスに同乗しているって言ってた。つまり、まだ話をしていないはず。
しかも魔法少女が近くに来たらわかるはずなのに、そういうのは一切なかった。まさかこのうちが気づけなかったなんて!
「君のことを何故知ってるかについての説明は省かせてもらうけど、気づかないのは当然だよ。それがうちの願いであり、能力なんだから」
「なんなんですか? その願いって」
「私はね『自分の存在を消す能力』を欲しいと願ったの。なんでかは教えられないけど、その能力で魔法少女として認識されないように存在を消してたの」
「だから気がつけなかったんですね」
うちは納得すると同時に感心した。そうやって存在を知られないやり方も……というか、そのために手に入れたのかな。
「そうそう。私は二年生だよ。魔力探知で私のこと捜しただろうけど、三年の魔法少女は違うからね」
「あっ、そうなんですか。てっきり先輩かと思ってました」
実際魔法少女としては先輩なんだけど、こうして見ても全体的に先輩感が漂ってる気がする。
「だから敬語なの?」
「あ、いや、それはなぜかこう……自然と」
「まあ、話し方なんてどうでもいいけどね。とりあえず、今日は挨拶だけだからそんなに話すことはないし、一つだけ言っておくよ」
「はい」
ニッと笑って人差し指を立てる森沢さんに、先輩だと言うのもあってなにを言われるのかと気構えてしまう。
「他はともか、波地見市の魔女に関しては心配しなくていい。君の役目は一風変わった日常を送ることと、魔法少女を助けること。そして、物語を覆すことだから」
「え? それって……」
「んじゃあね。頑張って」
言葉の意味を聞こうとする隙もあたえてもらえず、森沢さんはさっさと立ち上がって帰ってしまった。
(とりあえず、魔女退治はしなくていいってことかな。いや、波地見市の……と言っていたから、ここ見滝原のはやったほうがいいのかな。じゃなくて、地元の魔女を心配するぐらいなら他の魔法少女のことを心配して欲しいってことなのかな)
うちには志筑さんほどの観察眼はないけど、それでも森沢さんは何もかも考えてああいった発言をしたんだと思う。でも、その意味がどうもわかりかねる。
(だったら、下手に考えるのはやめてやりたいようにやろうかな)
あの人なら、うちのこういったとこまで見抜いてる……と思いたい。とりあえず覚えておいてほしい、みたいな。わかる時になったらわかる、みたいな感じで言っていた……と思いたい。
「それじゃ、そろそろ戻りますか」
森沢さんと話している間はすっかり存在を忘れていた残り少ないお弁当を食べきり、うちは席を立った。
はい、妖歩です。仁美がすごい。
ぶっちゃけますと、原作におけるメインメンバーはこの作品ではサブキャラです。
逆に原作でサブだったキャラがこっちではメインだったりします。
主人公は明ですが、原作キャラのあの人とあの人が準主人公だったりします。
本編にも出ますが、詳しい話は番外編として掲載するかと。
それでは
サブタイトルつけようかなぁ……。