「ゴール!」
午後の体育の時間はサッカーだった。運動能力に自信のあるうちと志筑さんが同じチームなのに、相手の暁美さんに翻弄されて一点先取されてしまった。
「はぁ……はぁ……、暁美さんすごいですね」
「そうだね」
動きまくって疲れた様子の志筑さんは、膝に手を当てて肩で息をしていた。対してうちは疲れるのは嫌なので適当に動いていただけだったから、全然疲れてない。
「休学してたって話だけど、よくまああんな動きが出来るなぁ」
おそらく魔法少女の魔法を使ってるんだろうけど。ずるいなぁ、授業で魔法使うなんて。
「……明さん、すいませんが……はぁ……真面目に……やってくれませんか?」
「うーん、どうしようかな」
授業程度の勝負なら、正直勝敗はどうでもいいんだよね。それに本気出せるけど出さないって、なんかかっこいいし。
「それじゃあ、もう一点とられたらにしようかな」
だからといって、必要なときに使わなかったら宝の持ち腐れ。でも使うんだったら、ピンチになったあとにカッコよく使いたいよね。
「だから、それまで志筑さんは休憩しといて。たぶん、うちだけじゃ止められないから」
「……わかりました」
「――――はい、フラグ回収だね」
案の定点とられたよ。それもそうだよね。うちと志筑さんが大して動いてなかったんだから。
「それでも、丁度ハーフタイム。これが終わったら一気にいくよ」
「はい」
「スタート!」
後半はこっちボール。審判の合図が響いて、志筑さんがボールに触れた。
「お願い」
「先手必勝!」
うちは思いっきりボールを蹴る。それは結構なスピードで綺麗な放物線を描き、丁度ゴールの角目がけて――
「やっらぁ!」
入れば良かったけど、やっぱり防がれちゃった。でも、ここから流れを作る。
「いっくよー!」
元気よく突っ走ってきたのは美樹さん。あの子は悪くない動きするけど調子乗るから、まあ良かったかな。
「どけどけー!」
そのお調子のおかげで、味方にパスすることもなく一人でこっちに来てくれるよ。暁美さんに渡らないならこっちのものかな。
「ざんねん」
「あっ!」
てことで簡単に奪取。向こうのチームは、暁美さん以外は敵じゃないかな。
「志筑さん! 壁!」
先に走っていた志筑さんにパスすると同時にうちは前に走り出す。壁とは壁パス、つまり誰かに回してもう一度自分に戻してもらうパスのこと。
「はい!」
そこでサッと視線を全体に走らせると、暁美さんがこっちに向かってきていた。壁パスの意味を知ってるみたい。
「(パスは却下!)」
志筑さんを見てから暁美さんに目をやる。そうしてそんな感じにアイコンタクトしてみたんだけど、伝わるかな。
「……」
どうやら伝わったようで、志筑さんは頷いてそのまま走り出してくれた。
「くっ……!」
すぐに気づかれたけど、時既に遅し。ゴールは志筑さんに任せて、うちは暁美さんの進路を妨害する。
「どいて」
「やだよ」
右に動けば右に動き、左に動けば左に動く。暁美さん相手にずっとは無理だろうけど、時間稼ぎをするぐらいはいける。
「いきます!」
「させるかー!」
「あ……」
志筑さんがいざシュートするって時に、美樹さんが突進してきてボールが吹っ飛ばされた! しかも上手い具合にこっちのゴールに!
ボールの着弾点はゴールちょっと手前。そこにいるのは……鹿目さん!
「わ……え、どどど……」
「まどか……!」
「あぁ! 抜かれた!」
動きにはついていけるけど、速さにはついていけない。だとしても、できるだけその背中を追いかける。
「え……わー!」
わけもわからない様子で、とりあえず蹴り上げた鹿目さん。そのボールは高く高く飛んで…………暁美さんの元に。
「ちょっとー!?」
その綺麗な弾道に思わず声を上げてしまった。
「まどかナイス! いけー転校生!」
後ろから美樹さんが叫んでいた。喜んでいるとこ悪いけど、これ以上ゴールは決めさせないために、ボールを奪いにかかる。
「えいっ!」
「遅い」
「遅くない」
「無駄」
「じゃないんだな」
「く……!」
「隙あり!」
足の応酬を繰り返して、なんとかボールを蹴りとばすことに成功した。ただ暁美さん相手だとうまくやれないので、ほんと蹴っ飛ばすだけになってしまったのが悔しい。相手のゴールに向かって蹴られたのが幸いかな。
「転校生なにやってんのよ!」
ここでまた美樹さんがきたよ。ゴール前に飛んできたボールを、反射するみたいに思い切り蹴り返してきた。しかも偶然だろうけど、ゴールに吸い込まれるような弾道を描いてるよ。
「志筑さんサポートよろしく!」
ゴールまで四分の一ほど距離があったうちは全力で走る。ここで下手にトラップすると暁美さんにとられそうだから、ここは一気に勝負を決めるしかない!
「やあぁぁぁぁ!」
タイミングを読んで、叫びながら勢いよく跳ぶ。その勢いを維持しつつ後ろへ縦に半回転。オーバーヘッドキック炸裂!
「ええぇえぇえぇぇぇ!」
「あんなの初めて見た!」
鹿目さんと美樹さんが口を開けて驚いてくれた。そんなに驚いてくれると、調子乗った甲斐があるなぁ。
「よっ……ん゛!?」
その調子でそのまま着地……できなかった。
(ぐねった……!)
しかも、たぶん結構酷く。支えることに失敗したうちの身体は、重力に従って倒れていく。でもここで倒れてしまっては試合が止まってしまう。せめて、志筑さんがゴールを決めるまでは!
「よっ……と!」
地面についた手を軸に身体を回転させて、その勢いで立ち上がって平静を装う。……いたい。
「おー、うまくとってくれた」
あんな盛大な蹴りを放ったって、さすがに自軍ゴール直前から相手ゴールにシュートなんてできっこない。でも、その近くまではとばせる。だから、あとは志筑さんに任せた。さっきは失敗しちゃったけど、今度こそうまくやってくれるかな。
「お? お? いける? いっちゃう? いっちゃったー!」
今度こそうまくやってくれたよ! やってくれちゃったよ! 流石志筑さん!
(さて、能力で戻そうかな?)
その場を凌げればこっちのもの。足を捻る前まで戻せばなにも問題はない。魔法じゃなくて能力だし、見た目にはわからない怪我だから気付かれることもない。
「明ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫だよ。ただ着地に失敗しただけだから」
「そうは見えなかったわ。足捻ったんじゃないの?」
うちの一部始終をばっちり見ていたようで、鹿目さんと暁美さんの両方から心配されてしまった。
「平気だよ。ほら」
うち足首をグルグル回して見せる。うん、痛くない。しっかり能力を使えてるみたい。
「そっか、よかった」
「なら、いいけど……」
よし、フラグを回避した。暁美さんに気づかれてる様子もない。
「明さん!」
「うん? どうしたの、志筑さん?」
相手ゴール前にいた志筑さんが駆け寄ってきた。なにをそんなに急いでいるのかな?
「いえ、無茶して転んだようでしたので大丈夫かと」
「転んでないよ。転びかけたんだよ」
「屁理屈はいいです。遠目でよくわかりませんでしたが、足を捻ったのではないですか?」
「大丈夫だよ。ほら、痛くないから」
さっきと同じように足首を回してみせる。でもさっきとは違って、志筑さんが相手だとばれてもおかしくないから怖い。
「本当ですか?」
「う、うん。大丈夫だよ」
嘘はついてない。今は痛くない。心配する目が怖い。動揺はばれてないよね。いや、ばれてるだろうけど。これって近かったら絶対隠せなかったよ。
「……そうですか。良かったです」
とりあえずここは追求しないでおこう、といった様子かな。あとで追求するということもないだろうけど。
「では、次も頑張れますか?」
「うん、無理」
これ以上は無理。絶対に無理。できるわけがない。
「あら、どうしてですの?」
「疲れました。今のでもう限界。むしろ限界突破」
「そういえば、体力なかったんでしたね。たしかにお疲れの様子ですし」
「よくわかるね」
弱みを見せないのはカッコイイから強がるのは得意だと自負しているのに、志筑さん相手だとやはり意味がないみたい。その通り、見た目では普通にしてるけど、ほんとは肩で息をするほど疲れてる。
あんな無茶して疲れないわけがない。ただでさえ体力がないっていうのに。
「ですが、あと少しなんとかなりませんの? 明さんしか暁美さんを止められませんわ」
「志筑さんが暁美さんに集中すればいけるんじゃないかな。他のことは他の子に任せて」
「それができなかったので、最初に点をとられたのではありませんか」
仰る通りですね。暁美さんがいなければ、うちがいなくてもなんとかなるかもしれないのに。
「とりあえず頑張ってみてよ。うち回復力には自信あるから、一~二分ぐらい時間稼いでくればなんとかなるよ」
「そこまで稼げる自信はないのですが」
「うちは一応ゴール前で待機しておくから。ほら、試合再開するよ」
「期待しないで下さいよ」
足早に中央へ向かう志筑さんを、申し訳なさそうに見送る。
(さすがに疲れてなかったらおかしいからね)
疲労も能力で戻せるけど、そうしてしまったら他はともかく志筑さんが違和感を持つこと必須。うちがどのくらいで疲れるか、彼女は把握してるはずだから。
(まっ、ちょっとは速く回復しようかな)
回復を後押しするだけだったら、問題はないと思う。なにか違和感を感じても、追求はしないだろうし。
(それまでは、彼女に頑張ってもらわないと)
はい、妖歩です。日常的ななにか。
まどまぎだというのに、なぜかサッカーを書いてました。
ただ日常を書きたかっただけなんです。それでスポーツでバトらせたいなぁとか思って、サッカーが最初に浮かんだだけなんです。
まあでもぶっちゃけた話、この先もあまりバトルはない……かも。
それでは