「ゲームセット!」
試合終了を知らせる笛の音が響き、全員が動きを止める。そうしてから、バラバラと中央に集まってきた。
「えー、二対二で引きわけです。気をつけ! 礼!」
『ありがとうございました!』
これで、この授業は終了。一度集まって先生の話を聞いてから、帰路についた。
「――いやー疲れた。あんな動いたのは久々だね」
さっきの試合では、一点取ったあと、一分で回復を済ませて、なんとかもう一点決めた。志筑さんが頑張ってくれたおかげで回復中に攻め入られることはなかったけど、回復し終わった後は暁美さんのせいでうちが全然攻められなかった。だから志筑さんに頼んだというのに、そこで美樹さんが喰らい付いてきて大変そうだったな。それでもゴール決めたあたり、志筑さん流石だけど。
「明さんは運動神経良いですのに、なんでいつも真面目にやりませんの?」
「疲れるから。テクニックとスタミナはイコールじゃないんだよ」
『動く』か『動き続けるか』の違い。合気道をやってるから相手の動きを見極めて『動く』ことは得意だけど、それで『動き続ける』ことはないのでスタミナは必要としない。
たしかに公式戦とかだと長期戦になることもあるけど、あれは動くことを繰り返しているわけで動き続けているわけではない。だから大丈夫。
「うちよりも驚くべきは、暁美さんじゃないかな?」
これ以上なんか言われても面倒なので、うちは前を歩く暁美さんに話題を変えた。
「ねえ暁美さん、ちょっといいかな?」
うちは走って近寄り、暁美さんの肩を叩く。一人で歩いてるから話しかけやすいね。
「なに?」
「暁美さんって、休学してたわりに運動神経いいよね。どうして?」
回りくどい言い方はせず、直球で訊いてみる。どう返すかな?
「どう……とは?」
「いやいや、こっちが訊いてるんだけど……。休学ってことは病気かなんかあったんでしょ? それなのに運動神経いいのはおかしいなぁと思って」
休学の理由が必ずしも病気というわけではないけど、それ以外はあまり思いつかないかな。他の理由で休学する程のなにかがあったようには思えないし。
「そういう人がいてもいいじゃない」
「そう、だけどさ……」
ですよねー。こういう返しをされると思いましたよ。この『それはあくまで一般論』みたいな理論。うちもよく使うから。
「そうですね。ですけど、その上で明さんと同じくらい動けるというのは凄いですわ」
おお、ここで志筑さんが入ってきてくれた。
「そうでもないわ」
「そうでもないわけないですわ。それは暁美さんだってわかるでしょう?」
「つか、それって遠回しにうちがそうでもないって言ってるよね」
自慢するほどではないけど、否定されるとそれはそれで良い気はしないかな。
「そりゃ仁美よりは弱いけど、平均よりは高い自信はあるよ」
「なにをおっしゃいますの明さん。私と明さんでは、明さんのほうが勝っているではありませんか」
「それは遊んでるからね。志筑さんがマジでやって勝ったことないじゃん」
ちなみに、本気になった志筑さんは目が怖い。普段本気を見せない分、わかりやすいし怖い。
「いつも真面目ですよ」
「真面目と本気は違うよ。さっきだって真面目にやったけど、本気じゃなかったもん」
本気でやってたらボール手にして突っ走ってシュート決めて、そこで電池切れになっちゃってたね。本気だと気張るから疲労も激しいんだよね。
「そんなこと言って。明さんって本気になったことありますの?」
「…………わかんない」
言われてみて、自分の本気というものがわからなかった。もっと力を出せるのはわかってるんだけど、出そうと思って出せる気はしない。本気を出さない癖がついちゃったのかな。
「でもいいじゃん。体育でも合気道でも、本気を出す必要なんてないんだから」
体育の授業は言わずもがな、合気道でも自分の言ってるところの同年代だったら真面目にやれば勝てる。さすがに年上は無理な人とかいるけど、そういう人とはまず組まないし、もし組んでも勝てそうになかったら適当に負ける。
「わかりませんよ。もしかしたら、思わぬところで危険な目に遭うかもしれませんから」
「まあ、その可能性は否定できないけど……」
できないけど、前ならともかく今となっては関係ないかな。魔法少女のちからがあるからね。
「暁美さんも……って、あら、いないわね」
「うん、行っちゃったよ」
二人で話してる間にさっさと進んでいたのを見ていたから、うちはあっさりと言った。
「見てたのなら、止めて下さればよかったのに」
「止める理由も話題もなかったから」
「そこは頑張って下さらないと」
「無理言わないでよ」
特に理由もないのに止めるなんて器用な真似はできない。仲のいい友達なわけでもないんだし。
「仲のいい友達ではないから無理……とか思っていて?」
「ぬ、ばれた」
「別にそんなことは関係ありませんよ。お話したいからという理由でいいではないですか。今は違くても、これからお友達になるために」
「難しいこと言うなぁ」
たしかに暁美さんとは友達になりたいと思う。彼女が魔法少女だからこそ、魔法少女という存在と交えずに、普通の女の子として。
「そう言うのなら、一緒に頑張ってよ」
「当然ですわ」
「――あんなこと言ったのになぁ」
帰り。気づいたら暁美さんは帰っちゃってたし、志筑さんは鹿目さんたちとどっか行っちゃってた。
「どうしたの? 鳩が豆鉄砲喰らったような顔をして」
「してませんけど」
背後からヒョコっと現れた森沢さんが的外れなことを言ってきた。こういうのは、憂いを帯びた表情とかがあってるんじゃないかな。
「いやいや、ぼーっとしてる相手には定番の台詞かと思って」
「みんな鳩が豆鉄砲喰らうような事態が起こったあとにしか言ってませんよ」
豆鉄砲以外にいろんな種類はあるけど、どれも言う場面は間違ってない。少なくとも、こんなシーンで使った人はいないはず。
「まあそんなどうでもいいことは置いといて、何かお悩みの様子だけど?」
「友達という存在について」
「ふむ、それは難しい問題だね。わたし的には親友一人、友達一人、その他親しい人一人……いればいいかな?」
「友達というのはなるものではなく、なっているものなのだということはわかっていますが、今気になってる人はそれが難しそうで」
「そっかぁ。私には友達いないからわかんないな」
「…………え?」
衝撃の事実がさらりと聞こえて、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「リテイクプリーズ?」
「イエス」
「私には友達いないからわかんないな」
「いやそんな、興味ないからわかんないみたいなノリで言われても」
重苦しい空気になるよりはマシだけど、余りにもアッサリしすぎててそれはそれでどうかと思うかな。いやほんと、逆に何言えばわからなくなるくらい。
「ちなみに、私は友達を作らないし作れない。誰とでも親しくなれるけど、誰とでも親しくなるだけ」
普通の会話のようで、真面目な会話をするように。真面目な会話のようで、普通の会話をするように。
「私はただの、案内役だから」
色のない光が目に宿る。この人は、一体何者なんだろう。
「あなたは、なにを……?」
「なんでも。この世界だと、今はとある魔法使いの生活支援だね」
「この世界だと?」
「正確には、この世界の私は……だね」
「???」
口角をあげて笑う森沢さんを前に、うちは疑問符を浮かべることしか出来ない。
この世界……ということは、別の世界があると言うこと。そして、そこにも森沢さんがいるということ。それは。なんというか……
「なんという二次元!」
魔法少女以上の二次元要素ではないかなそれは!? 別世界に関してもそうだけど、複数の世界に点在しているというのがまた。
「他の世界とはどんな!?」
「それは秘密。でも、いつかわかるかもね」
秘密めいた表情で笑う森沢さん。こういう時のいつかっていうのは信用できるけど、大体忘れた頃にやってくるんだよね。
「んじゃね! 悩め若人よ!」
若者らしくない台詞を残して、忽然と姿を消した。姿どころか魔力の欠片すら感じ取れない。能力で完全に存在を消したのかな。
「……一体なにをしにきたんだろう?」
森沢さんの事情を聞けたのは嬉しいけど、結局助言は得られなかった。本当、なにがしたかったんだろう。
「まっ、いいか。帰ろ」
気にしてたってなにもわからない。だったら、気にしないのが一番かな。
はい、妖歩です。今回は繋ぎの回かな。
ペースが落ちて、更新間隔は一~二週間。これでも、昔よりは速くなりました。
次回は番外編の予定。準主人公を早く明かしたいです。
それでは