獣の如き偉丈夫。
共にオーディン神の血を引くヴォルスング一族の生まれ。
彼らの決定的な違いとは……。
かたや、竜殺しの大英雄
かたや、愛知らぬ獣の如き男
対照的な彼ら、聖杯戦争にて相見える
「其方は何だ?私に似ている」
「貴様は何だ?俺と同じ顔だ」
向かい合う獣と氷のような面貌の男、片割れは大英雄に相応しい雰囲気に包まれ、獣は大英雄に懐かしさを覚えた。大英雄が携える剣は古き日、獣と共にあった男の物。
その剣をめぐり、獣は戦った。父を父と知らず、父とされた男を恨めと教育されて。しかし、獣は強靭であった。父と母の強靭さを受け継いだからこそ、強靭であったのだ。
王にはなれなかった。
しかし、強かった。
その生は誰かに利用され、実の両親からの愛情をまともに得られなかった。
一族に見合う勇猛さはあった、しかし、英雄としての極地には到達できず。
「ーー嗚呼、其方もか」
「何を言う、大英雄。その剣は、俺の知る剣と似ている。なぜ貴様が?」
「其方、ヴォルスングか?」
「!?」
獣ーーバーサーカーは、表情を明らかとした。氷の面貌の男はその強張った顔を少し緩めた。本来、宝具の力で狂化されたまま呼ばれるが、バーサーカーはマスターに惹かれるようにして影響を受けなかった。
故にバーサーカー、常時、理性を失い、獣の皮の力で理性を失ったまま、闘争本能に身を任せている状態となっている。バーサーカーは後世の血筋を知らない、バーサーカーは血族や親族に思い入れはないのだから。
だから、目の前の強力な剣のサーヴァントが誰であろうとどうでもよかった。
もしかしたら、同じ道を歩んだかもしれない。
もしかしたら、共に歴史に名を刻んだかもしれない。
そんな可能性があったかもしれない。
剣士のサーヴァント、狂戦士のサーヴァントは同じ一族、似た境遇であるがーー。
狂戦士のサーヴァント、彼を愛した者はいなかった生だった。
「ならば、大英雄。どうするつもりだ、俺がヴォルスングならば貴様は俺を笑うか?俺は愛を知らない、信頼できない。母ですら俺を復讐に利用し、父として教えられた男は父にあらず。
俺がいたばかりに本来の父は俺と同じ獣に落ちた。俺は、俺は俺はーーーッ!」
獣の慟哭、腰の剣を抜く。
その逸話から、腰の剣で危機を乗り越えたとすることから。
まだ竜殺しとならなかった、至らなかった際の剣。
セイバーは確信する。
この狂戦士は、バーサーカーは紛れもなくーー。
「其方はシンフィヨトリ。兄だ」
「よく名を当てたな。しかしだ。セイバー、血迷ったか。俺に貴様のような大英雄を兄弟にした記憶はない。血族とはいつも俺を苦しめる、いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも!」
「だが兄上なのだ、貴方は兄上なのだ。私はシグルド・ヴォルスング、そのグラムで竜殺しに至った。貴方の剣は、父と同じ剣は貴方の死後に父が戦に挑み、砕かれて私のグラムになる」
ブリュンヒルデに出会う迄、シグルドは氷のような人生を歩んでいた。
強靭過ぎたがゆえに養父に利用され、竜殺しの後に殺害されることとなるが、その首を斬り伏せた。父の遺した魔剣、技術に竜殺しを成した後に得た力。
それだけが遺産だった。
しかし、短い間でもブリュンヒルデと過ごした蜜月に後悔はない。グズルーンとの偽りの生活、それを悔いれどもブリュンヒルデは否定しない。
利用されるだけの人生だった、しかし、自分を思ってくれたのは母とブリュンヒルデだけ。あの劇的な出会いは鮮烈に覚えている。
地獄に堕ちども、忘れはしないだろう。
そう思えた。
機械のように生き、技術を淡々と得た自分に感情は希薄であったろうが、生涯を共にしたいと思えた相手と会えたのは幸運だった。
だが、シンフィヨトリという男、この兄はそうではなかったらしい。
ヴォルスングらしい誇りを汚されると耐えられない性分、それが作用して父・シグムンドが代わるはずであった毒を飲んだ。なんという皮肉であろうか、ヴォルスングの二人は薬に因縁がある。
「お前は違うだろう、お前はッ!お前は、お前は……」
「肯定。しかし、貴方は父を知っている。それもまた幸せの在り方ではないか?」
「俺は!家族なんて信用できねえよ!俺を、俺を利用するだけで……」
剣を握る手は震えている。
同じヴォルスング。
同じ顔。
しかし、目前の男は、彼のシグムンドの子は泣いている。
「貴方はーーシンフィヨトリ・ヴォルスング。私は貴方を利用しない。貴方がいなければ私はいなかった。礼を言う、この竜殺しが」
「……からかっているのか?」
シンフィヨトリは静かに語りかける。
シグルド・ヴォルスング。
容姿は大差なく、背中に背負う大剣まで酷似している。
「否定。貴方に感謝しているのだ、シンフィヨトリ兄様」
「……」
シンフィヨトリは目を疑う。
シグルドの、異母弟の顔は凍りついているように表情が伺えない。満月照らす黄金色の夜、闇を切り裂いて月光が竜殺しと獣を照らす。
オーディンの血筋。
オーディンの末裔。
英雄・シグムンドの子。
英雄・シグムンドの仔。
それが彼らの共通点、顔を知らぬ両者を繋ぎ止める鎖。
よく似た鏡写しの顔からは悪意を感じない。
利用され続けた人生、いつしかシンフィヨトリが得たのは悪意を感じ取る力。
それをシグルドから感じなかった。
シグルドは凍りついたような表情から変化はないが、それでも感じ取ることができる。彼が真実を語っていると。
「お前は俺の兄弟なのか」
「肯定。よく見てくれ、我が剣は貴方の剣と同じだ」
シグルドが背負う大剣を引き抜く。
その剣の名は『
シンフィヨトリは己の腰に差す剣に目を向ける。シグルドの宝具の前身にして父・シグムンドと苦難を乗り越えた『
シンフィヨトリは此度の召喚では、その力を使うまいとした。気に食わなかったのだ、血族を現す証と言える魔剣が。
しかし、面貌の冷たい大英雄はどこか誇らしげに見えた。その顔はかつてシグムンドに憧れた自分を彷彿とさせるもの。
「我こそは竜殺し、此処に現すは竜を屠りし魔剣。今こそ、その力を見せよ。ーー『
シグルドは宝具の真名を叫ぶ。
父の顔は知らない、しかし、この剣や肉体は父から受け継いだ剛体。
得た技術は己のもの、なれど、その為には生まれついた怪力や肉体がなければならない。
だからシグルドは誇りに思う、顔知らぬ両親に、オーディンに。そして兄であるシンフィヨトリを。
「苦難超えゆく、あるいはブッ壊す!これぞ魔剣よ、『
期待されたならば。
認めてくれるならば。
ならば。
応えずして何がヴォルスングか。
シンフィヨトリは魔剣の名を叫ぶ、歩みを止めずに剣を抜いて。
金属音はまるで獣の咆哮のよう、同じ起源を持つ魔剣は触れ合うと牙を突き立てあう。
シグルドは剣を握る手に力を込める。
シンフィヨトリは獣のように笑う。
言葉は要らぬ、誇り高きヴォルスングの兄弟にはなおさらのこと。シグルドは強敵との打ち合いに身体を震わせていた、その力は自身に匹敵するか、それ以上の怪力を持つ。
互いに持つ得物はどちらも大剣、己の膂力に並大抵の武器では耐えきれないからだ。
怒れる者、シグルド。
シグムンドの仔、シンフィヨトリ。
幼少期に抱いた夢を取り戻したシンフィヨトリ、型のない剣裁きは呆気なく剣術に優れるシグルドに受け止められてしまうが、一撃の重みが違う。
「兄上、」
「なんだ」
「私は楽しい。私の時代には私より強き者はいなかった」
「そうかよ」
剣の打ち合いの中、シグルドはポツポツと語る。己の駆け抜けた時代には己に匹敵する戦士は存在しなかったのだと。
シンフィヨトリはそんなシグルドの言葉をバッサリと切り捨てた。興味がないと断じたわけではない。
今のシンフィヨトリが抱く思いは違うものだ。強者たるシグルド、その言葉や振る舞いはどことなく師範として生きかたを教えられた男に似ている。
召喚に呼応した理由、「己の存在を消し去りたい」と願う理由となるもの。
「ーーシグムンドには敵わねえがな」
「父は、どのような人であったのだ?」
「さあな。蛮勇、じゃなかったか?」
そうは言うが、シンフィヨトリは覚えていたものがある。それは毒で命を落とした日、シグムンドが慟哭した日のことを。愛を知らずに育ったシンフィヨトリ、シンフィヨトリが不義の子と知ったシグムンドに拒絶された。
父とされたシゲイル王を殺すように母からは言い聞かされ、必要なこととはいえ、肌に皮を縫い付けられたりもした。
それに耐えたのは全ては憧れに近づくため、なのに。
『お前は人の子ではない。獣だ、獣の子だ!』
そう言われたのは女を取り合った相手、名前も忘れた気にくわない奴。
そいつを殺し、得た妻。しかし、愛し方を知らないシンフィヨトリは距離をとってしまう。そうして、シンフィヨトリが殺した男の母に毒殺されてしまった。
『なあ、シンフィヨトリ。我が子よ、目を覚ましてはくれまいか?お前はーー』
なぜ泣く?
なぜ哀しむ?
知らない、そんな物は。
しらない、そんなかおなんてしらない。
おれにそんなやさしいひとはしらない。
「来い、本気見せねえとブッ壊すぜ?ーー血筋は主神、その加護を以って獣と化せ。『
拮抗した状況を覆すべく、縫い付けられた皮の宝具の真名を叫ぶ。より力強さが増すシンフィヨトリ。最初に見えたスレた顔はなく、そこには膂力で獣のように振る舞う戦士のみ。
これほどの戦士、己の全力を出すに相応しい相手ではないだろうか?力強さ、余裕、心構えと理想的だと竜殺しの大英雄は考える。
ならば応えよう、最強の技、最強の一振りを持ってして。
「肯定。行くぞ、兄上。忘れられぬ光景、あの感触。これぞ我が偉業、刮目せよ!『
放たれる最強の技、力と偉業、それらがぶつかり合う時、衝撃波と風は場を駆け抜けるように広がる。
膨大な魔力が周囲に広がり、竜殺しの大英雄はその剣で獣のような男の剣をへし折る。高濃度のエーテル、それに耐えきることができなかったのだ。
それでもシンフィヨトリは戦意を失わない、ならば徒手空拳でと力任せに殴り抜かんとする。しかし、先ほどの打ち合いはまるで戯れとばかりにシグルドは動きに対応して攻撃を叩き落とす。
それに驚いたシンフィヨトリ、それこそがシンフィヨトリの隙であった。その隙を見逃さないシグルド、その大剣で突くーー!
周囲に広がる衝撃、砂埃が晴れた時、二人の偉丈夫は立っていた。
かたや、血を吐き。
かたや、血を噴き。
ヴォルスングの豪傑は互いの様子を見、口元を吊り上げた。
「なぁ、セイバー。いや、シグルド」
「どうされた、兄上」
氷の化身と言える顔をしたシグルドの突きは表情に対して熱く、強靭。
「お前の得たものはなんだ」
「バーサーカー、いやさ、兄上よ」
獣のようなシンフィヨトリの問い、それにはシグルドは手を止めずに答える。
「私の技術、父上のグラム、そしてブリュンヒルデだ」
「女か」
「そうだ。私の生涯は定められていたもの。そして、ブリュンヒルデの悲恋は彼女がある戦で肩入れしたが為の罪らしい。しかし、私はそんな運命がある事実を知ろうが、ブリュンヒルデを愛している」
シグルドの瞳の力は強い。
珍しく饒舌な様はシグルドにとっては良き思い出であったのだと思わせてくれる。
仕組まれたものであれ、この感情は決して偽りではないのだと竜殺しの大英雄は語る。
このような強さであれば、なるほど、確かに愛する者もあろう。
シンフィヨトリに足りなかったのはまぎれもない心の強さ、それがなかった為に敗北を喫してしまったのではなかろうか。ようやく得た答え、今なら告げられる。
「強いな、シグルド。俺より強い」
「いや、そうではない。私は継いだだけさ、父から、母から、オーディン神から。そし貴方からだ」
「ーーなら、勝ち抜け。勝って勝って勝ち抜くんだ。俺を殺した男が敗北することはゆるさない」
かける言葉はシンプルに。ゆえにシンフィヨトリはシグルドを急かした、最期は早い方が良い。それも、眠りに落ちるようにゆっくりと。
「さらばだ、兄上」
シグルドが『
最期に見えたシンフィヨトリの顔はどこか安らかであった。
血を拭い、竜殺しの大英雄はまだ続く聖杯戦争に臨む。シンフィヨトリとの、兄との約束を守る為に。
ブリュンヒルデが仄めかしてたシグルドの惚気と達成した偉業とかから妄想
完璧な超人にして大英雄なシグルドに対し、家族愛を信じないシンフィヨトリに救いを与えたいだけだった
またfateの二次創作とかに出したい