俺ガイル短編集   作:エコー

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高校二年、奉仕部に強制入部させられた比企谷八幡。
その裏で暗躍を目論む男がひとりーー


材木座義輝
やはり我の青春ラブコ……げふんげふん。


 

 

 青春とはモチである。

 (われ)の絵巻物には存在しない言葉、すなわち絵に描いたモチであるのだ。

 もっと言及すれば、まだモチですらない。半殺し程度の牡丹餅(ぼたもち)でしかない。

 あんこではなく、きな粉の方だ。

 ところで古事によれば、信州では牡丹餅を半殺し、モチを皆殺しと云うらしい。ならば蒸かし立てのおこわや赤飯は何と呼称するのだろう。

 それはさて置き、赤飯である。

 たとえモチになれなくても、あんこやきな粉をまぶして貰えなくとも、うるち米の様に普段食卓に上がることは無くとも、祝言や寿ぎなど目出度(めでた)き席では必ずと云う程に振舞われる、あの赤飯。

 その存在感は他を圧倒し、目出度さで云えば右に出るものは無い。辛うじて紅白饅頭が左に並ぼうかと云う程度である。

 唯一無二の祝いの能力(ちから)を備えた孤高の主食、赤飯。

 結論として、(われ)は赤飯の如く生を全うしたい。

 

 

 

 

「ーーで、どうしてこうなった、材木座」

 

 (われ)は今、放課後の職員室にて国語教諭の平塚女史に詰問を受けている。

 

「何が赤飯だ。めでたいのは貴様の頭だ、聞いてるのか材木座っ」

 

 げふんっ、中々辛辣な物言いではないか平塚女史。

 だが、その程度の洞察力では(われ)の真意を見抜くことは叶わぬな。

 

 授業の予定の関係で既にこの作文の課題を提出済みの我が半身、比企谷八幡。奴は作文の不出来を指摘され、目出度く奉仕部への仕官を果たした。

 そして今、奴はかの才女雪ノ下雪乃殿と席を連ねておる。それに加えて近頃では由比ヶ浜結衣と云う花魁も、そのたわわな女の武器をたゆんたゆんさせて八幡に接近しておるのだ。

 この花魁、我等の怨敵であるリア充、葉山隼人の一味である。このままでは八幡は魂を削られて、二度と転生の叶わぬ存在、即ち「器を持たない悪夢(ナイトメア・ホロウ)」に成り果ててしまう。

 付き従う者の窮地を救うのは主の務め。なればこそ、(われ)が直々に死地に赴いて八幡を怨敵の魔の手から救わねば。

 

 己を知り、敵を知れば百戦危うからず。

 

 ならば(われ)も奉仕部へ任官せねば、と八幡が書き連ねそうな文言を綴ってみたのだ。

 ここまでの(われ)の策は完璧。あとは平塚女史に捕縛され、奉仕部への死門をくぐるのみーー。

 

「ーーという訳で、次の授業までに書き直してこい。わかったら帰っていいぞ」

 

 ……。

 ……。

 ……え。

 

「し、しばし待たれよ」

「なんだ材木座、まだ説教が足りなかったか」

「そうではない、のだが……」

「なら帰れ。あとその時代劇みたいなふざけた口調をやめろ。不愉快だ」

 

 あ、あり?

 わ、(われ)は……奉仕部へ連行されるのではないの?

 そんでそんで、八幡や女子たちと楽しく部活動するんじゃないの?

 出来ないの?

 ねえ、なんで?

 

  * * *

 

 夕日が眩しい。

 特に今の(われ)には、この特別棟の渡り廊下から眺める夕日は、そこはかとなく哀愁を誘う。

 

 (われ)の策は失敗に終わった。

 今頃我が半身、八幡は女子二人に囲まれて、戸惑いつつも鼻の下を伸ばしておるというのに。

 着々と大奥(ハーレム)を築き始めておるというのに。

 

 何故に(われ)だけが独りなのだ。八幡と何が違うというのだ。

 容姿? 体型? やはり(われ)が肥満体だから? ヲタだから? VIPPERだから?

 月に一度は必ず秋葉原に赴いてメイドカフェに長時間入り浸ったり、コスプレの試着をする名も知らぬ女子が試着室から出てくるのを待ってみたり、その帰りは決まって紙袋を四つほど提げてくるから?

 

 否っ。(われ)(われ)。奴は奴だ。

 

 平塚女史は別に(われ)を否定した訳ではない。ともすれば、作文に関しては奉仕部に連行されなかった分だけ高評価だっただけではないか。

 

 むふん、さもありなん。

 やはり八幡と(われ)では根本が違うのだ。いかに(われ)ら二人が遥か昔から魂が繋がっていようとも、主従の関係にある以上、格が違うのだ。

 

 すまぬ八幡。

 (われ)は剣豪将軍、お主の暮らす市井に下ることは許されないのだ。

 如何に八幡が窮地に立たされていようとも、(われ)は無力なのだ。

 ならばせめて、(われ)に出来ることをしよう。

 たまたま我が電脳箱(パソコン)の中には、(われ)の傑作小説が眠っておる。それを試し読みの依頼と称して持ち込もう。

 八幡よっ。我が傑作で存分にその傷つき疲弊した魂を癒やすが良い。

 

 待っていろよ、八幡。

 帰城しだい密林にてプリンターのインクを発注し、来週には貴様に眼福を与えて進ぜようぞ。

 

「ふはははは、(われ)こそは剣豪将軍、材木座義輝であるっ」

 

 叫んだ瞬間、後頭部を張られた。

 振り返るとそこには行かず後家、もとい平塚女史の姿があった。

 

「気持ち悪いことを大声で叫ぶんじゃない、材木座」

 

 い、いつの間に背後を!?

 流石は平塚女史。

 若くして……いや決して若くはないが、何にせよ国語教諭を名乗るのは伊達では無いということか。

 

「あー、言い忘れたが」

 

 夕日を浴びた平塚女史は、その無駄に豊かな胸を張って言い放った。

 

「材木座、キミは奉仕部には入れないぞ。比企谷と同じことをしてもな」

 

 

 ーーげふん。

 

 愚考を切り裂くが如く、完全下校時刻を告げる鐘が無情に響いた。

 

 やはり(われ)の青春ラブコメは始まる前に終了の鐘を鳴らされる。

 

 




お読み頂きまして、ありがとうございました。

あはれ材木座ーー
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