俺ガイル短編集   作:エコー

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三年生になったばかりの四月。
総武高校ではある小さな事件が起こった。



本牧牧人の生徒会事件簿
発端


 

 念願の総武高校に入学して、三年生の春を迎えた。

 生徒会副会長として活動してきたこの半年間、思えば苦労の連続だった。

 まあ、その苦労の大半は生徒会長のせいなのだが。

 昨年の末、新しい生徒会長となったのは一年生の女子だ。

 この一色いろはという女子、会長となった当初は意思の疎通もままならず、色々とあった。不満に思うことも多々あった。

 書記の藤沢さんと会長の愚痴を言い合った時期もあった。勿論校内で愚痴ることは危険なので、外で落ち合って互いの不満を解消し合ったりしていた。

 だが、半年も一緒に活動すれば何となく気心も知れてくる。

 故に、気軽にこき使われる頻度も増してきたのだが。

 

「副会長、ちょっといいですかぁ」

 

 ああ、この言い方。この顔。

 ──新たな厄介事の始まりだ。

 

「最近、新聞部の壁新聞が剥がされちゃうみたいなんですけど、何でですかね」

「さあ、誰か特定の人物を揶揄する様な記事を書いていた、とか?」

「それ、来週までに調べてくださいね。あたしはちょっと奉仕部に行ってきますんで」

 

 ──はあ。

 やっぱり厄介だなあ。

 そもそも生徒会は、校内の自治組織の様な意味合いしか無く、そこには警察の様な仕事は含まれてはいない。

 それに会長のやっていることは(てい)の良い丸投げだ。

 去年の海浜総合とのクリスマスイベントの会議がフラッシュバックする。

 

 ──あの時は酷かった。

 笛吹けど踊らず、という言葉があるけど、あの会議室では笛を吹く人間すら居なかった。

 で、年下の一色会長は海浜総合の玉縄会長(ろくろまわし)に小間使いの如く扱われ、その雑務は全て俺や書記の藤沢さんにしわ寄せされた。

 比企谷たち奉仕部が参加してくれなければ、あの状況は打破出来なかったし、奉仕部の助力を得た一色会長は人が変わった様に総武高校側の意見を出した。

 

 藤沢さんは、「会長って本当に比企谷さんを好きなんですね」などと云っていたけど、恋愛沙汰に(さと)いと自負する俺の目から見たら、あれは恋慕の情では無い。

 それよりも深い、親愛の情だろう。

 きっと今頃は、奉仕部でその比企谷を揶揄って遊んでいるのだろうけど。

 

「副会長……」

 

 書記の一年生、藤沢さんが同情の眼差しを送ってくる。俺は苦笑いしか返せなかった。

 

  * * *

 

 さて、である。

 まずは事実確認だ。

 毎週月曜日に校内の掲示板に貼り出される校内新聞。それを編集、発行しているのが新聞部だ。

 壁新聞の盗難が始まったのは新学期早々。

 まずは、どんな内容の記事が書かれていたかを確認しなければ。

 

「藤沢さん、ちょっと新聞部に行ってくるけど、一人で大丈夫?」

 

「はい、大丈夫です。けど……出来れば早めに戻って頂けると、あの……」

 

 俯き加減で顔を赤らめてごにょごにょと細い声で喋る書記の藤沢さんを見ていると、少々心配になってしまう。

 

「──ちょっと話を聞いてくるだけだから。わかんないとこは飛ばしてくれていいからね」

 

「そういうことじゃ……ない、んですけど」

 

「何にしても、会長からの難問を解かなきゃいけないし、ちょっとの間頼むよ。何かあったら連絡くれれば良いから」

 

 もにょもにょと口ごもりながら下を向く藤沢さんを一人残していくのは不安だったが、年下の会長の説教を聞くのは正直遠慮したい。

 儚げな藤沢さんの不安顔に後ろ髪を引かれつつ、新聞部へ向かった。

 

 新聞部は、部室として視聴覚準備室を使っている。確か部員は四名、だったかな。

 

「生徒会です、失礼します」

 

 引き戸を開ける。

 薄暗い室内。雑多に積み置かれた機材やスピーカー類。その奥、窓際の卓に女子が一人、座っている。

 いや、座っているというのはちょっと違うか。

 キャスター付きの椅子の背もたれに思い切り身を預けて、その首は背もたれからはみ出している。手足は力無く投げ出されていて、その様子から伺えるのは、明らかな倦怠感であった。

 

「ど、どうしたんですか!?」

「……触んないで」

「でも、体調悪そうだし.保健室に──」

「──放置希望」

「……は?」

「放っといて、って云ってんの」

 

 どういうことだ。

 彼女に何があったんだ。それに、他の新聞部員はどうしたんだ。

 四人掛けの長机の上には、書きかけの原稿や紙束が積まれていて、その横にはスリープ状態のノートパソコンがそっぽを向いている。

 これは明らかに正常な部活動が営まれている状態ではないのだが、今は用件を済ませなければ。

 まずは盗まれた壁新聞の原稿を確認しなきゃな。

 

「あの、盗まれた壁新聞の原稿があったら見せて欲しいんだけど。もしかしたら盗まれた原因が分かるかもしれないし」

「……原稿? とっくに処分したわよ、そんなもん」

 

 原稿を処分した……?

 どういう理由で?

 

「じゃあ、どんな記事を書いたかだけでも教えてもらえれば──」

 

「しつこい。生徒会だか何だか知らないけど、あんた何様? こんなとこに来る暇があるなら早く犯人見つけてきなさいよ、無能」

 

「……明日また出直して来ます。それまでに原稿の下書きでもメモでも、何でも良いから手掛かりになりそうな物を……」

 

「っさい。手掛かりは無い。心当たりも無い。早く犯人見つけろ。以上」

 

 それきり女子部員は一言も話さなくなった。しばらく待ってみたけど、他の部員が来る気配も無い。

 まあ、ここで時間を浪費しても仕方がない。とりあえず生徒会室に戻るか。

 

 廊下を歩きながら考える。

 何だ。何なんだ。

 まったく意味が分からない。

 大体、普通に考えれば、壁新聞が盗まれたなら新たに原稿を印刷し直せばいい。

 しかしその原稿を処分したというのは、どういうことだ。

 不自然だ。違和感しか抱けない。

 考えながら階段を下りていると、踊り場の窓から特別棟が見えた。

 ──あいつなら……比企谷なら、どう考えるのだろうか。

 昨年末、発足したばかりの生徒会は比企谷に、奉仕部に助けられた。それからも幾度となく比企谷の助力を得て、何とか運営出来ている状態だ。

 その大概は会長が自分の仕事を押し付けているだけだけど。

 あいつは常に発言の裏側を考える奴だ。表面上の主張に隠された真意、それを見抜く天才だ。

 

「裏側……真意、か」

 

 俺は、思考の海を泳ぎつつ生徒会室へと向かっていた。

 

 




お読み頂きまして誠にありがとうございます。

このお話は4話か5話くらいになります。
まだ続きは書けていないので不定期になると思いますが、何卒よろしくお願い致します。
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